父殺し―掃き溜めのどん底の臭い―

マスター:窓林檎

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/02/21 12:00
完成日
2018/03/08 09:57

みんなの思い出

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オープニング

 もっとゆかいになりたかったンで、おれぁウィスキーをぐいっとヤった。
 喉が焼けらぁ、といっしょに、頭ン中パーってぇ。んで、空ンなった酒覗いたら目ン玉がこっち見るンで、ヨッちゃんに言ったら、ゲーちゃん、酒のやり過ぎで頭イッちまったぁ、と言っちゃらぁ、ぴゃーイッちまったぁって、ゴミ山に酒瓶放ってぇ、新しいの飲んでまたパーってぇ!
「ゲーちゃんよぅ、そんなんじゃおっ死んじまうぞ」
 ヨッちゃんがウォッカあおって、おれに言うんだよ。
「そうともよぅ、酒ぁやめにゃならんよ」
 斜向いのミックがぁ、おれから酒取り上げったぁ。
「だから俺が処理してやるぁ」
「ミック! この盗人!」
 ミックをぶん殴ったらぁ、ゴミ山ひっくり返ってびーびー泣き虫よう。
「いてえよう、いてえよう」
「ギャハハ! ミックぅタマぁ落としたかぁ!」
 キンタマ、オカマ、てぇヨッちゃんは踊りだしちゃってぇ。
「タマぁなけりゃカネもねぇ、ここぁくっせぇ掃き溜めぇあ!」
「いてえよう、いてえよう」
「しらぁん! 酒ェ返せぁ!」
 おれぁゴミ山に身ィ投げ出してぇ、ぐいっとジンをやらぁ。
「うめえ! くせえ!」
 ここぁ掃き溜め一丁目ぇ、おれぁへべれけ――。

「クセェな」
 んぁ?
「オレのオヤジみてぇな――親分とはまるで違ぇ、どん底の臭いだ」
 なんだぁ? この小せえの。
「ゲーちゃん、あんだぁこいつ?」
「いてえよう、いてえ――」
「うるせえよ」
 小せえのから銀色が光って、ミックが喉からピャーって血ィ……あ?
「ひええ! ミック――!」
 ミックをピャーっしたぁ銀色が、ヨッちゃんの頭ぁ生えた。
 目ン玉ぐるんって、すてぇんって……あ? あ? あ?
「あひぇあ!」
 イカレ野郎!
 ミックの喉元搔っ切って、ヨッちゃんの頭にナイフ投げた、イカレ野郎から逃げようと――。
「誰が逃げろっつった!」
 脇腹蹴飛ばされて、胃の中ぁ吐き出してもんどりうっちまう。
「下らねえこと思い出させやがって! 親分の代わりに、てめぇが素っ首落とされろやぁ!」
 イカレに何度も蹴飛ばされて、反吐まみれのボロ雑巾にされちまう。
 逃げにゃあ、逃げにゃあ……。
「おい、クソオヤジ」
 おれぁ髪掴まれて、顔をぐいっとやられる。
「お前は、掃き溜めから液漏れした安酒みてえなお前は、今から生まれ変わる」
「はぇ?」
「存在自体が害悪で、誰かにぶっ殺されてお終い――なんだ」
 そいつぁ、血塗られたナイフをおれの喉元に当てる。
「要は、何も変わらねえか」
「ひ、ひぇひぇ……」
 おれぁ笑っちまぁ。
 ジンだぁ。ジンをしこたまかっ食らぇば、悪夢 喉 熱い あか

 ※

「無駄に時間食ったな」
 親分なら、もっと要領よくやる。
 オレは肩で息をしながら、ゴミ山に腰を落とす。
「これが『契約』……一月どころか、今にもくたばりそうだぜ」
 親分の首の感触、ハンターども、オレの『心』。
 あの夜、吸血の鬼、『強者の契約と試練』。
 諸々が頭をよぎる――走馬灯のように。
「……始めっか」
 オレは立ち上がると、ゴミ山に横たわる三つのゴミを見下ろす。
「あまり悪く言うもんじゃあねえか」
 実際、一蓮托生なのだ。こいつらがトチればオレも死ぬ。
 例えば『生まれ変わった』こいつらが、ロクに殺せずおっ死んじまえば、オレは『弱者』として殺される。
 その中にオヤジそっくりの奴がいるのは、宿命か?
 親分を殺し、オヤジも殺した――鬼畜生だ。
「ここで死ねば、マジでそれで終わりだな」
 だから、頼むぜ……。
 オレは一息の後、『儀式』を始めた。
「ぐっ!」
 虚無的にどす黒い『死』の蠕動がこみ上げる。
 死ねない、死ぬわけにいかない。オレの『心』に賭けて。
 歪虚も、ハンターも、何もかも皆殺しにするのだ。親分の名誉に賭けて。
 だからオレは、今にもはち切れそうな『死』に抗うように、叫んだ。
「オレは誇り高き親分の子――ピッコだァ!」

 ※

 のど かわいた
  よっちゃん みっく
さけ さけ さけ

 ※

 ――カラン。
「? お客さん、まだ開店前」
「ジン」
「ですから、開店まぐぇ!」
「ジン、ウォッカ、ウィスキ」
「か、噛み付いて――あああ……!」

 …………。

 ――カラン。
「あれぇ、もうやってる?」
「いらっしゃい」
「ん? すえた臭い……」
「いらっしゃい」
 ――ぴゃぴゃー!
「ってあいつら、ゴミ山の三人じゃん」
「いらっしゃい」
「なんだよ、変な臭いするわ、三人組いる……わ?」
「いらっしゃい」
「……血? え?」
「いいららしゃしゃ」
「あー今日はちょ、はれぇ?」
「さけぇ ヨッちゃん ミック」
 ――ぴゃぴゃぴゃー!
「ひぇ、酔ったみてえに、あしこし……くくるな――ギャアアアア!」


 「いらっしゃい」

「さけぇけぇ」
    「あはー気分がー」
 「ぴゃらひゃー!」
「ひえええ!」

   「ねえ、ここ臭くなぁい?」
 「おかしいな、この酒場まともな」

「いらっしゃい」
 「やら、やらあぁ!」
「お、おまへら……ひぎゃあああ!」

「さけぇられらっら」

  「いだぁい!」
「うがぁあ!」
   「だずげでぉ!」

「いらららららしゃしゃしゃしゃらぁ」

   ぴゃぴゃぴゃー

 ※

「知ってるかね? 酒を全く飲まない人間より、適量を飲む人間の方が長生きするらしい」
 ゴシック趣味の真っ黒い服装に身を包んだ女性職員が、嫋やかに微笑みながらこちらを覗き込む。
「まあ、適量を超えた酒は破滅的な猛毒だがな」
 そう言いながら、首元に下がる小さな髑髏の飾りを、愛おしそうに撫で回した。
「仕事の話をしよう。歪虚討伐だ」
 状況を説明すると言い、職員は資料を取り出す。
「場所は帝国南方の農村にある酒場――既に村民二〇名程度が犠牲になっている」
 何がおかしいのか、職員は愉快そうな笑みを浮かべる。
「農村の外れに掃き溜めがある。そこに三人の浮浪者がたむろしていてな」
 一人の村民が、三人が開店前の酒場に入ったのを目撃していた。
「その三人を皮切りに、酒場に足を運んだ者、全員が歪虚となった」
 後に残ったのは、据えた酒の臭いと――歪虚たちの狂乱。
 朝方になって不審に思った村民が駆けつけると、酒場内の村民は踊り狂う死体――歪虚と化していた。
「首魁はその三体と思われる。突然変異のように、人間から歪虚になった、な」
 掃き溜めを調査したところ、三人のものと思われる大量の血液が発見された。
「『暴食』――死者を人間喰らいの餓鬼へと変ずる感染症持ちの、大飯喰らいの生ける屍。それが件の歪虚さ」
 私としてはその『感染源』が気になるのだがな。
 職員は資料を見下ろしながら、ポツリと呟いた。
「いずれにせよ、差し当たりは酒場の歪虚を討伐して貰いたい」
 一点、注意点がある。と、職員は付け足す。
「酒場から酷い酒の臭いがする。その臭いには、何かしらの催眠効果があると思われる」
 酒場に入った人間が誰一人生きて出られなかったのはそれが理由だろう。
「以上を踏まえて、依頼を受けるなら契約書にサインを頼む」

リプレイ本文

 団の皆の野太い歓声、安いアルコールの臭い……。
 酒場の馬鹿騒ぎの隅に座るオレは、不貞腐れた気分でナイフを宙に放った。
 案の定、無様に取り落としたナイフ。それを親分のたくましい腕が拾った。
「どうした? 始めての盗掘にくたびれたか?」
 ――別に、嫌いなだけだ。
 礼も言わずナイフを受け取ったオレは、無愛想に言う。
 ――臭いの話だよ。オヤジと同じ、下らない酒の臭い。
 オレの言葉を黙って聞いた親分は、やがてニイっと笑うと、ビールを無理矢理飲ませてきた。
 にわかに口内に広がった麦の苦味に、思わずむせ返る。
「なんだ、ガキにゃ早かったか? ガッハッハッ!」
 頭に来たオレはグラスをぶんどり、残ったビールを一気に飲み干した。
「ピッコ――俺たちが家族だ」
 愛おしそうな笑顔と共に、親分がオレの頭をワシャっと撫でた。
 乱暴だが、大きく温かな手。
「美味えだろ? 仕事上がりに、家族と飲む酒は?」

 ――家族……オレが、親分の……。

「……胸糞わりぃ」
 いつの間に、夢の中へ落ちた自分に舌打ちする。
「今更オレに、過去を偲ぶ資格はねえよ」
 オレは寝落ちの頭で、忍び込んだ空き家から周辺の動向を伺う。
 夜明けの村落――朝日が眩く降り注ぐ中を歩む、六人の集団。
「『暴力』まで出張ってきやがったか」
 燃えるような赤髪――暴の如き力を纏う業火、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。
 奴らはハンター。歪虚殺しの超人――『心』が鏖を欲する化物。
 だが、今のオレじゃ、奴らに勝てない。酒場の歪虚も、恐らく……。
 六人は酒場の前に着き、様子を伺っていたが――やがて、一人の少女が軽やかに前に出た。
 紫陽花のように蒼く、可憐な少女。
 ――こういうのにさえ、オレじゃ及ばないってのが……。
 思わず気が滅入ったオレだったが、次の瞬間、全く別のことに心を奪われることになる。
 
 ――それは、森羅万象に蔓延る穢れた災厄の尽くを、幻想を以って葬らんとする調べであり、舞いであった。

「穢れし魂 もたらす災禍 精霊の加護にて 幻のものとせん」

 ※

 時は、夢路 まよい(ka1328)が幻葬歌を始める前に遡る。
「……闇、の兆候ですね」
 リアルブルーの東洋の血を引くエルフ、夜桜 奏音(ka5754)が、引いた符を眺る。
「それは、歪みの生み出す死の闇でもあり、荒んだ心の破滅の闇でもあり……」
 見えない出口を探るように言葉を紡ぐ夜桜だったが、やがて嘆息と共に首を横に振った。
「これが限界です。職員が気にしていた感染源が、少しでも分かればいいと思ったのですが」
「端から占いになど期待しない」
「いや、十分だよ。ありがとう」
 不動シオン(ka5395)の突き放すような言葉も相まって肩を落とす夜桜を、アルトが慰めた。
 ハンター一同は、歪虚が立て籠もる酒場を目の前にしているが……。
「こりゃあ、アルコールの臭いだけじゃねえな。腐敗臭やら色々混じってやがる」
「……あまり、周りの人間には嗅がせたくない臭いだ」
 リアルブルーの麻薬組織の工作員であるリカルド=フェアバーン(ka0356)と、転戦の傭兵であるクラン・クィールス(ka6605)。
 そんな二人でさえ無視出来ない異常な臭気が、酒場から漏れ出ているのだった。
 そうした重い空気を打ち捨てたのが、紫陽花のように可憐な少女、まよいだった。
「う~ん、この腐ったような臭いの中で、お食事を楽しみたいとはちょっと思えないなあ」
 まよいは軽やかに前に出ると、愉快な遊びを思いついたかのようにニイッと笑う。
「汚いのはお掃除してあげないとね!」
 まよいは、あー、あー、とのんびりと声の調子を整えると――
「お掃除中に気分が悪くなりたくないなら、私の周りにいるといいわよ」
 ――幻を葬る歌を始めた。
「ところで」
 その時、アルトがおもむろに呟いた。
「実は、この臭いが少し懐かしいんだ」
 というのもな、と、困ったように微笑むアルト。
「流石にここまでではなかったと思うが、少しだけ思い出すんだよ――故郷にあった酒場を」
 死と隣り合わせの傭兵がたむろしている酒場……。
「だから、巻き込まれただけの村の人たちには本当に悪いとは思うが、これから私がやるのは――」

 ――子供の頃の、お使いだ。

 カラン――。
「いらしゃしゃ――」
 扉が開かれるが同時、掃き溜めのどん底の臭いが漂う店内を、残像をも吹き飛ばす業火が駆け巡った。
「歪虚に堕ちてしまった以上、少しでも早く滅ぼしてやるべきだ」
 大地をも穿つ踏み込みがもたらす爆発的加速に乗って吹き荒れる突風。
 風に斬られた敵が次々と血潮の華を散らす様はまさに風切散華。
 残像から舞い散るが如く紅き花弁を後に残し、ゾンビたちは血の華を咲かせ地に伏せた。
「――捉えどころがない?」
 だが、アルトの表情は冴えない。
「俺たちもいくぞ。まよいの奴を守りながら大掃除だ」
 リカルドの号令と共に、一斉に店内へと突入した一同。
 酒場内に広がるのは、酒と汚穢に塗れて狂う、かつて村人だった者たちの姿。
 暴食の牙に曝された彼らは、腐り果てた汚臭を撒き散らす存在に成り果てたのだ。
「……これは。有様もさる事ながら、腐臭も地獄の様だな……」
「おお、臭え臭え」
 強い嫌悪感を露わにしたクランに対し、リカルドは乾いた笑いを漏らす。
「ガキの頃に訓練で催涙ガスの充満した部屋ン中に入れられたことがあるけど、それとどっこいどっこいじゃねえのか?」
「リカルド……お前は一体、どんな地獄にいたんだ?」
「まあでも、臭くねえだけ催涙ガスのほうがマシかも知れねえが」
 軽々と笑うリカルドに、クランは呆れたような視線を向ける。
 その時、まよいの幻葬歌の調べに共鳴するように、華やかなステップが響き始めた。
「少しでも火力の足しになると思いますので」
 明るく勢いのある歌謡と舞踊――夜桜のファセット・ソングだ。
 二人は、共に歌い、踊り、狂乱するゾンビたちを一掃し始めた。
「一本、二本――」
 まよいは両手から同時に、いわゆるマジックアローを生み出す。
 それを『両手から同時に』生み出す時点で尋常ではないが、力の流れに呼応したフォースリングが莫大なマテリアルをさらに増幅させる。
「――十本! いっけぇ!」
 そうして生み出された十本の矢。
 まよいは彼女のマテリアルそのものであるそれらをゾンビに叩きつけ、ボロ屑のように吹き飛ばした。
「なんだがきつすぎて酔いそうになりますね」
 ポツリと平坦な調子で漏らす夜桜。
 しかし彼女自身は、手慣れた様子で淡々と符を投げ、一種の結界を作り上げる。
 瞬間、汚穢の尽くを焼き切らんとばかりの白光が結界内で爆ぜ、光の放流に身を焼かれたゾンビたちは崩れ落ちた。
「……凄まじいな」
「いや、それはその通りだと思うけどな」
 素直な感嘆を漏らすクランだが、リカルドは半眼でゾンビたちを見据える。
「アルトの言う通りだな。奴さんら、捉えどころがない」
 リカルドの目に映るのは、まよいと夜桜が放った暴風をあっさり避けたゾンビたち。
 実は先程、こいつらの何体かは、アルトの突風が如き攻撃をも避けていたのだ。
「この臭いに当てられてたらと思うと、少しゾッとするな」
 リカルドの耳朶を心地よく叩く、まよいの幻葬歌。
 もしこの加護から離れれば――立ちどころにこの臭いに飲み込まれるだろう。
 そうなればこいつらへの攻撃は、ますます困難になっていたはずだ。
「いいぞ、この悍ましい空気……」
 その時、漆黒のスーツに身を包んだ餓狼、不動シオンが感極まったように前に出る。
 数多ものゾンビが跋扈する闇の深淵――彼女にとって楽園そのものだった。
「さあ屍人ども、精一杯この私を楽しませるのだ」
 妖しく光る刀を抜き放った彼女は、目の前の女ゾンビに電光石火の一撃を加える。
「やららぁも――」
「逃がすものか」
 ヒラリと避けようとした女ゾンビの軌道上を苛烈な斬撃が襲う。
 斬撃は、女ゾンビの腐れた肉体を深く刻んだ。
「どうだ、この呪われた刃の切れ味は? これしきりで倒れる貴様らではなかろう?」
「らぁもぉぎゃあぁ!」
「どうした、この刃を弾き返さんばかりの気骨を見せてみろ、反撃してみろ」
「……凄まじいな」
「いや、それもその通りだと思うけどな」
 ぼさっとしてると、俺らの仕事がなくなるぜ?
 リカルドは不敵に笑いながら、ゾンビにスターナーAACの標準を合わせる。
「夜桜の奴……『火力の足し』って言ったか」
 夜桜の調べが響くたびに、クランは自らのマテリアルが高まるのを感じる。
 その感覚に励まされつつ、クランもヴィジーリアを抜く。
「……同情はするがな。生憎と、仲間入りは御免だ」
 平時より攻撃に主眼を置いた、ゾンビを確実に仕留めるための構え。
「……せめて、その苦しみから解放するくらいはしてやる……!」
 間合いのゾンビ数体を、一気に薙ぎ払う一撃を放った。
 結論から言えば、クランの一撃はゾンビを捉え、斬りつけられたゾンビは悲鳴をあげた。
「くっ……! こいつら……!」
 ただし、その全てを捉えることも出来なかった。
「だから言ったろ?」
 驚きを隠せないクランに苦笑しつつ、リカルドもスターナーでゾンビを掃射する。
「チッ、小銃じゃ貫通力高すぎて止まらないか」
 リカルドも、芳しい成果をあげられず思わず舌打ちをする。
「だが、動き自体は鈍く――」
「リカルド!」
「おっと!」
 白兵戦に切り替えようとしたところで、ゾンビたちがリカルドを襲う。
 リカルドはモートルでゾンビたちの攻撃を受け止めると、敵の頭蓋を打ち砕かんとばかりの反撃の足蹴を繰り出した。
「こいつら、避けるわしぶてえわ……!」
「……援護する! この一撃で決めるぞ!」
 ゾンビたちの攻撃を捌き切ったクランが、間合いのゾンビに狙いを定める。
 先ほどと同じ薙ぎ払いの剣に、今度は己のマテリアルを思い切り乗せた、必殺の剣。
 裂帛の一喝――気迫を込めた魔力の剣の一閃が、ゾンビたちを胴から断ち切った。
「やるぅ」
「茶化す暇があるなら……リカルドも」
「その通りだ」
 横合いから、餓狼が飛び込んでくる。
「屠れ。その肉体と、頭脳で」
 冷たく光る妖刀が大上段から振り下ろされるが同時、唐竹割りの要領で斬りつけられた頭部が、爆炎のような閃光と共に煌めき爆ぜた。
 不動シオンの必殺の一撃――閃火爆砕。
「厳しいなぁ、二人とも」
 素知らぬ顔でヘラヘラと笑いながら、オートMURAMASAを抜く。
「けど、てめぇの仕事くらい、きっちりやるぜ?」
 リカルドの瞳に、酷薄な光が宿る。
 迫るゾンビが直線状に並んだのを見計らうと即座に踏み込み、超音波振動に唸るモーター音と共に軌道上のゾンビを刺し貫いた。
「おおすげえ。夜桜のおかげで、威力がダンチだ」
 断末魔をあげるゾンビもお構いなしに、リカルドはカラカラと笑う。
「思ったより早く決着がつきそうだな」
 業火と突風を纏い駆けるアルト、舞いながら矢を練り上げ放つまよい、符で結界を作り白光を放つ夜桜。
「私の肌に傷一つ付けられんのでは面白くないぞ。獲物はまだピンピンしているぞ」
 また一体ゾンビを斬り伏せ、尊大に言い放つ不動。
 確かに回避能力は高いが、攻撃が当たってしまえばこんなものだ。
 リカルドは冷めた思考でそう分析した。
 大勢は決した――後は。
「答えてくれ、お前たちをこんな有様にしたのは一体どこの誰だ?」
「ジジジジンウィスキケケケケ」
「キンタマママカマママ」
「イテテテヨヨヨイテテテ」
 かつて、掃き溜めにたむろしていた三人組。
 今回の騒動の首魁である彼らは、アルトの問いかけにもただ狂うばかり。
 中央で獣のようにはしゃぐ彼らを、残るゾンビたちが囲んでいる。
「……三人の場所は掴んだ。俺は周りのゾンビを倒す」
「クライマーックス!」
 マテリアルを込めた聖剣で薙ぎ払うクランに呼応するように、まよいもまた矢を集中的に飛ばす。
「アルト、流石に無駄だと思うぞ?」
「……ああ、そうだな」
 肩を竦めるリカルドの言葉に、アルトも素直に頷く。彼女とて、もし余地があるならと試したに過ぎなかった。
「終わりにするぞ。私に届かぬ腐れた牙に興味はない」
 不動が、妖刀を構え直す。
 壁になるゾンビがいなくなった三体は、化物のような奇声をあげながら突撃してきた。
「ぴゃぴゃぴゃー!」
 こちらに向かう三体の前に、紅い鋼糸が飛ぶ。
 瞬間、彼らの目の前に、燃え盛る炎の鳥を纏うアルトが現れた。
「せめて安らかに眠れ」
 剣の閃きが華を織り成し、血の華が咲き狂う――剣閃連華。
「我が呪いの刃で、二度目の死を迎えろ」
 放出されたマテリアルが、爆炎の如き閃光の煌めきを放つ、不動の閃火爆砕。
「じゃあな、せいぜい成仏しろよ」
 シラットにおける象形拳を剣術に応用した、龍を象った一撃必殺の剣、リカルドの龍の型。
 三者三様の、必殺の一撃が繰り出されんとしたその瞬間――夜桜の放った光の一撃が、三体を焼いた。
「気分が悪くなりそうですし、さっさと終わらせましょう」
 夜桜の平坦な声が響いた次の瞬間――崩れ落ちんとした三人組のゾンビを、三人の攻撃が斬り裂いた。

 ※

 少なくとも十分は経っていない。その間に三十体の歪虚が全滅。
「……化物どもが」
 無傷で出てきた六人のハンターの姿を確認したオレは、苦虫を噛み潰したような気分になる。
「それにしても、大人の人達ってなんでそんなにお酒が好きなんだろうね?」
「いや、酒は当面見たくねえな。服の匂い取れねえし」
 店に入る前に透き通った歌を歌った蒼色の少女に、ヤクザもののように鋭い目つきをした褐色の男。
 戦闘の後だと言うのに、クソみてえに呑気な会話をしてやがるのが、憎たらしい。
「ボクは、三人がたむろしてたっていう掃き溜めを調査しようと思うんだけど」
「そうですね。やはり私も今回の騒動の大本が何かは気になります」
「ふん、また根拠のない占いか?」
「……いや、俺も調べるべきだと思う……あの三人の歪虚化の唐突さは、不自然だ」
 無駄だろう。あそこには特に何も残していない。
「……無駄骨だ、ばーか」
 こんな下らないことでも、あの『暴力』をだしぬけたのは嬉しかった。
 一同が、アルトに連れられて酒場から去っていったのを確認したところで――オレは思い切り咳き込み、喀血した。
「……はは、マジでヤベエ」
 こりゃあ本当に、一月は持たないだろう。
 もしあの酒場の殺戮が、『強者の契約と試練』のお眼鏡に適わなければ――人でなしの無駄死にだ。
「なあ、親分……こんな程度で、終わっちゃなんねえよな?」
 歪虚も、ハンターも、皆殺しにするための団。
 親分と兄貴分たちの名誉を守りたいという、オレの『心』。
「……親分?」
 なのに……そのオレの『心』は、絶対的にブレていないはずなのに。
 オレの『心』の中の親分は――まるで墨で塗りつぶされたかのように真っ黒で、顔が見えなかった。

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MVP一覧

  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよいka1328

重体一覧

参加者一覧

  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 飢力
    不動 シオン(ka5395
    人間(蒼)|27才|女性|闘狩人
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • 望む未来の為に
    クラン・クィールス(ka6605
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
夢路 まよい(ka1328
人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/02/20 18:56:20
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/02/17 18:37:09