Let's meet again!

マスター:ことね桃

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
寸志
相談期間
5日
締切
2018/03/10 19:00
完成日
2018/05/02 19:48

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●さよならの時間

 長い冬が終わり、風が緑の香りを運び始めたある日のこと。
 コロッセオ・シングスピラの裏にある自然公園で管理人の任に着いた帝国軍人アダムの前に、公園の住人である砂の精霊グラン・ヴェルが姿を現した。
 グランは意志の強そうな顎をもごもごと動かしたのち、声をひそめて言う。
『アダムよ、近いうちに我はこの地から去ろうと思う』
「えっ、何かあったんですか? あの、こちらに至らない点があったのなら教えてください。一緒に考えればもっと良い場所になるはずですから」
 今まで自分に友好的、公園造成にも協力的だったグランの突然の宣言に目を白黒させるアダム。そんな彼にグランは困ったように笑った。
『いや、お前たちには何の不満もない。それに他の精霊とも関係は良好だ。心配することはない』
「それなら、なぜ出て行かれるなんて……」
『剣豪との戦いが終わって久しいが、時が流れるたびに故郷がどうなっているのか気になってしまってな。かの地は人にとっては実りのない寂しい地であろうが、我を慕った亜人たちと暮らした記憶のある地なのだ』
 アダムは自らの迂闊さを恥じた。精霊たちにとって発生源とは生まれただけの場所ではなく、人間の寿命などよりも遥かに長い時間を過ごしてきた故郷なのだ。
『それに、あの地にも無数の命がある。地に潜む虫や獣、空をゆく鳥。彼らの住処が歪虚どもに荒らされたとなれば、我は何年かかろうとも彼らを助けねばならん』
「わかりました。本音を言うと寂しいですが」
 少し無理のある笑顔を浮かべてアダムがグランの前に手を差し出す。それを見たグランは彼の手に巨大な人差し指を重ねて声を和らげる。
『なあに、ここに二度と戻らぬわけではない。故郷の無事が確認できたら時折顔を見せに来よう。それに、帝都に危機が及ぶという時は真っ先にここに向かう。お前たちは我の「友達」だからな』
「……ありがとう、グランさん」
 アダムがようやく本物の笑顔を見せると、グランもまた静かに微笑んだ。

 ――そんなふたりの後ろ、植え込みの陰で黒い獣の耳が小さく動く。コロッセオへお使いに出ていた花の精霊フィー・フローレだ。
「大変ナノダワ! グランマデ帰ッチャウナンテ……」
 彼女は慌てて立ち上がると転がるように駆け、自然公園の東屋へ飛び込むのだった。


●どうしよう!?

『……仕方あるまい。グランとて故郷が恋しいのよ。それに今までも故郷に戻る精霊はおったではないか、何故そこまで心を揺らすのじゃ』
 心地よい水音をたてて清水の精霊が泉から姿を見せる。フィーは頬を膨らませると、泉を囲むタイルにちょこんと腰を下ろした。
「ダッテ。折角皆デ公園ヲ完成サセタノニ、ドンドン寂シクナッテルンダモノ」
 歪虚との戦火を乗り越え、緑豊かな地となった公園造成地。完成直後はコロッセオに避難していた精霊たちで大いに賑わったが、思いのほか豊かな環境に里心を刺激されたのだろう。主に自然精霊が日に日にこの地を去っていったのだ。とはいえ、今も公園で過ごす精霊は少なくないのだが。
 親友の不満に、清水の精霊が形のよい唇に人差し指を押し当て逡巡した。
『ふむ。しかしな、皆が故郷に戻れるのは確実に平和に向かっておる証。それに汝とて、本当は花畑がどうなっているか心配ではないのか? 皆、同じ気持ちを抱いておるのよ』
「私ハ……葵ガ元気ニナルマデ此処ニイルノ。オ花ノコトハ心配ダケド……」
『……すまぬの』
 葵と呼ばれた清水の精霊がフィーの頭をぽんぽんと撫でた。
 彼女は以前英霊により受けた傷が原因で、歪虚に抵抗するための力を一時的に失っている。そのため安全な帝都から離れられないという事情があった。
(フィーが皆を笑顔で見送れるようになれば良いのじゃが……)
 清水の精霊が水面に体を浮上させ、宙を仰ぐ。東屋の天井が視界いっぱいに広がったその瞬間――。
『そうじゃ、茶会をするのじゃ!』
「オ茶会?」
『うむ。以前、ハンター達とこの東屋を造った折に行ったであろう? 茶や美味なるものを食し、楽しい時間を過ごすことで友誼を深めるのよ。さすれば、また会いたい、ここに戻りたいという気持ちも芽生えよう』
 精霊の提案にフィーは肉球のついた手をぽんと鳴らした。
「……! 皆トオ友達ニナルノネ!」
『ああ、妾も茶のための水を汲むことぐらいならできる。後は菓子や食べ物を調達し、飾りつけをして……』
「私、コノ前ゴ馳走シテモラッタオ菓子……エット、エット。……ケーキ! ケーキヲ皆二食ベテホシイナ! 甘クテフワフワデ良イ匂イガスルノ。キット皆幸セナ気持チニナルノヨ」
 両手をあげて満面の笑みを浮かべるフィー。清水の精霊は母親めいた表情で答えた。
『それならアダムに相談するのじゃな。奴なら喜んで力を貸してくれるじゃろう』
「ウン! ソレトネ、ハンターノオ友達モ呼ブノヨ。完成シタ公園ヲ見テモラッテ、素敵ダネッテ喜ンデモラウノ!」
『そうか、そうか。それならハンターオフィスに声をかけねばのう。最近もハンター達は何かと忙しないようじゃがなあ』
「オフィスニハ私ガオ話シシテオクネ。皆、喜ンデクレルトイイナ。葵、一緒二頑張ロウネ!」
 フィーは早速外にいる精霊達に事情を話そうと駆けだしていく。清水の精霊はその背を眩しそうに見つめると、再び泉に姿を消した。


●葛藤の英霊

 茶会の開催を控え、精霊たちによる料理の練習や公園の飾りつけで盛り上がる自然公園。それを囲む煉瓦の壁の向こうに、傷だらけの精霊がぽつんと立っていた。
 精霊の名前はフリーデリーケ・カレンベルク。かつてゾンネンシュトラール帝国二代皇帝の時代に亜人を虐殺し、現代においてはグランと清水の精霊に深い傷を負わせた英霊である。
(花の精霊の願い、そして私の贖罪……)
 フリーデは自分の過ちを食い止めるために力を尽くした精霊達に謝ろうと何度もこの地に足を運んでいた。
 しかし公園に住む精霊の中には彼女の姿を知る者がいる。軍人達は報告書によりフリーデ顕現に関わる事情を知っているものの、怯える精霊のために口を揃えて「まだ時期ではないのです。お引き取りください」とフリーデに告げるのだった。
 今のフリーデの手にあるものは謝罪の言葉が綴られた手紙。それを持ち直し、彼女がコロッセオに向かおうとした時――幾人かのハンターがコロッセオの敷地に入っていくのが見えた。
(なんだ、ハンターがここに集まっているのか?)
 何か事件があったのか、とフリーデが早足でハンターたちを追う。
 そこにあったものは――彼女の想定していたものとは別の風景だった。

リプレイ本文

●茶会の準備と英霊の黄昏

 澄み切った青い空。自然公園にうららかな日差しが降り注ぐ。
 色とりどりの花や布で彩られ、小さな舞台も設営されたメイン会場。その中央に備えられた大テーブルにはリアリュール(ka2003)が精霊たちと力を合わせて作った料理と、Gacrux(ka2726)が持参した料理が並べられており「お客様」の来場を今か今かと待っている。
 今回の茶会の主催者である花の精霊フィー・フローレが会場を見回すなり歓声をあげた。
「ワーッ、スゴイノ! オ花モ御馳走モイッパイ! 皆、一緒二頑張ッテクレテアリガト! ……ッテ、リアリュール、ドウシタノ?」
 会場の準備を終えたものの、どこか落ち着かない様子のリアリュール。心配そうなフィーに彼女は慌てて笑顔を取り繕った。
「ええ、フリーデリーケ様はこちらにいらしてるのかしらって。グラン様達は回復されたようで安心しましたが、あの方にはずっとお会いできなくて」
 そんな素朴な問いが、フィーの顔を曇らせた。
『アノ子、コロッセオ二何度モ来テル。デモ……皆ガ怖ガッテ、怒ルノ』
「あの街にいらした精霊の皆様は恐ろしい思いをなさったんですものね」
『ウン。私ダッテ友達ヲ傷ツケタ事ハ許セナイノ。デモ……』
 フィーの小さな指がもどかしそうに動くのをリアリュールが目に留めた。
「でも?」
『……コノ前、軍人ガ話シテタ。昔ノ戦争ノ真実ヲ帝国ノ皆ガ知ッタカラ、沢山ノ人ガフリーデリーケノ事ヲ怖クテ悪イ人ダト思イ始メテルッテ。誰モアノ子ノ事ヲ想ワナクナッタラ、ドウナルノカナ』
 ――英霊はゾンネンシュトラール帝国の民の想いで形作られた精霊である。憧れも畏れも絶対的だったからこそ、英霊は驚異的な力を行使できた。
 だが――臣民の想いが尽きれば。
(あの方は心を改めてくださったけれど。心の中でどんなに想いを込めても、祈っても、きっと周りは察してくれない。それなら……)
 リアリュールはざわめく心を押し殺すと、フィーの手を両手で包んだ。
「フィー様、そのお話は『フリーデリーケ様へ想いを傾ける者がいればあの方に未来を与えられる』。そういうことですよね?」
 どう答えればいいのかわからないのだろう、フィーが不器用に微笑む。しかしリアリュールの瞳はその不安をも包み込むように優しかった。


●再会の喜び

「精霊達が公園を造ってるって話は聞いていたけど、まさかこんな立派な場所になってるなんて!」
 テンシ・アガート(ka0589)は自然公園に到着するなり、大きな瞳を殊更丸くさせた。そんな彼を真っ先に出迎えたのが砂の精霊グラン・ヴェルだ。
『よく来たな、テンシよ。健勝そうで何よりだ』
「グランさん! 怪我、治ったんだね。良かった!」
『む? 我が精霊の中でも頑健な部類だと、我と戦ったお前自身がよくわかっていると思っていたがな』
 首を捻るグランにテンシがくすりと笑う。
「それはそうだけど。でもグランさんとは戦ったり共闘したりで縁が深いからね」
『そうか。人は理を超えて情が動くこともあるのだな』
「ううん、グランさんだってそうだよ。あの日、身の危険を顧みずに精霊の皆を逃がして、雷から俺たちを守ってくれたじゃないか」
『ああ、それが心というものか。お前と話すのは面白い。さあ、こちらで話を続けようじゃないか』
 グランが大きな体を揺らしながらテンシをテーブルに案内する。
 その様子を楽しげに見つめているのがジェスター・ルース=レイス(ka7050)だ。
(グランの旦那、張り切っちゃって)
 口元が無意識に緩む。そんな彼にフィーと清水の精霊が歩み寄った。
「ジェスター、ウェルカムナノ!」
「ん、お招きありがとなー。っと、もしかしてそちらの姐さんはこの前の?」
『うむ。妾もフィーもグランも汝らの尽力により救われたもの。心より感謝している』
 清水の精霊はジェスターに真摯に礼をすると、公園の奥地を手で示した。
『木々の合間に草木を重ねた東屋が見えるであろう? 其処にあるのが汝の提案した秘密の泉よ』
「アノ泉ガ葵ヲ癒シタノ。今ハ水ノ精霊達ノオ家二モナッテルノヨ!」
「そっか、それは良かった。俺、泉のことを提案しておきながら手伝えなくてすんげぇ心残りだったんだ。それがなんつーかさぁ……すげぇ皆頑張ったんじゃんか」
 ジェスターは照れくさそうに頭を掻くと、周囲を見回した。
 ――かつては貧相な砂地だった空間が今や精霊、ハンター、軍人たちの努力によって瑞々しい緑地に生まれ変わっている。もし精霊たちが許すならばと、ジェスターは弾む心を抑えて一歩踏み出した。
「あのさ、良かったら後でその東屋に案内してもらねぇ? 他にもいいところがあったら教えて欲しいじゃんか」
 恩人のひとりである彼の問いにフィーと清水の精霊が「勿論」と返したのは言うまでもない。


●心にひそむ切なさと希望

 高瀬 未悠(ka3199)は親友のエステル・クレティエ(ka3783)と共に自然公園に姿を見せた。
「エステル、此処を貴女達が造ったの? とても素敵な公園じゃないの」
 未悠の率直な感想にエステルが頬を染めるも、その瞳には僅かな寂しさが秘められている。
(これからが花の季節なのに……去られる方がいるなんて)
 その時、ふいに薫香がふたりの鼻をくすぐった。無意識に顔を上げると、エステルがかつて提案した風車とハーブ園の周りを生まれも育ちも異なる精霊たちが笑いあいながら駆けていく姿が見える。――先ほどまで悲しげだったエステルが微かに微笑んだ。
「どうしたの?」
「未悠さん……実は私、今日は少し寂しかったんです。でもこの公園がまた集う場になる。それぞれの故郷と公園が気持ちで繋がるって思うと、嬉しくなってきて」
「ああ、貴女は公園の造成計画に初期から関わっていたのよね。思いはひとしおか……。それならなおのこと、今日は存分に楽しみましょう? 精霊達とまた笑いあって会えるように」
 未悠はタルトを取り分けると、エステルにフォークで差し出して「はい、あーん」と少しおどけた声を添える。さりげない優しさに破顔するエステル。するとそこにフィーが駆け寄ってきた。
「エステル、未悠、オ久シブリナノ! ソノオ菓子、精霊ノ皆トリアリュールト一緒二作ッタノヨ!」
「まあ、フィー様達がこのお菓子を作ったんですか? 凄いです。そうだわ、私はお茶を用意しますね」
「どれも美味しそうね。作ってくれてありがとう」
 ふたりの言葉にフィーと周りの精霊達が向かい合い、にっこりと笑う。その姿にエステルは胸が温かくなる感覚を覚えた。

(……それがみんなの意志なら。寂しいけど。止められない)
 濡羽 香墨(ka6760)はシンプルなローブを翻し、親友の澪(ka6002)とともに会場を見回した。
 寂しいという衝動と、精霊達の意志を尊重するべきという理性。そのせめぎあいの中で香墨が小さくため息を吐く。そんな時、隣で歩む澪が声を弾ませた。
「葵、グラン、久しぶり」
 咄嗟に香墨が顔を上げると、澪の笑顔が向けられた先には見知った精霊達が佇んでいる。
「葵……っ、グラン!」
 香墨が弾けるように駆け出した。澪も嬉しそうに目を細め、香墨の後を追う。
 ――清水の精霊を香墨が抱きしめると、香墨の背に精霊の手が重なった。
「良かった……葵、とても弱っていたから。ずっと心配だった」
『すまぬのう。便りのひとつでも送れば良かったのじゃが、このカタチに戻れたのがつい先日でな』
「ううん。それは平気。でも前より……」
『案ずるな、少しずつ力を取り戻せておる。……香墨も澪も優しい愛い子じゃ。でもな、汝らは思案顔よりも笑い顔が似合う。どうか今はこの時を楽しんでおくれ』
「でも」
 尚も精霊の身を案じる香墨。するとその手を澪が優しくとった。
「葵は香墨の笑顔が好きなんだって。だから……ね、今日は皆とお話ししよ? 友達との思い出、心を繋ぐために、きっと必要だもの」
 澪の提案に清水の精霊とグランが何度も大きく頷く。香墨の瞳から不安の色が消えた。
「ん。良い日にしなくちゃ、ね」
 香墨が真っ白な頬を桜色に染める。澪はその様に嬉しそうに目を細めた。


●こぼれる想い

 茶会における清水の精霊の役目は、皆のために澄んだ水を集めること。だが、幾度目になるだろうか。水差しに水を集めようと集中した瞬間。逞しい腕が精霊の華奢な肩を強く抱きしめた。
『な、何じゃッ』
「メイシュイっ……生きてた、良かった!」
 清水の精霊をメイシュイと呼ぶ者は今のところ、名付け親である「彼」しかいない。そして懐かしい声と匂い。清水の精霊は水差しに手を戻した。
『……セイか、久しいの。息災か』
「うん。俺、俺……もし、このまま一生メイシュイに会えなかったらどうしようかと……」
 精悍なセイ(ka6982)が涙を零す。熱い涙が冷ややかな水の身体に落ちては吸い込まれていく。
 しかし――精霊は声を発さず、身動きもしない。その状況がセイを不安にさせた。
「あ! そ、そうだよな。一方的にこんなふうにされても困るよな。ごめんなっ」
 慌てて手を離し、一歩下がる。怒りを向けられるのも覚悟で口元を引き締めると――清水の精霊は振り向かずに呟いた。
『……人の涙と腕とはとても熱いモノなのだな』
「メイシュイ……」
『汝が考案した泉の仕掛け。あれがなければ妾の治癒にもっと時間を要したはずじゃ。再び妾が妾として生きる時を汝がくれたのだと……今は感謝している』
 その声は思いのほか優しくて。セイは涙でぐしゃぐしゃになった顔を袖口で荒く拭った。
「……ん、少しでも役に立てたのなら嬉しい。あのさ……俺、メイシュイのお茶を楽しみにしてるからな!」
 背を向けたままの清水の精霊に小さく笑ってセイが踵を返す。その足音を聞きながら――清水の精霊はセイの涙を吸い込んだ己の肩をそっと撫でた。


●名前をくれた「おねえさん」

 マリィア・バルデス(ka5848)は、公園の入り口で主催者らしくリストを手に忙しく歩き回っているフィーを見つけると足早に歩み寄った。
「お久しぶりね、フィー」
 ふたりはどちらともなく手を伸ばし、笑顔でハグを交わす。
「マリィア、来テクレタノネ! トッテモトッテモ嬉シイノ!!」
「私も貴方が元気にしていたようで嬉しいわ。……あら、大きくなった? 前はもう少し小さかった気がしたけれど」
 ハグの感覚に違和感を抱き、不思議そうに首を傾げるマリィア。するとフィーが得意げに胸を張った。
「ウン。キット、皆二勇気ヲモラッテ強クナッタカラネ」
「良かった、良い人達に恵まれたのね」
 マリィアが安堵の笑みを浮かべる。だがにわかにフィーが頬をぷくと膨らませた。
「ムー、マリィアモトッテモ優シイ人ナノヨ! 私ヲ守ッテクレタシ……大切ナ名前モクレタモノ」
「大切な名前?」
「元ノ名前モ大切ダケド、キットソノ名前ノママダッタラ過去二囚ワレテ何モ受ケ入レラレナカッタ。ソレニネ、『フィー・フローレ』ハ皆二救ワレタアッタカイ思イ出ト結ビツクカラ……大切ナ宝物ナノ」
「……そう、気に入ってもらえて嬉しいわ。ねえ、良かったら一緒にお茶を飲まない? 私、ケーキを焼いてきたの。貴方の今までのお話、たくさん聞かせてほしいわ」
 牽いてきたバイクから紙箱を下ろし、蓋を開くマリィア。中から漂ってくる甘い香りにフィーがにっこりと笑った。


●大切なひと

 香墨は川辺の傍でテーブルを確保すると持参した箱をふたつ、そこに並べた。大きな箱から取り出されたものは艶やかなザッハトルテ。
 しかし香墨は小さい方の箱をそれよりも大切そうに両手で持つと、頬を赤く染めながら澪に差し出した。
「これ、バレンタイン。形は少し悪いけど。味はおいしい、から」
「えっ、私に?」
「澪は大切なひとだから。……料理するの、初めてで。見様見真似で作ったのだけど」
「ありがと、嬉しい。ね、開けてみていい?」
「……ん」
 澪の小さな手がリボンを引くと、中から茶色のハートが姿を現した。――そこにホワイトチョコレートで綴られた「ありがとう」というメッセージ。澪の胸に熱いものが溢れてくる。
「香墨……」
「澪がいてくれるから、私はひとりじゃなくなった。この気持ち、伝えたかったの」
「私も香墨から幸せをたくさんもらってるよ、ありがと。……ね、フィーと葵も呼んでケーキ食べよ。きっと喜ぶから」
 はにかみ屋のふたりが笑いあう。そこに丁度ジュースを運ぶフィーが訪れて――楽しい談笑の時が始まった。


●お疲れさまと初めまして

「宗人さん、宗人さん! 精霊さんたくさんです!」
 アルマ・A・エインズワース(ka4901)は公園に到着するなり、整った顔を紅潮させた。
 埜月 宗人(ka6994)も楽しそうに周囲を見回す。
「ああ。随分前から此処らが精霊の観光地みたいになっとると聞いてたけど、想像以上のものやで」
 そんなふたりのもとに精霊の子供達が次々とやってくる。早速彼らと交流を開始するアルマ。声を上げて笑う精霊に宗人も笑む。そこにグランが現れ、恭しく礼の所作を見せた。
『初めまして、かな? 客人よ』
「あー、そうやな。俺は宗人。で、あっちで遊んでるのがツレのアルマ君。今日は皆が頑張ってくれてたみたいやから『お疲れさん』を言いに来たんや。それから、これからまた色々あると思うさかい。一緒に頑張ろうってな」
『おお、そうか。その想い、誠に有難い。これからよろしく頼む』
 あたたかな日差しの中で交わされるのんびりとした談笑。日は既に天高く昇っており、このまま長閑に時間が過ぎていく。――誰もがそう思っていたその時、異変が起こった。


●嫌われ者の英霊

「……?」
 風のない穏やかな昼下がり。そこに強いマテリアルが一陣の風のごとく流れ込んだ。
 手にしていた水差しを突然落とす清水の精霊。先ほどまで彼女とつかず離れずの位置で機嫌よく茶を楽しんでいたセイが慌てて駆け寄る。
「メイシュイ、どうした? 具合でも……」
 その問いに無言のまましゃがみこむと、清水の精霊が震える手でコロッセオを示す。力のある精霊達がコロッセオを睨みつけるように警戒を始めた。
 一方で、憎しみや恐れとは異なる反応を示す者もいた。
「このマテリアル……まさか、フリーデ?」
 Gacruxがぽつりと呟くと、彼と目があったテンシが小さく頷く。あの日、英霊と戦ったハンター達は知っている――あの痛みを帯びた悲しいマテリアルを。
 続いて聞こえてきたものはコロッセオから駆け出す軍人たちの足音、そして即時退去を求める声――このままではいけない、とGacruxは思った。
「俺が行ってきます。フリーデとは知らぬ仲ではありませんから」
 彼は苦い表情で駆け出す。そこに宗人が続いた。
「件の英霊さんやな。……ほな、行こか」
「わうっ。皆、心配しないで僕らにお任せなのですっ!」
 すぐさま精霊の子供達をグランに託すアルマ。彼らは悪名高き英霊の名に怯えることなく、まっすぐにコロッセオへと駆けていった。


●ぎこちない再会
 
 コロッセオの通路で英霊フリーデリーケを壁のように取り囲む軍人達。その表情は一様に硬い。
 そんな中、声に微かな緊張感を漂わせてGacruxが割り込んだ。
「職務中に失礼しますよ。突然ですが、こちらの英霊は俺達に任せてもらえませんかね」
 すると生真面目な軍人が「やむを得ない状況なのです」と眉を顰めた。
「まあ、それがあんた達の仕事なんでしょうがね。ただ、あんた達の対応が気になるんですよ。あまりに無碍ではないかとね」
 Gacruxの声に厳しさが加わる。フリーデが唇を噛んで俯いた。その手にあるものは真っ白な封書。彼女に害意がないことは明らかだ。宗人は軍人達に温和に説いた。
「精霊を守る言うても、相手の事情を聞くんも大事だと俺は思う。それに英霊だって俺らとともにある精霊、話をして損することはないはずやで」
 一方、宗人の隣に控えるアルマは好奇心に目を輝かせた。
「わふ、お姉さんとっても強そうですっ」
 アルマの無邪気さに毒気を抜かれたのか、軍人達が左右に道を開く。フリーデが狼狽えるように半歩、下がった。そこでアルマは不躾な行動に気づいたのだろう、慌ててぺこっとお辞儀をした。
「あっ、ごあいさつです! はじめましてですー。僕、アルマですっ。見ての通りのエルフですー」
 そんなアルマに続き、宗人もフリーデへ明るく声をかけた。
「俺は宗人。アルマ君の友達や。……姐さん、何かここでやりたいことあるんやろ? 良かったら俺らに話してみい。何か力になれるかもしれん」
『それは……』
 アルマの明朗さと宗人の温情にフリーデは応じようとするも、そこから先が続かない。唯一面識のあるGacruxにちらと視線を送っては封書を持つ手を上げ下げし、気まずそうに下を向く始末だ。
 宗人は口元に苦く笑いを浮かべるとアルマの手を引いた。
「ま、俺らは初対面やし……仕方ないな。行こか」
「んぅ、わかりました。またお話ししましょうねー、お姉さん」
 アルマを連れた宗人はGacruxにすれ違いざま耳打ちした。
「後は頼むわ。馴染みのモンやないと話しにくいこともあるやろ」
 小さく会釈するGacrux。それから宗人とアルマは陽気に振舞うと、戸惑う軍人達の背を押して会場に戻っていくのだった。


●契り

 無人となった通路。Gacruxはフリーデに道端のベンチへ座るよう勧めると、軽く微笑んだ。
「……元気そうで安心しましたよ。ところで今日はどうしてここに?」
 だが彼に返された声は、苦い。
『精霊達に詫びたいのだが会うことが叶わなくてな。せめて詫び状だけでもと思ったのだ。もっとも、この有様だがな』
 フリーデの書簡を持つ手が力なく落ちる。Gacruxは表情を崩さずに淡々と提案した。
「良かったらそれ、精霊達に渡しましょうか」
『……いや、私のけじめだ。自分の手でやらねばな。それよりも先のことはすまなかったな』
「ああ、精霊のことはともかく……あの日のことは俺にとって済んだことです。それにあんたのこと、俺も他人事ではないと感じているんですよ」
 ポーカーフェイスのGacrux。しかしその言葉の後半には微かな煩悶が滲んでいる。フリーデが顔を顰めた。
『どういうことだ?』
「今、自分の中にある思想や行動が何百年先でも正しい保証はないということです」
 以前の戦いから彼の中で燻り続ける心情の吐露。そういうことか、とフリーデが息を吐いた。
『未来のことなど誰にもわからんものだ。しかも人の身ならば、生きている間は目の前の問題に立ち向かうだけで精一杯……かつての私は逃げるばかりだったがな』
 感情を表すのを厭うたのか、低い声が静かに響く。
『Gacruxよ、お前はお前の望むように生きろ。守るべきものを見失うな。お前達が懸命に考えあい、戦い、生きていくのなら、その先にある道は明るいはずだ。既にお前達は亜人と人間の共存という現実を手にしているのだしな』
 いつしかその声には優しさが含まれていて。Gacruxはまっすぐに前を見た。
「……手前の信念のもとに生き様を示せ、と?」
『ああ。私にはできなかったが、お前達ならできると信じている』
「了解しました、努力しましょう。……話を聞いてくれたこと、感謝しますよ」
 Gacruxの表情がようやく和らぐ。そこでフリーデが書簡を持ち直そうとしたところ、彼の真剣なまなざしがフリーデの瞳を捉えた。
「……ああ、そうだ。もし、俺が道を誤った時は……フリーデ。その時は俺を止めてくれませんか」
『何だと?』
「辛さや苦しみ、葛藤を知るあんたにだからこそ頼む事です」
 あまりにも突然の願いにフリーデが小さく呻く。恩人のひとりであるGacruxの願いを無碍に扱うことはできないが……と。そして何度も逡巡を重ねた結果、彼女が導いたのは次の言葉だった。
『……それは……私が過ちを犯しそうになった時にお前が止めてくれるというのなら、誓おう。私は人を一方的に断じられるほど正しい存在ではない』
 らしいですね、と笑ってGacruxが手を差し出す。それに革手袋の大きな手がしっかりと握り返す――ふたりの契りがこの時、成立した。


●恐れを砕くために

 茶会の会場では宗人とアルマから事情を聞いたハンター達が精霊達を宥めるべく苦心していた。
『あんた達、あの得体のしれない破壊魔をさっさと追い出してくれよ。皆、怖くて仕方ないんだ!』
 解決されない不安に怒りを隠さずテンシに声を張る精霊。だが、その本音がテンシに気づきを与えた。
(そうか、皆はフリーデさんがどんな人かわからないんだ。だから……)
 だったら教えればいい、真実を。テンシがあの日の記憶を手繰り寄せる。例え今は拒まれるとしても、それでも無知の恐怖よりはずっと良いはずだ。
「皆、聞いてくれないかな。フリーデさんの過去を。俺は皆にあの人を許せなんて言わない。ただ、あの人も痛みを感じる人なんだって知ってほしいんだ。そして考えて……できれば聞いてほしいって思う。あの人の想いを」
 何だと、と精霊達の鋭い視線をテンシに突き刺さる。しかし彼は怯むことなく、口を開いた。

 ――テンシの懸命の説得に精霊達が耳を貸す中、未悠はコロッセオから漂うマテリアルが穏やかになっていることに気がついた。
 同時に周りの精霊達の様子を確認すると、彼らにも思うことがあるのだろう。強張っていた顔が少し和らいでいる。
(今が好機ね)
 未悠が自身のバッグを手に立ち上がる。傍で幼い精霊をあやしているエステルが不思議そうに顔を上げた。
「未悠さん?」
「この機会を無駄にするわけにはいかないでしょ? フリーデを勇気づけなきゃ」
 話の邪魔にならないよう静かに駆けていく未悠。エステルもまた、己の役目を果たそうと幼い精霊達へ声をかけた。


●胸に声が響くまで

 フリーデの過去の物語を知らされた結果、精霊達に困惑が広まった。
 仲間を傷つけた罪は到底許せるものではない。しかし改めた心までも否定するのでは、かの虐殺者フリーデリーケと変わらぬのではないかと。
 エステルは彼らに最後の一押しをするために精霊の子供達と協力して一同へハーブティーを提供した。
「皆さん、少しお疲れでしょう? 今回はちょっと不思議なお茶を用意しました。マロウブルーのハーブティーです。ご賞味ください」
 カップの中で揺れる海のような青が時間の経過で鮮やかな紫に変わっていく。それだけでも不思議だというのに、子供達がレモン汁をそこに垂らすと――優しい桜色へと変わった。精霊達がその魔法がかった美しさに大きく息を呑む。
「マロウブルーの花言葉は『柔和な心』。心の問題の解決には大きな勇気が必要ですよね。だからこそ切欠って大事なんです」
 エステルが微笑むと、ハーブティーを口にした精霊が頷いた。
『……ああ、俺達も頑な過ぎたな』
『だな。……話を聞いてやるぐらいならいいか』
 精霊達の間で交わされる声は密やかなものだったが、それはエステルを安堵させるに十分だった。

 マロウブルーのティーポットが空になる頃、未悠がGacruxとともに新しい客人を連れて戻ってきた。
 その客人は――英霊フリーデリーケ。だが、驚いたことにその乱れた髪が整えられ、横に垂らした髪に至っては清楚な編み込みとなっていた。
「ね、髪を変えれば気分も変わるでしょ? 猫のお風呂みたいに嫌がられて大変だったけど」
 未悠が悪戯っぽく笑むと、フリーデの背を軽く押す。
「皆、勇気を振り絞ってる。後は貴女が踏み出すだけよ」
 その時、清水の精霊がセイに手を引かれてゆっくりとフリーデの前に歩みを進めた。
「なあ本当に大丈夫なのか、メイシュイ。しんどいなら俺が……」
 セイが案じるも、清水の精霊は微かな笑みを浮かべて首を横に振った。その覚悟にフリーデは背筋を正すと、緊張で乾ききった口を開いた。
『すまん、私の勝手な思い込みでお前達を深く傷つけた。お前達はこの地を私などより長く守ってきた大切な生命なのに……』
 罪人フリーデが発した言葉はひどく不器用で朴訥なもの。しかしその想いは本物で――精霊達の怒りや恐れによるマテリアルの揺らぎが次第に収まっていく。
 フリーデに怒りを抱いていた澪もまた、それまで堅く結んでいた唇をほどくと祈るように瞳を閉じた。


●宴の終わり

 思わぬ客の登場で一時は騒然とした茶会だが、和解が叶い時が経つにつれて和やかさが取り戻されていった。
 それでも精霊達に遠慮しコロッセオ側で休むフリーデにGacruxが「いかがですか」と酒瓶を見せる。頷くフリーデに猪口を差し出すと、彼はそれに芳醇な香りの名酒を注いだ。
「この純米酒はドワーフ王ヨアキムが生み出したものです」
『これをドワーフが作ったのか?』
「ヨアキム王は酒に妥協しない御仁だとか。味は御墨付きですよ」
『……私の時代では亜人の文化は絶やすものだった。この時代でなければ味わえない酒、だな』
 その時、舞台から美しい音色が流れてきた。ふたりが顔を上げてみると――春の精霊のように華やかなドレスを纏ったエステルと未悠が歌を披露している。
 エステルのフルートが奏でる柔らかなメロディに春の訪れを祝福する歌を乗せる未悠。かつて「技量は十分だが情の伴わぬ声」と評された歌声は、今や数多の出会いを経て彩り豊かなぬくもりに満ちている。そこにリアリュールの深いバイオリンの音色が加わった。
 子供達の世話から解放されたグランが広場で胡坐をかき、3人の演奏に思わず目を細める。そこにジェスターが歩み寄り、腰を下ろす。しばしの無言――演奏が終わったところでようやくジェスターが口を開いた。
「なあ、グランの旦那。アダムから聞いたよ、あんたがそろそろここを発つってさ」
『……ああ』
「そんな時だからこそ、俺と手合わせしてくんねーかな。あの時のあんたはホント格好良かったからさ」
 寂しさの中に強い熱が込められた瞳がグランを見上げる。グランはその熱意に一瞬戸惑いを見せたが、やがて重厚な腰を上げた。
『いいだろう。場所はコロッセオのアリーナで良いか?』
「サンキュ。手加減なしで頼むな」
 今は感傷よりも思い出を。拳を突き出すジェスターに『お前もな』とグランが笑って応えた。

 フィーと裏方仕事に戻ったリアリュールはキッチンでスポンジにクリームを塗りながらケーキに何を書くべきか悩んでいた。皆が喜ぶ意匠と考えると意外と難しい。そこで彼女はフィーに問うことにした。
「ケーキには何て書きましょうか。また会おうね、とか?」
「ンー、モット心ガポカポカスル言葉ガイイノ。皆、大好キナ友達ダカラ」
 何気なくフィーがそう言った瞬間、リアリュールが手をぱちんと合わせた。そうだ、真っ正直な気持ちで良いのだと。
「フィー様、それではケーキに『みんなだいすき』と書きましょう。今までの出会いに感謝して、大好きだよって。友達なんですもの、いつかまた会おうねって想いを込めて」
 フィーが大きく頷く。いつかその「大好き」の仲間にフリーデが含まれることを願いながら、リアリュールはケーキに大きく文字を書き込んだ。
 そしてその大きなケーキがお披露目されると――ハンターと精霊達が大きな歓声をあげた。その笑顔を持参したカメラに収め、プリントした写真を配るリアリュール。ふたりの「だいすき」が皆の忘れられない記憶になった瞬間だった。
 
 アルマは会場をそっと立ち去ろうとするフリーデに歩み寄ると、昼下がりと変わらぬ無邪気さで微笑んだ。
『お前。私の過去を知っているのだろう? それなのに何故……』
「わぅ? よくわからないですけど今のお姉さん、やなことしないですー。それよりもっ、ご迷惑でなければ、お友達になってくださいっ」
 彼は鮮やかな美貌と無垢な立ち振る舞いの裏に、鋭い洞察力を持ち合わせている。これは謝罪の瞬間を見守り、フリーデの内面に曇りがないことを確信したうえでの発言だ。
 フリーデは瞳を左右に揺らした後、こう返した。
『……迷惑とか、そういうのではない。ただ、私は戦うしか能がない。いずれは共に歪虚と戦う日も来るだろうが……』
「えっ、そのうち一緒に戦うです? たのしみですーっ」
 ぎこちなく笑うフリーデの手を取って喜ぶアルマ。そんなふたりの様子を宗人は温かく見守っていた。

 ――いよいよ訪れる別れの時。
 ジェスターとグランは手合わせに興じた結果、良い汗をかいたようだ。
 テンシはこの地を去る精霊達と握手を交わし、笑顔でこう言った。
「歪虚の脅威はまだ終わってないけど……これからもお互い頑張ろう! 再会を楽しみにしてる!」
 一方、フィーは心の準備が整っていたとはいえど別れがやはり悲しいらしい。マリィアは荷物からいくつもの小袋を取り出すと、その中のひとつをフィーに手渡した。
「これは貴方の花畑に咲いていた花と同じ種類の種よ。これをグランや他の仲間に持って行ってもらったら? 丈夫な野花だもの、余程気候が違わない限り咲くと思うの。貴方も彼らも、花を見れば寂しくなくなるでしょう?」
「マリィア……!」
「ね。此処にも、皆の故郷にも、たくさんの花が咲くといいわよね」
 そして澪もフィーの隣に歩み寄ると優しく言葉を紡いだ。
「あのね、フィー。ここはお別れというわけじゃない。ここは帰ってこれる場所」
「帰ッテ、コレル?」
 しょぼついた目をこすりながらフィーが反芻する。澪が大きく頷いた。
「ん。その時、おかえりと言ってあげればいいと思う。ここに居なくても心は繋がっているから。それが友達だから。ね、香墨」
 澪の後ろで香墨が静かに頷く。花の種を手に去っていく精霊達の「ありがとう」と「また会おうね」を聞きながら――。
 フィーは「大切な友達」とともに彼らの無事を願い、いつまでも手を振っていた。

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MVP一覧

  • 遥かなる未来
    テンシ・アガートka0589
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacruxka2726
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデスka5848
  • 比翼連理―瞳―
    ka6002

重体一覧

参加者一覧

  • 遥かなる未来
    テンシ・アガート(ka0589
    人間(蒼)|18才|男性|霊闘士
  • よき羊飼い
    リアリュール(ka2003
    エルフ|17才|女性|猟撃士
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • ベゴニアを君に
    マリィア・バルデス(ka5848
    人間(蒼)|24才|女性|猟撃士
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 比翼連理―翼―
    濡羽 香墨(ka6760
    鬼|16才|女性|聖導士
  • 死を砕く双魂
    セイ(ka6982
    ドラグーン|27才|男性|闘狩人
  • 勇気をささえるもの
    埜月 宗人(ka6994
    人間(蒼)|28才|男性|疾影士
  • Braveheart
    ジェスター・ルース=レイス(ka7050
    ドラグーン|14才|男性|舞刀士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/03/10 10:39:00