• 虚動

【虚動】獅子の心臓

マスター:坂上テンゼン

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
8日
締切
2014/12/17 15:00
完成日
2014/12/22 21:27

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 話は少し過去のこととなる。
 それは王都からベリアルが去って数日後の事だった。

「みんなでゴーレム捕まえにいこーっ!」

 王国首都イルダーナのハンターオフィスで、褐色の肌の女の子が手を振りながら呼びかけていた。肩には虫取り網まで担いでいる。
「誰だ? あの元気っ娘」
「ファリフ・スコール(kz0009)さんです」
 ハンター、ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061)の疑問に、かれらを案内してきたオフィス職員が答えた。
 他にもハンター達が依頼の話をするためオフィスの一室に集められている。ファリフは始めから部屋にいた。
「ファリフ・スコールって、あの辺境のスコール族の?」
「ええ、族長です」
「なんでこんなトコロに……」
「その話をするとちょっと長くなってしまいますので、先に依頼内容を説明させてもらってもよろしいですか?」

●CAM起動実験 ~王国サイド~
「へクス・シャルシェレット(kz0015)様からの依頼です」
「ヘンな貴族だな」
 王家の傍流シャルシェレット家の当主だが、ヘザーの印象はそんなものだ。当人の姿はなく、職員が引き続き説明した。
「内容は、ゴーレムを捕獲してくることです」
「ふむ、何に使うんだ?」
「『きゃむ』に食べさせるんだってー!」
 ファリフが答えたが、その返答はヘザー頭の上に浮かんでいる疑問符を増やすばかりだ。
 職員が丁寧に引き継いだ。
「CAMのことは皆さんご存知かと思います。
 サルヴァトーレ・ロッソに存在している、リアルブルーの優れた兵器。対歪虚の切り札とも言われています。
 しかし疑問に思いませんでしたか、何故この度のベリアルとの戦いで使われなかったのかと」
「確かに……CAMがあればもう少し違っていたかもしれないな」
 ヘザーは王都の惨状を脳裏に浮かべる。
 王都出身のヘザーにとっては見知った風景であるだけに、それが変わり果てた姿は痛々しく思えた。
「しかし実際の所、CAMは動けなかったのです。
 先月、リゼリオにて各国並びに部族の利益代表、サルヴァトーレ・ロッソ代表で首脳会議が持たれたのですが、その席でCAMは燃料不足により今回の王国の危機に投入できなかったと述べられています。
 そこで帝国が話を持ちかけました。
『ワルプルギス練魔院で研究している魔導アーマーの動力をCAMの動力として代替できないか』と……」
「では帝国がCAMを独占するかもしれないのか?」
「そんなことないよ!」
 ファリフが横槍を入れる。職員はええ、とうなづいて解説を続けた。
「例の会合ではCAMの機導実験が行われる事が決定したのですが、帝国とは別路線で王国も参加することが決定しています。ヘクス様がその代表です。
 ヘクス様はその事で学術都市アークエルスのフリュイ・ド・パラディ(kz0036)様に相談しました」
「ヘンな貴族のヘンな友人だな」
 フリュイ・ド・パラディは学術都市アークエルスを治める人物であるが、まごうことなき変人として広く知られている。
 まず、どう見ても10歳前後の子供である。
 しかし実年齢は60代とかいう噂だ。何でも魔術か何かの実験の結果、現在の外見になったという。性格の方も折り紙つきの変人だとか。
「そしてフリュイ様によって、アダム・マンスフィールド氏が抜擢されました。
 マンスフィールド氏は、あまり大きな声では言えませんが、禁術指定されているゴーレムを秘かに長年研究していた人であります」
「ゴーレムがCAMに関係あるのか?」
「ええ、まずはゴーレムについて簡単に説明しますね。
 ゴーレムとは、『刻令術』という特殊な魔術によって自律的に動作するようになった無生物のヨリシロのことです。刻令術は、ヨリシロに備え付けられた魔術的な核に施され、ゴーレムは刻令術に定められた命令に従って行動するようになります」
「なんだかわからんが刻令術というワザを使うと、モノが動き出すようになるのだな。ということは、まさか」
「そう。『それでCAMを動かせないか』と、こうなるわけです」

●古の塔
「マンスフィールド氏はその実験に必要なものとして、ゴーレムの『核』を挙げました。しかし問題となるのは調達先です。現在も作動しているゴーレムとなると、そこらには居ません。
 そこで皆さんには『古の塔』に行っていただく事になります」

 古の塔――
 アークエルスの図書館の奥深くにある一室にある転移装置から行く事ができるという。
 その内容についてあまり詳しいことは解っていないが、内部には恐ろしい化物や莫大な財宝が眠っているという。しかし、制覇したものは未だ居ない。

「その1Fにゴーレムがいるのだとか。上に登る必要はありません」
「しかし、そそられるな」
「死ぬかもしれないので……」
「死ぬのは困るか」
「1Fでも油断はできません。捕獲目標はもっとも大きく力の強い『オブシディアンゴーレム』が設定されています。獅子の頭に四本の腕を持ち、それぞれの手に剣を携えているとか」
「おおー!」
 ファリフが目をキラキラさせた。獅子の頭あたりがツボに入ったのだろう。
「他には接近戦をする『グラナイトゴーレム』魔法の矢を飛ばす『マーブルゴーレム』がいます」
「全部ストーンでよくないか?」
「それらと戦う必要はありません。襲っては来るでしょうが、状況に応じて対応してください」

●ファリフの思惑
「それでファリフさんですが」
 職員は眼鏡を持ち上げ直して、仕切り直した。
「CAM起動実験について、へクス様は霊呪に明るい人の意見を聞こうと、ハンターを通じて交流のあるファリフさんにも話を持ちかけていました。すると、CAMを動かす方法には心当たりはないが、王国には協力したいと」
「それはありがたいが、何故?」
 ヘザーが聞くと、ファリフは少し改まった顔になって答えた。
「帝国が辺境をまとめて歪虚に対抗しようとしているのは知ってるよね?
 帝国の印象は部族によって色々で、オイマト族なんかは歓迎してるんだけど、ボク達は帝国のことを信用してない。
 けど、部族ひとつの力は弱くて……スコール族だけじゃ、帝国にも歪虚にも対抗できないんだ。
 だから王国と、それに同盟とも仲良くと思ってるんだ……"星の友"を探すのにもその方が都合がいいしね!」
「なるほど。ところでその虫取り網は何?」
「えっ! つかまえるって聞いたからっ!」
 突っ込んではいけなかったのか。

●まとめ
「ある意味、王国の威信もかかっているという事か……」
「CAMはこれからの戦いで重要なファクターになってきます。
 大事な局面なんですよ!」
「そう言われてもなぁ」
 ノリが軽かった。
 ファリフのせいだ。
「気負っても仕方ないさ?」
「ヘザーさんキャラ崩壊してますよ! あなたもっと熱血でしたよね!」
 職員はそう言って咳をした。今日はよく喋る。依頼人のへクスがここに居ないのは面倒事を自分に押し付けたかったからなのかもしれないと、そう思った。

リプレイ本文

●古の塔
 王国の何処か、霧深き土地に古の塔はある。
 転移装置に運ばれたハンター達は、その地に降り立った。
「なっ……なんだコレは?!」
 光の反射の如く仄かに変わる外壁の色彩に目を見張るリケ・アルカトゥラ(ka1593)。眩暈さえ覚えていた。
「マテリアルが絶えず動いている……塔自体が何らかの装置なのか」
 人一倍マテリアルに敏感なフワ ハヤテ(ka0004)は、その特殊性を誰よりも感じ取っていた。
(だとすれば、一体何の為に……)
 ハヤテの言葉にイレーナ(ka0188)は考える。
 その用途が自分の望みを叶えることを、心の何処かで期待しながら。
「なんでもいいから行こうぜ! こういう謎に満ちた場所は浪漫だよな!」
「それにゴーレムの核を手に入れればロボットが動くんだろ?
 なんともロマンに溢れた話じゃないか!」
 一方、シャルラッハ・グルート(ka0508)と影護 絶(ka1077)は上機嫌。
「なあ、おまえもそう思うだろ?」
 絶は年若い同業者にも同意を求める。――が。
「……フン」
 ウィンス・デイランダール(ka0039)は興味ないとばかりに、視線を反らした。
「なんだよ、連れないな!」
「絶は浮かれすぎかも」
 そう言われて振り向くと、その先にはファリフ・スコールがいた。
「ここは危険な場所だよ。気を引き締めていこう?」
 出発前とは打って変わって、表情は険しい。
 部族を率いて幾多の戦いを戦った、戦士の勘が何かを感じ取ったのだろうか。
「ま、そう硬くなんな!」
 そんなファリフの肩を、ナハティガル・ハーレイ(ka0023)が叩いた。
 絶対に大丈夫。そんな信頼と、親しみを込めて。
「俺達ならやれる」
「あ、あはは……」
 困ったような、照れたような表情を浮かべるファリフ。
「その通りだッ!」
 ここぞとばかりにヘザー・スクロヴェーニが吼えた。
 あまりに強引だったので、ファリフもナハティガルも笑った。
「なぜ笑う! 出発の準備は良いのか!?」
 仲間達を見渡すヘザーと目があったダラントスカスティーヤ(ka0928)は、姿勢を正して頷いた。
 ――準備はできている。
 一言も発せずにしかし、雄弁に語った。
「頼りにしているぞ、ダラン」
 ダランはヘザーの言葉に、もう一度頷いた。
 ヘザーはファリフの方を見る。
「よし。行こう!」
 ファリフの力強い声が、一行を促した。

 扉は開いている。古の塔は挑戦者達を招き入れた……。

●未知の塔の探索
 内部は暗くはなかった。灯りこそないが、壁や床が仄かに発光しているのだ。壁には時折意味ありげな模様や彫刻が見られるが、意味する所は謎であった。
 一行は進むのにも工夫を凝らしていた。
 絶が斥候を務め、先行する。
 通ってきた道順をハヤテがメモし、地図を作っていく。
 そして――
「ウィンス、何か落ちたぞ!」
「チッ、落としてんだよ……」
 ウィンスが等間隔でナッツを道に落としていたのを見て、ヘザーが騒いだ。
「目印か、なるほどな」
 そして今頃気付いたのかという顔をされた。

 しばらく進んだところで、先頭で感覚を研ぎ澄ませていたダランが足を止め、腕で仲間達を制止した。
 前では斥候の絶が曲がり角の前でハンドサインを送っている。
 少数の敵と遭遇した時のサインだ。
 先手を打つべく歩を進める。
 角を曲がると、甲冑を着込んだ巨体が目に入った。
 花崗岩の体。それは石像であれば力強い姿であった。石像と違うのは、これから侵入者に殴りかかろうとしていることだ。
 二体居る。
「コイツ等には遠慮することはねえ! "核"を集中攻撃だ!」
 ナハティガルが声を飛ばす。
 ゴーレムの核が何処にあるのかは知らされていた。人間の心臓と同じく、左胸にあるのだという。
 実践は簡単ではなかった。ゴーレムは力強く、太い腕で攻撃を防ぐ。拳の破壊力も強烈だ。
 しかし動きはそれほど速くなく、連携の取れた攻撃によって一体の核が貫かれ、倒れ込んだ。
「わぁっ!?」
 その時、誰かが叫んだ。
 ファリフだ。
 すぐさま隣に居たダランがファリフが相手にしていたゴーレムの懐に入り、剣で胸を貫く。
 ファリフは飛びのいてそれを見ていた。
「ファリフ! どうした!」
 後ろからナハティガルが駆け寄る。
「く、首を刎ねたんだけど」
 ゴーレムを見れば、首がなかった。
「ハッハッハ! そりゃ確かに首を刎ねられて平気な生き物はいねぇよなァ!」
 笑いながらファリフの背中を叩く。
 歴戦の戦士であっても、生き物とも歪虚とも違う相手と戦うのは初めてだった。

 戦闘を終えしばらく進む一行。
 ナハティガルの無線機が音声を受信した。
「こちら絶」
「どうした?」
「先に広い部屋があるが、ゴーレムが七体居る」
「じゃあ、引き返すとしようか」
 ハヤテが地図に×印を付けながら言った。
 一行は大群と出遭ったら一旦戻って別ルートを探すという方針をとっていた。
「マッピングし甲斐があるねえ……」
 ここに入ってまだそれほど長くないにもかかわらず、分かれ道は多い。
「ウィンスのナッツのおかげで戻るのが楽だな」
 ヘザーが言った。
 だが、覚醒状態の持続時間も考えると、あまり時間を掛けていられない。
 早々にハヤテがルートを決め、先へと進んだ。

 一人斥候として先行する絶は、道の途中に何かがあるのを見つける。
「ああはなりたくないな……」
 人間の死体だった。
 既に白骨化しており、頭蓋骨の一部に目立つ穴が開いていた。
 絶は死体を横目に進む。
 突如、視界の隅で何かが動いた。
 気付いた時には飛びのいていた。すぐさま足元で光の束が弾ける。
 白い女性のような優美な形状のものが、床から少し浮き上がってこちらに向かってくる。
「こちら絶! 敵と遭遇した! 三体だ!」
 急ぎ無線機に叫ぶ。
 胸の前で組まれた両手から放つ光の矢を、絶は避け続ける。仲間はすぐ到着した。
「物に魔術を使わせるとは……実に興味深い」
 感心してる場合かと突っ込まれつつもハヤテは攻撃を忘れはしなかった。彼の攻撃魔法が起点となって、仲間が仕掛けていく。
 それほど時間を掛けずに、大理石のゴーレムは瓦礫となった。

 その後、多くの敵に出会えば引き返し、少ない敵は倒し、途中でリケが好奇心で押したボタンにより、隠された宝物庫を発見したりもしたが、
「うおー! 壁が動いたー!」
「うわわわわ何何?!」
「ファリフ。落ち着けって」
 一行は大きな被害も無く、探索を続けた。

●黒き獅子
「ウィンスだ。目標を発見した」
 今はウィンスが斥候を担当していた。
「数は?」
「黒曜石1。花崗岩2。大理石1」
 妥当な数だった。ゴーレムが多数居るところを避けて通っているせいか、目標となるオブシディアンゴーレムには中々会えなかったが、ようやく手が出る数の群れを発見できた。
 残り時間的にも、ここで確保しておきたい所だった。
 ハンター達はウィンスと合流する。
 その姿を全員が目の当たりにした。他のゴーレムより大きく均整の取れた体をしており、黒光りする黒曜石の体は人間の体のようにしなやかで、四本の腕はそれぞれ剣を携え、獅子の頭部は百獣の王たる威厳を備えていた。
「あれが人工物だなんて……」
 イレーナが、思わず声に出す。
 まるで生き物だ。――或いは、現世に顕現した獣面人身の神か。
 その獅子の双眸が、ほどなくして彼らを見つけた。
 ゴーレム達が向かってくる。
 ――作戦開始。
 ハンター達は、その場で迎え撃たずに逃げた。ここに来るまでに、全員が戦うのに差し支えない広間を通っていた。ハヤテが先導し、そこへ向かう。目論見通りゴーレムは追ってくる。
 やがて目的の場所に到着した。ここならば通路とは違い、自由に広がって戦える。
 ハンター達が、四体のゴーレムと対峙した。
「赤き狼の戦士にしてスコール族が族長ファリフ! いくよ!」
 凛とした声が響き渡った。見れば戦斧を握りしめたファリフが敵を真っ直ぐに睨み付けている。その貌に戸惑いや恐れは一切ない。
「慣れたらしい」
 ナハティガルが笑った。これがファリフの本来の姿なのだろう。
 ファリフは狼のごとく地を蹴って打ちかかっていく。
「族長ォー! 俺も続くぜッ!」
「上等だ。叩きのめしてやる」
 シャルラッハが大太刀を構え、ウィンスも槍を舞わしてそれに続く。
「援護します!」
 イレーナが流麗な動作でワンドを振り、詠唱を綴った。眩く燃える火球が、後方に控える大理石のゴーレムに炸裂し、光が広がる。
 花崗岩のゴーレムはファリフを狙う。
「おっと、こっちを無視してもらっちゃ困るぜ!」
 絶がその脚にワイヤーを振るう。脚に触れると、高速振動するワイヤーが粉を飛ばして激しく斬った。
 あえて深く攻めず、絶は陽動に徹した。ファリフ・ダラン・シャルラッハ・リケが攻撃を仕掛ける。
 後方から魔法の矢を放つ大理石のゴーレムには、ヘザーがチャクラムを投げ、次いでウィンスの踏み込んでの槍の一撃が貫く。
 黒曜石のゴーレムは、ナハティガルと対峙していた。
 驚くべきしなやかさで多方向から繰り出される突きを、ナハティガルは盾で防ごうと試みる。
「核を無傷で確保せにゃならん手前、急所は狙え無ェ。達磨にして無力化する以外に無い……!」
 急所は狙えない。だがやられるままでは居まいと、脚を狙い剣を振り下ろす。
 だが、軽やかに動く脚の運びを捉えきれない。こちらが攻撃すればすぐに引き、近づけば卓越した剣技で連撃を見舞ってくる。
 守りの構えで耐えるしかなかった。
 しかし、他のゴーレムが倒されれば、数の多い分有利となる。
 ナハティガルは仲間を信じて待った。
「待たせたなおらぁぁ!!!」
 やがて最後の花崗岩のゴーレムを倒したシャルラッハが吶喊した。
「剣の数が多けりゃいいってもんじゃねえ、一撃の重みの違いを味合わせてやるぜ!」
 渾身の、袈裟懸けの一撃。
 ゴーレムは剣で弾いた。だがそれも計算の内だった。跳ね上がった刃は頭上で弧を描き、切り返した。
 二度目の斬撃が、腕を斬り飛ばした。
 ――しかし手数では相手の方が上だ。別の剣が、シャルラッハの腕を斬りつける。
 とっさに体を動かすも避けられない。鮮血が舞う。
 ゴーレムは瞬時に体勢を立て直し、追撃に移る――
 だが、それは叶わなかった。
「あたいのナイフはよく斬れるぜ!」
 獣のように駆け込んできたリケが、体ごとぶつけるようにナイフを押し当て腕を切り落としたのだ。
 そして、間髪入れず別の腕が爆発した。狙い済ましたハヤテのファイアアローが腕に炸裂したのだった。
「これを受けて被害は腕一本! 素晴らしいね」
 ゴーレムは崩れた体勢を直すため、数歩後ずさった。
「お前と踊るのもここまでだ!」
 ナハティガルが剣を構える。
 その意を察したのか、最後に残った右下腕一本で剣を構え、ナハティガルに向かって一直線に駆けた。
 対するナハティガルも、獣の如く駆ける。
 交差する両者。
 振り下ろされた刃がナハティガルを両断するよりも、ほんの僅かに早く――
 ゴーレムの上半身は、下半身と別れを告げた。

●獅子の心臓
 残る腕と頭も切除され、黒曜石のゴーレムは首のない胸像となった。
 これを持ち帰ることが今回の目的である。
 イレーナが運ぶためにロープを巻きつけた。
 まだわずかに動いている。
(ゴーレムの核……。
 これによって別のモノに命を吹き込めるのなら……
 あるいは、生命すら他者に……)
 思いを巡らす。今度の実験の結果が、今から心待ちだった。

「痛えな……ん?」
 シャルラッハが血を流していると、無言でダランが近づいてきて、慣れた手つきで応急手当を始めた。
「器用だねえ……」
 隻腕のダランの手を見つめ、感心する。
 ダランの処置は完璧だった。

 一行は目的を果たし、帰路についた。
 しかし、一度通った道だからといって、平穏とは限らない。
「挟み撃ちだ!」
 正念場だった。
 通路の前と後ろから、三体ずつの花崗岩のゴーレムが現れたのだ。
「前の敵を倒す! やれるよね?」
「上等だ」
 ファリフとウィンスが前の敵を排除するべく打って出る。シャルラッハとダランも続く。
「ヘザーさん! 私は動けません、敵が来たら……!」
「解った!」
 イレーナが背後のゴーレムを守りつつ動向を見守った。
 背後から来る敵にナハティガルとリケが応戦する。
 ……敵の一体が、二人を突破した。
 すぐさまヘザーが体を捻り、回転を加えてチャクラムを投擲。唸りを上げて飛びゴーレムの顔に突き刺さった。
「惚れたか?」
 イレーナに振り向くヘザー、しかしその瞬間息を飲んだ。
 何と壁がスライドし、向こうから新たな敵が現れたのだ。ちょうどイレーナの至近距離だった。
 大理石のゴーレムだ。
 しかし攻撃に移る前に、突風が押し寄せ壁へと押し付けられた。
「慢心はよくないよ?」
 ハヤテがワンドを握りしめていた。
「走って!」
 前から声がした。ヘザーはとっさにイレーナの荷物を下から支え、一緒に駆けた。

 ゴーレムの配置が変わったのだろうか。行きより増えている気がした。何度も見つかり、一行は追われる羽目になった。幸い、進行方向には今は居ない。
「よこせ」
 ウィンスがイレーナの運んでいるゴーレムに手をかけていた。
「いえ、これは私が」
「いいから」
 ウィンスは半ば強引にイレーナに代わりゴーレムを背負うと、一瞬重みに怯んだものの、
(上等だ)
 足早に歩き出した。
「出口が近づいてきたよ」
 ハヤテはいつも通りに告げた。焦る様子も楽しんでいる様子もない。
 後は真っ直ぐ進めば、出口だった。
 だが間の悪いことに、横道からゴーレムが現れ道を阻んだ。
「またか……」
「速攻で終わらそう!」
 駆け出すファリフ達前衛。身軽になったイレーナもワンドを振るい、先制の一撃を食らわす。
 出口は近いが、ゴーレムがすぐそこまで走ってきている。
 ファリフ、ダラン、シャルラッハが奮戦し、前の敵が倒された。
「急げ、ウィンス!」
 併走するヘザーにウィンスは頷き、全力で駆けた。
「殿は任せろー!」
「ここから先は通さねぇぜ!」
「足止めなら任せな!」
 リケ、ナハティガル、絶が敵を阻むべく残る。
「ボクも残るよ! ウィンスを先に!」
 そして、ファリフも残り、迫り来る敵に備えた。

「おい! 俺はもういい」
 やがて戻ってきたウィンスが肩で息をしつつ呼びかける。
 外に出て、ゴーレムを置いてきたのだ。
「撤収! 撤収ー!」
「さて後は帰るだけ。核を取り出すのが楽しみだな!」
 魔力を使い果たしたハヤテが銃を撃ち、殿に残った四人を援護する。
 四人はうまく連携して隙を作り、出口へと駆け出した。

 結果――
 ハンター達は無事ゴーレムの核を入手し、ファリフにとっては驚きに溢れた心躍る冒険は成功に終わった。

 だがこれは始まりにすぎない。
 CAM起動実験は次の段階へと移行する。
 それは、ハンター達を新たなる戦いに誘うことになるだろう。

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参加者一覧

  • THE "MAGE"
    フワ ハヤテ(ka0004
    エルフ|26才|男性|魔術師
  • 一刀必滅
    ナハティガル・ハーレイ(ka0023
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 魂の反逆
    ウィンス・デイランダール(ka0039
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 微風の未亡人
    イレーナ(ka0188
    エルフ|27才|女性|魔術師
  • 威を放つ猛獣
    シャルラッハ・グルート(ka0508
    人間(紅)|25才|女性|闘狩人
  • 無口の傭兵
    ダラントスカスティーヤ(ka0928
    人間(紅)|30才|男性|闘狩人
  • 疾風迅雷
    影護 絶(ka1077
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 笑顔を咲かせて
    リケ・アルカトゥラ(ka1593
    エルフ|13才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談場所
ダラントスカスティーヤ(ka0928
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/12/17 10:08:57
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/12/09 23:05:54
アイコン 質問はこちら。
ヘザー・スクロヴェーニ(kz0061
人間(クリムゾンウェスト)|26才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2014/12/17 07:32:18