青の歌い手と春公演

マスター:春野紅葉

シナリオ形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/03/28 22:00
完成日
2018/04/19 16:39

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 ヴィオラは町の中を歩きながら、町長だという女性の軍人から話を受けていた。
 町の様子は田舎という割には活気がよく思える。田舎ならばどこでもそうではあるが、同世代などの自分の歌を聞いてくれそうな人がやや少ないようにも思えるものの、逆に特有の逼迫感というか、閉鎖的な感じがあまりしない。 
「町の中で舞台になるような場所は、この大広場ぐらいでしょう」
 円状に広がる町の中心部。そこまで案内してくれた町長は、振り返る。
「たしかにここなら、良いかもしれませんね」
 付き人の男が頷いて返答するのを横目にしながら、ヴィオラは視線を巡らせる。
「……どうかしましたか? お嬢さん……ええっと、ヴィオラちゃん?」
 不思議そうに町長はその瞳をこちらに向ける。
「あっ、いえ、ごめんなさい。あの、この町にハンターさんと一緒に大きな狼を退治したっていう女の子がいるって聞いて」
「ああ……あの子ですか。あの子なら今、この町にいませんよ?」
「えぇっ!?」
 さらりと答えられ、ヴィオラの声は思わず大きくなった。
「まぁ、連絡自体はすぐに付くので、明日でも会えるとは思いますが」
 そのことを聞いてほっと胸をなでおろす。その子と会って話をするためにわざわざここまで来た。ここで次の町へ行けと言われて、身体が持つかどうかは分からない。
「でも、なぜあの子のことを知りたいのでしょう?」
 そういう女の表情はやや鋭く細められていて、こちらを警戒していることは否応なしに理解させられた。
 緊張か、一瞬だけ脳裏を過ぎたあの黒と赤の顔のせいか、心臓がぎゅっと握られたような苦しさを覚えながら、ヴィオラは口を開く。
「その子が知っていることが、鍵になるかもしれないんです」
「鍵……?」
「はい、私が私としてここにいる理由の、鍵に」
 乗り越えなくちゃいけないものがあるのに、それに踏み出す勇気はなくて。けれど、逃げて狂いながら死ぬだけの人生なんて嫌で、ここまできた。
「私と同じように苦しめられて――私と違う決断をした女の子がいるって、聞きました。その子と話がしたくて、私はここにいます」
 少し暖かくなってきたばかりの春風が、ふわりと青髪をくすぐり、そっと抑える。町長は少しの間、何も言わずそこにいて、ふっと表情をやわらげ控えめな笑みを見せた。
「良いでしょう。この田舎まで来ていただいて、春華祭で歌っていただけるのなら、安いものです」
「歌うことに関しては、私が体調を崩し続けていたせいなので、本当にすいませんでした」
 そう言って笑う。本当にやるはずだったライブは、体調を崩して二度にわたって中止にしてしまった。その罪悪感も、確かにある。
 冬の寒さに気をやられていたのか、暖かくなってきてからはあいつの夢も見ない。今ならきっと、良い歌が歌える。そんな気がした。
「いえいえ……無理はいけませんから。それじゃあ、町を案内しながら打ち合わせと行きましょう」
 春華祭――それは今年になってから始めるらしいこの町の新しい行事らしい。
 冬の帳が上がり、春の陽気が満ちた頃、これからの一年の安寧と収穫を祝う――などと銘打ってはいるものの、実際は、恐らくこの田舎町を盛り上げるためといったところだろう。
 縁日が開かれ、この町の特産品が多く提供される。
 目玉となる奉納はただの奉納では面白くもないということで町長によって舞と歌を奉納することになった。
 その前後、奉納をやるまでに無駄にぽっかりとあいた舞台で催し物をやっておこう、その際に舞台で歌を歌ってほしいというのが療養を済ませたヴィオラが町長から頼まれた仕事だった。


 打ち合わせを終えたヴィオラはすぐに声出しの練習を始めていた。
 数ヶ月、喉もあまり使えなかったからか、喉を開くところからの練習、体力を取り戻すための基礎トレーニング。死に物狂いでやらなければならないことは、山ほどある。
「とはいえ、ヴィオラさん一人で今回の舞台をぶっ通しですれば、また体調を崩すでしょう。ほかにも参加者を募った方がいいかもしれませんね」
「……分かり、ました」
 付き人の男の判断に、ヴィオラはうなずくしかなかった。自分でも、一日歌い続けるのはまず不可能なことぐらい、分かっている。ぎゅっと拳を握り、一つ呼吸をして、手を開く。
「人の手配を、お願いします」
 悔しいけれど、今はこれが限界だった。
 たった一人で無理をして、多くの人に見せられないような酷い演技をするよりは、他の人も呼んで手伝ってもらう方が、遥かにいいはずだ。
 分かっていても、自分の今の在り方に酷く腹が立ち、ヴィオラは下唇を噛み締めた。

リプレイ本文

●春祭り、始まる。
 うららかなる空に、心地よい春風が吹いていた。
 普段は静かなその町はこの日、多くの人でにぎわっていた。
 たっぷりとした黒の長髪の女性――多由羅(ka6167)はそこかしこにある露店の様子を眺めながら、歩いていた。
 剣客としては警護役というのもいいと思う一方でこうして歩きながら露店の数々を眺めていると食べ歩きも悪くないと思えてくる。
「おや、緋百合……! 貴女も来たのですか」
 多由羅は前方にいた見慣れた緋色の長髪の女性――冷泉 緋百合(ka6936)へ声をかける。
「多由羅。うん。面白そうだったから」
「そうですか……では、お祭り……一緒に楽しみませんか」
 小さくうなずいた親友に笑いかけて、多由羅は散策を始めた。

 祭りが始まってから少し経った頃、雪柳・深紅(ka1816)は一人の少女に話しかけていた。何か起きていないか巡察していた深紅だったが、まだ祭りが始まってすぐということもあってか、喧嘩や酔っ払いの類は発見できなかった。
 その代わりに見つけたのがこの少女だ。清潔な洋服を纏った少女は、親とはぐれてしまったのか大泣きしながら歩いていたのだ。
「大丈夫かい? そう、お母さんの姿が見えなくなったんだ……」
 泣き続ける少女をなだめながらそのことを聞き終えた深紅はそのまま少女をなだめながら近くにある休憩所に少女を連れていく。
 やがて少女によく似た風貌の女性が少し急ぎ足に現れ、礼を言って去っていく。
「お兄ちゃん、ばいばーい!」
 手を振っている少女の姿が見えなくなるまで振り返す。そのあと春祭りの様子を眺め、ふぅとひとつ息を吐いて。
「さて……仕事をしよう」
 気合いを入れなおして、再び町へと繰り出していく。

●奉納への道標は好調に
「うーん、やっぱりお祭りは心がウキウキするね!」
 着物を纏った銀髪青眼の少女――天竜寺 舞(ka0377)は着物を纏って舞台へと上がる。広場に架設された舞台の周囲には町人はもちろん、よそから来たであろう、大きめの荷物を持った人々の姿も見受けられる。
 舞は観客を見渡して、小さく息を吸って。
「今から演奏する曲はリアルブルーのあたしの故郷でメジャーな曲なんだ。気に入ってもらえるといいけどね」
 用意されていた椅子に腰を掛けて、三味線で演奏を始める。
 ジャカジャン、ジャジャン、ジャジャン、ジャカジャカ、ジャッジャジャン――。
 舞の故郷である国で長く親しまれてきた、ある物語のテーマソング。自然に体が動く、男のロマンあふれるその曲を奏でて、余韻を保ちながら、そっと礼をする。
 静かに舞の演奏を聴いていた人々から、拍手の嵐が飛ぶ中、舞はその場を後にすると、舞台裏で一つほうと息を吐く。
 久しぶりの演奏にしては、我ながら中々だったと、観客の反応を思い出して少し笑みがこぼす。
「よし、奉納の舞までは流石に時間あるし、少しだけ遊びに行こうかな……」
 三味線を片付けて、舞は静かに舞台裏をするりと抜けて町の中へと繰り出した。

 久々のお祭りということもあって気合を入れ、着物とかんざし姿でおめかしした蒼真・ロワ・アジュール(ka3613)は、舞台へと上がっていくと、静かにゆったりと舞を踊りはじめ――たかと思うと、やがてタンバリンに持ち替えて軽妙な踊りに変えていく。
 その変化に観客も訳も分からないままに驚いているところで、蒼真は笑って。
「みんなも一緒にー!」
 手拍子と声で煽り盛り上げていく。見えないぎりぎりの脚線美はフェチズムを感じさせる。美少年ということもあって、その美しさは観客を魅了し、舞い終える頃には、蒼真の踊りに魅了された人々の歓声が会場を沸かせていた。
「ありがとー! 次の舞台も楽しんでね!」
 そう、観客たちへと手を振りながら舞台袖へと消えていく。
 蒼真は会場裏へと降りると、ちらりと次の人物を見る。
「お疲れ様でした」
 視線に気づいた少女――今回の依頼の大本の依頼主は、視線に気づいたのか蒼真の方を向いてそう声をかけてきた。
「うん。緊張してない?」
「……正直、緊張はしています。でも、同時に早く歌いたいような気がして」
 蒼真の次に舞台へ上がる彼女――ヴィオラは、奉納の舞の前、最後の手番だ。
 涼し気な風貌に穏やかな笑みを見せる少女に、蒼真は自分の心配が杞憂だと確信する。
「そっか。楽しみにしてるよっ!」
 にっこりと笑いかけると、ヴィオラは小さくうなずいた。ハイタッチを交わして蒼真はそのまま彼女を見送る。
「今日の午前中の舞台は、私が最後です。私の次は奉納の舞。だから、気持ちを盛り上げていきましょう!」
 春を告げる祭り、方策への願いを奉る奉納の事前に、順調に盛り上がる人々に対して、少女はそう挨拶をすると、一曲目を歌い始める。
 涼しげな風貌に似合うキレのある踊りを熟しながら、ヴィオラは一曲、二曲と歌と踊りで人々を熱狂させていく。

 ヴィオラが舞台で踊り歌う間、次の手番を待っていたのは澪(ka6002)を始めとする静玖(ka5980)、雹(ka5978)の三兄妹だ。
 ヴィオラの歌の後は本来のメインイベントというべきか、奉納の舞。正確にはその次に舞台を予定しているのが彼女たちだった。
「――ありがとうございました!!」
 舞台から、ヴィオラの声が裏にまで届いてくる。ヴィオラが下がり始めるのと共に、アナウンスが奉納の舞の時間帯を告げる。ス孤児だけ何も舞台のない時間を挟んでからの、昼過ぎの開始らしい。
 そのことを横耳にしながら、静玖はヴィオラの方へと歩み寄っていく。
「ヴィオラはん、すこしよろしいやろか」
「なんでしょう? ええと……」
「静玖言います。ヴィオラはんも昼食ですやろ?」
 舞台を終えて付き人に何やら言われているのをあからさまに聞き流しているヴィオラへ声をかけたのは静玖だ。助かったと言わんばかりに付き人から離れて静玖の方へ近づいてきたヴィオラに、今の自分達の状態に近しい物を感じつつ。
 昼食を一緒に食べないかと声をかけ、合意の返事を受けて舞台裏にある小さなスペースの一つ、雹と澪が待つそこへと彼女を案内する。
「ヴィオラはん、あんたはんは一人で全部やらなあかんとおもてへん?」
 何となく、歌っていた彼女の姿を見てそう感じていた。
「違いますえ? 舞台は裏方も含めて色んな人と作るもんや。手を借りるんとちゃう。一緒に、作るんやえ」
「そ、それは……そう、ですけど」
「うちと友舞いかがやろか?」
「それは、私は……でも」
 そう言ってちらりとヴィオラの視線が静玖の後ろに向く。
「無理やったら兄ぃと澪と舞いますぇ? でも、可能やったら一緒に歌って舞まひょ?」
 何やら感じ取ったのか、ヴィオラの様子が居心地悪そうになっているのを理解しつつも、静玖はそのままヴィオラに声をかける。
 その様子を見ながら、澪は声をかけられずにいた。
 原因はわかっている。大切な人がけがをしたと聞いて、その看病に駆け付け。その事を静玖や雹にすっかり言い忘れてしまったのだ。一方的に悪いのは自分だ。それを誤りたくて、お祭りに誘った。
 静玖の好きな物をたくさん入れたお弁当を開く。その間に、静玖はぷくーと頬を膨らませながらヴィオラに詰め寄っていた。
「ひと月も家に帰ってこんで、心配しとったら恋人さんとイチャイチャしとったってひどない!? 連絡の一つくらいほしかったわぁ」
 静玖はヴィオラへと己の気持ちを説明している。その通りだから、何も言えなかった。
 ちらりと兄を見れば、雹は静かに見守っているだけだ。
 食事を終え、奉納の舞を眺めてから、三人は舞台へと上がった。
 雹の笛の音にリードされながら、静玖と共に舞う。静玖の桜幕符による桜吹雪が会場に咲き誇り、雹の奏でる音色に身を任せながら踊ると、懐かしさと共に心地よさが胸に満ちていく。
 心を合わせて、だからこそ心地よくて。けれど同時に痛感する。本当に心配させてしまったのだと。より一層、ちゃんと謝ろうと思う。申し訳なさで胸が苦しくなる。
 踊り終えた澪は、静玖を呼び止めた。
「静玖、ごめん」
 真摯に、何度でも、謝り続けようと思った。
「ごめんなさい。私は、静玖の事も誰よりも好きだから。本当に、ごめんなさい」
 心の底から吐露した気持ちに、ほうと一つ、溜息が聞こえた。
「本当に心配したんよ? でも、うちも意地が悪かったどす。堪忍しておくれやす」
「うん」
 気づけば、そっと抱き寄せられていた。目頭が熱くなるのを澪はこらえきれなかった。
 そんな二人の様子を眺めていた雹は優しく微笑みながら、仲直りを見届けた。
「仲直りできたんですね……」
 隣にきて様子を見ていたヴィオラにも、少しだけ迷惑をかける形になったことを謝罪しつつ、雹は首肯してその様子を眺め続けた。
「誰もが一人ではない……そういうことだね」
「一人じゃない……ですか」
 ぽつりと呟いた少女の言葉には、どこか寂しさのようなものがあった。

●祭りの喧騒はたしかにここに
 鞍馬 真(ka5819)は屋台の一つで購入したたこ焼き――風の何かを頬張っていた。超弩昼時、奉納の舞とやらが始まったのか、広場へ人々が集中していったこともあって、手すきになったことで、昼ご飯といった次第。
「……これ、中に入ってるのは……?」
「はい、軟骨です」
 屋台をしていた女性に問うてみれば、そう返答が帰ってくる。たこ焼きに似ているが、立地条件としてはこの町は帝国の内陸部。海鮮の特産品というのもそう多くないだろう。
「……ちょっと変わったつくねと考えたらいいのかなこれは」
 醤油タレのような味付けにコリコリとした軟骨のソレは、充分に腹を満たすことのできる量だった。
 周囲へと視線を巡らせて何も起きてないか確認していると、少年が一人、困ったような様子で周囲を見渡している。
「きみ、迷子なのかな?」
「うん、お母さんが迷子なんだ!」
 元気よく言いきる少年に内心で微笑ましさを感じつつ、残っているつくね風の商品の一つを渡して一緒に休憩所へと連れていく。
「どこから来たのかな?」
「近くの村だよ!」
「そうなんだ……どんなところなのかな?」
 何となく時間を持たせようと椅子に座らせた少年と世間話をしていると、不意に少年が顔を上げて走り出す。振り返ると、少年の頭に女性の拳骨が落とされたところだった。どうやら、あれが母親のようだ。
 少年が何か叫ぶ前に彼を抱きしめた女性を見ながら、どこか懐かしい気持ちを覚えていた。

ミオレスカ(ka3496)は命一杯祭りを楽しんで、舞台裏に入っていた。
「収穫も安定しいたようですし、食べ物も美味しかったです」
 ミオレスカはスタッフにそう答えて、屋台で買ってきた料理に舌鼓を打つ。
 じゅわっとした肉汁が野菜に絡み、得も言われぬ美味だ。
「やはり、地産のものは一味違いますね」
 喉を潤し、準備を整えたところで、名前を呼ばれた。
 本日二度目の舞台だったというヴィオラと入れ替わるように、舞台の上へと歩みを進める。
 奏唱士になって、以前よりも上達しているといい、なんて不安は少しばかりあったけれど。
 用意されている椅子に腰を掛け、エキゾチックな曲を奏でる。
 陽も傾き、祭りはもう少しで終わりを告げるだろう。だからこそ、静かなようでいて、どことなく心地よい異国情緒あふれるその歌は、人々の心にしみこんでいく。
「ありがとうございました」
 ミオレスカがそう言って礼をしたころには、観客の誰もが彼女の演奏に心を奪われていた。
 しんと静まっていた会場で、誰かが初めに拍手をして――それはやがて、会場全体からの拍手となって帰ってくる。
 どうやら気に入ってもらえたのだと、内心でほっとしながら、彼女はその場を後にした。

 祭りが終わるころになると、それまでとはまた一味違った問題も出てくる。
 祭りに浮かれ、テンション上がった飲んだくれというのはどこにだって出るものだ。
「お前さん、大丈夫か?」
 埜月 宗人(ka6994)はそんな飲んだくれの一人が路地で酒瓶片手にもたれかかっているのを見つけて声をかけていた。
「あぁん? だれでぇ……俺に文句あんのかい? おぉ?」
 相当回っているのだろう。据わった目の男は、宗人を見てふらふらと立ち上がる。
「やるなら、やってやろうじゃあぁねえぇの!」
 ふらふらと酷いファインティングポーズをした男は、そのままオロロロ――と嘔吐する。
「はぁ……楽しんどるのはええけど、嵌め外しすぎとちゃう?」
 あまりの酷さに、汚いとかなんとか思うよりも前に呆れながら、宗人は近くにいた他のスタッフに後始末を任せ、男を休憩所にまで連れていくことにした。
「せっかくやから、お土産も欲しいなぁ……」
 夕日に代わりつつある空を見上げ、ぽつりと呟いた。

 トリプルJ(ka6653)はこの祭りの初めごろからずっと、ジャグリングしながら町の中を歩き回り、出し物の紹介に奔走していたが、日暮れごろになってくると、その仕事もいよいよ大詰めであった。
「舞台で最後の催し物が始まるぞ! サーカスショーを見たければ舞台に向かってくれ!」
 行く人行く人に声が届くようにしながら、その肩には迷子の少年が乗っかっている。少年を休憩所に届けた後、スタッフから酔っ払いのけんかを止めてくれるように言われて、すぐさま飛び出した。
「ったく、アンタら何やってんだ」
 怪力を駆使してガッと絡み合う浸りの男を引きはがし、喚き散らすそいつを無視して、片方をスタッフに任せ、もう一人の方を拘束する。
「やれやれ……」
 いつもの帽子をくいっと被りなおし、トリプルJは一つ息を吐いた。

 一方、舞台ではいよいよ最後の催し物が開かれていた。
 舞台に上がったミア(ka7035)、白藤(ka3768)、浅生 陸(ka7041)の三人。まず観客たちへ向けて声をかけたのはミアだ。
「“とあるサーカス団もどきのぷちぷちショー”、どうぞお楽しみ下さいニャスー! それじゃあまずは、お手伝いで培ったミアの妙技、ご覧あれーニャス!」
 いうや、ミヤゴンなる怪獣の着ぐるみに身を包み、ぴょーんと軽く大玉に乗り、その姿からは想像もできぬほど軽やかに跳ねたり、宙返りしてみたり。
 思わず幾度となく感嘆の息を漏らすお客に楽しくなってちょっとこけそうになったりしつつ。
 陸はそんなミアをタンバリンと髭眼鏡を付けた状態でコミカルなダンスを踊り盛り上げる。ミアの大玉乗りがひと段落したら、今度は二人で踊り、そこに白藤が飛ばすシャボン玉がふわふわと舞う。
 二人が躍りながら白藤に近づいて行ったところで、白藤は不意にどこからか取り出した林檎を陸の頭の上に乗せた。
「ちょっ、えっ、どういうことだこれ!?」
 大げさな演技を見せる陸に対して、白藤は笑みを浮かべたままルージュナイフで唇を彩り――そのままスパンとナイフを林檎に向けて投げた。
 さっくりと林檎に入ったルージュナイフに、観客がわぁ!と湧き上がる。
 そんな様子を見ながら、陸は観客席にちらりと視線を向ける。
「さぁ、短い時間ですが、最後の演技を始めよう!」
 いうと、事前に客の数人に配っておいたバルーンが舞い上がる。
 りくはそれをワイヤーウィップで次々に割っていく。スパパパンッという子気味のいい音と共に、観客席に花弁が吹雪のように舞い落ちる。
「さぁ、一緒に楽しもう!」
 ぽいっと髭眼鏡をはずし、代わりに赤バラを胸に。ぽんと何やら手品らしきことをして手元に持ってきたギターで明るいメロディーを奏でると、ミアと白藤がダンスを踊りだす。
 ミアが目に留まった観客の手を引いて、裏手から現れた今回の演目を行った多くの人々を交えて、祭りの最後を告げる歌は、夕闇の空を吹き飛ばすように明るく町中に響き渡った。

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重体一覧

参加者一覧

  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士

  • 雪柳・深紅(ka1816
    人間(蒼)|16才|男性|霊闘士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • プティト・ムッシュウ
    蒼真・ロワ・アジュール(ka3613
    人間(蒼)|15才|男性|聖導士
  • 天鵞絨ノ空木
    白藤(ka3768
    人間(蒼)|28才|女性|猟撃士
  • 笑顔で元気に前向きに
    狐中・小鳥(ka5484
    人間(紅)|12才|女性|舞刀士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 陽と月の舞
    雹(ka5978
    鬼|16才|男性|格闘士
  • 機知の藍花
    静玖(ka5980
    鬼|11才|女性|符術師
  • 比翼連理―瞳―
    澪(ka6002
    鬼|12才|女性|舞刀士
  • 秘剣──瞬──
    多由羅(ka6167
    鬼|21才|女性|舞刀士
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
  • 狂える牙
    冷泉 緋百合(ka6936
    オートマトン|13才|女性|格闘士
  • 勇気をささえるもの
    埜月 宗人(ka6994
    人間(蒼)|28才|男性|疾影士
  • 天鵞絨ノ風船唐綿
    ミア(ka7035
    鬼|22才|女性|格闘士
  • Schwarzwald
    浅生 陸(ka7041
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/03/28 19:21:38