ゲスト
(ka0000)

  • マイページ
  • SC購入
  • キャラクター選択


  • キャラクター登録


【詩天】会者定離 「大輪寺呪詛破壊」リプレイ

作戦2:大輪寺呪詛破壊 リプレイ

楠木 香
楠木 香(kz0140
アニス・エリダヌス
アニス・エリダヌス(ka2491
レイオス・アクアウォーカー
レイオス・アクアウォーカー(ka1990
米本 剛
米本 剛(ka0320
夜桜 奏音
夜桜 奏音(ka5754
エルバッハ・リオン
エルバッハ・リオン(ka2434
星野 ハナ
星野 ハナ(ka5852
悠里
悠里(ka6368
チョココ
チョココ(ka2449
アウレール・V・ブラオラント
アウレール・V・ブラオラント(ka2531
鞍馬 真
鞍馬 真(ka5819
黒戌
黒戌(ka4131
小宮・千秋
小宮・千秋(ka6272
葛音 水月
葛音 水月(ka1895
獅子堂 灯
獅子堂 灯(ka6710
南條 真水
南條 真水(ka2377
ロニ・カルディス
ロニ・カルディス(ka0551
ミオレスカ
ミオレスカ(ka3496
閏
閏(ka5673
鳳城 錬介
鳳城 錬介(ka6053
久瀬 ひふみ
久瀬 ひふみ(ka6573
 憤怒本陣から南西にある寺院。
 かつては大輪寺と呼ばれ、多くの僧侶が修行していた場所。
 しかし、御仏に仕える修行僧はもういない。
 代わりにいるのは犬や猫の頭を持った歪虚の群れ。
 最早人間が住む場所ではなくなったこの廃墟に――多くの戦士が集う。

「全軍進め! 憤怒王の野望を今一度打ち砕くのだ!」
 楠木 香(kz0140)が、全軍へ号令をかける。
 目指す場所は眼前の山頂にある大輪寺。ここに三条仙秋が隠した呪詛が存在する。この呪詛を破壊すれば、憤怒本陣にいる仙秋を弱体化させる事ができるのだ。
「新たな王など、のさばらせてなるものですか……!」
 アニス・エリダヌス(ka2491)は、魔杖「ケイオスノーシス」を握り締めて前へと進む。傍らで楠木家の武将が犬神に向かって斬り掛かる。
 刀が交わる音に混ざり、耳に飛び込む怒声と悲鳴。それでも、大輪寺へと向かう足を止める訳にはいかない。
「小細工をブッ壊して、この地で憤怒王を名乗った事……後悔させてやろうぜ!」
 試作振動刀「オートMURAMASA」を片手に突き進むのは、レイオス・アクアウォーカー(ka1990)。
 山頂へ続く階段を発見して、そこへ向かって走り出した。
 だが、歪虚側も階段の前にある山門を無防備で放置するはずもない。
「……む、新手か」
 レイオスの後に続く香。
 その視界に入ってきたのは、象の顔を持つ巨体の歪虚。
 万象と呼ばれる歪虚で、手には巨大なハンマーを握りしめられている。
「如何にも危険そうだな。総員、ここは足を止めて敵を放置……」
「そんな暇はねぇ! このまま突っ込む!」
「なっ!」
 香は、門番の存在に足を止めようとする。
 だが、それでは山頂への到着が遅れる事になる。それは今も仙秋と戦っているハンター達が苦戦を強いられる事になる。一秒でも早く呪詛を破壊しなければ、彼らは仙秋を倒す事ができない。
「ぶおおぉぉぉっ!」
 一声吼える万象。
 手にしていたハンマーを振り上げ、レイオスに向かって叩き付ける。
「悪いな。相手にしてやれねぇんだ」
 体を捻ってハンマーを躱したレイオスは、地響きで揺れる地面を蹴って前へ進む。
 万象の傍らを通過する瞬間に、試作振動刀「オートMURAMASA」で下段から斬り上げる。
 一閃。
 風のような一撃を万象に加えたレイオスは、そのまま山門を潜って先を急ぐ。
 だが、強烈な一撃であったものの、万象は硬い表皮に覆われている。
 撃破には至らない。
 それでも、レイオスにとって問題は無かった。
「!?」
 レイオスの背後を追いかけようとする万象。
 そこへ米本 剛(ka0320)が万象に迫る。
「失礼、よそ見は禁物ですよ」
 魔導鋼鉄甲「鋼ノ腕」の一撃が万象へと突き刺さる。
 不意を突かれた形となり、万象の体は大きく揺らされる。
 
 幕府方と共に行くハンター達。
 大輪寺東側へ布陣していた彼らの進軍は、今まさに始まったのである。


 一方、大輪寺西側へ布陣していた軍も動き始めた。
「古い友との約束だ。悪いが、行かせて貰うぜ」
 詩天の若峰を根城とする『風待一家』。
 その一家を率いるのは、風待亨二郎。通称、春雷の亨二郎と呼ばれる侠客であった。
「手早く破壊して討伐側の負担を減らしましょう」
 夜桜 奏音(ka5754)の陰陽符「伊吹」が五色光符陣で眩い光を放った。
 西側の山門を守っていた万象を中心に、眩しさで視界を奪われる。
 風待一家も楠木同様山頂の呪詛を目指していた。だが、双方は相手の存在を知らない。偶然にも同時刻に大輪寺に同じ目的で集ってしまったようだ。
「チャンスですね、これは……如何でしょう!」
 エルバッハ・リオン(ka2434)は、奏音が作った隙を狙ってファイヤーボールを発動。
 燃える火球が万象とその周辺へと投げつけられ――炸裂。
 さらに星野 ハナ(ka5852)による追加の五色光符陣が発動する。
「まだまだいきますよ?」
 万象がいた付近を中心に結界が張られ、そこへ降り注ぐのは再度降り注ぐ眩い光。
 それも一度ならず複数回叩き込まれていく。
 見れば、山門近くにいた犬神や化猫までも地面へ倒れ込んでいる。
「お見事! さぁ、山門へ参りましょう!」
 奏音の声と共に走り出す風待一家の面々。
 詩天を託された者達は山頂を目指して動き始める。
 そんな時、親分の目に悠里(ka6368)の顔つきが目に留まる。
「……どうした、あんちゃん。戦いの前に怖いのか?」
「この戦いは……詩天の悪意、その元凶である三条 仙秋を止める最後の決戦なんですよね?」
 悠里は、親分へ問い返した。
 それはこの戦いが詩天にとって、エトファリカ連邦国にとって重要な戦いである事を意味していた。
「ああ、どうやらそうらしい」
「僕が初めて戦う事になった地。それが詩天です。
 僕はこの戦いに参加できるぐらいには……成長できたのでしょうか」
 悠里は、改めて親分へと向き直る。
 この詩天に関わる事で、悠里の中で様々な変化があった。
 覚醒者としても、人間としても成長している。
 だが、あと一押し。
 背中を押してくれる『何か』を悠里は欲していた。
「さぁな。あんちゃんと会うのは初対面だ。俺には良く分からねぇ」
「そうですか……」
「だけど、それでいいんじゃねぇか? ちょっとぐらい心配な方がうまくやれるさ」
 屈託のない笑顔。
 戦いの中で子供のような無邪気な笑顔を浮かべられては、悠里の緊張は自然と解れる。
「それ、経験則ですか?」
「いや、古い友の言葉だ。今日はそいつとの約束でここに来た。
 ……あ、そういや『真面目に生きているなら少しぐらい欲張ってもバチは当たらない』って事もあいつは言ってたな」
「変わった人ですね。ちょっとお会いしてみたくなりました」
「そうだな。俺も逢えたら何て言ってやろうか」
 親分は踵を返して、ハンター達の後を追う。
(少しは欲張っても……いいですよね。……義姉様)
 心の中でそう呟くと、力強く歩み始めた。


 幕府と詩天の軍は、ほぼ同時に山門へ到達。
 ここから山頂を目指して階段を駆け上がる事になるのだが、ここで双方の軍は異なる動きを取り始める。

 山門を潜れば、階段は山頂までジグザグに配置されている。
 傾斜が急な山にまっすぐ階段を配置すれば、かなり急な階段になる。
 それでは参拝する客も困る事から、まず緩やかな階段で山肌に沿って配置。ある程度進んだ後、今度は反対に向かって階段を上っていく。横幅が狭い階段ではあるが、こうする事で急な山道を登らずに済む。
 ――しかし。
 両軍の目的は、早急な山頂への到達。つまり、全員でこの階段を悠長に登っている暇はないのだ。少しでも早く到達する為には、相応の作戦が必要になっているのだ。
「作戦を確認します」
 保・はじめ(ka5800)は、上を目指しながら周囲へ呼び掛ける。
 幕府方は戦力を二分する。
 階段を駆け上がるチームと山頂に向かって直進するチームだ。
 階段を駆け上がるチームは階段にそって山頂を目指す。途中、敵に遭遇するであろうが、階段の幅は狭い。先頭の者が敵を留めている隙に、後方の者はさらに前進する。
 一方、直進するチームは山頂まで最短距離を目指す。
 階段を使わなくても急な山肌を直線で登る事も可能だ。但し、木々が生い茂る上、周辺に潜んだ歪虚が奇襲してくる恐れもある。本体から離れて行動を強いられる事からリスクも高い。それでも呪詛を早期に叩く事を考え、危険なルートを通る事を選択したのだ。
「直進する方は、早速山頂を目指して下さい。呪詛は山頂にあるはずです」
 はじめの声を受け、直線距離で山頂も目指す者が動き始める。
 声をかけたはじめ。
 山門を早々に通過したレイオス。
 万象に一撃を加えた米本。
 そして――。
「ごきげんようですわ、楠木様。皆様、よろしくお願いしますのー」
 最後に名乗りを上げたのは、魔術師のチョココ(ka2449)。
 リスクの高いルートを選んだだけあって、魔法で歪虚を蹴散らすつもりだ。
 最短ルートで山頂を目指す事は、後続の階段チームに集まる歪虚が減る事になる。そういう意味では直進するチームの動きが重要だ。
「必ず後から合流する。山頂で会おう」
 香も四人の働きに期待しているようだ。
 小さく頷いた四人は、階段を離れて山肌を登る始める。
 同時に階段チームも香と共に階段を突き進む。
「支援になるかは分からないが……送り火ぐらいはしてやろう」
 階段を駆け上がったアウレール・V・ブラオラント(ka2531)は、ソウルトーチを使用した。
 瞬間、周辺に潜んでいた犬神や化猫がアウレールに向かって集まってくる。
 アウレールに敵は群がるが、その分直進チームを襲う敵が減る事になる。アウレールなりの直進チーム支援策であった。
「道を開けやがれ! 犬猫頭どもっ!」
 レイオスの試作振動刀「オートMURAMASA」が、樹木と共に化猫の体を斬り伏せる。
 
 直進チームの大博打が、今始まった。


 詩天の親分達も、西側の階段を駆け上がる。
 幕府方のハンター達と同様に、直進チームと階段チームの二手に分けて山頂を目指す。
 しかし、両チームの動きは幕府方と異なる部分があった。
「そら、こっちだ。ここにいるぞ」
 鞍馬 真(ka5819)は階段から少し外れた場所でソウルトーチを使った。
 樹木に隠れていた化猫や階段で待ち伏せしていた犬神が、鞍馬に向かって動き始める。
 詩天側の直進チーム――正確には囮役である。
 階段チームが頂上を目指す間、囮役が敵を誘引して誘き出す。こうすれば階段チームが頂上へ向かうにあたって負担が軽減される。
 刀を握り締め迫るは、犬神。
 上段に大きく振りかぶる。
「それで……傷が付けられると思っているのか」
 鞍馬は犬神の刀をシールド「リパルション」で防御。犬神がもう一撃を加える為に刀を再び上へ持ち上げた瞬間――ソウルエッジを発動した試作振動刀「オートMURAMASA」が叩き込まれる。
 吹き飛ばされる犬神。
 だが、こうしている間にも周囲の敵は次々とやってくる。
「助太刀させて頂くでござるよ」
 鞍馬へ襲い掛かろうとする化猫に対して、黒戌(ka4131)はデリンジャーで狙い撃つ。
 少し遠い間合いからの援護射撃。
「にゃ!?」
 振り返る化猫。
 デリンジャーの一撃は外れ、化猫は黒戌へ視線を移す。
 的中しなくても構わない。重要な事は、敵の目をこちらへ向ける事だ。
 軽やかなステップで黒戌との間合いを詰める化猫。
 小刀の一撃を叩き込もうとするが、そこへ別の影が立ちはだかる。
「ほいほーい。猫さんはこちらでーす」
 小宮・千秋(ka6272)が囮役の盾として鬼爪籠手を片手に攻撃を阻んだ。
 独特な金属音が周囲へ木霊する。
「残念ですよー。ここから先は通行止めですー。それでー」
「この位置なら……外さないでござる」
 化猫の額に添えられる黒戌のデリンジャー。
 突き付けられる銃口を確認する前に、デリンジャーの引き金が引かれる。
 硝煙の匂いと共に、化猫は崩れ落ちた。

 一方、負担が軽減された階段チームは、素早く敵を排除して道を作っていく。
「まだまだ階段は、続きますか。ひゃー、なかなかハードですね?」
 特殊強化鋼製ワイヤーウィップを投げた後、チェイシングスローで間合いを詰めるのは葛音 水月(ka1895)。
 単に階段を駆け上がるのではなく、ワイヤーとスキルを駆使して素早い動きで山頂を目指す。同時に味方の進行ルートに立つ敵の排除を忘れない。
「退いた退いたー。邪魔すると怪我するよー」
 階段で立ち塞がる犬神。
 水月の存在を認識して刀を構える前に、パイルバンカー「フラクタリング」の一撃が犬神の頭部へ炸裂する。凄まじい重量を誇るフラクタリングの一撃は、犬神を屠るのに十分過ぎた。
 崩れ落ちる犬神。
 水月は犬神を一瞥すると、次なるターゲットを見定めてワイヤーウィップを投げつける。
「へぇ、大したもんだ。前にもハンターと会ったが、今度の連中もとんでもねぇ強さだ」
 小刀を化猫の喉に突き刺していた親分は、ハンター達の活躍に舌を巻いていた。
 個々の強さに加えて、手慣れた連携技。一朝一夕で身につくような代物ではない。
「おっかないねぇ。敵に回したくないもんだ」
「敵に回るような事をしなければ大丈夫だよ」
 親分の背後を守るように、機導剣で敵の攻撃を受け払うのは獅子堂 灯(ka6710)。
 確実に進軍する詩天の軍で獅子堂は、親分を守るように行動を共にしていた。
「へへっ。こちとら侠客だぜ? 治安を守る即疾隊とは違ぇ。それでも敵に回らないってぇのか?」
「……侠客でも歪虚と手を組んだりはしないでしょう?」
 斬り掛かる化猫を力で突き押した獅子堂。
 バランスを崩した隙に、機導剣を化猫の顔面へ突き立てる。
「はは、そりゃそうだ。こいつらは俺達が守ってきた若峰に手を出したんだ。手を組む訳ねぇな」
 犬神の攻撃を避けると同時に、親分は小刀の強烈な一撃を叩き込む。
 その顔にはハンター達への信頼を寄せる顔があった。

 確実に周囲の敵を減らしながら頂上を目指す詩天側。
 単独でハンターを先行させた幕府側。
 お互いの存在を認識していないようだが、ハンターの方はしっかり相手の存在を認識している。
 囮役として頂上を目指す鞍馬。
 その手には一台のトランシーバーが――。
「こちら詩天。現在、頂上に向けて移動中」


「こちら幕府。直進部隊は既に頂上へ向けて移動中」
 鞍馬からの連絡を受信したは南條 真水(ka2377)だ。
 双方の移動状況を確認して連携する事で、誰も呪詛を破壊できないという状況を避ける為にトランシーバーで連絡を取り合っていた。
 決してどちらかを勝たせる為ではなく、ハンターとして依頼を完遂する為の連携であった。
「東の大将と階段を進むハンターはもう少し時間がかかりそう」
 トランシーバーに話し掛けながら、真水は眼前に迫る敵に対して光でできた三角形を生み出した。そこから生じた光が、次々と敵の体を貫いていく。
 直進チームを追うように敵も動いてはいるが、犬神や化猫はそこまで頭が働く方ではない。近くに階段チームが現れれば、直進チームを諦めて階段チームへと集まってくる。
「皆、諦めるな! 無理に敵を倒す必要は無い。道ができたなら、躊躇無く進むのだ」
 狭い階段、その上から忍び寄ろうとする化猫に対して愛用の薙刀で突き刺す香。
 今回の依頼は駆逐ではない。敵を倒す事に注力し過ぎれば、大きなタイムロスとなる。行動不能に追い込めば、そのまま放置しても問題はない。
「そうだ。足止めしている間に階段を駆け上がれ」
 ロニ・カルディス(ka0551)が階段の外にいる敵をジャッジメントで動きを封じる。
 光の杭は深く突き刺さり、すぐには階段へ詰め寄る事はできそうにない。
「前の者が相手をしている間に、後の者は前へ進め」
 ロニは楠木家の兵士へ指示を飛ばす。
 眼前に敵がおらずとものんびりしている暇は無い。意識を周囲に向けながら、ひたすらに山頂を目指さなければならない。
 だが、これだけ急かされれば兵士の中には追いつけない者もいる。
「ガウっ!」
 階段へ飛び降りるように姿を見せる犬神。
 最後尾にいた兵士に向けて槍を振り上げる。
「歪虚に誰も傷つけさせません」
 アニスは、犬神に向けて「天空神の手向け花」を発動。
 花が開くように広がっていく光の波動。光は敵を包み込み、犬神を蹂躙する。
 炸裂する衝撃が、一瞬にして犬神を屠る。
「あ、ありがとう……」
 救われた兵士。見れば、犬神の槍が脇腹を掠めたようだ。
「いけません、少しだけじっとして下さい」
 アニスは兵士へ駆け寄り、ヒーリングスフィアの柔らかい光が傷を包み込んで癒していく。
「大丈夫? 山頂へ登れそう?」
 強弓「アヨールタイ」を片手に姿を見せたのは、ミオレスカ(ka3496)。
 仲間の進軍に合わせて階段チームを援護射撃してきたが、兵士が傷付いたのを見て歩み寄ってきたようだ。
 心配してくれるミオレスカを前に、兵士は軽く笑みを浮かべる。
「心配、感謝する。もう大丈夫……」
 立ち上がろうとする兵士。
 しかし、今度は化猫が茂みの中から狙っていた。
 それに気付いたミオレスカ。
 慣れた手つきで素早くアヨールタイの弓を引く。
「奇襲のつもりですか? バレてますよ」
 アヨールタイから放たれた矢。
 レイターコールドショットにより冷気が込められている。
「にゃっ!!」
 突き刺さる矢、冷気を纏った攻撃が化猫の動きを縛り付ける。
 さらに、化猫の近くで一枚の符が舞い降りる。
「喝っ!」
 閏(ka5673)の一喝。
 次の瞬間、化猫の頭上から雷が降ってきた。
 雷は化猫の体を貫き、一瞬のうちに感電させる。
 口から煙を吐いて倒れ込む化猫。
「急ぎましょう。山頂を目指さなければなりません」
 閏は、兵士の方を軽く叩く。
 志は皆、同じ。
 すべてはこの詩天に巣くう魔を滅する事。
 その為には、この山頂に隠された呪詛を破壊しなければならない。
「今も憤怒本陣で奮戦している方々がいます。
 その方の為にも……決して、この作戦、無駄にはしません」
 力強く言葉を口にする閏。
 それはこの場にいた者達が全員抱いた思いでもあった。
 小さく頷く一堂。
 それを確かめてから閏は、再び階段を駆け上がる。
「参りましょう。そして、成し遂げましょう。たとえ、この命が枯れようとも……っ!」

 最初に山頂近くまで辿り着いたのは幕府側直進チームであった。
 かなりの急勾配で馬やバイクによる移動もできない為、徒歩による登山となっていた。
 しかも、歪虚が木々の間から奇襲を仕掛けてくる状況だった。
「もう、しつこいですのー」
 息を切らせながら、チョココはライトニングボルトで眼前の犬神を吹き飛ばす。
 麓から最短距離で移動するという事は、そのルート上にいる敵を直進チームがかき集める事になる。
 それ自体は後からやってくる階段チームの援護にもなる為、悪い事ばかりではない。
 だが、それにしても限度というものがある。
「皆さん、ご無事ですか? もう少し耐えて下さい」
 木陰から現れた化猫の攻撃を『鋼ノ腕』で受け止める米本。
 響き渡る金属音に戦く化猫。
 その隙を見定め一気に間合いを詰めた米本は、大きく振りかぶった鋼ノ腕の一撃で吹き飛ばす。
 化猫は、衝撃で地面を麓に向かって転がり落ちていく。
 そう、一体一体はそれ程強い訳ではない。
 だが、仙秋は弱さを数でカバーしようとしたようだ。おかげで四方から敵が直進チームへ襲い掛かって来る。
「前方2時の方向、木の上に化猫がいます!」
 持ち前の方向感覚を頼りに敵を索敵するはじめ。
 さらに直進チームの周りに御霊符を使って式神を配置。先行させて敵の奇襲に備えるばかりか、後衛を狙う敵を警戒する事も怠らない。
 この索敵のおかげで四方から現れる敵相手でも着実に山頂へ登る事ができる。
「敵を炙り出します」
 五色光符陣を木の上に向かって発動。
 結界と共に降り注ぐ光が、木の上にいた化猫を叩き落とす。
 敵の猛攻を掻い潜り、直進チームは着実に頂上へ向かって歩み続ける。
「おいっ! 見ろよ、もうすぐ頂上だ!」
 先頭を行くレイオスの声。
 その言葉にチョココも、米本も、はじめも励まされたかのような感覚を覚える。
 自然と足は、速くなる。
「うわーい! 一番乗りなのー」
 元気を取り戻したチョココ。
 一気に山頂まで駆け上がった。
「なんだよ、元気な奴……」
 山頂に到達したレイオスであったが、その視界に飛び込んできたのは多数の犬神や化猫の群れ。
 そして、山門を固めていた万象の姿であった。
 それも一匹じゃない。複数の万象が山頂を守っていた。
「なるほど。仙秋は最後まで手を抜かせないように配慮してくれた訳ですか」
 軽いため息をついた米本。
 肩を回した後、チームの前方に歩み寄って鋼ノ腕を構える。
「回復が必要なら言って下さい。式神で敵を押さえるうちに回復しますから」
 はじめは、さらに御霊符を使って式神を増やす。
 ここまで来れば、退く選択肢はない。
 踏ん張れば必ず仲間が階段から上がってくる。
 それまで耐えきればいいだけだ。
「ところで、呪詛ってどこにあるのかな?」
「あ? そりゃ決まってるだろ。あの建物だろ」
 チョココの問いに、レイオスは顎で建物を指し示す。
 そこは山頂でも一際大きな建物で、2体の万象が守るように立っている。
 まるでここに『大事な宝があります』と言わんばかりだ。
「さぁ、やるか!
 犬に猫に象……まとめてかかってこいよ」


 着実に階段を駆け上がる詩天の親分達。
 その先陣をハンター達は荒々しく切り拓く。
「これ以上の悲しみは、もう結構。次は皆の笑顔がみたいのです。
 その為に……ここは押し通ります!」
 西側の階段を駆け上がる鳳城 錬介(ka6053)は、聖盾「コギト」を片手に前方へ突撃。
 階段の前方で刀を手に立ちはだかる犬神と化猫を相手に無理矢理押し通ろうとする。
 この戦いが、三条仙秋を巡る戦いにおいて最後の戦い。
 予想はしていたが、大輪寺もかなりの数の歪虚が守りを固めていた。 
 だとしても、錬介はやらなければならなかった。
 今も仙秋との決着を付けるべく戦い続ける仲間達の為に。
「退いて下さい!」
 身を挺して錬介の行く手を塞ごうとする敵。
 それに対して錬介はセイクリッドフラッシュで周囲の敵を吹き飛ばす。
 地面へ転がる化猫。
 その化猫の顔面に対して斬竜斧「マサークル」が振り下ろされる。
 砕ける頭蓋骨の音と共に、斧に伝わる独特の感触。
「まずは一匹」
 闘心昂揚を発動した久瀬 ひふみ(ka6573)。
 戦闘意欲を向上させたまま、起き上がった犬神に向かって走り寄る。
 強烈なスピードと迫力に負けて犬神は動けない。
「私は、有象無象を叩き潰すだけだよ……さぁ、潰れろよ」
 龍喰らう黒狼により祖霊の力がマサークルへと伝わる。
 大きく振りかぶるひふみ。
 マサークルの刃が、確実に犬神の体を捉え――深々と突き刺さる。
 脇腹に刺さったマサークルに滴る犬神の体液。
 犬神は体を震わせた後、力が抜けたように地面へ倒れ込んだ。
「さて、とことんやるよ」
 斬竜斧「マサークル」を引き抜くと、ひふみは階段を上り次なる獲物を探し求めた。
「詩天での戦いもいよいよ大詰めですね。三条仙秋討伐へ向かった皆さん。もう少しです、もう少しで呪詛を破壊できます。それまで、もう少し耐えて下さい」
 仲間が作った道をひたすら駆け上がるリオン。
 憤怒本陣の状況は大輪寺にいるリオンには分からない。だが、相手はあの初代詩天の三条仙秋。おそらく強力な術で強化されていると考えるべきだ。
 苦戦している――それがリオンの予想であった。
 だからこそ、少しでも早く頂上へ向かわなければならない。
「邪魔をしないで下さい。急がなければならないのです」
 前方にいる犬神に向けてブリザードを放つ。
 動きが止まる犬神の横を、錬介が駆け抜けていく。
(仙秋討伐への道筋、必ず私達が拓いてみせます)
 リオンは心の中で、離れた場所で戦う仲間の身を案じていた。


「随分と先に行ったようだな、直進したチームは」
 アウレールは山頂に視線を送る。
 あと少しすれば頂上だが、直進したチームの姿は未だ見えない。
 この調子であれば既に頂上へ到達していると考えるべきだ。
「五式の神よ、邪悪なる存在を打ち砕いてください……っ!」
 眼前に集まる犬神の集団を閏の五色光符陣が捉える。
 降り注ぐ光が犬神の目を次々と塞いでいく。
 その隙を逃さずロニが楠木家の兵士に指示を出す。
「今だ! いくぞっ!」
 兵士と共にロニは戦槍「ボロフグイ」を片手に突撃。
 視界を失った犬神を次々と仕留めていく。
「……よし。だが、まだ終わりじゃない。諦めずに走り続けるのだ」
 兵士を率いてロニは、階段の敵を蹴散らしていく。
 既に多くの敵を葬ってきたが、大輪寺にこれ程の敵が潜んでいるとは思っていなかった。
 そう考えた瞬間、ロニの脳裏に嫌な予感が思い浮かぶ。
「階段にこれだけの敵がいるという事は、頂上は……!?」
「そうか。山門にいた万象は体が大きくて階段では自由が利かない。もし、配置するとすれば山頂になる」
 ロニの言葉にアウレールが続く。
 今まで階段付近には犬神や化猫しかいなかった。
 それもそのはず、巨体の万象ではこの階段で戦うには無理がある。ちょっと押されれば麓まで真っ逆さまだ。
「直進された方々は、山頂で敵と交戦しているはずです。
 もし、敵が守備を固めているとするなら……楠木さん」
 閏は、香に振り返る。
 既に到達した直進チームを待っているのが敵の大部隊だとすれば、四人で敵を相手にしなければならない。犬神や化猫の強さからすれば負ける事はないだろうが、苦戦は必至だ。
「うむ、急がねばならん。皆、辛いかもしれんが、もう少し耐えてくれ」
 香は頷くと兵士達を励まし続けた。
 山頂まであと少し。だが、このあと少しがどうにも長く感じてしまう。
「仙秋……最後まで足掻くか」
 アウレールは、憤怒本陣にいる元凶を思い浮かべていた。


「数が多すぎますね」
 はじめは、やや苦々しげな顔を浮かべる。
 直進チームの力量は決して低くはない。
 それでも本殿へ向かう行く手を阻まれる理由は、あまりにも多い敵の数によるものだった。
「いやーん! あっちいってー」
 チョココのファイヤーボールが眼前の化猫を吹き飛ばす。
 しかし、吹き飛ばされた亡骸を踏み越えて背後にいた敵が詰め寄ってくる。
 あと少し。本数数十メートル先には、目的の呪詛がある。
 なのに、そのあと少しまで力が足りない。
「くっ、時間がかかり過ぎるか」
 米本は香達が上がってくると思われる階段に視線を送るが、未だ到着の気配がない。
 鋼ノ腕を振るい続け、回復も行っている。
 決して負ける相手ではないのだが、時間がかかればその分憤怒本陣のハンター達が窮地に陥る事になる。
「援軍は、まだですか」
「いますよ?」
 米本は、声のした方向に振り返る。
 その方向は、香達が上がってくる予定の階段じゃない。
 記憶では西側――詩天の親分達が上がってくる階段だ。
 米本の視界に飛び込んできたのは、親分と一緒に階段を上がっていたナナの姿であった。
「これはお返しです?」
 敵の集団に形成される五色光符陣の結界。
 階段を上がってくるまでしっかりリロードされた符は、山頂中を覆い尽くすかの勢いで光が降り注ぎ続ける。
「うわー、いっぱいですねぇ。階段も驚きでしたが、ここの敵の数にも驚きですね」
 水月は、万象にターゲットを見据えると一気に接近。
 万象のハンマーが振り下ろそうとするが、パワータイプだけあってハンマーの軌道は読みやすい。
 ハンマーの位置を予測して脇をすり抜けた水月。
 至近距離からフラクタリングの一撃をお見舞いする。
 手に伝わる衝撃。
 激しい感覚が水月の手を通して流れ込む。
 それは万象の体へ何倍にもなってもたらされる。
「ブワォォォォ!」
 雄叫びを上げる万象。
 硬い表皮に守られているはずであったが、強力な一撃を前に耐えきる事はできなかったようだ。
「おや、これで終わりではないですよね? もう少し付き合っていただきますよ」
 一方、犬神や化猫への対処も怠ってはいない。
 奏音が山門にいた万象へ行っていたように五色光符陣を炸裂させる。
「ここまで来たら、邪魔者を排除するだけです」
 光に包まれる犬神や化猫。
 目を眩ませて動きを封じられる。
 さらにこの隙をついて御霊符による式神で適確に敵を葬っていく。
「式神の一部を皆さんの守りに回します。今のうちに回復を」
 奏音は直進チームの付近にも式神を配置する。
 これだけの軍勢を相手に四人で耐えきっていたのだ。少しでも休む時間を作らなければならないだろう。
「皆さん、大丈夫ですか。回復します」
 レイオスの傷を悠里が癒す。
 戦い続けてできた傷が、ヒールによって塞がっていくのが分かる。
 レイオスは素直に感謝の言葉を述べる。
「悪いな」
「いえ、僕にできる事はこれぐらいなので……」
「謙遜する事はねぇ。後方支援も大事な役目だ」
 レイオスの言葉に、悠里は素直に頷いた。
 その間にも、確実に敵はその数を減らしていく。
「よいしょっと!」
 千秋は竜巻返しで、犬神の体を投げて倒す。
 地面に頭から叩き付けられた犬神は、地面へ倒れて身動きを取れない様子だ。
 その様子に米本が言葉を発する。
「見事だな」
「いえいえー。それより回復してあげましょうか? お疲れでしょう」
 直進チームの回復を担っていた者の一人である米本へ、千秋がメイドらしくサービスを提案する。
 チャクラヒールで傷を癒そうというのだ。
 だが、米本はその行為を敢えて拒否する。
「今は良い。それより呪詛の破壊を」
 米本は、呪詛の破壊に拘った。
 目的は敵の駆除じゃない。呪詛の破壊だ。
 回復する暇があるなら呪詛の破壊を優先したい。
 その考えが、米本を突き動かす。
 体を引き起こす米本。
 だが、それを止めたのは詩天の親分だった。
「あー、それなんだがな。もう手は打ってあるみてぇだ」


 本殿近くでハンター達が交戦してくれたおかげで、敵の目は完全にそちらへ向いている。
 ランアウトと瞬脚、壁歩きを使って本殿へ忍び込む事は容易だった。
 外の大騒ぎからすれば、多少の音を立てても気付かれる事はないだろう。
 最初は発見されるかと危惧していたが、その心配もなかった。
「本殿の中に敵はなし、でござるか」
 黒戌は敵の存在を天井に潜んで確認。
 静かに床へと降り立った。
 本殿は廃寺だけあって家屋は穴だらけ。仏像も何かに当たったのか半分が壊されていた。
 その中で異彩を放つ宝玉が、一つ。
「これか……」
 黒戌には一目で分かった。
 異様な雰囲気を放つ、丸い宝玉。
 負のマテリアルに似た禍々しさが感じ取れる。
 ――呪詛。
 だとすれば、黒戌がすべき事は一つ。
「南無三っ!」
 鉄拳「紫微星」が呪詛を捉える。
 次の瞬間、呪詛は派手に砕け散り、元の水晶へと還っていく。

 呪詛の破壊。
 ハンター達が任務を成し遂げた瞬間であった。


「どうやら、詩天にも良い侍がいたようだ」
 遅れて到着した香は、詩天の侠客達と共に大輪寺の歪虚討伐へ移行。
 周辺の歪虚を粗方片付けた後、香は改めて親分へ声をかけた。
「侍? 俺ぁは単なる無法者だ。ただ、古い友との約束を守りたかっただけだ」
 謙遜する親分。
 だが、その行為が憤怒本陣で戦う九代目詩天への支援となる事は間違いない。
「それにしても見事だ。これで形の上では、詩天が地力で呪詛の破壊した事になるか」
 アウレールは、状況を思い直してみた。
 呪詛の破壊を詩天側が行ったという事は、幕府方の助力を受けなかった事になる。
 大輪寺周辺の敵掃討という意味では重要だろうが、功績としては詩天側に残る。この状況であれば幕府が詩天へ過剰な口出しもしにくくなるだろう。
「そうなるな。私にとっては、詩天の民が守られるならそれで構わない」
「おや、お帰りかい?」
 踵を返す香。
 その背後から親分が声をかける。
「殿が後詰めで敵と交戦されていると聞く。ならば、行かぬ訳にもいくまい」
 香は、エトファリカ征夷大将軍立花院 紫草 (kz0126) の身を案じていた。
 情報によれば長江へ侵入を試みた憤怒残党が西進するのを押さえ込んでいるらしい。
 今から行って間に合うかは不明だが、紫草への忠義がそうさせるのだろう。
「これで憤怒王が倒れれば、詩天の地も救われるのですね」
 アニスは戦いの終結に感謝を述べる。
 だが、完全なる終結は憤怒本陣の決着がついてからだ。
 大輪寺にいるハンターは、呪詛の破壊が間に合った事を祈る他なかった。
「親分さん、古い友との約束……果たせましたか?」
 閏が親分へ声をかける。
 聞けば、古い友との約束の為にこの地を訪れたらしい。
 その友との関係は閏も知らない。だが、歪虚が巣くうこの地で戦う事を選んだのだ。余程守らなければならない約束だった事は、閏も理解できる。
 閏の問いに対して、親分は少しだけ間を置いた。
「……ああ。これでようやくあいつに顔向けできる。まあ、もう詩天にはいねぇんだけどよ」
「…………」
 寂しそうな笑顔。
 だが、その笑顔の中に潜んだ満足感。
 閏もその笑顔を見て何故か嬉しくなってしまう。
 親分はそんな笑顔のまま、水筒から注いだ水を杯に流し込んだ。
「本物は俺があの世へ行くまでお預けだ……詩天の、あの子の未来に」
 親分は、杯を空に向かって掲げた。
 空は何処までも澄み切っていた。

担当:近藤豊
監修:神宮寺飛鳥
文責:フロンティアワークス

リプレイ拍手

近藤豊 1
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

ページトップへ