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【幻痛】幕開?ベアーレヤクト決戦?「青木燕太郎撃破」リプレイ


▼【幻痛】グランドシナリオ「幕開?ベアーレヤクト決戦?」(9/20?10/10)▼
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作戦3:「青木燕太郎撃破」リプレイ
- ユウ(ka6891)
- エリ・ヲーヴェン(ka6159)
- エファ(ka6071)
- 八島 陽(ka1442)
- 十 音子(ka0537)
- フラメディア・イリジア(ka2604)
- リューリ・ハルマ(ka0502)
- アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)
- 岩井崎 メル(ka0520)
- アルスレーテ・フュラー(ka6148)
- トリプルJ(ka6653)
- マリィア・バルデス(ka5848)
- 蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)
- バタルトゥ・オイマト (kz0023)
- エステル・ソル(ka3983)
- イスフェリア(ka2088)
- アルバ・ソル(ka4189)
- フワ ハヤテ(ka0004)
- 青木 燕太郎 (kz0166)
- 鵤(ka3319)
- 観那(ka4583)
- ケイ(ka4032)
- エステル(ka5826)
- セレス・フュラー(ka6276)
- シガレット=ウナギパイ(ka2884)
- ジェールトヴァ(ka3098)
- シレークス(ka0752)
- サクラ・エルフリード(ka2598)
――かの者は予言する。
1人の騎士の存在を。
己の願望を強く抱く故に、終末を導く引き金を引く。
偽りの王を導く天使達。
彼らがラッパを吹き鳴らし、騎士の願望が達せられた時――終末の獣は姿を現す。
そして偽りの王は消え……真なる王が目覚めるだろう。
「……随分暗い森ですね。昼間だというのに夜みたいです」
「暗いわ足場は悪いわ、こんな場所を戦場に選ぶなんて青木ってやつは良い趣味してるわね」
「今回の場合、進行ルート上にたまたまこの森があっただけなんじゃないですかね……」
鬱蒼とした森を見渡し、呟くユウ(ka6891)。エリ・ヲーヴェン(ka6159)の嫌味に、エファ(ka6071)が苦笑する。
難しい顔をしている八島 陽(ka1442)に、十 音子(ka0537)が首を傾げた。
「陽さん、どうかされましたか?」
「いや、『終末の獣』はビックマーを吸収した青木のことなんじゃないかと思ってな」
「……ブラッドリーとやらの予言じゃったか? 何にせよ、あやつにこれ以上力をつけさせる訳にはいかぬの」
「そうだね。もしビックマーを吸収したら、燕太郎さん、ヒトの姿を捨ててしまう気がするし」
淡々と言うフラメディア・イリジア(ka2604)に頷くリューリ・ハルマ(ka0502)。
青木はずっと、自分が『ヒト』であったことを否定し、その部分を捨てたがっていた。
だから――力を入れたら。その度に、ヒトである部分を捨てていくのではないか。
そしてビックマーという膨大な力を手にしたら、今度こそヒトとしての姿を手放す気がして……。
「……止めよう。セトさんもそれを望んでるはずだ」
眉根を寄せるリューリの背をそっと撫でるアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。岩井崎 メル(ka0520)は2人をじっと見る。
「私も青木について知らない訳じゃないけど……リューリ君達はどうしてそんなに青木を気にするの?」
「んー。セトさんとの約束もあるし……何か放っておけないんだよね」
遠い目をするリューリ。
――かつて、彼女とアルト、メルは神霊樹の記録を見る依頼で、リアルブルーから転移に巻き込まれた小隊を見た。
寒さの中弱って行く者、極限の状態で狂気に囚われる者……。
そんな中で、エンタロウという男と、その親友は最期まで助け合い生きようとしていた。
……エンタロウが歪虚と契約したのも、極限の状態で必要に迫られたからだったに違いない。
だからと言って、今までしてきたことが許される訳ではないけれど。
最期のその時まで親友を案じ、想いを託したあの人に応えたいと思うから――。
「リューリったら時々夢中になりすぎて我が身を顧みないし、アルトも苦労するわよねー」
「まあ、放っておけないってのは分かる気がするわな」
「そうね……。私達にとっては他人事じゃないしね」
苦笑するアルスレーテ・フュラー(ka6148)。トリプルJ(ka6653)の呟きに、マリィア・バルデス(ka5848)も頷く。
彼らも元軍人で、リアルブルーから転移してきた経緯を持つ。
エンタロウの境遇は、偶然や運命という者もいるかもしれない。
だが、同じ立場であったからこそ……その一言で片づけられる程割り切れはしない。
煙管を燻らせていた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は、ふと空を見上げる。
――森の向こうから、武器がぶつかり合う音と、叫びが聞こえて来る。
仲間達とビックマーとの交戦が始まったのだろう。
「……さて、そろそろあれが来よる頃合いじゃ。バタルトゥ、準備は良いかえ?」
「ああ……」
蜜鈴の確認に頷くバタルトゥ・オイマト(kz0023)。そこにトコトコとエステル・ソル(ka3983)が歩み寄る。
「バタルトゥさん、指切りするです。自分を大事にするって約束です」
「……すまんが、その約束はできない」
「どうしてです?」
「……俺の身も、人生も、俺のものではない……。……辺境の地に殉する為にある。……オイマト族の者が歪虚と通じ……ベスタハの決戦で父が死んだ時から、そう決めている」
「……!」
「バタルトゥさん……」
目を見開くエステルとイスフェリア(ka2088)。
2人は、これまでに幾度となく彼に望みを聞いたが、バタルトゥ自身の望みではなく、辺境部族全体の望みを口にすることが多かった。
それは無自覚なのかと思っていたけれど――彼は『分かっていて』、その望みを口にしていたのだとしたら……。
そんなのはダメだと言うのは簡単だ。実際、ダメだと思う。
けれど、ここに至るまでの彼の苦悩を考えたら、簡単に否定していいものではない気がして……。
上手く言葉に出来なくて、涙目になるエステル。蜜鈴が扇でぺしっとバタルトゥの頭を叩く。
「まったくおんしは……心配しよる女子に対して何たる仕打ちじゃ。もうちょっと言い方というものがあろう? そもそも、部族会議の大首長たるものがそう易々と命を捨ててくれるな。いい迷惑じゃろうが。生き残る道を考えぬか!」
「うええ。蜜鈴さんーーー!」
「おお、よしよし。女子の心を理解せぬ朴念仁は成敗してやったゆえ、泣くでないぞエステルや」
ひしと抱き着いて来るエステルの頭を撫でる蜜鈴。アルバ・ソル(ka4189)は申し訳なさそうな顔をして頭を下げる。
「蜜鈴さん、妹がすみません。……エステル。その話は後にしよう。今は目の前のことに集中しなくてはな」
「うん。辺境を守る為に頑張ろう。バタルトゥさん、わたし達にもこの地を守らせて?」
一瞬困った顔をしたものの、すぐに笑顔を作るイスフェリア。それに、バタルトゥが頷く。
「……ああ、宜しく頼む。俺1人では成し得ない。皆の力を貸してくれ……」
青木を捕捉する為、動き出したハンター達。
森の中を動く影を見つけたフワ ハヤテ(ka0004)は、トランシーバーを手に叫んだ。
「こちら小隊【実験】! 青木を見つけた……って、ちょっと待ってよ! あいつあんなに速いなんて聞いてないよ……?!」
「まだディヴァインウィル使ってねえのに避けて通るなっつの! 観那、ガウスジェイル届くか!?」
「ごめんなさい。距離があって届きそうにないです……!」
「……バリスタなら届きそうね。とにかく狙撃するわ!」
鵤(ka3319)の確認に首を振る観那(ka4583)。ケイ(ka4032)は大きなボウガンを構えると矢を放つが――青木には当たらず、聳え立つ木々に刺さる。
鬱蒼と茂る樹の間を滑るようにして疾走する青木を見つけたエステル(ka5826)。その距離は決して近くはなかったが、仲間につなぐ為に通信機を取る。
「アルトお姉さま! 青木燕太郎様を見つけました! 場所は……」
「ちょっと待って。あいつ、こっちを避けてるみたいだよ」
「えっ……?」
「避けられたら足止め出来ないじゃない……!」
スターゲイザーで青木の動きを探るセレス・フュラー(ka6276)の言葉に絶句する銀髪のエステル。
――先程通信があった鵤も青木が『避けて通る』と言っていた。
セレスの様子からも、青木はこちらの場所を捕捉出来ているのかもしれない……!
『エステル、どうした?』
「アルトお姉さま、皆さん、気を付けて下さい。青木はこちらの位置が分かっている様子です……!」
――銀髪のエステルの通信の通り、青木はどういう訳かハンター達を避けて疾走を続けていた。
「どういうことかしら? あいつ、探索系の能力なんて持っていた?」
「いや、聞いたことねえな。報告書にもなかった。新たに何か吸収したっていう可能性はなくもないけどよ……」
「ここまで来て誰も戦端を開いてないっていうのはマズいわね……」
「さりとて、この悪路じゃ思うようにも進めねえ……。クソッ」
マリィアの呟きにバイクのハンドルを殴るトリプルJ。
のらりくらりと逃げ回る青木を追いかけるという状況が続いている。
「青木も青木で一生一代の勝負だから諦めが悪いのは仕方ないにしても……。そろそろ何か仕掛けたいとこだなァ。こう避けられちゃ話も出来やしねェ」
「青木さんは何故こちらの場所が分かるんでしょうね……」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)のぼやきに首を傾げるユウ。その動きに合わせて、ランタンの明かりが揺れて……フラメディアはハッとして周囲を見る。
――木々の隙間から見える光。こうしてみているだけで、明かりを持っている者の場所がある程度分かることに気付く。
「……! そうか……! 明かりじゃ! 皆、照明を落とせ!! 青木は明かりを目印にしておるぞえ!!」
フラメディアの叫び。
彼女の見立ては正しかったが、残念ながら気づくのが遅すぎた。
ハンター達は様々な計画を立てて臨んだが……それらの殆どが頓挫していた。
まず、光が届かぬ程の深い森の中で、バイクや馬でも思うようなスピードが出なかったことが一つの原因に挙げられる。
更にいくつかのグループに分けて目標の探索に当たることとなったが、ユニットの持ち込みが出来ない戦域であったにも関わらずユニットを持ってきた者がいた為、出発が遅れるグループもあった。
初動の展開速度が思ったほど出なかった為、網を張るのが遅くなってしまった。
更にもう1つ言うと、青木は移動のみに注力すれば莫大な移動力を誇るということを考慮している者が少なかったことだ。
木々に阻まれ減速はするが、それでも相当のスピードが出る。
青木を捕捉する為にはそもそも追いついて、足止めをすることが前提となるが、見つけることが出来ても、場所が離れていれば高速で移動している目標に追いつくのは困難になる。
そして、もう1つの誤算は――明かりを使うことで、青木にハンター達の位置を知らせる結果になってしまったことだ。
明かりがあるところは避け、あとは追いすがるハンターを無視してひたすらビックマーに向かって走ればいい。
『誰かが青木を足止めしていることが前提』の計画は、その『誰か』がいなければ成し得ない。
足止めが叶わなかった場合は総崩れになるのだ。
――ハンター達は見事に黒い歪虚の策に嵌ってしまっていた。
ハンター達にとってはもう1つ、予想外だったことがある。
ハンター達が青木を見つける度、会話を試みて声をかけるが、今回は一切応じなかったのだ。
「青木さん、どうして今回は会話に応じないんでしょうね……」
「……会話に応じる必要がないからじゃないかな」
エファの呟きに、ため息を漏らすジェールトヴァ(ka3098)。
今まで会話に応じていたのは、『ビックマーに仕事をしていると示す必要があったから』。もしくは『興が乗った』からだ。
今回のような目的――特に先を急いでいる場合、ハンター達との会話は青木にとって不要。
わざわざ応じる必要性はないのだ。
「残念ながら、今回は会話で足止めが出来るとは思わないほうが良さそうだね」
「……あちらの思うツボで、何だか悔しいですね」
静かなジェールトヴァの声に唇を噛むエファ。エリがハハッと明るく笑う。
「まあまあ。諦めるのは早いわよ! あいつ、怠惰王の戦場に向かってるのは間違いないみたいじゃない? ハハッ! だったらそっちに行ってみましょうか?」
「ふむ。そうじゃな。先回りしておくのは良さそうじゃ」
頷く蜜鈴。エリの後を追うように走り出す。
――そんな中、明かりを持たず。森に潜伏し、好機を待っている者達もいた。
「……青木さんを捕捉しました。位置情報をお知らせします」
「……!?」
トランシーバーに向けて淡々と告げる音子。彼女が乗っているソリも、マントも迷彩色で、森に溶け込むような色合いになっている。
青木は目を見開くと、すぐにニヤリと口角を上げた。
「ほう? 頭の働くハンターもいるんだな」
「あまりナメて貰っちゃ困るな。ちょっと遊んで行けよ、青木……!」
不意に真横から現れた陽。剣を掲げて、マテリアルの光で仲間達を鼓舞する。
彼はフラメディア達と行動を共にしていたが、光源をハンター達の目印にしていると気づいた彼女と相談し、単独で身を潜める作戦に転向していた。
「フラメディア! シガレット! ユウ! こっちだ!」
『今行くぞえ! 足止めを頼む!』
『へいへい! ようやく引っ掛かったか』
『陽さん、くれぐれも無理しないでくださいね』
通信機から聞こえて来る声。
その間も続く音子の射撃。青木はそれを跳躍で避ける。
彼は大きく槍を振りかぶると、一気に振り下ろして……!
「させるか……!」
咄嗟に衝撃波を出して来ると判断した陽。構えた盾を中心に光の障壁を発生させる。
ぶつかり合う衝撃波と光の障壁。
障壁は確かに衝撃波の一部を吸収したが、沸き起こる暴風までは防ぎきれず――陽は近くの樹に叩き付けられる。
「ぐあっ」
「その程度の障壁で防げると思ったか? 残念だったな」
「……あんたは『終末の獣』になりたいのか?」
「何の話だ」
「ビックマーを吸収して何になるって言うんだよ……!」
「……教えてやる義理はないな。消えろ」
陽を見下ろす青木。銃撃を続ける音子を一瞥すると、槍で薙ぎ払い……衝撃波で纏めて2人を吹き飛ばす。
そこに不意に現れる風。今までじっと暗闇で潜伏していたシレークス(ka0752)は一気に踏込で距離を詰めると、大きなスコップで殴りかかる。
「毎度火事場泥棒してるんじゃねぇですよ、このクソヤロウ」
「……およそ聖職者とは思えん台詞だな」
「うるせーです。エクラ教修道女を舐めんじゃねぇですっ!」
一撃を避けられて、再び青木に迫るシレークス。サクラ・エルフリード(ka2598)は目を丸くして声をあげる。
「えっ。ちょっと待ってくださいよシレークスさん!? 何でこの期に及んでスコップなんです……!?」
「女は黙って魔導円匙ですよ! 細かいこと気にするんじゃねぇです!」
「細かいことって……!」
「とにかくやることは一つですよっ! 殴りやがれ!!」
大振りでスコップを振り上げるシレークス。サクラはあぁ……と天を仰ぐ。
シレークスらしいと言えばそうなのだが、これでは……。
あとはもう防御力を上げて、極力足止めしてくれるよう祈るしかない。
だが、そんなサクラの願いを嘲笑うかのように青木は容赦なくシレークスを薙ぎ払い、そしてサクラ自身にも槍を振るい……血の海に沈む彼女。赤く染まる身体を支えて、青木を睨む。
……サクラも何度か青木を見ているが、ここまで『効率的に動いている』のを初めて見た。
――余程、先を急いでいるのだろう。
再び走り出した青木。そこに、シガレットとフラメディア、ユウが駆け付けて来た。
「くそっ。また逃げられたか……!」
「やはり少数では分が悪いのう……」
「大変です! 皆さん大怪我されてますよ……!」
「私達は大丈夫です……。早く、向かってください」
「青木を止めてくれ。あいつを『終末の獣』にしたらダメだ……」
「……分かった。ここで待っておれ。後で必ず戻るゆえ」
地に伏した音子と陽に頷き返すフラメディア。そのまま、彼女たちは青木の背を追う。
必死に走って青木を追っていたリューリ。
一旦足を止めると、親友に向き直る。
「リューリちゃん、どうした?」
「アルトちゃん、お願い! 先に行って燕太郎さんを止めて!」
「しかし……」
「青木のスピードは結構速い。皆の移動力と地形を考慮に入れると……多分アルト君が踏鳴を使って追いつけるかどうかってとこだと思う」
地形や仲間達の移動力を元に算出するメル。アルスレーテも呼吸を整えると、アルトを見る。
「大丈夫よ。私達も後から行くわ。アルトなら数分くらいあいつ足止め出来るでしょ?」
「簡単に言ってくれるね。分かった。先に行って待ってる」
そういい、走り出すアルト。マテリアルを足に込めると、爆発的な速度で青木に迫る。
「……待て、エンタロウ!」
「……誰かと思えば茨の王か。待てと言われて待つヤツがいると思うか?」
「そう固いこと言うなよ。それにしても私を名前で呼ばないのはあの兄弟に似ているな。レギ君は天使とか言うし……セトさんもそういうやつだったのか?」
「…………」
「どうした。今日は知らんとか興味ないとか言わないんだな」
「悪いが、貴様の相手をしている暇はない」
一向に走るスピードを緩める気配のない青木。負けじと追いすがるアルト。
引き離されることはないが、追いつくこともなく――まもなくして、前方から、光が差し込んでいるのが見えた。
「……まずい。森を抜けるぞ! 合図を……!」
立ち止まり、マテリアル花火を打ち上げる為に立体攻撃で樹に駆け上がったアルト。
そうしている間にも、青木は凄まじい速度でビックマーの戦線に迫っていた。
「ああっ。ちょっと避けて行くんじゃないわよ! わたしと戦いなさいよー!」
森を抜けた先。ビックマーがいる方角で待ち伏せていたエリ。
避けて駆けていった青木に怒りを露わにした彼女を、蜜鈴が宥める。
「エリ、良い。このまま追い込め。あちらにはアルバ達がおる」
「やれやれ。走るのは得意じゃないんだがね」
「ジェールトヴァさん、無理しないでくださいね」
「追い込みなら任せろ!」
「行くわよ!!」
肩を竦めるジェールトヴァを気遣うエファ。
森を抜けて、バイクの本領発揮とばかりにトリプルJとマリィアがエンジン全開で追いかける。
ハンター達は後れを取った分を必死に取り戻そうとしたが、結局叶わず――ビックマーの対応に当たっていた部隊が、アルトの打ち上げた花火の意味を理解する頃には、黒い影は追うハンターを振り切り怠惰王の元へと到達した。
地に伏したビックマーを見て、青木はニヤリと笑う。
「……お前がここまでやられるとは。いい具合だな、ビックマー」
「青木、貴様ァ……!」
「ここまで早く弱らせてくれるとは思っていなかった。ハンターには感謝せねばならんな。……お前の力、貰い受けるぞ」
青木を睨み付けるビックマー。
そこに飛来する制圧射撃。青木は着弾よりも早く踏み込む。
「――遅い!」
着弾よりも早く踏み出した青木。
ハンター達が振り返ると青木はブラッドリーの傍らへと降り立っていた。
背を守るように立った青木はブラッドリーへ声をかける。
「貴様。力を貸すと言ったな? 応じよう。……さっさと寄越せ」
「神の御名において騎士へ力を貸しましょう。すべては終末の……フロンティアへ誘われる為に」
ブラッドリーの本が風で靡くように勝手にページがめくられていく。
そして本から放たれた光が、青木に力を与える。
「……成程。これはなかなか良いな。感謝する。……これで、俺は――!!」
青木の咆哮。
それは衝撃破となって周囲のハンターへ襲いかかる。
そこに、イスフェリアの詠唱が聞こえて来た。
「精霊よ、お願い! エステルさんに加護を……!」
「ダメです! させません……!」
オーラ状の障壁に包まれる青い髪のエステル。一歩踏み込みんで……続く詠唱。
カウンターマジックを唱えた少女を、青木は一瞥する。
「……残念だったな、小娘。狙いは悪くなかったがこれは魔法由来じゃない」
その目線をまっすぐに受け止める青い髪のエステル。
憶することなく、黒い歪虚を見据える。
「青木さん。ずっと聞きたいと思っていました。……何を探しているのですか? それは強くなれば見つかるものですか?」
「――探し物は見つけた。約束を果たす為に、俺はもっと強くなる必要がある」
「……約束? 約束って何です?」
「力を求めるのは自分の為か? 誰かの為に誓ったのではないか、燕太郎!」
「………」
アルバの問いに無言を返す青木。それに微かな違和感を感じる。
――今までと反応が違う。
もしかして、この男。記憶が戻りつつあるのでは……?
「……アルバ、エステル。これ以上は危険だ。下がれ……!」
「了解した」
「え。う……?」
バタルトゥの言葉に素直に従うアルバ。青い髪のエステルは族長に引き寄せられて、強制的に後退させられ……想い人と予想外のところで密着する結果となって固まる。
「……懸命な判断だな、大首長。巻き込まれて殺されたくなければ下がっていろ」
「燕太郎さん! もうやめて! これ以上吸収したら戻れなくなっちゃう……!」
「戻る? 何にだ」
「セトさんが悲しむよ……! お願いだから引いて!」
全力で駆けて来た為、息が苦しいのも忘れて言い募るリューリ。
聞き覚えのある単語に、青木は目を閉じる。
脳裏に蘇る鮮やかな銀髪。
――ああ、■■。
……忘れるようにしていた。思い出したくなかった。
あいつが何を言おうと、何を願おうと……今更戻れはしない。
もう、進むしかない……!
無情にも青木の手から精製された1本の黒い槍は、青木の手から放たれる。
光線のように一直線に放たれた一撃が、ビックマーの顔面に刺さったのがハンター達の目にも映った。
「さあ、その力を明け渡せ、ビックマー……!」
「うぐ……うぐあああああ! オーロラ……! オーロラアアアアア!!」
響くビックマーの断末魔。消えかかっているビックマーの首を抑えつける青木。
怠惰王は、最期まで傍らにいた少女を案じて……そしてその力を奪われ、塵となって消えて行った。
結果的にビックマーは消滅した。
辺境を襲った怠惰の軍勢はビックマー消滅を受けて撤退していった。
だが、部族会議の面々には本当の勝利ではないと分かっていた。
「……すまないね。こんなことになってしまって。見積もりが甘かったようだ」
「……いや、仕方あるまい。お前達のせいではない。あれの手の内を全て読むにはそもそも情報が少なかった。足りない情報の中で、お前達は良くやってくれた」
「そう言ってもらえるとちょっと気が楽だけど……反省は必要ね」
心苦しげに言うジェールトヴァを気遣うバタルトゥ。アルスレーテもまた、ため息を漏らす。
青木がビックマーの力を吸収した以上、辺境の地の強大な敵となって立ちはだかるだろう。
――知恵があり、無理をしないという性質がある以上、ビックマーより厄介な相手になりかねない懸念もある。
そして、『終末の獣』と化した青木を、ブラッドリーは崇め奉り、協力を惜しまないだろう。
「……青木の奴、ビックマーの力を得て、能力が増えておるはずじゃ。また調べ直さないといかんな」
「そうだね。コケにさせられた分はきっちり返してやりたいよね」
フラメディアの呟きに頷くハヤテ。リューリは涙目で親友を見つめる。
「アルトちゃん、どうしよう。セトさんに、燕太郎さんを『ヒトでいられるうちに止めてやってくれ』って頼まれてたのに……」
「リューリちゃん、まだ終わってないよ。そういう意味では、あいつはもうとっくにヒトを辞めてる。これからでも……あいつを止めよう」
「……青木は、何かを思い出している様子があった。もしかしたら、セトのことも……」
「……そうだな。そこに勝機はあるかもしれない」
アルバの呟きに頷くアルト。
彼女はリューリの髪を撫でながら、セトの手帳とドッグタグを握り締めた。
1人の騎士の存在を。
己の願望を強く抱く故に、終末を導く引き金を引く。
偽りの王を導く天使達。
彼らがラッパを吹き鳴らし、騎士の願望が達せられた時――終末の獣は姿を現す。
そして偽りの王は消え……真なる王が目覚めるだろう。
「……随分暗い森ですね。昼間だというのに夜みたいです」
「暗いわ足場は悪いわ、こんな場所を戦場に選ぶなんて青木ってやつは良い趣味してるわね」
「今回の場合、進行ルート上にたまたまこの森があっただけなんじゃないですかね……」
鬱蒼とした森を見渡し、呟くユウ(ka6891)。エリ・ヲーヴェン(ka6159)の嫌味に、エファ(ka6071)が苦笑する。
難しい顔をしている八島 陽(ka1442)に、十 音子(ka0537)が首を傾げた。
「陽さん、どうかされましたか?」
「いや、『終末の獣』はビックマーを吸収した青木のことなんじゃないかと思ってな」
「……ブラッドリーとやらの予言じゃったか? 何にせよ、あやつにこれ以上力をつけさせる訳にはいかぬの」
「そうだね。もしビックマーを吸収したら、燕太郎さん、ヒトの姿を捨ててしまう気がするし」
淡々と言うフラメディア・イリジア(ka2604)に頷くリューリ・ハルマ(ka0502)。
青木はずっと、自分が『ヒト』であったことを否定し、その部分を捨てたがっていた。
だから――力を入れたら。その度に、ヒトである部分を捨てていくのではないか。
そしてビックマーという膨大な力を手にしたら、今度こそヒトとしての姿を手放す気がして……。
「……止めよう。セトさんもそれを望んでるはずだ」
眉根を寄せるリューリの背をそっと撫でるアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。岩井崎 メル(ka0520)は2人をじっと見る。
「私も青木について知らない訳じゃないけど……リューリ君達はどうしてそんなに青木を気にするの?」
「んー。セトさんとの約束もあるし……何か放っておけないんだよね」
遠い目をするリューリ。
――かつて、彼女とアルト、メルは神霊樹の記録を見る依頼で、リアルブルーから転移に巻き込まれた小隊を見た。
寒さの中弱って行く者、極限の状態で狂気に囚われる者……。
そんな中で、エンタロウという男と、その親友は最期まで助け合い生きようとしていた。
……エンタロウが歪虚と契約したのも、極限の状態で必要に迫られたからだったに違いない。
だからと言って、今までしてきたことが許される訳ではないけれど。
最期のその時まで親友を案じ、想いを託したあの人に応えたいと思うから――。
「リューリったら時々夢中になりすぎて我が身を顧みないし、アルトも苦労するわよねー」
「まあ、放っておけないってのは分かる気がするわな」
「そうね……。私達にとっては他人事じゃないしね」
苦笑するアルスレーテ・フュラー(ka6148)。トリプルJ(ka6653)の呟きに、マリィア・バルデス(ka5848)も頷く。
彼らも元軍人で、リアルブルーから転移してきた経緯を持つ。
エンタロウの境遇は、偶然や運命という者もいるかもしれない。
だが、同じ立場であったからこそ……その一言で片づけられる程割り切れはしない。
煙管を燻らせていた蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は、ふと空を見上げる。
――森の向こうから、武器がぶつかり合う音と、叫びが聞こえて来る。
仲間達とビックマーとの交戦が始まったのだろう。
「……さて、そろそろあれが来よる頃合いじゃ。バタルトゥ、準備は良いかえ?」
「ああ……」
蜜鈴の確認に頷くバタルトゥ・オイマト(kz0023)。そこにトコトコとエステル・ソル(ka3983)が歩み寄る。
「バタルトゥさん、指切りするです。自分を大事にするって約束です」
「……すまんが、その約束はできない」
「どうしてです?」
「……俺の身も、人生も、俺のものではない……。……辺境の地に殉する為にある。……オイマト族の者が歪虚と通じ……ベスタハの決戦で父が死んだ時から、そう決めている」
「……!」
「バタルトゥさん……」
目を見開くエステルとイスフェリア(ka2088)。
2人は、これまでに幾度となく彼に望みを聞いたが、バタルトゥ自身の望みではなく、辺境部族全体の望みを口にすることが多かった。
それは無自覚なのかと思っていたけれど――彼は『分かっていて』、その望みを口にしていたのだとしたら……。
そんなのはダメだと言うのは簡単だ。実際、ダメだと思う。
けれど、ここに至るまでの彼の苦悩を考えたら、簡単に否定していいものではない気がして……。
上手く言葉に出来なくて、涙目になるエステル。蜜鈴が扇でぺしっとバタルトゥの頭を叩く。
「まったくおんしは……心配しよる女子に対して何たる仕打ちじゃ。もうちょっと言い方というものがあろう? そもそも、部族会議の大首長たるものがそう易々と命を捨ててくれるな。いい迷惑じゃろうが。生き残る道を考えぬか!」
「うええ。蜜鈴さんーーー!」
「おお、よしよし。女子の心を理解せぬ朴念仁は成敗してやったゆえ、泣くでないぞエステルや」
ひしと抱き着いて来るエステルの頭を撫でる蜜鈴。アルバ・ソル(ka4189)は申し訳なさそうな顔をして頭を下げる。
「蜜鈴さん、妹がすみません。……エステル。その話は後にしよう。今は目の前のことに集中しなくてはな」
「うん。辺境を守る為に頑張ろう。バタルトゥさん、わたし達にもこの地を守らせて?」
一瞬困った顔をしたものの、すぐに笑顔を作るイスフェリア。それに、バタルトゥが頷く。
「……ああ、宜しく頼む。俺1人では成し得ない。皆の力を貸してくれ……」
青木を捕捉する為、動き出したハンター達。
森の中を動く影を見つけたフワ ハヤテ(ka0004)は、トランシーバーを手に叫んだ。
「こちら小隊【実験】! 青木を見つけた……って、ちょっと待ってよ! あいつあんなに速いなんて聞いてないよ……?!」
「まだディヴァインウィル使ってねえのに避けて通るなっつの! 観那、ガウスジェイル届くか!?」
「ごめんなさい。距離があって届きそうにないです……!」
「……バリスタなら届きそうね。とにかく狙撃するわ!」
鵤(ka3319)の確認に首を振る観那(ka4583)。ケイ(ka4032)は大きなボウガンを構えると矢を放つが――青木には当たらず、聳え立つ木々に刺さる。
鬱蒼と茂る樹の間を滑るようにして疾走する青木を見つけたエステル(ka5826)。その距離は決して近くはなかったが、仲間につなぐ為に通信機を取る。
「アルトお姉さま! 青木燕太郎様を見つけました! 場所は……」
「ちょっと待って。あいつ、こっちを避けてるみたいだよ」
「えっ……?」
「避けられたら足止め出来ないじゃない……!」
スターゲイザーで青木の動きを探るセレス・フュラー(ka6276)の言葉に絶句する銀髪のエステル。
――先程通信があった鵤も青木が『避けて通る』と言っていた。
セレスの様子からも、青木はこちらの場所を捕捉出来ているのかもしれない……!
『エステル、どうした?』
「アルトお姉さま、皆さん、気を付けて下さい。青木はこちらの位置が分かっている様子です……!」
――銀髪のエステルの通信の通り、青木はどういう訳かハンター達を避けて疾走を続けていた。
「どういうことかしら? あいつ、探索系の能力なんて持っていた?」
「いや、聞いたことねえな。報告書にもなかった。新たに何か吸収したっていう可能性はなくもないけどよ……」
「ここまで来て誰も戦端を開いてないっていうのはマズいわね……」
「さりとて、この悪路じゃ思うようにも進めねえ……。クソッ」
マリィアの呟きにバイクのハンドルを殴るトリプルJ。
のらりくらりと逃げ回る青木を追いかけるという状況が続いている。
「青木も青木で一生一代の勝負だから諦めが悪いのは仕方ないにしても……。そろそろ何か仕掛けたいとこだなァ。こう避けられちゃ話も出来やしねェ」
「青木さんは何故こちらの場所が分かるんでしょうね……」
シガレット=ウナギパイ(ka2884)のぼやきに首を傾げるユウ。その動きに合わせて、ランタンの明かりが揺れて……フラメディアはハッとして周囲を見る。
――木々の隙間から見える光。こうしてみているだけで、明かりを持っている者の場所がある程度分かることに気付く。
「……! そうか……! 明かりじゃ! 皆、照明を落とせ!! 青木は明かりを目印にしておるぞえ!!」
フラメディアの叫び。
彼女の見立ては正しかったが、残念ながら気づくのが遅すぎた。
ハンター達は様々な計画を立てて臨んだが……それらの殆どが頓挫していた。
まず、光が届かぬ程の深い森の中で、バイクや馬でも思うようなスピードが出なかったことが一つの原因に挙げられる。
更にいくつかのグループに分けて目標の探索に当たることとなったが、ユニットの持ち込みが出来ない戦域であったにも関わらずユニットを持ってきた者がいた為、出発が遅れるグループもあった。
初動の展開速度が思ったほど出なかった為、網を張るのが遅くなってしまった。
更にもう1つ言うと、青木は移動のみに注力すれば莫大な移動力を誇るということを考慮している者が少なかったことだ。
木々に阻まれ減速はするが、それでも相当のスピードが出る。
青木を捕捉する為にはそもそも追いついて、足止めをすることが前提となるが、見つけることが出来ても、場所が離れていれば高速で移動している目標に追いつくのは困難になる。
そして、もう1つの誤算は――明かりを使うことで、青木にハンター達の位置を知らせる結果になってしまったことだ。
明かりがあるところは避け、あとは追いすがるハンターを無視してひたすらビックマーに向かって走ればいい。
『誰かが青木を足止めしていることが前提』の計画は、その『誰か』がいなければ成し得ない。
足止めが叶わなかった場合は総崩れになるのだ。
――ハンター達は見事に黒い歪虚の策に嵌ってしまっていた。
ハンター達にとってはもう1つ、予想外だったことがある。
ハンター達が青木を見つける度、会話を試みて声をかけるが、今回は一切応じなかったのだ。
「青木さん、どうして今回は会話に応じないんでしょうね……」
「……会話に応じる必要がないからじゃないかな」
エファの呟きに、ため息を漏らすジェールトヴァ(ka3098)。
今まで会話に応じていたのは、『ビックマーに仕事をしていると示す必要があったから』。もしくは『興が乗った』からだ。
今回のような目的――特に先を急いでいる場合、ハンター達との会話は青木にとって不要。
わざわざ応じる必要性はないのだ。
「残念ながら、今回は会話で足止めが出来るとは思わないほうが良さそうだね」
「……あちらの思うツボで、何だか悔しいですね」
静かなジェールトヴァの声に唇を噛むエファ。エリがハハッと明るく笑う。
「まあまあ。諦めるのは早いわよ! あいつ、怠惰王の戦場に向かってるのは間違いないみたいじゃない? ハハッ! だったらそっちに行ってみましょうか?」
「ふむ。そうじゃな。先回りしておくのは良さそうじゃ」
頷く蜜鈴。エリの後を追うように走り出す。
――そんな中、明かりを持たず。森に潜伏し、好機を待っている者達もいた。
「……青木さんを捕捉しました。位置情報をお知らせします」
「……!?」
トランシーバーに向けて淡々と告げる音子。彼女が乗っているソリも、マントも迷彩色で、森に溶け込むような色合いになっている。
青木は目を見開くと、すぐにニヤリと口角を上げた。
「ほう? 頭の働くハンターもいるんだな」
「あまりナメて貰っちゃ困るな。ちょっと遊んで行けよ、青木……!」
不意に真横から現れた陽。剣を掲げて、マテリアルの光で仲間達を鼓舞する。
彼はフラメディア達と行動を共にしていたが、光源をハンター達の目印にしていると気づいた彼女と相談し、単独で身を潜める作戦に転向していた。
「フラメディア! シガレット! ユウ! こっちだ!」
『今行くぞえ! 足止めを頼む!』
『へいへい! ようやく引っ掛かったか』
『陽さん、くれぐれも無理しないでくださいね』
通信機から聞こえて来る声。
その間も続く音子の射撃。青木はそれを跳躍で避ける。
彼は大きく槍を振りかぶると、一気に振り下ろして……!
「させるか……!」
咄嗟に衝撃波を出して来ると判断した陽。構えた盾を中心に光の障壁を発生させる。
ぶつかり合う衝撃波と光の障壁。
障壁は確かに衝撃波の一部を吸収したが、沸き起こる暴風までは防ぎきれず――陽は近くの樹に叩き付けられる。
「ぐあっ」
「その程度の障壁で防げると思ったか? 残念だったな」
「……あんたは『終末の獣』になりたいのか?」
「何の話だ」
「ビックマーを吸収して何になるって言うんだよ……!」
「……教えてやる義理はないな。消えろ」
陽を見下ろす青木。銃撃を続ける音子を一瞥すると、槍で薙ぎ払い……衝撃波で纏めて2人を吹き飛ばす。
そこに不意に現れる風。今までじっと暗闇で潜伏していたシレークス(ka0752)は一気に踏込で距離を詰めると、大きなスコップで殴りかかる。
「毎度火事場泥棒してるんじゃねぇですよ、このクソヤロウ」
「……およそ聖職者とは思えん台詞だな」
「うるせーです。エクラ教修道女を舐めんじゃねぇですっ!」
一撃を避けられて、再び青木に迫るシレークス。サクラ・エルフリード(ka2598)は目を丸くして声をあげる。
「えっ。ちょっと待ってくださいよシレークスさん!? 何でこの期に及んでスコップなんです……!?」
「女は黙って魔導円匙ですよ! 細かいこと気にするんじゃねぇです!」
「細かいことって……!」
「とにかくやることは一つですよっ! 殴りやがれ!!」
大振りでスコップを振り上げるシレークス。サクラはあぁ……と天を仰ぐ。
シレークスらしいと言えばそうなのだが、これでは……。
あとはもう防御力を上げて、極力足止めしてくれるよう祈るしかない。
だが、そんなサクラの願いを嘲笑うかのように青木は容赦なくシレークスを薙ぎ払い、そしてサクラ自身にも槍を振るい……血の海に沈む彼女。赤く染まる身体を支えて、青木を睨む。
……サクラも何度か青木を見ているが、ここまで『効率的に動いている』のを初めて見た。
――余程、先を急いでいるのだろう。
再び走り出した青木。そこに、シガレットとフラメディア、ユウが駆け付けて来た。
「くそっ。また逃げられたか……!」
「やはり少数では分が悪いのう……」
「大変です! 皆さん大怪我されてますよ……!」
「私達は大丈夫です……。早く、向かってください」
「青木を止めてくれ。あいつを『終末の獣』にしたらダメだ……」
「……分かった。ここで待っておれ。後で必ず戻るゆえ」
地に伏した音子と陽に頷き返すフラメディア。そのまま、彼女たちは青木の背を追う。
必死に走って青木を追っていたリューリ。
一旦足を止めると、親友に向き直る。
「リューリちゃん、どうした?」
「アルトちゃん、お願い! 先に行って燕太郎さんを止めて!」
「しかし……」
「青木のスピードは結構速い。皆の移動力と地形を考慮に入れると……多分アルト君が踏鳴を使って追いつけるかどうかってとこだと思う」
地形や仲間達の移動力を元に算出するメル。アルスレーテも呼吸を整えると、アルトを見る。
「大丈夫よ。私達も後から行くわ。アルトなら数分くらいあいつ足止め出来るでしょ?」
「簡単に言ってくれるね。分かった。先に行って待ってる」
そういい、走り出すアルト。マテリアルを足に込めると、爆発的な速度で青木に迫る。
「……待て、エンタロウ!」
「……誰かと思えば茨の王か。待てと言われて待つヤツがいると思うか?」
「そう固いこと言うなよ。それにしても私を名前で呼ばないのはあの兄弟に似ているな。レギ君は天使とか言うし……セトさんもそういうやつだったのか?」
「…………」
「どうした。今日は知らんとか興味ないとか言わないんだな」
「悪いが、貴様の相手をしている暇はない」
一向に走るスピードを緩める気配のない青木。負けじと追いすがるアルト。
引き離されることはないが、追いつくこともなく――まもなくして、前方から、光が差し込んでいるのが見えた。
「……まずい。森を抜けるぞ! 合図を……!」
立ち止まり、マテリアル花火を打ち上げる為に立体攻撃で樹に駆け上がったアルト。
そうしている間にも、青木は凄まじい速度でビックマーの戦線に迫っていた。
「ああっ。ちょっと避けて行くんじゃないわよ! わたしと戦いなさいよー!」
森を抜けた先。ビックマーがいる方角で待ち伏せていたエリ。
避けて駆けていった青木に怒りを露わにした彼女を、蜜鈴が宥める。
「エリ、良い。このまま追い込め。あちらにはアルバ達がおる」
「やれやれ。走るのは得意じゃないんだがね」
「ジェールトヴァさん、無理しないでくださいね」
「追い込みなら任せろ!」
「行くわよ!!」
肩を竦めるジェールトヴァを気遣うエファ。
森を抜けて、バイクの本領発揮とばかりにトリプルJとマリィアがエンジン全開で追いかける。
ハンター達は後れを取った分を必死に取り戻そうとしたが、結局叶わず――ビックマーの対応に当たっていた部隊が、アルトの打ち上げた花火の意味を理解する頃には、黒い影は追うハンターを振り切り怠惰王の元へと到達した。
地に伏したビックマーを見て、青木はニヤリと笑う。
「……お前がここまでやられるとは。いい具合だな、ビックマー」
「青木、貴様ァ……!」
「ここまで早く弱らせてくれるとは思っていなかった。ハンターには感謝せねばならんな。……お前の力、貰い受けるぞ」
青木を睨み付けるビックマー。
そこに飛来する制圧射撃。青木は着弾よりも早く踏み込む。
「――遅い!」
着弾よりも早く踏み出した青木。
ハンター達が振り返ると青木はブラッドリーの傍らへと降り立っていた。
背を守るように立った青木はブラッドリーへ声をかける。
「貴様。力を貸すと言ったな? 応じよう。……さっさと寄越せ」
「神の御名において騎士へ力を貸しましょう。すべては終末の……フロンティアへ誘われる為に」
ブラッドリーの本が風で靡くように勝手にページがめくられていく。
そして本から放たれた光が、青木に力を与える。
「……成程。これはなかなか良いな。感謝する。……これで、俺は――!!」
青木の咆哮。
それは衝撃破となって周囲のハンターへ襲いかかる。
そこに、イスフェリアの詠唱が聞こえて来た。
「精霊よ、お願い! エステルさんに加護を……!」
「ダメです! させません……!」
オーラ状の障壁に包まれる青い髪のエステル。一歩踏み込みんで……続く詠唱。
カウンターマジックを唱えた少女を、青木は一瞥する。
「……残念だったな、小娘。狙いは悪くなかったがこれは魔法由来じゃない」
その目線をまっすぐに受け止める青い髪のエステル。
憶することなく、黒い歪虚を見据える。
「青木さん。ずっと聞きたいと思っていました。……何を探しているのですか? それは強くなれば見つかるものですか?」
「――探し物は見つけた。約束を果たす為に、俺はもっと強くなる必要がある」
「……約束? 約束って何です?」
「力を求めるのは自分の為か? 誰かの為に誓ったのではないか、燕太郎!」
「………」
アルバの問いに無言を返す青木。それに微かな違和感を感じる。
――今までと反応が違う。
もしかして、この男。記憶が戻りつつあるのでは……?
「……アルバ、エステル。これ以上は危険だ。下がれ……!」
「了解した」
「え。う……?」
バタルトゥの言葉に素直に従うアルバ。青い髪のエステルは族長に引き寄せられて、強制的に後退させられ……想い人と予想外のところで密着する結果となって固まる。
「……懸命な判断だな、大首長。巻き込まれて殺されたくなければ下がっていろ」
「燕太郎さん! もうやめて! これ以上吸収したら戻れなくなっちゃう……!」
「戻る? 何にだ」
「セトさんが悲しむよ……! お願いだから引いて!」
全力で駆けて来た為、息が苦しいのも忘れて言い募るリューリ。
聞き覚えのある単語に、青木は目を閉じる。
脳裏に蘇る鮮やかな銀髪。
――ああ、■■。
……忘れるようにしていた。思い出したくなかった。
あいつが何を言おうと、何を願おうと……今更戻れはしない。
もう、進むしかない……!
無情にも青木の手から精製された1本の黒い槍は、青木の手から放たれる。
光線のように一直線に放たれた一撃が、ビックマーの顔面に刺さったのがハンター達の目にも映った。
「さあ、その力を明け渡せ、ビックマー……!」
「うぐ……うぐあああああ! オーロラ……! オーロラアアアアア!!」
響くビックマーの断末魔。消えかかっているビックマーの首を抑えつける青木。
怠惰王は、最期まで傍らにいた少女を案じて……そしてその力を奪われ、塵となって消えて行った。
結果的にビックマーは消滅した。
辺境を襲った怠惰の軍勢はビックマー消滅を受けて撤退していった。
だが、部族会議の面々には本当の勝利ではないと分かっていた。
「……すまないね。こんなことになってしまって。見積もりが甘かったようだ」
「……いや、仕方あるまい。お前達のせいではない。あれの手の内を全て読むにはそもそも情報が少なかった。足りない情報の中で、お前達は良くやってくれた」
「そう言ってもらえるとちょっと気が楽だけど……反省は必要ね」
心苦しげに言うジェールトヴァを気遣うバタルトゥ。アルスレーテもまた、ため息を漏らす。
青木がビックマーの力を吸収した以上、辺境の地の強大な敵となって立ちはだかるだろう。
――知恵があり、無理をしないという性質がある以上、ビックマーより厄介な相手になりかねない懸念もある。
そして、『終末の獣』と化した青木を、ブラッドリーは崇め奉り、協力を惜しまないだろう。
「……青木の奴、ビックマーの力を得て、能力が増えておるはずじゃ。また調べ直さないといかんな」
「そうだね。コケにさせられた分はきっちり返してやりたいよね」
フラメディアの呟きに頷くハヤテ。リューリは涙目で親友を見つめる。
「アルトちゃん、どうしよう。セトさんに、燕太郎さんを『ヒトでいられるうちに止めてやってくれ』って頼まれてたのに……」
「リューリちゃん、まだ終わってないよ。そういう意味では、あいつはもうとっくにヒトを辞めてる。これからでも……あいつを止めよう」
「……青木は、何かを思い出している様子があった。もしかしたら、セトのことも……」
「……そうだな。そこに勝機はあるかもしれない」
アルバの呟きに頷くアルト。
彼女はリューリの髪を撫でながら、セトの手帳とドッグタグを握り締めた。
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