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(ka0000)
【幻痛】幕開?ベアーレヤクト決戦?「武装巨人対応」リプレイ


▼【幻痛】グランドシナリオ「幕開?ベアーレヤクト決戦?」(9/20?10/10)▼
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作戦2:「武装巨人対応」リプレイ
- ファリフ・スコール (kz0009)
- 神楽(ka2032)
- 鳳城 錬介(ka6053)
- 保・はじめ(ka5800)
- アシェ?ル(ka2983)
- キヅカ・リク(ka0038)
- インスレーター・SF(魔導型デュミナス)(ka0038unit001)
- ジャック・エルギン(ka1522)
- チョココ(ka2449)
- 天央 観智(ka0896)
- 魔導型デュミナス射撃戦仕様(魔導型デュミナス)(ka0896unit003)
- アウレール・V・ブラオラント(ka2531)
- エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)
- アニス・テスタロッサ(ka0141)
- レラージュ・ベナンディ(オファニム)(ka0141unit003)
- 時音 ざくろ(ka1250)
- ゾファル・G・初火(ka4407)
- ガルちゃん(ガルガリン)(ka4407unit004)
- ミグ・ロマイヤー(ka0665)
- ヤクト・バウ・PC(ダインスレイブ)(ka0665unit008)
- セリナ・アガスティア(ka6094)
- 岩井崎 旭(ka0234)
- ロジャック(ワイバーン)(ka0234unit002)
- リュラ=H=アズライト(ka0304)
- 不動 シオン(ka5395)
- 十色 エニア(ka0370)
- 星野 ハナ(ka5852)
- ユリアン(ka1664)
- ラファル(グリフォン)(ka1664unit003)
- ルナ・レンフィールド(ka1565)
- ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)
- エルバッハ・リオン(ka2434)
- ウィザード(R7エクスシア)(ka2434unit003)
- 近衛 惣助(ka0510)
- 無銘(オファニム)(ka0510unit003)
- セツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)
- Gacrux(ka2726)
- デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)
- 閻王の盃(R7エクスシア)(ka0013unit001)
秋の風にしては些か冷たいと感じたユノ(ka0806)は切り取られた崖……要塞都市を見上げる。
「あんなのでいいかな」
ユノへそう尋ねたのはファリフ・スコール(kz0009)だった。
「目くらましだからね。ざっくりとしたので大丈夫」
現在、大砲やボウガンにかけられているのは要塞都市を守る壁の色に染められた布……というか麻袋を広げて縫い合わせたもの。
要塞都市の壁には金属の粉で大砲のような絵をざっくりと描かれてあったが、近くで見るとよくわからない。
巨人には遠距離対応できる武器を持っているので、少しでも巨人の目を逸らしたい考えのもとだ。
ハンター達の提案を聞いたファリフがドワーフ工房に掛け合って、工房にあるもので急ごしらえで調達してくれた。
「辺境の力だけで何とかしたい気持ちはあるけど……今回の件はそれを凌駕する。何でもしなきゃ生き残れないと思う」
真摯な様子を見せるファリフにユノは静かに見つめる。
「だから、また皆の力を借りるよ」
にこっと笑うファリフは真面目な様子であるが、気負った様子は見受けられない。
ほんの少しだけ和やかな様子だが、これから激しい戦いが始まる。
辺境部族の戦士がファリフに準備が整った旨を伝えた。
「ここはよろしくね」
ファリフはそう言って前線の方へと向かう。
防衛ラインの二枚目と三枚目のある地点では今でも作業が進められていた。
神楽(ka2032)をはじめとする有志達が刻令ゴーレムや魔導アーマーを使い、黙々と地に穴を掘っている。
人が埋まるには広すぎるその穴の狙いは巨人だ。深さもしっかり掘られており、一度嵌れば抜けるのは大変だろう。
掘った分だけの土は三枚目の防衛ライン側へ土堤のように盛っている。
穴を掘って、土堤を作るのも一苦労であるが、これも少しでも巨人の動きを鈍らせるためのもの。
「木を立てるっすよー」
神楽が周囲に気を付けつつ、ゴーレムに木を立てさせる。
一定間隔で前衛の味方が通れる通路も用意しており、木と木の短い路が目印となっていた。
「傷ついた仲間が通る道にならないといいけど」
ひとりごちて呟いく鳳城 錬介(ka6053)は再び刻令ゴーレムの掛矢鬼六を操って穴を掘り始める。
誰も傷ついてほしくないと思うのは皆、同じだ。
最後の穴掘り部分に着手していた保・はじめ(ka5800)に神楽と錬介もそれぞれ手伝いに入る。
作業が終了すると、神楽が戦域情報集約しているハンターへと繋ぐ。
「あ、穴掘り作業が終了したっす。そっちはどうっすか?」
魔導スマートフォンで神楽が回線を繋げたのはアシェール(ka2983)だ。
「歪虚がかなり近づいてきてます。会敵までまもなくかと思います」
アシェールの視界には歪虚が要塞都市へと向かってきていた。速度はゆっくりと感じるが、殆どが巨人であるため、歩幅で距離が縮んでいくようだった。
通話相手の神楽は会敵に備えると言ってアシェールとの通話を終了する。
次にアシェールは情報を共有するために回線を繋げたのはキヅカ・リク(ka0038)だ。
「落とし穴作業、完了したそうです。他の配置の方はいかがですか?」
周囲の警戒を怠らず尋ねると、『整っている。そろそろ向こうの射程距離に入るだろうから、気を付けて』と返ってきた。
「了解しました」
通話を終了したアシェールは背後を振り向く。
「持ち場離れてごめんなさい」
前線へ戻ってきたファリフが声をかける。
「お帰り」
調子のよい声でファリフに声をかけたのはジャック・エルギン(ka1522)だ。
「もう少しで始まるね」
「そうだな、辺境戦士が頑張るとあっちゃ、こっちも負けてられねぇからな」
ジャックが「ヘヘッ」と笑う。
「ハンターの皆と戦えるのは心強いからね。頼むね」
そう言ったファリフは自身の獲物である身の丈もある斧を肩に担ぐ。
●
敵もそれなりに知能があるのは人類側も理解している。
怠惰王の大多数の駒であり、ファリフや辺境部族戦士と共に戦うハンター達が対するのは数々の武器や防具を身につけた巨人。
倒せない戦力ではない。
問題は敵の数だ。
数えるのも面倒になってしまうほどの歪虚が押し寄せている。
歩調は遅いが、確実に近づいてきていた。
イェジドのアーデルベルトに乗っていたチョココ(ka2449)は周囲を見回す。
「あら……ハムさんはここにはいないですの?」
これから敵と戦うのだが、おっとりとした口調は変わらず、チョココはハムさんこと、チューダの姿を探す。
前回、あれだけ頑張ったので、今は美人巫女の膝の上でぐぅたら避難しているのかもしれない。
「ホント、困りますね……『怠惰』が勤勉とは」
溜息と共に呟いたのは天央 観智(ka0896)。
既に搭乗している魔導型デュミナスは射撃戦仕様にしていた。巨人も射撃武器を所持しており、少しでも相手の攻撃力を削がなければならない。
歪虚との会敵を前にアウレール・V・ブラオラント(ka2531)がベルにハンターに煙幕弾を発射させる旨の注意を頼んだ。
目的は味方の戦力秘匿と要塞都市への砲撃被害を緩和させること。
「力押しされたらそれまでだが……被害が抑えることが出来ればいい」
そう呟いてアウレールは煙幕弾を発射した。
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)はワイバーンの北極に騎乗し、巨人兵が擁する射撃手の位置を特定していた。
軍用双眼鏡を使用して地道に探している。
敵は興奮している様子でもなく、武器を抱えて進んでいた。
「報告、敵は小隊ごとに列をなしている」
連結通話を使用し、手持ちの端末で複数の仲間に情報を伝える。彼女の視界はスナイパー部隊を捉えていた。
しかし、少数しか見当たらないところから、複数あると思ったが、予測は口にせずに今攻撃できるスナイパー部隊の場所を伝える。
「了解」
エラより受けた報告をリク達が情報を回していく。
先に動いたのはエラと直接通話をしていたアニス・テスタロッサ(ka0141)。彼女はR6M3a魔導型デュミナス改……通称オファニムに搭載されたプラズマキャノン「アークスレイ」射程距離ギリギリまで待機する。
向こうの射程距離もあるが、今飛び込むわけにはいかない。
睨み合いのような時間の中で、巨人兵射撃手が彼女の射程距離内に入った。
「来た」
アニスは即座に戦闘プログラム:射撃適正を展開し、マルチロックオンで射撃手達を標的とする。
インカムより、『向こうの射撃手もこちらを狙っている』と警告の連絡が入った。
「甘ぇよ」
鼻で笑ったアニスは確信がそこに在る。
「撃たせるか」
奴らより早く撃つ自信が。
そして、自信の通りにキャノン砲が放たれる。彼女が標的とした射撃手の巨人兵へ。
見事命中し、その辺りの隊列が乱れた。
今の一撃が開幕の合図となって戦いが始まる。
ハンター達や辺境部族も、敵対する巨人兵も更に速度を上げて互いの敵陣へと向かっていく。
「さぁ行くよ! 巨人軍団を食い止めるんだ!」
時音 ざくろ(ka1250)は気合を入れて叫ぶ。愛機の魔動冒険機『アルカディア』を駆り、最前線へと向かう。
アルカディアに構えさせたのはMライフル「イースクラW」。スキルトレースを使用し、光で出来た三角形を発動させた。
発射された光はこちらへと向かってくる巨人の頭を貫いたが、まだこちらへと向かってきている。
足止めでもやらなければならない。
ドミニオンMk.?に搭乗しているゾファル・G・初火(ka4407)はざくろと同じく最前線にいた。
辺境の大地を黒く塗りつぶしていく巨人兵を絶望と例える者もいるだろうが、ゾファルにとって、それは恐れよりも倒せるという喜びの黒だ。
「ヒャッハー! ぶっとちばしてやるじゃん」
キラキラと目を輝かせるゾファルに『これ、周囲を忘れるなよ』と魔導短伝話越しに声をかけたのはミグ・ロマイヤー(ka0665)。
「わかってるってー」
そう応えるゾファルの言葉にミグはくつくつと笑う。
ダインスレイブのヤクト・バウ・PCから見るゾファルのガルガリンこと、ガルちゃんは斬艦刀「天翼」を構えて敵陣へと踊り飛び込んでいた。
PGシールド「ヴェラッシング」すらも武器のように水平にして巨人の腹部を狙って抉りこむ。
襲い掛かる攻撃にはマテリアルカーテンを使用して回避して、敵を動かせていた。
前線が食い止めていたとはいえ、多数の敵が雪崩れ込んできており、最前線の後ろの隊列が対応することになる。
「よし! 行くぞ!」
ゴースロンに騎乗しているジャックが駆け出す。
「辺境戦士よ! 恐れるな! この地に生きる者を守り、ハンターと共に戦うんだ!」
大きくよく通るファリフの声が辺境戦士達に届く。彼女が乗っているのは自身が族長となった宿命である大幻獣トリシュヴァーナ。
彼女と共に運命を切り拓くハンターは辺境戦士の士気が上がっていくのをアシェールはファリフの傍らで聞いていた。
雪崩れ込んでくる敵部隊の巨人達の足元を駆けていくのは一体のリーリー。
本来は臆病な性質を持つリーリーだが、そのスピードに臆する様子はなかった。
リーリーのに乗っているのはセリナ・アガスティア(ka6094)。
二メートルはある体躯だが、リゲルは戦場を猛然と駆けていく。セリナの細い指が符を中空に放つと、巨人達に紫電の稲妻が走り、行動を阻害した。
風雷陣を受けなかった巨人が太刀をセリナへと振り下ろす。
リゲルがセリナへ降ろされる凶刃を躱そうと猛スピードで駆けていくが、スレスレでセリナの背が斬られてしまう。
心配そうな視線に気付くセリナは「大丈夫……」と呟く。
「リゲル……あんたがこの戦場で、最速よ!」
そう叫び、リゲルを鼓舞するセリナの言葉に応えるようにダッシュの速度を上げた。
巨人達を翻弄し、意識を逸らさせる。
走っていると、ペガサスに乗ったハンターがセリナの方へと向かってきた。
「大丈夫ですか……!」
心配そうに尋ねてきたのはルカ(ka0962)だ。ヒールウィンドを発動した白縹の光る風を受けたセリナの傷がみるみるうちに治っていく。
「ありがとうございます」
セリナが礼を言うと、ルカは手薄のところに巨人兵が向かう旨の情報を伝える。その情報に彼女は再びリーリーのリゲルを走らせる。
前線や防衛ライン上では更に敵射撃手の特定が急がれていた。
ワイバーンのロジャックに乗っている岩井崎 旭(ka0234)は高度を上げつつ、射撃手の巨人を探している。
ロジャックを旋回させて風を切り、敵の的にならないようにしていた。
「わ……!」
敵が旭達に気づき、撃ってきたが、何とか回避する。ロジャックのバランスが崩れ、高度が落ちるが、味方陣営へ後退しつつ体勢を直していく。
「射撃手を見つけた!」
後退しながらも旭は魔導短伝話で味方に位置を伝える。
旭の報告を受けたリクがその位置に近い味方を探し出す。
「聞こえる!? 今味方が砲撃に遭った!」
位置を伝え、返ってきたのは『了解……十秒後砲撃』という警告と座標位置の知らせ。そこに味方が移動してこないようにしてほしいからだ。
リクへの応答を終えたのは前線にいるリュラ=H=アズライト(ka0304)。歪虚より距離をとり、刻令ゴーレム「Volcanius」のセントヘレンズへ指示を行う。
「ビックマー砲撃したかったけど……」
どこか残念そうに呟くリュラたが、まずは巨人兵を倒さなくてはならない。
リュラの呟きの後、炸裂弾が目標である歪虚へ炸裂した。
間合いを取ったはずの彼女の前へ巨人が迫ってくる。長い足の分だけリーチがある。
「その分……当てやすい……!」
地を駆けるもので加速したリュラは複数の巨人がいる場所へ飛び込み、自身の身丈より長いハンマーごと身体を回転させた。
ドールハンマー「ジオメトリカ」がもつ特性で攻撃時にマテリアル噴射して勢いを増して巨人兵の足を砕くように払い、周囲の巨人達を転ばしていく。
勢いづいたハンマーは更にワイルドラッシュの連続技で頭を割った。
景気のいい前線支援射撃を横目に見ていた不動 シオン(ka5395)は固く結んだ唇を少し緩ませる。
目の前には怠惰王の駒がいるのだ。
普段の戦いではお目にかかれない歪虚の武器を持ち、こちらへと向かい、人類を殺そうとしている。
戦う力を持たぬものならば、絶望となるが、彼女にとっては渇きを潤すことが出来る喜びを与えてくれる存在。
「往くぞ」
シオンの声掛けにイェジドの神威が反応し、巨人へ咆哮を向ける。
その咆哮はウォークライの効力を発揮しており、周辺の巨人達が神威の咆哮に気圧されてしまう。
神威が巨人の方へと駆け出すと、巨人達も動きを鈍らせながらもシオンを狙おうと武器を振りかぶる。
「そうでなくてはな」
妖刀「村正」を抜くシオンは巨人へと神威を走らせた。
黒い刀身の大太刀を振り回して巨人の腹から腿にかけて斬りつけ、更に腿の斬り口より更に刃を当てて足を斬り落とす。
ペガサスのリレィンに乗って飛んでいる十色 エニア(ka0370)は意識を集中し、妖精達の力を借りてより多くのマテリアルを集めていた。
漏れ出すマテリアルが煌めく翅の形をとり、妖精が寄り添っているような幻影が揺れるような気が……する。
空間に一瞬、冷気の嵐が吹き荒れエニアはブリザードを発動させた。
皮膚を凍り付かせる冷気の嵐は射撃手の巨人を狙ったが、盾持ちの巨人達が射撃手を守るように囲む。
一見、失敗のように見えるが、エニアとしては盾持ちの巨人を行動阻害させて射撃手の巨人を無防備にするのも目的なので十分だ。
そして、更に情報は伝わっていくだろう。
「はぁーい! 了解しましたよぉー!」
明るく可愛い声音で応えたのは星野 ハナ(ka5852)。
「いやはや、向こうも勉強してますねぇ……」
報告では盾を持つ歪虚は射撃手を守っているという。
遠距離で壊せるものなら壊そうという考えを持っているように思えるからだ。
繋がれた回線より告げられた位置を砲撃するべくR7エクスシアが構えるロングレンジライフル「ルギートゥスD5」で標準を定める。
砲弾を射出すると、周囲に響く砲声がドラゴンの咆哮のように聞こえてしまうほどの迫力。
盾を持っている歪虚ごと撃ち込んでいき、砲声に負けない威力を見せつけた。
●
確かにハンター達の攻撃は効いており、倒れる歪虚はいた。
しかし、巨人兵の数はあまりに多く、攻撃が届かずに人類側の方へと雪崩れ込んでいく。
高度を上げていくのはユリアン(ka1664)のグリフォンであるラファル。同乗者はルナ・レンフィールド(ka1565)とそのユグディラのミューズだ。
軽いミューズは風で飛ばされそうだが、必死にルナにしがみつく。
「しっかり捕まって!」
ユリアンの注意に従うのが精いっぱいのルナであるが、今はそれどころではない。
高い透明度を持つレンズのモノクル「クリスタルオブウィズダム」より眼下の敵を見下ろす。
いける……と判断した瞬間、ルナは一気に集中を高め、息を吸う。
「謳われるは英雄の詩、請われるは勝利。希望の火は闇を斬り払い、未来を示さん。」
ルナが謳う旋律が赤い光となり溢れ出していった。光は敵を包むように広がる。
「奏で謳いましょう。ラプソディー『クリムゾン サーガ』!」
風の音に負けないルナの声は辺境の中空に良く響き、敵のマテリアルを圧していった。
周囲に人の姿はなく、ルナが発動したのはグラビティフォール。
巨人達の周囲に紫色の光を伴う重力波を発生させた。
重力は対象巨人の各個体を中心に収束し、動きを止め、その身体すらも壊していく。巨人ともあり、その耐久度は高く、動きを制限されるだけにとどめていた。
ルナの美しい歌声にラファルの動きが軽いような気がすると思うユリアンは『それもそうか』と納得する。
歌姫の歌をすぐ近くで聞けることは贅にして幸福だ。
歪虚討伐に成功したら、ご褒美も強請ってくるだろう。
まずは歪虚を倒さねばならない。
ユリアンは精霊刀「真星」を抜き、フライングファイトで一気に加速して敵の方へと向かう。ラファルとの動きを合わせ、彼らは狙いを定めて同時に動きが鈍った巨人へ一撃を決めた。
ぐるり、と旋回したラファルはすぐさま後退して巨人の間合いから遠ざける。
「キヅカさん! 今、グラビティフォールで動けない巨人兵がいるよ!」
ルナが叫ぶと、通話の向こうのリクが受け止める。
「わかった! 今支援に行く!」
すぐにハンターへ情報を流す。後方にいたが、前に出てきてくれたのはヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)。
「我が承ろう」
リクもまた、前に出て支援射撃を行うと返答があった。
「オーデム、行くぞ」
騎乗しているグリフォンが翼を広げて呼応し、飛翔する。
「流れてきた情報では、射撃手には盾兵が近くに居るのじゃろぅ? こちらであぶり出し、その隙に撃つがよい」
魔導スマートフォンより『了解』の声が聞こえた。
範囲ギリギリのところでオーデムが翼を振り、中空で停まる。
その間にヴィルマはエクステンドキャストのアクションでマテリアルを練り上げた。膨大なマテリアルで彼女の頭上に火球が三つ現れた。
「星よ降れさながらこの世の終わりのごとく。巨人を焼く鉄槌となりて彼の者らへ終焉の帳を」
魔杖「ランブロス」を掲げ、ヴィルマが言の葉を乗せた。虹色の光が一瞬ヴィルマを包む。
勢いよく燃え盛っていく火球を次々に降り注がせる。火に気づいた盾兵が防ごうとしたが、一気に爆散させた。広範囲に燃える火力で盾兵へのダメージは高かった。
すぐさまヴィルマが後退していったのをリクが確認すると、ガトリングガン「エヴェクサブトスT7」でメテオスウォームでダメージを負った巨人兵を掃射する。
●
第一防衛ラインを越えようとする最前線の巨人達はもれなくハンター達の格好の的となっていた。
エルバッハ・リオン(ka2434)は黒色に魔法陣が描かれた機体をもつR7エクスシアのウィザードに乗り込んでおり、迫りくる巨人をカノン砲で迎え撃つ。
「ここから先には行かせませんよ。ここをあなたたちの最期の地にしてあげます」
凛と呟くエルバッハは更に向かってくる敵へとカノン砲を撃ち込んでいく。
前線のハンターが倒せた巨人は確かに多いが、迫りくる敵はまだおり、その数は多かった。
防衛ラインに近寄らせないため、ギリギリの場所で固定射撃を行っていたのは近衛 惣助(ka0510)。
機動力と射撃に特化したオファニムは的確に巨人を撃ち抜いている。
前線からの情報を基に、ハンターと歪虚の位置を把握していた。
「ショウタイムにしては早すぎたな」
人類側に目立ったミスはない。敵の多さはそれを上回っていることが理解させられる。
だが、迫ってきているのであれば、敵を打ち倒す。
それが彼の仕事だ。
「プラズマクラッカーを使うことがないのはまだ救いか」
ぽつりと呟き、惣助はロングレンジライフルのトリガーを弾く。
味方からの連絡で第二防衛ラインまで達する巨人兵が増えてきている。
第二防衛ラインと第三防衛ラインの間には落とし穴があり、遊撃隊は同行しているユニットを走らせて巨人達を誘い込んでいた。
辺境戦士が多く配置されている場所にて共に戦っているのはセツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)。
撃ち漏らしなどで雪崩れ込んできた巨人達が防衛ラインの向こう……要塞都市を目がけて向かってきている。
魔導バイクを駆って辺境戦士達が戦いやすいように巨人を誘導していた。
混戦の中でも小回りが利くので、弓を装備している辺境戦士達の方へ誘導成功すると、ターンして巨人の足元を掻い潜り迂回する。弓隊が巨人へ矢を放つ頃には別の巨人の誘導へ入っていた。
辺境戦士の弓を受けても尚動こうとする巨人へライフル弾が飛んでくる。
その方向にいたのはGacrux(ka2726)の魔導型デュミナス、アリアドネだった。辺境戦士への巻き込まれがない事を確認し、移動しつつ砲撃を行う。
前線から流れ込んでくる情報に耳を傾け、必要な位置があればそこへ砲撃を撃ち込んでいった。
持久戦を覚悟しているとはいえ、敵の多さにGacruxは柳眉を潜めてしまう。
状況の厳しさに厳めしい顔をしているのはデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)だった。
曰く、彼の暗黒奥義のひとつであるデスナパームグレイトバスターを使えば、巨人を丸ごと全滅させることも可能と自負しているが、どうやら要塞都市ごと消し飛ぶことを考慮してエクスシアのプルートーで出撃し、カノン砲で近づく敵を打っていた。
要塞都市の大砲やバリスタを守っていた煙幕の効果が薄れてきているような気がする。
●
巨人達の中衛が防衛ラインの傍に近づいてきていることにアウレールが気付く。
「エラ! このままだと、第一防衛ラインが突破される!」
アウレールがインカム越しに叫ぶ。
『わかった。第一防衛ラインと第二防衛ラインの間で火力を集中し、敵中衛を殲滅する』
エラとの通話の後、アウレールはムスペルへ侵攻停滞部への火炎弾発射をさせる。
力の差があるという訳ではない。
数が多すぎることも、持久戦になることもハンター達も辺境戦士達も覚悟している。後退については否定の意見はなく、防衛ラインを下げていった。
前線にも撤退の話が届いており、最前線で戦っていたアニスは了解の応答をした後、近づく巨人に悪態をついた。
舌打ちと共にアニスはアクティブスラスターを起動させて距離を取る。
「むさいデカブツと踊る気は無ぇよ」
巨人が持つ太刀から逃げようとしても相手は追ってきた。アニスと巨人の間に入ってきたのはガルガリン。
振り下ろされた太刀を食い止めたのは大きな翼に似た形状の刃を持つ大太刀。優美なデザインだが、剣捌きは大胆。
『隊長ちゃん、だいじょーびー?』
アニスの通信回線から聞こえるのはゾファルの声。
「悪ぃな、助かった」
後退していく中でアニスが声をかける。
迎撃を外れた巨人がいた事に気づいた旭は伝話で位置を伝える。
応答してくれたのは近くにいるらしいシオンだった。彼女の到着まで旭はロジャックと共に巨人の対応を行う。
対する巨人が持つ武器は太刀。
ロジャックは身体を回転させつつ不規則な飛行軌道をとって回避し、隙を見ては幻獣砲「狼炎」を放つ。
巨人は腕を交差して頭部への直撃を避けるが、そこには神威に乗っているシオンがいた。
「フン、誰と思ったか」
不敵な笑みを浮かべたシオンが大きく踏み込んで「村正」を突き、巨人を貫く。
人類側の最前線では第一防衛ラインから後退していたのはファリフが率いる辺境戦士も同じ。
殿を務めるのはジャックとファリフとトリシュヴァーナ。
棍棒を持つ巨人と対峙しているのはファリフで、大斧で応対しており、ジャックはゴースロンに騎乗したままチャージングを行っていた。
「ファリフ!」
ジャックが叫ぶと、ファリフは素早く巨人の棍棒を大斧で押し返して身を翻す。ファリフを追おうとする巨人だが、眼前にはジャックが力任せに武器を振り回している。
バスタードソードが巨人の腹部を斬りつけた。
「背後! ウィザードきます!」
アシェールの掛け声にファリフとジャックは全速力でその場を去っていく。
味方が巻き込まれないことを確認したエルバッハは試作電磁加速砲「ドンナー」を発射させた。電撃を纏った弾丸が巨人へと撃ち込まれた。
前線の巨人は第二防衛ラインを越えようとしている。
「こっち!」
そう叫んだセリナがリゲルを走らせて巨人を誘導していた。誘い込む場所は二枚目と三枚目の防衛ライン上にある落とし穴。
更にセツナも魔導バイクでセリナと別方向の落とし穴へと巨人を誘導していた。
「大丈夫ですか!」
錬介は地に足をついて苦しんでいる辺境戦士を見つけ、声をかける。
防具より血が滲んで重力に従って滴っていた事に気づき、背中を見やると、背に大きな怪我をしていた。
即座に祈りを捧げ、フルリカバリーの暖かい光が辺境戦士を包みこんでいく。安堵のため息をついた辺境戦士が受けた傷が癒えていく。
「助かる」
同じ部族だろう戦士が錬介に礼を告げる。
「いえ、早く後退を」
錬介は怪我をしていた戦士を起こすと、同部族の戦士へ預けた。
自分達の背後には巨人が迫ってきている。次に錬介が発動させた魔法はプルガトリオだ。
中空に無数の闇の刃を作り出し、巨人へと向ける。味方と判別していない巨人へ全ての刃が刺さっていく。
時間稼ぎにはなるだろうと錬介も後退を始めた時、横からマテリアルの刃を伸ばした槍状の物が視界に入る。
Mライフル「イースクラW」の機能の一つで、銃口にマテリアルの刃を形成し、槍として使用することも可能だ。
穂先を巨人に差し込み、行動を阻害したのはざくろの魔動冒険機『アルカディア』だ。
「早く後退するんだ!」
ざくろの言葉に錬介は後退し、鬼六へ支援砲撃を支持する。
第一と第二の防衛ラインの間では人型ユニットや魔法による集中砲火が始まっていた。
「ここで削りますよぉ」
ハナは周囲の情報も聞きつつ、試作型スラスターライフルで一気に撃ち込んでいく。
チェーンガンのような構造を持つスラスターライフルは取り回しは悪いが、一度の発射数が多く瞬間火力の高さがある。
一気に弾丸を巨人へと向け、倒していく。
少し離れたところにいたエニアはフォースリングに意識を向け、マジックアローを発動させる。リングの効力で本来一本の矢が五本になっている。
矢を放つと、巨人の頭部を撃ち抜いていく。
リュラは偵察隊の巨人情報とハンターの動向のチェックをしていた。彼女が打ち込もうとしている地点にはハンターがいないことを確認すると、セントヘレンズに弾着修正指示をかけた。
「まだまだ……いるようね……」
慌てることも落ち込むことはないが、ハンター達に疲れが滲みだしているような気がする。
「十秒後……砲撃」
警告をすると、伝話の向こうから他の回線へ警告を流している。
きっかり十秒後、セントヘレンズより炸裂弾が発射され、巨人達へ弾が飛んでいく。
グリフォンのオーデムに上空へと運ばれていたヴィルマはメテオスウォームで巨人達への砲火に参加していた。
砲撃による煽り風に反射的に目を眇めていたが、違和感に気づく。
「後方! 気を付けるのじゃ!」
集中砲火を受けている巨人達の中に盾兵に守られている射撃手複数を見つける。
「隠れるように銃を要塞都市へと向けておる!」
急いでヴィルマがライトニングボルトの詠唱を始めた。
同時に射撃手達が要塞都市へ砲撃を始める。
ヴィルマの警告から情報を聞きつけ飛んできたのはユリアンのラファルだ。ルナも同乗している。
「ミューズ!」
ルナの呼び声に応えるためにミューズは猫たちの挽歌を歌う。
愁いを帯びた旋律が響き、巨人達へ伝わったのか、砲撃が遅れ始めている。
「猫たちの挽歌の効果が出ている! 砲撃を頼む!」
ユリアンが旋回し、脱出しようとする。近くにいたヴィルマも彼に合わせてその場から離れた。
「一気に削るぞ! 合わせられる奴はぶっ放せ!」
アニスが叫ぶと、レラージュ・ベナンディに射撃適正をかけて巨人達へ砲口を向ける。
呼び応えに応えた前衛達も射撃手の巨人達へと向けた。
ハンター達の一撃が纏まり、第一、第二防衛ラインにいた射撃手の巨人と周囲の巨人達の半数を殲滅することに成功する。
●
巨人が要塞都市への砲撃を始めたのをきっかけに、前にいた巨人達の射撃手の残りが砲撃を始めた。
それに対応したのはユノだ。アースウォールで壁を作るが、更に弾丸が押し込まれたが、目くらましの絵に撃ち込まれたので、武器の損傷は今のところない。
魔導スマートフォンで射撃手の位置を伝える。
尚も射撃手は要塞都市への砲撃を続けようとしていた。
チョココも駆け付け、ライトニングボルトで支援射撃をする。
ハンターの姿がなくなると、後方より飛んできたミサイルランチャーが射撃手の巨人へ命中する。
ユノが振り向くと、闇色のオファニム、無銘の砲口より煙が吹いていた。
「情報が入っているだろうが、第二防衛ラインの辺りに巨人の射撃手がいる。位置を教えてくれたらこちらも対応する」
インカムより惣助が情報を流す。
要塞都市壁付近に陣取ったデスドクロはFシールド「ハイラハドム」の能力を使って盾を浮遊させて武器を守っていた。
前では他のハンター達が一進一退の攻防を繰り広げている。
「まだまだ俺様の出番は遠いな……」
ふっと笑むデスドクロは カノン砲で落とし穴に嵌って体勢を整えようとする巨人へトドメの一撃を入れていた。
前衛への支援射撃をしていた観智は後退する辺境戦士を狙う巨人複数を見つけ、距離を見極めて標準を定める。
その間に伝話で状況を伝え、辺境戦士を巻き込まない事を確認した観智はガトリングガンを発動させた。
アリアドネで駆けつけたGacruxは後退する辺境戦士の盾となる立ち位置で200mm4連カノン砲で支援射撃を行う。
辺境戦士をはじめとする味方が周囲にいなくなると、更に105mmスナイパーライフルで遠方の敵を撃ち倒していった。
「他に後退中の味方はいるか」
Gacruxが通信で尋ねると、まだいると返答があった。現在相手をしている巨人達が倒れると、彼は支援の為、再び移動を開始する。
●
第二と第三ラインの間で掘った落とし穴へ巨人達が落ちていった。
ミグの案で更に底には杭を仕込んでおり、容易に体勢を直すことはできないようになっているし、更に崖へ登れないように工夫も凝らしている。
巨人達の山が出来ていくほどに歪虚の数が多すぎた。
「まずいっす……」
神楽が呟いた。ゴーレムのCモード「bind」にも巨人が引っかかり、動きを止めて味方と共に倒していたが、それでも雪崩れてくる。
「ヤバイっす! まだ来るっす!」
伝話で叫ぶと、『危険と思ったら後退を始めて』と返答が来た。
各ハンターにも後退の伝令が流れ、辺境部族と共に後退していく。
最前線ではファリフが大斧で巨人の足を斬り倒し、体勢を崩したところでトリシュヴァーナが前足で攻撃を加えていた。
「ファリフさん、後退を!」
「わかったよ、アシェールさん。皆が後退する道の確保をお願い」
「はい」
ファリフに頼まれたアシェールはアースウォールで落とし穴を渡す道を作り移動させる。辺境戦士達が粗方渡ると、アシェールはファリフもと促そうとするが、彼女の表情を見て促す言葉を忘れてしまう。
「大丈夫だよ。要塞都市に歪虚が到達させなければいいんだから」
ふっと笑むファリフはアースウォールの橋へと向かう。
「最後まで戦うよ。辺境戦士の士気を下げるわけにはいかない。ボクだけじゃなく、皆の戦う姿にも士気が上がると思う。だから、ハンターの皆も戦ってほしい」
「勿論です」
にこりと微笑んでアシェールは頷く。
ペガサスに乗って敵の状況を確認していたルカだったが、味方の射線から離れた巨人を大弓「無窮」で射倒していった。
そろそろ、味方の気力も尽きつつあるようにも思えたが、敵の数が少なくなっているのは明白であったことが士気が下がらない要因だと思える。
防衛ラインを後退したアウレールは周囲をぐるっと見やる。
振動が他から近づいてきているような気がするのだ。混戦の中での迷いかと思ったが、彼の予想は的中していた。
「聞こえるか! 敵は迂回して防衛ラインを越えてきた!」
通信役へ位置を伝えた後、アウレールはムスペルへ迂回してきた巨人への砲撃を命じる。
迂回して奇襲となった巨人は少数であったが、その手には巨人用突撃砲を構えている巨人も確認した。
情報を聞きつける前に迂回をしてきた巨人の姿を見つけたのはチョココだ。あの距離では要塞都市への直撃は免れない。
チョココはアーデルベルトに乗って向かう。イェジドの速度はリーリーには届かないが、移動速度は速い。
素早くチョココが望む場所まで駆けていって塹壕の中にすっぽりと入った。射線上には突撃砲を構えている巨人がいる。丁度良く影になっていて、気付かれることはなかった。
アウレールの砲撃が始まっており、巨人兵も要塞都市へ撃ち出している。チョココは敵の砲撃を止めるためにライトニングボルトを発動させ、一直線に紫電が走り、突撃砲を構えている巨人へと命中した。
後ろの方はユノがアースウォールで防御しており、要塞都市の大砲が更に近くなった巨人へと砲撃を始めている。
更にはじめが駆けつけると、白龍の息吹を発動し、砲撃回数が減った。
その隙に一斉に射撃を始めた。
迂回をして奇襲してきたのは一方ではなく、反対側からも越えてきた。
そちらの方も動けるハンター達が対応しており、初手に動いたのはエニアで、ブリザードで動きを鈍らせる。
続いて、ゾファルのガルちゃんが装備している斬艦刀「天翼」で前列の盾兵を一打撃砕「星砕き」で叩き斬った。ゾファルは深追いせず、すぐに離脱した。
「ミグ!」
いつでもいけるとゾファルが通信越しにミグへ伝える。
「了解じゃ。砲撃行けるかのぅ」
連結通話で駆けつけたハンターへ回線を繋げたミグが問う。了承の返答に対し、「十秒後一斉砲撃じゃ」とミグが告げた。
「迂回して奇襲とは、怠惰の歪虚のクセに随分と頭が回るのぅ」
ミグが軽口を叩くと、エルバッハとGacruxと共に一斉に巨人へと射撃に入る。
射撃手を守ろうと太刀や棍棒を持った巨人兵が前に出た。
「狙いは足を。倒れてしまえば腕で進む前に倒せます」
Gacruxが巨人兵の足を狙ってアリアドネのマルチロックオンを展開する。ロックが完了すると、200mm4連カノン砲を発射させる。
足を砕かれたかのように前に出た巨人達が前のめりに倒れていき、射撃手の姿が見えた。
すかさずエルバッハがスキルトレースでウィンドスラッシュを発動し、射撃手の巨人を斬り裂く。
「トドメだぁ!」
ガルガリンを走らせ、ゾファルは射撃手の巨人を斬り倒す。
●
下がった防衛ラインでははじめが白龍の息吹を使い、巨人達の同士討ちを誘発させる。白龍の息吹の効力にかかった巨人は近くにいる同胞を太刀で斬りつけ、棍棒でその頭を叩き割った。
辺境戦士達も傷つきながらも、戦うことを止めず、巨人兵に立ち向かっている。セツナはバイクより降りて戦っていた。
セツナは中衛にて納刀状態で構えてマテリアルを練って精度を高めている。
顔を上げて一気に間合いを詰めた。
辺境戦士達もセツナの動きに注視しており、彼女が駆け出した瞬間、距離を取って駆け出す。
「此の閃は貫き穿ち、数多を断つ――」
巨人数体が密集する場所へ飛び込んだ。
「花は散りゆき、無へと消ゆ――」
セツナは太刀「宗三左文字」を一気に引き抜いた。
「『絶花』!!」
抜かれる刀は、迷いも、曇りもない。流れる水の如く。巨人達へ解き放たれる一閃は琥珀色の軌跡を描いた。
巨人の身体が地に落ち行く花の如く。
倒れ行く巨人達を見て、セツナは肩で息をしていた。通信から離れる指示が出たので、身を屈めて駆け出して距離をおく。
頭上を越えていくのは味方のキャノン砲。
●
防衛ラインの前線ではCAMに搭乗したハンター達が巨人達へ砲撃を続けていた。
数も削られており、巨人の姿も作戦開始より明らかに減ってきていたのが目に見えてわかるほど。
「射撃手の姿は見えるか?」
リクは味方を守るような立ち位置で巨人と応戦していた。そんな中でも彼は情報の共有をし続けていた。
応答は見当たらないとの事。
射撃手を守っていた盾兵もおらず、現時点で殆どの射撃手が倒されたことが確定されたが、まだ隠れている可能性も伝達する。
前方にいるのは敵。斬艦刀を振り回しても横に味方はいない。
「約七割……ってところかな。要塞都市はだまし絵のおかげで壁の一部が破損……武器はまだ動いている……」
ぽつり、ぽつりと呟くリクは誰に向けたものではない。
自分を鼓舞するための報告。
『辺境戦士にけが人は多いが、死人はいない』
そっと言葉を差し込んだのはエラだ。彼女もまた、リクと同じく今回の情報収集、共有に力を入れてくれた。
人が死んでいない。
共に歪虚を倒そうとしているハンターも生きている。この地に生きる者ならば尚更にホッとしてしまう。
「もうひと踏ん張りだ」と、彼は呟く。
目の前にいる太刀を持った巨人を討つ為、インスレーター・SFは雲がかかった山のようにも見える大太刀「雲山」を振り上げ、巨人目がけて叩き落す。
『リク! 左!』
飛び込んできたのはざくろの声。
左から巨人がリク目がけて襲ってきていたが、不自然に動きが止められている。
虚空より現れた無数の手が巨人に絡みついていた。
「今っすよー!」
背後からこっそり隠れながら神楽がファントムハンドを発動させていたのだ。リクは別の通信に気づき、アクティブスラスターの機動性でその場を離れる。
タイミングよく、弾丸が巨人へと命中した。
『助かった』
リクが通話越しに礼を言ったのは後方で射撃をしていた惣助。
●
その後も巨人の掃討は続いていき、武装巨人対応部隊は約八割の殲滅が出来た事が判明する。
怠惰王撃破部隊の方にも巨人は行っていたようで、そちらの方でも巨人が倒されたこと情報があった。
巨人の姿が見えなくなった戦場でハンターと辺境戦士は怪我の治療と束の間の休息をとる。
「あんなのでいいかな」
ユノへそう尋ねたのはファリフ・スコール(kz0009)だった。
「目くらましだからね。ざっくりとしたので大丈夫」
現在、大砲やボウガンにかけられているのは要塞都市を守る壁の色に染められた布……というか麻袋を広げて縫い合わせたもの。
要塞都市の壁には金属の粉で大砲のような絵をざっくりと描かれてあったが、近くで見るとよくわからない。
巨人には遠距離対応できる武器を持っているので、少しでも巨人の目を逸らしたい考えのもとだ。
ハンター達の提案を聞いたファリフがドワーフ工房に掛け合って、工房にあるもので急ごしらえで調達してくれた。
「辺境の力だけで何とかしたい気持ちはあるけど……今回の件はそれを凌駕する。何でもしなきゃ生き残れないと思う」
真摯な様子を見せるファリフにユノは静かに見つめる。
「だから、また皆の力を借りるよ」
にこっと笑うファリフは真面目な様子であるが、気負った様子は見受けられない。
ほんの少しだけ和やかな様子だが、これから激しい戦いが始まる。
辺境部族の戦士がファリフに準備が整った旨を伝えた。
「ここはよろしくね」
ファリフはそう言って前線の方へと向かう。
防衛ラインの二枚目と三枚目のある地点では今でも作業が進められていた。
神楽(ka2032)をはじめとする有志達が刻令ゴーレムや魔導アーマーを使い、黙々と地に穴を掘っている。
人が埋まるには広すぎるその穴の狙いは巨人だ。深さもしっかり掘られており、一度嵌れば抜けるのは大変だろう。
掘った分だけの土は三枚目の防衛ライン側へ土堤のように盛っている。
穴を掘って、土堤を作るのも一苦労であるが、これも少しでも巨人の動きを鈍らせるためのもの。
「木を立てるっすよー」
神楽が周囲に気を付けつつ、ゴーレムに木を立てさせる。
一定間隔で前衛の味方が通れる通路も用意しており、木と木の短い路が目印となっていた。
「傷ついた仲間が通る道にならないといいけど」
ひとりごちて呟いく鳳城 錬介(ka6053)は再び刻令ゴーレムの掛矢鬼六を操って穴を掘り始める。
誰も傷ついてほしくないと思うのは皆、同じだ。
最後の穴掘り部分に着手していた保・はじめ(ka5800)に神楽と錬介もそれぞれ手伝いに入る。
作業が終了すると、神楽が戦域情報集約しているハンターへと繋ぐ。
「あ、穴掘り作業が終了したっす。そっちはどうっすか?」
魔導スマートフォンで神楽が回線を繋げたのはアシェール(ka2983)だ。
「歪虚がかなり近づいてきてます。会敵までまもなくかと思います」
アシェールの視界には歪虚が要塞都市へと向かってきていた。速度はゆっくりと感じるが、殆どが巨人であるため、歩幅で距離が縮んでいくようだった。
通話相手の神楽は会敵に備えると言ってアシェールとの通話を終了する。
次にアシェールは情報を共有するために回線を繋げたのはキヅカ・リク(ka0038)だ。
「落とし穴作業、完了したそうです。他の配置の方はいかがですか?」
周囲の警戒を怠らず尋ねると、『整っている。そろそろ向こうの射程距離に入るだろうから、気を付けて』と返ってきた。
「了解しました」
通話を終了したアシェールは背後を振り向く。
「持ち場離れてごめんなさい」
前線へ戻ってきたファリフが声をかける。
「お帰り」
調子のよい声でファリフに声をかけたのはジャック・エルギン(ka1522)だ。
「もう少しで始まるね」
「そうだな、辺境戦士が頑張るとあっちゃ、こっちも負けてられねぇからな」
ジャックが「ヘヘッ」と笑う。
「ハンターの皆と戦えるのは心強いからね。頼むね」
そう言ったファリフは自身の獲物である身の丈もある斧を肩に担ぐ。
●
敵もそれなりに知能があるのは人類側も理解している。
怠惰王の大多数の駒であり、ファリフや辺境部族戦士と共に戦うハンター達が対するのは数々の武器や防具を身につけた巨人。
倒せない戦力ではない。
問題は敵の数だ。
数えるのも面倒になってしまうほどの歪虚が押し寄せている。
歩調は遅いが、確実に近づいてきていた。
イェジドのアーデルベルトに乗っていたチョココ(ka2449)は周囲を見回す。
「あら……ハムさんはここにはいないですの?」
これから敵と戦うのだが、おっとりとした口調は変わらず、チョココはハムさんこと、チューダの姿を探す。
前回、あれだけ頑張ったので、今は美人巫女の膝の上でぐぅたら避難しているのかもしれない。
「ホント、困りますね……『怠惰』が勤勉とは」
溜息と共に呟いたのは天央 観智(ka0896)。
既に搭乗している魔導型デュミナスは射撃戦仕様にしていた。巨人も射撃武器を所持しており、少しでも相手の攻撃力を削がなければならない。
歪虚との会敵を前にアウレール・V・ブラオラント(ka2531)がベルにハンターに煙幕弾を発射させる旨の注意を頼んだ。
目的は味方の戦力秘匿と要塞都市への砲撃被害を緩和させること。
「力押しされたらそれまでだが……被害が抑えることが出来ればいい」
そう呟いてアウレールは煙幕弾を発射した。
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)はワイバーンの北極に騎乗し、巨人兵が擁する射撃手の位置を特定していた。
軍用双眼鏡を使用して地道に探している。
敵は興奮している様子でもなく、武器を抱えて進んでいた。
「報告、敵は小隊ごとに列をなしている」
連結通話を使用し、手持ちの端末で複数の仲間に情報を伝える。彼女の視界はスナイパー部隊を捉えていた。
しかし、少数しか見当たらないところから、複数あると思ったが、予測は口にせずに今攻撃できるスナイパー部隊の場所を伝える。
「了解」
エラより受けた報告をリク達が情報を回していく。
先に動いたのはエラと直接通話をしていたアニス・テスタロッサ(ka0141)。彼女はR6M3a魔導型デュミナス改……通称オファニムに搭載されたプラズマキャノン「アークスレイ」射程距離ギリギリまで待機する。
向こうの射程距離もあるが、今飛び込むわけにはいかない。
睨み合いのような時間の中で、巨人兵射撃手が彼女の射程距離内に入った。
「来た」
アニスは即座に戦闘プログラム:射撃適正を展開し、マルチロックオンで射撃手達を標的とする。
インカムより、『向こうの射撃手もこちらを狙っている』と警告の連絡が入った。
「甘ぇよ」
鼻で笑ったアニスは確信がそこに在る。
「撃たせるか」
奴らより早く撃つ自信が。
そして、自信の通りにキャノン砲が放たれる。彼女が標的とした射撃手の巨人兵へ。
見事命中し、その辺りの隊列が乱れた。
今の一撃が開幕の合図となって戦いが始まる。
ハンター達や辺境部族も、敵対する巨人兵も更に速度を上げて互いの敵陣へと向かっていく。
「さぁ行くよ! 巨人軍団を食い止めるんだ!」
時音 ざくろ(ka1250)は気合を入れて叫ぶ。愛機の魔動冒険機『アルカディア』を駆り、最前線へと向かう。
アルカディアに構えさせたのはMライフル「イースクラW」。スキルトレースを使用し、光で出来た三角形を発動させた。
発射された光はこちらへと向かってくる巨人の頭を貫いたが、まだこちらへと向かってきている。
足止めでもやらなければならない。
ドミニオンMk.?に搭乗しているゾファル・G・初火(ka4407)はざくろと同じく最前線にいた。
辺境の大地を黒く塗りつぶしていく巨人兵を絶望と例える者もいるだろうが、ゾファルにとって、それは恐れよりも倒せるという喜びの黒だ。
「ヒャッハー! ぶっとちばしてやるじゃん」
キラキラと目を輝かせるゾファルに『これ、周囲を忘れるなよ』と魔導短伝話越しに声をかけたのはミグ・ロマイヤー(ka0665)。
「わかってるってー」
そう応えるゾファルの言葉にミグはくつくつと笑う。
ダインスレイブのヤクト・バウ・PCから見るゾファルのガルガリンこと、ガルちゃんは斬艦刀「天翼」を構えて敵陣へと踊り飛び込んでいた。
PGシールド「ヴェラッシング」すらも武器のように水平にして巨人の腹部を狙って抉りこむ。
襲い掛かる攻撃にはマテリアルカーテンを使用して回避して、敵を動かせていた。
前線が食い止めていたとはいえ、多数の敵が雪崩れ込んできており、最前線の後ろの隊列が対応することになる。
「よし! 行くぞ!」
ゴースロンに騎乗しているジャックが駆け出す。
「辺境戦士よ! 恐れるな! この地に生きる者を守り、ハンターと共に戦うんだ!」
大きくよく通るファリフの声が辺境戦士達に届く。彼女が乗っているのは自身が族長となった宿命である大幻獣トリシュヴァーナ。
彼女と共に運命を切り拓くハンターは辺境戦士の士気が上がっていくのをアシェールはファリフの傍らで聞いていた。
雪崩れ込んでくる敵部隊の巨人達の足元を駆けていくのは一体のリーリー。
本来は臆病な性質を持つリーリーだが、そのスピードに臆する様子はなかった。
リーリーのに乗っているのはセリナ・アガスティア(ka6094)。
二メートルはある体躯だが、リゲルは戦場を猛然と駆けていく。セリナの細い指が符を中空に放つと、巨人達に紫電の稲妻が走り、行動を阻害した。
風雷陣を受けなかった巨人が太刀をセリナへと振り下ろす。
リゲルがセリナへ降ろされる凶刃を躱そうと猛スピードで駆けていくが、スレスレでセリナの背が斬られてしまう。
心配そうな視線に気付くセリナは「大丈夫……」と呟く。
「リゲル……あんたがこの戦場で、最速よ!」
そう叫び、リゲルを鼓舞するセリナの言葉に応えるようにダッシュの速度を上げた。
巨人達を翻弄し、意識を逸らさせる。
走っていると、ペガサスに乗ったハンターがセリナの方へと向かってきた。
「大丈夫ですか……!」
心配そうに尋ねてきたのはルカ(ka0962)だ。ヒールウィンドを発動した白縹の光る風を受けたセリナの傷がみるみるうちに治っていく。
「ありがとうございます」
セリナが礼を言うと、ルカは手薄のところに巨人兵が向かう旨の情報を伝える。その情報に彼女は再びリーリーのリゲルを走らせる。
前線や防衛ライン上では更に敵射撃手の特定が急がれていた。
ワイバーンのロジャックに乗っている岩井崎 旭(ka0234)は高度を上げつつ、射撃手の巨人を探している。
ロジャックを旋回させて風を切り、敵の的にならないようにしていた。
「わ……!」
敵が旭達に気づき、撃ってきたが、何とか回避する。ロジャックのバランスが崩れ、高度が落ちるが、味方陣営へ後退しつつ体勢を直していく。
「射撃手を見つけた!」
後退しながらも旭は魔導短伝話で味方に位置を伝える。
旭の報告を受けたリクがその位置に近い味方を探し出す。
「聞こえる!? 今味方が砲撃に遭った!」
位置を伝え、返ってきたのは『了解……十秒後砲撃』という警告と座標位置の知らせ。そこに味方が移動してこないようにしてほしいからだ。
リクへの応答を終えたのは前線にいるリュラ=H=アズライト(ka0304)。歪虚より距離をとり、刻令ゴーレム「Volcanius」のセントヘレンズへ指示を行う。
「ビックマー砲撃したかったけど……」
どこか残念そうに呟くリュラたが、まずは巨人兵を倒さなくてはならない。
リュラの呟きの後、炸裂弾が目標である歪虚へ炸裂した。
間合いを取ったはずの彼女の前へ巨人が迫ってくる。長い足の分だけリーチがある。
「その分……当てやすい……!」
地を駆けるもので加速したリュラは複数の巨人がいる場所へ飛び込み、自身の身丈より長いハンマーごと身体を回転させた。
ドールハンマー「ジオメトリカ」がもつ特性で攻撃時にマテリアル噴射して勢いを増して巨人兵の足を砕くように払い、周囲の巨人達を転ばしていく。
勢いづいたハンマーは更にワイルドラッシュの連続技で頭を割った。
景気のいい前線支援射撃を横目に見ていた不動 シオン(ka5395)は固く結んだ唇を少し緩ませる。
目の前には怠惰王の駒がいるのだ。
普段の戦いではお目にかかれない歪虚の武器を持ち、こちらへと向かい、人類を殺そうとしている。
戦う力を持たぬものならば、絶望となるが、彼女にとっては渇きを潤すことが出来る喜びを与えてくれる存在。
「往くぞ」
シオンの声掛けにイェジドの神威が反応し、巨人へ咆哮を向ける。
その咆哮はウォークライの効力を発揮しており、周辺の巨人達が神威の咆哮に気圧されてしまう。
神威が巨人の方へと駆け出すと、巨人達も動きを鈍らせながらもシオンを狙おうと武器を振りかぶる。
「そうでなくてはな」
妖刀「村正」を抜くシオンは巨人へと神威を走らせた。
黒い刀身の大太刀を振り回して巨人の腹から腿にかけて斬りつけ、更に腿の斬り口より更に刃を当てて足を斬り落とす。
ペガサスのリレィンに乗って飛んでいる十色 エニア(ka0370)は意識を集中し、妖精達の力を借りてより多くのマテリアルを集めていた。
漏れ出すマテリアルが煌めく翅の形をとり、妖精が寄り添っているような幻影が揺れるような気が……する。
空間に一瞬、冷気の嵐が吹き荒れエニアはブリザードを発動させた。
皮膚を凍り付かせる冷気の嵐は射撃手の巨人を狙ったが、盾持ちの巨人達が射撃手を守るように囲む。
一見、失敗のように見えるが、エニアとしては盾持ちの巨人を行動阻害させて射撃手の巨人を無防備にするのも目的なので十分だ。
そして、更に情報は伝わっていくだろう。
「はぁーい! 了解しましたよぉー!」
明るく可愛い声音で応えたのは星野 ハナ(ka5852)。
「いやはや、向こうも勉強してますねぇ……」
報告では盾を持つ歪虚は射撃手を守っているという。
遠距離で壊せるものなら壊そうという考えを持っているように思えるからだ。
繋がれた回線より告げられた位置を砲撃するべくR7エクスシアが構えるロングレンジライフル「ルギートゥスD5」で標準を定める。
砲弾を射出すると、周囲に響く砲声がドラゴンの咆哮のように聞こえてしまうほどの迫力。
盾を持っている歪虚ごと撃ち込んでいき、砲声に負けない威力を見せつけた。
●
確かにハンター達の攻撃は効いており、倒れる歪虚はいた。
しかし、巨人兵の数はあまりに多く、攻撃が届かずに人類側の方へと雪崩れ込んでいく。
高度を上げていくのはユリアン(ka1664)のグリフォンであるラファル。同乗者はルナ・レンフィールド(ka1565)とそのユグディラのミューズだ。
軽いミューズは風で飛ばされそうだが、必死にルナにしがみつく。
「しっかり捕まって!」
ユリアンの注意に従うのが精いっぱいのルナであるが、今はそれどころではない。
高い透明度を持つレンズのモノクル「クリスタルオブウィズダム」より眼下の敵を見下ろす。
いける……と判断した瞬間、ルナは一気に集中を高め、息を吸う。
「謳われるは英雄の詩、請われるは勝利。希望の火は闇を斬り払い、未来を示さん。」
ルナが謳う旋律が赤い光となり溢れ出していった。光は敵を包むように広がる。
「奏で謳いましょう。ラプソディー『クリムゾン サーガ』!」
風の音に負けないルナの声は辺境の中空に良く響き、敵のマテリアルを圧していった。
周囲に人の姿はなく、ルナが発動したのはグラビティフォール。
巨人達の周囲に紫色の光を伴う重力波を発生させた。
重力は対象巨人の各個体を中心に収束し、動きを止め、その身体すらも壊していく。巨人ともあり、その耐久度は高く、動きを制限されるだけにとどめていた。
ルナの美しい歌声にラファルの動きが軽いような気がすると思うユリアンは『それもそうか』と納得する。
歌姫の歌をすぐ近くで聞けることは贅にして幸福だ。
歪虚討伐に成功したら、ご褒美も強請ってくるだろう。
まずは歪虚を倒さねばならない。
ユリアンは精霊刀「真星」を抜き、フライングファイトで一気に加速して敵の方へと向かう。ラファルとの動きを合わせ、彼らは狙いを定めて同時に動きが鈍った巨人へ一撃を決めた。
ぐるり、と旋回したラファルはすぐさま後退して巨人の間合いから遠ざける。
「キヅカさん! 今、グラビティフォールで動けない巨人兵がいるよ!」
ルナが叫ぶと、通話の向こうのリクが受け止める。
「わかった! 今支援に行く!」
すぐにハンターへ情報を流す。後方にいたが、前に出てきてくれたのはヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549)。
「我が承ろう」
リクもまた、前に出て支援射撃を行うと返答があった。
「オーデム、行くぞ」
騎乗しているグリフォンが翼を広げて呼応し、飛翔する。
「流れてきた情報では、射撃手には盾兵が近くに居るのじゃろぅ? こちらであぶり出し、その隙に撃つがよい」
魔導スマートフォンより『了解』の声が聞こえた。
範囲ギリギリのところでオーデムが翼を振り、中空で停まる。
その間にヴィルマはエクステンドキャストのアクションでマテリアルを練り上げた。膨大なマテリアルで彼女の頭上に火球が三つ現れた。
「星よ降れさながらこの世の終わりのごとく。巨人を焼く鉄槌となりて彼の者らへ終焉の帳を」
魔杖「ランブロス」を掲げ、ヴィルマが言の葉を乗せた。虹色の光が一瞬ヴィルマを包む。
勢いよく燃え盛っていく火球を次々に降り注がせる。火に気づいた盾兵が防ごうとしたが、一気に爆散させた。広範囲に燃える火力で盾兵へのダメージは高かった。
すぐさまヴィルマが後退していったのをリクが確認すると、ガトリングガン「エヴェクサブトスT7」でメテオスウォームでダメージを負った巨人兵を掃射する。
●
第一防衛ラインを越えようとする最前線の巨人達はもれなくハンター達の格好の的となっていた。
エルバッハ・リオン(ka2434)は黒色に魔法陣が描かれた機体をもつR7エクスシアのウィザードに乗り込んでおり、迫りくる巨人をカノン砲で迎え撃つ。
「ここから先には行かせませんよ。ここをあなたたちの最期の地にしてあげます」
凛と呟くエルバッハは更に向かってくる敵へとカノン砲を撃ち込んでいく。
前線のハンターが倒せた巨人は確かに多いが、迫りくる敵はまだおり、その数は多かった。
防衛ラインに近寄らせないため、ギリギリの場所で固定射撃を行っていたのは近衛 惣助(ka0510)。
機動力と射撃に特化したオファニムは的確に巨人を撃ち抜いている。
前線からの情報を基に、ハンターと歪虚の位置を把握していた。
「ショウタイムにしては早すぎたな」
人類側に目立ったミスはない。敵の多さはそれを上回っていることが理解させられる。
だが、迫ってきているのであれば、敵を打ち倒す。
それが彼の仕事だ。
「プラズマクラッカーを使うことがないのはまだ救いか」
ぽつりと呟き、惣助はロングレンジライフルのトリガーを弾く。
味方からの連絡で第二防衛ラインまで達する巨人兵が増えてきている。
第二防衛ラインと第三防衛ラインの間には落とし穴があり、遊撃隊は同行しているユニットを走らせて巨人達を誘い込んでいた。
辺境戦士が多く配置されている場所にて共に戦っているのはセツナ・ウリヤノヴァ(ka5645)。
撃ち漏らしなどで雪崩れ込んできた巨人達が防衛ラインの向こう……要塞都市を目がけて向かってきている。
魔導バイクを駆って辺境戦士達が戦いやすいように巨人を誘導していた。
混戦の中でも小回りが利くので、弓を装備している辺境戦士達の方へ誘導成功すると、ターンして巨人の足元を掻い潜り迂回する。弓隊が巨人へ矢を放つ頃には別の巨人の誘導へ入っていた。
辺境戦士の弓を受けても尚動こうとする巨人へライフル弾が飛んでくる。
その方向にいたのはGacrux(ka2726)の魔導型デュミナス、アリアドネだった。辺境戦士への巻き込まれがない事を確認し、移動しつつ砲撃を行う。
前線から流れ込んでくる情報に耳を傾け、必要な位置があればそこへ砲撃を撃ち込んでいった。
持久戦を覚悟しているとはいえ、敵の多さにGacruxは柳眉を潜めてしまう。
状況の厳しさに厳めしい顔をしているのはデスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)だった。
曰く、彼の暗黒奥義のひとつであるデスナパームグレイトバスターを使えば、巨人を丸ごと全滅させることも可能と自負しているが、どうやら要塞都市ごと消し飛ぶことを考慮してエクスシアのプルートーで出撃し、カノン砲で近づく敵を打っていた。
要塞都市の大砲やバリスタを守っていた煙幕の効果が薄れてきているような気がする。
●
巨人達の中衛が防衛ラインの傍に近づいてきていることにアウレールが気付く。
「エラ! このままだと、第一防衛ラインが突破される!」
アウレールがインカム越しに叫ぶ。
『わかった。第一防衛ラインと第二防衛ラインの間で火力を集中し、敵中衛を殲滅する』
エラとの通話の後、アウレールはムスペルへ侵攻停滞部への火炎弾発射をさせる。
力の差があるという訳ではない。
数が多すぎることも、持久戦になることもハンター達も辺境戦士達も覚悟している。後退については否定の意見はなく、防衛ラインを下げていった。
前線にも撤退の話が届いており、最前線で戦っていたアニスは了解の応答をした後、近づく巨人に悪態をついた。
舌打ちと共にアニスはアクティブスラスターを起動させて距離を取る。
「むさいデカブツと踊る気は無ぇよ」
巨人が持つ太刀から逃げようとしても相手は追ってきた。アニスと巨人の間に入ってきたのはガルガリン。
振り下ろされた太刀を食い止めたのは大きな翼に似た形状の刃を持つ大太刀。優美なデザインだが、剣捌きは大胆。
『隊長ちゃん、だいじょーびー?』
アニスの通信回線から聞こえるのはゾファルの声。
「悪ぃな、助かった」
後退していく中でアニスが声をかける。
迎撃を外れた巨人がいた事に気づいた旭は伝話で位置を伝える。
応答してくれたのは近くにいるらしいシオンだった。彼女の到着まで旭はロジャックと共に巨人の対応を行う。
対する巨人が持つ武器は太刀。
ロジャックは身体を回転させつつ不規則な飛行軌道をとって回避し、隙を見ては幻獣砲「狼炎」を放つ。
巨人は腕を交差して頭部への直撃を避けるが、そこには神威に乗っているシオンがいた。
「フン、誰と思ったか」
不敵な笑みを浮かべたシオンが大きく踏み込んで「村正」を突き、巨人を貫く。
人類側の最前線では第一防衛ラインから後退していたのはファリフが率いる辺境戦士も同じ。
殿を務めるのはジャックとファリフとトリシュヴァーナ。
棍棒を持つ巨人と対峙しているのはファリフで、大斧で応対しており、ジャックはゴースロンに騎乗したままチャージングを行っていた。
「ファリフ!」
ジャックが叫ぶと、ファリフは素早く巨人の棍棒を大斧で押し返して身を翻す。ファリフを追おうとする巨人だが、眼前にはジャックが力任せに武器を振り回している。
バスタードソードが巨人の腹部を斬りつけた。
「背後! ウィザードきます!」
アシェールの掛け声にファリフとジャックは全速力でその場を去っていく。
味方が巻き込まれないことを確認したエルバッハは試作電磁加速砲「ドンナー」を発射させた。電撃を纏った弾丸が巨人へと撃ち込まれた。
前線の巨人は第二防衛ラインを越えようとしている。
「こっち!」
そう叫んだセリナがリゲルを走らせて巨人を誘導していた。誘い込む場所は二枚目と三枚目の防衛ライン上にある落とし穴。
更にセツナも魔導バイクでセリナと別方向の落とし穴へと巨人を誘導していた。
「大丈夫ですか!」
錬介は地に足をついて苦しんでいる辺境戦士を見つけ、声をかける。
防具より血が滲んで重力に従って滴っていた事に気づき、背中を見やると、背に大きな怪我をしていた。
即座に祈りを捧げ、フルリカバリーの暖かい光が辺境戦士を包みこんでいく。安堵のため息をついた辺境戦士が受けた傷が癒えていく。
「助かる」
同じ部族だろう戦士が錬介に礼を告げる。
「いえ、早く後退を」
錬介は怪我をしていた戦士を起こすと、同部族の戦士へ預けた。
自分達の背後には巨人が迫ってきている。次に錬介が発動させた魔法はプルガトリオだ。
中空に無数の闇の刃を作り出し、巨人へと向ける。味方と判別していない巨人へ全ての刃が刺さっていく。
時間稼ぎにはなるだろうと錬介も後退を始めた時、横からマテリアルの刃を伸ばした槍状の物が視界に入る。
Mライフル「イースクラW」の機能の一つで、銃口にマテリアルの刃を形成し、槍として使用することも可能だ。
穂先を巨人に差し込み、行動を阻害したのはざくろの魔動冒険機『アルカディア』だ。
「早く後退するんだ!」
ざくろの言葉に錬介は後退し、鬼六へ支援砲撃を支持する。
第一と第二の防衛ラインの間では人型ユニットや魔法による集中砲火が始まっていた。
「ここで削りますよぉ」
ハナは周囲の情報も聞きつつ、試作型スラスターライフルで一気に撃ち込んでいく。
チェーンガンのような構造を持つスラスターライフルは取り回しは悪いが、一度の発射数が多く瞬間火力の高さがある。
一気に弾丸を巨人へと向け、倒していく。
少し離れたところにいたエニアはフォースリングに意識を向け、マジックアローを発動させる。リングの効力で本来一本の矢が五本になっている。
矢を放つと、巨人の頭部を撃ち抜いていく。
リュラは偵察隊の巨人情報とハンターの動向のチェックをしていた。彼女が打ち込もうとしている地点にはハンターがいないことを確認すると、セントヘレンズに弾着修正指示をかけた。
「まだまだ……いるようね……」
慌てることも落ち込むことはないが、ハンター達に疲れが滲みだしているような気がする。
「十秒後……砲撃」
警告をすると、伝話の向こうから他の回線へ警告を流している。
きっかり十秒後、セントヘレンズより炸裂弾が発射され、巨人達へ弾が飛んでいく。
グリフォンのオーデムに上空へと運ばれていたヴィルマはメテオスウォームで巨人達への砲火に参加していた。
砲撃による煽り風に反射的に目を眇めていたが、違和感に気づく。
「後方! 気を付けるのじゃ!」
集中砲火を受けている巨人達の中に盾兵に守られている射撃手複数を見つける。
「隠れるように銃を要塞都市へと向けておる!」
急いでヴィルマがライトニングボルトの詠唱を始めた。
同時に射撃手達が要塞都市へ砲撃を始める。
ヴィルマの警告から情報を聞きつけ飛んできたのはユリアンのラファルだ。ルナも同乗している。
「ミューズ!」
ルナの呼び声に応えるためにミューズは猫たちの挽歌を歌う。
愁いを帯びた旋律が響き、巨人達へ伝わったのか、砲撃が遅れ始めている。
「猫たちの挽歌の効果が出ている! 砲撃を頼む!」
ユリアンが旋回し、脱出しようとする。近くにいたヴィルマも彼に合わせてその場から離れた。
「一気に削るぞ! 合わせられる奴はぶっ放せ!」
アニスが叫ぶと、レラージュ・ベナンディに射撃適正をかけて巨人達へ砲口を向ける。
呼び応えに応えた前衛達も射撃手の巨人達へと向けた。
ハンター達の一撃が纏まり、第一、第二防衛ラインにいた射撃手の巨人と周囲の巨人達の半数を殲滅することに成功する。
●
巨人が要塞都市への砲撃を始めたのをきっかけに、前にいた巨人達の射撃手の残りが砲撃を始めた。
それに対応したのはユノだ。アースウォールで壁を作るが、更に弾丸が押し込まれたが、目くらましの絵に撃ち込まれたので、武器の損傷は今のところない。
魔導スマートフォンで射撃手の位置を伝える。
尚も射撃手は要塞都市への砲撃を続けようとしていた。
チョココも駆け付け、ライトニングボルトで支援射撃をする。
ハンターの姿がなくなると、後方より飛んできたミサイルランチャーが射撃手の巨人へ命中する。
ユノが振り向くと、闇色のオファニム、無銘の砲口より煙が吹いていた。
「情報が入っているだろうが、第二防衛ラインの辺りに巨人の射撃手がいる。位置を教えてくれたらこちらも対応する」
インカムより惣助が情報を流す。
要塞都市壁付近に陣取ったデスドクロはFシールド「ハイラハドム」の能力を使って盾を浮遊させて武器を守っていた。
前では他のハンター達が一進一退の攻防を繰り広げている。
「まだまだ俺様の出番は遠いな……」
ふっと笑むデスドクロは カノン砲で落とし穴に嵌って体勢を整えようとする巨人へトドメの一撃を入れていた。
前衛への支援射撃をしていた観智は後退する辺境戦士を狙う巨人複数を見つけ、距離を見極めて標準を定める。
その間に伝話で状況を伝え、辺境戦士を巻き込まない事を確認した観智はガトリングガンを発動させた。
アリアドネで駆けつけたGacruxは後退する辺境戦士の盾となる立ち位置で200mm4連カノン砲で支援射撃を行う。
辺境戦士をはじめとする味方が周囲にいなくなると、更に105mmスナイパーライフルで遠方の敵を撃ち倒していった。
「他に後退中の味方はいるか」
Gacruxが通信で尋ねると、まだいると返答があった。現在相手をしている巨人達が倒れると、彼は支援の為、再び移動を開始する。
●
第二と第三ラインの間で掘った落とし穴へ巨人達が落ちていった。
ミグの案で更に底には杭を仕込んでおり、容易に体勢を直すことはできないようになっているし、更に崖へ登れないように工夫も凝らしている。
巨人達の山が出来ていくほどに歪虚の数が多すぎた。
「まずいっす……」
神楽が呟いた。ゴーレムのCモード「bind」にも巨人が引っかかり、動きを止めて味方と共に倒していたが、それでも雪崩れてくる。
「ヤバイっす! まだ来るっす!」
伝話で叫ぶと、『危険と思ったら後退を始めて』と返答が来た。
各ハンターにも後退の伝令が流れ、辺境部族と共に後退していく。
最前線ではファリフが大斧で巨人の足を斬り倒し、体勢を崩したところでトリシュヴァーナが前足で攻撃を加えていた。
「ファリフさん、後退を!」
「わかったよ、アシェールさん。皆が後退する道の確保をお願い」
「はい」
ファリフに頼まれたアシェールはアースウォールで落とし穴を渡す道を作り移動させる。辺境戦士達が粗方渡ると、アシェールはファリフもと促そうとするが、彼女の表情を見て促す言葉を忘れてしまう。
「大丈夫だよ。要塞都市に歪虚が到達させなければいいんだから」
ふっと笑むファリフはアースウォールの橋へと向かう。
「最後まで戦うよ。辺境戦士の士気を下げるわけにはいかない。ボクだけじゃなく、皆の戦う姿にも士気が上がると思う。だから、ハンターの皆も戦ってほしい」
「勿論です」
にこりと微笑んでアシェールは頷く。
ペガサスに乗って敵の状況を確認していたルカだったが、味方の射線から離れた巨人を大弓「無窮」で射倒していった。
そろそろ、味方の気力も尽きつつあるようにも思えたが、敵の数が少なくなっているのは明白であったことが士気が下がらない要因だと思える。
防衛ラインを後退したアウレールは周囲をぐるっと見やる。
振動が他から近づいてきているような気がするのだ。混戦の中での迷いかと思ったが、彼の予想は的中していた。
「聞こえるか! 敵は迂回して防衛ラインを越えてきた!」
通信役へ位置を伝えた後、アウレールはムスペルへ迂回してきた巨人への砲撃を命じる。
迂回して奇襲となった巨人は少数であったが、その手には巨人用突撃砲を構えている巨人も確認した。
情報を聞きつける前に迂回をしてきた巨人の姿を見つけたのはチョココだ。あの距離では要塞都市への直撃は免れない。
チョココはアーデルベルトに乗って向かう。イェジドの速度はリーリーには届かないが、移動速度は速い。
素早くチョココが望む場所まで駆けていって塹壕の中にすっぽりと入った。射線上には突撃砲を構えている巨人がいる。丁度良く影になっていて、気付かれることはなかった。
アウレールの砲撃が始まっており、巨人兵も要塞都市へ撃ち出している。チョココは敵の砲撃を止めるためにライトニングボルトを発動させ、一直線に紫電が走り、突撃砲を構えている巨人へと命中した。
後ろの方はユノがアースウォールで防御しており、要塞都市の大砲が更に近くなった巨人へと砲撃を始めている。
更にはじめが駆けつけると、白龍の息吹を発動し、砲撃回数が減った。
その隙に一斉に射撃を始めた。
迂回をして奇襲してきたのは一方ではなく、反対側からも越えてきた。
そちらの方も動けるハンター達が対応しており、初手に動いたのはエニアで、ブリザードで動きを鈍らせる。
続いて、ゾファルのガルちゃんが装備している斬艦刀「天翼」で前列の盾兵を一打撃砕「星砕き」で叩き斬った。ゾファルは深追いせず、すぐに離脱した。
「ミグ!」
いつでもいけるとゾファルが通信越しにミグへ伝える。
「了解じゃ。砲撃行けるかのぅ」
連結通話で駆けつけたハンターへ回線を繋げたミグが問う。了承の返答に対し、「十秒後一斉砲撃じゃ」とミグが告げた。
「迂回して奇襲とは、怠惰の歪虚のクセに随分と頭が回るのぅ」
ミグが軽口を叩くと、エルバッハとGacruxと共に一斉に巨人へと射撃に入る。
射撃手を守ろうと太刀や棍棒を持った巨人兵が前に出た。
「狙いは足を。倒れてしまえば腕で進む前に倒せます」
Gacruxが巨人兵の足を狙ってアリアドネのマルチロックオンを展開する。ロックが完了すると、200mm4連カノン砲を発射させる。
足を砕かれたかのように前に出た巨人達が前のめりに倒れていき、射撃手の姿が見えた。
すかさずエルバッハがスキルトレースでウィンドスラッシュを発動し、射撃手の巨人を斬り裂く。
「トドメだぁ!」
ガルガリンを走らせ、ゾファルは射撃手の巨人を斬り倒す。
●
下がった防衛ラインでははじめが白龍の息吹を使い、巨人達の同士討ちを誘発させる。白龍の息吹の効力にかかった巨人は近くにいる同胞を太刀で斬りつけ、棍棒でその頭を叩き割った。
辺境戦士達も傷つきながらも、戦うことを止めず、巨人兵に立ち向かっている。セツナはバイクより降りて戦っていた。
セツナは中衛にて納刀状態で構えてマテリアルを練って精度を高めている。
顔を上げて一気に間合いを詰めた。
辺境戦士達もセツナの動きに注視しており、彼女が駆け出した瞬間、距離を取って駆け出す。
「此の閃は貫き穿ち、数多を断つ――」
巨人数体が密集する場所へ飛び込んだ。
「花は散りゆき、無へと消ゆ――」
セツナは太刀「宗三左文字」を一気に引き抜いた。
「『絶花』!!」
抜かれる刀は、迷いも、曇りもない。流れる水の如く。巨人達へ解き放たれる一閃は琥珀色の軌跡を描いた。
巨人の身体が地に落ち行く花の如く。
倒れ行く巨人達を見て、セツナは肩で息をしていた。通信から離れる指示が出たので、身を屈めて駆け出して距離をおく。
頭上を越えていくのは味方のキャノン砲。
●
防衛ラインの前線ではCAMに搭乗したハンター達が巨人達へ砲撃を続けていた。
数も削られており、巨人の姿も作戦開始より明らかに減ってきていたのが目に見えてわかるほど。
「射撃手の姿は見えるか?」
リクは味方を守るような立ち位置で巨人と応戦していた。そんな中でも彼は情報の共有をし続けていた。
応答は見当たらないとの事。
射撃手を守っていた盾兵もおらず、現時点で殆どの射撃手が倒されたことが確定されたが、まだ隠れている可能性も伝達する。
前方にいるのは敵。斬艦刀を振り回しても横に味方はいない。
「約七割……ってところかな。要塞都市はだまし絵のおかげで壁の一部が破損……武器はまだ動いている……」
ぽつり、ぽつりと呟くリクは誰に向けたものではない。
自分を鼓舞するための報告。
『辺境戦士にけが人は多いが、死人はいない』
そっと言葉を差し込んだのはエラだ。彼女もまた、リクと同じく今回の情報収集、共有に力を入れてくれた。
人が死んでいない。
共に歪虚を倒そうとしているハンターも生きている。この地に生きる者ならば尚更にホッとしてしまう。
「もうひと踏ん張りだ」と、彼は呟く。
目の前にいる太刀を持った巨人を討つ為、インスレーター・SFは雲がかかった山のようにも見える大太刀「雲山」を振り上げ、巨人目がけて叩き落す。
『リク! 左!』
飛び込んできたのはざくろの声。
左から巨人がリク目がけて襲ってきていたが、不自然に動きが止められている。
虚空より現れた無数の手が巨人に絡みついていた。
「今っすよー!」
背後からこっそり隠れながら神楽がファントムハンドを発動させていたのだ。リクは別の通信に気づき、アクティブスラスターの機動性でその場を離れる。
タイミングよく、弾丸が巨人へと命中した。
『助かった』
リクが通話越しに礼を言ったのは後方で射撃をしていた惣助。
●
その後も巨人の掃討は続いていき、武装巨人対応部隊は約八割の殲滅が出来た事が判明する。
怠惰王撃破部隊の方にも巨人は行っていたようで、そちらの方でも巨人が倒されたこと情報があった。
巨人の姿が見えなくなった戦場でハンターと辺境戦士は怪我の治療と束の間の休息をとる。
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