• 無し

そして最後に笑う者

マスター:守崎志野

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在4人 / 3~4人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2019/11/07 12:00
リプレイ完成予定
2019/11/16 12:00

オープニング

 世界の命運を左右する戦いが終わり、世界は新たな歴史を刻み始めた。
 それでも、ヒトの有り様は簡単には変わらない。


『あなたがこれを読んでいる時、多分私は既に生きてはいないでしょう』
 そんな書き出しで始まるシャハラからの手紙は、ケイカが処理する書類の中に忍ばされていた。
『従って、私が進めてきた事業の全てをあなたに譲渡したく思います。同封したのはその手続きに必要な書類です』
 どうして自分に?普通に考えればフリッツに譲られるべきではないのか?
『本来ならフリッツに譲るべきかも知れません。ですが、それが出来ない理由があるのです。と、言うのもおそらくはルッツという男が何らかの形であなたに接触している筈ですが』
 ルッツ、というのは数ヶ月前ケイカに虚偽の証言をさせようとした男だが、同時に開拓初期からシャハラに協力してきたという人物でもある。
 とはいえ、方針の違いからここ数年は互いに距離を取るようになっていたらしいが。
『ルッツは開拓事業の成果を乗っ取るだけでなく、それを利用して更に大きな力と富を得る野心を抱いています。それが具体的にどんな形であるのか、今の私にはわかりません。ですが、フリッツがそれに関与する可能性があります』
『フリッツは元々帝国の裕福な家庭の出でした。ですが、彼の父は歪虚との戦いに傾倒する帝国の方針を良く思っておらず、生活を圧迫された人々を助け続けました。その結果財産をすり減らし、父の病死後フリッツと母、妹は無一文で路頭に迷うことになりました。彼の父に助けられた人々は誰も残された家族を助けようとはせず、母と妹は衰弱死したようです』
『フリッツは私に対しては感謝と忠誠を抱いてくれているようですが、あくまで私個人に対しての事。父を追い詰め、家族を見捨てた帝国への恨みを忘れた訳ではありません。私の死後、フリッツは開拓地とルッツを利用して帝国に復讐を謀るでしょう』
『あなたにそれを止めてくれとも開拓事業を守ってくれとも言えません。全てを誰かに渡して身軽になることを選んだとしても、それも又一つの選択です』


「これが人類にとっての希望の種子というわけだよ」
 積み上げられた種子の袋を見て笑いを浮かべ、ルッツは荷物の運搬兼護衛に雇ったハンターに上機嫌で話しかけた。
 人類と歪虚の存亡を賭けた戦いは人類の勝利に終わった。だが、その代償は小さくない。その一つが一般生活の圧迫だ。
 今はまだ、誰もが勝利の余韻や戦後の後始末でそこに目を向ける余裕はなく、耐え忍べばいいと思っている程度だろうが。
「そのうち大きな問題になる。何しろ、食べずに生きていける生き物はいないのだからな」
「そうですね。戦争の影響で多くの農地が荒れています。中央はともかく、周辺の生活は圧迫されてきましたから」
 荒れた農地が元の豊かな実りを結ぶまで、従来のやり方では数年かかるだろう。そうなれば食糧問題が生じることになる。
「元々荒れ地だった開拓地では影響が小さかったのは皮肉な話だがな。特に今年は改良が成功し豊作が期待できそうだ」
「荒れ地でもすぐに実り、土壌を育てる種子が行き渡るとなれば、どの国でも皆喜ぶでしょうね」
 ハンターの表情に地味だが多くの人を救う仕事を行う誇りを見て取ってルッツは又笑い、内心で呟いた。

 滅びの種子が混じっていることにも気付かずにな、と。

 袋の中に入っているのは改良に成功した物だけではない。封印された失敗作も混ぜ込まれている。繁殖力、そして異種交配力が異常に強く、食糧にすることが出来ない代物だ。
 見掛けは成功した種と区別が付かない。おかしいと気付いた時にはもう遅い。いずれ蒔かれた場所だけでなく無事だった農地にも浸食し、ここ以外の全ての地が緑の地獄になっているだろう。
 一見豊かな緑は、しかし食べることが出来ない。飢えに負けて口にすれば深刻な障害をもたらす。
 生き延びる為には、唯一まともに食べられるここから作物を手に入れるしかないのだ。
(それにしても父子揃って愚かな奴らだ)
 悩んでいたフリッツの父に、貧しい人々を助ける為の投資を持ちかけたのはルッツだ。その投資の多くがルッツに横領されて助けたかった人々には届かなかった。
 そうとも知らずにフリッツはルッツに協力することが帝国への復讐になるとの囁きに乗って、開拓地が食い詰めた部族によって全滅した件や試作の盗難と毒物混入の件、そして毒を持つ作物が外に流れた件の根回しを行い、シャハラの死と共に参考資料として保管されていた失敗作をルッツに流したのだ。
(まあ、帝国に復讐できるのは確かだからな。奴も本望だろうさ)
 シャハラもフリッツも既にいない今、残ったのは取るに足らない小娘だけ。全ては手に入ったも同然だ。
「ルッツさん」
「ああ、後のことは頼んだぞ。それと、何かあったら必ず信号弾を打ち上げて知らせることを忘れるな」


 打ち捨てられた体が砂に埋もれていく。その表情にはうっすらと笑みが張り付いていた。
 知っていたさ、と消えていく意識の中でフリッツは呟いた。ルッツが糸を引いていたことを知っても、抱いてきた恨みを捨てるには遅すぎた。
 だから、自分が集めた証拠をルッツに突きつけることはせず、種子の袋に忍ばせた。
 それが見つかるのは、さて、いつになるか。
 種が蒔かれた直後か、それとも豊かな農業地帯が緑の砂漠になった時か。
 声にならない呟きを聞く者はいない。


「調査の結果、研究資料として保管されていた試作品が大量に消えている事が判明しました。おそらく正規の取引品に紛れ込ませる形で持ち出されたと思われます」
 城塞都市に持ち込まれ、複数の商人によって各地に運ばれでもしたら終わりだ。特に畑に蒔かれずとも、地面にこぼれただけであっという間に繁殖する。
 正直自分がどうしたいのか、ケイカ自身にもわからない、が。
 飢餓地獄を起こすわけにはいかない。それだけは確かなことだった。

解説

目的
ルッツの元に集められた種子を押さえる
可能な限り穏便に回収するのが望ましいが無理なら奪取、焼却もやむを得ない

状況
種子が詰められた袋が30ほどトラックに積まれ出発準備中
問題の種子は正規の取引品に混ぜられており見分けはほぼ不可能
(書類に記載されているより量が多いなど細かい齟齬がある程度)

運搬に従事していた労働者(一般人)数名と輸送・護衛に雇われたハンター三人が周囲にいる
声を掛ければ話が出来るがケイカからの話を伝えるだけでは信用しない
説得してトラックから引き離そうとしても最低一人はトラックに残る

他の商人など外部への説得や協力要請は事を拗らせると思われる為不可
ルッツは城塞都市に戻っている
ケイカはルッツの罪状を見つける為に書類を調べているが要請があれば同行も可

ハンター三人はあまり戦闘向きでは無いタイプなので力尽くでの制圧は可能
但し、その方法を取った場合彼らは荷台の信号弾を打ち上げて知らせる


※以下PL情報
・ルッツ及びフリッツの独白
・信号弾には火薬が仕込まれており打ち上げられるとフリッツが隠した証拠もろとも荷が焼失する
その場合ルッツの罪状は闇に葬られ、ケイカが悪質な妨害をしたと見なされて断罪される事になる
(種子の外部流出は免れるので依頼失敗にはならない)

マスターより

世界の大きなうねりの影でひっそりと進んでいた武器無き戦い
それも最後になりました

そして最後に笑う者は誰になるのか

ご縁がありましたら、よろしくお願いします
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2019/11/15 06:14

参加者一覧

  • エルフ式療法士
    ソナ(ka1352
    エルフ|19才|女性|聖導士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 丘精霊の配偶者
    北谷王子 朝騎(ka5818
    人間(蒼)|16才|女性|符術師
  • Mr.Die-Hard
    トリプルJ(ka6653
    人間(蒼)|26才|男性|霊闘士
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/11/04 11:34:56
アイコン 相談卓
北谷王子 朝騎(ka5818
人間(リアルブルー)|16才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2019/11/06 17:58:13