「陛下は狂気の眷属に対して積極的な活動を取らないのはどうしてですかね。私ならこんな時こそ総力をあげゾンネンシュトラール帝国ここにあり！　と名を轟かせるべきだと思うのですが」
　帝国沿岸部。ここから南に下れば自由都市同盟との国境へと接続されようかという場所だ。海は穏やかで遥か先では歪虚が侵攻する様子があるなどとはとても信じられない。そんな岸部に男が二人立っていた。
「そうかな？　仮に僕が同じ立場だしたら同じ行動をとったと思うよ」
　優男といった風情の方は、渡された資料に目を落としながらそう言った。その言葉にもう一人の士官風の男は全く理解できずに眉をひそめるばかりであったが、優男は構わず続けた。
「ま、残念なのは陛下が自分の眼で見聞できないことだろうね。それに比べて僕たちは幸せじゃないか。ちょうど噂に名高いハンターの実力や歪虚の軍勢がどんな行動をとってくるのか見たかったところなんだ」
「あの、お言葉ですが……シグルド様。その書類は歪虚の被害調査ではなく、海賊行為に対する対応具申に関するものですよ？」
「うん、そうだね。僕にもそう見える」
　どうも話がかみ合わず士官が言葉を添えるが、シグルドと呼ばれた優男は意に介した様子もない。
　確かに彼が手にしている帝国地方内務課発の作戦命令書に書かれているのは、狂気の眷属の発化のどさくさに紛れて海賊が帝国沿岸部まで脅威を及ぼしてきたので、取り締まってほしいという内容のものであった。
「要するに、だ。僕はハンターの実力を見てみたいし、歪虚の軍勢も見てみたい。だが第一師団の主な任務は帝都守備であり、狂気の眷属と相見えるための船もない。と悩んでいたんだけどね。やあ、幸運だなぁ。ちょうどいい船があるじゃないか」
　そこまで聞いてシグルドの言わんとしていることを理解して士官の顔が引きつった。

　要するに、シグルドは海賊船を拿捕し、それで狂気の眷属が潜んでいるだろう海域まで足を運ぶつもりなのだ。

「お言葉ですが、シグルド様。海賊を捕らえた場合、海賊船は軍の管理下におかれるのが普通です。それに……」
「ははは、私物化しようってわけじゃない、借りるだけさ。それに使い慣れない船なら『ちょっと失敗して』沖に出ることもあるだろうね」
　海賊の本拠地でもある海賊船を拿捕するだけでも、かなりの力が必要だ。その上に歪虚が大量にひそんでいるかも知れないような海域に出るなど、並大抵の話ではない。リスクが極めて高いはずの任務を彼はまるで雑作もないことのように話すのだ。
「ああ、ハンターに頼むから君はいいよ」
「そんなわけにいきませんっ。軍人たるもの戦場こそ生きる場所！」
　そこまで言って、士官はハッと気づいた。
　ノせられた。
　シグルドはニコニコと笑うと、作戦命令書を丸めて士官に渡した。
「良い返事だ。それじゃハンターソサエティへの依頼は君に任せる。君もハンターもくれぐれも死に急ぐことがないようにしてくれ。宝石の原石みたいなものだからね」
　呆然とする士官をよそに、海賊船に近づくための商船の手配をしてこよう。と言って、シグルドは立ち上がるとさっさと近くの町へと移動していった。

　こちらのシナリオは大規模イベントに関連しています。

　構成は２部にわかれます。
　まず商船に乗り込み海賊船に襲撃を受けたところで、反撃し制圧します。
　海賊の戦闘員は計２０人。生死は問わず。他にも漕ぎ役などの非戦闘員がいますが、彼らは戦闘能力がないので即座に降伏するものとします。
　ちなみに商船ともに海賊船は中型の帆船とします。

　続いて拿捕完了後、皆様が大怪我をしていなければ、狂気の眷属がいると推測されている海域に移動し威力偵察を行います。
　この場合、威力偵察は実際に戦って、相手の様子をうかがう。の意味です。
　半魚人型の眷属が最低１０体ほど襲ってきます。深入りするにつれ、増援されていきます。
　眷属は船体をよじのぼって甲板から攻撃を仕掛けてきますので、基本は甲板での戦闘だけと考えてください。
　一定時間が経過するか、被害が見込まれる、もしくは被害を受けた時点で帰投し、任務は終了します。

　成功ラインは被害なくどこまで深入りできるかにかかります。
　しかし、深入りしすぎて被害が発生した場合、逆に失敗判定になる場合もあります。
　帰投の判断はシグルドが判断しますが、皆さんの意見は聞き入れますので最低一人はいつ帰投するかの判断を決めておくとよいでしょう。

　帝国第一師団副師団長シグルドと兵長（名無しです）が随行します。二人とも闘狩人です。
　基本的に後ろで見守っていますが、困ったことが起きた場合は多方面で助けてくれます。

　プレイングは白紙提出にならないようご注意ください。
　参加後すぐに自分のキャラにさせてみたい行動を箇条書きでもいいので書き記しておき、相談が進行するとともに修正することをお勧めします。

　笑顔で高難易度。それがシグルドです。以後お見知りおきを。
　どうせ壊れてもいい船なので、海賊及び半魚人相手に船にあるギミックをフル活用して海賊もしくはなりきり甲板で大暴れしましょう。　プレイングは自分たちがやりたいことを中核にした上で、全体の動きの中でどう輝かせていくかを考えると、やりたい事ができた上で、全体にも貢献できた！　となれるかもしれません。

　それでは皆様、よい冒険を。