• 戦闘

小さな森、秘められた絆

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2015/10/08 09:00
リプレイ完成予定
2015/10/17 09:00

オープニング

 風が涼しい。頬に当たる風はまるで精霊の身に着ける衣が優しく撫でてくれるような。
 風は平等に野山を駆ける。砂っぽい大地の上も、水路の流れを作る水たちも。 背を伸ばす穂のついたものも、丸くかたどる香草も。皆一様にさざめく。
「いい香りだ」
 ドワーフのギムレットは夕暮れの七色の空をゆっくりと登り始める月を見上げながら馬乳酒を傾けた。
 ほんの一月前には香りを楽しむこともできなかった。月を見上げることも。正のマテリアルが死に、死の大地となったこの荒野に植物も含め命の影はなく妖霧が漂い、腐ったような臭いがうすらと立ち込めていた。昼間ですら歩くことも億劫にさせるような空間。
 それが今や、草花が芽生えギムレットの腰丈を覆っている。優しく時に強く吹く風は霧を晴らし、星天をも見せてくれた。
 命は戻り始めている。
 死にかけた大地は息を吹き返そうとしている。ほんのわずかな人々の手によって。
「なあ、アガスティア。もうすぐ冬が来る。寒さの準備も少しずつ始めた方がいいんじゃないのか」
 ギムレットは振り返り、後ろに立つエルフの女、アガスティアを見やった。
 ここが森から荒野に変わる前からずっとこの大地に根差して来た、ただ一人の人物。
 最初は誰をも寄せ付けぬ狭量で、自然とだけ仲良くするような、堅苦しいエルフを形にしたような女だと思ったのは、自分がドワーフだからだろうか。
 何度かぶつかったが、仲を取り持つ人に助けられていく内に変わったのは、自分か彼女か。
「……アガスティア?」
 返事のしない彼女は、ただ風上に向かって険しい顔をするばかりであった。こんなに険しい顔を見るのは初めてかもしれないとギムレットは起き上がり、そしてその異変に気付いた。
 カビ臭い。空気が綺麗になったからこそ、その臭いは殊更際立つ。
 末期まで人の記憶に残るという香りの記憶が、穏やかだったギムレットの頭をひっぱたくような衝撃だった。
「マジかよ……」
 ギムレットは機杖を取り、臭いのする方向へ走り、すぐそれを見つけた。

 この大地にあった『森』を食いつくした張本人。そしてこの空間に流れる水を枯らせ、大地を腐らせ、風を淀ませた。万を超える樹を塵へと変えた。
 ギムレットは馬乳酒で潤したばかりの喉が急激に乾いていくのを覚えた。
 月明かりがそれによって隠される。
「残って、いやがった……」
 ことごとく倒したはずだった歪虚。
 正のマテリアルをただ食らいつくすだけの貪欲なる本能と、それによって蓄え続けた無尽蔵の生命力と繁殖力。
 雑魔で正式な名前すらないカビを元にした歪虚。うず高くつもったそれは3mを超える巨人の様であった。
 ズ、ズズ ズズズ
「来るなっ」
 ギムレットは即座に杖に力を込めて、デルタレイを放った。3条の光線が巨人の胸を貫くがそのほとんどが透過していく。
「来るな、来るな!! 来るんじゃねェ!!!」
 狂ったように力を行使するギムレットの目の隅で、大切に育てた草花が緩やかに落ちる闇の帳の中で果てていくのが見えた。
 カビの雑魔は何度攻撃を受けて、歩みを緩めたりはしない。足元の草花から生まれるマテリアルを全部食いつくし、生命力に変換して進み続けるのだ。もっと豊かなマテリアルのある場所へ。すなわち、アガスティアの守り続けた大地と、そのシンボルであるシラカシのあるエリアへ。
「行かせるか、生かせるか!」
 マテリアルが収束できなくなるとギムレットはそのまま機杖を振り回した。
 だが、杖を握っていた手のひらの感覚が急激に薄れた。腕にカビが付着してマテリアルを吸い上げられたのだ。
「くそ、くそっ」
 弱点は知っている。炎だ。だが、この雑魔は草や大地を腐らせて貯めこんだ可燃性の腐食ガスを貯めこむ。
 そのせいで以前の森はことごとく焼けてしまったのだから。
 ここが何もない荒野なら焼き払ってそれでおしまいだった。爆発しようが火柱になろうが周りに燃えるものなど何もない。だが、もうそういう訳にはいかなかった。今は蘇りつつある自然はもう足元にあるのだから。
 自然と噛んでいた唇から血が滲み出る。
「……おいで」
 凛とした声が響いた。
 アガスティアだった。ここしばらくずっと共に暮らしていたが初めて覚醒した姿を見た。
 光を宿す豊かな樫が彼女に重なっていた。大きく広げた手には樹皮が纏われ、つる草のような髪はそのまま天を衝く樫に巻き付くヤドリギへと重なる。
「おいで」
 アガスティアの呼びかけに応えるように、カビの巨人がゆらめいたかと思うと、まるで母に誘われる赤子のように、アガスティアへと向かっていく。
 巨人の歩みを確認するとアガスティアはゆっくりと西へと動き、そしてまた「おいで」と繰り返す。
「おい、アガスティア……」
 ギムレットはそれが何をしているのかすぐに理解した。
「マテリアルが最も豊富な場所にこの歪虚は向かう性質があります……私が少しずつ誘導します」
 そういうアガスティアの足元には、もうカビの一部がたどり着いていた。
「馬鹿野郎、なにしやがる!」
「荒野まで移動したら……この雑魔ももう食べるものがなくなり、朽ちるでしょう」
 アガスティアの緑の衣が、徐々に薄汚れ、綿のようなものに包まれ始める。
「止めろ、死んじまうだろ!」
「ギムレット。貴方は、このカビの歪虚がどうして生まれたか、考えた事がありますか?」
 唐突な問いかけにギムレットは答えることはおろか、言葉を発することもできなかった。そもそも歪虚の発生など病原菌の発生と同じだ。どこからやって来たなどと考える方がどうかしている。
 腕や首筋にまでカビにはいよられながら、アガスティアは彼女の考える答えを伝えた。
「息の詰まるような空間、延々と繰り返すだけの日常。外の風を取り込まない空間。森に住む同胞の心は穏やかながらも淀んでいた。そして私も……。こんな森消えてなくなればいいと思ったことすらあります。古き森が産んだ廃退こそが……あれの産みの親でしょう」
 顔がカビの塊に覆われはじめ、
 だが、アガスティアの顔はどこか平静であった。
「森が産んだ歪みは、私の責任でもあります。新たな森はきっと私がいなくとも大きくなってく。私が独りでいた時よりも『森』は広く大きく育っています。一抹の寂しさでしょうか。私の心のわだかまりが……眠っていたこの雑魔を呼び起こしたのだと」
「そうか。でもな……!」
 顔のほとんどすら綿毛のようなカビに覆われ埋もれていくアガスティアの顔にギムレットはそっと手を触れた。手から、そして足元からカビは伝い、ギムレットを侵していく。
「あんたも俺も、間違いは一人で全部背負い込んだことだ。……誰だって闇はある。森も、人も。それを受け入れて担いあってんだよ」
 ハンターが来るまで、耐えよう。二人ならきっとできる。
 カビに覆われてながらもゆっくりと二人は手を取り合い荒野へと歩を進め出した。

解説

アガスティアとギムレットが養生しているエリアにカビの集合体のような雑魔が発生しました。
育てた草木に影響がでないように、二人は体を張って雑魔の進路を妨害しています。
二人の命を食いつくし、『森』を食い荒らす前にこれを撃退してください。

●敵情報
カビ型雑魔(デスモールド)×1
カビの集合体です。一塊で1体と認識します。不定形ですが人間かスライム状の形態で行動することが多いようです。
何らかの形で接触することによりマテリアルを吸い上げ攻撃をしてきます。防御点は1/2のみ有効で、吸い上げた分だけ生命力を回復します。
振り払うことで攻撃を中止させることができます。
それ以外の攻撃は確認できていません。炎属性の攻撃が有効ですが、内部に可燃性のガスを溜めており引火する危険性があります。
引火した場合は周囲に炎属性の攻撃を振りまきます。
また、攻撃するなどで生命力が減少するに従い、その体格も減少します。生命力が1桁になった時は視認できなくなりますので倒す場合は一気に削らなくてはなりません。
知能はほぼ皆無です。また動きも非常に鈍重です。

●ギムレットとアガスティア
二人とも覚醒者です。大地のマテリアルを吸い上げられないように、自分たちを囮としてマテリアルがほとんどない荒野へと誘導しています。
カビに囲まれていますので、徐々に生命力は減少し続けています。
五感が阻害されているわけでもなければ、自暴自棄になっているわけでもありませんので、声をかけるなどの行動があれば反応を返すことは可能です。

●マテリアルの極端に薄い場所
元々カビ型歪虚の侵食により周囲はマテリアルの薄い荒野となっており、草花のあるエリアはごく一部です。
カビ型歪虚をそこまで誘導するまでかかる時間は20ラウンドとします。
PCは1ラウンド目から攻撃できる位置に配置し参加することができます。

マスターより

小さな森の第三話、そして最終話でもあります。
前話でアガスティアはギムレットのことを怒りませんでしたね。心底の理由はOPの通りです。
緩やかに廃退の道を辿るエルフ、そして信義の為には危険を顧みぬドワーフ。
ですが想いは同じ。だからこそ生まれた絆の糸でもあります。
皆様の想いも加われば、糸は大きく強くなり、雑魔に踏み荒らされることのない『輪』を作ることができるでしょう。
どうぞよろしくお願いいたします。

なお、ラスボスのように恐ろしい存在として書いているカビ型歪虚ですが、要は規模が半端でなく大きいカビです。殺し方は色々あります。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2015/10/10 23:17

参加者一覧

  • 光森の奏者
    ルナ・レンフィールド(ka1565
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 不撓の森人
    リュカ(ka3828
    エルフ|27才|女性|霊闘士
  • 光森の絆
    ラティナ・スランザール(ka3839
    ドワーフ|19才|男性|闘狩人
  • 光森の舞手
    ネーナ・ドラッケン(ka4376
    エルフ|18才|女性|疾影士

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
リュカ(ka3828
エルフ|27才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/10/08 08:17:33
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/10/07 19:08:20