大規模な闘争は、色んなモノを奪い去っていく。相手が人間ではなく、歪虚なら尚更に。自由、平和、物資、人、命……失われる物を挙げれば、キリがないだろう。
　加えて、戦争の被害は『戦場以外の場所』にも及ぶ。臨戦態勢の緊迫した空気が人々の不安を煽り、心の余裕が少しずつ失われていく。救援物資を送るため、一般市民の食糧や医薬品が若干減る事もある。
　もしかしたら……『それだけ』なら、まだマシかもしれない。
「ば……バケモノ！？」
「早く逃げろ！　死にてぇのか！！」
「痛い……イタいよぉ……」
　人里離れた村に響き渡る、怒号や悲鳴。その原因を作り出しているのは、大量のゾンビやスケルトンだった。30体近い異形達が、村で暴れ回って全てを壊していく。建物も、作物も、人も……性別や年齢に関係なく。
　人間同士の戦争なら、無抵抗な者や武力の無い者は基本的に狙わない。そういう決まりがあるワケではないが、無駄に命を奪う事を『善し』としないからだ。歴史の裏で大量虐殺が行われた事もあるが……それが教訓になったのかもしれない。
　しかし、歪虚は一般常識や道徳心を持ち合わせていない。知能の低い雑魔なら、尚更に。どれだけ人命が奪われても、屍が山を築いても、気に病む事はないのだ。
　それに、この雑魔達は『本能』に従っているに過ぎない。命ある者の血肉を求め、全てを喰らい尽くす『暴食』の本能に。
　恐らく……暴食の歪虚王『ハヴァマール』が動いた事で、雑魔の一部が活発になっているのだろう。人間で例えるなら、『士気が上がった状態』である。
　悲鳴すら噛み砕く勢いで、ゾンビとスケルトンが住人達を蹂躙していく。運良く雑魔から逃げ延びた者も居るが、この村があるのは山の奥。近隣の都市に助けを呼びに行ったとしても、片道だけで数時間はかかってしまう。
　その日……１つの村が、地図上から消え去った。

　山奥にある小さな村が、雑魔の襲撃を受けて壊滅してしまいました。生き残った住人は……命懸けで逃げた、ほんの一握りのみ。彼らが伝えてくれた情報を無駄にしないためにも、雑魔の殲滅をお願いします。

　偵察隊を派遣した処、村を壊滅させた雑魔達は山を下り始めています。狙いは、恐らく近隣の都市。村１つでは飽き足らず、更に命を奪うつもりなのでしょう。
　幸いと言うべきか、雑魔達の移動速度は老人と同じくらい。ゆっくりと山を下りているので、こちらが急いで移動すれば、敵が次の町に着く前に捉える事ができます。
　戦場になるのは、山と町を繋ぐ街道。道幅の広い石畳が続いているので、移動の邪魔になる物はありません。道の両側は草原や林になっています。

　今回倒すべき敵は、ゾンビとスケルトン。数は30体近く、命あるものを見境なく襲ってきます。移動速度は遅いですが、標的を攻撃する時は『成人男性の全力疾走』並みに素早く動くようです。
　ゾンビは耐久力が高い反面、抵抗力は低め。格闘による近接攻撃が主になりますが、噛み付いて生命力を吸う能力も備えています。
　スケルトンは防御能力が低いですが、物理攻撃力は高め。刀剣や斧を使った物理攻撃を仕掛けてきますが、武器を投げる事もあります。射程は10m前後。威力は低いですが、命中率は高いです。
　ゾンビ、スケルトン共に、能力的には雑魔の中でも強い部類。歪虚よりは弱いので、駆け出しのハンターでも油断しなければ１体１で戦えます。この雑魔達を全て倒せれば、依頼は成功となります。

　この依頼に目を通して下さった方、参加して下さった方、過去に参加して下さった方に感謝を。
　香月丈流です。

　街道は人通りが多いので、任務遂行時には通行止めにします。
　ゾンビに噛まれると生命力を吸われますが、抵抗の値次第では無効化できます。
　噛まれた者がゾンビになったり、状態異常に陥る事はありません。