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  • 戦闘

【繭国】アダムの受難 ―生命賛歌―

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート

関連ユニオン
アム・シェリタ―揺籃館―

難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加人数
現在7人 / 3~7人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2017/07/07 19:00
リプレイ完成予定
2017/07/16 19:00

オープニング


 アダム・マンスフィールドの朝は早い。空が白み始めるほどの時刻に目を覚まし、身支度の後、日課の鍛錬を行う。
 基本の住まいであるデュニクスの勤勉な農夫に挨拶しながら、走り込みと筋力トレーニングをして、"仕事場"へと向う。
 汗を流した後、自らのデスクに置かれた書類を手に取ったアダムは、無言のままにその表紙に視線を落とした。
 表紙に流麗な字体で"Hex.S"と描かれた書類には嫌な予感しか覚えない。
 金の無心を【第六商会】にしている立場上断ることができないのがアダムの弱みでもある。
 彼の無茶振りは街の人間にとっては歓迎すべきことであるらしく、飛び込みの仕事を今か今かと待ち構えられていることをH某も知っているのがタチが悪い。加えれば、複雑な経過もあってこの街の市民と領主である貴族は折り合いが悪く、むしろ農業や工業を頼みとしている傾向が強く、面倒の種である。
 故にアダムは懊悩していた。この書類、見るべきか。見ざるべきか。

 ――やれやれ。こういうとき、人は『長い苦痛を選ぶ』もの、だな。

 皮肉げに、一つ息を零す。
 刻令術。かつては生物と見紛うほどのモノを作ることができたというそれも、今となっては出来ることは非常に限られており、アダムの理想からは程遠い。
 "それでもいい"と解析と再現に取り組み始めて得た技能は――これも、認めるしかない。もはや、頭打ちなのだった。
 オーラン・クロスとの共同開発もあり、技術的な面で機体の性能向上には望めようが、成したいことに、届かない。
「……この立場に居るのも、長い苦痛を選んでいるようなもの、なのかもしれないな……」
 言いながら、書類を開き、確認しはじめる。

 そこには――。



 次の日、アダムは聖堂戦士団の訓練キャンプ場に足を運んでいた。書類を提示しながらの言葉に困惑する聖堂戦士団員も、死の教練と呼ばれる会場の阿鼻叫喚たる様には目もくれずに、場内を進んでいく。
 すぐに、見つけた。

「PT! PT! PT!」「ぬはは!!」「PT! PT! PT!」「そうだ! 良いぞ!!」
「PT! PT! PT!」「大胸筋に魂を込めるのだ!!」「PT! PT! PT!」「次は……そうだ! その、それだ、その腹直筋であるよ!」

 大量の戦士団員を前に、バネつきの鉄製の道具に身体を覆われたプラトニスが喝采を上げながら戦士団を鼓舞していた。
「――もし」
「ぬっはっは! 我輩の……ぬ?」
「節制の精霊、プラトニスとお見受けした。私は、アダム・マンスフィールドという。一つ、話を――」
 呼び止められたプラトニスは髭をなぞりながらアダムの全身を眺めていたが――すぐに、にこやかに微笑んだ。アダムの肩に、プラトニスの分厚い手が、伸びる。
「汝、節制なる肉体を持つ者よ」
「聞いて欲しい……の、だが……? 何だね、この手は」
「君もこの宴に参加したいということだね?」
「違う」
 汗に輝くプラトニスの神性すら帯びた強引さを、アダムはにべもなく拒否した。そして。

「"オートマトンたち"の存在を、聞いた。……"貴方たち"に、頼みたいことがある。協力してほしい」



 オートマトンは、『機械の身体』に精霊をインストールした種族である。それぞれが自我を持ち、独立した個性と――なにより人権を持つ。
「つまり……アダム、そなたは」
「ああ。私はこれを、造りたい」
 ひとくさり話を聞いたプラトニスの表情は、微塵たりとも揺るがなかった。ただ、その目の色には未だ、推し量らんとする色がある。
「だが――誤解はしないで欲しい。私が果たしたいのは、一時的に肉体の意識を機体に合一させることだ。オートマトンたちのような身体を用意できない以上、"そこ"を侵すつもりはない」
「まるで、それが出来るならば……とも聞こえるが」
「否定は、しない。だが、私には到底果たせない偉業だからね」
「……ふむ。まあ、良いだろう。ならば、何故我輩に?」
「――ハンター達がライブラリにアクセスし、過去を見た。その過程で貴方たちに遭遇したと聞いている」
「然り、だ」
「彼らは神霊樹にアクセスし、神霊樹を通して意識のみを貴方たちの"界"へと送った筈だ。そして……それ以降も幾度となく、過去を見ている。現実の身体は、そのままに」
 アダムは、長身のプラトニスを見上げ、双眸に力を籠めた。
「これからやろうとしていることは、霊闘士が扱う霊呪に似ているが――違うアプローチになる。オートマトンに適合できる貴方たち精霊に、"私達"を預けることで、"これ"は実現できると私は考えている」
「………………」
 返った沈黙が、重い。
 アダムは、対歪虚用の兵器開発に従事している、と名乗った。
 そこを踏まえれば――これは、"精霊を、寄越せ"という頼みに違いない。アダム自身も了解しているのだろう。男は、深く頭を下げた。
「だから、協力してほしい」
「…………む?」
 プラトニスが返答を決めあぐねていた、その時。アダムの首元で、何かが揺れた。
「そなた、首から下げているそれは……?」
 指摘されたアダムは、曖昧な表情を見せた。稚拙さを指摘された子供のような、バツの悪い顔。
「……私にも分からん。ただ、起きたら寝台の上に置かれていた。なんとなく気になって、な……」
「――ふむ」
 プラトニスは顎髭に触れ、にんまりと笑みを深めた。
「ならば、"試練"と行こう」



 後日、ハンターを連れてきたまえ、というプラトニスの言に従ったアダムは、所定の位置にてプラトニス達を待っていた。
 その時の、ことだった。

 ――では、見せてもらおう。

 突如、煌々たる光が生まれた。光に呑まれる中――"世界"が、変容していく。

 ――そなたの、本心を。



 その日、アダムは夢を見た。

 かつての光景。ありきたりな過去。痛みの記憶。

 "あの日"。

 彼女が、死んだ日。

「あ、あ…………」
 気がつけば眼前に、"それ"が居た。闇を纏うた人の影。歪虚に堕ちた、元魔術師の――同僚。
 視界はそいつで埋まっている。だが、解る。そいつは誰かを抱えている筈だ。

 "彼女"を。

「解るか、アダム。マテリアルを操る術を探求する私達にとっては非論理的だが、血には魔力が宿るという俗説がある」
「……きさ、ま」
「見ろ、アダム。"出血が止まったぞ"。彼女の魔力は枯渇した。彼女の価値は喪失した」
 そいつは彼女を放り投げた。血に汚れた髪をバラバラと散らしながら、無抵抗に壁に打ち付けられ、転がる。そうだ。此処は、研究場であった。
「――っ!」
 反射的に、手を、伸ばそうとした。名を呼ぼうとした。しかし。
 叶わなかった。影を纏うた歪虚から伸びた触腕に腕を取られ、顎を捕まれ、引き上げられる。
 影の向こうの表情は、解らなかった。ただ。

「――いい顔だ、アダム。私は、その顔が見たかった」

 甘い声が落ちた。
 地獄の底から響いているような、悍ましい声だった。


解説

●目的
 『過去』を追体験しているアダムを救え

●解説・背景(PC情報)
 オートマトンの存在を知ったアダムは『機体』と『精神』の一体化による直感的な機体操作の着想を得た。
 そのために、機体に精神――あるいは魂として定着され得る『精霊』を通じて、この方式の達成を図ることとする。
 その足掛かりを得るために節制の精霊プラトニスに相談を持ちかけたところ、プラトニスは試練を課すと告げた。

 プラトニスの言に従い、ハンターたちを連れて集合したアダム。彼らは突如湧き上がった光に呑まれ――アダムの過去を、垣間見ることになった。

●解説・状況
 直径25Sq程度の、円形の研究場。入り口は外縁に一つのみで人が通れる大きさの窓などは無し。通気口はあり。
 ハンターたちはこの入り口に居り、一部始終を目撃している。女性は20メートル強を投げられ壁に強打されたままピクリとも動かない。
 "敵"は黒い影のような靄を纏うた人型の歪虚。影を触腕のように使っているようだが詳細不明。

 なお、この時、現実に何が起こったかはPCもプラトニスも知らない。


●その他
 【血盟】連動内で過去をシミュレーションしているような状況でありますが、この現場でのアダムは【死に得】ます。
 それが精神的なダメージになる可能性は高く、危機に直面しているアダムを救命することはマストです。
 プラトニスからハンターに期待されていることは、アダムの意志の『確認』だが、沿うも沿わぬも自由。
 ただし、すでに起こってしまった事象が覆ることではないことはアダムは了解しています。

●NPC
 アダム:刻令ゴーレムの開発者。筋骨隆々の浅黒い肌を持つ魔術師。皮肉家ではあるが苦労人。戦闘不能状態。彼の抱く望みについては【刻令への道 VSナサニエル/意見モトム】を参照(一部PL情報
 プラトニス:【節制】を良しとする筋肉精霊。手出しはしない。

 女性:倒れている、アダムの元恋人。

マスターより

アダムと名の付く人にろくな人は居ないんだろうか。ムジカです。
機体と精神の合体……と来て思いつくものが何かによって世代と好物が分かるとおもっています。

本依頼では、【刻令術】の研究者であるアダム・マンスフィールドが心身ともにひどい目に合います。
あんなひどいことを直球で聞いてしまうアダムは本当にダメなやつですが、オートマトンを人間と感じ、精霊に人格を期待する程度の感性を持ち合わせてもいます。
つまり――出歯亀をするプラトニスは本当にダメなやつ……なんて。

この状況は、夢幻そのものであり、同時に、過去の再演そのままでもありません。
皆様の思う所を、成してください。よろしくお願いします。

関連NPC

  • ガンナ・エントラータ領主
    ヘクス・シャルシェレット(kz0015
    人間(クリムゾンウェスト)|34才|男性|猟撃士(イェーガー)
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2017/07/16 23:22

参加者一覧

  • 伝説の砲撃機乗り
    ミグ・ロマイヤー(ka0665
    ドワーフ|13才|女性|機導師
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • ライブラリアン
    サトコ・ロロブリジーダ(ka2475
    人間(紅)|11才|女性|魔術師
  • 囁くは雨音、紡ぐは物語
    雨音に微睡む玻璃草(ka4538
    人間(紅)|12才|女性|疾影士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • 半折れ角
    セルゲン(ka6612
    鬼|24才|男性|霊闘士
  • 私は彼が好きらしい
    穂積 智里(ka6819
    人間(蒼)|18才|女性|機導師
依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
セルゲン(ka6612
鬼|24才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/07/07 12:34:55
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/07/07 12:32:31