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【東幕】命短し綴れよ思い

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2017/12/17 09:00
リプレイ完成予定
2017/12/26 09:00

オープニング

●史郎の営業所にて
 エトファリカ連邦国、天ノ都。朝晩はめっきり冷え込む季節になった。この天ノ都を拠点にして商売をしている少年商人・史郎(kz0242)は、着物の首元を掻き合わせながら営業所に駆け込んだ。
「おう、帰ったか」
 営業所には、白髪の男がいた。史郎は、鍵をかけたはずだが、と思ってすぐ、そうだこの男にはそんなものが無意味なのだと思いだした。
「爺さん。久しぶり」
 その男は、史郎の養父であった。赤ん坊の頃、橋のたもとに捨てられていた史郎を、彼が拾って養育してくれたのだ。真っ白な髪と小柄な体躯の所為で相当な老人に見られがちだが、まだ六十歳を迎えていないはずだ。身のこなしは軽く、手先も器用で、こうして戸締りを万全にした建物にも難なく入り込む。
「また俺がいないうちに来たのか?」
「何も盗ってねえよ、安心しろい」
「当たり前だ! ほら」
 史郎は苦笑して、素早く湯を沸かし、茶を淹れてやる。史郎は商売のイロハをすべて、この男から仕込まれた。凄い人物だとは思っているし、感謝をしてもしきれないが、こういういつまでも破天荒なところには時々手を焼かされる。
「で? 今日は何の用なんです?」
 自らも茶をすすりながら腰をおろし、史郎は訊いた。養父の元から史郎が独立したのは十二歳のとき。以来三年間、ふたりが顔を合わせるのは何か用があるときだけだ。
「史郎、お前、そろそろ詩天へ行くだろ?」
「ああ。天ノ都での取引は大体片付いたし、新たな注文も受けてるからな。数日中に発つよ」
「そうか。じゃあよ、そのついでにこの手紙、届けてくれねえか。あの古物商の親父に」
「手紙? 構わないけど……、また物騒なこと考えてねえだろうなあ?」
「また、とはなんだ、また、とは。好みの壺を探しておいてくれ、っていう注文書だよ、心配するな」
 疑わしげな目を向ける史郎に、養父はひらひらと手を振りへらへらと笑う。
「じゃ、気を付けてな。しっかり稼げよ、史郎。命短し稼げよ少年、ってな」
 史郎に一通の封書を渡すと、さっさと立ち去った。……窓から。
「それ何か違わないか、って、玄関から帰れよ、爺さん!」



 養父が帰ってから、史郎は荷造りに取りかかった。とはいえ、特に手間はかからない。天ノ都と詩天を行き来するのは、史郎にとっては慣れきったことだ。
「おーい、史郎、いるか?」
 そこへ、ひとりの青年がやってきた。今日は千客万来だな、と思いながら、史郎は玄関の戸を開けた。
「はい、いますよ。やあ、スーさん」
「おう、良かった。まだいたな。そろそろ詩天へ行くって言ってたから、もういないかとも思ったんだが」
 スーさんはホッとした笑顔を浮かべながら営業所へ入ってくる。手土産だ、と史郎に差し出したのは、栗きんとんの包みだ。
(また値の張る物をさらっと持ってきて)
 史郎は苦笑を隠してにこやかに礼を言った。このスーさん、実はとんでもないお偉いさまなのだが、本人はそれを隠している。隠しきれていると、思っている。史郎にしてみれば、バレバレもいいところなのだが。
「詩天へは、数日中に発つつもりだよ。何か御用ですか、お客様。買い付けでもなんでも、ご依頼お受けいたしますよ」
 冗談めかしてそう言いながら、史郎は茶を淹れなおした。この守銭奴め、とかなんとかツッコミが入るだろうと思っていたが、予想に反してスーさんは、うんまあ、とか言葉を濁して眉を下げた。
(おや?)
「買い付けとかじゃないんだが……、ちょっと頼みたいことがあってな。もちろん、謝礼は払う」
 スーさんはそう言うと、一通の封書を取り出した。
「こ、これを、ある人に届けてほしい。届け先は、裏に書いてあるからあとで見てくれ」
「はあ、手紙」
 史郎は内心でまたか、と思った。今日はよほど、手紙に縁があるとみえる。それよりも、と史郎はスーさんの様子を観察してニヤリする。ただ手紙を出しているだけなのに、不自然に目が泳ぎ、耳は真っ赤。落ち着きなく何度も湯呑を口元に運ぶ。
(ははあ……。これは)
「承りました。スーさんの大事な大事な恋文、この史郎がしっかり預かりましたよ」
「こ、恋文っ、て、お前!!」
「あれえ? 違うのかい?」
 悪戯っぽく目を細める史郎に、スーさんは唸る。史郎の言動の端々には妙に色気があって心臓に悪い。
「ち、違っ……わねえけど」
 認めるのが心底悔しい、とでも言いたげに、スーさんはもごもごと返事をし、そのあと、早口で付け加えた。
「て、手紙の内容なんかなんでもいいだろ! それより、最近またどこの街道も物騒だって話だから、詩天の港から護衛を手配しておいてやるよ。お前の商売も、楽になるはずだろ。助手にでも使えよ」
「そりゃあ、まあ、有難いけど、別に助手なんていなくてもいつも……。でも、まあ、お言葉に甘えようかな。スーさんの大事な恋文をしっかり守らなきゃならないしなあ」
「あのな、そういうことじゃなくてだな!」
「まあまあ。そんなに照れなくても。命短し恋せよ青年、ってね」
「恋せよ乙女、じゃなかったか?」
 スーさんが顔をしかめる。そうだっけ、と史郎は小首を傾げてとぼけた。
 スーさんが帰った後、史郎はそっと、預かった手紙を裏返した。宛名は、「三条真美 殿」。おそらく、恋文に見せかけた密書、ということなのだろうが、その「見せかけた」というところにも照れてしまうスーさんはつくづく、隠し事に向いていないな、と思う史郎なのであった。



●とある店にて
 草臥れた袴姿のひとりの浪人が、麺屋の店先で空を見上げていた。
「タチバナさん、一杯いかがですかー?」
 麺屋の看板娘が朗らかに問いかける。
 どうやら浪人の名はタチバナ。この店は馴染みであるらしい。
「一杯いただこうかな」
「はい! いつもの席でお待ち下さい!」
 娘が店の奥に引っ込んだのを追うように、店内に入ろうとしたタチバナに、旅芸人風の小柄な男が深く顔を編み笠に隠してタチバナに近付いた。
「……どうぞ」
「うむ」
 短く言葉を交わし、旅芸人はタチバナに小さな紙片を渡すと、すぐに立ち去る。
 変わった様子を見せず、タチバナは案内された席につくと、差し出された茶に口を付けぬまま、パッとその紙片を開いた。
 思っていた通りの調査結果に、ふう、と息を吐く。
「……これで暗躍しているつもりなのですから、武家の質も下がったというもの」
 誰にも聞こえないような声量で、そう呟いた。
「時は流れている……。そう、あの子が恋文を書くようになるんだから」
 そう続けた自分のセリフに、少なからぬダメージを受けて、タチバナは熱い茶を思わず飲んだ。
「うっ」
 その熱さに舌が、じんじんと痺れた。

解説

■成功条件
史郎が無事に三条家へ手紙を届ける。

■依頼内容
詩天の港から、三条家までの道のりにおいて、史郎と荷馬車を護衛する。
特に危険な道行きではなく、「念のため」の護衛である。
三条家へたどり着くまでに「呉服問屋」「古物商」「紙問屋」に立ち寄る予定。その際の荷物の積み下ろしの手伝いも依頼に含む。むしろ、こちらの手伝いの方の仕事がメインとなる。

■史郎
十五歳にして一人前の美少年商人。
ある程度の護身術は身に着けており、自分の身は自分で守れる。
詩天での商売もお手のもの。道案内なども必要がない。ただ、今回の詩天行きにはひとつ気になることが。
「……そういえば、俺、三条家と取引したことないから面識ないんだけど「真美さまに『スーさん』からの手紙を預かって来ましたー!」って言って、はたして受け取ってもらえるのか? ……ま、なんとかするしかないよな」

※同行するのは史郎のみとお考えください。他のNPCは依頼に出る保証はございませんのでご了承ください。

マスターより

ごきげんいかがでしょうか。紺堂カヤでございます。
史郎が、詩天へ参ります。基本的になんでも自分でできる世話のかからぬ子ですので、物見遊山のついでにちょっと手伝う、くらいのつもりで気軽に参加していただけたらと思います。
なんせ報酬はスーさんから出ていて、史郎の懐は痛んでいませんから、手伝い程度の働きでも史郎は寛容に応じてくれます!(笑)
どうぞよろしくお願い致します。

関連NPC

  • その商才、月の如し
    史郎(kz0242
    人間(リアルブルー)|15才|男性|疾影士(ストライダー)
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2017/12/25 23:27

参加者一覧

  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • 変わらぬ変わり者
    ハンス・ラインフェルト(ka6750
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士
  • いけ!ぷにっ子スナイパー
    杢(ka6890
    ドラグーン|6才|男性|猟撃士
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師
  • 百花繚乱
    花瑠璃(ka6989
    鬼|20才|女性|符術師
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/12/13 22:13:14
アイコン 相談卓
鳳城 錬介(ka6053
鬼|19才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/12/17 04:00:59