• 冒険

【碧剣】哀求、希求

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
シリーズ(新規)

関連ユニオン
アム・シェリタ―揺籃館―

難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加人数
現在6人 / 3~6人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
プレイング締切
2018/01/16 12:00
リプレイ完成予定
2018/01/25 12:00

オープニング

【碧剣】希求、哀求、



 蕭々と、風が啼いているようであった。少女にとっては、ただそれだけで険しい道程となる。
 『その村』から伸びた道には、緩やかな丘陵が寄り添っている。荷馬車も通る幅広の道は、目に眩しい白色が塗り込まれている。
 冬、であった。
「……人の気配、無い」
 丘陵の高みから、周囲を見渡す小さな影――少女、エステル・マジェスティの、呟きである。遠目には黒黒とした魔女の装いで着込める限り着込んだその姿は、些か以上に着膨れをしている。
 微かな声に、少女がまたがるロバが鼻を鳴らし、小気味よい足音を響かせる。
 小柄な少女が扱えるように、という判断であろうが、ロバが背負う荷の多さと足取りの軽さを見るに、中々優秀なロバであるようであった。
 その、鼻先には――。
「ふむ!!」
 器用に仁王立ちした、これまた小さな影があった。頭部の広がりを見るに、パルムの一種であろうが――兎角、煩い。
 見れば、古風なスーツを身にまとっていた。パルムにしても、斯様な奇っ怪なパルムはクリムゾンウェスト広しと言えども、そういまい。
「ワシの目には誰も! 見えとらん!!」
「……そう言ってる」
 名を、イェスパーという。
「さあ往け! ワシの足もといアシスタント……否! 足兼アシよ!! 現場百回!! 取材の基本であるぞ!!!」
「……うるさい……」
 このキノコ、兎に角、声が大きい。静かに喋れば渋みのある声に違いないが、喋り方一つで夏の天候よりも暑苦しい。尤も、暖を取れるほどの効能も有り難みもありはしないので、ただただ迷惑なだけであった。
「…………寒い」
 少女が向う先まで、さて、どれくらいだろうか。エステルは日除けと雪焼け帽子のための魔女帽を深く被りなおし、口元をマフラーで完全武装させながら吐き捨てると、主の意向を受けてか、ロバの足取りが早まる。軽妙な音に乗り、弾む馬体。「おっほ! おっほ!」と、イェスパーの叫び声が響く中、彼らは往った。



「しばらく逗留とはねえ。とはいえ、物好きだろうがなんだろうが、客は大歓迎だ。うちは隣村と違って温泉があるのが売りでね。かの聖ヴェレニウスも湯治したっていう秘湯さ。……まァ、確かにアッチのほうが牧畜なんかで栄えぁちゃいるが……よし、ほら。此処に記帳していってくれ」
 ハンターたちが呼び出されたのは、陽が落ちる寸前の農村の宿屋であった。銀光にも似た白雪の反射光が失せていくと、加速度的に夜闇の気配が深くなっていく。それでも、屋内は暖炉とランプのおかげで暖かい。肥えた宿屋の店主の人好きする笑みも、影響しているのだろう。
「……良く、来た」
 とはいえ、宿屋というには少しばかり安い造りの建物である。行商人が馬を止めるための小屋と、小さな小部屋に食事処があるばかり。
 椅子に座った少女は落ち着き無く足をぶらつかせていた。主な客が行商人や、そうでなければ飯場として村の男達が訪れるくらいであるからだろう。誂えられた椅子や机は大きく、少女の身体には余るようであった。ただ、少女の眼前には幾重にも皿が積み上げられている。それらが全て少女の腹に収まったとは到底信じがたい量の皿であるが、少女の頬は食べかすで汚れていた。
 全身を覆う厚手ローブに膝の上に置いた魔女帽。少しクセのある茶色の髪に、赤茶の瞳の少女――エステル・マジェスティは、おもむろに口を開いた。
「考えてみれば、簡単なこと」
 その瞳で、無遠慮にハンターたち一人ひとりを覗き込み、告げる。
「シュリ・エルキンズの目的は、明確。『あの村』の生き残りがいて、拐われたかもしれないと言っていたのなら」
 それを探すはずだと、エステルは言外に告げていた。

 シュリ・エルキンズ。彼の実父がかつて使っていたという、『碧剣』。一度は封印されたそれを抜き、愛剣としていた少年が、シュリである。
 美しい碧色の剣は、たしかに伝承に残っていた剣であったが――それは、災禍を招く剣でもあった。
 剣を持つシュリと、ロシュ・フェイランドが同道していた際にのみ見られた異常。歪虚がいるときにのみ見られた、一部の人間の、類稀なる狂暴化。
 様々な事件を経てそれが顕在化した頃に、シュリは失踪した。ロシュを襲い、彼からとある装具を奪った後に、行方をくらませた。
 その後のハンターたちの調査で、いくつかの情報が明らかになり――そして、エステルは此処に居る。エステルは、グラズヘイム王国図書館に眠る数多の”伝承”を識る少女である。当然、グラズヘイム王国に伝わる『碧剣』の伝承もよく識る所であった。
 その彼女をしても、失踪したシュリを探すことは骨だったのだろう。長い旅をあらわすように、その衣服は草臥れていたし、その目は爛々と強い光を宿している。
「王国北部に絞って、調べた。歪虚被害と、その推移を」
 時間、かかったけど、という声には確かな疲労が滲んでいる。
「その中で、歪虚被害がでて、討伐の依頼がでて。それが、取り下げられたものを探したら……たまに、場所が、繋がった」
 それは、ハンターたちが調べたなかで見うけられた状況を元にした推測からの実地での調査の結果。
「けど、シュリが、オフィスに顔をだした情報は、無かった。勿論、討伐された歪虚も痕跡は残らない、けど」
 表情は、変わらないままであったが――そこで、エステルの声に感情の色が篭った。少しばかり複雑な色をしたそれは、憂いと何かが渾然と入り混じったものだ。
「間違いなく、シュリは、歪虚を探して、移動してる」
 性分だろう。口数は少なく、明快な言葉ではない。それでも、シュリは所定の地域を放浪して遭遇した歪虚を順次討伐しては移動しているのだと告げていた。
「あの剣は、歪虚に反応する、から」
 騎士団の調査では、歪虚の一団は雪のために痕跡が追えなくなっている、とのことであった。
 そこで、そんな手当たり次第に探すような真似をしているのか、と。ただし、"正体不明の歪虚討伐者"がいるのは事実だ。
「ボクは、解らない。シュリが、今、どうなっているか」
 けれど、と。エステルは言葉を止めた。

「……見たい。今の、シュリが。碧剣の、騎士が」

 シュリが消えて、一年が経とうとしている。
 そうしてまた、冬が巡ってきた。
 それまでの間を、シュリは『彷徨い続けている』。

「だから――」

 エステルは、こう言った。

「この村を、囮に、する」


 目的:シュリと歪虚を引き出すべく動け

 解説:
  皆様は王国北西部の、近隣で動物型の歪虚による歪虚被害が続発している地方の一寒村に滞在しています。
  『作家』であるエステル・マジェスティが旅行記を記す際の付き人として同道していますが、同村はまだ歪虚被害にはあっていないため、ソサエティに依頼は出されていません。あくまでも、エステルの付き人としてこの場にいます。

解説

  エステルの言う『囮にする』とは、初期対応にエステルらが介入することで他のハンターの横槍がない状況をつくり、歪虚の誘引、ひいてはシュリの誘引を果たす、というのが目的です。村を蔑ろにする意図はありません。

  1.どのような流れで歪虚を呼び込むのか(=この村に執着させるのか)
  2.そのためにどのような準備をするのか
  3.他(なにか、思い当たるものがあれば)

 などが肝要です。

 ▼地理情報
 村:休農期でもあり、現在は700メートル四方程度の村。最低限の歪虚や亜人への備えとして、木板による塀が張り巡らされている。冬支度を終えており、現在は多くの村人が冬の間の手仕事や資材集め、道具造りなどを行っています。住民は200名程度で、多くの若衆は出稼ぎに行っている様子。温泉はあるが、秘湯とは名ばかりの2〜3人程度しか入れないもの。石造りの露天風呂。有効成分は多め。

 森:村より南方は雪原。西部は山脈があり、北部、東部は森となっています。なお、OP中の『隣村』は北部の森を抜けた先に存在しています。

 ▼人物
 エステル・マジェスティ:アークエルス生まれの孤児で、各伝承に詳しい少女。文筆業を営んでいるのは事実らしく、今回の旅についても経費で賄っているらしい。魔女風のファッションであるが、非覚醒者。

 イェスパー:エステルとよく行動しているキノコ。煩いが、寒すぎるのと暇過ぎるので基本寝ている。煩い。

 ▼その他PL情報(プレイング/相談にあたって留意していただきたいこと)
 1.リプレイ中に『歪虚の襲撃はあります』。が、『シュリ・エルキンズは現れません』。
 この襲撃に対して、『次の襲撃を呼び込むような適切な行動』がなければ、この依頼は失敗となり、シュリ発見の機会は損なわれます。

 2.歪虚は過去の依頼に出てきた、獣をベースとした歪虚です。数・大きさの詳細は不明ですが、さほど多量の歪虚は現れません。

マスターより

ご無沙汰しております。ムジカです。
12月中にリリースをするといったな。あれは……嘘だった……ごめんなさい……。

改めまして、【碧剣】関連シリーズ、リリースです。
少しややこしい依頼ですが、村を護るという目線から少し離れればなんとかなる……といいな、みたいな依頼です。
お楽しみいただけたら幸いです。それでは、よろしくお願いします。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2018/01/24 05:35

参加者一覧

  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • 真摯なるベルベット
    アルルベル・ベルベット(ka2730
    人間(紅)|15才|女性|機導師
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 清冽なれ、栄達なれ
    龍華 狼(ka4940
    人間(紅)|11才|男性|舞刀士
  • 離苦を越え、連なりし環
    カイン・シュミート(ka6967
    ドラグーン|22才|男性|機導師
依頼相談掲示板
アイコン 雪原の村にて(相談卓)
ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/01/15 23:55:19
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/01/12 12:29:03