【女神】海を行くイノシシ

マスター:奈華里

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/07/21 19:00
完成日
2018/08/01 02:05

このシナリオは3日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「イズちゃ~ん、イズちゃ~ん。あいつを、助けてやってくれ~」
 そう言いつつイズの船会社の扉を開けたのは見知った顔だった。
 慌てた様子で息も絶え絶え、相当の一大事だと見受けられる。
 けれど、このままでは事情を聞く前に彼の方が倒れてしまいそうなので、まずは冷静を促す。
「とりあえず落ち着いて。ゆっくり深呼吸して下さいね?」
「ん、おお判った。ヒッヒッフー…」
「……」
 間違った呼吸ではあるが、まあはそれはそれとして――暫くした後、事情を聴取する。
「いや、だからな。イノシシが海に脱走してんだって」
「……」
 耳を疑う言葉にイズが再び言葉を失くす。
「聞いてっか? イノシシがだな」
「えっと……ちょっと待ってくれるかしら? 何が何だかよくわからないのだけど」
 まずここは港町である。山岳地帯ならまだしもイノシシが出る事はまずない。
 それに加えて彼は脱走と言ったが、イノシシ牧場がある訳でなし。
 檻に入れていたとすれば脱走するのはそう容易い事ではないし、普通ならば海より山に逃げる筈だと彼女は思う。
「船長、彼の言っている事はどうやら本当のようですよ」
 がそこへ彼女の補佐官・セルクがやってきて、彼女に噂で聞いた状況を説明する。
「あ~……成程ね。元凶はあの坊ちゃんか」
 それを聞き終えて、イズは一度溜息。
 彼女の言う坊ちゃんとはブラシー・K・スピカという青年であり、同盟に別荘を持つ自称貴族様だ。実際のところはどうであるか定かではないのだが、お金はそこそこ持ち合わせているようで普段は自由気ままに旅や娯楽を楽しんでいる姿が度々目撃されている。そして、たまに彼の我侭に付き合わされて荷物を運んだり、時に遊覧船代わりに船旅のお供をさせられたり。まあ、それでも何処か憎めない性格と金払いの良さから、ここらではそこそこ知られた人物なのだ。
「そうなんだよ。今度は丁度暇してた俺の知人に白羽の矢が立ってさ。家畜の輸送って聞いてたのに、蓋を開ければ家畜? いや違うね。あれは野生のイノシシだったっつ~話で」
 よくよく聞けば、問題のブラシ―坊ちゃんは最近ジビエ肉の味に目覚めたらしい。
 そこで突如彼の悪いところが顔を出す。
「こんな美味しいものを皆知らないなんて勿体ない! これは私が一肌脱いでこの味を知らしめなければっ。あぁ、これこそ私の天命! いくぞ、爺!」
 とまぁそんな感じで、大袈裟なポーズと身振りでそんな感想を述べ動き出したのが少し前の事だ。
 が彼の思い付きから実行までの速さと来たら、目を見張るものがある。
 まず彼はイノシシが多くいるという地域に出向いたらしかった。そして、自らの目でイノシシを見定め、買い付けた。と、ここまでなら全く問題ない話なのだが、彼は思い込みの激しさにも定評がある。
「何でもフレッシュさが命というだろう。だから、血抜きは結構…しめるのは別荘についてからにするがベストさ」
 そう言って彼はイノシシたちをイズを頼ってきた男の知人の船に乗せたらしい。
「いや、もう重量オーバーですって」
 そういう船乗りの言葉を聞くよしもなく、彼は船に牛並みの大きさのイノシシを13匹も乗せたという。
「で、沈んだと?」
 強引にも程があると思いつつ、イズが尋ねる。
「あいつの船は沈んじゃいねぇよ。だが、積荷は逃げた。甲板に乗せてたもんだからぴょんと飛び出しやがって…船なんて初めてだったろろうが、何よりビックリしたのはその後よ」
「どうかしたの?」
 呆れ顔でイズが問う。
「泳いだんだって! あのイノシシがだぜ。俺は初めて知ったね…イノシシって奴は泳げんだってな」
 さっきまであんなに慌てていたのは何処へやら。
 話出したら落ち着いてきたのか感想までご丁寧に付け加えてくる。
「ん~まぁ、いざとなれば泳ぐでしょうよ。だって生命の危機だもの」
 この後待つ運命を知ってか知らずか。とにかく生きものとは切羽詰まると案外突拍子もない行動に出るものだ。
「な、頼むよ。イズちゃんの船なら13匹くらいどってことねぇだろう。それに期日までに回収してこないと、あの坊ちゃん金は払えねぇって言うし…それじゃああいつも俺もが困るんだよ」
 何か入用な理由があるのだろうか。どちらにせよ、このままだとまずい事になる。
「はぁ~、まあいいわ。いつもお世話になってるし手伝ってあげるからその船の位置を教えて」
 それにここまで聞いて、捨ておける訳がない。
 セルクに地図を準備させて、潮の流れ等からイノシシの逃走先を推測する。
「んー、まずいわね。野生の勘って奴があるなら歪虚のいる方には行かないとは思うけど、パニックになってるとしたら闇雲に泳いでいくかも…」
 只のイノシシとは言え、暗黒海域に近付いて歪虚を刺激しようものなら、その後の歪虚の攻撃対象が人間に矛先が向くかもしれない。もしそうなっては大事だ。運搬した船乗りはもとより、坊ちゃんもどうなるか判らない。
(何としてもそれだけは阻止しないと)
 イズが早速部下たちに船を出せるよう手配する。
「セルクはオフィスに依頼をお願い。イノシシ捕獲の依頼よ、急いで」
「承知しました」
 イズの言葉を受け、セルクは駆け出した。

リプレイ本文


 真っ青な空にたなびく帆、一際目を引く船が風を受け出港する。
 その舵を取るのは女船長…傍には真新しいコンパスが置かれ、彼女に進路を明確に教える。
「さぁ、じゃあ掴まっててよね」
 栗色の髪を靡かせて、彼女はそう言い海へ出た。
 そうして、的確な最短経路を瞬時に計算しイノシシ達が脱走したという場所を目指す。
「おう、流石に手慣れたもんだな」
 そんな彼女の元へやって来たのはジャック・エルギン(ka1522)だった。
 暫く見ない間に雰囲気が変わって見えるのは気のせいか。そう思うも口には出さない。
「フフッ、それは一体誰に言ってるのかしら?」
 そんな彼にイズも笑顔で答えて、彼の知らぬ所で色々あったのだが今は以前の元気を取り戻している。
「ま、それでこそ海の女神ってもんだぜ」
 彼はそう告げてデッキの方へ。これからの捕物劇に備えて、仲間達と共へと向かう。
(船長の復活かな)
 そんな事を思うセルクを余所に早速イノシシ発見の連絡。
「いましたよー、西南の方向。数匹が我武者羅に泳いでますねー」
 港を出発してから数十分、上空からグリフォン(ka0789unit001)に乗り、双眼鏡で周囲を探索していたイリアス(ka0789)が逃亡したイノシシの一部を発見したようだ。魔導スマホから声がする。その報告を複雑な表情で聞いているのはケイ(ka4032)だ。
(あぁ…もう、私としたことが…しくじったわね)
 出発前の事だ。彼女も翼を持つ大フクロウを連れてくる予定であった。
 しかし、相手はフクロウであるから海上の日光を嫌がったようで今この場にいない。連れ出す許可を取った筈だったのだが、この暑さで自分も参っていたのかもしれない。出した筈の許可も残念ながら下りておらず、現在単独参戦する羽目になっている。
「ま、よくある事だ。気を取り直していこうぜ」
 心の中で頭を静かに抱えていたケイを見つけて、ユニットなしのジャックが彼女を励ます。
「そうよね。まあ、仕方のない事よね…」
 彼女はその励ましに精一杯そう答えて、これからの動きを考える。
(まあ、場所が空から船上に変わっただけ…幸い、武器は飛道具だから困らないわ)
 携帯してきたバリスタ『プルヴァランス』をとりあえず構えてみる。
 自分の身長より大きいのは古代兵器の一つで人間が持ち歩くのを想定して作られていないからだろう。しかし、ハンターとなればパワーが違う。普通の人間ならば持ち歩くのが難しい兵器でも、やすやすと担ぎ使う事が出来る。小柄なエルフの彼女でもそれは同じだ。重さは感じるものの、使えない程ではない。イズの船の甲板に陣取って、精霊の力で矢を装填する。とりあえず威嚇射撃でイノシシ達を動くを鈍らせるが吉か。だが、もう一方でも声が上がって、そちらに視線を向ければ大きな翼を翻しこちらに向かって吼えるワイバーンの姿。
「よく見つけてくれた。引き続き牽制を頼む」
 そのワイバーンはロニ・カルディス(ka0551)のラヴェンドラ(ka0551unit004)だった。
 ラベンダーを思わせる淡い紫色の肢体が空に映える。
 彼との絆が深いらしく、少し離れていても指示を全うしてくれているようだ。
「歪虚の気配は今のところないんだし、今のうちに回収しちゃうんだよっ」
 三角帽子の先を揺らしユーリヤ・ポルニツァ(ka5815)が言う。彼女の横では彼女のユニットに相応しい、何とも愛らしい姿のユキウサギのイーゴリ(ka5815unit001)が彼女の仕草に倣ったように首を傾げてみせる。
「じゃあ俺は近い方へ行くぜ」
 縄を片手に準備運動を済ませたジャックが服をそのままに、武器までも携帯したまま海へと飛び込む。
「そっちは頼んだの~って事で、こっちはこっちでやっちゃっていいですよねぇ」
 とそう言うのはアシェ-ル(ka2983)だ。
 ウキウキした心持なのは単に海を行くお肉、もといイノシシが気になっているから。
 既に甲板にあった彼女の機体、魔導アーマー『プラヴァー』の魔導装着『桃始華』(ka2983unit005)を装着済み。名前を連想させる桃色の機体は花柄入りでとてもファンシーだ。しかも魔法をそのままの姿で打ちたいという彼女の希望で改造されたそれはアーム部分が縮小されていたり、足や膝付近の装甲がスカートっぽいものに変更されている為、多少であるが風通りもいい。
(フフフッ、うまくいけばイノシシが食べられるかもなんですよ~♪)
 決して食いしん坊キャラではないが、それでも貴重なイノシシ肉に好奇心が疼く。
 そこで彼女も甲板から助走をつけて海上へと飛び降りて、
『ちょっ、おいぃ~!』
 そんな声がイズの船員から上がったが、彼女は至って冷静だった。
 しかし、魔法を使う者は今一度確認して欲しい。ウォーターウォークの効果を――。


 ジャックが向かった先のイノシシの数は全部で四匹。
 水泳のスキルを持っている彼であるから、波に流されるもそこを体力と持久力でカバーしぐんぐん近付いてゆく。だが、イノシシも負けていなかった。海に出てからもうかなり時間が経つ筈だというのに、器用に四本の後で水を掻いて何処へ向かうとも知らずバラバラに泳いでいく。
「ったく、助けてやろうってのにまだ逃げるかよ」
 まあ、その後の事を考えれば不憫ではあるとは思う。
 けれど、人間の利己的考えではあるが、海で力尽きて魚や歪虚の餌に食われるよりはずっといいだろう。
「援護するよっ、それっ。ブリザード!」
 ジャックの追うイノシシに冷気を浴びせて、ユーリヤが足止めを計る。
 すると波打つ海面が瞬時に固まって、猪自体も凍ったままその場にぷかり。重さで沈むのではと一瞬思ったが、それは杞憂。先頭のイノシシは逃れたものの、残りの三匹はあっさり氷漬けだ。
「ナイスだぜっ、ユーリヤ」
 そのできた足場に飛び出乗り、ジャックが言う。
 これでこちらの三匹は一網打尽だろう。だが、万一解けた時の事も考えて氷の上から縄をかけておく。
 そうして、その後は…前方に逃げるもう一匹を視界に捉え、彼はにやりと笑う。
(この距離なら…いけるッ)
 足場に気を付けて、ジャックが助走をつける。そうして、身体をぐっと沈めるとそのまま跳躍して、
「こっちも仕事なんでな。悪く思わないでくれよっ」
 ジャックがイノシシに迫る。夏の太陽、彼の金髪がキラキラと輝いて見える。
 彼の目測はほぼ完璧だった。飛んだ先、そこには先頭を行くイノシシがいて着地は勿論彼の上。
 イノシシを殺してはいけないという事だから武器は使えない。くるりと一回空中で回転して少しだけ勢いを殺し、そのままイノシシの上に着地する。
『ブッブヒィッ』
 イノシシはそんな情けない声を上げて彼の着地を許す。それでも沈まず溺れずにいたのは根性というべきか。
「おっ、おまえなかなかやるなぁ。折角だからこのまま自分で船に戻ってもらうぜ」
 ジャックは感心するとイノシシに跨る形を取り、立派な牙に縄をかける。
 そして手綱代わりにするとそのまま方向転換させて…。
「ハハッ、こりゃ楽ちんだな」
 ジャックが言う。が、一方では現在意外とピンチだったり。

「キャインッ!? こ、これはどういう…」
 想定外の状態にアシェールが焦る。
 船から飛び出す前にウォーターウォークをかけていて彼女であるが、それがなかなかの落とし穴だ。
 まず気付いて欲しい。この魔法ははあくまで穏やかな水面でのみ歩行が可能となる魔術であり、水面の状態によりそれは左右される。彼女が降り立ったのはガレオン船が傍で進行する海の上。しかも前にはイノシシが我武者羅に泳いでいるのだ。波が立たない訳がない。そんな場所に重量ある魔導アーマーを装着して飛び降りたらどうなるか。海にうまく降り立てる確率はかなり低い。というか、もうこれはスピードくじの一等を当てるようなものである。
「くっ、ひとまずこれに捕まれっ!」
 誰も彼女のそれに気付いていなかった為、慌てて船上にいたロニが彼女の元に浮き輪を投げる。
 が、ユニット込みの重さを考えるとそんなものでは気休めにしかならない。
「いいわ。アレを使って」
 イズがそれを見取って、部下に指示を出す。
 がその間も徐々に沈んでいく身体を繋ぎ止めるのにアシェールは必至である。
(まさか…これではわたくしが海のモズク…じゃなかった。藻くずに…)
 涙が流れそうなのを必死で堪えて、するとそこに新たな救援者。グリフォンに乗ったイリアスである。
「あの~大丈夫ですか~? 良ければ掴まって下さいね~」
 彼女自身もいざという時に縄を携帯していたからそれを彼女の方へと投げる。
 だが、なかなかうまく届かない。そこでグリフォンにアーマーのボディを掴ませて必死の羽ばたきを試みる。がこれも重さがあり苦戦中。特殊な訓練を受けて兵士を三人程度なら運べるはずなのだが、残念な結果に終わって、アシェールに何度もウォーターウォークを試みてみるが、万に一つの確率ではそれもハズレばかりである。
 そんな彼女のピンチを救ったのはなんと船乗り達だった。船倉にあった空の樽をデッキに運んできて、浮代わりにと提案する。
「さあ、これを早く投げ込んでッ」
 船倉にあった空の樽、それを浮にとイズが彼等に持ってくるよう指示を出したらしい。
「有難う。助かるわ」
「すまんな。これなら」
 そこでロニとケイが狙いを定めて、アシェールの元に樽を投げ落とす。そのおかげで彼女の沈没を免れる。
 後からあるものがあった事に気付くのだが、パニック時では忘れてしまっても仕方のない事。
 海でのウォーターウォークは注意すべし。それを肝に銘じる彼等であった。


 さて四匹のイノシシの回収を終えた後、彼等は先に問題の船と合流した。
 問題の船というのはイノシシを逃してしまった船の事だ。イズの船にはさっき海に出たジャックとアシェールが残り、後のメンバーは一旦こちらの船に事情を聞きに乗船する。そこには勿論坊ちゃんこと自称貴族のブラシ―もいて、
「うむ、よく来てくれたハンター達よ。すまぬが、イノシシ達を頼むぞよ」
 威厳を出そうと思ったのか、やけに古風な喋り方で彼は皆を出迎える。
 が見た目がかなり若く見えるというか、実際まだ二十代という事だから滑稽でしかない。
 そんな彼の手配した船には既にイノシシが一匹いて、どういう訳かと聞けば何故か戻ってきたらしい。
「臆病な奴だったのだろうな。ついさっき長い海水浴を終えて帰ってきたのだよ。その時の様子を聞きたいかね?」
 そう言ってその時の事を語り出そうとした彼であったが、ハンターはそこまで興味はない。
 というか、その間にも状況は刻一刻と移り変わっている。
「あー…うん、少し黙った方がいいな」
 ロニが何かの気配を察知し、静かに言う。
 戻ってきたイノシシはきっとソレを恐れていたのかもしれない。
 そして、今また数匹のイノシシがこちらに向かって泳いでくる姿が見える。
「おや、どういう事だね? 疲れたのだろうか」
 だが戻る理由が判らないブラシ―はきょとんとした様子で的外れな事を口走る。
「下がった方がいいと思うんだよ。ねっ、イーゴリ」
 そんな彼にユーリヤが言葉すると、隣りのイーゴリも海の方を見つめたまま耳を動かしつつ頷く。
「何、穏やかな…ってうわぁぁぁ!!」
 そこまで言ったその時だった。
 海面から姿を現わしたのは海の弾丸というべき薄っぺらい魚――だがその異名の通り、フォルムは至って凶悪である。槍の様な尖った口で獲物のみならず、船や油断した漁師を襲う魚・ダツ…それが一斉に海面を飛び跳ねる。
「な、ななな…」
 その様子に思わず腰を抜かして、坊ちゃんから情けない声が上げる。
「仕方ない。迎え撃つぞ」
 そう言ってロニが応戦の構えを見せた。だが、問題なのはそれの前にいるイノシシ達だ。
 ダツから逃れる為にこちらに引き返してきている数は三匹。目を血走らせて、死に物狂いの様相…まあ、そうなるのも致し方ない。刺されたら致命傷、そんな未知の相手に追われれば、陸の強者も逃げずにはいられない。
「ユーリア、イノシシを頼む」
 生きて回収するのが目的である為、無闇な攻撃は出来ない。そこでロニはある術の発動を目指す。
 それは敵だけを認識して撃ち抜ける技だ。
「わかったんだよ。イーゴリも手伝ってね」
 それを聞いて彼女も魔術の準備して、そこで先にはなったのはユーリアの方だった。
「いっくよ~ライトニングボルトッ!」
 ぴかぁーと辺りに閃光が走ると共に、撃ち落された雷が海面を走る。
 その雷撃に付近にいたイノシシやダツはともかく魚達も目をやられた事だろう。だが、どちらも物凄いスピードで接近していた訳であるから途中でうまくは止まれない。そのままの進路を保って、船へと突っ込んでくる。
 そこを目掛けて、今度はロニが構築した魔術を解き放つ。
「食らって眠れ。プルガトリオッ!」
 声の後に出現したのは無数の刃――闇に染まったそれが飛び出してくるダツだけを射抜いていく。
 そしてその後には異様な光景……空中に縫い付けられたように、びくびくと体を揺らしながらまさにギョッとした目でこちらを向くダツの集団。これが夢に出たらさぞビックリするだろうが、それはそれとして、イノシシの方はと言えばそれは事前に手が打たれている。
「あら、なかなか力持ちなのね」
 ケイが一匹のイノシシを船を大破させる寸での所で取り押さえながら言う。
 その隣りではなんと自分より数倍ある筈のイノシシ二匹も黙らせたイーゴリがいて、坊ちゃんは目をぱちくり。
「な…なんてウサギだ」
 素に戻ったのか、普通の口調で彼が言う。
 イーゴリはなんと船に接近した二匹のイノシシに鞭を放ち、二匹共を絡め取るとそのまま引き込み船へ引っ張り上げたようだ。
「イーゴリって言うんだよね。ボクの仲間…かな」
 ブラシ―が子供の様な目をして見つめてくるのに気付いて、ユーリヤが紹介する。
「ほお、イーゴリくんかい。それはなかなか興味深いじゃないか! こんなウサギみた事ない!」
 今更であるがイーゴリは二足歩行をする。しかも小さな体であるが、パワーファイターと称される位力持ちであり、木を倒すのも彼等ならひと蹴りで済んでしまうかもしれない。
「いいなー、幻獣いいなー」
 ロニが魔術で停止したダツを叩き落としていくのには目もくれず、ブラシ―がひたすらイーゴリをもふもふする。
 少しぶすっとした表情をしたイーゴリだったが、ユーリヤの手前押しのけたりはせず、彼の好きなようにさせている。
「ともあれ、これで八匹か」
 ジャックの捕まえた四匹に、こちらにいた一匹+三匹を加えて残りは五匹。
 大海原に逃げ出しているから発見は容易ではない。けれど、上空からの目があるから心配はいらなかった。


「ふぅ~、それにしても暑いですね~」
 海面に日光が反射して目に余り宜しくない。空を飛ぶという事は太陽に近く、暑さも尋常ではない。
 そんな状態に耐えながらイリアスはグリフォンと共に残りのイノシシを捜索する。幸いなのは空からの攻撃がない事だろう。もしここで飛行系の敵が出たならばそれだけで体力をどっと持っていかれかねないから。
「うーん、うーん、何処か…ってんんっ?」
 そんな中、ふと目に留まったのは尖った背ビレだった。二匹揃って、何やら黒い物体を追っている。
 そこで少し高度を下げて近付いてみると、そこには二匹の鮫と三匹のイノシシ。鮫の方はそこまでお腹が減っていないのか、珍しい海の訪問者に様子見している。
「いけないっ、助けてあげないと」
 このままではいつ食われるか判らない。船の方に軽く連絡を入れてから彼女はこのイノシシの回収に乗り出す。
 が、一体どうやるべきか。彼女のグリフォンは特殊訓練を受けているから人間三名ほどなら運ぶ事可能だ。だが、それは相手が意志を持ち自らから乗ってくれる相手が前提だ。相手が人間を乗せられる位のイノシシとなると話は違う。さっきもそうであったが三匹となると吊り上げて運ぶのは重量的に難しいかもしれない。
「んー、じっとさえしてくれればいいんだけれど」
 とりあえずは鮫の方か。歪虚らしい気配はしないから威嚇すれば逃げてくれるだろう。
 イリアスがリボルバーを構え、鮫付近を目掛け制圧射撃を行う。連続で何度も打つ事で相手の動きを制する方法だ。が、コレは相手を選べない訳で、イノシシもその発砲を耳にして困惑し始める。
「わ、わわ…」
 それは彼女も想定外。鮫を追い払う事には成功したが、イノシシまで暴れ出してしまっては助けようもない。
 だが、彼女は諦めなかった。狩猟の知識もあるし直感も冴えている。ならば出来る筈だ。もう一度リボルバーを構える。そうして、移動するイノシシの前にイリアスが高速射撃を敢行し、その後即座にイノシシが行くであろう方向に回り込んで、
「とりゃっ…と、これで一匹」
 何度か失敗はあったものの、数回でお縄にできたのはなかなかだ。ロープで輪を作り、彼女はそれをイノシシの牙に引っかける。
「誘導は任せて」
 そこへやっと到着したイズの船からケイの援護。勿論他の仲間もこちらに加勢してくれる。
「おまたせ~っと。その子は私が引き上げますよう」
 そう言ってずぶぬれになっていた筈のアシュールが再びアーマー姿でこちらに手を振る。
 そして、もう片方の手には見慣れぬ武器……どうやらそれがさっき忘れていたモノらしい。
「じゃあお願いしま…ってひゃあ!」
 そう言いかけた途端、彼女の傍に少しの風が吹いて次の瞬間には縄をかけた筈のイノシシが船の縁まで移動している。彼女の秘密兵器…それはイーゴリの使っていてものより更に長いものだ。
「まさか、こんなものが役に立つ時が来るとは思いもしませんでした」
 そのアイテムの名は機鞭『クロムジャラー』。全長八cmもある伸縮性のあるこの鞭でなら、金属製だからロープより頑丈。引き上げる際の安定性も増す。案の定、サルベージの機械を使うよりも時間が短縮できている事は明確だ。アーマー着用の彼女が引き上げるから、船乗り達が頑張ってロープをを巻き上げる必要もない。
「フフッ、さっきはかっこ悪いところ見せちゃったけど、今度は大丈夫なのです」
 アーマーに隠れて見えないが、きっと今ご機嫌な笑顔を見せている事だろう。
 そんな調子で残りの二匹を全員で追い込み回収すると、最後の一匹はロニのラヴェンドラが発見。
 再び逃走を恐れて、凍らせそのまま引き上げて…無事全ての回収を終えるのであった。

 そうして、港に戻ったのは夕食前。
 一匹も行方不明にならなかった功績を称えて、ブラシ―坊ちゃんが皆をディナーに彼らを招待してくれる。
「ふふっ、お肉お肉なのですよ~」
 ローストビーフの様に仕立てられたイノシシ肉を前にアシェールがはしゃぐ。自費でイノシシ肉を広めようとは物好きなと思ったが、こういうおまけがついてくるなら悪くないと思うのはロニだ。ラヴェンドラにも今晩は高価な食事をご馳走しようと思っているが、まずはこちらが先だろう。
「何か悪いわね…ホント」
 余りいい働きとはいかなかった手前、ケイが呟く。
 代わりにブラシ―のイノシシ肉の良さの演説を聞く羽目になったが、ヒドイ言い方をすれば適当に流せば済む事だ。年代物のワインも惜しげもなく出されて、皆気分がいい。
「ね、これだからあの人との付き合いはやめられないわ」
 こそりと隣にいたジャックにイズが言う。
「確かに太っ腹だな。けど、俺は今回の船旅自体も悪くなかったぜ」
 するとそうジャックが切り返す。
「そうね。やっぱり海よね」
 イズはその言葉を噛み締めながら、皆とディナーを最後まで楽しむ。
 ちなみにイーゴリには新鮮な人参の詰合わせが後日送られたというのは後から聞いた噂である。

依頼結果

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MVP一覧

  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギンka1522

重体一覧

参加者一覧

  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • ユニットアイコン
    ラヴェンドラ
    ラヴェンドラ(ka0551unit004
    ユニット|幻獣
  • 金糸篇読了
    イリアス(ka0789
    エルフ|19才|女性|猟撃士
  • ユニットアイコン
    グリフォン
    グリフォン(ka0789unit001
    ユニット|幻獣
  • 未来を示す羅針儀
    ジャック・エルギン(ka1522
    人間(紅)|20才|男性|闘狩人
  • 東方帝の正室
    アシェ-ル(ka2983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    マドウソウチャク トウシカ
    魔導装着「桃始華」(ka2983unit005
    ユニット|魔導アーマー
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • ヨイナ村の救世主
    ユーリヤ・ポルニツァ(ka5815
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    ユキウサギ
    イーゴリ(ka5815unit001
    ユニット|幻獣

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/07/21 13:26:06
アイコン 質問卓
ジャック・エルギン(ka1522
人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/07/19 09:10:49
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/07/21 03:59:05