老騎士の誇りにかけて

マスター:秋月雅哉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
7日
締切
2018/09/19 12:00
完成日
2018/09/20 11:18

みんなの思い出

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オープニング

●矢錆び弓折れようとも
 騎士として叙勲されたのは二十歳になるかならないかのころだった。小さいころ自分を助けてくれた棋士に憧れて、毎日鍛錬に励んで。小さいながらも辺境を守る騎士団に見習いとして入団して、雑用をこなしながら剣術や槍術、弓での戦い方を学んだ。
 叙勲された後、とても大きな功績をあげたわけではない。武勲に輝く騎士時代だったわけでもない。防衛が主で、攻撃してくるのは雑魔やはぐれたオークなどが時折。あとは村人と領主とのいさかいの仲裁や喧嘩の仲裁。
 騎士ではあったけれど木訥とした人たちが多い、戦士というより何でも屋のような場所だった。川が決壊したと聞けば土嚢を積みに村民と泥まみれになって雨の中を走り回り、豊作すぎて収穫の人手が足りないときけば騎士団総出で収穫を手伝った。
 争いもあったが平和なことが多く、笑顔が多い楽しい日々だった。目指していた英雄とは違っていたけれど、人々の笑顔があるならそれで満たされた日々だった。
 財政難で騎士団が解散してからは村に一人で身を寄せた。四十を過ぎていた。そこで若者に自警団くらいは作れるように、自警団を作るならある程度の武術を覚えられるようにと騎士時代に得た知識で手ほどきをした。
 感謝があった。笑顔があった。それがうれしかったし誇らしかった。年をとっても私は青臭い理想論を抱いて、それを満たしてくれる周りに恵まれて、幸せに過ごしていた。
 今年で私は六十五歳になる。手入れを欠かしてはいないがそろそろ槍にはぬぐい切れない経年劣化で錆が浮いてきたし、矢もとっくに素人の手作りで弓は弦を張り替えても古びている。
 それでも戦いに赴かなければならなかった。オークが村を狙っているからだ。
 騎士としての最後の勤めになるかもしれない。それでも自分が騎士の時代から守り、子供時代は遊びまわった故郷を護る。
 それが老騎士の意地であり誇りだと、思った。

●オーク討伐
「最近、村の周辺をオークがうろついていると討伐の依頼があったんだ。オークの数は五体。槍、両手剣、片手剣、バトルアクス、弓、こん棒。両手剣を使うオーク以外は盾を持っているらしい。略奪する気満々の武装だね。軽鎧に身を包んでもいる」
 ルカ・シュバルツエンド(kz0073)が緊急性が高いと判断した依頼の内容を集まったハンターたちに伝える。
「その村には一人だけ老騎士がいるんだそうだ。自警団もあるけど老騎士は若い人が命を散らすものじゃない、ハンターオフィスから討伐するハンターが来るまで自分が食い止める。それが騎士の誇りで意地だって一喝したらしい。自警団の人たちは老騎士に教えを受けて戦闘術を学んだ人たちだから強く反論できなかったみたいだね。今は村人の避難を優先させて、いざとなったら老騎士に激怒されても戦線に加わるつもりらしい。皆には村の救助のために、そして尊敬されている老騎士さんが無茶しないようにオークの討伐を済ませてほしいんだよ。幸い、老騎士の狙いは自分がオークを引き付けて村人を逃がすことみたいだからね」
 騎士っていうのは護ることにはいくつになっても固執するものなのかな。そういうのは、羨ましいけれど大変な生き方なのだろうね。
 そう言って青年は地図を差し出して、頼んだよ、とハンターたちを見まわしたのだった。

リプレイ本文

●『護る』人たちの戦い
 元騎士の老人が暮らす村がオークから襲撃されたと報告を受けてハンターたちは現場へ急行した。老騎士に戦いを挑むオークが二体と、避難の終わった村へ略奪に向かい、その後避難した村人たちを殺戮しようとするオークが三体。
 八人のハンターは二手に分かれて南護 炎(ka6651) 、リカルド=フェアバーン(ka0356)、コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561)が村へ向かい、八原 篝(ka3104)は壁歩きを使って高所からオークの様子をうかがいながら、彼女も後で略奪を行うオークへの対応へと移る予定だ。
「両手剣を持つオーク以外は盾を持ってるってことだったけど、弓を持ってるオークが盾の他にこん棒を腰から下げてるわ。近接戦に挑まれた時の対策みたいね」
 自警団の一人を捕まえて村人の避難場所と、避難が終わっていない場所を聞きながら、オークについても聞きだした篝が小型のトランシーバーとして使用できるイヤリングを使って仲間と情報を共有する。
「それと、あと三割くらいの人たちが避難が済んでいないみたいなの。足の弱いお年寄りや子供を優先して逃がしていたから残ってるのは成人男性や自警団の人たち。女性と子供とお年寄りは、近くの洞穴を避難所にして自警団の一部が護衛として残ってるけど……一般人がオークを相手に立ち向かうのは難しいからこっちで食い止めないとね」
 好き勝手に散らばる気配は今のところないので袋叩きにするために篝は村の救出に向かっている仲間と合流する。
(……たった一人で立ち向かっても焼け石に水だった、っていうのは、今は言わないでおきましょうか)
 そういうことは後片付けが済んでからだ、とハンターに気づいて野卑な叫び声をあげるオークに対して篝は目をすがめる。
「単独でオークを相手にする老騎士ねえ。老体っつか生き残りの類か、おいてるとはいえ強ええぞ、古強者は。襲撃したオークもてこずるだろうな」
 知り尽くした土地に装備もあって意思があるなら、急ぐに越したことはないが完全に手遅れになる可能性は低い、と見積もったリカルドは老騎士が一人で立ち向かうという無謀にも思える行動に出るほど愛する、彼の故郷を守り抜くためにオークに立ち向かう。
「最近はCAMに乗ったり、人命救助ばかりだったから腕がなまってないといいが。オークで試すとするか」
 即、近づきながらオークの頭部めがけて拳銃を抜き打ちしながら力強く踏み込む。
「年老いた身とはいえ、わざわざ命を投げ出すこともなかろう。自己犠牲もそれで勝ち目がなければただの自殺行為だ」
 リカルドと違って現実に対してシビアな意見を述べながらコーネリアが攻撃の瞬間にマテリアルを使って銃弾を加速させることで攻撃力をあげながら村を略奪の手から守るために立ち回る。
 彼女もかつて、軍人として祖国のためという名目で命懸けの戦い、汚い作戦に何度も従事してきた。
 そして憎き歪虚を滅ぼすためなら命さえ惜しまないと覚悟を決めてきた身であるからこそ、老人が勝ち目のない相手に戦いを挑んで命を投げ出しているように見えるのだろう。
「いい豚だな、八つ裂きにして火であぶれば極上の肉ができるだろうな。食えないのが実に残念だが」
 そうオークを挑発して逃げ遅れた人たちの護衛を自警団員に任せ、その間のオークの注意を引き付ける。
「おっと、逃がさねえよ!」
 それでも武装していない村人のほうがハンターたちより虐殺しやすいと考えたオークがそちらに向かおうとするのを炎が防御を捨てて、大上段に構えて迎え撃つ。
「邪魔ヲ、するな!」
 進路を阻まれ逆上したオークに向かって炎が叫び返す。
「村人の平和な営みを邪魔してるのはお前たちだ! すこし話しただけだが村人の感じもいい村だ。そんな村をお前たちに蹂躙されてたまるか! 必ず殲滅する!」
 この村で好き勝手はさせない、と啖呵を切る炎と、意地でも村人や村に被害は出させない、と油断なくいく手を阻むハンターたちに三体のオークは次々と襲い掛かった。

 一方その頃、老騎士が一人で奮戦するところにもハンターたちは駆けつけていた。
「貴方たちは……?」
「依頼を受けて討伐に来たハンターなのん。一人で食い止めようとするなんて無茶なのん!」
 村もおじいちゃん騎士さんも守るよ、と救援が間に合ったことにまずは安堵しつつも無茶が過ぎる、とたしなめるのはミィナ・アレグトーリア(ka0317)だ。
「この子、ついてきちゃったからおじいちゃん騎士さんはこの子を護っててほしいのん。こっからさきは、ハンターが引き受けるのん」
 老騎士に、ペットの桜妖精を焦るあまり連れてきてしまったからオークの攻撃を受けないように保護してほしい、と託す。
 もともと老騎士の目的はオークの討伐ではなく足止め。討伐が本職のハンターが来たのならば自分はむしろ足手まといだと引き際をわきまえている老騎士はそっと桜妖精をつれて後衛に下がる。
「あとは、お任せしてよろしいのですな?」
「むろん。まぁ、気持ちはわからんでもない。わしの傭兵時代の元部下たちも血気盛んで死んでしまったものは多いからの。じゃが、最悪お主が死んでいた場合、おぬしは意地を果たしたと満足かもしれぬが、残された者たちはどうなる?」
 老騎士より年長のバリトン(ka5112)が老騎士の言葉に応える。
「おぬしが使うべき意地は、何が何でも生き残ることじゃ。己が育てた若者たちをもっと信用してやれ。師の最後に自分が何もできなかったとなれば彼らには悔いしか残らぬ」
 わしら老兵は若者が道を切り拓く礎になろうとも、彼らのこれからに対する重石になっては、影になってはいけない。それが老兵にとっての誇りになるはずだ、と言葉を重ねられて老騎士は己の軽挙を恥じるように頭を下げた。
「だが、おぬしの無茶のおかげでわしらは間に合った。それにオークといえば歪虚の尖兵でもある。ハンターの常駐は難しいこの村で、オークと戦ったことのあるおぬしがこれから先いるのといないのとでは村への被害が大きく変わると思うぞ」
 説教はしまいじゃ、とバリトンは老騎士と入れ替わるように前に出るとオークのいる空間を指定して斬撃を繰り出す。
「周囲に人はいないようなので、他は気にしなくても大丈夫そうです」
 足止めに専念していたとはいえオーク二体を相手に立ち回っていた老騎士の負傷を夜桜 奏音(ka5754)は祈りの力を癒しの波動に変えて解き放つ。傷が響かない程度まで祈りに集中し続け、手当てを終えると無理をしては駄目ですよ、と柔らかくくぎを刺した。
「申し訳ない。感謝いたします。助力にも、忠告にも。どうも目先のことにとらわれていたようだ」
「私たちが食い止めますけれど念のため、耐久をあげておきますね」
 符を使用して防御力を高める結界を展開させる奏音。台地から立ち上る美しい光は外側からの害意を減衰させるものだ。
「オーク……オークねぇ。確かにオークだよね。こいつら。歪虚の尖兵といえばオーク。まあすべてのオークが悪い奴じゃないのかもしれないけど、少なくとも今回のは悪いやつだよねぇどう見ても。
 いいさ、集落にいたころと変わらない。あたしが、あたしたちが始末したげるよ」
 お爺様は無茶しすぎ、とセレス・フュラー(ka6276)も加速して加勢に駆け付けながら肩をすくめる。
「オーク嫌いな通りすがりのSさんですよ。あとは任せた任せた」
 軽鎧は着ているが兜はかぶっていないオークへ向けて、急所である眉間に向けて敵の攻撃を見切りながら立体的な動きで隙を突き、守備をかいくぐって致命的な一撃を狙う。
 老騎士は、鍛錬を積んできたからこそハンターたちと自分の力量の差をはっきりと理解した。だからこそ邪魔にならないように、そしてたくされた桜妖精を護ることに専念する。
 ミィナが二体のオークに向けて、術者から一直線に伸びる雷撃を呼び出して二体もろとも巻き込んで攻撃する中、バリトンは自分の周囲に対して素早く動きながら何度も斬りつけることで二体に均一にダメージを与えていく。
 オークたちも反撃に出るが老騎士が奮戦したためと、数的に不利なこと、そして知能があまり高くないらしく連携を取らない隙を突いてのハンターの攻撃を受けて旗色は悪い。
 奏音が白龍のドラゴンブレスを再現したといわれる魔法攻撃をオークに向けると、彼女の背に白龍にも似た虹色の翼が広がる。
 白龍は争いに長けた龍ではなく、あくまで戦闘を停止させるために力をふるった龍だ。かたずをのんで戦況を見守る老騎士のように、犠牲を少なく、そして迅速に終結させるための力だ。
 この魔法により放たれた光線でオークは意識を混乱させ、同士討ちを始める。
 混乱に乗じ、そして同士討ちの混乱が解けないうちにバリトンとミィナ、セレスが攻撃を畳みかけると二体のオークはほぼ同時にその生命活動を停止した。
「さってと、村のほうはどうなってるかな。様子を見に行かないとね。お爺様も、お爺様が守りたかった村も守り抜いてこそあたしたちが着た意味がある」
 セレスはそう言い残すとお爺様は避難した村人の様子を見に行ってほしい、と付け加えて次なる戦場へ。
「ペットは、戦いが終わるまで預かっていた方がよろしいですかな?」
「あ、じゃあお願いするのん。うちは討ち漏らしとか、報告に上がっていない伏兵が新手として潜んでいないかみてくるのん。そのあとで村に加勢が必要ならいくから、おじいちゃん騎士さんと合流するのは後片付けのあたりになるのん」
「至らぬ身ではあるが必ず無事に貴方と貴方のペットを再会させると約束しよう。もちろん、私自身ももう無茶はしない」
 これは騎士の誓いです、破ることはない、と宣言すると老騎士は避難した村人たちのいる洞穴へと走り出す。
 バリトンと奏音はミィナとともに一度見回りをすることにして片方の戦いは終結した。

 村人の避難は自警団のメンバーも含め、完全に終了し、略奪を仕掛けようとするオークに対するハンターたちは、村への被害を抑えることを気にかけるだけで済むようになってからは苛烈に攻撃を仕掛けていた。
「オークのほうが人間より骨も筋肉も腱も固いせいか、時間はかかるが、身体構造が人間に近い分殺しやすいな。ただ、近づくのもリスクが高いわな」
 リカルドがカウンターとして掌底で攻撃しながら背後に回り込む。
 その動きについて行けなかったオークが見せた隙を突いて篝がマテリアルを瞬間的に体に満たし、矢を複数同時につがえて、炎の力を付与された魔法の矢を射かける。
 コーネリアが回り込み、天に向かって一斉に放たれた、マテリアルをまとった光の雨のような攻撃を三体のオークに降り注がせる。
 一時的に体の自由を失ったオークに向けて炎が肉体を加速させて敵の懐に飛び込み、一刀ですべてを切り裂いた。必ず構えをとる必要があるがそのタイムラグはコーネリアが放った光の雨で動きが取れなくなったオークには対処ができず、神速の一撃はオークの首を切り飛ばす。
 リカルドが頸椎めがけて日本刀を突き立てて、ひねりを加えていく。
 倒れたところを炎がとどめを刺し、残る一体はコーネリアと篝が連携を決めて完全に息の根を止めた。
 加勢の必要はなかったか、と仲間と村の無事を確認したセレスと、周りに今現在のところは伏兵やうち漏らしがいないことを確認したバリトン、奏音、ミィナが合流を果たす。
 オークとの戦いはハンター側の勝利に終わった。

●これからの在り方
 避難していた村人に安全になったことを告げて少し被害の出た村の整理を手伝いながら、ミィナは預けていた桜妖精を迎え入れる。
「お手伝いするから指示してほしいのん!」
 と言いながら村と老騎士の関係を観察。彼女が出した結論は。
「まだまだおじいちゃんが頼りみたいなのん。みんなが指導を卒業できるまで頑張ってほしいのんー」
「そうみたいね。それにあなたが死んじゃったら、助けられた方は『自分の代わりに犠牲を出してしまった』想いが残るのよ」
 篝も村人が老騎士を心から案じ、慕っている姿を見てもう無茶はしないように、と言い添える。
「今回の戦いでは貴方の弟子の、避難活動のフォローに助けられました。これからは、もっと若い人たちを信頼したらどうでしょうか?」
 そんな言葉を受けて老騎士もうなずきを返す。
「私もまだまだ修行が足りませんな。老木が倒れるのは自然の道理だが、それによって若木の成長を妨げてはならない。だからこそ、私は私にできることをこれからもしていこうと思う。……無茶のない範囲で」
 これからは若者たちにもさらに頑張ってもらうとしましょう、と厳しい顔を緩めて老騎士は無茶を叱られた子供のような気恥しげな表情を見せ、村人たちは誰一人かけることなく災厄を乗り越えられたことをハンターと老騎士に向けて感謝の言葉とともに祝ったのだった。

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MVP一覧

  • 幸せの魔法
    ミィナ・アレグトーリアka0317
  • (強い)爺
    バリトンka5112

重体一覧

参加者一覧

  • 幸せの魔法
    ミィナ・アレグトーリア(ka0317
    エルフ|17才|女性|魔術師
  • ……オマエはダレだ?
    リカルド=フェアバーン(ka0356
    人間(蒼)|32才|男性|闘狩人
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士
  • 非情なる狙撃手
    コーネリア・ミラ・スペンサー(ka4561
    人間(蒼)|25才|女性|猟撃士
  • (強い)爺
    バリトン(ka5112
    人間(紅)|81才|男性|舞刀士
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • 風と踊る娘
    通りすがりのSさん(ka6276
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • 覚悟の漢
    南護 炎(ka6651
    人間(蒼)|18才|男性|舞刀士

サポート一覧

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/09/14 23:16:49
アイコン 相談卓
バリトン(ka5112
人間(クリムゾンウェスト)|81才|男性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2018/09/18 00:46:49