山遊び おまけ編(夜)

マスター:DoLLer

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
易しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
3~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
3日
締切
2018/10/28 09:00
完成日
2018/11/04 23:19

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ほおー、これは綺麗なもんだな。南方大陸で見るのも、宇宙で見るのもそんなに変わらんと思っていたが」
 リゼリオ近郊の里山。
 帝国で商人として活動するミネアの実家の近くの山は、夜になっても楽しいものはたくさんあった。
 例えば男が思わず目を奪われてしまった星空。もちろん灯りの少ない異境の大地の方が星は綺麗に見えるもので、都市近郊であるこの山よりずっと素敵な星空はいくつも見てきたが、水鏡と化した静謐の泉に立つと星空は上にも下にも広がり、宇宙に立っているかのような不思議な感覚に陥っていた。
「宝石箱みたい」
「でしょー。ここあたしのお気に入り」
 瞳をこの空間と同じようにキラキラとさせる黒髪の少女を見て、満足げにうなずくのは、ここに案内してくれた本人ミネアだ。だが、少女は静かに首を振る。
「ここだけじゃなくて、ミネアさんの故郷のこの山全てが……です。朝からずっといるのに、飽きがこないくらい色んな景色や体験に満ち溢れてて」
「山もあなたのこと大好きだって思ってるのかもね。まだ全部回れていないんでしょ」
 銀髪の女性の言葉に、ミネアは二度頷いた。
「うん、季節によっても違う光景もあるし、時間によってもね。朝にニンジャ屋敷って言ってたところはお化けが出るって有名でさ。夜になるとホラーハウスになっちゃうの。お父さんのお手伝いに行って泣きだしたの思い出すわ……」
「ということは、もう怖いのは平気なんですか」
 桃色の髪の少女はミネアの顔を覗き込む。本当はと言えば少女は怖いものはあまり得意ではないが、ミネアが大丈夫なら自分も大丈夫。といえそうな気がして。その安心感が欲しくての質問だったが、残念ながら気持ちを後押ししてくれる返答はなかった。
「ほら、あたし10才でもう住み込みで働きに出たから……あ、そうだ」
 遠い目をして答えたミネアがふっと目の輝きを取り戻した。
「あたしが働いていた料理屋のマスターと息子さんがね。この近くで働いているの! 1日1組限定のレストランをしてるの。こんな離れてるのにすごく評価高い、ちょー高級レストランなんだって」
「ほう、ミネア殿の働いていた料理店の。気になるね」
 料理の得意な栗色の女性の目が光った。
「でも、超高級っていうと、お金もすごいんじゃ。それにそんなすごいとこだと緊張して味がわかるか……」
「前に手紙で『遊びに来てね』って書いてくれてたから大丈夫だよ。緊張はするかも……しれないけど。お肉、150gで2万するって風のうわさで聞いた。サービスも最高級だって言ってたけど……あたし一人じゃとても怖くて行けないところなんだ」
「へえ、文字通り超高級だね」
 栗色の髪の女性は味を想像して楽しそうにしていたが、一般庶民の出の人間からすると末恐ろしさしか浮かんでこない。
「怖いところばかりね。大丈夫、ホラーハウスもレストランも私が守ってあげるから」
 みんなが押し黙る中、軍服の女がにっこり笑顔を浮かべて優しくそう言った。
「ホラー大丈夫なの?」
 銀髪の女が笑顔で尋ね返すと、軍服の女の笑顔は凍り付いたを見て、彼女はよしよしと頭をなでてやるとミネアに顔を向けた。
「怖くないスポットもあるのかしら」
「んーと、あ、お祭りの時季だから神輿があるかも」
 ミネアが少し考えてぽんと手を打つと、その言葉に桃色の髪の少女がこくりと首を傾げた。
「神輿?」
「うん、森の精霊様に感謝をするお祭りでね。神輿をずーっと担いで歩くの」
「夜中に?」
「うん。昼は森の精霊様も人間は働いているから。みんな休んでる夜にやるのが伝統なの。LEDライトとか松明とかでデコレーションしまくった神輿でね、馬に引いてもらうんだ。あたし達は上に乗ってみんなで仮装して踊るの。精霊様に感謝を捧げられればいいから、演劇する人もいるし、音楽する人もいるし、みんな好き放題してるよね」
 ミネアがくるくる踊る姿をみる限り、のんびり踊る系ではなく、割とアグレッシブな踊りのようだ。
「あとはリゼリオを眺める丘があるから、そこでのんびり夜景を楽しんでお話するだけでも楽しいと思うけど。リゼリオのキラキラした灯りと、港に出入りする船の灯りとか、いつまでも眺めてられるよ」
 ホラーハウス、高級レストラン、神輿に、夜景。
 数えてみれば夜も夜で大変楽しみがあるようである。
「ふむ。どれもいい見聞になりそうだな。どれ、それではどこに行くか……」
 全部は回れないだろうから、1つか2つ。
 みんなは相談を始めた。

リプレイ本文

「い、いつの間に……!?」
 ミネアが驚嘆するのも仕方ない。
 高級レストランの入り口に立った友人たちは気が付けばドレスコードばっちりの姿に変貌していた。
「フッ、俺とて最低限のマナーくらい知っているぞ?」
 ルベーノ・バルバライン(ka6752)は黒い背広の胸ポケットに白いハンカチを収めながらにっと笑った。焼けた肌の快男児がフォーマルに収まった瞬間に溢れるギャップ感。かっこよすぎかよ。
「軍では早着替えというものも必要でね」
 というシャーリーン・クリオール(ka0184)はしっかり海を思わせる淡い青のドレスと紺碧のコートにハイヒール。口元も軽く紅が引いてあり、大人の女性としての魅力があふれ出していた。
「せっかくのレストランですし……ね」
 エステル・クレティエ(ka3783)も緑地に白い花がついたドレスに、クリスタルパンプスと極薄のヴェールをまとい、微笑む顔にもメイクでいつもよりずっと大人っぽい。ミネアだけでなくリラ(ka5679)も綺麗ですーと手を叩いて絶賛するレベル。
「リラさんもとっても綺麗。イヤリングが夜の風景にぴったりです」
「えへへー、着る機会は他にないかなって」
 褒められたリラは嬉しくてくるりと回ると、銀のアンクと鎖でつなげた海色の宝玉が宙を踊った。
「みんな素敵ね」
 そこに登場したのは肩を惜しげもなく露出しながらも品のある茶色のドレス姿の高瀬 未悠(ka3199)。
 そして、いつもは全メンバーの中で一番幼くみえるユリア・クレプト(ka6255)は髪を巻き上げてヘッドドレスで飾り、漆黒のドレスから覗く脚には真っ赤な靴、白のケープを纏い。マダム・ブラックウェルとレディ・未悠の登場は、もはや王宮の晩餐会でも紳士淑女を虜にしそうな勢いだ。
「まって」
 うさぎさんリュックにオーバーオールに帽子という山ガール姿はミネアだけ。
 しばらく彼女は山の夜より深い闇に沈んでしまった。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
 外観は質素ではあったが、ホールに入るとその景色は一転。高級レストランと言われた通りの赤い絨毯に、銀食器で彩られた部屋。椅子もテーブルも凝ったデザインだ。
 なのにテーブルの上は落ち葉だらけの皿ばかり。
「狐に化かされるお料理をオーダーしたのかしら」
「ミネアちゃんからは故郷の山を体験してもらう一環で、こちらに来たと聞いておりましたので。その趣旨から外れてはいけないかなと思いまして」
 オーナーが悪戯っぽく笑うと、怪訝な顔をして尋ねたユリアははっとして、ユリアは燭台を取って落ち葉に火をともした。
「わっ、あぶなっ」
 よく乾いた落ち葉はテーブルの上であっという間に大きな火となって面々を驚かせた。が、それは優しい芳香となって辺りに漂わせる。
「これはシャクナゲね。とってもいい香り」
「フランベ、ありがとうございます。それでは御着席を。アパタイザー(前菜)です」
 焼けた香草の中から料理が姿を見せるではないか。落ち葉で芋を焼くようなことを高級料理店がやるとこうなるのか。彩りと香り、驚きに魅せられながら、一行は席に着いた。

 ルベーノの大口により皿の中身が一瞬で消えた。
「ちょっと、ルベーノさん。よく噛まないと、お百姓さんに怒られますよ」
 なんて会話が一部で起こっていたが、他はおおむね料理の凄さに飲まれている感じだった。
「流石、最高級料理だね。芸術の域だ」
 シャーリーンは感慨深い溜め息をつきつつ、ナイフを走らせた。キノコ類は山の中で見かけたものを使っているのはわかったし、大きな皿で山の景色を作っているのもすごい。そしてナイフがすっと入る柔らかさと、香り、弾力、染み出るソース。
「すごい……食べやすいし、食べ方次第で味も変わるんだ……これが最高級」
 シャーリーンやミネアが作るものも相当に美味しくて、これよりお高いってどんなものだろうと好奇心でいっぱいだったエステルもさすがに理解した気がした。形や大きさなども食べやすいように工夫されていて、飽きがこない。
「ワインとの料理もぴったり。本当に計算されつくしているのがいいわ」
「お酒にも合うんですね。味が変わるのかな……」
 最初は堅苦しく礼儀作法を実践していたリラも、ユリアの無作法にならない範囲で大いに楽しむ姿を参考にして少しずつ楽になってくると、今度はユリアの料理の楽しみ方が気になって仕方ない。
「ああ、そういえば、ほとんどみんな飲まないんだっけ」
 そういえばほとんどまだお酒の味を知らない若いメンバーばかり。
「俺もワインのような肩ひじ張ったようなものは飲まん。だが、郷に入れば郷に従えだ。最高の物は味わっておかねばならんだろう」
「それは確かに言えてるわ。少しだけ貰えるかしら」
 未悠のオーダーに料理長はホットワインをグラスに注いで、そして果汁を軽く絞ってハーブを散らして見せた。
「そのハーブ、薬草園で見たね。ワインも料理の一つってことか」
 きっと初めてワインを飲むには少しきついと判断されたのだろうが、お酒独特の苦みを抑えて口当たり良くなった酒にシャーリーンは素直に驚いた。
「あ、これなら行けるかも。兄と違って私大丈夫みたいです」
「うん、美味しいわよね」
 エステルと未悠は頷き合って、ホットワインをぐいぐいと飲んでいく間に、続いては大皿で子羊のソテーが出されるのだが、まるで一匹丸ごと使ったかのような量に、全員が目を白黒とさせた。
「満足を得られる量は人によって違うでしょう。それに分け合っても問題のない仲の良さだと思いましたが」
「やれやれ。そこまで見抜かれてるのか。ここの価値は料理より、料理長の人間観察眼にあるようだな」
 前菜もほとんど一口で終わらせてしまっていたルベーノが笑った。メインディッシュもこぢんまりとしていて一口だろうなと思っているのを見透かされているようだった。
「料理を楽しむ、楽しめないと決めるのは人の心ですからね。全力で楽しめる気持ちにするのも私の仕事です。といっても……それすら聞こえていない場合、私もどうしたらいいか悩みますけどね」
 料理長はミネアを見て苦笑いをした。完全に高級料理店の空気に飲まれて目がぐるぐるになっている。
「大丈夫よ、ミネア。好きに楽しめばいいの。間違えたって誰も気にしたりしないから」
「そ、それは、そうだけど……もう服装の時点でアウトな気がするし」
 スプーンで肉を切ろうとしているあたり、かなりダメな予感がする。そこで未悠は思い切って肉を指でつかむとミネアの前でぱくりと食べて見せた。そのマナー違反にミネアもさすがに固まる。
「マナーっていうのは他の誰かが嫌な思いをしないようにするためにあるの。私たちに御大層なテーブルマナーなんていらないわ」
 未悠はそのあと少し切なそうな顔をして、自嘲するように微笑んだ。
「リアルブルーにいた時はこうした料理毎日食べてたけど美味しくなかったわ。料理長さんがいう通り、美味しいか美味しくないかは食べる人の心が決めるの」
「うむ」
 その言葉にルベーノが重々しく同意の言葉を放った。
 しかしその後がないので、そっちそちらを見ると……大皿にあった肉が全部口の中に消えてリスのように頬が膨らんでいるとユリアが口元を抑えて噴き出すのをこらえた。茫然としていたミネアもそれでようやく笑いがこぼれる。
「ふははは、ようやく笑えるようになったではないか。笑顔は世界共通言語だぞ」
「うん、そだね!」
「やっぱりミネアさんは笑顔の方がいいですねっ。ね、ね。それじゃお写真とりませんか」
 リラがバッグからスマホを取り出すと、もう椅子の配置もみんなで勝手に移動して。
「それじゃ最高傑作と一緒にどうぞ。お菓子の家です」
「っ、お菓子の家!?」
 はい、ぽー……あー、未悠さん食べちゃダメ!!
 ぽーずっ!!


 月に照らされた山の斜面は枯れ落ちた草葉と風によって運ばれた落ち葉がクッションになって、座ったり寝転んだりするには特別良い場所だった。
 そして眼前に広がるは夜のリゼリオ。
 街の灯はキラキラと輝いて宝石箱のようだし、そこから時折聞こえる船の汽笛。そしてゆっくりゆっくり動く灯は船だろう。遠くでゆらゆらと揺れて見えるのは漁火だろうか。
「兄弟と喧嘩した日とか、よくここに来てたの」
「……ずっと見てられますね」
 記念写真もあらかた取った後も、灯をぼんやりと眺めるだけで自然と満ち足りた気分になるのはなぜだろう。リラはミネアの横顔をちらりと見た瞬間、不意に頬に温かさを感じて跳ね上がった。
「ひゃいっ」
「お待たせ。料理長からのプレゼントさ」
 シャーリーンが上から覗き込んで、悪戯っぽく笑う間に、ルベーノが残りのカップをそれぞれ全員に渡した。
「こういう場所には温かいものが定番だろう。景色を眺めるだけでも有意義な時間を過ごせるものだな。シャーリーンは夢の弟子入りは叶ったか」
「弟子は取ってないってさ。代わりにドラジェだけ一緒に作らせてもらった」
 そうしてシャーリーンが渡してくれたドラジェは綺麗な球体にマーブルの模様がかかった惑星をイメージしたものだった。
「幸せになってもらいたい気持ちを突き詰めれば、弟子入りしなくても大丈夫、だってさ」
「だと思います。シャーリーンさんならきっとすごい料理人になれますよ」
 エステルは両手でカップを掴んで温かさを楽しみつつ、シャーリーンにそう話しかけた後、また夜景に視線を戻した。自分で言った言葉がそのまま胸にささくれるようにして残っていたから。
「どうしたの?」
「私、外に出たかったのは母の写しじゃない自分を見つけたくて、とか、お嫁に行ったときにとか、色々あるんですけど」
 あなたなら、立派な薬師になるわ。
 自分がシャーリーンにかけた言葉を、ずっと昔かけられたことをふと思い出す。
 そんなエステルの頭をふわりとユリアが抱きしめると、その顔に双眼鏡を当てた。
「街の光はずっと同じように見えるけど。よーく見てごらんなさい♪」
「あ、ハロウィン」
 催しの飾りが光を放っているのがわかる。
 同じ光は一つとしてない。どんな想いも輝く光になる。今を精いっぱい楽しんじゃいなさい。そんなことを言いたいのだろうと思うとエステルは口元を微笑ませた。
「あ、流れ星」
 そんなエステルの視界に今度は青い残光が走った。
 流れ星はきゅっと角度を変えると、今度は丸い軌道を描き、どんどん人の顔を作っていく。
「???」
「はーい、ミネアの顔の完成だよ」
 くつくつと笑ってシャーリーンはピンセールという光の残像で絵を描ける筆を振ってみせた。双眼鏡では見えなかったから流れ星だと思ったのに。
「ほう、絵を描けるのは面白いな」
「絵もまた万国共通。『もし』とか『こうなったら』みたいな気持ちを伝えるにはいい道具さ」
 シャーリーンは筆をもう一度かざして青い鳥を描いたミネアの顔の横に書き足すと、ルベーノに手渡した。そこで鳥ならこれだろうロック鳥を描いたり、リラは自分たちの顔を書いたりした。
「素敵、もしかして、街からも見えているのかしらね」
 みんなが満足げに夜空のキャンバスを見上げていると、未悠は最後に筆を受け取ると、それらすべてを赤い光でハートマークで包んで見せた。
 ほんのちょっぴり。帝国の彼方からも見えたらいいなと想いを込めて。
「そういえばミネアさんって好みの男性とか、どんなのでしょう」
 赤いハートがゆっくりと消えるのを見つめてリラがミネアに尋ねると、彼女はぶはっと飲みかけていたハーブワインを噴き出した。
「そ、そういうリラさんこそ」
「私? 私はまあ……いや、ミネアさんのことが聞きたくて」
 はぐらかせなくなったミネアは何やら困ったようにむにゃむにゃ呟いて、最後にぽつりと返した。
「誰にでも優しい人、かな。そんな人があたしだけ見てくれてたらとか、嬉しいけど。でもあたしはいつもいっぱいいっぱいだから気づくかなあ」
 にっこり。
 その言葉にみんなの笑顔が特別輝いた気がした。
「ふふふ、それじゃあ、もっとお仕事任せられる人を探さないと。大切な人の視線をに気づけるように」
 エステルの言葉にミネアは真っ赤になって頷いた。
「それじゃまた来ましょう。何時か大事な素敵な人を連れて来る目標をもって」
「うん、エステルちゃんもだよ」
 差し出されたエステルの小指にミネアも小指を重ねた。
「もちろんだ。あんな店はツテがないと入れんからな。また必要になったときは、頼むぞ」
 案外器用なウィンクを浮かべてルベーノは笑った。
 それからみんなも。

「みんな、ありがとね」
 光が少しずつ消えていく。筆の光も街の光も。夜は深まりを見せ始めた頃。
 皆が言葉少なになった頃に、ミネアがぽつりとそう言った。
「何言ってるんですか。私たちの方こそ。ありがとうございます」
「そうだね。本当にいい経験になったよ」
 エステルとシャーリーンは頷き合ってそう言うと、それぞれに綺麗にラッピングした包みをミネアに差し出した。
「あのレストラン、ものすごい高いって聞いてましたから、そのお代金の一部になればと……というのもあるんですけど、こんな素敵な体験をさせてもらったことも含めて。気持ちなので受け取ってもらえると嬉しいです」
 しばらくミネアは逡巡して、手を伸ばしかけたが、結局その伸ばしかけた手は自分の顔で覆うために使い、蹲ってしまった。
「ミネア……」
「ごめん。嬉しいのに、涙が止まらないの」
 こらえようとして息を飲むたびに、嗚咽と涙が溢れてくる。
「大丈夫。それはとても素敵な事なのよ」
 たまらない気持ちになったユリアが抱きしめるとミネアはその胸の中で子供のように服を掴んだ。
「最高に幸せだから、これ以上のものはもらえないよ。みんなの温かさが一番だから」
「可愛いこと言ってくれるじゃない、私もよ」
 未悠はユリアとサンドイッチするようにしてミネアをぎゅっと抱きしめた。
「温かさが一番、か」
 ルベーノは暗闇に沈む山を振り返った。確かに何の変哲もない山だったが、そこにあった創意工夫には心血が注がれているのはよくわかった。自分がユニゾンにもたらすべきものもつまるところは、そこに行き着くのだろう。
「感謝するぞ、ミネア。いつかユニゾンも見に来てくれ」
「うん、絶対行くよ」

「もう帰らなきゃいけないのは残念だな」
 エステルと毛布にくるまるミネアがつぶやくと、シャーリーンは新しくコップにハーブティーを注いだ。
「寂しくないおまじないを一つ教えてあげるよ。そいつを目線の高さに掲げて飲んでごらんよ」
 その言葉にしばらく不思議な顔をしていたミネアだが、ゆっくりと言われた通りに目線まで掲げると
「あ、綺麗……」
 お茶の水鏡に夜景が映った。
「思い出も全部、胸の中に。素敵な香り、温かさと共に、ね」

 いつまでも忘れない。故郷でのひと時はそうして、胸にゆっくり落ちていった。 

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重体一覧

参加者一覧

  • 幸せの青き羽音
    シャーリーン・クリオール(ka0184
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • シグルドと共に
    未悠(ka3199
    人間(蒼)|21才|女性|霊闘士
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 想いの奏で手
    リラ(ka5679
    人間(紅)|16才|女性|格闘士
  • 美魔女にもほどがある
    ユリア・クレプト(ka6255
    人間(紅)|14才|女性|格闘士
  • 我が辞書に躊躇の文字なし
    ルベーノ・バルバライン(ka6752
    人間(紅)|26才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 夜遊び、どこに行く?
未悠(ka3199
人間(リアルブルー)|21才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2018/10/28 08:47:55
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/10/26 01:05:07