【碧剣】約束されし驚愕成功

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
シリーズ(新規)
難易度
易しい
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
3~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/12/04 22:00
完成日
2018/12/17 14:56

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 久しぶりの、”外”だった。
 雲は高い。乾いた風は、冬に向かいゆく世界を如実に示している。
「……」
 旅装に身を包んだ少年は、息を吐き、手を開く。そうして、呟いた。
「――行こう」


 シュリ・エルキンズ(kz0195)が王国に戻ってからの日々は、至極シンプルなものだった。
「え?」
 王都に戻る、という宣言の後、エステル・マジェスティに連れられて王都にたどり着いた。そこまでは、いい。よかったはずだ。
「釣り上げたか」
「……あなた達は、雇い主じゃないはず」
 幼さの残るエステルの声が、棘を孕む。しかし、それを受けた相手――騎士は、微動だにしなかった。白髪を撫で付けた老騎士は厳然とエステルとシュリを見下ろす。緊張していたシュリの口元から、言葉が溢れる。
「げ、ゲオルギウス・グラニフ・グランフェルト……騎士、団長……?」
「シャルシェレットとは話は通っている」
 シュリの言葉には反応を示さずに、老騎士はお付きの騎士に視線を巡らせる。すると、膝を折った騎士が恭しく包みをエステルに差し出した。
「卿からです、レディ」
「……!」
 エステルはふんだくるようにしてそれを受け取る。機嫌の悪さを隠すことなく、ゲオルギウスを真っ向から睨んだ。
「……このやり方は、気に入らない」
「必要なことだ」
「……気に入らない」
 言って、エステルはシュリを見た。呆然とするその肩を掴む。
「え、エステル……?」
「……見せて」
 意図が汲めずに怪訝な顔をするシュリはただ、少女の意外な力強さが――どうしてか、胸を打つ。
「”今のこれ”は何かが、違う。だから……」
「シュリ・エルキンズ。お前はこっちだ」
 ゲオルギウスの手がシュリの背を叩き、向きを変じさせた。今のシュリにとってはすぐに倒れそうな程度の力。それでも、抗うことを躊躇うには、十分で。
「ぁ……」
 ただ、首だけを後方へと向ける。
 そこにはもう、エステルの姿はなかった。

 語弊を恐れずに記すとすれば。

 それからシュリ・エルキンズは騎士団本部に”軟禁”された。
 そして……その2週間後、シュリ・エルキンズは久方ぶりの眠りを得たのだった。



 ゲオルギウスに案内されて騎士団でされたことは、ひたすらに、訓練、訓練、訓練。そして、訓練だった。
 ただの訓練ではなく、ただひたすらに戦闘を重ねる。シュリ・エルキンズに疲弊はない。摩耗はない。消耗もない。故に、訓練は昼夜を問わず、非番の騎士、新人騎士、従騎士や鬼たち、そして時には聖堂戦士団と行われた。
 ひたすらに剣を重ね、槍と打ち合い、槌を払い、打たれ、打ちのめされ、立ち上がり、戦い続ける。シュリにはほとんど説明は為されなかった。ただ、戦えと言われただけだ。
騎士団がただの酔狂でこんなことをする組織ではないことは、少年にもわかっていた。それに、戦闘に参加する騎士たちに強い意思の光が見えた。
 ……あの日、雪の村を覆う茨に打ちのめされた心が、かすかに息吹く。
 理由はわからないまま。彼もまた、剣を振るった。
 ――これは、僕の為(せい)なんだ。
 戦闘に身を置き続けたまま――シュリ・エルキンズは戦闘中、突然意識を無くした。
 止むことのない戦闘を初めて、2週間後のことだった。

 そして、それから――。



「リアルブルーの医学書によると、ヒトの体には血球というものがあるらしいよ。酸素を運ぶものから、外敵から体を守る防御機構のようなものまで」
「は、はぁ……?」
 ある日、シュリの身体を――正確には碧剣もだが――調べにきた学者が、そう言った。
目の下にこびりついた隈と無精髭が印象的な男の名は、オーラン・クロス。彼はいくつかの羊皮紙を参照しながら、鎧具にマテリアル鉱石を砕いた塗料を用いて陣を描き、続ける。
「ヘクス様から、君とその剣のことを少し聞いたとき、ふと思い出したんだ。世界にはいろんな仕組みがあるけれど、その中でも……」
「あ。あの」
「ん?」
「僕、その辺の話、全く聞いていないんですが……?」
「……」
 思わず、口を挟んでしまった。
 ――そのまま聞き続けることも、できただろうに。
 オーランは気まずげに目を細め、しばし遠くを眺めた後。
「…………すまない。続けよう」
 かろうじて、そう結んだ。


 そうして、今。
 ゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトの命令のもと、シュリ・エルキンズは旅に出る。
 王都イルダーナの転移門を抜け、たどり着いた、その先に。

「え?」
 ――その先には。

「遅いぞ、シュリ・エルキンズ」

 豪奢な鎧に身を包み、剣を腰に佩いた金髪の少年、ロシュ・フェイランドと。

「み、皆さん……?」
 ハンターたちの姿が、あったのだった。

リプレイ本文



「成程」
 その人は、たしかにそういった。
 ――ナルホド?
「君がシュリ・エルキンズか」
 茶褐色の肌にくすんだ金髪は旅慣れを感じさせる。
 理知的で、
「……ジュードから話は聞いているよ、大変な目に遭った様だね」
 なのに、差し出された手は固く、
「『事情』は、さておき。我々は暫くの間戦友という事になる。どうぞ宜しくお願いするよ、シュリ」
 ……むしろ痛く。
「あ、はい、よろし「こらーーー!!!!」」
 鈍い音とともに、僕を覗き込んでいた灰色の瞳が吹き飛んでいった。強く握りしめられた手のせいで、衝撃の凄烈さが直接手に伝わってくる。
 ”彼”――エアルドフリス(ka1856)さんはそれでも、手を放さなかった。放さないまま膝が折れ、崩れ落ちていく。
「どわっ!」
 白目を向いていることに気づき、慌てて脇に手を差し込んで支えると、遅れて、風。
 そして。
「……ジュード、さん?」
「はーい、久しぶりー!」
 そうやって、にこやかに笑う”彼女”――ジュード・エアハート(ka0410)さんが、そこにいた。



「ヤー、ルールーったらイイ顔してたヨ!」
「やー、まったくですねー」
「む」
 アルヴィン = オールドリッチ(ka2378)がケラケラと嗤えば、ソフィア =リリィホルム(ka2383)はニタリと笑う。エアルドフリスはぐうの音も出ない。
 ――かといって不可避の事態だったのでは?
 などと内心で自己弁護しているのは彼らしいのだが。

 再会が、どのようになるかなんて予想もできていなかった。
 八原 篝(ka3104)は、混沌極まる光景のなか、安堵を抱く。
「家族にはもう、会いに行ったの?」
「……いえ、まだ、です」
 これは酷く刺さったようで、エアルドフリスと似た表情で唸るシュリ。篝がロシュを睨むと、「私は無関係だ」と一蹴し余裕の構えだ。
 ほう、と息をつく。
「相変わらず、ぼーっとして……」
 呆れるような言葉は本心で。
「でも、よかった。貴族への傷害と窃盗で牢屋の鉄格子越しの再会でなくて」
 こちらも、まごう事なき本心だった。
「げ」
 シュリがロシュを見やれば、ロシュはフ、と鼻を鳴らして腕を組む。
「そうだな。まずは」
 言葉は、憎悪も侮蔑もなく告げられた。

「留年おめでとう、シュリ・エルキンズ」
 ただし、若干の愉悦を添えて。




「今回はえらくにぎやかだな」
「ええ、まあ」
 ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)が若干の困惑とともに言えば、枯れた空を見上げたマッシュ・アクラシス(ka0771)が言う。
「我々が集まれば、十のうち八つ九つはこのようなものでしょう」
 淡々としてはいるが、彼の口ぶりに不快な色が混じっていなかった。
 ”目付け役”の選定、ハンター主体となった戦力を見ても、シュリの現状はそう悪くない。ならばそれでよい。
「違いない」
 吐き出された紫煙とともに、ヴォルフガングの声が落ちる。雲行きの怪しさは、誰しもが感じているところだろう。だからこそ、今、こうして和やかな時間を過ごせる面々であることは歓迎すべきところだ。
 彼らにとってはいささか派手な空気なのは否めないのだが。



 一段落したところで、一同はその日の宿へと移動した。
「というわけで改めましてジュード・エアハートでっす! クラスは皆知ってる通り猟撃士ー。サブクラスは疾影士と符術士!」
 しゅばっ、と手を挙げたジュードが口火を切った。
「弓の方がメインで、射程の長さを活かした支援射撃が得意。こっちのエアさんとリッチーとは同じ小隊組んでたりするんだよー」
「ドモドモ★」
「……見苦しいところを見せましたが、働きぶりで示したく。魔術を少々扱います」
 ジュードが片手で示せば、アルヴィンは大仰に手を振りながら、眩いマテリアルの花火を散らし、シュリを驚かす。対してエアルドフリスは折り目正しく一礼。前者はともかく、後者は明確にロシュへと向けたものだった。
「どーも! 初めましてっ! よろしくお願いしますっ!」
 一方、最大限の愛想を振りまいてお辞儀したソフィアの目線が、シュリの腰元に吊られた碧色の剣に移る。
 ――うーん。変態的造形……。
 どう見てもカタギの仕事じゃない。胸中にわきあがる好奇心を抑えて、顔をあげた。
「機導師兼鍛冶師他色々な職人でーす。『剣の装具』とか、『修理』とか承りますよう。あ、戦闘では銃での援護と機導術が主ですねー。大体なんでもできます! 罠とか野営陣地もですし……『装備の整備』もがんばります!」
 ところどころ念を押したのはご愛嬌。自身もケースに入れた曰く付の武具を持ち込んではいるが、もちろん、別腹なのであった。
「よろしくおねがいします! そういえば戦いっぱなしで久しく手入れできてなかったんです!」
「わぁステキ!」
 感極まって抱きつくソフィアにギャアア、と絶叫するシュリ――という具合で、一同はすぐに脇道に逸れていく。アルヴィンは、はしゃぐソフィアと、剣を(タダで)見てもらったうえに、思わぬ余録を得て嬉しそうなシュリを眺めて、目を細める。
 ――普通の男の子に見えるケレド。
 状況が煮詰まった時、どうなるのだろうか。経緯を思えば、穏やかならぬ旅路となるのは間違いない。
 楽しみダナァ、と。アルヴィンは嗤う。愛嬌たっぷりの表情のまま、密やかに。

 ―・― 

「まず、シュリの現状を知りたいわ」
 篝が水を向けると、シュリは居住まいを正した。
「この剣が”不完全”だったのは、その核となるものが足りなかったから……というわけで、その」
「私の宝玉を盗んだわけだな」
「……そう、です。はい。ごめんなさい」
 ロシュのちくりと刺す言葉に、シュリの表情が歪む。
「冗句だ、続けろ」
「……それから、僕は歪虚を追っていました。その間のことは少し記憶は曖昧で、ただ、食事はいらなかったし、眠らずに済んでいたし、食事もいらなかったです。およそ、200メートル前後なら歪虚の気配を正確に掴めていて、それより遠いとおぼろげに方向がわかる程度でしたが、追跡には困らず……」
「補足だが」
 ロシュが、言葉を添える。
「おそらくそこには盲点があったというのが騎士団の見解だ。シュリは近くに歪虚が存在する場合、より遠方の歪虚を感知できていなかったのだろう」
「ナンデそう思うノ?」
「そうでなければ、その剣がニアミスしていたであろう親玉を見逃す理由がない。その点を早期に見透かされ、泳がされていた」
 フム、とアルヴィン。
 ――となルト、その”鼻”に期待しスギもよくナイネ。
「……あとは、この剣を振るっている間は、かなり早く動けます」
 雑な物言いに、ロシュに視線が集まる。ロシュは「事実だ」と頷くのみ。
「えーと……あとは騎士団の人たちにボコボコにされ続けて、2週間後くらいに気絶しました。その日から、たまに眠れるようになりましたね!」
「集団リンチ……?」
 目の光を失ったジュードの視線がロシュに刺さる。批難、というにはあまりに昏い。それは、篝や――マッシュにしても、同様で。
「私を責めても何も変わらんぞ。団長からは必要な措置だったと聞いている。これについては――長くなる。道中でもいいだろう」

 ―・―

「今回の目標は、報告書に出ていた冬の歪虚、で間違いないですかね?」
 硬直した空気を解すように、エアルドフリスの低い声が響く。
「親玉の正体は不明よ」
 リンチを匂わせる発言に不満げではあったが、責任感がそうさせたのか、篝が口を開く。
「戦術的な動きが多かったことを見るに、自身と視覚を共有した雑魔を無数に使役していたと思う。主なのは野生動物を元にした雑魔で、相手を行動不能にする能力を使う奴もいたし……浚われた人達を元にしたと思われる人型もいた。こちらは視認しただけでイヤな感じがしたわね」
「獣型では、しなかったと?」
「うん、俺も戦ったことがあるけど、そのときは何も。たぶん、人型のやつだけなんだろうね」
 エアルドフリスの疑問に、隣に座っていたジュードが応じた。
「主が力を得た結果か……あるいは」
 ――そもそも、成り立ちが違う、か?
 思索にふける男をよそに、篝が続ける。
「雑魔が殺した家畜を新たな雑魔に変えて不意を突くなんて事もされたわね。それに――敵は、村一つを「茨」で覆って閉じ込めるなんて馬鹿げた事もやっている。その時の仲間も言ってたけど、似ていたわ。……『茨の王』の、聖女の茨に」

 《貴方(エクラ)は誰も救わない》
 かつて呪いを吐いた、狂った聖女の亡霊。

「慎重で、狡猾で、底の知れない相手よ」
「付け加えることは?」
 篝の話を受けたヴォルフガングの短い言葉が、ロシュに向けられた。
「まず、シュリの一件以来、該当する地域周囲には避難勧告が出されている。以降の被害は無しだ。そのうえで――私達の見解として、追記すべきは三つ」

 ―・―

「一つ。歪虚は【茨の聖女】との関連のある、【狂気】に属する者だろう。茨。増殖する雑魔に、それを制御する手法から、これはほぼ間違いない」
 そうして、シュリを眺める。
「二つ。攫われた村人たちは、可能な限り生かされているはずだ。あえて村人を攫った点を考慮すると、だが」
「正直、今も生きている可能性は低いんじゃ?」
 ソフィアの直截な言葉に、ロシュはうなずいた。
「そうかもしれんが、生かそうとはする――あるいはしていたはずだ。そうでなければ、獣たち同様、殺して歪虚にしてしまえばいい。最後に三つ目。”大量の村人を抱えていた”ことから、長距離かつ迅速な移動はできなかったはずだ。少なくとも、冬を越すことすらできはしない。そのことからも、奴らはどこかに潜んでいる可能性が高い。そしておそらく、それは――」
 ロシュの指が、下を指す。

「地下だ」

 ―・―

「いやはや、長い旅になるとは思っていましたが……」
 マッシュは――彼にしては珍しく、若干の驚きとともに――目を細める。
「王国全土ではないとはいえ、北方、それも山岳地域に限っても相当な広さでしょう。候補地は絞れているのですか?」
「……まあ、それなりには」
「「「………」」」
「いや、待て。悪いのはシュリであって、私達だって最大限調査はしたのだが」
「すみませーん、とりあえずエール人数分とこのメニューの右上から全部くださーい」
 ソフィアの注文の品が届くまで、曖昧な証言をもとにロシュの弁明は続いたのだった。



「「「乾杯」!」ーい!」ーーい★」
 思い思いの飲み物を手に乾杯が始まると、それぞれに語りだす。ハンター歴も長い面々ともなれば手慣れたものである。
 マッシュは「確認は済みましたので、先に休ませていただきたく」と場を辞し、8人での宴会である。

「ロシュ君は正式に騎士になったみたいだけど、騎士団に所属して赤とか青とかの隊に配属されてるの?」
「青の隊に、な。武技よりも、手練手管の方を買われたのだろう。貴族色の強い私は、もとより白の隊には所属できなかったろうから順当な人事だ」
「いやあ、お若いのに騎士とは。素晴らしいものだ」
 貴族らしい見栄を否定するでもなく、並べられた食事をこんもりと皿に載せたエアルドフリスが調子よく言うと、肉を頬張ったシュリがロシュを見つめた。
「騎士科を卒業したとしても……通常だと、ロシュはまだ従騎士のハズだよね。それがなぜ、騎士に?」
「――兄、だろうな」
 ぽつ、と。言う。
「……殉死した。件の『泉』の防衛を果たせずに、な」
 言葉に滲む昏い気配を含めて、シュリ以外の面々は静かに受け止めたらしい。動揺をこぼすこともなく、それぞれに弔意を示す。
 時勢だ。そういうこともあろう。
「その事を恨んだりシテるノ?」
「……そう、だな」
 グラスを見つめたままのロシュは、アルヴィンのどこか見通すような瞳に気づくことなく、こう結んだ。
「あれがなければ、騎士になっていなかっただろうな」

 ―・―

 シュリのかつての様子を知っていたジュードにとって、エアルドフリスに負けぬ大食らいぶりを眺めて、ふふりと笑う。
「前から食生活が心配だったけど、騎士団でごはんはちゃんと食べさせて貰った?」
「……ま、あ、それなりには。鬼のヒト達から、チョコとかオニギリとか一杯もらいました」
 先程のリンチ疑惑といい、騎士団のシュリに対する扱いの劣悪さが透けて見え、篝はジト目でロシュを睨む。
「…………あなた達、ちゃんと世話する気あったの?」
「私に言うな。……だが、鬼達の作る量は凄まじいと聞く。シュリが飢えたことは無いだろうさ。多分な」
「栄養とかちゃんと考えなさいよ……」

 と、喧々諤々している傍らで。
「――食事や休息が必要なくなってしまっていたとしても、シュリ君はシュリ君だし」
「……」
 ジュードの言葉に、シュリの言葉が、詰まった。
 シュリの『状況』が変わるわけもない。今こうしてシュリが過ごしている『形』は、あくまでも適応しただけのこと。
 ――と、見通していたかは定かではない、が。ジュードにとっては馴染みのある事物には変わりなかっただけのこと。
 だから、ジュードは精一杯の笑みとともに、こう結んだのだった。
「これから一緒にがんばろーね!」


 ―・―

「…………」
 その影で、めっっっっっちゃ横目で見ていた挙げ句、睨み返された男のことについても、付記しておきたい。
「男前が台無しですねぇ~」
 ニヤニヤと下卑た笑いとともにエールを呷るソフィアに、男はそっぽを向いた。その先に座っていたヴォルフガングはニヤリと笑うと、盃を掲げる。
「不器用な苦労人に、乾杯」
「…………すまんが、下戸でね」
「なら、こっちは?」
「付き合おう。ちょうど口寂しくなっていたところだ」
 と、掲げられた煙草に、懐からパイプを取り出した。



「あの……」
 分煙のためにか、”子供”を気にしたか。ヴォルフガングは男を伴って店の外に出ると、その背に、声。
「おひさしぶりです……あの」
「……」
 声を掛けてきながら言いよどむシュリを前に、ヴォルフガングは自らの顎を撫でた。
 いやでも見当がつく。
 あの日。あの村から撤退した時、ヴォルフガングは抵抗するシュリの意識を落とした。
「シュリの方は元気そう……というべきかはさておき、まぁ、何よりだ」
「……ヴォルフガングさんのおかげ、です」
 だからこそ、どのようにしたとしても藪蛇だったのだろう。嘆息しつつ、
「今回は、何かあったら背中くらいは預けさせて貰う。……後は、そうだな」
 なんとか言った男は右手をひらひらと振ると、足早に店先から離れていいく。
「……まぁ、無茶はするんじゃねぇぞ。まあ、とにかく、今は戻れ。主役が酒宴を離れるのは良くない」
「……は、い」
 その背を追う足音は、一つ。男はパイプをくわえると、にたりと口の端を歪めた。
「不器用な苦労人、ね」
「……」

 ―・―

 かくして、夜は更けていく。幾度目かの冬に、たしかな結末を迎えるために……今はただ、交誼を結び。

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参加者一覧

  • Stray DOG
    ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
    エルフ|26才|男性|聖導士
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 冬の狩り 初日【相談卓】
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/12/02 15:09:22
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/11/29 22:16:26