【碧剣】去りにしモノ、戻りしモノ

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
3~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/01/02 09:00
完成日
2019/01/20 23:29

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 それは、王国北部へと発つ一週間ほど前のこと。
 ゲオルギウス・グラニフ・グランフェルト王国騎士団長の招集を受けたロシュ・フェイランドは、さすがに緊張の面持ちを隠せなかった。特例で騎士になったロシュではあるが、経験不足は己も認めるところだ。
 相対するのが騎士団でも最長のキャリアを誇る最高役職で――これが彼にとって正念場であるとなれば、過敏になるのも無理はない。
「オーラン・クロスの施術をもってシュリ・エルキンズと彼奴の剣への『処置』は終了した。ロシュ・フェイランド。お前が上げた作戦どおり、猟犬として彼奴を貸し与えるのは問題はない」
「……は」
「――だが、その前に『女王』に誓約を交わせ、ロシュ・フェイランド。此処より先は禁秘となる」
「は。ロシュ・フェイランド。我らが女王とエクラに誓います。今日より私は、真実王家の剣たることを」
 すぐに紡がれたのは、『貴族派』である出自からの別離を示す言葉だった。
 この老騎士はフェイランド家のことなど把握しているのだろう、とロシュは思う。子息を――長男ではないとはいえ――騎士にしたうえで、シュリ・エルキンズの父親から【碧剣】の核とも言うべきものを預かっていた『貴族』だ。現在のフェイランド家を単に『貴族派』であると括るのは無理筋だろう。
 だとすれば。
 ――だとすれば、貴族であること、ただそれを誇っていた私の、なんと愚かであることか。
 だからこそ、いまさら己の口上程度で納得などさせられるものか、とも思う。すでに、裁定は為されているはずだ。
 故に、存外長い時間が経つにつれ、いよいよ不安と疑念を覚えるようになった。
「……不足でしたでしょうか?」
「いや、良い」
 それを見計らったかのように、ゲオルギウスは一つ頷き、こう告げた。
 要領を本分とすべし、を体現する人物らしく、
「まず、あの剣の由来から話すとしよう。歴代の使い手、その数多の武勇を支えたあの剣は――」
 端的に、このように。

「精霊だ」



「……『剣の出自は不明』だが、その剣の銘は『カルエラマルティ』というそうだ。さておき、その剣の効果と対策自体は以前から騎士団内でも検討・実践されていた」
 道中、『集団リンチ』疑惑に対する回答をするロシュ。
「重要なのはあの剣のマテリアルの低減・一時的な枯渇だ。恒常的な覚醒など、シュリ自身のマテリアルでは賄えるはずがない。碧剣の騎士の中には歪虚を撃滅した後も、遠方の歪虚を追跡しようとしたり、き覚醒を解除できない事例はあったらしいが、その間に拘束のうえ、必要に応じて戦闘を行いマテリアルを消費させていたらしい」
「ん? 覚醒って解除しないとだめなの?」
 呑気な声は――告げられた剣の銘にぼんやりと剣を眺めていた――馬上のシュリ・エルキンズからのもの。
「……お前は、その限りではないようだな」
「?」
「歴代の碧剣の騎士は、覚醒が解除できない場合、常に興奮――いや、発狂していたようだ。強化は万全ではなかったらしいが、歪虚を求めてな」
「……僕は?」
「だから、お前は例外だといった。理由は騎士団長も知らんと言っていた」
「なんで……?」
「……私に聞くな。思い当たる節はあるのか」
「無い、なぁ……なんでだろ?」

 ―・―

 かつて、ロシュに対してゲオルギウスはこう語った。
「過去の碧剣の使い手はすべて、歪虚への憎悪を喚起されていた。そういう人物しかあの剣を使えなかった、とも言えるが」
「……覚えがあります」
「しかし、あの小僧は違うな」
「……」
「イレギュラーな事態に剣事態がなんらかの異常をきたしているのであろうが……『あの剣がそれを手っ取り早い』と識った上でのことと考えると合点がいく。あの小僧は、違う感情が増幅されているのだろうよ。故に、これだけは覚えておけ、ロシュ・フェイランド」
「は」
 ゲオルギウスが指摘する要点だ。傾注するロシュに、ゲオルギウスは厳格な眼差しとともに、告げる。
「あの小僧の手綱を握り続けたいのであれば、あの小僧に歪虚を憎ませるな」
 そうして、もし、と。添える。

「もし、彼奴が歪虚を憎悪しそうになったその時は――」



「…………どうだ、お前の感知には掛かったか?」
「いや、なにも……」
「だろうな」
 今、一同は雪上を進んでいた。5-6メートルの幅で雪除けがされた道は固く、足をとられることはない。
「おそらく、『奴』の所在は山中のはずだ」
「じゃあ、僕たちはどこに向かっているの?」
「まずは拠点に移動する。捜索はそれからだ」
「拠点……?」
「お前も知っている場所だ。他の面々もな」
 前方を見据えたままのロシュの横顔は、硬い。

「かつて滅びた、廃村だよ」



 幾人かのハンターにも、心当たりがある場所だった。
 東に巨大な森を構えた元、寒村である。
 しかしながら、もはや見覚えは無い、と断じてよいほどに手が加えられていた。
「……事前に、ゴーレムを用いて拠点として構築しなおしている。管理のための従騎士も数人駐在しているが……」
 偽装のためだろうか。家屋も再建されており、それとは別にいくつかの兵舎らしいものに、倉庫、そして、何よりも目を引くのは獣程度であれば十二分に対応できそうな隙間のない壁。
 更には。
「獣舎……?」
「馬も留められるが、今は王国騎士団付きのグリフォンがいる。今回の場合、膨大な捜索範囲を地上――山に入って探るのは効率が悪い。此処を拠点に、遠出してもらうぞ」


 ――そうして3日ほど、シュリはほぼ不眠不休で拠点から円を描く形で周囲を探査することとなった。
 寒さも感じないシュリよりも、同上することになったロシュや従騎士たちのほうが地獄を見たようだが、拠点で待機するハンターたちには関係のないことである。

 問題があったとすれば……その『候補地』が、3箇所見つかったことだろうか。

リプレイ本文


 早朝。高空を飛ぶグリフォンのキャリアーに身を預けるヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)は眼下を見下ろしていた。雪国に、高空。あげく、文字通り風を切って進む体感温度は、いたずらに息を吐くのもためらわれるほど。
 ――しかし、豪いところに拠点を構築したな。
 すでに遠く、白銀に飲まれて消えてしまった元廃村。同道するアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)は軽く口笛を吹いていたものだが、マッシュ・アクラシス(ka0771)は特に何も語らなかった。
 便利の良さはあるのだろう。
 ……だが、本当にそれだけか?
 あの少年はどうだったろうか――と思い返したところで、高度が下がり始めた。

 ――調査の時間だ。


●A班
 ヴォルフガングからの連絡をもって、全員の配置完了が確認された。
「さーて、鬼が出るか蛇が出るか、ってね」
 ソフィア =リリィホルム(ka2383)はつとめて明るく言った。同行する八原 篝(ka3104)、シュリはうなずきを返す。
「とくにシュリ君は暴発には気をつけてくださいね?」
「……気をつけたいです……」
「今は調査。けど、敵を見つけるのはシュリさんの力が最重要です。失敗したら即撤退、ということでひとつ」
 自信なげな解答に、にぃと意地悪く笑ったソフィアの鋭い念押しに、ぐうの音も出ない少年を他所に、一同は目標調査地点へと歩みを進めていく。
 距離があるためか、歪虚の反応は朧なのだろう。シュリは方角を指定するのみで、明らかな敵影は無い。
 篝は双眼鏡を下ろして周囲を見渡す。
「……普通の雪山、ね」
「前の依頼だと、倒木に傷跡がついてたみたいですが……」
 と、ソフィアが右足でざくざくと倒木の雪を払うが、現時点では明らかな痕跡は見られない。
 ――周辺に歪虚の気配はない……で、よさそうね。
 シュリの『確信』を信頼していないわけではないが、自分の感覚でも怪しい気配は捉えられない。索敵のためのリソースを周囲の調査に当てても良さそうだと判断した。
「お、早速見つけましたよ」
 左前方、木々を調べていたソフィアが言う。同時、篝も別な場所で『それ』を見つけた。木々についた傷。まるで、鋭いもので引っ掻いたような――。
「……この辺りは歪虚達の通り道、ということね」
「そうなりますねー」
 コレ自体はいつの傷かはわからないが――周囲は獣道、といっても言いぐらいには踏破は可能な程度。周辺を見渡していたソフィアは、『本来の目的位置』とは無関係な場所を考慮し、こう結んだ。
「少し、範囲を広げてみましょうか。……多分、あちこちにありそうですね、これ」


●B班
「どうかしたのかね、ジュード」
 エアルドフリス(ka1856)の声に、ジュード・エアハート(ka0410)は我に返った。
「あー、エアさん……うん、まあ少し……考え事……?」
 煮え切らない返事に、周囲を警戒していたロシュは小さく鼻を鳴らした。幾度か同道したこともあるためか、とやかく言うほどではないと判断したか。けれど、商人らしい直感で、続きを促されているようにも思われたため、言う。
「茨の聖女関係の狂気眷属なのは間違いないって聞かされたけど、なんか引っかかるんだよねえ……」
「根拠はあるのか?」
「ううん……」
 今度こそ、ロシュの問いが返り、唸った。過った懸念を言葉にするのが難しい。茨の聖女関係の【狂気】。
 ――本当に、それだけか?
 明確な材料は、思い当たらない。ただ、もどかしい。
「……勘、かな。ごめんね」
「――何か思いついたら、言え。不測の事態はさけられるかもしれん」
 おや、とエアルドフリスは眉を上げた。救いの手でも挟み込もうと思ってはいたのだが思っていた以上に寛容だ。そういえば、同行を願い出た時も快諾されたのだった。
 ふむ、と顎を撫でる。
「ときに、ロシュ卿には恋人は……?」
「……貴様は何を言っている?」
「はは、なに、世間話ですよ、閣下」
 言いながらエアルドフリスは肩に留めていたイヌワシのアナムを羽ばたかせ、視界を同化させ、勤労意欲を示すことにする。

 瞬後。
 同化した視界の端を後方から何かが通り過ぎた。そのまま木の幹に着弾し、液体が散る。
 それが避難時用のペイント弾だとはすぐにわかった。同時に、這い寄る不吉な予感を自覚する。

 だから、エアルドフリスは決して、アナムを振り返らせることはしなかった。


●C班
 ――周囲一帯広域に『傷跡』アリ。
 ソフィア達の知らせを受けた以降も、ハンター達はいずれも当初の予定通りの慎重策をとっていた。早朝からの調査も、日が高くなるころには目的地点に近くなってくる。
「だいぶ、足跡が増えてきたな」
「そうですね……」
 声を潜める、ヴォルフガングとマッシュ。傍ら、アルヴィンは白いコートを雪になじませながら、足跡の向かったであろう先と、周囲を見張っている。
(出来レバ、手下の歪虚は先に見つけタイところだケド……)
 この班はあまり遠距離攻撃に秀でているわけではない。見つからないうちに推測用の材料を集めておきたいし……同時に『仕込み』もしておきたいところ。これだけ獣の足跡――つまりは歪虚の足跡が残っているのであれば、いくつか目印を置いておく価値はある。マッシュとヴォルフガングに索敵を任せている間に、アルヴィンは木々や倒木に印を記していく。
 ふと。
「やれやれ、こう木が多くちゃかなわんな……どうした、アルヴィン」
「……ンー……や、コレなんだけど」
 印をつけた後、動きをとめたアルヴィン。その視線の先を辿ったマッシュは目を細め。
「人の足跡、ですか」
「だよネ……ひゃァ」
 冗談交じりの声色で、アルヴィンは目を細めた。その足跡をたどるように動く。
「『素足』、なんてネ。寒い中ご苦労サマ……」
「……」
 じっと眺めていたヴォルフガングであったが、振り払うように首を振る。予想できていたことだ。
「……歪虚にしても、人の足で足跡が残るくらいだ。近いな」
 振り切って、言う。”ヒト型”は愚鈍であった、という情報もあった。その跡が残っている程度の時間――ひいては、距離だ。
「しかし人型が、ネ……」
 人型の歪虚がただ野山に置かれている道理もない。ハンターたちの想定どおり、見張りとして獣型が機能しているのであれば……この人型は、何かの目的をもって『出てきた』か『居る』はず。
「とりあえず、辿りますか」
 手がかりに昂ぶりを見せるでもなくマッシュが先を促した。


●A班
 多少の迂回をしながらでも、やはりシュリ達の班が最も調査の進みは早かった。特に、歪虚を知覚できるようになると、早い。
「……左前方、100メートルほど。歪虚です」
「避けられそうです?」
「……はい、とりあえず」
 剣を抑えたまま、ヒタと視線を据えた静かな返答に、ソフィアは息を吐く。
「とりあえず、距離を取りましょうか。このまま他の歪虚の気配がわからないのも悪手ですし」
 やや西よりに進路を変えて移動を開始する背を眺めながら、思う。
 何かがシュリを急き立て、同時に何かが少年を縛っているのだろう。板挟みにしているのは、ソフィアもその一因だ。けれど、今はそれが都合がよい。必要な首輪だ。
 ――邪魔な歪虚を倒すなら、何か情報を掴んでからのほうがイイんだけどな……。
 アルヴィン達から『足跡』の情報が届いて間もなく、こちらでも同様の痕跡を見つけた。以来、より踏み込んだ調査に乗り込んだが、今度はシュリの『鼻』が曇ってきた。
「今度は、この先、ですね。今度も100メートルほど」
「……いよいよ混んできたわね。それに――近くの歪虚しか辿れないという見立て。どうやら本当みたい」
 どこか緊迫をはらんだシュリの面持ちが、歪む。悔恨と痛みが綯い交ぜになった表情に――篝は思わず、その背を押していた。少年の手が震えていることに気づいてはいたけれど、足は進む。なら、指摘をするほど野暮ではない。先を行くソフィアはその様子をちらと眺め、
「このままじゃ袋小路。歪虚に接近していくうちに捕まっちゃーしかたがないですし……」
 感知範囲内の歪虚の数が増えてくると、そのうち身動きが取れなくなる。積極策をとらねば、進むのも厄介になってくるのは自明。
「この足跡、だいぶ『まっすぐ』ですしねえ……」
 と呟いた、その時のことだった。

『エアさんが人型を発見したよ』
 ジュードの声が、届いた。


●B班
 アナムが木々の合間からその姿を捉えた時、『人型』は雪上を歩いているところであった。襤褸を纏うた体で、存外しっかりとした足取りだった。
 じくじくと胸を捉える異物感に抗いながら、エアルドフリスはアナムを操る――が。
「……だめか」
 ファミリアズアイの有効距離である50メートル。その距離が、響く。木々の向こうに紛れて消えた人影を見送り、旋回するアナムを待機させながら、一度共有を切る。
「どう?」
 恋人の問いに、エアルドフリスは「ううむ」と息を吐く。
「姿形は想定どおりだが、かといって事前の情報に出ていたような操り人形とも……知性のない亡者とも異なる様子だったね。まず生きている人間ではないだろうが……ただ、一点、明らかにおかしいところが」
 途中から、ロシュの方を意識をしてか大仰な発言になっていた。周囲を睨むように警戒しているロシュは目もくれず、言う。
「薬師の目方か?」
「いえ……あの人型、木枝を背負っていましたな」
 しばし、音が絶える。
「……枝、となると……薪……?」
 そして、最初に口を開いたのはジュード。その目に宿った期待の光に、エアルドフリスは自然と笑みを浮かべた。
「この環境だ。質は良くないだろうがね」
「そう、……っ!」
 転瞬。ジュードは弓を引き――すぐに放つ。
 その先で、直感視と鋭敏視覚に捉えられ、射抜かれた小さな“影”が溶けるように消えていく。それを見届けたエアルドフリスは司会共有の間に凝った肩を回しながら、言う。
「……あまり足を止めておく理由もないな。人型は直線的に歩行していた。目的地までは辿るのは容易だろう」
「う、ん……急ごうか。少し強引になるかもだけど、ロシュも、それでいい?」
「……ああ」
 どこか煮えきらぬロシュの返答が、ジュードの胸中を不吉に撫でる。

 あの時、ジュードは直感視の中で『それ』を見ていた。
 『薪』――つまりは、生存者の可能性を知った時の、ロシュのわずかに歪んだ表情を。

 とまれ、そこから追跡に移ろうとして――しかしそれは適うことはなかった。
 雪山に響く、幾重もの足音に、一同はすぐに身を隠す。
「……騒がしくなってきたな」
「ひょっとして、さっきの小動物……? けれど、俺のほうが先に気づいたはずだよ」
 ロシュの言に、ジュード。
「同胞が倒されたことそのものを検知できるとしたら、感覚を共有している現場指揮官……となるか?」
 エアルドフリスは応じながら、躱してきた獣たちが迫る気配を感じ退路を見やる。こちらの所在に気づいているわけではなかろうが、囲まれるのは下策と見た。
「――アナムで道を確認する。一旦撤退しよう」
 発案に、異論は出なかった。

●C班
(「おっ」)
 アルヴィンは思わず、小声で喝采を上げた。眼の前に広がる木々は多少入り組んでいるが、合間合間で木の根から掘り起こされた倒木の具合を見る限り、何者かによって『均された』道だ。なにより、『足跡』はそこを進んでいる。その道程をサラサラと地図に書き込みながら、周りの状況と合わせて付記していく。
(「フフー、在るト思ってたんダヨネ!」)
 おそらく、『ヒト』を運ぶための道があったはず。その裏付けにご満悦のアルヴィンは、かきあげた地図を眺める。動物たちの警戒地点を参考までに記してはいるが、それなりの書き込みに仕上がっている。
「……また居るな。樹上だ」
「おっと」
 ヴォルフの警句に、最後に(アルヴィン基準で)静かに写真を撮る。ついで式符を飛ばしはじめたマッシュを見やり、雪上で並んで自撮りを決める。エアルドフリスたちが撤退したという報せを受けて以降、隠密に隠密を重ねて戦闘をさけて移動し、漸くたどり着いた最奥地。つまりゴール地点であり、マッシュが式符を飛ばしている間はとにかく暇なのだった。
 つまり、自撮りは無問題。もう一度パシャる。
「……どうだ。行けるとおもうか?」
「ンー……」
 ヴォルフの問いは、眼前の開けた道の周囲で、茫洋とたつ獣たちの数の多さを指してのことだ。当然、ここで突付けばこの場だけではなく周囲の獣たちも押し寄せてくることは想像に難くない。
「チョット厳しそうかなぁ……」

 ―・―

 他方、マッシュの式符は獣たちの注意を何故か引かず、特段の抵抗もなく進めることができた。道なりに進んでいく。そうして――。
(いやはや……)
 見つけたのは、雪上で『途絶』した足跡だ。周囲には新雪と、この周囲で再度増えだした『獣』たち。見張りも兼ねているのだろうが、工作要員の意味合いもあるのだろう。
 雪を払うには、式符だけでは困難極まる。
(見つけはしましたが、さて。此処に踏み込むかというと……)
 いささか、手持ちの戦力では厳しかろう。



 覚醒可能な時間の制限もあり、日のあるうちに一度集合したハンターたちは、それぞれに情報共有を行っていた。
「……生きているヒトが、いるかもしれないんですね……?」
「可能性の話、だがな」
 木枝を抱えた歪虚の存在とそこから類推される可能性にまっさきに飛びついたシュリをの表情に危うい色を感じ、ヴォルフはそっと押し止める。今のシュリには――精神的なものか、疲労の影が濃い。この数日で初めて見た表情だった。
「こっちも式符で探ることで入り口の目安は概ねついた……んですが、ちなみに、占いはあまり良い目は出ず、といったところでしょうか」
「時間に余裕があったから私たちも人型の歪虚を探したんだけど、見当たらなかったわね。外部で活動する人型の歪虚は少なそうだったわ」
 精神的に不安定な状態のシュリを抱えたまま、慎重策を徹しきったソフィアと篝にも、流石に疲労が見えた。
「……しかし、読めないな。敵の狙いは、何だ?」
 エアルドフリスの言葉に、返る言葉はなかった。推察のための材料は増えた。だが、何のために、となると。
 ――シュリ・エルキンズを誘う罠というならば、なぜ、今なのか。
「何れにしても、情報は得た。次は突入することも可能だろうよ」
 ロシュの仕切りで、思考が打ち切られる。
「調査は継続するが、今日は仕切りとしよう。情報が整理できれば――次こそは、突入だ」



 目的。狙い。その真実は、彼女にもわからない。
 けれど。
 茨。それに――"目"や、"鱗"。
(……きっと、あの人だ)
 少女は一人、胸中で呟いた。思い至った事象に、確信を抱く。

 ――あの人は、あの時からこうなる事がわかっていて、シュリが暴走しないように「おまじない」を掛けたの?

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MVP一覧

  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリスka1856
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチka2378
  • 弓師
    八原 篝ka3104

重体一覧

参加者一覧

  • Stray DOG
    ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • 空を引き裂く射手
    ジュード・エアハート(ka0410
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • 無明に咲きし熾火
    マッシュ・アクラシス(ka0771
    人間(紅)|26才|男性|闘狩人
  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師
  • 嗤ウ観察者
    アルヴィン = オールドリッチ(ka2378
    エルフ|26才|男性|聖導士
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 弓師
    八原 篝(ka3104
    人間(蒼)|19才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/12/31 18:41:04
アイコン 冬の狩り 第二日【相談卓】
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2019/01/02 06:02:07
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/12/28 23:20:59