精霊の森の夢抱くフクロウ

マスター:真太郎

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2019/01/19 09:00
完成日
2019/01/26 08:12

みんなの思い出

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オープニング

 辺境の森の奥には精霊の宿る大樹がある。
 しかし一人の堕落者の手によって大樹からマテリアルが奪われ、精霊は力の大半を失ってしまった。
 負のマテリアルの影響の強い辺境で精霊からのマテリアル供給を失った森は死を意味しているに等しい。
 精霊は残された僅かなマテリアルを使って新芽を生やし、人間に願った。
 森のために手を貸して欲しいと。
 精霊の大樹を再生させる手立ては、大昔に株分けした自身の分け木からマテリアルを譲って貰う事。
 しかし問題もある。
 マテリアルを分けた分け木は一時的にではあるが力が弱まってしまう事。
 分け木はその木を植えた生き物の子孫が守っているだろうが、快くマテリアルを分けてもらえるかは分からない事だ。
 少なくとも説明や説得は必要になるため、精霊は動物と念話ができる枝木を作った。
 精霊の分け木に精霊は宿ってはいないが精霊の大樹と同じだけの力がある。
 精霊の枝木は分け木に同調し、周囲の生き物同士が分け木を介して念話を行えるようにする物である。
 それため分け木の周囲でしか効果はなく、枝木に込められたマテリアルが尽きれば効果も切れる。
 効果時間はおよそ2時間。
 その時間内で交渉する必要があった。

 精霊の分け木を探す依頼を受けたハンター達は、精霊から分け木のある場所の方角と大凡の距離だけ教えられ、探すよう頼まれた。
 その手がかりだけで探すのは困難であるが、渡された精霊の枝木には分け木の近くまで来るとぼんやり輝く機能も追加されたため、前回よりは探しやすくなっているはずだった。
 ハンター達は少ない手がかりを頼りに鬱蒼とした森の中をさまよい歩いた。
 そして十数時間も歩いた頃、精霊の枝木がぼんやりと輝き始める。
 輝きの明度を頼りに更に歩くと、木々の上を飛翔する鳥の数が増えてきた。
 それも只の鳥ではない。1m以上ものサイズのある大きな鳥だ。
 大きな瞳に平たい顔。
 フクロウとよく似たその鳥は『ポロウ』だった。
 ポロウ達はハンターを警戒しているのか、上空を旋回したり、高い枝木から見下ろしたりしてくる。
 そして『ポー』『ホゥ』と鳴き声を上げるが、もちろん何を言っているかは分からない。
 ハンターは精霊の枝木を使った。
『人間、何をしにきたホー』
『我らを捕まえにきたのかホゥ?』
『追い払ってやるホー!』
 意外と好戦的らしく、ポロウ達には歓迎されていなかった。
 ハンター達は敵意がない事を示しつつ事情を説明する。
『どうするホゥ?』
『わからんホー』
『長に相談するホゥ』
『そうするホー』
 ハンター達はしばらくその場で待たされた。
『長が話を聞くそうだホゥ。1人だけ来るホー』
 やがてハンターの1人が代表で森の奥へ行き、ポロウの長と接見した。
『人間さん、事情を聞かせて欲しいポゥ』
 長は他のポロウ達よりも態度が温和だった。
『そうですか……』
 事情を聞いた長はしばらく黙考した。
『貴方達は悪い者ではないようですし、マテリアルを分けるのは構わないポゥ。でも代わりに私の願いを叶えて欲しいポゥ。
 私は産まれて間もない頃、凶鳥に攫われた事があるポゥ。
 里から遠く離れた所まで連れられ、食べられてしまうところだったポゥ。
 でもそこにあの方が馬に乗って颯爽と現れたんだポゥ。
 あの方は凶鳥を倒して私を助けてくれたポゥ。
 そして傷ついて飛べなくなっていた私を自分の家に連れて行って治療までしてくれたんだポゥ。
 私は感激したポゥ。
 すぐにあの方を好きになったポゥ。
 そして思ったポゥ。
 大きくなったらあの方を背に乗せて飛び、あの方と共に戦おうと。
 だから傷が治ってもあの方と一緒にいたポゥ。
 でも里から迎えが来たんだポゥ。
 私はあの方の側にいたかったポゥ。
 でもあの方は里から迎えが来た事を喜んだポゥ。
 私が里に帰れる事を祝福してくれたポゥ。
 だから私は里に帰ったポゥ。
 あの方がそう望んだからポゥ。
 それからはもうあの方に会う事はなかったポゥ。
 でも本当は会いたかったポゥ。
 あの方を背に乗せて飛びたかったポゥ。
 あの方と共に戦いたかったポゥ。
 だからお願いポゥ。あの方を探して連れてきて欲しいポゥ。
 私の夢を叶えて欲しいポゥ』
 それがポロウの長の願いだった。

 ハンター達はポロウの長の言う『あの方』を探す事となった。
 しかし長が出会ったのは20年以上も前の事であり、手がかりも少なかった。
 恐らく覚醒者。
 たぶん騎士。
 中年男性で名前はジーク。
 捜索は難航したが、どうにかジークという老人を探し当てた。
「……どなたかな?」
 家を訪ねるとジークは訝しげな様子で出迎えてくれた。
 事情を話すと、ジークは驚きながらも相好を崩した。
「あの時のフクロウが会いたいと! いやはや驚きました。でもそうですか……フク助は今でも元気なのですね。嬉しいなぁ」
 ジークはちゃんとポロウの長の事を覚えていた。
 どうやらフク助と名付けていたらしい。
「事情は分かりました。会う事もやぶさかではありません。しかし……」
 ジークは表情を曇らせる。
「見ての通り自分はもう年寄りです。かつては確かに騎士で覚醒者でしたが、今では精霊との契約も解除していて覚醒もできません。当時のように戦う事はもうできないでしょう」
 ジークはそう言いつつ倉庫に入ってゆく。
 そして出てきた時には全盛期の装備を身に纏っていた。
「ですが僕と共に戦いたいというのがフク助の望みなら叶えてやりたいと思います。今の自分では足手まといにしかなりませんが、皆さんどうかよろしくお願いします」
 こうしてジークはハンター達と共にポロウの里へ行き、戦ってくれる事となった。

 ジークと共にポロウの里を訪れると、長が猛スピードで飛んできた。
『ジーク様ーーー!!』
 そして思いっきり抱きついてくる。
 しかしその様はほぼタックルだ。
「おうふっ!」
 老いたジークは吹っ飛ばされそうになったが、ハンター達が後ろで支えて倒れるのを防ぐ。
『お会いしとう御座いましたポゥ~!!』
「本当にフク助なのかい? 大きくなったねぇ~。本当にポロウだったんだね」
 実はジーク、フク助を拾った時には小さかったため普通のフクロウだと思っていた。
 ポロウだと気づいたのは迎えのポロウが来た時である。
「僕と一緒に戦いたいそうだね」
『はい。私の背に乗ってくださいますかポゥ?』
「いいとも。でも戦うような敵はいるのかい?」
『いますポゥ。少し離れた所に厄介な虫がいますポゥ。それを退治しに行くポゥ!』
(虫か……。その程度なら何とかなりそうだ)
 ジークは少し安堵したが、実は容易い相手ではない事を現場で思い知る。
「分かった。案内してくれるかい」
『もちですポゥ。さぁ、私の背にお乗り下さいポゥ』
 ジークはフク助の背に乗った。
『あぁ……遂にジーク様が私の背に……』
 フク助は歓喜に打ち震えながら大空に舞い上がったのだった。

リプレイ本文

 ジークを乗せたポロウのフク助の先導に従い、ハンター達もそれぞれの幻獣に乗って空に舞い上がる。
「昔の恩を忘れず、というのは素敵ね」
 ジークを乗せて嬉しそうに飛ぶフク助を見てフェリア(ka2870)は表情を綻ばせた。
「フク助様のお気持ちもよく分かります」
 木綿花(ka6927)がフェリアに話しかける。
「私もアヴァは大切な友で、とても感謝していますし、いつか別れる事があったとしても、忘れる事などできません」
 木綿花は自身の乗るワイバーンのアヴァの背中をそっと撫でた。

「長年の夢、果たしたい願いですか……」
 保・はじめ(ka5800)がポツリと呟く。
(よく分かりませんが、僕が抱くケイトさんを故郷へ帰す願いと同じような物なのでしょうか?)
『家主さん家主さん』
 そんな事を考えていると、自身の乗るペガサスのペスの声が脳裏に響いてきた。
 どうやらまだ分け木の念話の有効範囲内だったらしい。
『あのフクロウさん達が今回の主役なんですよね?』
「そうですよ。僕らは彼らのバックアップです」
『護衛もついてるし、ワタクシが矢面に立つ心配はなさそうです。狙われそうになくてヤッター』
「いえ、状況次だ」
『家主さん家主さん、自分の身は自分で守って下さいね。頼られても困ります。ワタクシ痛いの嫌いですから』
 保は否定しようとしたがペガサスが一方的に言葉を並べててくる。
 そしてペガサスは不意に沈黙した。
 どうやら念話の有効範囲外に出てしまったらしい。
「状況次第では戦闘もあり得るのですが……」
 しかし言葉の通じなくなった今言っても馬の耳に念仏である。

「ジークさんは元猟撃士だそうだが、やはりランスよりは弓のほうが得意なのだろうか?」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)がジークに尋ねる。
 近接と射撃では支援する際の位置取りなんかも変わってくるからだ。
「えぇ、弓の方が得意ですよ」
 だが今や覚醒者でなくなった老齢の身では上手く当てられる自信はない、と言葉を続けてたかったがジークは言えなかった。
 言えばフク助に聞かれてしまうからだ。
 フク助は未だに幼い頃に自分を助けたジークの事をヒーローのように思っている。
 しかし今のジークにはそれだけの力はもうない。
 だからといって幼い頃に抱いた憧憬や思い出を失望で色褪せさせるような事はしてあげたくはなかった。
 そのためジークは今もフク助のヒーローであろうとしているのである。
「ジーク爺さん」
 レイオス・アクアウォーカー(ka1990)がジークに声を掛ける。
「敵の動きを抑える。だからトドメは任せた」
 レイオスはジークの気持ちをちゃんと分かっており、フク助のヒーローとしてカッコ良く決めさせる心積もりでいた。
 それはレイオスだけではない。
「引退されたとはいえ先輩。戦い方など経験豊富ですし、失礼かもですが援護しますので、フク助様とジーク様は思う存分、戦ってくださいませ」
 木綿花も、他の者達も同じ気持ちだった。

 フク助の先導で飛び続けていると、やがて眼下に広がる森の中から何かが飛び上がってくるのが見えた。
 一見トンボのように見えるが明らかに大きさが違う。
 1mを優に超える巨体。鎌状に進化した前足。ドラゴンフライと呼称される大型昆虫だ。
「アヴァ、よろしくね」
 木綿花は飛行と移動をワイバーンに任せると『マーキス・ソング』を歌い始めた。
 その歌声はサークレット「セイレーンエコー」によって増幅され、まるで周囲の者達を圧するかのように力強く響き渡る。
 保は両手で12枚の符を抜くと、自分の周囲に投擲して『修祓陣』を発動。
 10m四方に防御力を高める結界を展開させる。
(私はそんなに支援に向いていないのだよな……)
 アルトは今回の主役であるジークとフク助を目立たせる裏方の回ろうと思い、自身のポロウに『隠れるホー』を使わせて存在感をできるだけ薄めようとした。
「羽虫どもの注意はオレが引こう。その間に数を減らしてくれよ」
 レイオスは少し先行すると『ソウルトーチ』を発動し、炎のようなオーラを全身から立ち上らせた。
 するとドラゴンフライ達が誘蛾灯に引き寄せられるかのようにレイオスに向かって殺到してくる。
「ジークさんが倒しやすいよう力を削いでおいた方がいいですよね」
 ジークの支援は仲間に任せ、やや距離を置いていたフェリアはドラゴンフライの群れの中心に狙いを定めつつ『集中』を発動。
「力はセーブして……」
 続けて『ブリザード』を発動、発生した冷気の嵐がドラゴンフライを呑み込んでゆく。
 極低温に晒されたドラゴンフライの体はたちまち凍りつき、飛ぶことさえできなくなり落下を始めた。
 しかもその体は落下中に砕けてゆき、氷の破片となって散ってゆく。
 砕けたドラゴンフライは群れの半数の6体に及んだ。
「……え?」
 その惨状にフェリアは目を疑った。
 なぜなら力をセーブして攻撃したつもりだったからだ。
 しかしスキルによる攻撃は威力を加減する事はできないため、実際には全力の魔法が放たれていた。
 大打撃を受けたドラゴンフライの群れは標的をフェリアに変えて殺到してきた。
 4体は途中で止まり、2体がそのまま突っ込んでくる。
「迎撃してエアリアル!」
 主の命に従いグリフォンが迎撃態勢をとると、止まった4体のドラゴンフライが体液を吐きかけてきた。
「避けて!」
 グリフォンは何とか避けた。
 しかし空中戦で回避力が半減しているフェリアは避けきれず直撃。
 しかもフェリアは防具を[SA]マギサークレットしか着けていない上に、ジークから離れていたため保の『修祓陣』の効果範囲外だったためダメージが身体に直接響いた。
 更に可燃性の体液が燃え上がって全身を焼き始める。
「キャーー!!」
 フェリアは全身を襲う激痛に悲鳴を上げた。
 そこに残り2体のドラゴンフライが強襲してくる。
 グリフォンは主を守るためドラゴンフライの1体を鉤爪で引き裂く。
 しかしもう1体に鎌で体を切り裂かれた。

「マズイ!」
「フェリアさん!」
 フェリアの危機に仲間達が動く。
「こっちを見ろ羽虫どもーっ!」
 レイオスが再び『ソウルトーチ』を発動させると5体のドラゴンフライが気を引かれた。
 しかしグリフォンと近接戦の1体はそのままだ。
 ジークは弓を引き絞って射ったが、狙いはドラゴンフライを反れてしまう。
(空を飛びながらの射撃がこんなにも難しいとは……)
 老齢で覚醒者ですらなくなったジークには空中での戦闘は厳しいものだった。
「届くか!?」
 アルトはポロウに全力でドラゴンフライに追いすがってもらうと『空渡』で空中に足を踏み出し、『踏鳴』で空を駆けた。
 更に『散華』で加速してドラゴンフライを間合いに捉えると[EX]試作法術刀「華焔」を一閃。
 高密度マテリアルの刀身が焔のような筋を引いて走り、一瞬でドラゴンフライを両断する。
 ドラゴンフライは体の中心を左右に分かたれ、錐揉みしながら森へと落下していった。
「間に合ったか……」
 安堵するアルトも『空渡』が効果を失って落下を始める。
 だが降下する先にポロウが回り込み、アルトは鞍の上に降り立つ。
「ナイスタイミングだよポロウ」
『ホー♪』
 アルトは鞍に座りなおすとポロウの頭を撫でてあげた。

 木綿花はワイバーンにフェリアの方に飛んでもらうと『アンコール』を発動させると同時に『アイデアル・ソング』を歌い始める。
 すると先程まで周囲を威圧するような強い調子の歌声に、体の内側から活力を漲らせるような優しくも力強い調子が加わった。
 その歌声はフェリアの耳にも届き、彼女の内なるマテリアルを活性化させて体に纏わりついていた炎を吹き飛ばす。
 しかしフェリアの全身は見るも無残に焼けただれていた。
 もし炎が消えるのが後少し遅かったら命に関わっていたかもしれない。
「大丈夫ですかフィリア様」
 と木綿花は声を掛けたかったが、歌を歌っている最中なのでそうもいかない。
 保はすぐに『再生の祈り』発動させ、癒しの波動をフェリアとグリフォンに注ぎ込む。
 更にレイオスが『アンチボディ』を施すと、フェリアの焼けただれていた皮膚が少し瑞々しさを取り戻す。
 その間にグリフォンは格闘戦中だったドラゴンフライにトドメを刺し、主のフェリアを守りきったのだった。

 残りのドラゴンフライはレイオスに殺到していた。
「そうだ。オレだけを狙ってこい!」
 飛来してくる体液をシールド「セラフィム・アッシュ」で受け止める。
 体液は盾の表面で燃え上がったが、ダメージは通らなかった上に『アイデアル・ソング』の効果で火はすぐに消えた。
 1体が鎌で切りかかっていたが [EX]闘旋剣「デイブレイカー」で受け止めた。
 更に『カウンターアタック』で手傷を負わせ、ジークに倒させようとしたのだが……。
 ドラゴンフライはデイブレイカーの反撃を受けてグシャリと潰れ、あっさり絶命した。
 なぜなら『カウンターアタック』は相手の攻撃を受け止めながら、全力で反撃を行う技であるため、加減ができないのだ。
「うわっ、やっちまった」
 残るドラゴンフライの数は3体。
(そろそろジーク爺さんに倒してもらわないとマズイな……)
 ジークは木綿花に『運動強化』を施してもらい、再び矢を射った。
 先程よりはマシだが、やはり狙いが反れる。
「少し離れます。それまで敵を抑えていて下さい」
 保は皆のそう告げると地上に向かって飛んだ。
 そして地面に着くとペガサスに『リベレーション』を発動させる。
 地面に下りたのはペガサスでも飛びながらでは集中力を欠いて『リベレーション』の発動に失敗する恐れがあるので、そのリスクをなくすためだ。
 保は再びペガサスで舞い上がり、ジークの隣りに位置する。
 するとジークは何故かドラゴンフライの動きが先読みできるような気がしてきた。
「もう一度射って下さい」
 保に促されてジークが射る。
 矢は狙い違わずドラゴンフライに向けて飛んだ。
 だがドラゴンフライは素早く身を翻して矢を避けてしまう。
「敵の動きを抑えないと……」
 しかし保にはもう一つ懸念があった。
 それはジークの矢が当たっても敵を倒しきれない可能性がある事だ。
(近接威力の低くできる僕なら殺さず弱らせる事ができるかもしれない)
 保は魔導剣「カオスウィース」を抜くと、ペガサスに拍車をかけた。
 しかしペガサスは不満気にブルルと鼻を鳴らす。
『ちょっと! ワタクシ矢面に立つなんて聞いてませんよ。ワタクシ痛いの嫌いって言いましたよね。どういうつもりですの?』
 と言っているかのようだ。
「すみません。敵の攻撃は全部僕が引き受けますし、帰ったら美味しい飼い葉と全身のブラッシングしますからお願いします行って下さい」
 保が拝み倒すとペガサスは仕方ないといった様子で前に進んでくれた。
 ペガサスが動き出すと保は『献身の祈り』を発動。自身の筋力が衰えるかのような脱力感を覚える。
 だがその反面、ジークは自身に活力が沸いてくるのを感じた。
 ドラゴンフライは向ってくる保に体液を吐きかけてくる。
 保は辛くも魔導剣で受け止めた。
 刀身が可燃液で燃え上がったが、『アイデアル・ソング』の効果ですぐに消え、ダメージはない。
 保はドラゴンフライに肉薄し、魔導剣で斬りつける。
 『マーキス・ソング』の影響を受けているドラゴンフライの外骨格はまるでバターのように容易く斬れ、大量の体液が吹き出した。
(殺してしまったか?)
 保は焦ったが、ドラゴンフライは体液を溢れさせながらも前足の鎌を振り上げた。
「危ねーっ!」
 鎌が振り下ろされる直前にレイオスが『ガウスジェイル』を発動。
 まるで空間が捻じ曲がったかのように鎌の軌道が保からレイオスへと移ってゆく。
 レイオスは鎌を盾で防ぐと、わざとドラゴンフライに密着するくらいまで接近した。
 するとドラゴンフライは両前足の鎌でレイオスを拘束してくる。
「ちっ! くそっ!」
 レイオスは焦った声を上げながらもがいたが、これは演技である。
 実際には『アイデアル・ソング』の効果で拘束は簡単に振りほどけるのだが、敢えて捕まっている。
 内心では自分を拘束した事でドラゴンフライの動きが止まった事をほくそ笑んでさえいた。
「こいつ! レイオス君を離せ!」
 アルトは[SA]鈎爪「飛蛇」の爪を伸ばしてドラゴンフライに引っ掛け、レイオスから離そうと引っ張った。
 だがこれも演技である。
 実際は『エンタングル』で拘束して動きを鈍らせていた。
 しかし傍目にはドラゴンフライに拘束されたレイオスを助け出す事ができず危機的状態にあるように見えた。
 この好機を見逃す程ジークは鈍感ではない。
「行けフク助!」
 武器をランスに持ち替え、フク助を促す。
 弓で攻撃しなかったのは、密着状態のレイオスに当たる危険性があった事と、今は保の『献身の祈り』の効果で近接戦闘の方が力が出せると分かっていたからだ。
『ポゥ!』
 フク助はジークの命に従って全速力でドラゴンフライに突進してゆく。
 急速にドラゴンフライとの距離が縮まる最中、ジークは脇に構えたランスをしっかり固定し、標的を見据え、突き出す。
 槍先は保の付けた傷跡を捉えて貫き、その衝撃でドラゴンフライの体が千切れ飛ぶ。
 分断された体は体液を撒き散らしながら落下してゆき、森の中へと消えた。
『ポーゥ♪』
 フク助が歓喜のような鳴き声を上げる。
「あのままランチにされるかと思ったぜ。ホント助かった」
 レイオスが安堵の表情を浮かべながらジークに礼を言う。
「見事な一撃でした。流石は元騎士様ですね」
 保もジークを褒め称える。
『ポゥ ポゥ』
 フク助が機嫌のよさそうな鳴き声を上げる。
 おそらくジークを褒め称えているのだろう。
「フク助様、嬉しそうですね」
 木綿花はフク助は夢を叶えられて満足そうにしているように見えた。
「アヴァ、残りを片付けてしまいましょう」
 木綿花はワイバーンを促して残り2体のドラゴンフライの方へ向き、『レイン・オブ・ライト』を発動させる。
 ワイバーンの鼻先にマテリアルが収束してゆき、高圧縮されたマテリアルが弾けるとレーザーのような光の筋となってドラゴンフライへと降り注いでゆく。
 光の筋はドラゴンフライの体を、羽を、頭部を、あらゆる箇所を次々と貫いてゆく。
 そして光が収まった後にはボロボロの肉片と化した2体のドラゴンフライが森へと落ちていった。


 ドラゴンフライを全て倒し終えると、フク助は上機嫌でポロウの里に帰還した。
『流石はジーク様ですポゥ! カッコよかったですポゥ! 私……私……感激ですポォーー!』
 フク助が自分から降りたジークに体を擦り付けてくる。
「ちょ……フク助、あんまり押すと危ない」
 その勢いがあまりに強くてジークは押し倒されそうになるが、フェリアがこっそり後ろから支えた。

「今回も助かったぜ、相棒」
 レイオスは自身のポロウのテュアから降りると、荷物からプレミアムエビフライを取り出した。
「ほら、ご褒美だ」
『エビフライー♪』
 テュアは歓声を上げてエビフライに齧りついた。
「ははっ。食いつきがいいから好物だと思っちゃいたが、本当にエビフライが好きだったんだな。でもエビフライ以外にも食いたい物はないのか? あるんなら今のうちに教えておいてくれ」
『エビフライがいい! エビフライ大好き♪ エビフライ頂戴!』
 テュアは本当にエビフライに目がなかった。
「そっかそっか。じゃあこれからもエビフライをやるよ」
 レイオスは追加でエビフライを食べさせたが、そこでふと思った。
(好物だからってエブフライばっかり食わせてもいいのか? 油っこい物ばっかり食わせてたらやっぱり身体に悪いんじゃ……)
 レイオスの脳裏にブクブクに太ったテュアの姿が浮かぶ。
(丸々したテュアも可愛いな……。いやいや、そうじゃない)
『エビフライもっと頂戴』
 テュアが更にエビフライをねだってくる。
「テュア、やっぱエビフライだけじゃなくて他の物も食おうぜ」
『えぇー! なんで? もっとエビフライー!』
 テュアがまだ荷物の中にあるだろうエビフライを狙って嘴を伸ばしてくる。
「いや待て! これはお前のためを思って言ってるんだ!」
 レイオスはテュアの頭を掴んで食い止める。
 そうして2人の間でエビフライでの押し問答がしばらく続いた。

 アルトも自身のポロウを労っていた。
「お疲れ様、ポロウ」
 そしてポロウとはまだ知り合ったばかりで自己紹介も満足にしていない事を思い出した。
「今更だけど、私の名前はアルト・ヴァレンティーニ。きみの名前も教えてくれるかな?」
 ポロウも名乗ってくれたが、人間には聞き取りづらい妙な単語が頭に響いた。
「え~と……みぃ、びゃ……む? ゴメン、上手く言えない」
 たぶん人間の声帯では発音できないのだろうと言われた。
 なので名付けて欲しいと頼まれる。
「分かった、考えておくよ。さっきの戦闘でもいい立ち回りができたし。きっと私達いいコンビになれるよ」
 アルトが手を伸ばして頭を撫でると、ポロウは気持ちよさそうに目を細めた。

 保はペガサスのペスから飼い葉とブラッシングの催促をされていた。
『家主さん家主さん、飼い葉はどこですか? ブラッシングも早くして下さい』
「飼い葉は家に帰らないとないですし、ブラシも持ってきていなくて……」
『だったら早く帰りましょう。さぁ早く』
「まだ主役二人の別れが済んでませんからもう少し待ってください」
 帰ろうとするペスを保は必死に引き止める事となった。

『ジーク様、お願いがありますポゥ』
 フク助が真剣な声音でジークに話しかける。
『これからも私の背中に乗って一緒に戦って欲しいポゥ』
 そのお願いをされるだろうとジークは事前に予想できていた。
「すまない、それはできない」
 だからすぐに返事をする事ができた。
『どうしてポゥ? 私はジーク様に相応しくなかったポゥ?』
「そうではないよフク助」
 悲しそうに尋ねてくるフク助にジークは優しい声音で答えた。
「私は今住んでいる町に家族がいて、そこでの生活がある。この森は町から遠すぎる。それらを捨ててここでフク助と暮らす事はできないんだ」
『でも……またお別れなんて嫌ポゥ……』
「フク助様」
 悲しみに暮れるフク助に木綿花が話しかける。
「私も少し前に騎士団でお世話になった子とお別れする事になって離れてしまったんです。でも別れる事になっても、あの子を忘れる事などできません。今でも大切な友なのです。時間や距離は関係ない。想いと絆は永遠のもの。フク助様はもうそれを分かっているはずです」
 木綿花は自分の胸に手を置き、フク助の心に向けて語りかけた。
『……ジーク様、私のこと忘れないポゥ?』
「もちろん、永遠に忘れないよ」
『また会ってくれるポゥ? ジーク様の家まで行ってもいいポゥ?』
「来てくれるなら大歓迎だよ」
『じゃあ約束するポゥ。今度は私から会いに行くポゥ』
「うん、待っているよ」
 こうしてジークとフク助は固い約束を交わしあった。
「20年以上の時を隔てても続く人と幻獣の絆か……。オレたちもあんな関係でありたいもんだな、テュア」
 そんな2人を見て胸に熱いものを感じたレイオスはテュアの首を優しく撫で、テュアはレイオスに頭を擦り付けて想いを返した。

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MVP一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカーka1990
  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめka5800

重体一覧

参加者一覧

  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    テュア
    テュア(ka1990unit006
    ユニット|幻獣
  • 【Ⅲ】命と愛の重みを知る
    フェリア(ka2870
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • ユニットアイコン
    エアリアル
    エアリアル(ka2870unit002
    ユニット|幻獣
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • ユニットアイコン
    パウル
    パウル(ka3109unit005
    ユニット|幻獣
  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめ(ka5800
    鬼|23才|男性|符術師
  • ユニットアイコン
    ペス
    ペス(ka5800unit003
    ユニット|幻獣
  • 虹彩の奏者
    木綿花(ka6927
    ドラグーン|21才|女性|機導師
  • ユニットアイコン
    アヴァ
    アヴァ(ka6927unit001
    ユニット|幻獣

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/01/16 03:01:20
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保・はじめ(ka5800
鬼|23才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2019/01/19 09:01:33