堕ちた者と堕ちた人

マスター:真太郎

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
3~5人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2019/02/22 19:00
完成日
2019/02/28 11:21

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●大森健司

 俺はリアルブルーから訳も分からずクリムゾンウェストに召喚されてきた。
 そして俺は山賊に捕まり、奴隷にされた。
 山賊は俺を家畜以下のクソみたいに扱ったが、ある時歪虚に襲われて殺された。
 歪虚は俺の山賊や世界への恨み辛みを見初め、堕落者になる事を持ちかけてきた。
 だから俺は堕落者となった。
 そうしなければ俺も殺されていただろうから。
 その後、俺を堕落者にした歪虚はハンターによって殺された。
 俺の身は人間に戻る事はなかったが、自由にはなった。
 俺は俺をこんな境遇にしたこのクソッタレな世界で死にたくはなかった。
 何があろうとも絶対に生き延びてやる。
 ここは弱い者は生き残れず死ぬ世界だ。
 だから俺は力を求めた。
 強いマテリアルを求めて彷徨い、それを吸収してゆく。
 そんな日々を送っていた。

 ある日、人間の村の近くを通ると言い争う声を耳にした。
 興味を惹かれて近寄ってみた。
 1体のゴーレムを連れた2人の男が怒鳴っていて、村長っぽい老人が怯えているのが見える。
「おい! 警ら料を貰いにきたぜ」
「警ら料ならもう先週払いましたが……」
「今週分だよ。まだだろ」
「えぇ! 毎週払えと?」
「月額だなんて言った覚えはねぇぞ。俺たち自警団が歪虚を倒してるからお前ら安心して暮らせてるんだ。払うのは当然だろ」
「ですが毎週こんな高額を払える訳が……」
「払えねぇならそれでもいいが、そうなると俺達のゴーレムが怒って暴れちまうかもしれねぇーなー」
 ゴーレムが持っていた大剣を地面に叩きつけると地面がえぐれ、飛び散った土砂が村長の体を打つ。
「ひぃぃ!!」
 村長は慌ててその場に蹲った。
(なんだこいつら。自警団とか言いながらやってる事は山賊じゃねーか)
 俺の中で山賊に対する憎悪が膨れ上がり、そいつらの前へと歩み出していた。
「ん? なんだあんちゃん、村のもんか?」
「ちげーよ。ただあんたらみたいなゴミが反吐が出るほど嫌いなだけさ」
 受け答えしつつゴーレムを見ると、負マテリアルを発している事に気づいた。
(このゴーレム、歪虚か?)
 しかし山賊どもは負のマテリアルを発していない、ただの人間だ。
(どういうこった?)
「なんだと! 邪魔するってんなら痛い目みるぞ!」
 ゴーレムが大剣で斬りかかってきた。
 俺は容易く避けるとゴーレムを掴み、掌からマテリアルを吸収する。
 ゴーレムは藻掻いたが押さえつけ、そのまま吸収を続けるとやがて塵となって消えた。
(こいつ結構マテリアルが詰まってたな)
 俺は身体にかなりのマテリアルが満ちたのを感じた。
「ゴ、ゴーレムが……」
「チクショー! 覚えてろー!」
 ゴーレムがやられると山賊の2人は全速力で逃げていった。
「あんた!」
 村長が感謝の笑みで駆け寄ってくる。
(くっ!)
 しかし俺は顔をしかめた。
 その笑みが気持ち悪く感じたからだ。
 俺は堕落者となって以来、人間や生物を見ると不快感を覚えるようになっていた。
(なんでこんなに気持ち悪ぃんだよ。くっそ、今すぐぶっ潰してぇ……)
 ゴキブリを見た途端に叩き潰したくなる感覚と似ている。
 その欲求に従えば快感が得られるだろう事も感覚的に分かる。
「ありがとうございます! あいつらには本当に困ってたんです」
 殺ればいいと本能が訴えてくるが、この村のやつらには恨みも何もない。
 ただ本能のまま殺す獣のように俺はならない。
 俺が殺るやつは俺が決める。
 俺は身の内から湧き上がる不快感を抑え込みながら話を聞く事にした。
「あいつら何なんだ?」
「自警団を自称するたかり屋ですよ。歪虚を倒しているのは事実ですが、その見返りに金を請求してくるんです。その金額が膨大で……」
「なんでたかり屋風情がゴーレムなんて持ってる?」
「分かりません。ですがやつらがゴーレムを持っているせいで我々は大人しく金を払うしかないんです」
「でも村長。村にはもう払う金なんて残ってないぞ」
「払えなくなったらゴーレムに何をされるか……」
「お願いします旅人さん、あいつらの横暴を止めさせて下さい!」
「私達を助けて下さい」
 何時の間にか集まってきていた村人達が次々に懇願してくる。
「ゴーレムはどれくらいいるんだ?」
 村人から顔を背けながら聞く。
「まだ2~3体はいると思います。しかしさっきのより大きなゴーレムも見た事があります」
「へぇ……」
 俺はほくそ笑んだ。
(そいつからはもっと大量のマテリアルが吸えそうだな)
「分かった。なんとかしてやるよ」
 俺は山賊の居場所を聞くとそこに向かった。



●自称自警団隊長
 
 オレらがゴーレムを見つけたのは偶然だった。
 たまたま森の奥で奇妙な屋敷を見つけたんだ。
 そこの地下には大小10体のゴーレム安置されていた。
 最初見つけた時はもちろんびびったさ。
 でも動かなかったから近寄ってあちこち触ってみたのさ。
 そしたら急にこっちの言うこと聞くようになった。
 こうしてオレは言うことを聞くゴーレムを手に入れた。
 試しに近くにいる雑魔にけしかけみたら一蹴できる程の力があった。
 オレはこの力に有頂天になったね。
 で、金儲けの方法として考えたのが自警団だ。
 歪虚を倒す見返りとして村や町から金を貰う。
 今までの山賊生活より真っ当な仕事だ。
 しかも働くのはゴーレムだけ。オレ達は何にもしなくていい。
 最高だ。
 しかしそんな真っ当な仕事にケチを付けるヤツがいたのか、オレ達の屋敷にハンターが来やがった。
 だがこっちの準備だって怠りねぇ。
 屋敷の屋上には大型のバリスタが設置してあるし、周囲には鉄条網も巡らしてある。
 なによりこっちには強力無比なゴーレムがある。
 防衛準備は万全だ。
 これで仕掛けてくるヤツなんているはずねー。
「ごほっ! ごほっ!」
 急に咳が出やがった。
 なんか最近体調わりぃんだよな。妙に咳が出るし身体もだりぃ。
 オレだけじゃなく他のヤツらもだりぃって言ってやがる。
 最近うまいモン食ってっからまだ身体が受け付けてないのかもな。
「親分、本当にやるんですか? 相手は歪虚じゃなくて人間ですぜ」
 屋上で迎撃態勢をとっていると、仲間が聞いてくる。
「びびんな! 相手はハンターだ。ボウガンの2~3本刺さったって死にゃしねぇ。痛めつけて追い返せ。あと親分って言うな。隊長って呼べ」
 びびる仲間を叱咤してオレはボウガンを構えた。
「おやぶーんっ! やべぇヤツがいる!」
 そこに集金に出ていた仲間が大慌てて戻ってきて、小型ゴーレムの1体がやられたと言ってきやがった。
 信じられねぇ……。
 だがそれが事実ならヤバイ。
「くっそ! そいつは今来てるハンターの仲間に違いねぇ! そっちには残りの小型を全部ぶつけろ! 正面扉開けて大型ゴーレムも出せ!」
 命令に従って正門が開き、3体のゴーレムが出る。
 正面に大型ゴーレムが3体。屋上に2体。裏口には小型が4体。
 これで凌げないはずがねぇ!!

リプレイ本文

 5人のハンターが自警団を自称する山賊の捕縛のため、彼らの立て籠もる屋敷にやってくると、相手は既に迎撃態勢を整えていた。
「おもちゃいっぱいですー。山賊のお兄さん達、遊んでくれるですね!」
 それを見たアルマ・A・エインズワース(ka4901)はどう解釈したのかは分からないが、嬉しそうに表情を綻ばせた。
「ゴーレム! 奴らに目にもの見せてやれ!」
 山賊の親分の命令に応じて屋上のゴーレム2体が大型バリスタを引き絞り、地上のゴーレム3体が連弩を構える。
「わふー!」
 それよりも先にアルマが『紺碧の流星』を発動。
 出現した三角形の光から青き光が流星の如く走り、3条の光がそれぞれ地上のゴーレムを貫いた。
 アルマの高いマテリアルを込められた光に貫かれたゴーレムはたちまちその身を崩壊させてゆき、塵となって消え去った。 
「…………は?」
 その光景を見た山賊達は一様に呆けた表情になった。
 人は全く予想外の事柄を目にすると、現実と脳とで認識のズレが生じてしまうのだ。
 だがそれも一瞬の事。
「はあぁぁぁーーーーー!!??」
 現実を認識した途端、彼らの表情は驚愕一色になる。
「嘘だろ……」
 頼みのゴーレムが一瞬で灰燼と化し、山賊の親分が動揺を隠しきれない表情でアルマを見る。
 目の合ったアルマは無邪気な笑みで返した。
 それが逆に言い知れぬ恐怖を抱かせた。
「伏せろ―ーっ!!」
 親分は絶叫すると床にへばりつくように伏せた。
 子分達も同じように伏せる。
(顔を上げていたら死ぬ……)
 そんな恐怖に囚われたのだ。
 屋上にいる2体のゴーレムも命令に従って伏せたため、地上から彼らの姿が見えなくなる。
「う~ん……おもちゃごとまとめて撃ったら山賊さんにも当たっちゃいますよね……。僕のはヒトに向けて撃ったらだめです……」
 アルマは悩んだ末、[SW]魔箒「Shooting Star」に跨ると『星に願いを』を発動させて浮かび上がった。
「すごい威力ですね……」
 保・はじめ(ka5800)も地上のゴーレムに『風雷陣』を放とうとしていたのだが、抜いていた符をホルダーに戻す。
 そして[SW]フライングスレッドに乗り、『I.F.O.』を発動させて浮かび上がった。
 Gacrux(ka2726)は屋敷を取り囲む鉄条網を『衝撃波』で破壊して地上のゴーレムに接近しようと思っていたのだが、その必要はなくなってしまった。
「まぁ手間は省けましたか」
 なので[SW]小型飛行翼アーマー「ダイダロス」の固有スキル『エアグライディング』で空に舞い上がった。
 玲瓏(ka7114)は『蝕』を発動させて自身に精霊に加護を付与した後、[SW]魔箒「Shooting Star」に跨り『星に願いを』で浮き上がる。
 その光景に親分は再び驚愕した。
「なんで奴ら飛べるんだ? これじゃ鉄条網が何の意味もねー!」 
 屋上のゴーレムはバリスタを放った。
 Gacruxと保に槍ほどの大きさの矢が高速で飛来してくる。
 空中では身体能力が半減してしまうため、Gacruxはシールド「レヴェヨンサプレス」で受けた。
 衝撃で腕がしびれて体勢が崩れたが、ダメージはない。
 保は発動させていた『地を駆けるもの』の身のこなしで辛くも避ける。
「地を駆けられない空中ですけど、何とかなりましたね」
 ゴーレムはすぐに矢を再装填しようとする。
 そこにヒュッっと風切り音を轢きながら矢が飛来してゴーレムの肩を貫通。
 破壊された肩から腕がゴトリと落ちる。
「な! どこから射たれた?」
 屋上の縁から覗くと遥か遠方に人影が見える。
「あんな遠くからだと……」
 クオン・サガラ(ka0018)による[EX]聖弓「サルンガ」と『遠射』の最大射程からの『高加速射撃』の狙撃だ。
「攻撃のために身を上げたのが運の尽きです」
 だがゴーレムは片腕になっても器用に再装填して撃ってきた。
 保は今度は避けきれず、魔導剣「カオスウィース」で受け止めたが弾かれ、矢は『御霊符「影装」』の式神鎧ごと腹を貫通する。
 致命傷ではないがダメージは大きく、傷口から血が吹き出す。
 サガラは矢を番えて引き絞り、ゴーレムの頭部を射抜く。
 それでゴーレムは塵となかったが、残る1体が保にトドメを刺そうとする。
「させませんよ」
 Gacruxが保の前に出て射線を塞ぎ、盾で矢を弾く。
 保は符を抜くと『風雷陣』を発動し、稲妻と化した符がゴーレムを貫く。
 その隙を逃さずGacruxが[EX]蒼機槍「ラナンキュラス」を大上段から振り下ろす。
 『ソウルエッジ』でマテリアルを帯びた刃はゴーレムの装甲を容易く斬り裂いて両断した。
 2つに裂かれたゴーレムの身体は倒れながら霧散してゆく。
「こ、降参する!」
「命だけは助けてくれ!!」
 その光景を見た山賊達は両手を上げて降伏する。
「保様、怪我を診せてくださいませ」
 玲瓏は屋上に着くとすぐに保の容態を診て『魂振』を施した。
 それが終わると山賊達に仲間はもういないか、ゴーレムは残っていないか尋問する。
「仲間はこれで全員だ。ゴーレムはまだ裏に4体……」
 屋上から裏を見下ろしたが、何もない。
「ひぃ! 来たぁ!」
 不意に山賊が悲鳴を上げる。
 見ると、階段から1人の少年が姿を現していた。

(なんで覚醒者がいるんだ?)
 大森健司はこの場にハンターがいる事に驚いた。
「わふ? こんにちは、歪虚のお兄さん!」
 アルマが何故か嬉しそうに挨拶する。
(……は?)
 てっきり殺り合う事になると思っていた健司は戸惑った。
「初めましてですー。僕、アルマですっ」
(歪虚と分かってて自己紹介とか……何を企んでやがる?)
 健司は罠を警戒しながらアルマと話を始める。
「お前ら何なんだ? ゴーレムはお前らが殺ったのか?」
「そうですー。僕らがやりましたー。お兄さんはどうしてここに? 山賊さんの仲間ではないみたいですし……」
「山賊共をどうにかしてくれって頼まれたから来たんだよ」
「どなたからですか?」
 玲瓏が尋ねる。
「近くの村の奴らだ」
(歪虚が人の頼みを……悪い者ではないのでしょうか?)
「わぅ? お仕事バッティングです? 僕らもこの人達を何とかしてって言われたです! おもちゃたくさんで楽しかったです!」
「へぇ~、おもちゃねぇ」
 健司は嗜虐的な笑みを浮かべると、山賊達に拳銃を向けた。
「ひぃ!」
 山賊の顔が恐怖で引きつる。
「おい! 今まで人をおもちゃにしてた立場からおもちゃにされる側になった気分はどうだ? 言ってみろ!」
「オ、オ、オレ達は人をお、おもちゃにした事なんてねぇ」
「嘘つけっ! お前らは人を家畜以下の奴隷としか思ってないゲスの集まりだろうが」
「本当だ! オレ達がやってたのは盗みとかたかりとかその程度だ! 殺しはやった事ねー! ホントだ! 信じてくれぇー!」
「ゴミの言う事なんて信じらんねーよ」
 健司は冷たい眼差しで引き金に指をかける。
「頼む! お、お願いだ! た、た、助けてくれ!」
「報告しなきゃいけないんで、殺るんならできれば3人くらい残して欲しいですー」
「ひいぃーー!!」
 アルマの無情の言葉により山賊は絶望に染まった表情で悲鳴を上げた。
「殺してはいけません!!」
 見かねた玲瓏が大声で制する。
「死は悪にとって慈悲のようなものです。裁判にかけた後、刑務所で」
「こいつの怯えっぷりなら慈悲にはならんさ」
 健司は玲瓏の意見を一蹴した。
「それとも俺と殺りあってでもこのゴミを助けるか?」
「僕はやりませんよー。止めもしませんけどねー」
 アルマは軽い口調で答えた。
「僕もやりあう気はありません。それより貴方は大森健司という名前ではないですか?」
 保の問いかけに健司は顔色を変えた。
「どうして俺の名前を知っている?」
「やはりそうでしたか。貴方の事はケイトさんから聞いています」
「ケイト?」
「精霊の森に住む、足の不自由なおばあさんです」
「あのばあさんか……あんたばあさんの知り合いか?」
「はい、友人です」
「へぇ~」
 ケイトの事を話していたためか健司の表情から険が消えていた。
「……ちっ、殺る気が削がれたぜ」
 健司が拳銃を下げる。
「貴方の境遇には僕も思うところがあります。先祖返りで鬼として生まれた僕が生後間もなく殺されずに済んだのは、覚醒者の才があったからです。その代わり、用済みで家を追い出されるまで、子供の頃から戦場に放り込まれましたよ。でも、自分の境遇に不満を感じた事はありません。それが当たり前でしたから。だから、似た境遇にあるはずなのに貴方の憤りが分かりません。貴方、何にどんな不満を抱いているんですか?」
 保が話し終えて尋ねると、健司の表情には険が戻っていた。
「どこが似た境遇だ。奴隷と戦場の兵士じゃ全然違うだろ。お前はあらゆる自由を奪われて、暴力に抗うすべもなく恥辱を味合わされても当たり前だって思えんのかよ? 俺はここに転移させられた事も、奴隷にされた事も、歪虚になった事も、全て自分で望んだ訳じゃねぇ! ただ死なないため命を守って生きてきたらこうなってたんだ! それでもお前なら不満を感じずにいられるのか?」
(彼は孤独感と閉塞感が元で自棄になっていて、【嫉妬】がそれを煽っている物とみましたが……読み違えたようですね)
 健司から感じるのは少なくとも孤独感ではない。理不尽な自身の境遇への怒りだ。
「お前らは歪虚を殺して回っているが俺も殺すのか? なんで歪虚だと殺されなけりゃいけねーんだ?」
「面白い事を言いますね」
 Gacruxが興味深そうに健司を見る。
(生者を惑わす戯言と、以前の俺なら切り捨てただろう)
 しかし今のGacruxは知っている。
 歪虚の身でありながら人のために戦った者がいた事を。
「殺すかはあなたの行動次第で歪虚故ではありません。背景も知らず、善悪の判断はできませんから」
「じゃああんたらは歪虚は全部、雑魔でも無害かどうか調べてから殺してんのか? してねーよな。問答無用で殺してるよな」
 玲瓏の答えに健司は納得しなかった。
「それは歪虚の持つ負マテリアル自体が周囲の人や物を不調に陥れるので、公衆衛生の為には感染源は除去するしかないからです」
「じゃあ俺も除去対象か? さっきと言ってる事が違うじゃねーか。殺すかどうかは行動次第じゃなかったのか?」
「大森様が人に仇なすつもりがないのであれば、人や物への影響の少ない遠くへ離れてくだされば」
「ふ ざ け ん な !」
 健司は玲瓏の言葉を遮って怒声を放つ。
「俺は覚醒者でもないのに無理矢理この世界に連れて来られたんだよ。なのに世界の害になるから死ね? それが嫌なら遠くに行けだぁ? それがどんだけ身勝手で理不尽か分かってて言ってんのかっ!?」
「では逆に問います。歪虚が何故嫌われていると思いますか?」
 Gacruxは声を荒げる健司とは対象的に静かな声音で尋ねた。
「そりゃあ人を襲って殺してるからだろ」
 健司はキッパリ答える。
「ならば歪虚が脅威故に退治されていると分かるはずです」
「理解はできるぜ。じゃあ俺が脅威じゃないって示せば受け入れてもらえるのか? 俺はそこの女が言った通り感染源だぜ」
「嘗て人の為に尽くし、ハンターに受け入れられた歪虚は存在します」
「そいつは初耳だ。で、そいつは今何処でどうしてる」
「もういません……。人のために戦い、ハンターと共に生きる未来を夢見、夢半ばで散りました」
 健司は嘘だと疑っていた。
 しかしGacruxの声や表情には深い哀悼の色があり、真実味を帯びていた。
「そうか……残念だな。会ってみたかったぜ」
「あんたは人の世で、人として扱って欲しいのか? もし人の世で、人の幸せを得て生きたいと望むなら――」
(その身では風当たりも厳しく過酷だろう……だが不確定な未来でもある)
 心の中で呟き、言葉を続ける。
「ヒトや精霊の命を奪うな。相手が善人でも悪人でも、それは自身の身を守る為でもある。石を投げられてもヒトの幸せの為に力を使い、そして」
「そいつはたぶん俺には無理だ」
 健司がGacruxの言葉を遮る。
「この世界の人間に恨みはねーが、石投げられて耐えられるほど思い入れはねぇ。あんたの言った歪虚はたぶん人が好きだったんだろうな。だが俺は違う。俺は俺に理不尽な運命と未来を押し付けやがったこの世界を憎んでる。ほっといてくれれば何もしねぇが、手出ししてくるならぶっとばす。そういう生き方しか俺はたぶんできねぇ」
「ならば大森様はここでどう在りたいのです? 永遠に彷徨うおつもりですか?」
「……へ、そうだな。安住の地を探して彷徨うのも悪くないかもな」
 玲瓏の問いに健司は自嘲的な笑みで答えると、屋上の縁に向かって後ずさる。
「健司さん行っちゃうですかー? もっとお話して僕とお友達になりませんかー」
 アルマが引き留めようとする。
「あんたの事は嫌いじゃないが、友達は遠慮しておくよ」
「そですか……。僕、健司さん結構すきなので討伐されて欲しくないです……だからお強くなるならほどほどにしとくことをおススメするです……あんまりお強くなりすぎたら逆に狙われるです……強いと、それだけで怖いって思われますからー」
 アルマが本気で心配して忠告する。
「覚醒者には歪虚絶対殺すマンだっているよな。ほどほどの強さでそいつに殺されそうになったらどうすんだ? 奴隷だった時みたいに這いつくばって靴の裏のクソ舐めて命乞いしろってのか? 二度と御免だぜ。俺は惨めな俺には絶対に戻らねぇ! 忠告は感謝するが、それは聞けねー」
 健司が屋上の縁から身を翻そうとする。
「健司さん! 鬼やコボルドのように負のマテリアルへの耐性を持つ種族もいますから、貴方の力を許容範囲に収めるなら交流の余地はあると思います!」
 保が屋上から飛び降りてゆく健司に最後の言葉を投げた。
 屋上の縁から下を伺うと、健司は鉄条網を乗り越えて去ってゆくところだった。
 声は届いていたはずだ。
 健司がどう受け取ったかは分からないが、心の支えになればと保は願った。
『裏から1人逃げています。捕まえるなら足止めしますよ』
 魔導スマートフォンから健司を見つけたらしいサガラの声が響いてくる。
「彼は山賊ではありませんから見逃してあげて下さい。山賊は全員捕らえましたから合流しましょう」
『了解です』
 保は合流したサガラに大森健司の事を話した。
「わたしは正直言って堕落者の放置は賛成できません。VOIDからすればリアルブルーの宇宙飛行士は侵略者ですし、逆に我々からすれば故郷を奪ったモノです。滅ぼし合いから脱するのは難しいでしょうから」
 覚醒者になる以前からVOIDと戦っているサガラには歪虚は相容れぬ敵だという認識が強いのだろう。

 捕らえた山賊の処遇はハンターズソサエティが一任するためハンターオフィスに引き渡し、依頼は完了した。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめ(ka5800
    鬼|23才|男性|符術師
  • 風雅なる謡楽士
    玲瓏(ka7114
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/02/21 16:51:10
アイコン 相談卓
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2019/02/22 14:20:57
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2019/02/20 00:39:43