鋼鉄の巨大魚

マスター:赤紫クロ

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/01/31 09:00
完成日
2015/02/07 16:16

みんなの思い出

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オープニング

●流れる平穏
 澄み渡る青空に鳥の囀(さえず)りが木霊する。
 生い茂る木々に囲まれたその街は、今日も平和な時間が流れていた。
 街には観光客を迎える為、色とりどりの旗が掲げられている。
 街の中心を流れる大きな川は、小さな川がいくつか合流してできている。
 この川をゴンドラに乗って観光するのが街の名物となっていた。

●現れる脅威
 街を出て、大きな川に沿って歩く三人の少年がいた。
 一回り大きいベレー帽を被った少年、ティーヌは、釣竿を担いで先頭を歩いていた。
「今日は客がいっぱいいるから、でっかいのたくさん釣るぞ!」
 グッと握り拳を作ってそう意気込む。
 ティーヌの後ろを歩くバケツを持った少年、マクナは、呆れた溜息を吐いた。
「いつものセリフ……。今日【は】、じゃなくて、今日【こそは】、じゃないの?」
 最後尾を歩く小柄な少年、フーモは、タモを両手で持ち、控えめにマクナに言葉を話す。
「今日は、川が穏やかだから……ちっちゃくて、大人しい子が釣れそうだね」
「そんなのが釣れても、小物だったらあいつは逃がすよ」
 マクナは先を歩くティーヌに目を向けながら言った。
 一方、ティーヌは既にいつものポイントに到着していた。
 思ったより二人と距離が離れていたことに気付き、大きく手を振る。
「おーい! 何やってんだよー! 早くしろー!」
 三人がいつも釣りのポイントとして選んでいた場所は、街から約一キロ離れた場所にある溜まり場だ。
 ここは三本の小川が合流する場所であり、エサも豊富で色々な魚が釣れる。
 早速いつもの場所を陣取ったティーヌは、手際よく餌を着け、竿を投げた。
 後から来たマクナとフーモは、ティーヌの傍に座る。
「今日の目標はー、そうだなぁ……クジラみたいなやつ!」
「バカだな。クジラなんてこの川には収まらないだろ」
「で、でもそれ、夢があって、いいと思う……な」
 ティーヌの竿が動いたのは、それからすぐだった。
「ん? わっ、もう来たぞ!!」
 確かな手応えに、ティーヌは楽しそうに立ち上がって構える。
「え、凄い……! 今までで最速だね!」
「ってか、こいつ……! すげー、重い……っ! うわあっ!!」
「危ない!」
 獲物に体を持っていかれそうになったティーヌを、マクナが咄嗟に支えた。
 水面に浮かぶ大きな影に、三人は大物を期待する。
「すげー! すげーでっかいぞ、こいつ!」
 ティーヌはそう声を弾ませていたが、影は近付くにつれてどんどん大きくなっていく。
 次第に三人は、興奮よりも迫りくる恐怖に身を駆られた。
「な……なんだ……?」
 竿を引く手は動いていない。
 獲物の方から三人に向かって来ているのだ。
 じわりじわりと迫る脅威。
 ティーヌは一歩後ずさり、フーモはマクナの背にしがみ付いた。
 そして足元まで来た時、影が大きく跳ね上がった。
「ひっ!」
 宙に飛び上がったのは、まさに巨大魚。
 しかしその外見は、見た事もないほど凶悪な顔つきをしていた。
 日の光に反射して体が鈍色に輝く。
 光のない目は三人を捉えているかも定かではない。
 三人は、その巨大魚の姿を見た瞬間確信した。
 こいつはただの巨大魚じゃない。

 ――歪虚だ、と。

 三人に向かって大きな口を開き、鋭い牙を向けて落下してくる。
「う、うわああああああ!!!!」
 マクナはフーモと共に、その場から離れるように倒れ込んだ。
「っ、ティーヌ!!」
 一人残されたティーヌは、果敢にもその巨大魚に向けてタモを投げた。
 しかし魚の体は鉄のように固く、カキンッと甲高い音を立ててタモを跳ね返した。
「う、うわーっ!!」
 恐怖で立ち尽くすティーヌ。
 巨大魚に食べられそうになる寸前、マクナがティーヌの体を押すようにして倒れ込んだ。
 獲物を外した巨大魚は地面で体をバタつかせ、川に戻っていく。
 一瞬の出来事に呼吸を乱すティーヌ。
 今自分が生きている事に困惑しているようにも見えた。
 しかし、その刹那。取り乱したフーモの声で我に返った。
「マ、マクナ……! あ、足っ、足が……っ!!」
 ティーヌが起き上がって見ると、自分に覆いかぶさるように倒れていたマクナの右足が無くなっていた。
 代わりに、噴き出した鮮血が地面に広がっている。
「マ……マクナ……」
 マクナは額に汗を滲ませ、険しい表情で顔を上げた。
「何、やってるの……。あの魚、街の方に向かって行った……。早く、ハンターに知らせなきゃ……っ」
 街の川にはゴンドラに乗って観光している人や漁をしている人、川で水遊びをしている子供達も少なくないだろう。
 急がなければ。
 起き上がろうとするマクナに、ティーヌは下唇を噛んだ。
 自分が釣りに誘わなければ。
 巨大魚に立ち向かおうとしないで、すぐに逃げていれば。
 そう考え始めると、後悔の念が尽きない。
 なんとか起き上がろうとするマクナだが、うまく力が入らずに体制を崩してしまう。
 そんな彼を、ティーヌが支えた。
 マクナの腕を肩に掛けると、ティーヌは俯いたままフーモに言葉を発した。
「フーモ。先に街に戻って、ハンターに知らせてくれないか。俺は、マクナを街まで連れて行く」
「え、で、でも……!」
 初めて大量の血を目にして、涙で顔をくしゃくしゃにするフーモ。
 ティーヌは俯かせた頭を更に下げ、拳を作る手に力を込めた
「頼む、フーモ……。頼む……ッ」
「ティー、ヌ……」
 いつも元気でみんなを引っ張ってくれる存在のティーヌ。
 フーモは、彼のこんな表情を見た事がなかった。
 マクナの顔色も悪くなっていている。
 そんな状況で、泣いてばかりいられない。
 フーモはごしごしと涙を拭き、大きく頷いた。

リプレイ本文

●混迷する街
 フーモの知らせにより、街はいつもより慌しくなっていた。
 歪虚などと縁もゆかりもなかった街だ。
 いざとなると、どう行動すべきなのか混乱してしまう。
「街から出ない方がいいだろう」
「いや、怪我をしているマクナを助けに行くべきだ」
「ハンターが来るまで我々で歪虚を迎え撃とう!」
 意見が纏まらない人々の前に、イスタ・イルマティーニ(ka1764)が口を開いた。
「皆様、落ち着いてください」
 彼女の一言に人々は口を閉ざし、イスタが駆け付けたハンターだと解ると安堵の眼差しを向けた。
「街を守る為には、皆様の協力が必要になります。どうか、お力をお貸しください」
 人々はそれぞれ顔を見合わせると、大きく頷いた。
「俺達にできる事ならなんでもするぜ!」
「あたしらにもできる事あるかい?」
 イスタはその言葉に微笑み、小さく頭を垂れた。
「ありがとうございます。では、船の運行を全て中止して、雑魔が街に侵入しないよう水門を閉鎖して頂けますか?」
「おう!」

●作戦開始
 川辺を上流に向かって歩く、猫実 慧(ka0393)と落葉松 鶲(ka0588)。
 鶲の手には予め用意していた治療道具がある。
 慧が猟師から貰った餌は、まだそれほど減っていなかった。
「雑魔がいます! 皆さん、川には近付かないでください!」
 2人の前を先行するミネット・ベアール(ka3282)が注意喚起をしながら歩く。
 幸い、街の外に出ている者は少ないようだ。
 慧が川に投げた餌に、魚がパラパラと集まる。
「どれもまだ子供のようですね」
 鶲の言葉に、ふと慧の中である推測が立った。
「もしかしたら、大きな魚は雑魔に食べられてしまったのかもしれません」
「そんな……。まだお腹を空かせていればいいのですが……」
 一抹の不安を抱えながら、頻りに辺りに目を配る。
 と、その時。
 森の茂みからガサガサッと葉と葉の擦れる音がした。
「! 待ってください、猫実さん。今そこで何か……」
 街の者だろうか。
 或いは、また別の雑魔や魔物か……。
 川岸から離れていた後援部隊の4人もその音に気が付いたようだ。
 ハンターたちに緊張が走る。
 音の正体をいち早く確認したのは、エリー・ローウェル(ka2576)とミネットだった。
 慧と鶲にも聞こえるようにエリーが声を上げる。
「ティーヌ君とマクナ君です!」
「え!?」
「タイミングが悪いですね……」
 怪我を負っていると聞いていたマクナの元に行こうとした鶲だったが、慧の言葉にまさかと思い、川に目をやる。
 上流から、普通の魚とは比べ物にならない程大きな影がこちらに向かって来ていた。
 探し求めていた巨大魚の雑魔だ。
 やむなく、鶲はミネットに治療道具を託した。
「マクナさんの処置をお願いします!」
「任せてください!」
 鶲は慧と共に川辺に戻り、イスタ、エリー、リズレット・ウォルター(ka3580)の3人は武器を手に警戒を強めた。


 ティーヌとマクナの元へ行ったミネットは、彼らの前に現れると安心させる為に笑顔を向けた。
「こんにちは! ティーヌさんと、マクナさんですね?」
「! だ、誰……?」
 突然現れたミネットに驚くティーヌ。
 咄嗟に掴んだ木の枝をミネットに向けるが、余程余裕がないのか、その手は震えていた。
「はじめまして、ハンターのミネット・ベアールです! 早速ですけど、マクナさんの治療、しちゃいますね!」
「ハン、ター……」
 その単語を聞いて、ティーヌは全身の力が抜けたようにへたり込んだ。
 ミネットはマクナの傍に来ると、鶲から受け取った治療道具を取り出す。
「こういうのは細菌が怖いんですよ! お医者さん行くまで頑張ってください!」
 待ち望んでいたハンターに張り詰めていた糸が解け、安心したのか、途端にティーヌはわんわんと泣き出した。


 巨大な影を見下ろしながら、鶲が干し肉をチラつかせる。
 だが、その影、雑魔は鶲の足元を行ったり来たりするばかり。
「なかなか飛び上がって来ませんね」
 鶲が眉をハの字にして言うと、慧は困ったように息を吐いた。
「空腹じゃなくなったせいで、様子を見る余裕が出てきたのか。案外、頭がいいのかもしれませんね」
「……仕方ありませんね。ここはやっぱり、漁作戦で引きずり出してみましょう!」
 気合十分にそう言ったのは、いつの間にか戻ってきていたミネットだった。
 突然現れた彼女に、すぐさま鶲が反応する。
「ベアールさん!」
「ただいま戻りました! マクナさんの手当ては済みましたが、応急処置しかしていないので急いでやっつけちゃいましょう!」
 鶲は処置が済んだことに安堵の溜息を吐いたが、まだ助かった訳ではない。
「本当は網などを使って捕まえた方が確実なのですが……今回は用意する事ができなかったので、ビリ漁とガチンコ漁を試してみましょう!」
「作戦前に話していたものですね?」
 慧の問いに、ミネットは頷いた。
「はい。このふたつは強力すぎて私達の部族では掟で禁止されてた方法です……」
 神妙な面持ちで続ける。
「ビリは水中に放電して気絶した魚を捕獲する漁です。大した事のない電気でも水の中で昇圧されてエグい電圧になっちゃいます。放電中は決して水に触れないでください! ガチンコは激しい衝撃を水中に伝達して衝撃波で軒並み魚を気絶させる方法です。決して水の中に頭を入れないで下さい! 眼球飛び出すほどキッツいのが来ますよ!」
「では、まずはガチンコ漁を試してみましょう」
 イスタとリズレットに視線を送る慧。
 2人は頷くと、リズレットは上流に、イスタは下流に着いて雑魔を挟んだ。
 幸い、雑魔は干し肉に引かれてその場に留まってくれている。
 ミネットは下流で漁の様子を確認しつつ、雑魔が街の方へ逃げないよういつでも威嚇射撃の撃てる体制を取った。
 エリーはいつ飛び上がってきても対応できるよう、一歩引いた場所で待機している。
「皆さん、準備できましたね?」
 周りを見回す慧。
 各々がそれを確認すると、イスタとリズレットが武器を構えた。
「参ります!」
 イスタの掛け声と共に、雑魔を挟んだ上流と下流に魔法攻撃が撃ち込まれる。
 穏やかな川が激しく波打った。
 川の異常に、雑魔はその場から遠ざかるように逃げ回る。
 しかし上流と下流に攻撃を与えているおかげでその間からは逃げる事ができなかった。
 だが、雑魔がこの攻撃をくらっている様子もない。
「あれ……?」
 ミネットが目をパチパチと瞬かせる。
「どうやら、川に衝撃を与えているのみで衝撃波は生まれていないようですね……」
 ミネットの頬に冷や汗が流れた
 ハンターたちの顔にも苦渋の色が浮かぶ。
「わたくし達は、逃げ道を塞ぐ為にもこのまま攻撃を続けた方が良さそうですわね……!」
 雑魔は逃げられない今の状況に怒りが積もったのか、目の色を変えて暴れ始めた。
 より一層川が荒れる。
 そんな中、鶲は守りの構えを取った。
 怒ったのなら逆に好都合だ。
 怒り狂った雑魔の攻撃が自分に向くよう、更に干し肉で誘う。
 その様子を見た慧は鶲の近くに行き、いつでも防御障壁でカバーできるよう備えた。
 鶲はエリーの位置を確認し、自分に標的を向けている雑魔が飛び上がって来るようタイミングを計って一気に下がる。
 その瞬間、目を真っ赤にさせた雑魔が高く飛び上がった。
「今です!」
 鶲の合図に攻めの構えを取るエリー。
 落下してくる雑魔とのタイミングを見極め、踏込を使用すると大剣を横薙ぎに構えた。
「はぁぁああああっ!」
 力いっぱいに振られた大剣が雑魔に強打を与える。

 ガキィィィイイイン!!!

 耳をつんざく金属音。
 剣から伝わってくる衝撃に、エリーは両手が痺れる感覚を覚えた。
「ッ!! やあっ!!」
 それでも最後まで振り切ると、5mもある雑魔の巨体が地面をえぐりながら滑った。
 ドシン!と大きな音を立てて一本の木にぶつかると、雑魔はバタバタと暴れた。
「うぅーっ、これは結構キますね……」
 エリーが大剣から手を離し、痺れる両手を広げた。
 打ち上げられた雑魔は尻尾で力強く地面を叩き、体を大きく動かすが、その位置はあまり動いていない。
 どうやら地上ではうまく移動する事ができないようだ。
 逃げる心配もなければこちらに向かってくる心配もない。
 ……が、近付くのは危険だろう。
「念の為、視界を失くした方がいいでしょう」
 慧の言葉に、イスタがワンドの矛先を雑魔に向けた。
「わたくしが目を狙いますわ」
「皆さん! 魚さんの筋肉って凄いんです! 気をつけて下さい!」
 後方に着き、注意を促しながら短弓を構えたのはミネットだった。
 しかし暴れ続ける雑魔に狙いを定めるのは難しい。
「私が気を引きます! その間に攻撃を!」
 鶲が前衛に立ち、槍を構えた。
 雑魔の体力は陸に上がっても衰える事はなく、鋭い牙を目の前の鶲に向けた。
 しかし前進する事が出来ない為、それはただ威嚇するだけになってしまっている。
 だがそれは無暗に暴れる事を止めるのに十分だった。
 雑魔の目に照準を定め、イスタはマジックアローを放った。
「貴方の悪行、水に流しはしませんのよ!」
 集中を使用した攻撃は目に命中し、雑魔は大きく体をしならせた。
 そしてできた鱗の逆目の間を狙い、立て続けにミネットが矢を射る。
 引き絞りを使用した矢は威力を増し、攻撃を受けた雑魔の尻尾は痙攣したように小刻みな反応しか見せなくなった。
「これで、最後です!」
 鶲が踏込を利用した槍を大きく開いた雑魔の口に突き刺す。
 雑魔の内部は、外の硬さとは打って変わって何も入っていないのでは、と思う程刺した感触がなかった。
 勢い余って前のめりになりそうになる体をなんとか留めさせる。
 奥まで槍が入ると、やっと何かが刺さる感触がした。
 その瞬間、雑魔の全身から力が抜かれ、瞬く間に消滅する。
「あ! お魚さんが……」
 残念そうに雑魔のいた場所を眺め、お腹に手を当てるミネット。
 今にもぐぅ~っ、と言う腹の音が聞こえてきそうだ。
 しかし、これで心配事が全てなくなった訳ではない。
「急いでマクナさんを運びましょう!」
 鶲はすぐにティーヌとマクナのいる茂みに向かった。

●失ったモノ。得たモノ。
 晴れた空に色とりどりの旗が鮮やかにうつる。
 雑魔の騒動から一日が経つと、街はすっかり元の活気を取り戻した。
 賑やかな声を聞きながら、病室の出入り口に立っていたイスタは心配そうに少年たちを見つめていた。
 ベッドの上で上半身を起こしたマクナが窓の外に顔を向けたまま、ティーヌとフーモに言葉をかける。
「気にしてないって言ってるだろ。命は助かったんだし、足が一本無くなったくらいでわーわー言わないよ」
「でも……」
「それ以上謝ってもらっても困るよ。折角助けたのに、俺が悪いことしたみたいじゃないか」
 マクナはそう言うと、2人に背を向けてベッドに横になった。
「まだ本調子じゃないから、もう少し寝るよ」
「……また、来るな」
 ティーヌとフーモは、肩を落としたまま病室を後にした。
 様子を見ていたイスタは、マクナのベッドの近くにあった椅子に腰かける。
「優しいのですね、マクナ様は」
「っ、うぅ……っ」
 布団に潜ったマクナは、体を小さくさせると栓が抜けたように泣きじゃくった。
 
 その声は、部屋の外にいたティーヌとフーモにも聞こえていた。
 ティーヌの作った握り拳が震える。
「ティーヌ……」
 いくらみんなに慰めの声を掛けられても、これが現実だ。
 自分が泣くのはおかしいと分かっていても、涙は視界を奪う手助けをする。
「泣いている暇があったら、なにか行動してみませんか?」
 ティーヌが顔を上げると、そこには慧が壁を背に立っていた。
「行動……?」
「そう。例えば、義足を作るとか」
「義足……」
「で、でも僕たち、そんなお金持ってない……よ……」
 フーモの言葉に、慧は壁から体を離して2人の方に体を向けた。
「誰かに作って貰うんじゃない。自分で作るんです」
「じ、自分で……? そ、それでも、材料とかが……」
「いや、材料ならある」
 ティーヌが真っ直ぐに慧を見る。
「家中から俺のおもちゃかき集めてくる。それをバラバラにしたら、材料になるだろ?」
「そのおもちゃにもよりますけど、悪くない案ですね」
 ティーヌに一筋の希望が差した。
 乱暴に涙を拭き、キリッと表情を引き締めてフーモを見る。
「フーモ、やろう!」
「え? で、でも……」
 まだ不安が残っているのだろう。
 フーモは俯き、暫く悩んだ。
 そして、決意を固めティーヌを見上げる。
「うん!」
 フーモの答えに満足そうな表情を見せたのは、ティーヌだけではなかった。


「「できた!!」」
 ティーヌとフーモが完成した義足を持ち上げる。
 少ない材料から作ったそれは骨組みしかない状態だが、義足としての働きは十分果たしてくれる。
「初めてにしては上出来です」
 慧の言葉に、2人は嬉しそうに笑い合った。
「何を得る為に失い、何を失う為に得るのか。常に考えて、それに後悔だけはしない事。今手にしている物だけが自分の財産なんです。それを見失わないようにしてください」
「うん……! ありがとう!」
 作ったばかりの義足を手に、ティーヌとフーモはマクナの病室に向かう。
 部屋の前には、鶲とイスタ、エリーの姿があった。
 どうやらマクナは眠っているらしい。
 エリーはティーヌの手にある義足を見ると、柔らかく微笑んだ。
「義足、できたんですね」
「うん。ちょっと不格好だけど……」
 自信がなさそうに答えるフーモ。
 鶲は2人に目線を合わせるよう、身を屈めた。
「フーモさん。雑魔の存在を街へ伝えて頂いた事、感謝します。ティーヌさん、友達を見捨てずに運んで下さった責任感、とても素晴らしかったです。お2人とも、よく頑張りましたね」
 鶲の優しい言葉に、2人は必死に涙を堪えた。
「マクナさんが起きたら、マクナさんにも伝えなければいけませんね。身を挺して友達を庇った勇気は、誰にでも真似できるものではない、と」
 ゴシゴシと目に溜まった涙を拭い、笑顔を見せるティーヌ。
 フーモも少し照れたように笑った。
 次いで、イスタも思いの丈を告げる。
「今回の出来事で失ったものもありますが、得たものの方が大きいと思います。だって、貴方達はこの街を救ったヒーローですもの」
「私も一言を……と思ったのですが、もう大丈夫そうですね」
 2人の顔を見て、エリーは胸を撫で下ろした。
「ハンターさん、本当にありがとう!」
 そう言葉を残し、マクナが目を覚ますのを待つ為、病室に入って行くティーヌとフーモ。
 ハンターたちの目には、出会った頃よりも彼らが一回り大きくなったように見えた。

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重体一覧

参加者一覧

  • 求道者
    猫実 慧(ka0393
    人間(蒼)|23才|男性|機導師
  • 温かき姉
    落葉松 鶲(ka0588
    人間(蒼)|20才|女性|闘狩人

  • イスタ・イルマティーニ(ka1764
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 『未来』を背負う者
    エリー・ローウェル(ka2576
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • ♯冷静とは
    ミネット・ベアール(ka3282
    人間(紅)|15才|女性|猟撃士

  • リズレット・ウォルター(ka3580
    人間(紅)|16才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼相談スレッド
猫実 慧(ka0393
人間(リアルブルー)|23才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/01/30 22:44:17
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/01/28 19:13:02