ワルサー総帥、節分に悩む

マスター:御影堂

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2015/02/19 09:00
完成日
2015/02/26 17:39

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


「ジロ、えほうまきとやらはわかりましたの、だぜ?」
 ここは王国北部ルサスール領、その片隅にある山小屋だ。
 表看板に書かれた「ワルワル団」の文字の通り、ワルワル団のアジトである。
「えほうとまほうって似ていますもの。きっと、すごいものですわよね」
 銀髪をなびかせて、道なる食べ物に思いを馳せる少女が居た。
 この、リアルブルーの習慣に被れまくっている、銀髪少女こそワルワル団総帥である。
 その名もズバリ、ワルサー総帥。本名、サチコ・W・ルサスール。
「スクロールのように、海苔でご飯を巻くことはわかりました」
 応えるのは、サチコに付き従う従者のジロだ。
「確か中に色とりどりの具材をいれるのですわね?」
「えぇ、食材の調達のため、出かけてきます」
 ジロが出て行くのを見送り、サチコは読書に戻る。
 従者タロが入れてくれた紅茶に口をつける。
 こうしてみているとまるで良家のお嬢様のようだ。
「む、これは……節分とはこういう行事ですのね」
 食い入るように、リアルブルー大全と書かれた書物に顔を近づける。
 ちょっとお嬢様感が剥がれだした。
「オニ、豆まき。なるほど、これですわ……だぜ!」
 無理やり語尾を付けて、出て行ったばかりのジロを追いかける。
「ジロ、追加! 追加ですわ!!」
 ふわっとしたドレスをはためかせ、走るさまは、まるで元気なお嬢様のようである。
 だが、ワルサー総帥。そこはワルなことを考えているのであった。
 

「豆まきですわ! だぜ」
 前言を撤回しよう。
 サチコは、どこまでもサチコであった。
「なんでも、オニという悪いやつらを払うために豆をまくのだぜ」
「厄祓いですな」
「違うのだぜ! 私……俺様たちがオニとなるのだぜ!」
 あぁ、いつもどおりだとタロは思う。
 民家を回って、豆をまいてもらう算段を取らないとなぁとスケジュールを頭に思い浮かべていた。
 そうなれば、領主であるカフェにも通達や便宜を計ってもらわないとならない。
 ブツブツと呟いているとき、ジロがそっと耳打ちしてきた。
「領主殿は、今、王都に出かけていて不在だ」
「では、どうする?」
「厄祓いなら、領民もやってくれるだろう。豆は飼料用のを使う」
 ぽそぽそと囁きあう二人を、サチコが訝しげに見ていた。
「何をこそこそ話し合っているのです? だぜ?」
「いえ、なんでもありません。早速準備に……」
 豆はすでにもらってあるが、オニとやらの角か仮面が必要だ。
 どうやって作ろうかと思案し始めた、そのとき――。
「ほっほっほ、ワルワル団のアジトはここかぁ!」
 威勢のいい声が外から聞こえてきた。
 何事かと勇んで前に出ようとするサチコを抑えつつ、ジロたちが先行する。
「……あー」
「……ちゃー」
 声を揃えて、二人共目の前の人物に頭を抱えた。
 おたふくと俗に呼ばれるリアルブルーの面をかぶった、男だった。
 着こなしからして、貴族の男であろう。
 抑えきれなくなったサチコが、姿を現して異様な姿に固まる。
「貴殿がワルワル団の総帥サチコか。我が名は、オタフーク」
 オニという災厄を作ろうという貴殿を倒しに来たのだと、オタフークは説明する。
 何者かはわからないが、相対するならば戦わざるをえない。
 構えるサチコを、オタフークは手で制する。
「待ち給え。私には仲間がいる……貴殿にも仲間を集める時間を与えてやろう」
「な、仲間なんて」
「豆まきは皆でやったほうが楽しいじゃないか!」
「なるほど!」
 ここでタロがジロに耳打ちする。
「なぁ、あの声って……」
「言うな……。カフェ様が不在で、バル様に話を通したのだ」
 バルというのは、サチコの兄の一人である。
 おにいさんなのに、福なのかとつぶやきタロは小突かれた。
「こうしてみると、似たもの同士だな」
「そんなこといっている場合か……いつもの用意をするぞ」
 いつもの、とは依頼を出すための早馬の用意である。
 二人のため息は寒空に溶けていくのだった。


「でも、オタフークとやらを倒してしまっても本当にいいのかしら」
 自室に戻ったサチコは、ふと悩んでいた。
 オニが災厄を呼ぶ存在なら、ルサスール領にとっては払われたほうがいいのだろう。
 領民にとっては、その方がいいはずなのだ。
「うー、でも私は……いえ、俺様はワルワル団のワルサー総帥なのですわ!」
 だぜ、と気合を入れるが悩みは尽きない。
 ワルワル団として悪を標榜するならば、オニとしてオタフークを倒すべきなのだろう。
 しかし、サチコはルサスール家の、曲がりなりにも息女であった。
 根はいい子である。
 ベッドの上で頭を抱えるサチコをおたふくの仮面が覗いていた。
「サチコよ……。兄は手加減などしないぞ」
 大人げない発言をして、オタフークは去っていく。
 彼もまた、仲間を募らなければならないからだ。

 ぱちぱちっと薪が爆ぜる。決戦の日は、近い。

リプレイ本文


 王国北部ルサスール領。
 ワルワル団のアジトこと山小屋で、サチコは悩んでいた。
「福に勝つのはダメなのではないかしら……」
 頭に鬼の角を付け、臨戦態勢は取っているがいまいちやる気が無い。
 外に出て空を見上げ、アンニュイなため息をつく。
 そのときだ、天を貫く笑い声が後ろから聞こえてきた。
「ハーッハッハハー!」
 後ろを振り向けば、山小屋の屋根の上に一人の男、紫月・海斗(ka0788)が立っていた。
「サチ……じゃない、ワルサー総帥よ! なにやら悩んでいる様だなぁ!」
「え、誰ですの!?」とサチコは明らかに動揺する。
「この俺! リアルブルーからの使者! カイザー☆タングラムがお前に答えをくれてやろう!」
 偉そうに前口上を述べ、海斗は裏手から垂らしたワイヤーで降りる。
 急いで表へと周り、息を整えると小さく笑う。
「くくく、そもそも豆まきとは代理戦争よ」

 海斗曰く、時の為政者達が国を動かす主導権を握るために行った。
 勝者は、民を導き国をよりよくする義務が生じる。

「ワルサー総帥よ! お前にその覚悟はあるか!」
「え、え」とあからさまに動揺するサチコ。
「あるならば遠慮することはない! オタフークだか何だか知らんがボッコボコにしてやれぃ!」
 やれいといわれても、事態を飲み込むので精一杯だ。
 しかも、畳み掛けるように木の陰からリズリエル・ュリウス(ka0233)が姿を現した。
「知ってるかっ。リアルブルーじゃモモタロ=サンとかいう人間がゴリラと狼と大鷲の大軍を従えて鬼の領土を征服したそうだ!」
 いきなり何の話だろうと、びくっと肩を震わせ視線を移す。
「それ以降鬼は被占領民としての迫害を受けたそうな──」
 手振り身振りを交えて、リズリエルは語りだした。

 八百屋へ行けば「鬼は外、鬼は外」と超加熱した大豆を投げ付けられる。
 魚屋へ行けば切り落とした魚の頭蓋の目玉に柊の杭を突き刺し「貴様もこうしてくれようか」と脅された。
 着るものは、モモタロ一派に無残に殺された虎の毛皮を使ったパンツのみ。

「そして、鬼が持つ棘の付いた棍棒というのは誤りで、棘は『持ち手』に付いていたのだ」
 ここまで行くと、大仰そうな動きにも拍車がかかる。
 サチコは呆気にとられて、眺めていた。
 持ち手棘のついた棍棒で、鬼瓦を作る土を掘るという強制労働をさせられた。
 鬼の赤さは、そうした重労働の末、全身が血で紅く染まったのだという。
「……哀れな話だろう?」
 滔々と語るリズリエルに、サチコは目に涙を浮かべていた。
 信じるものだな、と密かに思う。
「歴史的な背景はさておき」
 いつのまにか現れた最上 風(ka0891)が、現在の風習を追加で説明する。
「厄祓いなら、領民が自ら鬼を払わなければ意味がないのです」
「勝たなければ、オタフークが払われることになるよ」
 合わせるように、鈴胆 奈月(ka2802)が焚きつける。
 歴史的・文化的背景(偽造)で、鬼が勝つことを正当化。
 しかも、現在の風習をことさらに語ることでさらに正当化を重ねる。
「一度勝利した鬼が、領民に払われる。それでこそ、この領に最高の福が訪れるのだ」
 奈月の言葉を受け、サチコの目に闘志が宿る。
 すべて嘘だ、とサチコ以外の誰もが言いたくなったとかならなかったとか……。


 サチコが和気藹々と騙されている頃、オタフーク陣営は臨戦態勢を整えていた。
「さて、こんなところだろう」
 戦場となる休耕地で、ロニ・カルディス(ka0551)はひとりごちる。
 眺める畑の上には、作物の代わりに木の板が生えていた。
「準備は終わりにしよう」
 ロニは、そうユーリ・ヴェルトライゼン(ka4225)に声をかける。
 黙々と障害物を設置していたユーリが、戻ってくる。
 いかにも大掛かりな準備に、ユーリは豆まきとは何だったっけと思いかけていた。
 だが、特にリアルブルーの風習に詳しいわけでもないのでスルーした。
「いささか、本気すぎる気がするが……」
「本気の勝負なんだから、当たり前よ」
 普段より語気を強めて、夢路 まよい(ka1328)がぴしゃりと告げる。
「遊びじゃ負けてられないよ」
 遊戯が得意であればこそ、まよいには意地があった。
 その隣ではlol U mad ?(ka3514)が、楽しそうに身体を動かす。
「こーゆーイベントは楽しんでなんぼだろうがよ。それに……」
 ヲタフークを見下ろし、歌うようにいう。
「Right and justice are on our sideってな」
 正義は我にあり……その意味がわかってかわからずか。
 ヲタフークはしかりと頷く。
「そうそうポリポリ」
 いい雰囲気が作られかけてた中、豆食う音が1つ。
「頑張って悪い鬼たちポリポリを倒しポリポリましょうポリポリ!」
 ミネット・ベアール(ka3282)である。
「おまえ、物を食べながら喋るな」
「んー、そもそも何食べ……豆食べちゃだめだよ」
 まよいとロニが慌ててミネットを止める。
 ちなみに、支給されている豆の量は、両陣営共に同じである。
 食えば投げつける量が減ることになる。
「だって、お腹が空いたんですよ」
 やる気満々な彼らは朝一から準備や作戦会議に勤しんでいた。
 そろそろお昼に差し掛かるという頃、腹も減る。
 ユーリの口数もそのために……減っているわけではないが。
「All right! これの後に食べる太巻きのために、腹減らしといた方がいいじゃん」
「そ、そうですね」
 食べた量は微々たるものだが、ミネットはそっと豆を戻す。
 名残惜しそうにしているが、一応家畜用ですよ、ミネットさんとはヲタフークも言えなかった。
「おっと、来たようだ」
 そうこうしている間に、ロニが遠目で告げる。
 鬼の角を生やした面々が、この決戦場に姿を現したのである。


 両陣営揃ったところで、タロがルールを説明する。

 1、互いにカゴを背負い、豆を投げ入れ合う
 2、カゴの中にある豆の量が多いほうが負け
 3、制限時間は30分
 4、攻撃技は禁止とする

「それでは、今から始めますよ」と淡々と開始を宣言する。
 実に面倒そうだといってはならない。
「さて、まずはあいさつ代わりに受け取ってもらおうか」
 開始の合図と同時に、ロニが動く。
 手には風呂敷ほどの布が握られていた。ずっしりと何か包んでいた。
 手首のスナップを効かせ、投石の要領で、その何かを放出する。
「これは、豆の雨かっ!」
 無駄にワキワキとした動きで、察知した海斗が範囲を脱する。
「守りきれるかな……」
 奈月は、アジトで作った盾を用いて豆を防ぐ。
 他にも遮蔽物を用意していたので、それを各人に渡し、盾代わりに使わせる。
「Goblins Out、Fortune In~」
 lolはごきげんに、歌いながら豆を投射する。
 マテリアルのこもった瞳で、しかりと的を睨む。
「私もいっきますよーぽりぽり」
 一気に攻勢に出るヲタフーク班。
 豆食うミネットも続けとばかりに、パチンコの紐を引く。
「射抜きます! 豆で!」
 狙いすまして接近を計るリズリエルや風の行く手を阻む。
 見事に地面を抉る豆を打ち放し、どやっと笑顔を見せる。
「矢を射るわけにはいきませんからね。でも、これなら弓と似た感覚で豆を放てます!」
 選びぬかれたヒノキの枝はよくしなる。
 ギリギリまで引き絞っても、どうということはないのだ。

「反撃しないといかないな」
 リズリエルが率先して、鬼の中では攻撃に転じる。
 ほぐしたロープの真ん中に豆を詰め、投石具のようにぐるぐると回して投げつける。
 その動きはスローイングに似て、鋭い。
「おう、本当は石で獣とか取る奴だけどな。安心しろ、豆弾だ」
 放たれる豆は散弾のように、オタフーク側を襲う……のだが。
「あらかじめ、遮蔽物を設置するなんて卑怯ですよ」
 風が奈月の用意した板をぶっさしながら、抗議するもヲタフークはどこ吹く風だ。
「Ah Ha? 地の利を利用するのも戦術じゃん?」
 lolがことさらに、鬼側を焚きつける。
 いきなりの攻勢に気を削がれたサチコを、煽りに煽る。
「coo coo coo? なんだ、鬼か。悪ぃな。豆だらけでハトかと思ったぜ」
「それに卑怯っていったら、あなたのカゴ逆さまよね?」
 まよいが唇を尖らせ、風を糾弾する。
 サチコが驚き見れば、確かに風のカゴは口が下に向いていた。
「失敬しました。たんなる間違いですよ」
 しれっと言ってのけ、カゴを元に戻す。
 ワザとなのは明らかだが、ツッコむの馬鹿らしい。
 が、サチコだけが恐る恐る風にいう。
「あまり卑怯な手段は……」
「風達は鬼です。鬼は悪者です。つまり、どんな手段をとってもOKなのです」
 しれっと言ってのけ、サチコを丸め込もうとする。
 そこはワルサー総帥、悪という言葉には乗っからざるをえない。
「わかりましたわ。どんな手段でも使いましょう」
 ぐっと意気込んだところで、唐突に眠気が襲ってきた。
 握りこぶしから放たれた豆も力なく、地面に落ちる。
「Hit Me If U can」と鼻歌交じりにlolがサチコを見やる。
「しょっべぇ腕だなぁ。そんなんじゃ何時までたってもオレちゃんに当てらんねぇぜ?」
 しかしながら、サチコはそれどころではない。
 身体をふらふらさせ、カゴの重みに引っ張られてこけてしまう。
 ぱらぱらと豆が衝撃でこぼれ落ちる。
「む、これは」
「いけねぇ。総帥……サチコ嬢ちゃん、起きろっ」
 のらりくらりと豆を避け、海斗がサチコの体を抱き起こす。
 少し揺らせば眠たげな眼をひらいて、「ふぇ?」とマヌケな声を出した。
「うーん、サチコには強すぎたかな。次は調整しないと」
「あんな卑怯なことをする、相手には負けられませんよね? 迅速に倒して、領民の皆さんのところに参りましょう」
「できることをしているだけだよ。本気でやらなきゃ!」
 そういいながら、素早く豆を投げ放つ。
 まよいは優れた感覚で、うまく豆に弧を描かせていた。
「やるからには、徹底的に。それはこちらも同じだよ」
 奈月の言葉に、リズリエルと海斗も頷く。
 相手があの手この手でくるならば、真正面から叩き潰す。
 そうとでもいうように、華麗なる動きで豆を避ける。
「あー……」
 集中攻撃されれるのは、パーカーのフードを目深にかぶったユーリである。
 特に決め台詞とか用意しなかったので、無口キャラで逃走としていたが声が漏れた。
 アグレッシブに過ぎる周囲についていけず、もたもたと動きまわていたのだ。
「雪合戦みたいにやれば……でもカゴに入れるんだっけ? 後ろから回ったほうが……」
 などと考えている間に、どしどし豆を投げつけられていた。

 一方、補填要員で入ったジロはぐっすりとお眠りになっていた。


 戦いも、折り返しに差し掛かった頃、その事件は起こった――。
 集中攻撃を受けていたユーリのカゴが、ほぼいっぱいになり、鬼たちはオタフーク自身に注意を向けた。
 まよいがしつこく眠気を誘う霧を呼び出しては、鬼側の機動力を奪う。
 多くのハンターは抵抗しつつも、サチコはあからさまに動きが鈍っていた。
「うぅ、眠いのですわ」と総帥口調も剥げている。
「立ち止まっている場合ではないぞ、ワルサー総帥」
 気にかけたリズリエルが振り返り、気づく。
「ワルさん! 危ない!」と同じく気がついた奈月が声を張る。

「えいや☆」

 星マークをつけるほど、楽しげな声が耳に届く。
 ハッと顔を上げれば、豆が降ってきた。大量に、豆が降ってきた。
「ぶっ!? 髪の毛に入ってきたのですわ……だぜ!?」
 混乱と同時に目が覚めたサチコが見たのは、自分のカゴをひっくり返すユーリの姿だった。
 もちろんひっくり返した先は、サチコのカゴ……もといサチコ自身に向けられていた。
「それは反則、禁忌、鬼にももとる最悪の行為ですよ!」
 着火した焚き火の如く、ここぞとばかりに風が声を荒げる。
 内心では、その手があったかと思っていたりするのかもしれない。
 が、ここは糾弾しておくのが良策である。
「オタフークはこのような卑怯な手段に出るのですか? 福の神の風上にも置けませんね」
「え、と」
 呆気にとられたユーリとオタフークへ、奈月やリズリエルが襲いかかる。
「させませんよ!」
 ミネットが妨害すべくパチンコを引く。
 鋭い豆が奈月の盾に防がれる。微妙に振動しているのは気のせいではないだろう。
 一方で、潤滑させていたマテリアルが切れた一瞬を突かれ、海斗はその豆を受けていた。
「ぐぉお」と苦悶の表情を思わず浮かべてします。
「結構痛そうに見えますけど、『ハトが豆鉄砲喰らった顔』ってあんなに悶絶した顔なんでしょうか」
 違うと思います。
「それはそれとして、ワルサー総帥。覚悟!」
 気を取り直し、呆けたままのワルサー総帥に狙いをつける。
 力一杯パチンコのゴムを引き絞り……。

 バキッ!
「ふぎゃっ」

 パチンコの枝が折れ、ゴムが豪快に破片をミネットの顔にぶち当てた。
 豆ですら、地面を抉る威力を持つパチンコだ。
 その威力が自身に向いたのだから、油断したミネットのダメージは計り知れない。
 軽く頭が揺さぶられ、
「ワルサー総帥、いつも正義が私達民のためになるとは限りません」
 唐突に、語りだす。
「正義で得をするのは、いつだって権力者なんです」
 オタフークの前でよくそんなセリフが言えるものである。
「その思い……忘れないでください……ポリポリ」
 投げつけるはずだった豆を食べつつ、ミネット脱落。

「これは、まずいですね」
 遮蔽物から身を乗り出し、ロニはミネットを回収する。
 すでにユーリは鬼側に囲まれ、集中砲火を受けていた。
「まだまだ! このぐらいじゃ、負けてられないわよ!」
 戦場を走り回りながら、まよいが宣言する。
 鬼側が豆を投げようものなら、LEDライトで視界を遮る徹底ぶりだ。
 それもそうだと、ロニも豆の雨をやませない。
「ほら、サチコ! まだまだいくよ!」
 鬼側以上に、鬼気迫る勢いでまよいが襲い掛かる。
「Baha! U mad? そーさ、ソレがオレちゃんの名前だ。しっかり覚えなGoblins」
 煽るのを忘れず、lolも鬼陣営に深く斬りこむ。
 人数差をひっくり返すべく、奮闘するが……防御を固める鬼陣営を崩しきれない。
 かといって、鬼側も攻勢が強いわけではない。
「うわー、足がもつれて転んでしまいました―」
 ばしゃーっと時折、風がわざとらしくこけたりこかしたり。
 カゴの豆を撒き散らかす。
 それが、オタフーク側を焚きつけることになる。
 一進一退の攻防の中、

「そこまでです!」とタロが終了を宣言したのだった。


「残る厄は、ここに生きる領民たちの手で払ってもらおう」
 ロニの敗北宣言が意味するのは1つ、鬼側の勝利である。
 その宣言通り、サチコ達は意気揚々と領民たちの元へと向かっていく。
「反・省・会だよー」
 まよいが負けた悔しさからか、オタフーク陣営を招集する。
 集まった面々の中、ミネットは率先して正座し、ユーリも合わせるように正座した。
 寒空の下、タロとジロは正座する領主の息子を眺めながら、豆を回収するのだった。

「ふぅー、働いたらお腹が空きましたね。恵方巻きはまだですか? ついでに、温かい飲み物もおねがいしますよ」
 勝者の余裕か。一仕事終えたみたいな物言いで、風がジロに告げる。
「ふあー、お疲れ様でした。よく食べましたね!」
 恵方巻きを受け取りながら、ミネットはそんなことをいう。
 まだ食べれるのという、まよいの視線は気にしないことにした。
「Hooray! お疲れちゃーん。どーよ、ムカツクヤツ相手に全力で豆ぶつけんのは楽しいだろ?」
 サチコの髪を撫で回しながら、lolは意地の悪い笑みを浮かべる。
「おいおい、ワルサー総帥に変なこと吹きこまないでくれ」
 海斗が割り込み、lolからサチコを引き離す。
「Foo~、この世の摂理ってやつさ」
 肩をすくめたlolはそのまま、恵方巻きに立ち向かう。
 海斗はサチコに向き直ると、スターライトロッドを手渡した。
「ワルサー総帥よ、お前にコレを渡しておこう」
 あっけにとられるサチコに重ねて言う。
「大したものじゃないが、使いこなせるようになってみろ」
 彼もまた、サチコの頭を軽く撫でる。これから先、どう転ぶか楽しみだと思っているのだった。
「なんか新手の宗教みたい」
 まよいが無邪気にそういうのは、ロニたちの姿だった。
 ロニはとある方角を向いて、黙々と恵方巻きを食べていた。
 合わせるように、リズリエルとユーリも倣ったものだから、奇妙な光景になっていた。
 ふと、思い出したようにサチコもその列に加わる。

 気がつけば、全員、横並びになって同じ方向を向いていた。
 一心不乱に黙々と恵方巻きを頬張る。
 福を象徴するように、小鳥のさえずる声だけが心地よく響くのだった。

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MVP一覧


  • 最上 風ka0891
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよいka1328
  • Two Hand
    lol U mad ?ka3514

  • ユーリ・ヴェルトライゼンka4225

重体一覧

参加者一覧

  • うさぎのどうけし
    リズリエル・ュリウス(ka0233
    人間(紅)|16才|女性|疾影士
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 自爆王
    紫月・海斗(ka0788
    人間(蒼)|30才|男性|機導師

  • 最上 風(ka0891
    人間(蒼)|10才|女性|聖導士
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 生身が強いです
    鈴胆 奈月(ka2802
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • ♯冷静とは
    ミネット・ベアール(ka3282
    人間(紅)|15才|女性|猟撃士
  • Two Hand
    lol U mad ?(ka3514
    人間(蒼)|19才|男性|猟撃士
  • 無類の猫好き
    鹿島 雲雀(ka3706
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人

  • ユーリ・ヴェルトライゼン(ka4225
    人間(紅)|19才|男性|疾影士

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/02/15 22:36:19
アイコン
ロニ・カルディス(ka0551
ドワーフ|20才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/02/18 22:16:44