ゲスト
(ka0000)
桜護の村
マスター:葉槻
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/03/25 19:00
- 完成日
- 2015/04/02 19:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
村から30分ほど歩いた先、穏やかな流れの川沿いに桜並木があった。
その桜並木は、リアルブルーからやってきた者がたまたま持っていた、一振りの桜の枝を好事家が買い取り、接ぎ木で増やしたのだと言われていた。
その為、一斉に咲き始め、一斉に散っていくので、毎年春になるとこの桜並木の下では村の者総出で花見が行われるのが定例となっていた。
村から30分という好立地もあり、散歩がてら毎日のように誰かしらがその桜を観に行き、徐々に膨らみを増すその蕾に、春の訪れを楽しんでいた。
そして今日、ようやく一つの花が咲き、村中でそれを我が子のように喜び愛でて、では花見はいつにしようと村の男衆で相談を始めた、その最中。
「あんた、ちょっと、大変だよ!」
飛び込んできたのは村の女衆の中でも発言力が強い、鍛冶屋の女将だった。
「なんだ? 騒々しいな、どうした?」
「子供達が今、桜見に行ったら、コボルドの群れが居たって言うんだよ。まさか、と思って見に行ったら、奴ら、あの桜並木のど真ん中でくつろいでいやがった!」
「何だって!?」
男衆がガタンと立ち上がり、それぞれ斧や鍬や猟銃を手に立ち上がると、桜並木までそっと様子を見に行った。
幸いにして村が風下にあったお陰でコボルド達に見つかることはなかったが、武装したコボルドが8体、桜の木の根元に腰を下ろして晩餐の最中だった。
「……せめて、数が少なければ……」
歯がみしながら男衆は村へ戻ると、早馬をギルドへと飛ばし、コボルド達が村へと近寄らぬように警戒を始めたのだった。
「依頼です。ある村の桜並木がコボルト達に占拠されました。今の所村への被害はありませんが、村まで歩いて30分と非常に距離も短いことから、村が狙われる可能性があります。至急、このコボルド達を退治して来て下さい」
コボルド達はそれぞれさびた剣やぼろぼろになった鎧、鍋の蓋のような盾を持っており、戦い終わった後のような雰囲気を醸し出していたらしい。
「コボルドの数は8体。みなさんでしたら苦戦するような相手でもないかと思われます。ただ、村から一つ懇願された事がありまして……」
説明係の女性は言葉を切った後、あなたの目を見てハッキリと告げた。
「桜並木を守って欲しい、そうです。村中でこの桜たちを我が子のように愛しんで来たので、この桜たちが傷ついたり、折れたりしないよう戦って欲しいと依頼が来ています」
この桜の木は折れたり傷が入るとそこから腐りやすい品種であるらしい。もちろん、そう言ってコボルト達が村へ行くようなことがあっても困るわけだが、村への侵入は男衆が身体を張って阻止すると宣言していたらしい。
「ですので、みなさんにはコボルドが村へ行かないよう、かつ、桜を傷付けないよう戦っていただきたいのです」
村へは馬車が用意されており、これに乗れば2日で村まで辿り着く事が出来る。
「条件がありますが、相手はコボルトです。無事、討伐が終われば、桜が2~3部咲きの頃かと思います。少し早いお花見をするのもいいでしょう。どうぞ、お気を付けて」
そう告げると、女性はファイルを閉じて、深々と頭を下げた。
その桜並木は、リアルブルーからやってきた者がたまたま持っていた、一振りの桜の枝を好事家が買い取り、接ぎ木で増やしたのだと言われていた。
その為、一斉に咲き始め、一斉に散っていくので、毎年春になるとこの桜並木の下では村の者総出で花見が行われるのが定例となっていた。
村から30分という好立地もあり、散歩がてら毎日のように誰かしらがその桜を観に行き、徐々に膨らみを増すその蕾に、春の訪れを楽しんでいた。
そして今日、ようやく一つの花が咲き、村中でそれを我が子のように喜び愛でて、では花見はいつにしようと村の男衆で相談を始めた、その最中。
「あんた、ちょっと、大変だよ!」
飛び込んできたのは村の女衆の中でも発言力が強い、鍛冶屋の女将だった。
「なんだ? 騒々しいな、どうした?」
「子供達が今、桜見に行ったら、コボルドの群れが居たって言うんだよ。まさか、と思って見に行ったら、奴ら、あの桜並木のど真ん中でくつろいでいやがった!」
「何だって!?」
男衆がガタンと立ち上がり、それぞれ斧や鍬や猟銃を手に立ち上がると、桜並木までそっと様子を見に行った。
幸いにして村が風下にあったお陰でコボルド達に見つかることはなかったが、武装したコボルドが8体、桜の木の根元に腰を下ろして晩餐の最中だった。
「……せめて、数が少なければ……」
歯がみしながら男衆は村へ戻ると、早馬をギルドへと飛ばし、コボルド達が村へと近寄らぬように警戒を始めたのだった。
「依頼です。ある村の桜並木がコボルト達に占拠されました。今の所村への被害はありませんが、村まで歩いて30分と非常に距離も短いことから、村が狙われる可能性があります。至急、このコボルド達を退治して来て下さい」
コボルド達はそれぞれさびた剣やぼろぼろになった鎧、鍋の蓋のような盾を持っており、戦い終わった後のような雰囲気を醸し出していたらしい。
「コボルドの数は8体。みなさんでしたら苦戦するような相手でもないかと思われます。ただ、村から一つ懇願された事がありまして……」
説明係の女性は言葉を切った後、あなたの目を見てハッキリと告げた。
「桜並木を守って欲しい、そうです。村中でこの桜たちを我が子のように愛しんで来たので、この桜たちが傷ついたり、折れたりしないよう戦って欲しいと依頼が来ています」
この桜の木は折れたり傷が入るとそこから腐りやすい品種であるらしい。もちろん、そう言ってコボルト達が村へ行くようなことがあっても困るわけだが、村への侵入は男衆が身体を張って阻止すると宣言していたらしい。
「ですので、みなさんにはコボルドが村へ行かないよう、かつ、桜を傷付けないよう戦っていただきたいのです」
村へは馬車が用意されており、これに乗れば2日で村まで辿り着く事が出来る。
「条件がありますが、相手はコボルトです。無事、討伐が終われば、桜が2~3部咲きの頃かと思います。少し早いお花見をするのもいいでしょう。どうぞ、お気を付けて」
そう告げると、女性はファイルを閉じて、深々と頭を下げた。
リプレイ本文
●
依頼の村に着いた8人は、未だコボルド達に襲われていないという現状に安堵しつつ、事前の相談通り、囮がコボルド達を土手へと誘導して戦う、という作戦を決行する事とした。
「こちらの世界にも桜があるんですね。日本の誇り、これはしっかり守りましょう!」
そう言って、囮役には和泉 澪(ka4070)が挙手し、他7名は下の河原や、土手の稜線で伏せて待つ、という形となった。
依頼主の希望通り桜の木に傷を付けず、無事依頼を達成して報酬を得る事を第一目標に掲げている三鷹 璃袈(ka4427)は、自分が風上になっていないかを気にしていたが、幸いにして春風は川下に向かって流れているようで、コボルド達が居る桜並木の方が風上になっているのを確認して河原の草陰に身を伏せた。
同じく近くで身を伏せていた城戸 慶一郎(ka3633)は、移動する時にちらりと見えた桜の花に思いを馳せていた。
「桜は、こんな世界でも咲くんだな」
思わず呟いた言葉に、三鷹が「何か言いましたか?」と返してきたので、慌てて「何でも無い」と答え、戦闘に集中するよう自分を叱咤した。
上泉 澪(ka0518)は河原に生えた、背の低い常緑樹の影にしゃがんで身を隠していた。上泉自身はリアルブルー出身ではないが、クリムゾンウェストにも桜の咲く場所はある。かつて見た桜を思い出しながら、季節の移り変わりを感じつつ、静かにその時を待つ。
「桜を傷つけず、コボルトも村にいかせず……両方やらなきゃいけないところが猟師のつらいところよ」
そう犬養 菜摘(ka3996)は独り地に伏せ猟銃を構える。己の瞬発力が低く、格闘能力も無いという自己分析の結果、本業として得意なスナイパーに徹すると決めていた。
「依頼の内容自体はシンプルだけれど、条件つきか」
「そうね」
「むぅ、どこに行っても、事件は絶えないな……でも、困ったときのハンター、だからな」
「そうね。ディ、危ないから、ちゃんと中に入って」
ディディ=ロハドトゥ(ka3695)の呟き一つ一つに相づちを打ちながら、ジーウ=ルンディン(ka3694)は、身を乗り出してコボルド達の様子を見ようとするディディの腕を引いて、茂みの中へと再び引き込む。2人が隠れているのは土手の稜線上。脇に生えた背の高い草の陰。
「だって、ジウが邪魔で良く見えない」
「ダメ。大丈夫、見えなくても足音とかで絶対わかるから」
邪魔呼ばわりに気を悪くすることも無く、ジーウはディディを宥めつつ草陰に留める。むぅ、とふくれた頬を見て、ジーウは少しだけ微笑った。
同じく稜線上、2人より少しだけ桜並木に近い場所に紅緒(ka4255)はいた。すぐ横には沈丁花によく似た花樹がかぐわしい芳香を放っており、たとえ風の流れが変わっても、この香りが自分の臭いをごまかしてくれそうな気がした。
和泉が桜並木に近付き、コボルド達が桜の木から身を起こしたのが葉の陰から見える。
「桜の春、いい季節よね。でも、犬面人が邪魔だけど。どう見ても」
一丁前に花見でもしているのかしら、と独りごちて動向を見守る。
他の者は楽観的なのか、和泉を心から信頼しているのか、囮が1人である事を心配しているのはどうやら自分だけらしく、紅緒はいつでも飛び出せるように狼牙棒を握り締めた。
●
和泉はわざと足音を立てて、風を纏うとその風をコボルド達が居るであろう桜並木の方へと走らせる。
うなり声を上げて出てきたコボルド達を真っ直ぐに見据え、息を吸い込んだ。
「風光り、隼翔けて、桜舞う。さて、あなたたちには辞世の句を読んでもらいましょう!」
和泉の凛とした声が述べる口上は、仲間の誰もに届いた。
そして、和泉が素早く身を翻し、走り出す。
コボルド達は反射的に追いかけ始める。
走り出した和泉の脚を止めるべくいくつか握り拳大の石礫が投げられたが、コボルド達も走りながらであり、元々さほど命中率も良くは無いため、全て地面に落ちたり、明後日の方向に逸れていったりしていた。
これで和泉がもっと桜並木の中央まで進み出ていたなら、桜の樹に当たってしまう石が出たかも知れなかったが、河原に誘い出す為にも桜並木に入ってすぐで口上を述べたことが功を成した。
紅緒の前を通り過ぎてから、コボルド達が自分を追って来ている事を確認すると、土手へと進路を変えた。
「わわ、一度にこんな数、相手に出来ませんよ~……うわぁっっ!?」
ちゃんと着いてきているか確認しようと、後ろを振り返ったその時、石に蹴躓いて派手に転倒すると、そのまま一気に河原まで転がり落ちた。
「……いたた」
幸いにして受け身が取れたためダメージは無いが、起き上がろうとしたその時、ザザザァッとすぐ後ろまで駆け下りてきたと思われる足音が聞こえた。
すぐに立ち上がろうと両手を地面に付けた時、パンッという乾いた銃声が響いた。
城戸の銃弾は正確にコボルドを射抜いたが、命中が左腕だったため、致命傷にはならなかった。しかし、追ってきたコボルド達の意識を和泉から逸らすことには成功した。
その隙を使って、和泉は素早く立ち上がり、コボルド達と距離を取る。
河原に下りてきているのが5体。ということは、残りの3体は……
和泉が視線を稜線に向けると、そこには剣と棒を持ったコボルド達と戦う3人の姿があった。
後から遅れて来たコボルドがいる。しかも、3体。
それを確認した紅緒はそのコボルド達の背後を取るべく木陰から飛び出した。
「――明時に匂い散らせよ水芙蓉 深泥に開け花が如くに」
深泥の沼に、蓮の葉が浮かんでいる。その蓮の硬い蕾が、一筋の暁の光に照らされて花が開くようなビジョンが紅緒の脳内に浮かび、覚醒が完了すると同時に、狼牙棒で殴りかからんと一気に間合いを詰めた。
また、ジーウとディディも和泉が自分達の隠れている草陰より手前で、河原へと進路を変えたのを確認した。
追うコボルドの5体が下りて行ったのに対し、遅れた3体は河原へ下りるのを躊躇するように、相談しているような素振りをするのを見て覚醒と同時に飛び出した。
「ジウ、いつもの通りに。前は、まかせるぞ」
「もちろんよ。ディに危ないものは近付けさせない」
そう頼もしく頷いてジーウはユナイテッド・ドライブ・ソードを振りかぶって、コボルドへと斬りかかる。
「方向よし。狙いは、外さん」
桜の樹が射線上に入っていない事を確認し、ジーウを援護するためにディディが矢を放つ。息の合った2人のコンビネーションは、目の前の一体を蹴散らすのに最大限の効力を発揮した。
また紅緒の一撃は重く、骨を断ち、その場に留まらせることを良しとしなかった。
1体がはじき飛ばされて、もう1体と衝突し、結果2体共が転がったのを好機と取り、渾身の一撃を見舞う。
一方河原側でも、挟み撃ちの予定から作戦を変更して戦っていた。
和泉は敵の攻撃を出来る限りその身のこなしで躱しつつ、狙う相手を定めずに斬り込んでいく。それはまるで春の野原を自由に飛び回る蝶か蜂のようだった。
城戸はコボルド達の姿を見て、リアルブルーの博物館で見た鳥獣戯画を思い出す。と、同時に異世界なんだな……と今更ながらの感慨にふけりつつも、銃弾が余計なところへ飛ばないように常に敵を見て動き続けていた。
また、三鷹も味方への誤射に気をつけつつ、桜並木を背にしてエア・スティーラーを構え、上泉や和泉が攻撃して未だ存命のコボルドを集中攻撃する事に専念していた。
犬養は少し離れたところを移動しつつ、猟銃で撃ち続けていた。
ペットの2匹にも「かかれ」と号令を出したが、いくら猟犬として独自に鍛えたとはいえ、相手がコボルドでは一介のペットには荷が重い。彼らは尻込みして動こうとしなかった。
――閃。
コボルドの身体に一陣の光が走ったかと思うと、大量の血をぶちまけながらコボルドが倒れ込む。
頬にかかった返り血をものともせず、上泉が手にするのは全長160cmもある大太刀「獅子王」。それを軽々と操り、コボルド達を切り伏せていった。
このように城戸と三鷹、そして犬養が射撃でコボルド達を翻弄している中、和泉も遊撃として追い、上泉が近接攻撃で確実な止めを刺す、といった連係攻撃がうまくはまった。
また、なにより各自がコボルド達を逃がさないよう注意して包囲し続けた結果、コボルド達は全員その場に沈黙したのだった。
●
「お花見です!」
嬉しそうに三鷹が言って、広げられたシートの上に座る。
「おぉ! だんごがある! 弁当がある!!」
ビールとツナ缶しか持って来られなかった城戸は、目の前の光景に思わず感動していた。
……いや、顔を合わせた時は自分以外が全員女性であった事を、役得と思うどころか、少し気まずく思っていたのだけれども。やはり、料理とか見ると、感動と感謝の念を感じずにはいられない。
「お饅頭もあるし、お茶もあるわ。味の保証はしないけど、食べてくれると嬉しいわ」
そう紅緒が笑って言ったのに対し、ジーウはジト目でお弁当箱を抱え直す。
「これは、ディのだから」
「え!?」
「え? いや、せっかくの、花見なのだし、ディディはつまめればそれで……」
「はい、お茶とお菓子ですよ~。お酒もありますから、欲しい人は言って下さいねっ!」
ジーウの絶対零度の視線が作り出す冷ややかな空気は、和泉の明るい声に霧散した。
「あ、ディディはお酒がいい」
自分の持ってきた缶ビールとはボトルの違うビールだったため、挙手したのだが、和泉は困ったように微笑んで、渡してきたのは緑茶である。
「ディディさん、お酒はハタチになってから、ですよ?」
ある程度予想していた言葉とはいえ、がっくりとディディは項垂れると、鞄をごそごそと漁る。
「むぅ……ディディは成人しているから、普通にお酒は飲んでいいはずなんだが……」
「またまた」と、本気に取らなかった和泉は差し出された身分証明書を見て、次の瞬間には平謝りした。
「あたしより若く見えますよね……すごい」
花見の用意が何も出来なかった三鷹は、ちゃっかり「いただきます」をして、和泉にもらったお茶を飲みつつ、紅緒のお饅頭に手を伸ばしている。
ナッツとツナ缶を鞄から取り出す犬養の傍らにはリラックスした様子の2匹の犬。
村人達への報告は犬養が戦闘後すぐに伝えていた。
その結果、一時は村の人間が次から次へと桜並木の様子を見に来ていたが、皆安心したのか、行き交う人も少なくなった。
「ふむむ。こうやってのんびり花を眺めるのも、いいものだな。辺境とは、少し雰囲気が違う」
「向こうではあらたまって花を見る機会はなかったものね。こちらに来て初めてかしら?」
ジーウは自分の作ったお弁当を食べるディディを見守り、微笑みながら相づちを打つ。
「この団子はどうやって作ったんだ?」
「ん? 材料さえ揃えば簡単だよ。リアルブルーでいう、白玉粉がこっちでは……」
故郷の料理の一つでも出来れば、という思いから紅緒に団子の作り方を聞き出した城戸は、予想より作り方が簡単だったので、今度やってみようと決意し、桜を見る。
まだまだ満開には遠いが、それでもこの暖かな日差しが続けばもう3~4日で八分咲き~満開になるだろう。
ビールでほろ酔い気分の犬養が歌を口ずさむ。
それはリアルブルーの春の歌。
三鷹が手拍子をして、和泉が合いの手を入れる。
歌い終えると拍手と共にアンコールの声が響いて、犬養は照れくさそうに笑った。
1人、上泉は皆の輪から抜け、桜の樹を一本一本見て回っていた。
戦闘で傷が付いた樹はなさそうであったが、コボルド達が居座っている間に付けた爪痕などが複数箇所見つかった。そこに、村人の男性が1人でやってきて、その傷口にぺたりぺたりと刷毛で何かを塗っているのが目に入った。
「何をしているのですか?」
不思議に思った上泉が声をかけると、彼は「あぁ、ハンターさん」とぺこりと頭を下げた。
「クスリを塗っているんですよ。これ以上傷まないように。そしてまた来年、良い花が咲きますようにって」
愛おしむように桜を見上げた後、再び慣れた手つきでテキパキとクスリを塗っていく男性を見送り、上泉はもう一度桜の樹を見上げる。『この桜並木を守れて良かった』心からそう思いながら、花見をしている仲間の元へと戻っていった。
依頼の村に着いた8人は、未だコボルド達に襲われていないという現状に安堵しつつ、事前の相談通り、囮がコボルド達を土手へと誘導して戦う、という作戦を決行する事とした。
「こちらの世界にも桜があるんですね。日本の誇り、これはしっかり守りましょう!」
そう言って、囮役には和泉 澪(ka4070)が挙手し、他7名は下の河原や、土手の稜線で伏せて待つ、という形となった。
依頼主の希望通り桜の木に傷を付けず、無事依頼を達成して報酬を得る事を第一目標に掲げている三鷹 璃袈(ka4427)は、自分が風上になっていないかを気にしていたが、幸いにして春風は川下に向かって流れているようで、コボルド達が居る桜並木の方が風上になっているのを確認して河原の草陰に身を伏せた。
同じく近くで身を伏せていた城戸 慶一郎(ka3633)は、移動する時にちらりと見えた桜の花に思いを馳せていた。
「桜は、こんな世界でも咲くんだな」
思わず呟いた言葉に、三鷹が「何か言いましたか?」と返してきたので、慌てて「何でも無い」と答え、戦闘に集中するよう自分を叱咤した。
上泉 澪(ka0518)は河原に生えた、背の低い常緑樹の影にしゃがんで身を隠していた。上泉自身はリアルブルー出身ではないが、クリムゾンウェストにも桜の咲く場所はある。かつて見た桜を思い出しながら、季節の移り変わりを感じつつ、静かにその時を待つ。
「桜を傷つけず、コボルトも村にいかせず……両方やらなきゃいけないところが猟師のつらいところよ」
そう犬養 菜摘(ka3996)は独り地に伏せ猟銃を構える。己の瞬発力が低く、格闘能力も無いという自己分析の結果、本業として得意なスナイパーに徹すると決めていた。
「依頼の内容自体はシンプルだけれど、条件つきか」
「そうね」
「むぅ、どこに行っても、事件は絶えないな……でも、困ったときのハンター、だからな」
「そうね。ディ、危ないから、ちゃんと中に入って」
ディディ=ロハドトゥ(ka3695)の呟き一つ一つに相づちを打ちながら、ジーウ=ルンディン(ka3694)は、身を乗り出してコボルド達の様子を見ようとするディディの腕を引いて、茂みの中へと再び引き込む。2人が隠れているのは土手の稜線上。脇に生えた背の高い草の陰。
「だって、ジウが邪魔で良く見えない」
「ダメ。大丈夫、見えなくても足音とかで絶対わかるから」
邪魔呼ばわりに気を悪くすることも無く、ジーウはディディを宥めつつ草陰に留める。むぅ、とふくれた頬を見て、ジーウは少しだけ微笑った。
同じく稜線上、2人より少しだけ桜並木に近い場所に紅緒(ka4255)はいた。すぐ横には沈丁花によく似た花樹がかぐわしい芳香を放っており、たとえ風の流れが変わっても、この香りが自分の臭いをごまかしてくれそうな気がした。
和泉が桜並木に近付き、コボルド達が桜の木から身を起こしたのが葉の陰から見える。
「桜の春、いい季節よね。でも、犬面人が邪魔だけど。どう見ても」
一丁前に花見でもしているのかしら、と独りごちて動向を見守る。
他の者は楽観的なのか、和泉を心から信頼しているのか、囮が1人である事を心配しているのはどうやら自分だけらしく、紅緒はいつでも飛び出せるように狼牙棒を握り締めた。
●
和泉はわざと足音を立てて、風を纏うとその風をコボルド達が居るであろう桜並木の方へと走らせる。
うなり声を上げて出てきたコボルド達を真っ直ぐに見据え、息を吸い込んだ。
「風光り、隼翔けて、桜舞う。さて、あなたたちには辞世の句を読んでもらいましょう!」
和泉の凛とした声が述べる口上は、仲間の誰もに届いた。
そして、和泉が素早く身を翻し、走り出す。
コボルド達は反射的に追いかけ始める。
走り出した和泉の脚を止めるべくいくつか握り拳大の石礫が投げられたが、コボルド達も走りながらであり、元々さほど命中率も良くは無いため、全て地面に落ちたり、明後日の方向に逸れていったりしていた。
これで和泉がもっと桜並木の中央まで進み出ていたなら、桜の樹に当たってしまう石が出たかも知れなかったが、河原に誘い出す為にも桜並木に入ってすぐで口上を述べたことが功を成した。
紅緒の前を通り過ぎてから、コボルド達が自分を追って来ている事を確認すると、土手へと進路を変えた。
「わわ、一度にこんな数、相手に出来ませんよ~……うわぁっっ!?」
ちゃんと着いてきているか確認しようと、後ろを振り返ったその時、石に蹴躓いて派手に転倒すると、そのまま一気に河原まで転がり落ちた。
「……いたた」
幸いにして受け身が取れたためダメージは無いが、起き上がろうとしたその時、ザザザァッとすぐ後ろまで駆け下りてきたと思われる足音が聞こえた。
すぐに立ち上がろうと両手を地面に付けた時、パンッという乾いた銃声が響いた。
城戸の銃弾は正確にコボルドを射抜いたが、命中が左腕だったため、致命傷にはならなかった。しかし、追ってきたコボルド達の意識を和泉から逸らすことには成功した。
その隙を使って、和泉は素早く立ち上がり、コボルド達と距離を取る。
河原に下りてきているのが5体。ということは、残りの3体は……
和泉が視線を稜線に向けると、そこには剣と棒を持ったコボルド達と戦う3人の姿があった。
後から遅れて来たコボルドがいる。しかも、3体。
それを確認した紅緒はそのコボルド達の背後を取るべく木陰から飛び出した。
「――明時に匂い散らせよ水芙蓉 深泥に開け花が如くに」
深泥の沼に、蓮の葉が浮かんでいる。その蓮の硬い蕾が、一筋の暁の光に照らされて花が開くようなビジョンが紅緒の脳内に浮かび、覚醒が完了すると同時に、狼牙棒で殴りかからんと一気に間合いを詰めた。
また、ジーウとディディも和泉が自分達の隠れている草陰より手前で、河原へと進路を変えたのを確認した。
追うコボルドの5体が下りて行ったのに対し、遅れた3体は河原へ下りるのを躊躇するように、相談しているような素振りをするのを見て覚醒と同時に飛び出した。
「ジウ、いつもの通りに。前は、まかせるぞ」
「もちろんよ。ディに危ないものは近付けさせない」
そう頼もしく頷いてジーウはユナイテッド・ドライブ・ソードを振りかぶって、コボルドへと斬りかかる。
「方向よし。狙いは、外さん」
桜の樹が射線上に入っていない事を確認し、ジーウを援護するためにディディが矢を放つ。息の合った2人のコンビネーションは、目の前の一体を蹴散らすのに最大限の効力を発揮した。
また紅緒の一撃は重く、骨を断ち、その場に留まらせることを良しとしなかった。
1体がはじき飛ばされて、もう1体と衝突し、結果2体共が転がったのを好機と取り、渾身の一撃を見舞う。
一方河原側でも、挟み撃ちの予定から作戦を変更して戦っていた。
和泉は敵の攻撃を出来る限りその身のこなしで躱しつつ、狙う相手を定めずに斬り込んでいく。それはまるで春の野原を自由に飛び回る蝶か蜂のようだった。
城戸はコボルド達の姿を見て、リアルブルーの博物館で見た鳥獣戯画を思い出す。と、同時に異世界なんだな……と今更ながらの感慨にふけりつつも、銃弾が余計なところへ飛ばないように常に敵を見て動き続けていた。
また、三鷹も味方への誤射に気をつけつつ、桜並木を背にしてエア・スティーラーを構え、上泉や和泉が攻撃して未だ存命のコボルドを集中攻撃する事に専念していた。
犬養は少し離れたところを移動しつつ、猟銃で撃ち続けていた。
ペットの2匹にも「かかれ」と号令を出したが、いくら猟犬として独自に鍛えたとはいえ、相手がコボルドでは一介のペットには荷が重い。彼らは尻込みして動こうとしなかった。
――閃。
コボルドの身体に一陣の光が走ったかと思うと、大量の血をぶちまけながらコボルドが倒れ込む。
頬にかかった返り血をものともせず、上泉が手にするのは全長160cmもある大太刀「獅子王」。それを軽々と操り、コボルド達を切り伏せていった。
このように城戸と三鷹、そして犬養が射撃でコボルド達を翻弄している中、和泉も遊撃として追い、上泉が近接攻撃で確実な止めを刺す、といった連係攻撃がうまくはまった。
また、なにより各自がコボルド達を逃がさないよう注意して包囲し続けた結果、コボルド達は全員その場に沈黙したのだった。
●
「お花見です!」
嬉しそうに三鷹が言って、広げられたシートの上に座る。
「おぉ! だんごがある! 弁当がある!!」
ビールとツナ缶しか持って来られなかった城戸は、目の前の光景に思わず感動していた。
……いや、顔を合わせた時は自分以外が全員女性であった事を、役得と思うどころか、少し気まずく思っていたのだけれども。やはり、料理とか見ると、感動と感謝の念を感じずにはいられない。
「お饅頭もあるし、お茶もあるわ。味の保証はしないけど、食べてくれると嬉しいわ」
そう紅緒が笑って言ったのに対し、ジーウはジト目でお弁当箱を抱え直す。
「これは、ディのだから」
「え!?」
「え? いや、せっかくの、花見なのだし、ディディはつまめればそれで……」
「はい、お茶とお菓子ですよ~。お酒もありますから、欲しい人は言って下さいねっ!」
ジーウの絶対零度の視線が作り出す冷ややかな空気は、和泉の明るい声に霧散した。
「あ、ディディはお酒がいい」
自分の持ってきた缶ビールとはボトルの違うビールだったため、挙手したのだが、和泉は困ったように微笑んで、渡してきたのは緑茶である。
「ディディさん、お酒はハタチになってから、ですよ?」
ある程度予想していた言葉とはいえ、がっくりとディディは項垂れると、鞄をごそごそと漁る。
「むぅ……ディディは成人しているから、普通にお酒は飲んでいいはずなんだが……」
「またまた」と、本気に取らなかった和泉は差し出された身分証明書を見て、次の瞬間には平謝りした。
「あたしより若く見えますよね……すごい」
花見の用意が何も出来なかった三鷹は、ちゃっかり「いただきます」をして、和泉にもらったお茶を飲みつつ、紅緒のお饅頭に手を伸ばしている。
ナッツとツナ缶を鞄から取り出す犬養の傍らにはリラックスした様子の2匹の犬。
村人達への報告は犬養が戦闘後すぐに伝えていた。
その結果、一時は村の人間が次から次へと桜並木の様子を見に来ていたが、皆安心したのか、行き交う人も少なくなった。
「ふむむ。こうやってのんびり花を眺めるのも、いいものだな。辺境とは、少し雰囲気が違う」
「向こうではあらたまって花を見る機会はなかったものね。こちらに来て初めてかしら?」
ジーウは自分の作ったお弁当を食べるディディを見守り、微笑みながら相づちを打つ。
「この団子はどうやって作ったんだ?」
「ん? 材料さえ揃えば簡単だよ。リアルブルーでいう、白玉粉がこっちでは……」
故郷の料理の一つでも出来れば、という思いから紅緒に団子の作り方を聞き出した城戸は、予想より作り方が簡単だったので、今度やってみようと決意し、桜を見る。
まだまだ満開には遠いが、それでもこの暖かな日差しが続けばもう3~4日で八分咲き~満開になるだろう。
ビールでほろ酔い気分の犬養が歌を口ずさむ。
それはリアルブルーの春の歌。
三鷹が手拍子をして、和泉が合いの手を入れる。
歌い終えると拍手と共にアンコールの声が響いて、犬養は照れくさそうに笑った。
1人、上泉は皆の輪から抜け、桜の樹を一本一本見て回っていた。
戦闘で傷が付いた樹はなさそうであったが、コボルド達が居座っている間に付けた爪痕などが複数箇所見つかった。そこに、村人の男性が1人でやってきて、その傷口にぺたりぺたりと刷毛で何かを塗っているのが目に入った。
「何をしているのですか?」
不思議に思った上泉が声をかけると、彼は「あぁ、ハンターさん」とぺこりと頭を下げた。
「クスリを塗っているんですよ。これ以上傷まないように。そしてまた来年、良い花が咲きますようにって」
愛おしむように桜を見上げた後、再び慣れた手つきでテキパキとクスリを塗っていく男性を見送り、上泉はもう一度桜の樹を見上げる。『この桜並木を守れて良かった』心からそう思いながら、花見をしている仲間の元へと戻っていった。
依頼結果
依頼成功度 | 普通 |
---|
面白かった! | 5人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- Centuria
和泉 澪(ka4070)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
相談卓 三鷹 璃袈(ka4427) 人間(リアルブルー)|16才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/03/25 03:07:04 |
||
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/03/22 08:32:07 |