奇跡の色

マスター:冬野泉水

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
5~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/14 15:00
完成日
2015/04/15 21:49

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 リアルブルーでは嘗て、青は非常に珍しい色だった。ラピスラズリから生まれるその色合いは見るものを魅了する。「星のきらめく天空の破片」と讃えた博物学者がいるほどだ。
 故に、その石――その“色”は高額で取引されてきた。
 その傾向は、クリムゾンウェストの一部地域においても同じであるようだ。

 ●

「いらっしゃいませ、司教様」
「Beautiful! こんな綺麗なシスターがいるなら、赴任した甲斐があるぜ」
 軽口を叩くのは、大荷物を引きずる男性だ。金糸で刺繍の施されたローブを身に纏う彼はジェラルド・ロックハート(kz0062)。聖堂戦士団の一員にして、聖堂教会の司教位にあたる人間だ。
 元々はグラズヘイム王国で奉仕していた身であるが、交流の一環としてこの地に異動してきたという。何もなく、小さな教会しかない街に司教が来るというので、朝からこの教会に勤めるシスター達は大慌てだ。
 賄賂か淫行か――そんな噂まで立てられるほど、司教位が来るには辺鄙な場所だった。実のところ、ジル本人が希望したため、本人は至って満足しているのだが。
「さて……俺の部屋はどこだ? 外に住むのか? 懺悔室はあるか?」
「は、はい。お待ちくださいね」
 矢継ぎ早の質問に妙齢のシスターはまごついた。エクラの光に身を捧げて十年以上になるが、司教に接したのは洗礼を受けた時以来だ。恐れ多くて(相手は“ジル”なのだが)言葉が出ない。
「ジェラルド司教、こちらにどうぞ」
 呆れた様子でジルに声を掛けたのは、彼の世話係でもあり、弟子でもあるエミリオ・アルベールだった。前乗りで赴任した助祭の彼もまた、「あの人は自分でないと制御できません」とのたまいこの地を希望したのだった。ジルの容姿故に同行を希望した見習い達を前に、「じゃあ貴方はあの男の尻を蹴飛ばして仕事をさせ、頬をぶん殴って軽口を止められますか?」と言って黙らせたのは未だに語り継がれている。
「Hey、エミリオ。待たせて悪かったな」
「いいえ。というか、この規模の教会なら外から通うに決まっているでしょうが。あんた、シスターと会話したいがためにあんなことを……」
「むっさい弟子より美人なシスターだぜ、エミリー。美人揃いだな、ここ」
「知ってたくせに……」
 この男の女好きは今に始まったことではないが、エミリオは強く思う。
 こんなちゃらんぽらんが司教で、聖堂教会の未来は大丈夫かと。

 ●

 使い古された懺悔室は、普通の教会にあるような形ではなく、執務室と兼ねたような形だった。準備中らしく、掃除用具があちこちに散らばり、カーペットやカーテン等は一旦取っ払われている。
「へぇ、綺麗なクロスがあるな」
 様子を見に来たジルは、まだテーブルの脇にまるめて置かれた布に触れた。深い藍色の布で、赤い糸で花や鳥が刺繍されたものだ。
「それは“シルベリアクロス”と言って、この街のシルベリアさんという人が作り始めた特産品だそうです。街から数キロの鉱山で取れる青い石が原料らしいです。その石は彼にちなみ、“シルベリアブルー”という名前で、別名は“奇跡の色”」
「詳しいな」
「ひと通り勉強したので」
 暗にジルが勉強してこないことを責めるエミリオだった。資料によれば、そのシルベリアという人物はリアルブルー出身で、向こうのラピスラズリに着想を得たとか何とか。何十年も前からこの街の産業を支える唯一の品である。
 勿論、生産数に限りがあるので、お値段もリアルブルーのそれを凌ぐ。一般市民にはコースター程度のサイズが買えるかどうかであろう。
「しかし、使い込まれてるな……安そうだし」
「は?」
「いや、安そう……」
「司教……ジェラルド司教。その布、貴方の生涯年収の倍はしますよ」
「What’s!?」
 目を丸くしたジルが布から慌てて手を離した時だ。
「し、司教様! 一大事ですぅ!」
 少女のシスターが涙目になって飛び込んできた。

 ●

「落ち着きなさい、sister。状況を確認する……確認しましょう」
 笑いを堪えるエミリオを睨み、ジルは穏やかにシスターに語りかけた。ここは司教らしく、どっしり構えたいところなのだろう。
 泣き止んだシスターの話を総合するとこうだ。
 先ほどの話にあった鉱山で落盤事故があった。幸い死者は出ていないが、複数人が中に閉じ込められたらしい。しかも、助けようとしたところに雑魔が発生し、街から新しく救出要員を派遣できないとのことだった。
「とりあえずハンターズソサエティに連絡をなさい。エミリオ、私の荷物を」
「はい、司教様」
「シスター、名前は?」
「レラです、ロックハート司教様」
「シスター・レラ。私は先に鉱山に向かいます。到着した応援を案内し、私の後を追ってきてください。道中、彼らに状況を詳細に説明するのですよ」
「は、はいっ」
 弾かれたように応えたシスターが足早に部屋を出て行く。息を吐いたジルの背後では、エミリオが堪え切れずに吹き出した。
「お見事です、ジェラルド司教」
「面倒くせえええええっ、これが終わったら素に戻るぞ、俺は!」
「お好きなように」
 武器を担いだジルは手早く髪をまとめる。ローブを脱ぎ捨て、いつもの服装になった彼はエミリオに言った。
「お前はladyに同行しろ」
「承知しました」
「ったく、赴任早々ツイてねえな……!」
「日頃の行いをエクラの聖光がご覧になっているのですよ、きっと」
 こんな奉仕してんのに! と叫びながら、ジルは鉱山へ、エミリオはハンターズソサエティへ、それぞれの方向に走り出した。

リプレイ本文

 シスター・レラはエミリオと一緒に深呼吸をした。パニック寸前の彼女を落ち着かせようと、彼が提案したことだ。腐れ怠慢神父の尻を蹴飛ばすより容易いことは、何でもできるエミリオである。
「なるほど……火急の事態ですね」
 冷静に呟いたのはアクセル・ランパード(ka0448)だった。あの司教と顔見知りである以上、助けないという選択肢は彼の中にはない。
「こういう時こそ、俺達の出番です」
 アクセルの言葉に、シスターの顔が少し明るくなった。ああ、エクラよ、と胸の前で恭しく手を組む。パニックのあまり、今にもエクラの聖光に身を捧げような勢いだ。
「素材の仕入れに来たら、こんなことに……うーん、妙な縁がありますねっ」
 ソフィア =リリィホルム(ka2383)は小さな体をいっぱいに伸ばして言った。この地方は良質な鉱石が多いと聞いてやってきた彼女にはとんだ災難というやつだ。
 とりあえず今は仕入れは後回しで、ハンターのお仕事をせねばなるまい。
「ととっ、それで、レラさんに頼みたいことがあるのです」
「は、はい。私でできることならなんでもやりますぅ」
 裏返ったような高いトーンの声を持つシスターに、ソフィアは今後必要となる物資と人材の確保を依頼した。
 彼らの任務は雑魔退治だけではない。その後に控える落盤事故現場からの鉱夫救出も大事な仕事である。雑魔を退治している間に鉱山の中で窒息なんてされたら目も当てられない。
「そうですね……壁面の補修材と木材、補強工事のできる技師さん、医薬品に医師も必要ですね」
 運搬が大変なら使ってください! ――と、彼女はここまで一人で引っ張ってきた荷車を指さした。こんもり色々なものが乗っているが、確かに人力で運ぶよりは遥かに効率的だろう。
「わ、分かりました!」
「では、我々は皆様の指示をこなします。あ、請求書はすべてあの人に行きますので、雑魔や救出に対して遠慮は無用です。あの人ごとぶっ飛ばしてください」
 殴っても蹴っても、多分銃で撃っても死なない人ですから。
 さらっと恐ろしいことを言ったエミリオは心得ている、とその場のハンター達は何となく悟った。

 ●

 最近姿を見ないと思ったら、こんなところにいたのか。
 浅黄 小夜(ka3062)はほやっとした顔で頷いた。これはあれだ、単身赴任というやつだ。
 多分きっと、おそらく、左遷ではない……はず。
「おひさしゅうやけど……その前に困っている人を……助けんと……ですね……」
 再会を喜ぶのは雑魔と救出の後だ。
 まもなく、ハンターたちの視界に雑魔と、妙に大きな十字架をぶん回している長身長髪の男が入って来る。
「先行します」
 速度を上げたアクセルに、ジル・ティフォージュ(ka3873)が続いた。
「グラズヘイム王国・ローランド家が剣の一、ジル=マリア・ティフォージュ。ご助力申し上げる、ロックハート司教」
 よく通る低い声で叫んだジルが、大きく司教と雑魔の間に踏み込んだ。敵の眼前を駆け抜け、振り返りざまに踵を獣の頭に叩き込む。
「“自らの血と肉を与え、欠けた体に誉れの雫を満たせ”だった、か。案ずるな。貴方が救済のために流した血、その傷を癒やすことは出来んが隣で共に敵を振り払う事ならば出来る」
「……そうか、シスター・レラ達は間に合ったな。Hey,everbody! 悪いがちょっとばかり仕事を頼むぜ」
 なに、お前達なら大丈夫だ。
 獲物を回し、背に担いだ司教がニッと笑った。

「ボクの邪魔をするヤツはぶっ殺す!!」
 覚醒した常胎ギィ(ka2852)は溢れる闘士を獣にぶつけ、刀を振り抜いた。牙で受け止めた獣だったが、その一撃の重さに耐え切れずに牙を折る。口を裂かれた獣が怯んだ隙に、ギィは刀を横一線に薙いだ。
「……やはり、あまり気分の良いものではない、か」
 自身の覚醒状態は凶暴で、制御するのも大変だ。できるだけ覚醒しないで勝利したいところだが、一刻を争う現状では致し方あるまい。
「以前お会いした時も、戦闘中だったかしら?」
 ちょっと挨拶でもしようと参加したリリア・ノヴィドール(ka3056)は肩を竦めた。軽やかな足捌きで獣の牙をかわし、次いで肉薄して剣で薙ぐ。宙を舞う獣が地面に墜ちるのを確認し、彼女は長い髪を手で払った。
「お久しぶりなの、ジル神父さん」
「おっ、なんだ。どこの美人かと思えばピンクちゃんじゃねえか」
 ぶん、と獣を殴り飛ばした司教が口角を上げる。よほどハンター達への印象が強いのか、名前は忘れてもアダ名と顔は忘れないようだ。
「司教様、俺もお久しぶりです。僅かばかりではありますが、加勢させていただきます」
「OK、頼りにしてるぜ、prince……いや、“聖光の信徒”の方が良いか?」
「――光栄です」
 アクセルは嬉しそうに言い、構えた盾で飛びかかってきた獣を受け流す。体勢を崩した雑魔の懐から、聖剣で一気に切り上げた。弱い声を上げ、影のように黒い獣は同じく黒い血を吐き倒れた。
 雑魔に強襲をかけ、司教と合流した上で、取り逃がした雑魔を挟撃する。ハンター達の作戦は、戦略の手本のように型にはまったようだった。
 後は全員で集中して攻撃すれば、もはや獣に打つ手はない。
「小夜も……援護します……」
 掌のようにも見える燭台を掲げた小夜が小さく呟いた。
「“廻れ豪炎、駆けろ狩人……炎獄より来たり、猛る矢を番え、羅刹の弦を弾け……っ”」
 最後方の小夜から、炎の矢が獣に飛ぶ。慎重に狙ったその攻撃は見事に獣の胴体を貫き、真っ赤な炎を上げてそれを焼き払った。
 ホッと息を吐いた小夜に、司教の明るい声が飛ぶ。
「随分頼もしくなったな、little princess! その調子で頼むぜ!」
 その言葉が、今の小夜には何よりの賞賛である。
「さてっ、一気に片付けますよー!」
 銃口の照準を獣に定めたソフィアが言う。彼女の前方には、先に突っ込んだジルがいた。
「ここで……叩く!」
 蹴り飛ばした獣の爪が地面をえぐる。剣を突き出したジルがさっと手を挙げ、後方のソフィアに合図を送った。
 刹那、突っ込んできた獣の脳天が撃ち抜かれた。
「うん、快調快調っ」
 外さない狙いに自画自賛し、ソフィアは周りを見渡した。
 息を吐いて十字架を担いだ司教が自分を見つけ、ようやく「げっ」という顔になるのが見えた。
 にっこり微笑んで、ソフィアは司教に手を振ってみせた。
「お久しぶりですねっ。美少女が助けに来ましたよっ」
「Wait,wait! よくもそんなことを……このロリ――」
「ていっ」
「ゴフッ」
 タバコの箱(※金属製)を司教の顔面に投げつけ、ソフィアは愛らしい笑顔を浮かべた。だが、その目は全然これっぽっちも笑っていなかったのだが。
 そんな平和(?)なやりとりができるのは――どうやら、敵の始末はついたようだ。

 ●

「大丈夫か? 今、私達が助ける」
 雑魔を退治した後、ハンター達は休む間もなく鉱夫の救出作業に追われていた。依然塞がったままの入口を眺め、ギィは中にいるであろう鉱夫に声をかける。
 実際、彼らが思っていた以上に、落盤事故の負傷者は多くないようだった。ソフィアの指示した救援が届くまで、彼らの手当をする余裕も十分にある。
「今、手当を行いますので安心して下さい」
 ふっと微笑んだアクセルに、頭を怪我した鉱夫が涙目になって頷いた。こういう時、エクラ教の信徒という肩書は役に立つ。聖なる光が遣わした者――すなわちハンターと同義ではあるが――は、同じ信者にとって効果覿面である。
「応急措置程度ですが、これで大丈夫です」
「ああ、ありがとうございます」
 ほっとしたような表情の鉱夫はアクセルに言った。添え木された腕は痛々しかったが、その表情はどこか明るい。ただ、まだ中にいる仲間の安否を窺うように、視線だけが少し揺らぐ。
「仲間が向かっている。心配せずに、治療に専念することだよ」
 アクセルの隣で応急措置を行うギィが微笑んだ。
 そうして、彼らの心配を逸らすように、ギィは鉱夫に“シルベリアブルー”について話しかけた。彼女の髪飾りに丁度良いかもしれないと思い、どんなものか知りたくなったのだ。
「ああ……それなら、鉱山の中が見られるようになればすぐに分かるよ。外は見ての通りただの石だが」
「ほぅ」
 確かに、塞がった入口の辺りは青みがほとんどない。時々太陽の光に反射して光るのがそれなのだろうか。
 見られたらラッキーだとギィが思っている間、その鉱山の入口では、司教たちが岩を崩しにかかっていた。
「ジル神父さん、頑張るの」
「マジか……」
 頭を抱えそうなジルはリリアから渡された鉄パイプを振り上げ、力いっぱい岩を殴りつけた。彼女の予想通り砕けた岩が四方に飛ぶ。
 ちまちまやらないで、司教のフルスイングで開通すれば良いのに、という彼女のつぶやきは、ある意味で功を奏したようだ。
「まだやるのか」
「まだやるの。ほら、ちゃんと見れば、外しませんわ、なの!」
「鬼か、ピンクちゃんは!」
「ジェラルドのおにいはん……頑張って、ください……。小夜も……手伝う、から……」
「princess,魔法でぶっ壊すのはなしだぜ。俺まで吹っ飛ぶ」
 本気か冗談か小夜には分からなかったが、司教は冷や汗を浮かべながら言った。そうこう言いながらも鉄パイプ一本で岩を砕き続ける彼も相当な変わり者だろう。
 もっとも、仮にも司教位にある彼らを働かせるリリアの方が凄いと思うのだが。
「司教どの。俺も手を貸そうか?」
「ああ。頼むぜ。えーと……悪い、男の名前は覚えねえ主義でな」
「ジル=マリア・ティフォージュだ」
「ジルね。それなら覚えられるが呼びづれえな。マリアで良いか?」
「却下」
「じゃあ、マリちゃん」
「断る」
 凄い勢いでジルに断られ、司教は眉を歪めた。だってジルもマリアも変わらなくね? と顔に書いてある。
「“与えられた名は、其の御霊を示す”っていうだろ。どう呼ばれてもあんたはあんただろうが」
「“強いるべからず、決めるべからず”ともあるだろう」
 エクラ教の一節で返すジルだが、腹に据えかねているわけではない。
 ただちょっと恥ずかしいのと、特別な名でもあるからだ。
「分かった、分かった。じゃあ、とりあえずティフォージュにしとくぜ」
「はい、手を動かして、なの!」
 エミリオみたいだな……等とぶつくさ言いながら、リリアと小夜の応援を受けつつ、司教とジルは黙々と岩を砕き続けたのであった。

 ●

 ソフィアが事前に指示した分の請求書が司教の懐を寂しくさせるのは、また別の話であるが、とにかく増援も到着し、無事落盤事故から鉱夫たちを救い出したハンター達は、彼らの手当を行っていた。
「鉱山の崩落は恐ろしいな……犠牲者が出なくて本当に幸運だった」
 そうジルが言ったように、まさに幸運――今回の事故で、死者は一人もおらず、重傷者でさえ、片手で事足りる人数であった。
「本当になんとお礼を言ったら良いか……」
 頭を下げ続ける鉱夫の親方は、屈強な体を小さく小さく丸めていた。鉱山の中から出てきてから、ずっとこんな調子だ。
「貴方も怪我をしているのですから、念のため、安静にしていてください」
 親方の肩を押して座らせたアクセルが優しく言った。本当に申し訳ありません、と更に縮こまる親方は、目の前のハンター達と司教に恐縮しきりだ。
「さて……大丈夫だと思いますが、一応中を確認しておきますか?」
「崩れそうなところは今から補強しちゃった方が良いかもですねっ」
 頷いたソフィアが鉱山に入っていく。
 もう安全だという――そもそもこの鉱山自体、落盤が非常に珍しいと親方が言っていた――中は、鉱夫の話し通り、淡く蒼く輝く洞窟であった。
 一面の蒼がハンター達の視界に溢れる。地下まで敷かれたトロッコの荷台には、これから搬出するであろう蒼石が積まれていた。
 なるほど、これは盗掘の恐れもありそうだ。
 時間も時間だし、この石は持ち帰れないし、ソフィアは今日の仕入れを諦めざるを得ない。
「また今度ですね」
 苦笑いを浮かべるソフィアの近くでは、興味深そうに壁面を見上げるギィがいた。
「驚きだよ、これは」
 おそらく普通の市場に出回ることは殆どないであろうシルベリアブルーの原石だ。暗闇でこれだけ発光する光景は、そう何度も見ることはできまい。
 ますますもって、髪飾りに試してみたくなる色合いだ。
 一方で、ギィに続き、恐る恐る中に入ってきた小夜が周りをきょろきょろ見渡していた。保護者よろしくついてきた司教も一緒である。
「これ……小夜のお小遣いで……買えるやろうか……」
「エミリオの話しじゃ、加工品は俺の生涯年収を超えるっぽいな。原石だけなら分からねえが」
 欲しいのか、と尋ねられて小夜は小さく頷いた。
「いつかお家に帰る為の……お守りに出来たら、嬉しいなって……」
「そうか、“あっち”の出身だったな」
 頷く小夜は、荷台に積まれた石にそっと触れる。
 石と石の隙間に落ちている涙粒のような大きさであれば買えるだろうか。そんなことを考えながら、彼女が思い出していたのは愛猫の紫苑だった。真っ青な美しい、あの瞳を思わせる蒼に、自然と表情が緩くなる。
「お高い代物だが、米粒くらいの大きさに削ってキーホルダーにしている商品も街には売られているし、今度来たら買って帰ると良いぜ」
 小夜の心を読んだのか、司教が言った。ぱっと振り返った小夜に、彼は指を上に向ける。
「わぁ……っ」
 つられて見たソフィアとギィも、他のハンター達も“それ”に目を見開き声を上げた。
 シルベリアブルー、別名“奇跡の色”。もう一つの名は、“蒼の星雲”。
 その名にふさわしく、無数のシルベリアブルーが反射し合い、融け合って壁面いっぱいに散らばっている。星々の煌きを写したような、蒼い、蒼い光景だった。
 また見に来れば良い、と司教は言った。
 見に来れば良い――そう、この光景は、きっと何十年も変わったりしないのだから。

 了

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参加者一覧

  • 救世の貴公子
    アクセル・ランパード(ka0448
    人間(紅)|18才|男性|聖導士
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 純情な乙女
    常胎ギィ(ka2852
    人間(紅)|12才|女性|霊闘士
  • それでも尚、世界を紡ぐ者
    リリア・ノヴィドール(ka3056
    エルフ|18才|女性|疾影士
  • きら星ノスタルジア
    浅黄 小夜(ka3062
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師
  • 亡郷は茨と成りて
    ジル・ティフォージュ(ka3873
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 雑魔倒して助けるよっ!
ソフィア =リリィホルム(ka2383
ドワーフ|14才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/04/10 23:24:58
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/10 00:59:56