小さな狩人のSOS

マスター:朝海りく

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/25 09:00
完成日
2015/04/30 00:22

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●泉のほとりで
「今日もおれの勝ちだ!」
 捕まえた獲物が築く小さな山を前にして、イルクが槍を突き上げ、飛び跳ねた。
「あーあ、また負けちゃったぁ」
「くっそぉ、あと一匹つかまえてれば……」
 切り株に腰を下ろして頬杖をついていた少女、ティトが小さく溜息をつき、その隣では、彼女の兄であるダルムが悔しげに眉根を寄せている。
「みんな、すごいなぁ」
 それぞれの前に並ぶ獲物の山を見渡しながら、間延びした声でオルオが呟いた。彼の前に築かれたそれは、お世辞にも山とは言えないほどちんまりとしたものである。
「あいかわらずだな、オルオ。そんなんじゃ『かりゅうど』にはなれないぞ」
「そうだぜ。女に負けるなんて、なさけねぇ」
 びしっと指を差すイルクに続き、ダルムがわざとらしく肩をすくめる。その言葉に顔をしかめたのは、ティトだった。
「なによぉ。女だって、立派な『かりゅうど』になれるんだから」
「へっ、おまえじゃムリムリ」
「……ふんっ。いっつもイルクに勝てないくせに」
「なんだと!!」
「なによぉ!!」
「まぁまぁ落ちつきなよ、二人ともぉ」
 顔を突き合わせ、今にも取っ組み合いの喧嘩を始めそうな兄妹を笑顔でなだめるオルオ。途端に、鬼の形相で二人が振り返った。
「え……?」
「なんでおまえが落ちついてんだよ。あそこまで言われたら、もっとくやしがれよ!」
「そうよ、男のくせになさけないんだから!」
「ええええ?」
 オルオは困惑の声を上げた。完全なるとばっちりである。
 そんな三人のやり取りに、イルクは思わず笑ってしまった。
 なんの変哲もない、日常の一端。この日常の一端こそが、イルクにとっては何よりも好きで、何よりも大切にしている時間だった。
 彼らは、砂地に小さな集落を構える狩猟民族の子供たちだ。
 気の置けない友人と、子供だけで行う狩りの真似事。安全な森を選んで小さな獲物を狙い、その数に応じて勝った負けたを繰り返す。ちょっとした諍いがあったって、彼らはすぐにさっぱりと忘れて、またいつものように笑い合えるのだ。
 麻袋の中に獲物の山を突っ込んだイルクが、汚れた手を洗おうと泉に近付いた時だった。
「……あれ?」
 異変に、気が付いた。一か所だけ水が濁っている。
「どうしたの? イルク」
 水面を覗き込んでいると、ティトが隣にしゃがみこんだ。それに続いて、ダルムとオルオが二人の後ろに並ぶ。
「なんか、ここだけ水の色が……」
 四人が顔を突き出した瞬間、水面が不自然に歪んだ。飛沫が上がる。
「うわあ!」
「きゃあっ!」
 少年達は、慌てて飛びのいた。ぼたぼたと地面に落ちたそれが土を焦がし、臭気を纏う煙が立ち上る。
「な、なんだ?」
 のそ、のそ、と泉から這い出てくる二つの半透明の物体。濁った色をしたそれは、定められた形を持たぬようにうようよと不気味にうごめいている。
「なにあれ!? ねぇ、なにあれ!? なんなのあれ!?」
「わかんないよぉ!! ダルムー!!」
「お、おれが知るかよ!!」
「イルクー!!」
「おれだって……」
 それがスライムと呼ばれる魔法生物であることを、少年達はまだ知らない。
 近付いてくるその不気味な物体に、イルクが慌てて体勢を立て直した。
「よ、よくわからないけど……よ、よし。みんなで攻撃して、たおせそうだったらたおしていくぞ。無理だったらすぐに逃げ……」
 振り返ったイルクの声が、途切れた。
 三人は取るものも取らずに一目散に走り出していた。普段からは考えられないような猛スピードで、土煙を上げ、スライムから、イルクから、すたこらさっさと遠ざかっていく。
「え……、うそ……」
 気の置けない、自由気ままな友人達。その関係性が心地好いと感じたことは多々あれど。でも、しかし、だからといって。
「置いていくかよ、ふつう――――――――!!!」
 彼の悲痛なツッコミが、小さな森にこだました。

●友のためにいざ行かん
 森を全力で駆け抜けた少年達は、木々の間から飛び出すなり力尽きたようにその場に倒れ込んだ。
「び、びっくりしたぁ」
「なんだったんだ、アレ……」
「いままで、あんなの見たことないよ」
 肩で息をしながら顔を見合わせた三人は、そこで初めて違和感に気が付いた。
「……あれ? イルクは?」
 オルオの言葉に、二人が慌てて周りを見回した。その姿がない。てっきり、一緒に逃げてきているものと思っていたのに。
「ちょ……ちょっと……イルクのこと、置いてきちゃったの!?」
「ヘ、ヘーキだろ。あいつ足はえーし、すぐに追いついてくるって」
 三人は森を振り返った。しかし、そこからイルクが飛び出してくる様子はない。影も見えず、音も聞こえず、人の気配すら感じられなかった。
 風にあおられた木々が、ざわざわと音を立てる。
「これって……まずい、まずいよ……」
「ど、どうしよぉ!? 村にもどって大人たちに……」
「いまからじゃ日が暮れちまうよ!」
「もし……そのあいだに、イルクがあのブヨブヨしたやつの仲間にされちゃったら……」
 三人の脳裏によぎる、槍を持って飛び跳ねる凛々しい黒眉スライムの、不可思議な姿。
 全員の顔が、一気に青ざめた。しかし、どうすることも出来ない。
 どうしようどうしようと、ただただ慌てふためく少年達の中で、オルオが不意に声を上げた。
「そうだ、ぼく、聞いたことある! ここから一番近い町に、『なんとか』っていう悪いやつらとたたかう人たちの『なんとか』があるって!」
「わかんねぇよ、なんだよそれ!!」
「ぼくだってわかんないよ!!」
 珍しく強い口調で声を荒げるオルオに、ダルムは思わず口をつぐんだ。
「でも……きっと、たすけてくれる。なんとかしてくれるよ」
「…………わかった。オルオ、ティト。おまえらで行ってこい」
「え? ダルムは……?」
「おれは、もどる。イルクが、あのブヨブヨの仲間にされねぇように、たすけに行く」
 森へと向き直ったダルムが、震える拳を握りしめた。滲んだ汗が強張る頬を伝い、落ちる。
 そんな兄の様子をじっと見つめていたティトが、同じように森へと身体を向けた。
「あたしも行く」
 きっぱりと言い放ったティトに、ダルムが驚いた様子で振り返った。
「おまえな、女はおとなしく……」
「あたしだって『かりゅうど』の娘だもん! 弓のウデなら、二人にだって負けないわ」
「…………たすけてやらねぇぞ」
「たすけなら、オルオが呼んできてくれる。ね、オルオ」
「うん。ぜったいに……すぐに、もどるよ」
 三人は顔を見合わせて強く頷くと、一斉に駆け出した。
 ダルムとティトは、窮地に陥っているであろう友の元へ。
 そしてオルオは、ハンター達の集まる、小さな町のソサエティ支部へと――――。

リプレイ本文


 友達がブヨブヨの仲間にされる、助けてほしい。
 少年は、ただただ必死にそう繰り返した。彼の話から詳細を把握することは難しかったが、切羽詰まった状態であることはハンター達にも伝わっていた。
「まずは皆と合流することが先決ですねぇ……。い、急いで行きましょー!」
 初めて受ける依頼にどこか緊張した様子の弓月・小太(ka4679)の言葉をきっかけに、町を出発した彼らは、今、緑豊かな森をひた走っている。
「オルオくん、知らせてくれてありがとう」
 オルオの隣に付き添っていた来未 結(ka4610)が笑顔を向けた。
 結は、パニック状態の彼の話に耳を傾け続け、その中から得たいくつかの情報を仲間たちと共有することに努めていた。それによりハンター達は、これから戦うことになるであろう敵が体液のようなものを飛ばすスライムであると推測した上で泉へと向かっている。
「絶対、皆で一緒に帰ろうね!」
「は、はい……っ」
 素直に頷くオルオに笑みが深まる。ちょっとだけ、お姉さん気分だ。
「……小さな冒険が大変なことになったみたいだな……」
 彼らの先頭を行くNo.0(ka4640)が、道なき道を駆けながら呟いた。肩を並べるイグレーヌ・ランスター(ka3299)が頷く。
「ああ。スライムと言えど、何かあってからでは遅い」
 早く、助けなければ。多くを語らぬ二人であったが、その思いは同じである。
 子供たちを救うべく、ハンター達は先を急いだ。
 

 前方の木々が開けた。
 小さな泉のほとりで動き回る子供達の背中と、その向こうでうごめく二体のスライムが見える。
 No.0が地を蹴った。子供たちの横を一気に抜け、彼らを護る壁となるようその前に立ちふさがる。
 突如現れた彼のその姿に気圧されたのか、全員が小さく息をのんだ。
「よく……頑張った……」
 背を向けたられたまま掛けられた声は意外にも優しく、彼らが瞬く。
 そこへアンフィス(ka3134)の明るく陽気な声が響き渡った。
「いえーい少年少女! うんうん、元気が一番だねぇ……友達を助けんとするその意気やよし!」
「へ……?」
 頷きながら森から姿を現したアンフィスに、槍を持った少年、イルクが気の抜けた声をこぼす。
「どうやら間に合った様だな」
「よ、良かったですっ。いったん、態勢を立て直すのですよー」
 イグレーヌに続き、小太が子供達の横に立った。彼らはぽかんと口を開いたまま、続々と姿を見せるハンター達に視線を泳がせている。
 そしてまた一人、彼らの傍に立つ女性。銀の髪が風になびく。覚醒状態となったイレーヌ(ka1372)が、戸惑う少年達を見下ろした。
「私達はハンターだ。……オルオの依頼を受け、ここへ来た」
 イレーヌが後方に目を遣ると、ちょうど、オルオが結と共に森を抜けてきたところだった。
「オルオ!」
「みんな、無事だったんだねぇ」
 互いの無事を確認した少年達の顔に安堵の色が浮かぶ。
「敵の数が少なくてまだ助かったけど、油断しない方がいい!! スライムだけに、何体いるかわからないよ……っ!」
 敵に向き直ったアンフィスが釘バットを構えた。子供たちに瞳を向け、にぃ、と笑む。
「さあさ、下がるんだぜぃ。……行くぞ、パピィ!」
 傍らについたイヌイット・ハスキー、通称パピィに呼びかける。
 言われるままオルオの元まで後退した三人の子供達の表情はどこか晴れない。それぞれが手にした武器を握り締め、顔を見合わせてから頷いた。オルオの中にふつりと浮かぶ、嫌な予感。
「あの! おれたちも、戦いたいです。だめですか?」
「あたしたち、狩りとかできるし。ちゃんと、戦えます!」
 オルオが、イルクとティトを止めようとその服の裾を引く。
「あ、あぶないよぉ」
「このまま見てるだけなんて、なさけねぇマネできるかよ。一族のハジだぜ」
 ダルムが、置きっ放しになっていたオルオの槍を拾い上げ、投げ渡す。うう、と情けなく唸りながらも、オルオはその柄を受け止めた。
 対峙するスライム二体はその場に留まってうごめくだけで、さしたる攻撃もしてこない。ゆえに子供達の参戦に反対の声は上がらなかったが、結が一人、子供たちと目線を合わせるように屈んだ。
「あのね、みんな。……本当は危ないこと、してほしくないんだけど」
 そう言い置いてから伝えたのは、戦いがとても危険であるということ。それは、怖く、痛く、そして、失われた命は、戻らない。
「怖がらせるつもりはないんだけど……、でも、命のやり取りってそういうことだと思うから」
 それは、彼女の過去の経験からくるものなのだろう。
 命のやり取り。その言葉に、少年達が獲物の山に目を向ける。狩りの真似事から一転、初めて立たされた狩られる立場。それぞれが感じたものと、その言葉がリンクする。
 少年達は、唇を引き結んだまま頷いた。


 No.0が先陣をきった。スライムの注意を自分に向けるようクレイモアを振り下ろす。彼らを全力で守りきる。かすり傷ひとつ、負わせはしない。
 無言のまま大剣を振るうその姿に触発されたのか、ダルムが駆けだした。
「む……無茶しないでね!」
 結はすぐさまプロテクションを掛けた。ダルムの体が、光の膜に包まれていく。
 ダルムは、No.0の剣で裂かれても尚ぐずぐずと形を取り戻そうとするスライムを、短剣で横から薙ぐ。しかし少年の一太刀はその中に飲み込まれた。
「くそぉ、効いてねぇのかよ……!」
 それまでの戦闘の疲労が残っているのだろう、顎に伝う汗を拭うダルムの姿を、大きな兜の下の瞳が捉えた。
(……剣が効かないわけじゃない……が……時間をかけすぎてもいけない……)
 スライムから、No.0のクレイモアがずるりと引き抜かれる。そうしてまた、子供達に近付かせないように前へ前へと圧していく。
 アンフィスは、そのすぐ後ろを陣取っていた。ここならば、仲間や子供達にスライムが近付いた時、すぐに反応出来る。そう考えながらも彼女は、スライムを見つめたまま頬を掻いた。
「あーんな大見得きったボクだけど、こいつ苦手なんだよねー、殴りにくいし」
「そうなんです。ぜんぜん手ごたえなくて……」
 隣で槍を構えるイルクが悔しそうに呟く。
「ね。パピィのエサにもなんないよ。くさいし。というわけで……行けパピィ!!」
「ええ!?」
 スライムに指を突き付け、その戦闘を愛犬に押し付けようとする彼女に、イルクは驚いた様子で振り返った。するとアンフィスは朗らかな笑い声を上げる。
「うそうそ。パピィは後でね」
 何かしら策があるのか、アンフィスは笑顔のままスライムを見据え、釘バットを構え直す。
 イグレーヌは、そんな彼らの後方で、弓を構える少女の姿を見つけた。興味を惹かれるまま、彼女の元へと歩み寄る。
「……名は何という?」
「え、あ……ティト、です」
 突然声を掛けられたティトは戸惑ったように瞳を揺らした。
「ティトは弓が好きなのか?」
「これなら、女のあたしも戦えるし……『かりゅうど』に、なりたいから」
「そうか。ならこれも良い機会だ。私の弓を少し教えよう」
「ほ、ほんとですか!?」
 ゆっくりと微笑んだイグレーヌの言葉に、ティトが表情が輝いた。
「良いかティト、狩人として弓を扱うならば幾つか覚えておくことがある。狩人は獲物に気取られないため、常に風下に立つことは理解しているな?」
 イグレーヌはその場に片膝をつき、草をむしった。覗き込むティトに分かるように顔の前で草を放すと、それは、風に乗って少女の前を流れていく。
「つまり、逆風の中で弓を射る必要がある。そのためには、風に負けないほどの強い矢を射るんだ」
 彼女にとって、理論的なイグレーヌの教えというものは新鮮だった。一言一句聞き逃さないように集中し、理解すればすぐに頷きを返した。
「……あとは実践しながら教えよう。見ながらでも、真似してみるといい」
「はいっ!」
 威勢の良い返事に笑みを深めたイグレーヌが立ち上がった。
 その同列、少し離れた位置でライフルを構えていた小太の銃身が重たい銃声音を響かせる。彼女達が矢を番えるタイミングと自身のリロードのタイミングが重ならないよう注意しながらひたすら攻撃を重ねていた。
 ティトは同じ歳くらいか。共に依頼に臨む仲間達の中でも最年少となる彼は、同様に射撃を担う彼女に心内でエールを送る。しかし一方で、攻撃を飲み込んでいくスライムに対しては涙目だ。
「……効果が薄くても泣かないですっ! それならたくさん撃てばいいのですっ」
 自分に言い聞かせ、小太は引き鉄を引き続けた。
 そんな中、イレーヌは、戦う振りをしながら必死に動き回る子供達を眺めていた。小さいながらも懸命に戦う姿は微笑ましくもある。
 しかしふと、横目に捉えていたスライムの動きが変化したことに気付いた。何かをしぼり出すようにうごめいている。イレーヌはすぐさま子供達の盾になるべく動いた。
 途端にスライムが、続けざまに酸性の体液を飛び散らせる。イレーヌがその身体で、駆け出した結がその盾でそれを受け止めた。
「はわわ!? ちょっと本気になったみたいです!? 皆さん、気をつけてくださぃ!?」
 後方で小太が声を上げながら、少年達が標的にされぬよう銃撃する。
 壁役となったイレーヌはスライムへと瞳を向けたまま片腕を上げた。
「ここから先は少し危険だな。私の前に出ないように。……見て学べることも多いだろうさ」
 少年達は一度顔を見合わせたが、すぐに頷いた。武器を手にしたまま、邪魔にならないよう後退する。
 地面を這い動き出したスライムを、アンフィスが迎え撃った。釘バットをフルスイングし、ノックバックによる重たい一撃で一体を弾き飛ばす。
 身体を静止させたイグレーヌが、もう一体に狙いを定める。立体感覚を駆使し、その軌道をイメージして前方を見据えた。姿勢を正し、矢を番え、身体全体を使って強く弦を引く。
「ティト。基本さえしっかり掴んでいれば……このような矢が射れる!」
 凛とした声と共に強く放たれた矢がスライムを貫いた。
「たとえ女であってもな」
 それは、彼女に教えたことを実践してみせたものだ。微笑むイグレーヌに、ティトはいっそうその瞳を輝かせる。
 二体のスライムは、攻撃を受けてもなおにじり寄ってくる。
 イレーヌが、紫電を振り下ろした。メイスファイティングにより繰り出された攻撃に、スライムがぐにゃりと凹む。
 そこへ結が放った光の弾が叩き込まれた。
 それに反応するように、スライム二体が酸を放つ。イレーヌはするりと身をかわしたが、一方ではアンフィスの服にへばりつき、僅かにその服を焦がした。
「こうなったら……こちらも全力でいかないとなのですよー! ライフルでも威力を上げることはできるのですっ」
 狙いを定める小太の体に、マテリアルが流れ込んできた。No.0の攻性強化により、その威力が増す。さらに自身でもマテリアルを込め放たれた強弾が、敵をえぐる。
 長期戦が悪手と判断していたNo.0は、物理攻撃を重ねる小太、アンフィス、イグレーヌに絞り、順に攻性強化を掛けていく。それにより、スライムの生命力が一気に削られていった。
「パピィ! かむひあー!!」
 近付いてくるスライムを押し戻すように釘バットをめりこませていたアンフィスの声。主人の意思に従い、側面から回り込んだパピィがその身体をぶつける。
 重なる攻撃に、地面でうごめくスライムがいびつに歪んだ。その身体を分裂させ、彼らから逃げるように、そのまま泉に向かい這った。
 しかしスライムの行く手には、泉に足を踏み入れたNo.0が立ちふさがっていた。光の刃が一瞬の輝きを見せると共に、スライムを下からすくうように斬り上げ、押し戻す。
 宙に浮いた一体をイグレーヌの矢が貫いた。
 その横を抜けようとする一体を小太の瞳が捉えた。小さくなった標的。しかし彼は、すぐさま引き鉄に当てた指に力を込めた。銃声音が響き渡り、的確に、スライムを撃ち抜く。
 同時にまばゆい二つの光が空を切った。イレーヌと結、二人から生み出された光が今にも泉に入り込もうとするスライム二体をそれぞれ焼き、焦がす。
 それらはぶすぶすと音を立ててその場でくすぶり、動かなくなった。


 少年達は、ハンター達の戦闘に圧倒されたようにその場にただ立ち尽くしていた。
「みんな、怪我はない?」
 結の声にはっと我に返る少年達。怪我といってもハンター達と合流する前にダルムとイルクいくつかのかすり傷を負った程度である。
「可愛らしい癒し手がいるから私は必要ないな」
「イ、イレーヌさん、からかわないでくださいっ」
「からかってないさ」
 頬を染める結に小さく笑ったイレーヌは、それでもすぐ傍にいたダルムにヒールを施した。結はイルクの傷を癒していく。
「すっげぇ……! すげぇっす!」
 戦闘のことを言っているのだろう、ダルムが興奮した様子でひたすら繰り返す。
「……まー、ほら。みんなで力を合わせるのが正解ってことだよ、子どもたちっ!! ひとりじゃ限界があるからね」
「力を、合わせる……」
 アンフィスの言葉を受け何か思う所があったのか、イルクが呟いた。
 一区切りついたかとイレーヌが覚醒状態を解いた。途端に大きく変化するその容姿に、子供たちが目をまん丸くする。
「あれ……?」
「ええ!? こ、子供ぉ!?」
 少年達の声が重なった。イレーヌは、その反応を楽しむように目を細める。
「子供とは言ってくれるじゃないか。こう見えても、君達の倍近くは生きてると思うが」
「うそだろ……」
 自分よりも小さくなってしまったイレーヌをまじまじと見つめるダルム。
「おれはさっきの方が……」
「おれも……」
 口々に素直かつ失礼な言葉を吐く少年二人を、ティトが睨む。
「やめてよ。……もう、ほんと男って」
 呆れ果てたように溜息をつくティトに、イグレーヌが思わず笑い声をこぼした。
「よし! というわけで、遊ぼう!!」
「ア、アンフィスさん、服がっ……」
 陽気な声を上げるアンフィスを、小太が慌てて止めた。衣服の一部が、ほんの僅かばかり溶けている。しかし。
「ん? 気にしない!!」
「き、気にしてくださいぃ」
 小太の言葉も聞かないまま、彼女は揚々と駆け出した。
「遊び終わったら、皆でお鍋でも囲みたいですね」
 楽しく団欒できるだろうかと微笑む結に、イルクがふと狩った獲物へと目を向けた。
「あいつらも、怖かったんだろうな……」
「……それでもみんな、大切なもののために戦うんだよね」
 狩りは、彼らにとって生きる術。イルクは、小さく頷いた。
 ふと彼らの元にイレーヌの歌声が届く。静かな泉のほとりに優しく流れるその歌は、少年達も知っているものだった。ティトが共に歌い、オルオが調子はずれの鼻歌で合わせる。
 そんな和やかな光景を見届けたNo.0は、そっと、静かにその場を立ち去った。

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MVP一覧

  • そよ風に包まれて
    来未 結ka4610
  • 兜の奥の、青い光
    No.0ka4640

重体一覧

参加者一覧

  • 白嶺の慧眼
    イレーヌ(ka1372
    ドワーフ|10才|女性|聖導士
  • 名バッター
    アンフィス(ka3134
    人間(紅)|18才|女性|霊闘士

  • イグレーヌ・ランスター(ka3299
    人間(紅)|18才|女性|猟撃士
  • そよ風に包まれて
    来未 結(ka4610
    人間(蒼)|14才|女性|聖導士
  • 兜の奥の、青い光
    No.0(ka4640
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 百年目の運命の人
    弓月・小太(ka4679
    人間(紅)|10才|男性|猟撃士

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依頼相談掲示板
アイコン 作戦相談場
No.0(ka4640
人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/04/23 22:20:44
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/22 01:52:14