ボラ族、荷馬車を取り戻すはずが。

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/12 07:30
完成日
2015/06/16 12:18

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「ミネアちゃん、今度小麦とカボチャを入れて欲しいんだけど。あと、アジの干物できてるから引き取ってくれんかね」
 海辺の町。帝国の地方を巡回して食料品の取引をするミネアに対して、いつものように声をかける地元の商人は彼女に元気がないのに気が付いた。
「どうしたの?」
「荷馬車を追いはぎにやられちゃいまして……」
 命あっただけでも良かったんですけどね。苦笑いを見せつつもミネアの中は暗雲でいっぱいだった。
「あちゃあ、そりゃ仕方ないね。じゃあまた今度お願いするよ」
「すみません」
 仕事がまた一つフイになった。
 本当なら荷馬車をレンタルしてでも仕事したい。だが、奪われた荷馬車に全財産も積んでいたのだ。借りるお金もなければ、明日のご飯を買うお金もない。
 荷馬車を貸してくれたクリームヒルトはなんというだろう。憐れんでくれるだろうか。
 ああ、やっぱり叱責してくるのだろうか。
 あああ、それとも、それとも?
 ミネアは頭を抱えた。こういう時は悪いことしか浮かんでこない。
「何かの祈祷?」
 不意に優しい女性の声がかかった。振り向いてみれば伝い歩きの赤子を傍で見守るレイアの姿があった。元辺境の民の一族ボラ族の人だ。今はもう辺境の衣装は着ずに、ありふれた帝国の衣装に身を包んでいる。そんな格好ながらもどことなく自然な優雅さを感じ、そんなもの意識しなければついてきやしないミネアは一瞬目を奪われた。
「あ、いえ……財産なくなっちゃって、仕事もできなくなってどうしようかなって」
 ボラ族には追いはぎから助けてくれた。荷馬車は盗られたが命は助かったのだから感謝しないといけないのだが……。今ミネアの心を潰す不安は暗い未来というやつだった。
「ゾールが取り返してくれるのでしょう?」
 赤子がこける前にそっと抱き上げてレイアは微笑んだ。ゾールもボラ族の一人、奪った荷馬車で逃げた追いはぎを勇んで一人で追いかけていった戦士だ。確かにあの巨体は頼もしそうに見えたけれど。
「でも、もう1週間も経っているんですよ? 心配、しないんですか?」
「仲間だもの」
 危険があればムシの知らせですぐ判る。レイアはさらっとそう言った。
 小さい頃から出稼ぎで働き、自分の事だけでいっぱいいっぱいのミネアには、その言葉をにわかに信じ切ることはできなかった。
 でも、この人たち、ボラ族の人たちは硬い絆があるんだろうな。心細いミネアにとっては羨ましくもあった。
「にしても遅いわね……道草食っているのかも」
「ええっ!? れれれ、レイアさん、あたし迎えに行ってきます!」
「そうね。でも一人じゃ心配」
 レイアはくるりと後ろを振り向いた。ボラ族の戦士達は新しく見つけた鍛冶場での仕事に今全力を挙げている。今でもカンコンとリズム良い鉄の響きと、炎が弾ける音が絶え間なく続いている。
「私が、行くわ」
「で、でも、赤ちゃん……どうするんですか」
「もちろん預けるわ。これでもボラ族の戦士。あと、ハンターにも声をかけましょう」
 レイアはそう言って彼女はのがま口財布を持ってニコニコ笑った。
 がま口財布にワッペンとして象られた女性には「無駄遣いすんな」という台詞が吹き出しがついていたが、レイアはそれを読んでいる様子はなかった。


「きゃー、さすがの食べっぷり! よっ、大将!!」
 追いはぎをしていた女はゾールにそう囃子声を上げた。
「むっはー、まだまだぁ、いけるぞー!」
 並の人間なら頭が隠れそうな程の鍋をすっからかんにしてゾールは叫んだ。
 ここは追いはぎ達の潜むアジト。洞窟を補強して生活できるように作り上げた空間に一際異彩を放つゾールの存在感。
「ちょっと姉御ぉ! 俺らの明日のメシなくなっちゃいますよ!!?」
「うっさいわね。あんなのまともに相手したら、あたい達が食われるでしょ」
 姉御と呼ばれた追いはぎの女は、壁の大穴を顎でしゃくって舎弟に示した。ゾールの一撃であの有様だ。まともに当たったらこっちがただでは済まない。
 その為に口八丁手八丁で言いくるめてここまで懐柔したのに、中途半端で止めるわけにもいかない。
「で、でもせっかくの稼ぎが……これじゃマイナスっすよ」
「もういいのよ」
 姉御はにんまりと笑った。ゾールが飯に執心するあまりに自分の武器の棍棒を接収されていることにまだ気づいていない。今頃彼の棍棒は旅路のど真ん中だ。
「金持ちのおぼっちゃまがね、結婚相手を募集しているの。それに見合う献上品があれば誰でも応募できるってね!」
 ゾールの棍棒は大理石を使ったり、金属の帯が巻かれていたりして補強されている。見栄えもさることながら、実際の価値はかなりあるだろう。しかも実戦として数多の猛獣や雑魔を叩き潰してきたといういわれ付きだ。戦物語が好きなおぼっちゃまのことだ。下手な宝石だのを献上するよりずっと価値を見出すに違いない。
「姉御ぉ、結婚しちゃうんですか?」
「大丈夫よ。無事に納まるところに納まったら、あんたにもいい生活させてやるし。おぼっちゃまの財力があればあたいの罪状も金でもみ消してもらえるし!」
 くくく。姉御は悪い笑顔が浮かんだ後、弾けた。
「あたいは乗るんだ、玉の輿にっ! I ride on TA-MA-NO-KO-SHI!! いぇぁ!」
「はははっ、なんだ、お前いい機嫌だな。万歳、玉の輿!」
 玉の輿の意味などよくわからないはずのゾールも姉御の弾け具合に乗り、二人でコサックダンスを始める始末。
「姉御ぉ」
 情けない声を上げる舎弟。
 しかし、次の瞬間、全員の顔が引き締まった。外につながった鳴子が勢いよくなり出したのだ。誰かが侵入してきた。
「ちっ、こんな時に追手ぇ?」
「ははは、案ずるな。一宿一飯の礼もある。俺がたたき出してやる!」
 ゾールはそう言うと立ち上がり、きょろきょろと自分の得物を……
 姉御は即座に適当な鈍器を差し出した
「と、とりあえず、これでよろしくお願いね!!」
「うん……? まあいいか。よく来たな、不埒な侵入者よ、このゾールが相手してやる!!!」

リプレイ本文

「ははは、よく来たな! このゾールが相手してやる!!」
 のっしのっしと洞窟の奥から姿を現した大男を見て、皆一様に顔をげんなりさせた。
「なんでそっちにいるのよ、ゾール……」
 アーシュラ・クリオール(ka0226)は目を三角にしながら問いかけると、ゾールは高笑いを上げた。
「俺は義理がたい人間! アーシュラや女子供といえども容赦せん」
 心配してやって来たハンター達にしてみればどう転んでも殴ってくれと言っているようにしか聞こえない。
「聞いてた話と違うんだけど……」
「よくある話」
 七夜・真夕(ka3977)の問いかけに、レイアはにべにもなくそう言った。
「きゃあ、どうしましょう、たわしは怖いわ!!」
 持っていた亀の子たわしをぶん投げて、シバ・ミラージュ(ka2094)はぶりっ子さながらの仕草で震えた。
 横にいたミネアが戦いの恐怖で震えあがるよりも先にそんなことをやってのけたため、ミネアはどうしても緊張できず、逆に落ち着いてしまった。これもシバの作戦通り。これならきっとシバの方がか弱いと思ってくれるだろう。胸もミネアよりあるし、魅力も……。
 多分、こんな事態でなければミネアにたわしで顔をこすられていたかもしれない。
「ゾール! そいつらはあたい達を殺してここの荷物を奪おうとしているのよ!」
「悪い奴ら!」
 たわしを顔面に受け、ぽりぽりと掻いていたゾールであったが、姉御の一言で我に返ると強奪品の一つだと思われる翼の生えた女性像を振り回し叩きつけてくる。
「危ないっ!!」
 藤峰 雪凪(ka4737)は素早く標的になったアーシュラを庇い押しのけると、鞘に納めたままの刀で一撃を受け止めた。
「く、ぅ……!」
 恐ろしいパワーに腕の筋肉が悲鳴をあげ、思わず刀を零しそうになる。
「ごめん、藤峰さん、大丈夫!?」
「大丈夫です。まともにやりあうのは辛いですが……それならそれでやれることはありますから!」
 藤峰はそう言うと、刀を腰にためて腰を落とし、一気に走り出した。
「ぬぉ!? 速い!」
 ゾールの足元をすり抜ける藤峰はそのまま奥へ駆け抜けた。
 振り返ろうと上体をひねるゾールの腰にクレール(ka0586)は冷ややかな笑みを浮かべて問いかけた。
「ねぇゾールさん、お久しぶりですね。なんでこんなところにいるんですか?」
「一宿一飯の恩義を返すのが……」
「ねぇゾールさん、荷馬車を追いかけていったときは素敵な棍棒をお持ちでしたよね。どうしたんですか?」
「こっちの石像もイケてる」
「ねぇゾールさん、なに寝ぼけたこと言っているんですか? というか眠たいんでしょ」
 矢継ぎ早に言葉を紡いだクレールの手にマテリアルの流れが収縮していく。
「じゃぁ、寝てろ」
 バチィ!!
 エレクトリックショックがゾールの身体を跳ねさせた。
「物と想いを大切にしない輩は許さない!」
 クレールは倒れこむゾールを見てそう言い切った。
「おおお、肩こりが、取れたぁ!!」
 膝をつくと思っていたがゾールはそんな一言で立ち上がる。手にした石像も先ほどよりも軽々と頭の上で振り回し、シバにぶん投げる。
「風よ、我らに加護を!」
 すかさず七夜はウィンドガストを展開し、石像を強風に巻き込み壁に逸らせた。美しい翼の生えた女性の像は頭が粉々になってしまった。
「まぁ、兄様に聞いた通り本当に丈夫なんですね」
 呆れたような、感心したような。エステル・クレティエ(ka3783)はそう呟くと、おもむろにスリープクラウドを唱えた。近くにクレールがいたりアーシュラがいたりするが、それでも構わず発動させると、ラベンダーのような香りと共に紫雲が広がる。
「どうぞお休みなさ……」
「ははは、足止めは通用しない。ボラ族の戦士は落ちぬ! 精霊の加護がある!!」
 まるで効いていない。よくよく見ると聖導士のレジストの力が働いていることに皆はすぐ気付いた。
「こんのバカっ! 大人しく寝なさいよっ! だいたい愛用の武器もどこいったかわかんないような状態の戦士とあたしも戦いたくないのよっ」
 アーシュラはそう言うと、ディファレンスエンジンを機関銃のように構え、エレクトリックショックを連続で放つ。
「英雄、武器を選ばず!」
 しかしそれにすら鼻息荒くもゾールは耐えてしまい、アーシュラの激昂はそろそろ脳の血管が切れるんじゃないかというところまで達した。
 ボラ族の勇ましさは好きだ。根っからの明るいところも好きだ。でもこの馬鹿すぎて止めようのないところだけは……本当に!
「ちっ、ゾールを無力化してこっちに乗り込むつもりだよ! 防ぎな!!」
 姉御が奥から命令すると同時に、洞窟の暗闇の中から乾いた破裂音が響いた。
「きゃあきゃあ、アースウォール!」
 シバが素早くアースウォールを立てて、銃弾を防ぐ。
「ははん、魔術師と機導士ばかりなのね。接近戦はグダグダじゃないか。ゾール、薙ぎ払っちゃって!」
 姉御は素早く命令した。敵の戦力をすぐ見抜く辺りはさすがと言えた。姉御も短剣を抜き放ってゾールと共に攻撃を仕掛けるべく駆け寄ってくる。
「失礼ですが、一人お忘れになってますよ」
 低い姿勢で滑り込むように懐に忍び込んだ藤峰が鋭くそう言った。
 そしてそのまま刀を鞘に納めたまま、胸骨に向かって鞘の先を突き刺した。胸を圧迫された姉御は呼吸ができなくなり言葉が詰まる。
「こ、の……チビ……!」
 そのままクルリと反転する勢いを乗せて、苦悶してくの字に曲がる姉御の背中に飛び上がる。
「殺しはしませんが……少々痛い目にはあってもらいます!」
 そのまま延髄に蹴りを叩きこんだ。急所に直撃を受けた姉御はそのまま崩れ落ちる。
「藤峰さんすごーい!」
 ミネアは思わずぱちぱちと拍手する。真正面から飛び込んでいったのに一瞬で背中に回り込むそのスピード感。
「このまま、手下も抑えにかかりますね」
 藤峰はそう言うと奥の通路に走っていく。と、同時にレイアが魔法の詠唱を始めた。
「大地の小人。跳ね踊れ」
 ふわり、と石つぶてが浮き上がる。
「おわっ、ちょっと……」
 ゾールが叫ぶ間もなく、礫弾が駆け抜けていく。エレクトリックショックで痺れさせるためにほぼ取っ組み合いに近かったクレールの鼻先をかすめ、ゾールは轢弾の一つを顔面に直撃するなどの被害を出しつつ、藤峰が向かおうとしていた奥の通路に着弾。派手な音を立てて入り口をぶち壊す。
「れ、レイアさん……」
 確かに通路にファイアボールでも打ち込んで蒸し焼きに、とかお願いした気もするが。本気で容赦ない。援護射撃なのか不意打ちなのかわからず目を点にする藤波と、ひっくり返ったゾールと、涼しい顔をするレイアの顔を順番に見てエステルは誰に声をかけるべきか困った。
「ねぇ、ボラ族って敵だったっけ?」
「ううん……味方。いちおう」
 七夜の問いかけにひどく自信なさげに答えるミネア。
「だよね。でも、私が守るべき人はミネアだから、安心して」
 七夜はウィンク一つして、ファイアボールを放った。飛んでいったのは密かに狙撃とようと天井近くの穴から狙いすましていた舎弟だ。大爆発と共に「あぢゃああああ!」という悲鳴が聞こえてくる。単体では狙いにくいだろうが、範囲攻撃してしまえば遮蔽で身を隠してもどうということもない。
 しかし、一撃では落ちないところを見るとやはり覚醒者らしい。通路の奥へ逃げていくのがわかる。
「そう何度も何度も……逃がさないっ」
 アーシュラも続いてデルタレイを発射させる。一つは視界に映る通路の壁を破壊し、もう一つは岩を砕いて崩れ落ちたその岩で占領品を雪崩れさせて他の入り口も出入りできないようにし、そしてもう一つはゾールの持つ石像の上半身を粉々にした。
「おれの、俺の得物がーーっ!」
「それは単なる美術品でしょ!」
「アーシュラさん、それも盗品じゃないかと……あ、でも、元はと言えば奪ったのが悪いんですよね。倍額弁償、してあげてくださいね」
 エステルはそう言ってにっこり笑った。
 黒い。
「ぇ、エステル。なんか悪いモノ食べたんじゃない?」
「そんなことないですよ。ただ、悪いことした人にはちゃーんとお仕置きが必要だって母様も言ってました」
 七夜の問いかけに、にこやかな笑顔を浮かべるエステル。何かしらの遺伝なのか教育の賜物なのか、はたまた先天的な何かの持ち主か。
「さあ、どうしましょうか。その美術品高いですよー。義理人情に篤いんですよね」
 クレールは間近で囁くようにしてゾールに言った。
「お金で解決ですか? それとも同じもの作り直しますか? どっちも年単位の時間がかかりますね。あれ、戦士って石相手にするんでしたっけー。でも仕方ないですよねー」
 ぼそ、ぼそ。と動きを見つつ話しかけるクレールもちょっと黒さを感じる。
「く、クレールまでどうしちゃったの……?」
「ふふふ、小さい頃に遊びに来たお姉さんに口撃の仕方教えてもらってたんです」
 口撃でゾールを弱らせるとは聞いていたが、あの半分目蓋の落ちた眼。吊り上がった口元。
「さあ貴女も一緒に……」
「ひわわっ!?」
 横からそっと囁いたシバの一言に、七夜は思わず背筋を振るいあがらせて、思わずはたき倒してしまう。
 やばい、なんか黒い衝動がみんなを支配している!?
「あーーー、お姉さんが逃げようとしてるっ!!」
 と、突如、鍋とおたまをガンガン打ち合わせてけたたましい音と共にミネアが叫んだ。
 皆が倒れ伏していた姉御の方に視線をよこした。しかし、そこに倒れていたはずの女の姿はなく、気が付けば奥に止めていた荷馬車に乗り込んでいた。
「ったくもう、やってらんないわ」
「姉御、置いてかないでくださいよ!」
 穴の一つから華麗に飛び降りた舎弟も荷馬車の幌に乗りうつる。
「殺るわ」
 すかさず魔法攻撃の態勢をとるレイア。ファイアボールの詠唱を聞いて七夜が慌てて止めにかかる。
「待って待って!! 荷馬車壊れるからっ」
 パーティーの良心の七夜がいなければ絶対にこの依頼は恐ろしい運命になっていただろう。
「あははは、痴話げんか、面白かったよ。まったねー」
 ドタバタする一行に向かってそう笑うと姉御は馬車の手綱を引いた。
 ……が、動かない。慌てて姉御は馬車の車輪を見ると、そこには刀が一本。車輪の軸の間に挟まっていた。
「あら、逃げられると思っていらしたんですか?」
 荷馬車の馬に横乗りした藤峰がにっこり微笑みかけた。
「こ、こ、この……」
 即座に舎弟が銃を構え撃ち落とそうとする。
 しかし、それはクレールが許さなかった。機杖を振りかぶながら、ジェットブーツで空中を駆け抜ける。
「はっ、飛んで火にいる……」
 舎弟が銃口を移動させてクレールを狙った。
 だが、クレールは空中で機導砲を真後ろに放ち、反動で加速し、ウィングブーツが舎弟の顔面にめり込ませた。
「せーのっ」
 クレールはそのまま飛び上がった。藤峰ほどには軽々と宙を舞うわけではないが、舎弟を踏み台にした分、十分高く飛び上がる。
「俺を踏み台にしたぁ!?」
「てんちゅーーーっ!!」
 ぼかんっ!
 鈍い音を立てて、機杖が姉御の頭にヒットした。
「おお、守ってやれなかったか……すまんっ。この詫びは必ず……」
 暴れ狂うゾールの強力な事。全く止まらずそのままミネアに足だけになった石像を振り回して一撃を与えようとするのをシバがギリギリに抱き付いてカバーし、なんとか回避する。
「必ず、なんですって?」
 七夜はすかさずスリープクラウドをゾールに放った。
 それでも効かない。むしろ巻き込まれたミネアがそのままズルズルとシバの腕の中で眠りについただけだった。
「ミネアさん、ミネアさん! しっかりして!! やっぱり魔法を回避するためにこの鎧を着た方が良かったのよ!」
「……それだけは、イヤ」
 ビキニアーマーを見せるシバにミネアはきっぱり言い放ってから、眠りに落ちた。
「ミネアさーん!!」
 シバが絶叫する。まるで死んでしまったかのような叫び方だ。
「許さないわ、絶対に……!」
 シバは怒りに燃えた顔で立ち上がると、おもむろに七夜の放ったスリープクラウドがまだ晴れない間に重ねてスリープクラウドを発動させる。
「何度やっても同じことだ。空気を吸い込まねば……いけるっ」
 本気で息を止めて戦いだすゾール。
 しかし、そんな彼にアーシュラがディファレンスエンジンをゾールに突き当てる。
「敵の頭領が倒れたのに……なんであんたが最後まで立ちはだかんの!」
 ばちぃ!!
 最後のエレクトリックショックが放たれる。口をパンパンにしていたゾールはその衝撃で空気を漏らしてしまう。それでもなんとか耐え、レイアが追加で放ったスリープクラウドまで耐え抜く。
「ふふふ、すごいですねー。でも……そろそろ呼吸大変じゃないですか?」
 エステルはゾールの顔色が紫色になってくのを確認して、ゆーっくりスリープクラウドの詠唱を始めた。
「草花の夢見、安息の香り。柔らかな夢を捧げましょう。さぁ、安らぎに抱かれ。お休みなさい……『すりーぷ く ら う ど』」
「ぶはぁぁぁ」
 タイミングばっちりで息継ぎを必要としたゾールの口に、濃い紫雲が立ち込めた。
 ようやく最後の砦、ゾールはぶっ倒れた。


 一帯を騒がせていた姉御と舎弟の追いはぎコンビはハンター達の活躍によりお縄になった。
「きちんとした所で働くんですよっ」
 と諭した藤峰の言葉にも姉御達は素直に頷いてくれた。
「壊されなくて良かったですね」
 馬車を点検して、クレールは嬉しそうに言った。馬車をよく見てみれば本当によく手入れされており、ミネアがどれだけ大事に使っているかがよくうかがえた。クレールの言葉にミネアも嬉しそうだった。
「まったく、踊らされているのも気づかないんだから……本当に、馬鹿」
 そしてその荷馬車の荷台にて、大の字になって眠るゾールにアーシュラはタオルを頭の下に敷いてやりながらそう呟いた。
「そういえばレイアさん。どうして場所がわかったんですか?」
 エステルの問いかけにレイアは耳を澄まして。と言った。
 その通りにしても何もわからなかったが、優しい緑の風が皆の頬を撫でる。
「風が教えてくれる。ボラ、という名はね。風という意味よ。風を心に秘める人。誰でもボラ族。風はどこにでもつながっている」
 貴方たちからも優しい風の音が聞こえるわね。とレイアはにこりと微笑んだ。
 風に導かれて。そんな言葉にどことなく戦いにつかれたハンター達も悪い気がしない。
 この風は故郷のリアルブルーにも通じているのかな。七夜はそんな思いを持ちながら空を見上げていた。
「ミネアさんにもきっと風が吹いているのね。どんな音か聞いてみたいわ」
 御者を務めるミネアにまだ女装をといていないシバが楽器を渡した。
「あたしは虚無僧か!」
 渡された尺八を叩きつけられて、シバの女装はようやく解けたのであった。

依頼結果

依頼成功度大成功
面白かった! 8
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフka0586

重体一覧

参加者一覧

  • ボラの戦士
    アーシュラ・クリオール(ka0226
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師

  • シバ・ミラージュ(ka2094
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 轟雷の巫女
    七夜・真夕(ka3977
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師

  • 藤峰 雪凪(ka4737
    人間(紅)|13才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 荷馬車を取り戻す!(相談卓)
クレール・ディンセルフ(ka0586
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/06/12 06:49:37
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/10 12:03:39