羊たちの行方

マスター:湖欄黒江

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2015/08/04 19:00
完成日
2015/08/11 22:20

みんなの思い出

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オープニング


 帝国中部・シュレーベンラント州に吹き荒れた、旧皇族ヒルデガルドの反乱。
 反体制組織ヴルツァライヒの肝煎りで、更には歪虚をも巻き込んだ一連の事件は、
 帝国軍及びハンターたちの奔走によって無事、収束しつつあった。

 その片隅で起こった、シャーフブルート村の農民蜂起。
 村を牛耳るシュレーベンラント紡績協会と、民間警備会社FSDが強いる過酷な労働は、
 前領主にしてヴルツァライヒ構成員・ブランズ卿を旗印に掲げた、村人たちの武装蜂起を誘発。
 帝国軍第一師団の依頼を受けたハンターが先行して現地へ潜入、
 首謀者であるブランズ卿と村長を見事捕縛したものの、
 最終的には農民レジスタンスによる紡績協会支部の占拠を許し、
 翌朝、遅ればせに到着した第一師団の包囲によって、ようやく解決の目を見た。
 そして後日――


「ハンターを協議に参加させる、と。誰の差し金だ……」
 第一師団・ヴルツァライヒ専従捜査隊の責任者、ダネリヤ兵長が呻く。
 面前に立たされた捜査隊長はふと、彼の肩越しに、窓越しに見える帝都の景色を眺めた。
 見据えた先には、バルトアンデルス城の威容。隊長が答える。
「政府内務課の要請と聞きますが、具体的に誰か、というところまでは」
 兵長は、蠅を払うような仕草で首を振り、
「陛下や皇子ではあるまい。共に、ハンターとの交流深くいらっしゃるが、
 今回のような案件にまで連中を引き入れる程、優柔不断ではなかろう。
 ソサエティとの協同路線を図る陛下のお心……と推測させて、こちらを牽制したつもりだろうか」
「内務課が、ですか?」
「こと、内政に関してまで二番手に甘んじていたくはない。
 そういう気概のある者も、中には居たかもな。皮肉な話だが」

 剣機を皮切りとした、歪虚勢力・四霊剣の出現が帝国を脅かしている――
 というのは事実ながら、一方で、軍とハンターズソサエティがそのことごとくを撃退、
 未だ帝国全土を揺るがすような、深刻な被害を受けてはいない、というのもまた事実。
「現体制は、歪虚の脅威を裏打ちにしている。革命の意義もそこにこそあった。
 ヴルツァライヒが歪虚と通じていたのは、ある意味でこちらに好都合なのだ。その意味で……」
「歪虚の介入が見られなかったシャーフブルート村の蜂起こそ、むしろ危険だと?」
「同情は買い易い。悪評芬々の警備会社に、巨大な経済団体。
 歪虚が去れば人間の悪役が残る。しかし体制維持の為にも、悪役は常に必要なのだ」

 ダネリヤは机の隅に置かれていた木彫りの人物像を、片手で取り上げる。
 事務仕事に使う、大きな瑪瑙の印章の隣に置き直し、
「おとぎ話だな。北風と太陽……協議では精々、風のほうを演じてみよう。
 蜂起は防げなかったが、鎮圧には成功。ブランズ卿も押さえた。
 専従捜査隊はシュレーベンラント周辺に拡散した反体制派へ潜入し、ヴルツァライヒ追跡を継続する。
 本件の責任と始末は、私が引き受けた。報告ご苦労、君は仕事に戻りたまえ」

 隊長を退席させた後。ダネリヤは、印章と並べた彫刻を見下ろし、呟く。
「しくじったとは言え、旧皇女を担ぎ出し、挙句歪虚とも通じていたとは。
 ヴルツァライヒ――あの、貴族どものつまらんお遊びが、いつの間にやら随分と大がかりになったな?」


 シャーフブルート村の住民約500名、及び村自体の処分に際しては、第一師団、政府内務課、司法課、
 そして地主であるシュレーベンラント紡績協会の各担当者が集い、特別に協議を行うこととなった。
 事件の証人兼、第三者の意見を募るという名目で、ハンター数名の出席も予定されている。
「胃が痛いよ。今回、僕は完全に悪役だ」
 とぼやくのは、新任の紡績協会会長・シュトックハウゼン氏。
 その日は帝都郊外の自宅にて、妻や執事と共に荷造りをしていた。
「悪いのは、FSDって会社じゃなくって?
 今朝のバルツに出てましたよ、あまり素性の良くない人たちを雇ってるって……」
 妻が言うと、
「でも、そのFSDを選んだのは紡績協会なんだよ。
 前任のボッシュ会長が……いや、兎に角、僕もそのときは反対したりしなかったし」
「旦那様ほどの若さで、紡績協会の会長に選出されるとは、大変なことですよ。
 旦那様の手腕があれば、この苦境を乗り越えられると、皆さんもそう期待しておられるのでは」
 今度は執事。シュトックハウゼン氏は苦笑してかぶりを振り、
「生贄の羊ってところさ」

 蜂起の責任を取る、という前会長の辞意を紡績協会が受け入れ、
 代わりに会長職を任されたのがシュトックハウゼン氏だった。
 若手ながら、彼の会社は協会内でも上位の収益を挙げている。
「あの村だけの問題じゃないんだ。いや、あの村ひとつでも、かなりの土地ではあるんだが、
 ことは州全土、協会所有地全体の経営問題になるんだ。
 FSDに代わる警備会社は中々見つからないだろうし、なし崩し的に軍の管轄下となれば、
 土地の利用制限だとか、駐屯地への出資要求だとか……色々ややこしいのさ」

 帝国経済に大きな影響力を持つ紡績協会ではあるが、それだけに、軍政との関係も複雑だ。
 激化しつつある対歪虚戦線に備え、戦費調達に躍起な帝国軍。
 大企業や資本家たちは将来の大幅増税を必至の事態と考えつつも、
 そのタイミングをできるだけ遅らせたいというのが本音だ。
 いち早く工業化・近代化路線へ舵を切った帝国諸企業といえど、
 革命期の経済的混乱の余波は未だ消えず、外国資本に対する競争力強化は急務であった。

(あの革命が、西方世界にあっても政体は時にひっくり返る、と証明してしまったんだ。
 そして、現体制下での経済的自立が失敗すれば、たちまち旧体制派、王国回帰派、同盟商人につけ入られる。
 あるいはそれを防ぐ為、軍政による経済統制という目もある。どちらにせよ、帝国のブルジョワ層は吹っ飛ぶぞ)
 不意に黙りこくって難しい顔をする夫へ、クローゼットから服を取って戻って来た妻が、声をかける。
「やっぱり、終わるまでは帰って来られないんですか?
 帝都から家まで、車でたった1、2時間じゃありませんか。合間でも少しは帰って、お休みになって下さい」
「うん。できればそうする」
 シュトックハウゼン氏は、妻が持ってきた、とっておきの背広とネクタイを確認する。
 彼がいつか世話になったハンターたちも、こんな具合に、鎧や剣を選んでから戦いへ赴くのだろうか?
(紡績協会会長か。覚悟、しなくちゃな)


 蜂起の首謀者であるブランズ卿は村長と共に、帝都某所の憲兵隊詰所にて拘束中だった。
 最後に行われた尋問の折、捜査隊員は彼らに、
 村に残されたレジスタンスが、鎮圧部隊に対して紡績協会支部を無血開城したと告げる。ブランズ卿の返事――
「良かった。ならば私も、ヴルツァライヒについてそろそろ話をしようか」

リプレイ本文


「河が匂う」
 ジル・ティフォージュ(ka3873)が、開け放した窓から景色を眺める。
 バルトアンデルス城の一室を間借りして行われる今回の協議だが、
 第一師団の代表とハンター1名が所要で遅れるとのことで、他5人は待ちぼうけを食らわされた。
「夏場は仕方がない」
 アウレール・V・ブラオラント(ka2531)が答える。
「流域の工業化、加えて革命後の人口流入で生活排水も増え、水が汚染されている」
「全く、酷い匂いだ」

「嫌なら、さっさと閉めれば良いのよ」
 アウレールの隣席、ヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207)が言った。
 ジルは黙ってその通りにすると、ヴィンフリーデから席を離して座った。
 緩衝地帯のように、間にドロテア・フレーベ(ka4126)と火椎 帝(ka5027)が並んでいる。ドロテアが、
「閉め切ると、今度は蒸すわね」
「住んでる人の気性かな、快適さより守りの硬さを優先したのかも。
 窓も分厚いし、冬場は良いかも知れないけど」
 帝がのんびりした口調で言う。ふと隣の空席を見下ろし、
「彼も遅いね。用事って何だろう?」

 しびれを切らしたアウレールが立とうとした、ちょうどそのとき。
「申し訳ない、お待たせしました」
 真田 天斗(ka0014)が、第一師団兵長・ダネリヤを伴って入ってきた。
 続いて政府の人間2名と書記、それからシュトックハウゼン会長も現れる。


 最初の議題は蜂起の首謀者、ブランズ卿と村長の処遇について。
 兵長より、2名にかけられた嫌疑と捜査の現状に関して説明が行われると、
「卿と、面会させて頂くことはできますか?」
 ヴィンフリーデの要求を、兵長はにべもなく断った。
「現在、師団の人間を除き一切の面会は許されていない」
「仕方ありませんね。では、この件については一言だけ。
 逮捕が済んだ以上、速やかに司法課へ引き渡すのが道理と考えます。
 帝国の兵は帝国の法に従い、非道に力は振るわない……」
 そう言って、彼女は意味ありげに微笑んだ。

「俺も同じだ」
 ジルが後を継ぐ。ヴィンフリーデと兵長を交互に見、
「まず……『特殊な政治犯』とはどういう意味だ?
 確かに件の組織との関わりこそあれど、この協議においてのみ言えばその名は掲げておらん。
 政治犯との言は、些か不適切なのでは?
 それとも当局は、旧貴族を須らく『政治犯』と呼び習わすのであったかな」
 政府の代表者と会長が一瞬、兵長の顔色をうかがうが、彼は眉ひとつ動かさない。今度は、
「あたしは無学で解らないんですけど……撃ち合いが終わったら、軍人は引っ込むべきと思いますわ」
 ドロテアが言った。ハンター3人が司法課への早期引き渡しに賛成し、
 司法課代表は我が意を得たり、とばかりに深く頷いてみせる。

「あのー、僕も馬鹿なんで良く分かんないんですけど、村人たちって本当に蜂起したんですか?」
 帝のその言葉に、列席者全員が怪訝そうな顔をする。帝は頭を掻き、
「えっとですね」
 村人たちは確かに武器を持ち、紡績協会支部前に集いはした。
 だが村人は先んじて支部へ攻撃――放火等の破壊行為や、攻撃準備の為の斥候――を仕掛けた訳ではなく、
 ただ、武装して集まっていた『だけ』だった。
「僕の世界だとこれ、凶器準備集合罪って言うんですけど。暴動を未遂で潰した際の罪を指します」

(良くそんな言葉憶えてたな? それとも誰かに聞いたんだっけ)
 思いつつ、帝は話を続ける。
「つまり、実は蜂起は未然に防げていたんじゃないかって……さっすが、第一師団の手配ですよね。
 ちなみに、先に撃ち始めたのはどっちでしたっけ? 攻撃されたら、つい身を守る為に応戦しちゃいますよね」


 兵長はほんの少しだけ頬角を上げ、笑みらしき表情を見せた。
「面白い考え方だが……それ以前に別働隊が牧場を占拠し、FSDと戦闘していた筈だ。
 FSDが撤退した後、協会支部を不当に占拠した件はどうなる?」
 そこでシュトックハウゼン会長が手を挙げ、兵長を遮った。
「彼らの理屈は一部採用できると思う。蜂起は起こったかも知れないが、
 必ずしも皇帝陛下の治世に対する反乱ではなかったという点です。
 首謀者がヴルツァライヒという以外、国家への反逆という要素は不明確だ」
 事実、第一師団の鎮圧部隊に対しては、レジスタンスも抵抗らしい抵抗をせず解散した。
「つまり、本質はあくまで我々と労働者の間のトラブルにあった、ということです」

「FSDによる村人への虐待は、あたしからも証言できます。
 証拠はありませんが、蜂起以前に村人を殺害していた疑いも。ですが」
 ドロテア、そしてアウレールが会長を見やり、
「蜂起の原因も、責任も全て紡績協会とFSDにある。協会の長たる貴方自身が、そう主張するのだな?」
 会長は神妙な顔で頷くと、
「蜂起参加者の罪状は、司法官が決めることですが」

「まずは、ブランズ卿の話を聞いてみては如何でしょうか?」
 天斗が言った。ブランズ卿は、ヴルツァライヒに関する貴重な情報源だが、
「その証言は精査せねば、かえってこちらを傷つける武器になる諸刃の剣。
 偽情報に踊らされては危険ですし、司法課へ委ねる前に充分な調査が必要です。
 ヴルツァライヒの根は何処まで伸びているか判りません。裁判途中で暗殺、と言うことも考えられるかと」
「引き渡し期日を設けるべきだろう」
 と、アウレールが提案する。
「反体制取り締まりの専門家である第一師団の手で、捜査が行われるべきなのは間違いない。
 しかし無用に拘留が長引けば、権限を逸脱した私刑と変わりなくなってしまう。
 期日を設けた上での集中尋問。司法課には法的正当性の範囲内で、証言の見返りに刑の減免も考慮して頂き、
 双方協力して円滑な捜査と法執行に努める……如何か」


 アウレールの提案を叩き台にすることで、第一の議題がようやくまとまった。
 師団は首謀者他、蜂起準備に深く関わった若干名を期間内で尋問後、司法課へ引き渡す。
「他の蜂起参加者は後日、一括して司法課へ。良いな?」

 次の議題は、FSDにかけられた疑義とその処遇について。
「司法課に一任すべきだ」
「……私も同じく」
 ジルとヴィンフリーデが、揃って手を挙げる。
「細かな事実については、実地潜入していた者に報告させれば良かろう」
「後は司法課が、きちんと中立の立場で判断してくれますよね?
 住民感情を無視した司法官が、枕を高くして眠れるとは思わないし」
「新聞や民の下馬評は馬鹿にならんよ」
 ふたり共に司法課を牽制すると、代表者は憮然として、当然だ、と答えた。

「違法換金事件については、今回の騒擾事件とは全く別個に立件すべき事案だろう」
 アウレールが発言する。
「司法課が正式に立件するまでは、書類の証拠能力の鑑定と並行して、数日程度の事情聴取に留めるべきだ。
 嫌疑の相当性が確保されない限り、社員の身柄は保釈するのが妥当と考える」
 兵長は同意しつつも、
「証拠隠滅の恐れがある一部の者については、こちらで改めて拘束ないし保護する。必要な手続きは後ほど」
 天斗はそこで兵長と目を合わせ、共に頷いた。
(自分が確保した証人――『同僚』の彼女との約束は、守らねばなりませんからね)

 後、天斗とドロテアが違法換金の証拠押収の経緯を説明。
 ドロテアは帝と共に、FSDの過剰防衛についても証言した。
 ハンターに対する警告なしの発砲、村への放火、ひと通り話し終えるとドロテアが、
「放火に関し、区長から明確な指示が出ていたかは分かりません。
 しかし、彼が執った作戦の概要は説明できますわ。自衛として妥当だったか……ただ」
 机に手をついておもむろに立ち上がる。
「一般社員には酌量の余地があるかと思います。
 彼らの人生を、革命が変えてしまったんですわ。故郷を失い、普通の仕事に馴染めず。
 FSDが唯一の身の置き所と、やむなく良心を殺していた者も……」
 不意に言葉を切り、すとん、と腰を下ろす。
「余計な話でしたわね」

(でも、きっと他に誰も言わないもの。彼らにも立場があったってこと)
 会議はしばしの沈黙の後、最後の議題へと移った。
 シャーフブルート村、解体か存続か?


「まずは会長が認めた通り、紡績協会には相当の責任がある。
 今後の農村運営は行政が監督指導し、特に住民への直接の影響力行使は完全に禁止されるべきだ」
 アウレールの言葉に、会長はただじっと耳を傾ける。
「シャーフブルートは軍の監視の下、村組織の再編と行政的改革を実行すべし。
 反政府的な記号が村に与えられる可能性を考慮すれば、将来的な解体はやむなしだが、
 蜂起参加者の一部については、再建の労役を以て刑に代えるのも一案かと思う」

 一方、次に手を挙げたジルは、村の解体に反対を示した。
「解体と言えばつまり、住人を全て他所へ移し、新しい労働者と入れ替える訳だな?
 そこまで聞き分けが良ければ、最初から蜂起などせんよ。
 無理に引き離し移住などさせてみろ、それこそ今回の二の舞となるのが世の道理だ」
「どの道、村人の生活が自立できるよう支援はしなきゃならないのだし」
 ヴィンフリーデ、そして天斗が彼の主張に乗る。
「今度は、穏便な声の上げ方なんかも教育しないとね。
 それなら無理に場所を移すのは、要らぬ手間だと思いますけど」
「帝国の圧制に村を潰された、などと見られ、再び反体制派がつけ入る隙を作るのは得策ではないかと。
 時には温情を以て統治することも、大事ではないでしょうか?
 師団の監視は継続しつつ、労働条件の改善を協会にお願いしたいところですが」

「だが、待遇改善を蜂起の成果と思われれば本末転倒だ」
 アウレールが言うと、ドロテアも、
「実際のところ、本当に村は改革できるのかしら。
 協会の再発防止策が有効かつ、軍が駐屯し続けるのであれば別ですけど。
 村人には補償をした上、移住させたほうが良いのでは? 人には、忘れる権利がありますのよ」

「では、我々の再発防止策を」
 会長が、書類を卓上に広げた。紡績協会による提案――
 新たな労働規定の設定、FSDに代わる協会独自の警備隊発足、
「労働者の債務については、一括で返済期限を引き延ばす。
 シャーフブルート再建には政府内務課の監督を仰ぎ、以後、地域社会の自立性を尊重した経営に努める」
「そんなあやふやな文言で、村人は納得するかしら?」
「既に血が流れているのだ。なまじなことで恨みは消えんだろう」
 そう呟くドロテアとジルに、会長は顔を上げ、
「警備隊新設に当たっては、ソサエティとその所属であるハンター諸氏へ協力を依頼するが、
 今しばらくは第一師団に治安維持を全面的にお任せする。
 駐屯部隊の為の用地供出、また、ブルーネンホーフ改修へも資金提供の用意が」

「内務課はこの提案を了承済みです。後は司法課と第一師団の方々に」
 内務課の代表が上座をうかがうと、まずは兵長が、
「確かに、村の解体には弊害も多い。一帯には今なお反体制派潜伏の可能性もあり、
 住人が移住先で取り込まれれば二度手間だ。存続させた上で監視するほうが、楽ではあるが」
「司法課としても、村組織を解体すべしという明確な法的根拠は存在しない。内務課が了承済みであれば……」

「何か、肝心の村の人たちが置いてけぼりじゃないですか?」
 帝が出し抜けに言った。椅子にもたれ、視線を落として手遊びをしつつ彼は続ける。
「その再発防止策、村人を参加させて一から話し合ったほうが良いですよ。だって、村はもう限界だったんでしょ?
 何が問題だったか、はっきりさせないまま残しても、物理的に存続しようがないんじゃないですかね。
 存続するにはどうすれば良いか、彼らが一番分かってるんだから、
 証人やアドバイザーにこれ以上相応しい人たちもないでしょ。ちゃんと話し合いましょうよ、『みんな』で」


「君の言ったことこそ、最大の原因だったんだろうね」
 協議の終わった後、帝はシュトックハウゼン会長に声をかけられた。
「革命で崩壊した地方社会を力ずくで取りまとめていく内、
 直にその土地で暮らし、働く人々の声を聞かないようになっていた。
 我々資本家はそのツケを払うべきだ。遅過ぎたかも知れないが……」
「起こったことは仕方ないですよ、大事なのはこれから。月並みな言い方ですけどね」
「近い内、村を訪ねる。君の助言通り、村人を集めて一から話し合おう。
 そして警備隊新設……いつ話がまとまるか分からないが、いずれ依頼をする。
 そのときはまた、君たちに来てもらえると嬉しい」
 会長の差し出した手を、帝が握り返す。
 この男ならばきっと、村を再建する助けになろう。互いにそう思いながら。

「出来レースに付き合わされた気がするわ」
 城外に出てイルリ河南岸へ向かう橋の上、ドロテアが天斗に零した。
「政府と協会はグル、軍と政府も裏で打ち合せ済みで、時間に遅れたのはそのせい?」
「自分が見つけた証人を保護してもらうよう、その話し合いもありましたから。
 我々の役割は最初から、彼らが出した結論の見届け人だったのでしょう。
 そう悪くない決着だったと思いますし、最後のひと押し、くらいにはなれたのでは」
 天斗のフォローがあってなお、彼女の気はあまり晴れなかった。
 革命以来、自分は才覚で自由を勝ち取り、生き延びてきた。
 村人と、FSDの男たちは立ち直れなかった。彼らは弱かった、それだけのこと。しかし、
「弱さは、罪なのかしら?」
 何か、と天斗が問うと、
「何でもない。お互い大変な仕事だったけど、それも今日で終わり。
 面倒臭いことはもう、忘れちゃいましょう?」

「ブランズ卿に言ってやりたいわ――
 今の状況を嫌だダメだって言うだけ? 楽で良いわね。反乱起こして今の体制を壊してはいめでたしめでたし、
 で? その後、戦火で働き手も耕作地も減って産業も無くなった村で、
 どうやって食べていくつもりだったのかしらね」
 ヴィンフリーデが息巻く。連れ立つアウレールは答えず、橋から河を眺めている。と、
「13年前、革命軍がその通りのことをした。違うか?」
 後ろから声がした。ジルだ。
 きっとして振り返るヴィンフリーデ。しばし睨み合った後、
「回顧する全ての人に聞きたいのだけれど……革命が起きずに、歪虚に蹂躙された方が良かったのかしら?
 13年! 赤ん坊だったあたしがハンターになるまでの間、帝国は歪虚から民を守ってきたのよ」
「それも事実だ。しかし」
 次の句はなかったが、ヴィンフリーデはジルの眼差しにただならぬものを感じ、反論を止めた。
「……今の帝国が完璧でないことくらい、知ってるわよ。どうすれば良いか、ずっと考えてる」
 アウレールが口を挟むことはなく、それからは3人とも黙って、歩き続けた。
 日が落ち始めていた。河に吹く風から次第に暑気が失せ、淀んだ水の匂いも、ゆっくりと和らいでいった。

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MVP一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗ka0014

重体一覧

参加者一覧

  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 金の旗
    ヴィンフリーデ・オルデンブルク(ka2207
    人間(紅)|14才|女性|闘狩人
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 亡郷は茨と成りて
    ジル・ティフォージュ(ka3873
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人
  • 燐光の女王
    ドロテア・フレーベ(ka4126
    人間(紅)|25才|女性|疾影士
  • ブリーダー
    火椎 帝(ka5027
    人間(蒼)|19才|男性|舞刀士

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/01 21:39:54
アイコン 仕事の時間です
真田 天斗(ka0014
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/08/04 00:48:52