からくり屋敷の奇妙なオバケ

マスター:芹沢かずい

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/08/18 12:00
完成日
2015/08/25 22:31

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 控えめなドアノッカーの音と、招き入れる声。ドアは古いが、手入れが行き届き、静かに客人を招き入れた。
「悪いね、わざわざ来て貰って」
 そう言って迎えたのはこの家の女主。
 肘掛け椅子にゆったりと座り、片足はスツールに乗せている。傍らには松葉杖。
「依頼を出したいそうですが」
「まあね。まさか自分が依頼者になるとはね。あんた、ハンターかい?」
「いえ、僕は。オフィスの受付を」
「そうかい」
 女主・パトリシアは椅子を勧めると、一つ息をついてから依頼内容を伝えた。
 近所にある屋敷に現れた化け物を退治してくれ、と。
「……え、あの、えっと……」
「ふふふ……さすがに不親切だね、これじゃ」
「はあ……」
 来客の反応を楽しんでいるように見えるが、子供や孫を見守っているような雰囲気を持っている。
 からかうのを止め、パトリシアは順を追って改めて語る。
「この家の裏手にちょっとした屋敷があってね。そこの主が二年程前に亡くなったんだけど、その死んだ爺さんが変わり者でね、屋敷中からくりだらけなのさ」
「……そこに化け物が現れた、と?」
 頷くパトリシア。
「この二年は誰も管理してなかったからね。屋敷ごと吹っ飛ばしても」
「いやそれはちょっと」
「まあ最後まで聞きな」
 遮った来客を怒るでもなく、あくまで静かに語る。
 屋敷の主だった爺さんは子供好きで、村の子供達はよく遊びに行っていた。それは主が亡くなってからも変わらず、『からくり屋敷』は子供達にとって恰好の遊び場だ。
 仕掛けはちょっとした悪戯程度のものが多く、子供達は『探険』の結果をパトリシアにも報告に来ていた。子供達の目当ては、パトリシアが作るお菓子だと言っても過言ではなく、事実彼女はいつも子供達のためにパイやお菓子を用意していた。
 話は子供達から聞いたもので、巨大な箱が突然開き、気味の悪い人形が動き出したと大騒ぎして報告に来たのだという。
「アタシは見たわけじゃないけどね。どうやら時計仕掛けで開くようになってたらしい。爺さんはびっくり箱のつもりだったんだろうが、人様に危害を加えるような凶悪な代物を作る人じゃなかったからね。気になるのは子供達が見たっていう黒い靄さ。歪虚や雑魔の可能性も有るだろう? それでハンターさんに依頼を出したってわけさ」
 彼女が子供達の話をする時、その表情はとても柔らかいことに気付く。
「成る程……屋敷はそのまま残した方が良さそうですね。その化け物を退治することになっても、建物への被害は極力避けるようにと……」
「あんた、話が分かるじゃないか」
「ありがとうございます。ところで、ここに来る時子供達を見かけましたよ」
「懲りずに来てるんだよ、追い返したけどさ。だけど……」
 言いながらちらりと窓の外に目を向け、すぐに視線を戻して付け加える。
「子供達がヤンチャしないように、あんたらからも釘を刺してくれないかい?」
「?」


 不思議な顔のままで家を出たのだが、すぐに合点がいった。
 窓の下で小さくなっている三人の子供。
「逃げろっ!」
 誰かの声で走り出す。が、一人が躓いてべちゃっと転ぶ。少女が振り返って助け起こす。二人に気付いた少年が戻って来た所に、来客が立っていた。
「僕は言いつけたりしないよ? 話、聞いてたの?」
 問いに、リーダー格の少年・レオが観念したように頷く。
「パト婆から頼まれたんだろ? 俺たちがあんなもの発見したから……からくり屋敷を壊すのか?」
「え? じゃあ化け物を発見したのって君たちなのかい?」
 会話が噛み合わないが、全く気にしないで少女・ディアナが話し出す。
「あたし達、いつも三人でお屋敷を探険してたのよ。玄関ホールに三つのドアがあって、いつも左端から入るの。狭い廊下を通り抜けると、広いホールがあって。そこの鐘が突然が鳴って、そしたら」
「開いたんだ! 箱が! 今まで何をやっても開かなかったのに!」
 少女の言葉を引き継いだのは、転んで泥だらけのグーマー。
「いきなり開いた箱から、出て来たんだ。でっかい人形!」
「人形?」
 来客の質問に答えるのは、レオ。
「うん。じっくり観察したわけじゃないけど、天井に頭をぶつけてそのまま天井を擦ってた。二本ある手は短くて、足は無かったと思う。箱に入ったままだったよ。口から牙が二本生えてて、鞭みたいな爪だったぜ」
「ネズミと人形が合体したみたいな感じよ! 箱に入ったままで動かなかったけど、口から何か吐き出してるのも見たわ!」
 子供達の話をメモに記すのを見て、グーマーが泣きそうな声を出す。
「屋敷を壊されたら、遊ぶ場所が……爺ちゃんの思い出もいっぱいなのに!」
「大丈夫、屋敷を壊すようには頼まれてないよ。ただ、化け物は退治しなきゃならないから、場合によっては……かな」
「そうか……。パト婆だって屋敷を壊したくないよな。パト婆も爺さんの思い出は大事だろうし」
 レオは腕を組んで、年齢よりも大人びた口調で他の二人に目をやって言う。
「お爺さんとはいつも楽しそうに喧嘩してたしね」
「婆ちゃんが意地悪になったのも、あの話してからだし……退治できたら元に戻ってくれるよね?」
「うん、きっとそうよね」
 例の話をしたのが一週間程前、それから彼女の態度が豹変したのだという。
 屋敷には近付くな、この家にも金輪際入るなとまで言うようになり、話しかけても知らんぷり。
「パト婆は俺たちを心配してるんだろうな。意地悪くしてたら近寄らないと思ってるんだろうけどさ、俺たちにはお見通しだよ」
「お婆さん、本当は凄く優しいの。元ハンターだから、他の人よりもお話が面白くて、勉強になるのよ」
「おやつも美味しいんだ。僕また婆ちゃんのおやつ食べたいな」
「ハンターも来るし、屋敷はなるべく傷つけないように言っておくから、君たちはパトリシアさんに心配かけないように、待っててくれるかい?」
 三人は、顔を見合わせると無言で頷き、一枚の紙を差し出した。
「これは?」
「俺たちが書いたんだ。役に立つと思う」
「ふむふむ……玄関ドアは開かないから裏口から入る、入った先にはまたドア、五つあるね。これは右端か。廊下を抜けると玄関側に行くんだね。回れ右してドアに向き直り、出て来たドアの左隣のドアが大広間に続く、と。中々良く出来てるね。うん、ハンターに渡しておくよ」
「うん。俺たちは行っても邪魔になるから、宜しくお願いします」


「ハンターさんですかっ?」
 パトリシアの家の裏手で、依頼を受けてやって来たハンターが呼び止められた。
「あのっ、緊急事態なんです!」
 ディアナはかなり混乱しているようだ。代わりにレオが説明する。
「友達のグーマーが、どうやら屋敷に入っちゃったみたいなんだ! 一人だとすぐ迷子になるくせに。……グーマーも見つけてくれませんか?」
 見ると、レオが指差す先にはパンの食べカスが点々と道標を作っていた。

リプレイ本文

●出発の前に
「お兄やんたちに任せといてー」
 軽い調子のダガーフォール(ka4044)。
「迷子になっているグーマーの私物はあるかな? シバに匂いを覚えさせたいんだ」
 同行の柴犬を紹介しながら、ザレム・アズール(ka0878)が問う。
「ハンカチならあるよ。あいつの落とし物」
「それで十分だよ」
 屋敷内の簡単な見取り図を書き写し、或いは記憶し、軽く情報収集を済ませた頃、パトリシアの家からレオナルド・テイナー(ka4157)が出て来た。何か交渉でもしていたのだろうか。
「お仕事終わらせたら、ボクおばあちゃんのお菓子が食べたいな」
「すっごく美味しいのよ! オバケ退治したら食べさせてくれるかなぁ」
 シャリファ・アスナン(ka2938)の言葉にはディアナが頷く。
「まずはこのパン屑を辿ろうか」
 屋敷へと続く道標を指差し、スティード・バック(ka4930)。
「君たちはここで待っててくれ。約束だ」
「うん」
 ザレムはレオと約束の指切り。
「行こう」
 歩き出したハンター達の背中を、子供達は期待の眼差しで見送った。

●捜索開始
 裏口のドアは古く、小さい。軋むドアを押し開けて入った先には、横に長いホール。ドアが五つ並んでいる。
「早速仕掛けっぽいね」
 ドアや床、壁を慎重に調べながら、アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)。どのドアの前にもパン屑が同じように落ちている。
「早くも迷っちゃったのねぇ。あ、そうだコレ、グーマーちゃん捜索班に渡しておくわねぇん」
 言いながら、レオナルドは持参したクッキーをザレムに渡す。
「食いしん坊そうだしねぇ」
「そうだな」
 シバが左端のドアの前に貼り付いて、しきりに匂いを嗅いでいる。
「最短ルートは覚えてるけど、どうやら違う道を選んだようだね」
 言いながらアルトはスティード、ザレムと共にシバの嗅覚を頼って左端のドアへと進む。
「ボクたちは最短距離で広間に向かって雑魔を探そう」
「そだねー、道中連絡取り合いながらってことでー」
 シャリファ、ダガーフォール、レオナルドは右端のドアへ。
 同時にドアを開け、それぞれに進む。

●左端のドア
「暗いな……」
 携帯したライトの灯りを頼りに、狭い廊下を進む。シバを先頭に、慎重に。
「おっと、床に注意だね」
 踏み出した一歩をそのまま引っ込めるアルト。足元の床が盛り上がり、床板一枚が微妙な勢いで飛び出してくる。
「これ……新しい罠だったら乗った瞬間に跳ねるね? なんか床一面に似たようなのあるけど、スキルを使うまでもないし楽しそう……ボクも子供のときにこういう場所があったら入り浸ってただろうな」
 あちこちに悪戯じみた罠が仕掛けられているようだ。
「天井から紐……『引っ張るな』か。子供達ならすぐに気付く仕掛けだな」
 ザレムは紐を避け、さらには足元、膝の高さに張られたロープに気付いてそれを跨ぐ。
「子供の目線で行けばすぐ分かるだろうが……」
 スティードも大きな身体を屈めて、同じように進んでいく。その後ろにアルトが続く。
「ん? 行き止まりだ」
 狭い廊下の突き当たりを曲がると、目の前は壁だった。
「ここまで一本道だったが……隠し部屋でもあるのか?」
 スティードが振り返り問う。が、アルトも首を横に振る。
「いや、こっちで間違いはないと思う。シバがここだと……これは、箪笥か?」
「張り紙がしてある……『武器庫』?」
 アルトが見つけたのは、丁度子供達の目線に合う位置に貼られた紙。
「ひょっとしてグーマーはここに武器があると思ったのかもな」
(パト婆と前のように仲良くなれるように、オバケ退治をしようとしたのか……)
 ザレムの胸中を知る術はないが、三人とも同じ事を思ったのかも知れない。
「開けてみよう。慎重にね」
 アルトが促す。

●右端のドア
 廊下の右手には大きな窓が並んでいるが、何故か外の光が入らず薄暗い。
「この辺もあとで修繕しないとねー」
 窓やら壁やらを調べながら進むダガーフォールは、見取り図に何やら書き込む。
 シャリファが、壁に飾られた一枚の額縁に目を留める。光を反射している鏡の絵だ。そして廊下に差し込んでいるまばらな光とを見比べる。光は、窓側から差し込んでいる。
「……怪しいね」
 心なしか楽しんでいる様子のシャリファが、絵の中の鏡の部分に触れる。……と、どこかで木が触れ合う音が聞こえた。
「わぁお明るくなった! 凄い仕掛けじゃん、お爺さんやるねぇ」
 絵に触れることで外の光を取り入れる仕組みのようだ。廊下は明るくなったが、奇妙で不気味な装飾のお陰で油断する気にはなれない。
「これもこれもこれも皆雑魔に見えてくるわねぇん」
 ひょいひょいとスキップのような軽快な足取りで、レオナルド。……見事に罠を回避している。
 光の加減や壁の色遣いによって様々に表情を変える装飾の陰は、小さな雑魔などが入り込むのに恰好の場所といえる。
 因みにこの時レオナルドは、怪しい装飾物をこっそり壊していた。……今後の為に。
「あれ、行き止まりかな?」
「何か面白い仕掛けがあるんじゃねぇ?」
 突き当たりは何枚かの鏡の壁。映り込んだ姿を見ていると、突然それが途切れる箇所が。互いに頷いて確認し、その一枚を奥へと押し込んでみる。
「面白い仕掛けだねー」
「成る程ねぇ、ここ開けないとこっちのドアが開かない仕組みねぇ」
 三人が入り込んだのは玄関ホール。振り返ると、ドアが三つ。
「向こうも一本道みたいだね、ボクたちはこのまま進もう」
「そうね」
 別班からの連絡を確認しながら、それぞれに奥へと進んで行く。

●『武器庫箪笥』の前
 目の前の箪笥は、話に聞くリアルブルーの年代物のようなデザインで、引き出しや扉を備えている。
 彼らの目の高さにある扉を引き開ける。大きく開いた扉の中には、何も無い。軋んだ音が続く。
「下だ! 引き出しが」
「ん?」
 ザレムの声で見下ろすと、下方に並んでいた引き出しが上下に平行移動。やがてそれは中途半端な位置で止まり、大人一人が匍匐で入れる程度の隙間を造り出した。
「たすけて~」
『!』
 隙間の奥から、子供の声。
「行こう!」
 ザレムとアルトは素早く隙間を抜ける。子供の両手を広げた程度の奥行き。すり抜けて入った部屋は、かなり暗い。……スティードは身体が大きい分苦労したようだ。
「たーすけーて~」
 か細い少年の声が聞こえる。ライトを向けると、無数の汚いモップが視界を遮った。
 部屋中に長短様々のモップがぶら下がったり突き出たり。それに挟まれてしまったらしい少年は、身動き取れずに踞っていた。
 モップの間を器用にくぐり抜けたザレムとアルトが、モップを切断して少年を保護。その間、スティードは別班にグーマー発見の一報を入れる。
 別班は玄関ホールから続く廊下の先、大広間に続く両開きの豪華なドアの前に居るらしい。隙間から黒い靄が見え隠れしている……ドアの向こうに雑魔がいることは明らかなようだ。
「こちらはグーマーを連れ出して一旦外へ出よう」
「それがいいね」
 スティードの言葉に賛同する二人。スティードが抱えようとするが、グーマーはその場を動こうとしない。
「怒らないよ」
 ザレムが優しく説得するが、貰ったクッキーを握り締め、ふるふると首を横に振る。
 ……シバが低くうなる。
 睨みつけているのは壁。壁にある縦長に空いた隙間だ。そこから、嫌な臭いがしている。ライトの光の中に、黒い靄。
「この向こう側が広間なのか?」
 ザレムの問いに、こくこく頷く少年。薄い壁一枚を隔てた場所だ。引き返すにはモップの部屋と狭い廊下。
「離脱するにしても屋敷をかなり破壊しそうだな……」
 スティードの呟きにぎょっとした顔をするグーマーだったが、ザレムが優しく抱き頭を撫でる。
「大丈夫、お化けは俺たちが退治するし、なるべく壊さないように気をつけるよ。言う事を聞けるね?」
 少しの間を置き大きく頷くと、グーマーは差し伸べられたスティードの腕にしがみついた。
 一瞬の沈黙。沈黙はハンター達の作戦が一致した証拠。……次の瞬間、正面のドアと側面の壁から同時にハンターが突入した!

●『オバケ』
「……あれかな? 大きいね」
 シャリファが、目の前のモノを確認する。その右腕には、早くもトライバル模様の痣が浮かび上がり、淡く光を放っている。
 部屋の中央に巨大な箱が鎮座していた。箱から胴体が伸びている。足は無い。
 天井を擦る高さには、布を丸めただけの不格好な頭。ぐらぐらと不安定に繋がっている。
 雑に縫製された両腕は短く、こちらもプラプラ不安定。
 口からは二本の牙、両腕からは爪と思しき物体が鞭のように伸び、箱との境界線辺りから長い尻尾が生えている。
「どうやらその場から動けないようだな」
 パシィン! キシャアっ!
 振り回した尻尾や爪が壁を擦り床を打ち、甲高い鳴き声が響き渡る。箱はその場を動かないが、胴体は大きく揺らぎ、口から何かが零れ出ている。綿だろうか。
「皆、陽動は任せた。グーマー、動くな」
 低い声で言うと、スティードはその腕に少年をしっかりと抱え、脱出のタイミングを窺う。
「足場作ろうにも土がないんじゃアースウォールは無理ねぇん……んっんー残念!」
 レオナルドは机や椅子を避けながら走り、スティードと位置を入れ替わる。スティードは床を転がり一気に離脱すると、そのまま屋敷の外へと飛び出した。
 スティードを追うように伸びた尻尾に、ダガーフォールの鞭が巻き付き、鋭い風が刃を成して切り刻む!
「お相手は、こっち、だろ?」
 ぶぁさっと翼を広げてくるり回転。踊り出す雰囲気のレオナルド。
 ザレムとシャリファは背後に回り込む。
「箱は壊さない方が無難、か」
 高く跳んだザレムの一撃が頭の付け根を斬りつける! 放たれた雷撃によってびくりと大きく痙攣する人形は、古くて固い綿を撒き散らし揺れる。
 すぐにその場を離れたザレムと入れ替わるように、シャリファが机と壁を足場に跳ぶ。
「中身は何かな?」
 ザシュッ! 
 頭の付け根から下、背中部分を鮮やかに切り裂くシャリファのナイフ。
 ボフン……!
 綿と一緒に床に転がり出たのは、一抱え以上もあるネズミ型の雑魔だ。ビクビクと痙攣している。着地と同時にシャリファはその場から距離を取る。
「まだ何匹か入ってそうだね」
 同じように机を足場にして、アルト。狙うは右腕。繰り出される綿と爪を盾で受け止めながら接近! 連続する斬撃。
 右腕が床に落ちると、切れ目から巨大なネズミが姿を現す。
「ネズミにしちゃ、育ちすぎじゃねぇ?」
 鞭を尻尾の先端に巻き付けたまま、相変わらずのテンションで、ダガーフォール。
「ダガーフォールちゃん、そのまま動かないでねぇ!」
 ボヒュンっ!
 レオナルドの放った風の刃が尻尾を切り落とす。
 落ちてなお動き続ける尻尾に止めを刺すと、今度は痙攣していたネズミ型雑魔を鞭で捉える。動きを封じたところに、レオナルドの風の刃が炸裂! 一匹を無に帰す。
「尻尾はしぶとかったけど、やっぱ雑魚だよねぇ」
 見届けて、再び鞭を構える。
「ここは子供達とお爺さん、それと多分パトリシアさんの思い出の場所なんだ、お前が居て良い場所じゃない」
 机や椅子を足場に駆け上がったアルトが、燃え盛る炎のようなオーラを纏って冷酷に言い放ち、刀を振り下ろす!
 頭と左腕が床に落ち、同じようなネズミ型雑魔が床を這う。
「三体か」
 黒い幻翼を背に負ったザレムの目の前に、光が現れる。三角形を描いた光の頂点から、床の雑魔に向かって光が伸び貫いた! 一瞬にして三体の雑魔が塵と化す。
「尻尾の部分にもいるね」
 背面に回り込んだシャリファが、切り落とされた尻尾の付け根を切り裂く! 狙い通りにそこから転がり出たのは、一際大きなネズミ型雑魔。反撃を避けてその場を離れると、一瞬だが鳥の姿を纏ったアルトの刃が振り下ろされ、人形を三等分に切り刻んだ!
「……雑魔はこれ以上いないようだな」
 人形の残骸を見下ろし、アルト。
 床を這い回る巨大なネズミに、ダガーフォールの鞭が巻き付き動きを封じる。狙いを定めたレオナルドの風の刃が容赦なく切り刻み、走り込んだシャリファのナイフが止めを刺す。
 雑魔を取り込んで不気味に笑っていた顔から、牙は消えていた。

●それから
 スティードと合流し、全員で雑魔の残党が居ないかを確認してから屋敷を出る。日差しが眩しく感じられたが、太陽は早くも傾きかけていた。
 そこには、グーマーの無事を喜ぶレオとディアナの姿。
「優しいな。子供達も、大人達も」
 子供達を家の中から見守るパトリシアに気付いたスティードが、小さく呟く。
「グーマー」
「はひっ!」
 びくりと向き直るグーマーをじっと見下ろすスティード。
「オフィスの人間に、待っていろと言われた筈だな」
「う……うん」
「それでも屋敷に入ったのは、大好きな屋敷に出た化け物をどうしても倒して欲しかった。屋敷を守る手伝いがしたかった。黙っていられなかった。そうだろう?」
「…………うん」
 スティードは腰を下ろして視線をグーマーに合わせる。
「優しく誇り高い、良い子だ。これからは敵を恐れないだけでなく、的確に恐れることも覚えよう。そうすれば、もっと人の足を引っ張らず、人の役に立てる」
「……うん。分かった」
「怖かったろう、もう大丈夫だ」
「うん! ありがとう!」
「まさかお前が一人で行くなんてな。そんな勇気があったの、知らなかったぜ」
「本当ね、ちょっと見直したわ」
「えへへ……怒られちゃったけどね」
 安心して再びはしゃぐ子供達の話を聞いていると、今度またどんなヤンチャをしでかすか分かった物ではない。
 ハンター達は報告の為、パトリシアの家に向かう。
 しばらくしてドアが開くと、甘く香ばしい匂いが『子供達も』と家に招く。
 久し振りの時間だ。
 今日の『冒険』の話は、現役のハンター達から語られる。楽しい時間が過ぎて行くが、その中にアルトとダガーフォールの姿が無い。
 二人は、パトリシアから大工道具を借り受け、見取り図にメモした箇所の修繕に向かったらしい。

 それから数日間、からくり屋敷からは大工仕事の音や賑やかな子供達の声が響いていた。現役ハンターに触発されたのは、子供達だけではなかったらしいことは、後にハンターとなった子供達から語られる事になる。

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MVP一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズールka0878
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109

重体一覧

参加者一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 森の戦士
    シャリファ・アスナン(ka2938
    人間(紅)|15才|女性|疾影士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士

  • ダガーフォール(ka4044
    人間(紅)|25才|男性|疾影士
  • 狭間へ誘う灯火
    レオナルド・テイナー(ka4157
    人間(紅)|35才|男性|魔術師

  • スティード・バック(ka4930
    人間(紅)|38才|男性|霊闘士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
スティード・バック(ka4930
人間(クリムゾンウェスト)|38才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/08/17 23:38:22
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/08/17 09:26:19