• 闇光

【闇光】ガルドブルム再飛翔

マスター:馬車猪

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/12/11 09:00
完成日
2015/12/18 06:14

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●災厄の十三魔
 全身の筋肉が不規則に脈動している。
 筋の束が膨れあがり内側から鱗を割る。筋が収縮し巻き込まれた骨が細かく砕ける。
 それだけではない。
 今ガルドブルムの胃袋に詰まっているのは極一部とはいえ元は歪虚王九尾。
 十三魔程度食い潰してしまおうと、鱗に比べれば脆く柔らかな内臓に無数の穴を開けていた。
「無様なものだな」
 谷間に足音が響いた。
「蜥蜴如きには汚らしい地べたが似合いよ」
 命の気配の無い谷底を、単眼巨人が嘲弄しながら近づいてくる。
 種として大型のサイクロプスの中でも特に大きく、全高は11メートルもある。
 身に纏うのは1メートル越えの装甲。歪虚軍長級の歪虚だ。
「分不相応なその力、私が有効に使ってやる」
 ガルドブルムは視線さえ向けない。
 単眼鬼の嘲弄に苛立ちが混じる。巨大な拳に破壊の力を込めたとき、一瞬にも満たない間ガルドブルムに対する警戒を薄くしてしまった。
 ガルドブルムが強引に背筋を使う。
 技術もなくドラゴンの巨体が飛んで、尻尾がするりと伸びて単眼鬼の足の甲を打った。
「動かな」
 痛みも何も無いのに足が動かない。
 ガルドブルムが押さえて動きを封じたと気づけるほどの実戦経験は、この高位歪虚には存在しなかった。
『馬鹿が』
 ままならぬ筋肉を気合で動かし顎を大きく開く。
 そして、力のこもった拳とついでに腰へ噛みついた。
 こうなると繊細な動きは無用だ。九尾の血により増した力を解放し、柔らかなパンであるかのように食い千切った。
『不味ィ』
 痙攣する口でつぶやいた。
 床の上で痙攣する歪虚の上に、数秒前まで歪虚の一部であったものを吐き捨てる。
 それは断末魔すら残せず、ガルドブルムの一部になることもなく無意味に消滅した。
『薄くて間延びした愚物の味だ』
 垂れ下がる翼を引きずり、ゆったりした動きで寝床に戻る。
 両腕が意思に反して動く。鱗が砕けて血が軽く噴き出す。
『奴等は』
 共に九尾と戦った者達を思い出す。彼と真正面から戦い生き延びたハンター達を思い出す。
 無意識に喉が鳴り、谷全体が不気味に揺れた。
『旨そうだ』
 ガルドブルムはハンター達の力と成長を確信している。
 今も研鑽を重ね、より強く、より楽しめる戦いを出来るようになっていると断言できる。
 力の一部のさらに一部から九尾の性質が失われ、ドラゴンの血に融け全身を巡った。
『そろそろでかい船も使う頃か?』
 瞳にどす黒い炎が浮かび、低い笑い声が大地を揺らした。
 声が急に止まる。
 空から機械的な噴射音が近づき、ガルドブルムの手前十数メートルで岩肌を砕く音が聞こえた。。
『酷くやられたなァ』
 目を細めて歪虚CAMを眺める。
 唯一の得物は失われ、腰からブースターにかけて装甲と装置の一部が消失している。
 これほど壊れても飛ぶ地球の技術力に、ガルドブルムは深い関心と戦いへの期待を抱いていた。
『そらよ』
 血の一滴にも満たない負のマテリアルを使う。
 どす黒い肉塊が宙に出現する。CAMの腰に張り付いて不気味に蠢く。
『ちっ、複雑だな』
 ガルドブルムはここ数週間で初めて本気を出した。
 マテリアルを精密に操り、記憶にあるCAMの部品と外見を強く思い出す。
 肉塊が広がり、薄くなり、色が電子および機械部品に近くなり、形状まで元のパーツに一致しCAMの一部になった。
 歪虚CAMは2度3度と己の腰を確かめ、感激して見事な敬礼をする。
『そンな暇があるなら自己強化に時間を使え。ワイバーン共に倣っても構わんぞ』
 強い手下は戦に使える。ガルドブルムの力を狙って奪う強欲者は旨い敵になる。
 どう転んでも彼に損はなかった。
 CAMが小首をかしげた。主の要求に応える方法が分からないとでも言いたげだ。
『もう1匹が持て余している銃を使って訓練でもしておけ。ハンターの真似をすりァ嫌でも強くなるだろうよ』
 再度敬礼するCAMを気にもせず、次の戦いに備えて眠りにつくのだった。

●撤退命令。人類の事情
「補給はメーガン機から受けろ」
 ハンター達が出した真っ当な補給と整備の要求が却下された。
 補給部隊指揮官を、大型トラックに同乗する部下達がじっと見つめている。
「薄情なのは分かっとるわい。だが人類連合軍の命令を無視する訳にはいかんのだ」
 CAMも貴重だがCAMの修理や高度な改造を行える技術者ははるかに貴重で重要だ。
 そのため、CAM7体を半ば放置する形で補給部隊を下がらせる命令が出ていた。
「何だと」
 ハンターから報告を聞いて強面に凶悪な笑みが浮かんだ。
「歪虚化CAMが使っていた、歪虚の影響がある30ミリAR? それを早く言え。一番使えない……そうだよメーガンだよ、とにかく急いでこっちに運ばせろ」
 周囲から向けられる非難と呆れの視線を無視して舌なめずりする。
「残る6機は例の血の処理を……既に消えている? なら出所を偵察してから帰ってこいという命令が出ている。CAMも操縦経験者も貴重なんだ。死ぬなら有効に命を使え」
 彼は通信を終え、自らが信じる神に戦友の武運を祈った。

●最後の進撃
 あなた達の駆るCAMは進撃を再開した。
 雪原には何かを掘り起こした穴が目視できるだけでも数十、北東に向かって続いている。
 警戒しながら進んでいくと、過去の記録と一致しない地形が見えた。
 非常識に硬く速いものが抉った谷が遠くに見えた。
 その周辺は濃い負のマテリアルで覆われて雪が消え、乾いた荒野ばかりが広がっている。
 谷を伺うように飛ぶのは、ガルドブルムには劣るが非常に大きなドラゴン。
 谷を守るため地上を固めるのは、倒したはずの歪虚CAMスナイパーライフル装備と、手足が太く妙に動きの良い素手の歪虚CAM。
『引き渡しを完了した。今からそちらへ向かう』
 メーガンは戦闘には間に合わないだろう。
 谷の奥から強烈な存在感があり、加速度的に強さを増している。
 現時点でも歪虚軍将級だ。放置すればどうなるか分かったものではない。
 現状選べる策は大きく分けて3つある。
 1つは谷の奥を確認だけをする。
 もう1つは谷の奥の何かを破壊するか最低でもダメージを与える。
 最後の1つは回れ右して撤退しCAMを整備兵に引き渡す。
 どれを選ぶか、1人1人が決めるしかない。

リプレイ本文

●北
 空には4体のドラゴン型歪虚。
 地には歪虚がCAMが2体。
 いずれ劣らぬ脅威であるはずなのに、谷底から吹き上がる気配は6体の歪虚全てよりも禍々しい。
「普通に考えれば退くのが賢い選択だろうな」
 ゼクス・シュトゥルムフート(ka5529)の機体が北上している。
 2対の視線を感じる。
 分厚い鱗と脂肪と筋肉で覆われたドラゴンが2体、安定した飛行で旋回しつつ人類のCAMを見下ろしている。
「上は情報が欲しいのでしょうね」
 隣を飛ぶCAMの操縦席で、フィルメリア・クリスティア(ka3380)が戦闘開始前最後の装備確認を行っていた。
 銃弾の残量は1戦するだけなら十分。マテリアルは前回と前々回の戦いをもう1度繰り返せる程度は残っている。
 着地後ブースターが再発動し、極短時間で200メートル進む。
「本当はちゃんとした整備をさせてあげたかったけど。もう一頑張り、私の無茶に付き合ってね……サフィラス」
 本格的な整備無しでの大規模戦闘3回目だ。飛行距離数割減で済んでいるのはフィルメリア達の技術と戦いの巧みさ故だろう。
「放置しておくとかなり危険極まりないのは確かだ」
 地平線の近くで小さな光がうまれた。
 105ミリの弾丸が飛来、CAMの下半身を隠す位置にあった丘にぶつかり雪煙を発生させる。
「となれば……やる事は一つだ」
 ゼクスは目の前の光景と視界隅にある鳥瞰図を同時に注視していた。
 ドラゴンには不自然なほど動きがない。
 罠というにはあまりにお粗末だ。歪虚内部での抗争かあるいは別の何かか、いずれにせよこれも貴重な情報になる。
「正直、分の悪い所の話じゃない賭けだが……賭ける価値は有りそうだ」
 口元だけで微笑み、ゼクスはフットレバーを思い切り踏み込んだ。
 CAMが地面と水平に飛行する。
 地面の凸部分を遮蔽物として利用する動きだ。
 北600メートルで歪虚CAMが膝をつき、中に残されているプログラムに忠実に構えて引き金を引く。
 フィルメリア機がブースターを急減速。その5メートル先を105ミリが通過する。
「回避しなければ当たっていたわね」
 熟練のCAM乗りの技術も覚醒者の圧倒的身体能力も感じないインストール済みのプログラム頼りの敵の動きだった。
 だが、亀の歩み程度の技術向上があった。
「今見過ごしたら、必ず後で後悔する事になる」
 サフィラスが抜き身のカタナを構えた。
「此処で可能な限り力を削ぐ……!」
 ゼクス機と同時に飛翔。
 着地、走行、飛翔を繰り返す。2発の105ミリを浴びた後、両者カタナを構えたまま歪虚CAMを挟み込む形で着地した。
 歪虚CAMが平衡を保ったまま後ずさる。左右から両断されるだった刃の間合いから逃れる。
「判断が良い。自力習得ではないな。誰に教わった?」
 ゼクスは焦りも驚きもせず左腕の武装を使用。ガトリングガンが多数の30ミリ弾をばらまきそのうち2発が歪虚CAM胸部に命中する。
「回避の腕はまだまだみたいね」
 サフィラスが歪虚CAMとの距離を詰め、砲並みの大きさのスナイパーライフルを狙いカタナで突いた。
 歪虚CAMが連合軍の教科書通りの足取りで回避行動をとる。
 動いた歪虚にとっても予想外だった。カタナが歪虚CAMの肩を掠めて空振りしてしまう。
「6割を外すか」
 フィルメリアには特に悔しさはない。
 特定部位を狙うなら命中率減少は当然。繰り返せば当たる程度の命中率はあるし、当たれば武装が1つしかない歪虚CAMを無力化できる。
 歪虚CAMのブースターが光る。
 フィルメリアが追うためにブースターを起動させ、視界隅の鳥瞰図の変化に気づいた。
 ドラゴン2体こちらに向かっている。体格の割りに速度もかなりある。
「アルファス、退避」
『攻撃を続行してください』
 南から105ミリ弾が到着、ゼクス機との間を抜けて歪虚CAMの脇を掠めた。
 歪虚CAMブースターの向きが慌てたように変わる。安定が失われ、歪虚CAMがシールドから地面に倒れてそのまま滑って西へと向かう。
「気づいた、動く気はない、か」
 ゼクスはブースターの先行入力を行いながら意識を谷へ向ける。
 こちらを観察している。目ではなく耳でこちらを捉えている。
「順番に片付けるさ。フィル!」
「ええ」
 2機のデュミナスがきっかり95メートル跳躍。雪原に半ば埋まった歪虚CAMを目指し、誤差2メートルの着地に成功した。
 歪虚CAMの左腕が跳ね上がりシールドがゼクス機を向く。
 ゼクス機のカタナが左肘を切断しシールドごと雪原に転がる。
 サフィラスが着地でも消しきれぬ速度をカタナに乗せて、右手首ごとスナイパーライフルを砕く。
 まるでだれかの祈りとマテリアルが後押ししているかのように、切っ先は速度を保ったまま歪虚CAMの操縦席を貫いた。
 絶妙のタイミングで歪虚CAMの動きを乱して勝負を事実上決めたアルファス(ka3312)ではあるが、うっすらと緊張を浮かべたまま操縦桿を忙しなく動かしていた。
 北から見れば塹壕に似た地形からアルファス機シグルドが立ち上がる。
 邪魔にならぬようスナイパーライフルを抱え、西へ向かって百数十メートル飛んだ。
 数秒遅れで、寸前まで彼がいた場所から50メートルの場所を大型ドラゴン2体が通過した。
 アルファスの首と目が残像が見えかねない速度で動く。
 ドラゴンの進路上には半壊した歪虚CAMが1体と仲間の機体が2機。ドラゴンの注意を向ける割合は、半壊CAM7割に人類CAMの背中3割。
「止めを刺しきれないなら一旦後退を。味方と合流します」
 歪虚CAMはしぶとく回避を続けている。
 躱し、急所以外で受け、削られながら立ち上がり後退を行い時間を稼ぐ。
 味方2体が攻撃を中止しブースターで飛んだ数秒後、ドラゴン2体が左右から食いついて歪虚CAMを引きちぎり、残骸を1つも残さず飲み込んだ。

●南
 雪ノ下正太郎(ka0539)はわざと派手に機体を動かしながらアサルトライフルで撃った。
 3発の30ミリ弾が歪虚CAMをかすめる。
 外れたのではない。発砲直後に歪虚CAMが数センチすり足で横移動し紙一重で回避したのだ。
 歪虚CAMのセンサーが正太郎機の移動速度を測定する。己の足とブースターの性能と比較検討し、北東から隙をうかがう反逆者2体の様子を確認した後最終的な決断を下した。
「ああ、俺がお前の立場でもそうするよ」
 銃どころかシールドも持たない歪虚CAMが、正太郎機を無視して谷の入り口に向かっている。
 正太郎は心を乱さず。体を律し。当てることを最優先に背中を狙う。
 今度は回避も容易ではない。歪虚CAMは移動より回避を優先し、1メートル以上横へ跳び30ミリを回避した。
 北東のドラゴンの動きが変化する。
 可能な限り谷へ近づかず、歪虚CAMとハンターの勝敗が決まれば敗者を食える位置まで前進してひたすら機会を伺う。
 正太郎が操縦桿の一部を撫でる。
 アサルトライフルの温度や摩耗具合、現在弾倉に弾数と携行中の予備弾薬数が視界隅に現れる。
「いけるが、チキンレースだな」
 歪虚CAMにも余裕はないはずだ。回避能力は高くても長射程の攻撃手段がない上、強力なドラゴン複数が敵として存在するからだ。
「仕掛けます」
 マリアン・ベヘーリト(ka3683)が操縦席でひとつ息を吐いてから機体を前に進ませる。
 バランサーや操縦補助の設定は初期のものに戻している。
 不具合としか感じられない挙動に散々悩まされなんとかしようと足掻いた結果、脱力するしかない事実が判明した。
 この機体に不具合は存在しない。熟練ハンターが能力を5~7割しか発揮できない形で完成している。
 サルヴァトーレ・ロッソと大勢の覚醒者が、決して少なくない時間と資材と才能を投じて出来たのがこれなのだ。
 もちろん1人1人が動かし易い設定はあるだろうが、1戦や2戦の経験を反映させても劇的には改善しない。
 マリアン機がブースターを使わず前に出る。カタナは蜻蛉に構えて超攻撃的だ。
「正太郎、C1の回避妨害のみを狙う」
 Gacrux(ka2726)の声に焦りはない。徹底した平常心だ。
 歪虚CAMの西へ回り込む。マリアンが攻めかかると同時に発砲する。
 Gacrux機のアサルトライフルが吼える。
 マリアンの攻めと同じタイミングで、歪虚CAMではなく歪虚CAMが回避するための空間に銃弾を配る。
「そこまで徹底するのか!?」
「今打てる手の中では最良です」
 マリアン機が高速でカタナを振り下ろす。
 初めて見る動きに歪虚CAMの反応が遅れはしたが、遅れてもなお余裕をもって上半身を反らして刃を回避する。
 マリアンがコンボを再度実行する。
 達人でも連発はできない精度で攻めが続く。
 なのに当たらない。
「分かった。……いつまで続ける?」
 正太郎機が横移動と射撃を繰り返す。
 敵の至近距離にいるマリアンを誤射しないよう、細心の注意を払って位置を変え狙いをずらし引き金を引き続ける。
 マリアンの乱れつつある呼吸が聞こえる。
 1対1なら20攻撃して1当たれば幸運という相手だ。恐怖に陥らず攻撃を続行できているだけで十分凄い。
「残弾が2割を切るまで。ドラゴンは高みの見物を続けるようですから」
 Gacruxは冷静にしか見えない。
 一瞬漏れた殺気が機体内のディスプレイを震わせたのは、おそらく目の錯覚だ。
 歪虚CAMが30ミリの豪雨をすり抜けすり足で後退する。マリアン機がガトリングでばらまき、初めて歪虚CAMの装甲に銃弾を撃ち込んだ。
 Gacruxが冷静に指示を出す
「ドラゴンの現在位置は変わらず。北はセンサー有効範囲外で詳細不明。攻撃続行を提案します」
「了解」
「了解」
 正太郎の30ミリ弾が歪虚CAMの二の腕を抉った。
 マリアン機が思い切りよく踏み込んでこれまでと同等の冴えの剣を振るう。
 が、歪虚はこれまでの攻撃で動きを見きっていた。半歩の移動で刃を躱し、Gacruxの弾幕に捉まる直前まで前進して拳を繰り出す。
 操縦席が激しく揺れる音が、マリアンの回線から聞こえた。マリアンが立て直すが装甲は当然傷ついたままだ。
 Gacruxの表情は凍ったように動かない。
 敵の回避を制限し、ときに味方への攻撃を妨害することに徹し、1度も自分では打撃を与えない。
 最初に焦りを見せたのはドラゴンだ。
 人間が不利と見て歪虚CAMを挑発する形で進退を行い始める。
 最初に余裕が無くなったのはマリアンだ。攻撃と防御を行う分疲労が激しい。
 そして、最初に隙を見せたのは圧倒的に有利なはずの歪虚CAMだった。
 北から爆発音が聞こえる。
 ドラゴンの歓声に似た咆哮とCAM3機が接近する音が届く。
 ただ1機の同属が滅んだことに気づいてしまい、歪虚CAMは100分の1秒にも満たない間動揺した。
「隙を見せましたね」
 コンボではなく通常の突きが、歪虚CAMの胸を貫通して核を貫いた。
「消えないか」
 Gacruxは1秒かからず判断を終えた。
「残骸とドラゴンを放置しアルファス班との合流を提案します」
 異論はどこからも出ない。
 3機はブースターに火を入れ、崖沿いに北上して味方との合流を目指した。

●再飛翔
 シグルドが崖上に姿を現す。
 崖底に寝転ぶドラゴンが身を起こす。
『遅かったじゃ』
 連続する30ミリの轟音が、災厄の十三魔ガルドブルムの台詞をかき消した。
「20秒後の撤退を提案」
「同意する」
 Gacruxが銃撃に加わる。
 光の線が谷底に伸び、多数の裂傷に覆われたドラゴンに降り注ぐ。
「削りきるのに5分はかかる」
 Gacruxの推測はほぼ正確だった。
 アルファスは彼我の戦力と戦場の状況に加えて、歪虚王2体を含んだ広大な戦場まで考慮に入れ高速で思考する。
 その上で改めてガルドブルムを見る。
 重傷にしか見えないのに感じる圧力は既存情報の最低でも数割増し。瞳は闘志と歓喜で輝いている。
 巨大な翼は雄々しく広げられ、膨大な負のマテリアルが集まり飛行のための力に変換中だ。
「大規模作戦参戦回避のみを目指します。皮膜部分を破ってください」
 成功率3割で狙えた翼の付け根の破壊ではなく、確実に成功する翼機能の一部低下を目指し銃口の向きを変えた。
『最少の戦力で敵大駒の足止めたァ』
 厚さの割りには頑丈とはいえ30ミリの鉄の雨には耐えられない。
 穴が開き、穴と穴が繋がる。
『良い判断だ』
「20秒経過。ブースターの消耗が深刻な方から退却を」
 同時に下がるほど空間の余裕が無い。
 最初に2機、数秒遅れで2機が離れ、正太郎機とジグルドだけが残った。
 ドラゴンがからかうように、鱗が脱落し薄い肉だけがある傷口を見せる。
 当たれば討てる可能性が確実に有った。
「性格の悪い歪虚だ」
 数パーセントの成功率に賭ける気は無い。
 正太郎が吐き捨てブースターを起動する。アルファスも無言のまま歩調をあわせ、谷とガルドブルムに背柄を向け飛んだ。
「ドラゴンっ」
 ブースターの向きを変え急上昇。
 横から飛んできた巨体がCAMの足下2メートルを通過し崖の近くへ着地した。
「止まるな。全力で撤退しろ!」
 機体を走らせながら正太郎が呼びかける。
 飛行に比べれば走行速度は非常に短いけれども、今このときは10秒あたり1メートル速度が上がるだけでも価値がある。
 目に嘲弄を浮かべて追って来るドラゴンに対し、正太郎だけでなくハンター全員が銃を使わず逃げ続ける。
 そして1分が経過した。
『力が増しても頭がカラなら生きてても仕方ねェだろ』
 どこにも姿が見えないのにガルドブルムの声が明瞭に聞こえた。
 崖の端が赤熱している。
 赤い部分は急速に広がる。100メートル伸びた所で小爆発が発生、その中から極太の熱線が噴き出した。
 ドラゴンが炎に覆われる。数秒経過して内側から弾け、残骸の消し炭は雪原に落ちる前に消滅する。
「この力――進化してるのか」
 アルファスの白い頬に汗が伝う。
 崖から別方向に赤熱が伸び、十数秒後煮立った岩の中から極太の熱線が宙に伸びる。
 熱線はドラゴンの群れをまとめて覆うほど巨大であり、ドラゴンは回避も防御も許されずに一瞬で命を絶たれ数秒で消し炭に変えられる。
「歪虚CAMに、欠片で歪虚化する肉片や血……。獄炎の血肉を吸収したからか」
 ガルドブルムの大きさは変わっていなかった。
 歪虚王に成り上がった訳でもなく、つけいる隙もおそらくはあるのだろうが……。
「歪虚王2つと同時に戦える相手ではありません。間一髪でしたね」
 安堵の溜息をつき、アルファスは仲間と共に大回りして拠点に帰還するのだった。

 ガルドブルムのブレスは遠方にいたメーガン(kz0098)の機体でも観測できた。
 ハンター達の報告と共に後方に届けられ、警戒を促す情報が各国に送られた。

依頼結果

依頼成功度成功
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MVP一覧

  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacruxka2726
  • 《聡明》なる天空の術師
    アルファスka3312

重体一覧

参加者一覧

  • 人と鬼の共存を見る者
    雪ノ下正太郎(ka0539
    人間(蒼)|16才|男性|霊闘士
  • 見極めし黒曜の瞳
    Gacrux(ka2726
    人間(紅)|25才|男性|闘狩人
  • 《聡明》なる天空の術師
    アルファス(ka3312
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 世界より大事なモノ
    フィルメリア・クリスティア(ka3380
    人間(蒼)|25才|女性|機導師
  • うさぎ聖導士
    マリアン・ベヘーリト(ka3683
    ドワーフ|20才|女性|聖導士
  • 【ⅩⅢ】死を想え
    ゼクス・シュトゥルムフート(ka5529
    人間(蒼)|25才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/12/11 07:40:30
アイコン 質問卓
Gacrux(ka2726
人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/12/10 05:56:27
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/12/07 14:28:11