魂への繋がり

マスター:鷹羽柊架

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/01/20 07:30
完成日
2016/01/22 09:47

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ファリフがシバと最後に会ったのは連合軍結成の時。
 シバに会った時、彼はとても疲れたような影を見たファリフは目を見張る。
 彼は確かに齢はかなりの高齢であるが、このように老けていただろうかと目を疑う。
「ファリフか」
 姿を確認したシバはいつも通りの笑みを浮かべる。
「お久しぶり」
 いつものシバさんだと納得したファリフは「最近はどぉ? テトを困らせてない?」と声をかけた。
 世間話のあと、ファリフは連合軍の話をした。
 シバの耳にも連合軍の話は聞いており、彼はどこか遠くを見ているような表情を見せる。
「……シバさん?」
「あのようなものを結成するとはな」
 赤き大地の地平線を見つめたシバの声音がファリフにはとても弱く感じた。
「シバさん、気弱だなぁ」
「いずれ分る」
 日か傾いてきたのか、シバの表情が逆光でよく見えない。
「シバさん?」
「早く戻るがいい。お前の帰りが遅いと儂が大巫女に怒られるからのぅ」
 いつもの好々爺の表情を見せたシバにファリフは笑う。
「まぁ、シバさんはおじいちゃんだからね。大巫女にどつかれたら寝込んじゃうよね」
「カッ! 儂を老人扱いするとは!」
 シバの笑顔が見れたファリフは満足したように手を振って大巫女の下へと帰って行った。

 そして、その数ヵ月後、シバはハンター達に自身の命をぶつけ、赤き大地へと還る。


 シバの遺言を受け取ったファリフは程なくしてホープへと戻る。
「また、来てね。次は遊びに」
「うん。また熱いお茶をご馳走になるよ」
 少しの間、お世話になったドワーフ工房を去ろうとするファリフにカペラが微笑む。
「ファリフ・スコール、君に伝えたい情報がある」
 ドワーフ達を掻き分けて言ってきたのは工房管理官であるアルフェッカ・ユヴェーレン。
 帝国の軍服に身を包んだアルフェッカに対し、ファリフは無意識に警戒するような様子を見せていた。
「部族なき部族が歪虚に襲われた話は聞いたか」
 その名を耳にし、ファリフは目を丸くする。
 引き続き、アルフェッカから聞いたのは部族なき部族の生き残りがハンターに依頼して生き残った者達を救出していったというものだ。
「戻るか、お嬢ちゃん」
「うん」
 フェンリルに乗ったファリフはドワーフ工房の技師達に手を振ってホープへと戻った。

 ホープへ戻ったファリフとフェンリルは即座に部族なき部族の人達の元へと向かう。
 彼らがいた場所に飛び込むと、痛みを堪え、横たわっている者や、眠りに落ちてもうなされる者がいた。
 襲撃されたときの凄惨な状況を察してしまう。
 気が付いている者がいないか、探すと、ファリフの名を呼ぶ微かな声が聞こえた。
「山羊さん……! 生きてたんだ!」
 ファリフが山羊と呼ばれた壮年の男の傍らに向かう。
「……ファリフ……無事だったか……」
 なんとか笑おうとする山羊は怪我からか、視界がはっきりしてない様子を見せていた。
「山羊さん、テトは」
 ファリフの問いに山羊は首を振った。
 最後にテトと会ったのは確か、連合軍が結成してほどない時……シバと最後に会ったときだ。
 今回の件でファリフが心配したのはテトのこと。
 しかし、山羊は口を開かず、再び気を失うように眠った。
 今は眠らせる方が優先だ。
 部屋を出たファリフは情報を探しに行った。
 どうやら、テトはハンター連れて部族なき部族を救出したあと、行方をくらましたようだった。
 とても気落ちしていたという話であったという。
 そして、テトの事……状況を考えると、ファリフもまた、身に覚えがある。
 テトはシバの跡を継ぐ戦士だ。
 ファリフがうろたえても状況が転ぶことはない。自分に出来る事をしようとファリフは更に情報を探す。
 確認した所、この場にいる人たちは全員ではないことにファリフは気づいた。
 テトの他にも散り散りになった者達がいるだろうとファリフは推察する。
「心当たりあるのか、お嬢ちゃん」
 フェンリルがファリフを包み込むように自身の大きな尻尾を巻きつかせる。
 ふわふわとした美しい白蒼灰の毛は温かく、毛並みも艶やかでファリフの肌を滑り落ちていく。
「ホープの近くに正のマテリアルが多くある古い土地があるって聞いたことがあるんだ。名前はガテーだったはず」
 記憶を掘り起こしながらファリフはフェンリルの毛並みを撫でる。
「部族なき部族の人たちなら、きっと知ってる。誰かいるかもしれない」
 歪虚の再襲撃を考慮し、ホープに向かわず、分散するのであれば、そこに集まる可能性もあるとファリフは考えている。
「テトもそこにいればいいけど……」
 そっと瞳を伏せるファリフだが、悩むのをやめて即座にハンターとスコール族へと連絡を取った。

リプレイ本文

 雪が降る中、ハンター達が現地に到着すると、ファリフとカオンが出迎えてくれた。
「皆様、駆けつけてくださってありがとうございます」
 たおやかに礼を述べるカオンは今回応じてくれたハンターの中に見知った者を見つける。
「はい、今回もよろしくお願いします」
 紫条京真(ka0777)が言えば、カオンも頷く。
 一方、ルシオ・セレステ(ka0673)、オウガ(ka2124)、アイラ(ka3941)は硬い表情を見せていた。
 その中で沈痛な表情を見せていたアイラに花厳 刹那(ka3984)が視線を向けると、彼女は「大丈夫」と刹那の気遣いを受け入れる。
 彼らは砦の救出にも向かっていたからだ。
 その際に遭遇したあの黒い敵……全て黒に塗りつぶされたようなあの歩兵達を思い出さずにはいられなかった。
 再び、相見える可能性もある。
「ファリフくん……奴らが撤退したかは分からない。再び、彼らを狙う可能性はあるよ」
 アイラの言葉にファリフはゆっくり頷いた。
「ガターってどんなところか教えてくれないか?」
 オウガはファリフの様子を伺っていたが、彼女は動じる様子もなかったので、土地について尋ねる。
「山自体は高くはないんだけど、周囲にある谷が結構深いんだ。その中にある土地なんだけど……」
「なんだけど?」
 ファリフの言葉尻をとったのはルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)だ。
「ボク、行った事がないんだ。知っている人だっておじいさんおばあさん世代だし、今は人が通る事もない場所だから」
 申し訳なさそうにファリフが言えば、更にカオンが続く。
「ホープにて保護しております部族なき部族の方々のお話では、その土地では、生えっぱなしの木々の中に隠れるように家があると伺っております。
 今は冬で雪も降り積もってますので、雪に隠れている状態だそうです」
「……谷ってぇと、風も強いから足跡なんざ、すぐに雪で均されるな……」
 思ったより、難易度が上がった事に気づいたオウガは思案しつつ呟く。
「それでも行きます」
 危険を承知で応えたのはルシオ。
「シバの遺した『子供達』を助けに行きます。
 ……何度でも」
 静かな決意を見せたルシオの言葉にファリフは穏やかに微笑む。
「ありがとう。ボクも一緒に行くよ」
 皆が行く準備を始めると、雪は止んでいた。

 雪が止んでいる内に探しに行く事になった。
 今日の天候だと、吹雪にはならないと思うが、この時期、何が起こるかはわからない。
 目的の場所がホープから近いのはありがたい。
 空を見上げると、昇ろうとする太陽にアイラはそっと目を細める。
「……テト、無事だといいけど……」
 思い出されるのはテトの事。
 己を責め、恐慌に震え、ハンター達に謝りながら案内していたテト……あの依頼を受けたとき、彼女に笑顔は戻ってなかった。
 そしてハンターがホープから出た後、いなくなったという。
 ファリフがホープに戻ってきた時にはテトの姿はなかった。
「信じようぜ」
 先を歩くオウガも空を見上げ、視界の端に太陽を捉えている。
「なにせあのじいちゃんが育て上げた部族なんだ、しぶとく頑張ってるさ」
「そうだね」
 アイラはオウガの背を見て、心から彼の気持に同意した。
 気休めでも、そう言わなければ心が持たない。
「占いでも、今は悪い事が当たってても、信じていれば、いつかの未来にはひっくり返せる事だってあります」
「ルンルンさんの言うとおりです」
 にっこり笑顔のルンルンに刹那も頷く。
「そろそろ一度休みましょう」
 ストップをかけたのは京真だ。
「雪道は体力の消耗が激しいです.。助けに行ってもこちらの体力が切れたら意味がありません」
 京真の言葉に全員が納得し、休憩となった。
 周囲に集落などがあるわけもなく、皆、その場で休むというか、立ち止まる。
 女性陣はフェンリルの毛の中に手を入れて暖をとっていた。
「もふもふ、つやつやです……!」
 刹那がフェンリルの毛並みを撫でつつ触った感じを楽しんでいる。
「温かいですっ」
 ルンルンもはしゃいで毛並みの中に両手を入れている。
「……ちゃんと梳かしてくれよ?」
 ファリフに「ボクだけじゃなく、皆も温めてあげてよ!」と言われたフェンリルは女性なら仕方ないと為すがままの模様。
 ルシオはその様子を横目で眺めつつ、周囲の警戒は怠っていない。
 ちなみに、このあと、フェンリルの軽口が現実となり、手櫛で整える事許された女性ハンター達はフェンリルの毛を繕っていた。
「今はどの辺りだ?」
 オウガの問いにファリフは周囲をきょろきょろと見回して、何かをいくつか見つけたような様子を見せる。
「大体、中間地点かな」
「何か目印でも?」
 京真が問うと、ファリフは雪で埋もれている木や岩が目印になっていることを教えた。
「ここから下るけど、滑った方が楽かもしれないくらいだから、膝には気をつけてね」
 注意を促すファリフにハンター達は了承してくれた。

 再び出発し、 ガターへと向かう。
 目の前に山が迫るが、ハンター達は登らずにそのまま下の道を下っていく。
 下り道の入り口となる地点で、手を伸ばせば捕まえられる木を見つけたルシオはその枝目掛けて手を伸ばした。
 木に何かないか探していたが、特にはなかった。
「特に暗号のようなものはないね」
 ファリフも頑張って覗き込んで確認している。
 皆が下へと向かっている殿はオウガと京真であり、二人とも、後ろからの襲撃を警戒していた。
「音は?」
「いや、聞こえてない」
 まだあの黒い歩兵達が闊歩しているのかと警戒を高めていたが、現時点ではそれらしい音は聞こえなかった。
 安心しきることはできないが、このまま何事もない事を祈るばかりである。

 ガターに入ったが、どこに皆が隠れているか分らない。
 出発する前の雪で足跡が埋もれた可能性があり、昼間は隠れているとすれば足跡からの追跡は難しいだろう。
「これでは埒があかないね。二手に別れようか」
 ため息混じりに呟くアイラに皆が同意した。
「それでは、伝話にてお知らせしますね」
 刹那が言えばルシオが頷き、二手に分かれる。
「ではでは! いっきますよー!」
 気合を入れたのはルンルンだった。
 集中をして式にマテリアルを込める。式にはるんるんと書いてあり、可愛らしい人型の式だ。
「ジュゲームリリカル……ルンルン忍法道案内!」
 式を放つと、風に乗る様に式神が前へと進む。
「行きましょう!」
 ルンルンが元気よく言えば、ファリフ達もついていく。
 ファリフ班を見送ったカオンは自分もまた、ハンター達と共に捜索にあたる。
「お待たせしてすみませんっ」
 わたわたとハンターの下へ駆けるカオンを見たアイラが「あっ」とカオンへ声をかけるも、彼女は転んで……というか、頭から雪に突っ込んでしまう。
「だ、大丈夫ですか!」
 驚いた刹那がカオンに手を差し伸べると、カオンは照れ笑いで「すみません」と謝り、差し出された手を握り、立ち上がる。
「急いではいますが、慌てなくて大丈夫ですよ」
「はい」
 京真が穏やかに諭せば、カオンはしっかりと返事をした。
「カオンさんはファリフちゃんを大事にされてますね」
「ええ、大切な長です。あの子は一族を守る立場ですが、可愛い子ですので、何かと過保護にしてしまいます」
 刹那に声をかけられたカオンが嬉しそうに答え、ファリフへの過保護を何とかしようと考えているというのが伝わる。
「ファリフ君は成長してると思うよ」
 振り向いたアイラが言えば、カオンも頷く。
「今は時間が取れませんが、いずれ、皆様からもファリフのお話が聞きたいですが……アイラ様」
「聞こえてる」
 超聴覚を展開したアイラとカオンが目を合わせる。
「オウガくんが私たちを呼んでる」
「方向は」
「こっち」
 京真が問うと、アイラが前に出て、足跡が見えない雪原を早歩きで踏みしめていく。

 少し時間を巻き戻し、ファリフ達もルンルンの方向へと歩いていった。
 冬を前に葉を全て落とせなかった木も多々あり、雪を受けて重そうにしなっている。
「俺たちはハンターだ!誰かいないか!」
 大きな声を上げて呼びかけているのはオウガだ。超聴覚で集中しているが音が聞こえない。
 ハンター達を味方と分からず、息を殺しているのだろうか……聞こえるのは仲間達の部族なき部族のメンバーを呼ぶ声が谷に吸い込まれていく音ばかり。
 何度も声を呼んだが、ここにはいないのだろうか。
 ルンルンも眉を八の字にして困っている。
「もう少し向こうですかねー」
 大声を上げて体力が減ったのか、ルンルンが肩を落とすように大きく息を吐く。
 ルンルンにも向こうで仲間達が部族なき部族のメンバーを呼んでいるだろう声がかすかに聞こえていた。
「信じて、呼び続けよう。まだ日は高いから」
 ファリフの言葉に全員が頷き、再び声を上げていく。
 立ち止まったルシオは空を見上げる。
 シバが遺した『子供達』に上手く手が伸ばせない。声を上げても応えがない。
 何度でも助けたいとルシオは静かに強く想う。
 その祈りは自分だけの祈りではない。

「私の声を……憶えているかい?」

 ルシオだけではない想いが言葉となり、喉を振るわせ、祈りの声と成す。

                「……にゃぃ……」

「テトか! 俺だ、オウガだ。ルシオもアイラもファリフもいる!」
 ようやく聞こえた仲間以外の声にオウガの声が一気に明るくなる。
 程なくして、前方より雪を掻く音が聞こえてきた。足跡も何も無い場所の向こう側から雪が崩れていく。
「ハンターと、スコール族の長……よく来たわね」
 姿を現したのは辺境の民族衣装姿の女性で剣は手にしていたものの、戦意はなかった。
 怪我をしており、包帯から血が滲んでいる。身体の調子が戻れず、自己治癒が行われていないことを察する。
「生きている人達は今、ホープにて保護している。君達はスコール族で傷と体力を回復してほしい」
「スコール族で……?」
「また、奴らに狙われる可能性とリスクを分散するためだ」
 女戦士はハンター達の向こうから仲間だろうハンター達とスコール族長代理の姿を見た。
「テトは……!」
 真っ先に飛び込んできたのはアイラだ。
「ここにいるか、教えてもらえないかな」
 更にルシオやファリフも女戦士に願い出た。テトを想う気持ちに理解を示したのか、女戦士は口元を緩ませる。
「あの子は心配させて……会ってやって……」
 周囲を警戒しつつ、女戦士はハンター達を中へと招きいれた。

 火は夜に焚いているのだという。
 昼間では煙で居場所が分かってしまうからと出迎えてくれた女戦士が教えてくれた。
「では、仕方ありませんね。まずは傷を癒しましょう」
 京真はルシオの方へと向き直る。
「ここは任せて下さい。手が足りなくなったら呼びます」
「私は傷を治す事はできませんが、介抱のお手伝いは出来ます」
「そうそう、会ってあげて」
 彼らが何を言わんとしているのか理解したルシオはその気持ちを受け取り、アイラ達と共にテトがいると言われた奥へと向かう。
「行方不明者が他にいないか確認します☆」
 ルンルンが可愛らしく敬礼を決めると、くるりとターンを決めて聞き込みに向かう。
「よろしくお願いします。では、参りましょうか」
 京真の言葉に刹那とカオンが頷く。
「カオンさんは向かわれないのですか?」
 刹那が疑問をカオンへ向けると彼女は「はい」と答えた。
「テト様のお話はファリフより伺っております……同じ戦いを乗り越えた者、同じ苦しみを持つ者が参るべきです」
 カオンの言葉に刹那は心配そうな表情を浮かべて奥を振り向いた。
 京真は重体者の確認をしていた。
 最優先するべき患者をピックアップし、重体者の熱や震え、痺れの有無などを軽症者に確認を取る。
 刹那とカオンは京真の指示に従い、重体者の汗を拭き床ずれを軽減する為に体位変換を行う。
「点呼確認終了です」
 ルンルンが言えば、生き残っているメンバーはここにいた模様で、彼女も看護に入り、部族なき部族のメンバーに明るく声をかけていく。

 一方、アイラ、ルシオ、オウガ、ファリフはテトと対峙していた。
 テトは憔悴しており、自己治癒をせずにいたのだろう。痛ましい傷が治っていなかった。
 それよりも目を引くのはずっと泣いていただろう目尻の涙跡。
 ずっと俯いて背を丸め、両手を胸の前で祈るようにきつく組んで怯えているようにも見えた。
「無事で……よかった……」
 安心の声を上げるアイラは自身の芯で緊張していた糸を解くような吐息をまじえる。
「……テト、ちゃんと泣いたのかい……?」
 ルシオの穏やかな声音にもテトは反射的に震えてしまう。
「戦士になって行くんだ、時間と悲しみを経て」
 びくりとテトが目を思い切り見開き、肩を竦ませている。
「でも 泣ける時は、泣いていいんだよ」
 そうでなければ、人は壊れてしまうこともある。
 再び戦士として立ち上がる為にも。
 ルシオの言葉にテトの瞳にみるみる大きな涙が溢れ、受け止めきれずに頬を伝う。
 幾度も流した涙は拭う事もままならずに再び頬を濡らし、肌を乾かせて涙を零すごとにヒリヒリ痛んでいるだろう。

「……みんにゃ……」
 テトが力なく呼ぶと、皆がテトの方へと視線を向ける。
 まだどこか怯えているテトはゆっくりと きつく握っていた両手をテトは少しずつ開いていく。
 握りしめられて皺だらけになった袋がテトの両手に収まっている。
 じっと、テトは袋へと視線を落としていた。
「これを……」
 その袋は一番近いところにいたファリフへと渡される。
「これは?」
 アイラの問いにテトは俯いてしまう。

 部族なき部族の負傷者は京真達の看護もあり、一応の傷は塞ぐ事ができた。
 しかし、傷は直せても、体力などはまだ戻ってはいない者も少なからずいる。
 今日は雲はなく、晴れているため、日が暮れないうちにスコール族へと移動することになった。
「大丈夫ですか、腕まわしてください」
 ルンルンが怪我が治ったばかりの壮年戦士の移動を支える。
「担架、乗せますよ」
 ハンター達は肩を貸したり、簡易担架を作って傷が治った軽症者に手助けを貰いつつ、まだ動けない重傷者達を運ぶ事にした。
 スコール族へと向かう中にテトの姿はいなかった。
 出発する前に姿を消してしまったのだ。
 探しに行こうとしたものの、もう時間がなくなってしまい、このままだと一晩過ごす事になってしまう為、出発の時間を迎えてしまう。

「きっと、大丈夫」
 しょうがないなという様子のオウガが言うも、アイラは眉を寄せてしまう。
 けれど、きっと大丈夫のような気がしないでもない。

 次会う時までには彼女から涙の跡が消えることを祈るしかなかった。

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MVP一覧

  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステka0673
  • 打鞠拳の哲学
    紫条京真ka0777

重体一覧

参加者一覧

  • 杏とユニスの先生
    ルシオ・セレステ(ka0673
    エルフ|21才|女性|聖導士
  • 打鞠拳の哲学
    紫条京真(ka0777
    人間(蒼)|28才|男性|聖導士
  • 援励の竜
    オウガ(ka2124
    人間(紅)|14才|男性|霊闘士
  • 太陽猫の矛
    アイラ(ka3941
    エルフ|20才|女性|霊闘士
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 命を繋ぐ為に
アイラ(ka3941
エルフ|20才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/01/19 20:29:02
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/01/16 00:39:06