夢の実現者、幻と消える犠牲者

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/02/06 19:00
完成日
2016/02/14 22:55

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 元錬魔院の研究者の眉間にハチェットが叩きつけられた。
 両の眼はありえない向きに反り返り脳漿と血しぶきが垂れ落ちる中、フラズルはクルミの殻を割るようにその頭を割り開く。
「オッテル。お前、この新型魔導アーマーの礎になれるんだぞ。お前の脳で完成するんだ。ははははは。喜べ。ナサニエルを超える革新技術の基幹になれるんだ」
 数瞬前まで逃げ惑っていた生き物だった様子がなくなった残骸をまとめる立場であるフラズルは顎、腕、腰と順々にハチェットで叩き落とし、胸骨を砕いて開いて内臓を引き千切った。そして脳を掴むと背骨ごとそれを引きずり出していく。
 それをそのまま未だ動かぬ魔導アーマーにこさえられた台座に載せて電極を取り付ける。他にも幾人ものフラズルと共に研究してきた人間やドワーフの脳が魔導アーマーのそこかしこの台座にすえられ、そしてパイプにつながれていた。
「そうだよ。神経を補助するんだから、脳を使うのが早かったんだ。ブリュンヒルデ。やったぞ、やったぞ」
 くまなく血まみれになった魔導アーマーの前でフラズルは雄叫びを上げた。
 ブリュンヒルデと呼ばれた娘も血まみれだった。オッテルから吹き出る噴水のような血を浴びて。
 しかし、血は触れたところからその白磁の肌に吸い込まれ、その肌も輝くような銀の髪もみるみるうちに艶やかさを増し、浴びたはずの赤は染み一つ残さない。足元の血だまりも彼女の足に触れると消えていく。部屋の惨状とは裏腹に彼女には血の汚れは無縁だった。
「夢が叶いそうですね。良かった……お手伝いができて私も嬉しいです」
 ブリュンヒルデの顔は優しく穏やかだった。
「レイオニールのマテリアル鉱石の組成はうまくいかなかった時はどうしようかと思った。だが、そうだ。他にも方法はあるんだな。この魔導アーマーに必要なのは神経組織の伝達問題だったんだ。ブリュンヒルデ。お前が一緒に考えてくれたおかげだよ」
「私はお手伝いをしただけです。今に至る成果に結びつける答えを導き出したのはフラズル様のお力に他なりません」
「……いや、精霊と契約し覚醒者となっても今に帰着しなかったんだ。きっと出会えなければ、お前と契約しなければ今だにここには至らなかったはずだ」
 取り付けを完了したフラズルは呟くようにそう言うと、再びハチェットを持って首を真横に向けた。彼のもう一人の部下レギンが椅子にロープにくくりつけられている。顔は蒼白で、目は今にも飛び出しそうなほど剥いてフラズルを睨みつけていた。
「レギン。お前は心臓部だ。最高の場所を用意したぞ」
「クソくらえ! そこの歪虚に骨抜きされやがって」
「ずっと前から俺を骨抜きにして研究の邪魔してたのは……お前だろ? ことあるごとに反対しやがって」
 ハチェットが唸りを上げて振り下ろされた瞬間、防御障壁が生み出され、その一撃を斜めに逸らせた。力の方向性をゆがめられた一撃は椅子にぶつかり、レギンを縛るロープごと叩ききった。レギンはそのまま指に付けたデバイスで機動砲をフラズルを牽制すると、窓を突き破って逃げ出していた。
「ふふふ、はははは。逃がさねぇよ」
 フラズルは血と臓器で汚れた魔導アーマーに乗り込むと魔導アーマーは細かく振動し始める。
「完成なんだよ。これで完成なんだよ。レギン……お前のアタマが必要なんだ」
 そして狂気に満ちた瞳が、魔導アーマーの搭乗ハッチで覆い隠されると、血の混じった蒸気が魔導アーマーから吹き出すのを合図に動き始めた。


「大型魔導冷蔵庫ってもう割とあるじゃないの」
 呆れた顔で旧帝国の皇族の忘れ形見クリームヒルトは横に座る参謀アミィに向かってそう愚痴った。
「都会ではね。冷蔵技術ってのは食事に影響するんだよ。だいたい帝国がジャガイモ畑やってるのって保存がきくっていう側面があんのよ。大量生産大量消費という効率第一になりゃ、そりゃそうなるよね。
 でも産物を冷蔵する施設が低コストで運用できるとなれば? 作物の幅は広がり栄養は改善する。冬の作物を夏に売れば価格もアップ。地方農家ウハウハ。兵士より農家の方が安全で稼げると分かれば兵士志願者も減る。地方活性化万歳って寸法よ」
 戦争で不幸になる人を減らす。それを目的として地道に活動するクリームヒルトに特に地方へのしわ寄せを減らすには戦争産業以外の技術産業を地方に流布させる必要があるとアミィは説いていた。まだ世に出ていない特許技術をいくつか取得したものの、肝心な技術を形にする人間がクリームヒルトの周りにはいなかったのだ。
 アミィは冷たい視線ももろともせず、ボロボロの焼けこげた紙を取り出すと、その上に刻み煙草をいれてクルクル巻きながらそう説明した。
「でも、ドワーヴンシュタット州に向かえば技術者に遭えるって……ドワーフは確かに技術者多いけれど」
「まあ、そう心配しなさんなって。のーんびり歩けば犬も棒にナントヤラ。あちちっ」
 紙巻き煙草に火をつけたアミィだったが巻いた紙が向いていなかったのか、中の煙草が燃え尽きる前にどんどん燃えてしまいアミィは飛び上がった。
 今はドワーヴンシュタット州へ向かう馬車の中。技術者を探すという名目は了承したが、この捉えどころのないアミィは詳しい場所も告げず、その内会えると呑気なものだった。
「クリームヒルト様。前からドワーフの男が……負傷しているようですが」
 御者台の男がそう言ってきたのに対して、クリームヒルトが「停めて」という前にもうアミィは残った煙草を投げ捨てて外に駆けだしていた。
「あら、貴方様は元錬魔院の技術副主任のレギン様。こんなところでどうなさったの? まーひどい傷」
 クリームヒルトからすればそれが必要以上に説明台詞で棒読みなところが若干気になったが、それよりもレギンと呼ばれた男の様子が気になった。あちこち血だらけだし、随分走ったのか疲労もひどい様子だった。それに服には無数の返り血の斑点がある。
「フラズル……魔導アーマーを密かに研究していたオレの上司が、歪虚に取り込まれちまった……きっともうすぐ追いかけてくる。助けを、ハンターを呼んでくれ」
「まぁ、なんてこと! 旧政権の姫クリームヒルト・モンドシャッテ様。是非お助けしましょう。これはきっと神様、えーとエクラ様の思し召し。この方なら先ほど話していた魔導冷蔵施設の実現に力になってくれるかもしれません!!」
 クリームヒルトは冷たい目でアミィを睨みつけたが、それを問い詰める時間もなさそうだ。
「わかりました。お助けします」

リプレイ本文

「アミィ、貴様よもや……情報を得ているだけならともかく、繋がっているなら処刑ものだぞ」
 アウレール・V・ブラオラント(ka2531)がその容姿に見合わぬ剣呑な視線を叩きつけたが、アミィはケラケラと笑い返すばかりだ。
「偶然よ。ぐーぜん。むしろ帝国最高研究機関に所属していた頭脳を手に入れるチャンスかできたことに感謝してくれなきゃあ」
 笑ってアミィはアウレールの肩をぐいと引き寄せ、耳元で囁いた。
「現地民を踏みつけ栄光を掴むのは王道でしょ? 幼き征服者殿」
 人を不幸にして、誰か一人の幸福に書き換えていく。貴方も同じじゃない。とうそぶく彼女の腕を払いのけ、アウレールはランスの穂先をその鼻先に突き付けた。
「もう一度言ってみろ。その腐ったミカンのような頭に風穴を開けてやる」
「ヒルトお姉さまの行く先て、何かしらありますわね」
 睨みあうアウレールとアミィをよそにチョココ(ka2449)はクリームヒルトにそう言うと、クリームヒルトは苦笑い一つ浮かべて答えた。
「光の射さない場所を歩いているんですもの。アミィに闇夜の歩き方ばかり教えてもらっている気もするわ」
「あんまり信用しちゃダメっすよ? 眼鏡代より高い代金を払うことになるっすよ」
 無限 馨(ka0544)はそう注意すると、アミィの投げ捨てた煙草の欠片を拾い上げ、そっと紙を広げて見ようとした瞬間、ふっ。と、アミィがそのボロボロに焼けこげた煙草紙を吹き飛ばした。細かな文字が書いてあったように見えたが、それも一瞬の事。
「あー!!」
「ゴミ拾いありがとっ」
 ぎゃーすかとこちらでも言い合いが始める二人の横でアシェ・ブルゲス(ka3144)はその風に乗って消える紙の破片をぼんやりと眺めた。
 ブリュンヒルデとそして自分が関わった錬金術師レイオニールの研究レポートもこうして消えて行ったことがちらりと頭によぎった。
「アミィ殿もどうせ話すつもりは無さそうだしのう。背後関係を問うのは後でもよかろう。研究所の確認には行った方が良いとは思うがな」
 ……片付いてからな。
 紅薔薇(ka4766)は刀に手をかけ腰を沈めてそう言った。かすかに地響きが聞こえる。
「あの魔導アーマーの弱点は、どちら?」
「人間でいうところの頭、首筋、 四肢の付け根、ヘソにそれぞれ脳が仕込まれている。従来コックピットは頭だが、あれは腹部になっている」
 音羽 美沙樹(ka4757)の問いかけにレギンが答えると、盾を渡していた神楽(ka2032)は眉間にしわを寄せた。
「ひっでぇコスパっすね。ナサニエルに及ばないどころか、単なるアホっす」
「マッドサイエンティストなんて奴はな、発明家の恥さ。アレがマトモに見えるってんだからさ」
 レオーネ・インヴェトーレ(ka1441)はその姿を視認してギリギリと歯を食いしばり発明家としての矜持が怒りを顕にした。外見からしてどちらかといえばかっとんでいると言われるレオーネだが、あれは。踏み越えてはならない一線の先にあるものだ。
 血管も筋繊維も利用したのだろうか。赤い毛が全身を覆い尽くす魔導アーマーは吐き気を催す存在だった。魔導アーマーから吹き寄せる風は血生臭く、そして腐臭に満ちていた。
「『いかに美しいものでも行為によっては醜怪になる。腐った百合は雑草よりひどい臭いを天地に放つ』とは良く言ったものだ」
 テノール(ka5676)はそう言い放ち、周囲に白霜を漂わせた。凍てついた世界は死の香りすら凍てつかせる。
 その背後で黒耀 (ka5677)がカードを素早く切ると、数枚のカードを投げ放ち、大地に滑り込ませせた。
「ふっ。目にも毒。憂いの一遍もなく。この場を墓場にしてさしあげましょう。カードドロー! 場にカードを伏せターンエンド!!」
 鈍重な魔導アーマーなど地縛符にかかれば動けぬはずだ。そしてそこに導くように左右から攻め込む紅薔薇と天津風。
「ロッソでCAMを切ろうとしたら怒られてのう。丁度よい」
「その精神、その魂。再生できぬよう粉砕してさしあげます!」
 剣迅鋭く魔導アーマーに向かって風と炎が交錯した。
 だが。
 舞刀士二人の斬撃は空を切り、代わりに影が二人を襲う。
 目の前にいた巨体がどこにもなく影に吸い込まれたのかと疑うほどだった。そして同時に上から降り落ちる重圧。
「ちっ。場に置いたトラップカードを起動!!」
 黒曜の悔しそうな言葉と共に、突如二人の足元から桜の幻影が舞い上がった。それは一瞬で天空まで昇り、影をつくる存在、すなわち跳躍する魔導アーマーを攪乱した。その一瞬の間が、魔導アーマーが跳躍して回避したこと。そして自分たちが今踏み潰されようとしていることを理解し、咄嗟にその場を離れようとするが間に合わない。
 そして派手な着地音と土煙、そこに骨と肉が踏み潰される小さな音が入り混じった。
「ハ ハ ハ れぎん。コンナニ 脳ヲ 用意して クレタノカ」
「人的資源の少ない帝国で人間が材料など浪費の極み。誰が用意などするものか。棺桶は大人しく地面に埋まっていて欲しいものだ。七日間の奇跡は聖人だけで十分」
 拡声器から響く金属的なフラズルの声にアウレールは吐き捨ててそう言うと、真っ向からランスを突き出した。
「ハエ ガ 止まっテ ミエルヨ」
 アウレールの腕に風が当たったかのように感じた。全身鎧を着こんでいるのだ。風などあたるはずもない。
「ぐぁっ」
 腕から血しぶきが吹き出ておかしな方向に曲がる。魔導アーマーの振動刀がいつの間にやら引き抜かれていた。
 反射速度が尋常じゃない。何度も死線をかいくぐったアウレールの動体視力でも魔導アーマーの動きにほとんど追いつけない。
「ハ ハ ハ。ツブサナイ デ ヤロウ。 脳ガ 必要 ナンダ。コレダケノ 性能ダゾ。十倍ノ 働キヲ シテ ミセル」
 アウレールの横を通り抜ける魔導アーマーから小銃の安全機構が外れる音を聞きつけて、神楽が前に飛び出た。
「70人分の働き? 笑わせるっす! どうせまともに一人も抜けやしねっす!」
「神楽! 強化がかかってるぞ!!」
 アウレールの咄嗟の叫びとほぼ同時に小銃が火を吹き、真正面から射線を防いでいた神楽はチョココが作り出した土壁に叩きつけられた。
 それでもなお、小銃の射撃は止まらず、神楽の身体は壁に張り付き小刻みに震える。
「神楽さまっ!!」
 目の前で血祭りにあげられる神楽にチョココは真っ青になって立ち上がったのを、アシェが咄嗟にかばった。
「危ないよっ!!」
 土壁が銃撃によって木端微塵に打ち砕かれると同時に、アシェの立てた新たな壁を作り出した。とはいえ、一瞬のその隙をかいくぐった銃弾が数発アシェとチョココにも食い込んで派手に血しぶきが飛んだ。
「ハ ハ。スゴイ ダロウ?」
「てめぇの傲慢さがな」
 高笑いするかのように震える魔導アーマーに向かって血煙の向こうから小銃めがけて光線が走り派手に炸裂した。
「性能が良いのは万歩譲って認めてやるよ。だが、人の命を軽視するその腐った態度は、絶対認めねぇ」
 レオーネだった。ロックオンレーザーの照準を合わせてたままそう呟いた。
「性能がいいってところも認める必要ないっす。げほっ」
 土壁に磔にされた神楽が煙を上げながら、むくりと起き上がり、パタパタと穴だらけの服から汚れを叩き落とすと、ニマニマと不敵な笑みを浮かべ直した。
「友達の『お仕置き』の方が断然アブねっす。ま、その程度っすね」
「バカ ナ……」
 強烈なダメージであと一歩間違えれば病院送りだったところだ。だが、その一線さえ守り切れば神楽に宿る霊闘士の血により何度でも復帰できる。
「アリエナイ アリエナイ!!」
 魔導アーマーは震えると神楽に刃を振り上げた。
 が、その動きが一瞬凍った。無限のワイヤーウィップが魔導アーマーの背中から縛りつけていた。
「神楽は本当に焚き付け上手っすねー。ヒルトちゃんにまでへんな焚き付けしないでほしいっすよ」
「今日はその役はプレゼントするっすよ! 『流石は心優しいクリームヒルト・モンドシャッテ様! ここは見捨てて置けないっすね。お助けしましょー 』ってね!」
 ケケケ。と笑うと、魔導アーマーの小銃に向かって神楽は槍を振るい、銃身を叩き飛ばした。
「ヌカセ!」
 魔導アーマーが半身をずらし、即座に反撃の姿勢を取る目の前にアウレールが立ちはだかる。
「痛かったが歪虚王やテオフィルスからの攻撃の方がよほど強烈だ。だから言っただろう? 貴様はポンコツだと」
 言葉と同時に腕の付け根に向かって走らせ、ゴボリ、と血生臭い液体がアウレールの顔を汚した。
 何かしらの言葉が響き渡らせながら、魔導アーマーはぐるりと上半身を回転させた。しかしそれもアウレールにとっては織り込み済み。魔導アーマーの動きはすでに経験済みだ。高速の動きでも予知が通用しないほどでもない。
 そして大きく震わせ薙ぎ払おうとする前にはもう無限のネーベルナハトが腰に叩きつけられ動けなくなっていた。しかし、それでも魔導アーマーは無理やりに身体を捻じろうとする。
「あああ、また鉄くずになるから勘弁してほしいっす!!」
「それだけ止めてくれれば十分じゃ。そして二度と動くこともあるまい」
 血で汚れた髪を後ろになでつけ紅薔薇は呼吸を深く細く吐き出した。魔導アーマーにのしかかられた時に折れた骨の数本が悲鳴を上げるが、剣心一如によって身体の隅々まで気力が行きわたると、胸を潰す痛みの漣も徐々に収まり、血の疼きは薔薇の蕾のように、手の先に集中していく。
「狂華、咲き乱れよ」
 紅薔薇が跳んだ。
 同時に無限のネーベルナハトが離れ、魔導アーマーの足の付け根にある脳を隔離する髄液が血散の花弁となって弧を描いた。
「天照の焔よ。この手に!!」
 その花弁をすべて炎に変える音刃の紅蓮斬が逆手から逆袈裟で襲い掛かった。肉の焼けるような異臭と共に、歯車がオーバーヒートしてぶつかりあう悲鳴が響き渡った。
「ここでぶっ壊す。その夢も、希望も」
 両脚を切られて一時は目ですら捕らえられなかったスピードもすっかり地に落ちた。テノールは拳に蒼氷の力を蓄え、一気に腹部の装甲が一番厚い部分へと跳んだ。
「青龍 翔 咬 波っ!!!」
 蒼龍の形をしたマテリアルがテノールから放たれ、ハッチを吹き飛ばした。
 その一撃で派手に震えていた魔導アーマーは凍り付いたように動きを止め、ゆっくりと動くのは崩れ落ちたハッチの扉と中にいたフラズルだけだった。フラズルもそのまま地面に落ちるとそのまま動かなくなった。
「片付いた、か?」
 カタン。
 ガタ、ン。
 油と血がボトボトと零れ落ち、金属板にぶつかっては小気味悪い音が響く。フラズルからも生きているような様子は見えない。背中から後頭部がぱっくり割れているのだ。即死なのは間違いない。
「いいや、まだ死んじゃいない。……蠢いてる」
 それでもアシェは魔導アーマーを見上げて呟いた。
 物には魂がある。どんなになっても、一度形作られたそれは失うことはない。廃材アーティストだからこそ。その強弱はよくわかった。
「ならさっさとトドメをさそうか。操縦者のいない魔導アーマーなど……」
 テノールの言葉が甲高い銃撃音によってくぐもった。ハンターの目の前で血しぶきが舞った。
「!?」
「どうして……」
 やおら動き出す魔導アーマーに皆は唖然とし、そして血まみれの操縦席にまだ『それ』が残っていることに気が付いた。フラズルの脳はまだ魔導アーマーにつながりそして生きている。
「人間の姿すら捨てたか。もはや嫉妬の歪虚と同じじゃのう」
 動く紅薔薇に切り詰められた銃身による射撃が見舞うと、それを咄嗟に躱した。踏み込む瞬間を確実に狙ってくるあたり、近寄らせないという意志が窺える。
「もう、消えてほしいですのっ!!」
 チョココがそう言い放ち、氷の矢を銃身に叩き詰め射撃に僅かな隙が生まれるとテノールが再び宙を舞い、蹴りを浴びせかけた。
「終わりだっ」
 紅薔薇による一撃により脚を痛めた魔導アーマーはそのまま一歩、後ろに下がる。
 だが、それで十分、戦いは決していた。
「ようやくかかってくれましたね。トラップカード発動!!」
 たたらを踏んだ地面が途端に泥沼に変わり、魔導アーマーの脚を包んだのを見て、黒曜はほくそ笑み、そのまま新たな符を立ち上げ、空中に布陣する。
「場に攻撃カードをセット。動けぬ相手にダメージが及び続ける。もはや逃げられる術はないっ。ここからはずっと私どものターン!!」
 空中に投げられた符から雷が魔導アーマーを何度も打ち付ける。魔導アーマーがそれを回避するべく、モーターを全開にして泥沼からの脱出を図ろうとしたがそれはアシェがアイスボルトを噴出口にねじ込んだ。
「そのまま!」
 さらに地縛符から逃れようとする方向にアースウォールで壁を作って動きを阻害する。
「じっと!」
 魔導アーマーは黒曜の電撃から逃れようと必死だったが、アシェはどの一つもすべて阻害し雷撃の雨から一切逃さない。
「してもらうよっ!!」
 魔導アーマーが答えることはできない。雷撃に晒され続け、神経系が過剰反応してビクリビクリと跳ね続けるだけだった。
 そんな魔導アーマーに笑みを浮かべ、黒曜はさらに風雷陣を追加した。
 雷撃の嵐はまゆばく、それはまるで裁きの雷のようであり、焼け切れた破片がひらひらと寒空に踊る。

人は皆草の如く、その光榮は皆草の花の如し
何となれば、草は枯れ、花は散るものなれば。


「ここに研究資料が残ってるはずっす。資料は回収して匿名で錬魔院に渡すのはどうっす? 研究が進んで家畜の脳で代用できるようになれば肉や毛と同じように脳が売れるようになって牧場の収入アップっすよ。万が一錬魔院が研究の為に人狩り始めたら止めて公表すれば現政権に大ダメージっす!」
 神楽の言葉にクリームヒルトはううん、と考え込むのを庇うようにして、音羽が立った。
「無限さんの言う通り。本当に焚き付け上手ですこと。あんな技術ひとかけらでも残すわけにはいきませんわ。見つけ次第燃やします」
「えー」
 隠れるように作られた研究所の扉をゆっくりとアシェが押し開けた。歪虚特有の死の臭いはどこにもない。
「ここ、本当に研究所か?」
 レオーネは中を覗き込んで不審がった。あんな気味の悪いものを作っているのなら羊の解体工場もかくやという状態だろうと踏んでいたのだが、そこはとても綺麗だった。レギンが言っていたような仲間の遺体もなく、血の跡も見られない。
「レギンさま。本当にここですの?」
 差し入れを平らげたレギンにチョココが問いかけたが、レギンも戸惑いを隠せない様子だった。
「夢ではあるまい。暴食なのじゃろう? そのブリュンヒルデとやらは。血を浴びて汚れず。ではなく全部食いつくされたとみてよいじゃろう。存在するためには食わねばならぬ。それは人も歪虚も同じじゃ」
 紅薔薇の言葉にテノールも苦々しい顔をした。
「ああ、あの醜悪な技術も歪虚に奪われたかもな」
 思い浮かぶのは戦場に向かう妹達の顔。負けることはなかろうが、彼女達が余計なものに顔をしかめる様子を想うとテノールの渋面はますまずきつくなった。
「……奪うことはしてないようですよ。夢が実現するなら叶えて上げて欲しい、ようです。世に出たところで禁呪指定になるでしょうが」
 黒曜は部屋の片隅に置かれた唯一の書類の束を見て目を細めた。そこにはフラズルのものらしいアイデアと魔導アーマーにかかる企画がすべて綺麗に整頓され、まとめられていた。鬼であり東方の出身者であり符術士である黒曜ですら、一目で見て概要がわかるのだ。
「ブリュンヒルデ君は純粋な夢ならば呼応して力を与える。でもね、その力の使い方はずっと本人たちに任されているんだよ」
 黒曜が取り上げたそれを見て、アシェはちらりとレギンに視線を寄せた。しかし、レギンはそれを手に取るまでもなく顔を横に振った。
「そいつが言う通りブリュンヒルデは薬であり劇毒みたいな存在だ。最初はあいつがいるだけでみんな様々なアイデアを産み、形にすることができた。それがやがて狂気にまで昇華したとしても誰も止められない。人間の奥底に潜む欲望を呼び覚ますんだ。そいつもこの世に在ってはならない」
 その言葉を聞いて音羽はマテリアルの炎を立ち上らせ、書類を一刀両断に伏すとそれもまた魔導アーマーのように塵に消えていった。
「それじゃ、いいっすかね? ヒルトちゃ、姫様の為に、新たな夢に……手を貸してくれるっすか?」
「ああ、今度は自分たちの夢だけで終わらない。人の為になる夢を」
 レギンはそう言い、クリームヒルトの前でかしずいたのであった。

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重体一覧

参加者一覧

  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • 魔導アーマー共同開発者
    レオーネ・インヴェトーレ(ka1441
    人間(紅)|15才|男性|機導師
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 光森の太陽
    チョココ(ka2449
    エルフ|10才|女性|魔術師
  • ツィスカの星
    アウレール・V・ブラオラント(ka2531
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 不空の彩り手
    アシェ・ブルゲス(ka3144
    エルフ|19才|男性|魔術師
  • 清冽の剣士
    音羽 美沙樹(ka4757
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士
  • 不破の剣聖
    紅薔薇(ka4766
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • ―絶対零度―
    テノール(ka5676
    人間(紅)|26才|男性|格闘士
  • 千の符を散らして
    黒耀 (ka5677
    鬼|25才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 教えて!クリームヒルト様!
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/02/06 17:39:27
アイコン 血みどろ魔導アーマー退治卓
神楽(ka2032
人間(リアルブルー)|15才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/02/06 12:15:09
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/02 23:52:21