• 闇光

【闇光】其の朗唱、いずこから響かん

マスター:ムジカ・トラス

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2016/02/15 19:00
完成日
2016/02/28 19:35

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 『彼』が死んだ。

             何故だ?

 『彼』が死んだ。

             何故だ?
 
 『彼』が死んだ。

             何故だ?

 『彼』が死んだ。

             ――何のために?


 ――だから、私は。
 道化らしく。あのお方の《主筆》らしく。
 あの方が好み、望んだ即興劇を、高らかに謳いあげてみせよう。

 それをもって、手向けとしよう。


「わーお♪ 随分、派手だね」
 ジョン・スミス(kz0004)は愉快げに、歌うように呟いた。
 彼が居るサルヴァトーレ・ロッソの一室からは、『それ』が良く見えた。

 遠い戦場。漸く執り行われることとなったCAMや魔導アーマーといった各ユニットの残骸回収の場――だった場所は今、確かに戦場と化していた。

 戦場は轟音と酸鼻に包まれていた。熱狂的なまで狂乱。レチタティーヴォの遺品とも言うべき人形たちが突然動きまわり、ありとあらゆるに無差別に襲いかかる。
 人形達はユニット回収の為に動員されたハンター達。あるいは、何かにつられてきた歪虚達に襲いかかり、一部がサルヴァトーレ・ロッソへと疾走を開始した。強引に戦場は押し広げられ、連鎖していく。遭遇したハンターと歪虚、その両方へと襲いかかる人形達。
 敵の敵は敵。苦悶と絶叫、憤怒と悲哀が彼方此方で渦を為していた。

 それらを俯瞰していると、艦内で警報。接近してくる人形たちの一団――といっても黒山の如き人数の暴力である――への対応の為のそれを聞きながら、ジョンはゆるりと目を細めた。バイザーの中で、長い睫毛が微かに震えた。

「……レチタティーヴォ、だったね。それにしては少しばかり賑やかに過ぎるケド」
 ジョンは確かめるように言葉を口元で転がしたのち、視線を切る。

「たしか、艦内にも何人か残っていたような……ヨシ♪」



 彼は奔った。広大に過ぎる戦場を隠れ蓑に、ただひたすらに。遠くに見える紅の船――サルヴァトーレ・ロッソへと向かって。黄金の衣装が風に揺れ、豪奢に過ぎる装束がちりちりと揺れる。
「――」
 その横顔には、表情などなかった。当然だ。その体には肉も皮も在りはしない、ただの骸骨である。表情など浮かび得まい。
 戦場の音、気配を隠れ蓑にするように、黒々とした眼窩に赤い光点を灯して、疾駆していた。

 加速、加速、加速。疾走は止まず、ただただ距離が詰まる。
「――――レチタティーヴォ様。貴方は」
 骸が、独語した。その時だ。
 その疾駆が、唐突に横に跳ねた。骸の跳躍と同時に、銃声。遠くまで響いたそれは、残り香とも言うべき草葉の揺らぎを撃ちぬく。
「ハイ、そこまで♪」
 遅れて、声が届いた。進む先、突如現れた――ように骸には見えた――黒影が、風に揺らぐ。骸の紅光が声の主を射抜くが、そいつは動じなかった。肩を竦めるその男の向こうから、一人、また一人と人間が近づいてくるのを見て、骸は恭しく腰をかがめて丁重な礼を示す。
「おやおや、観客がいらっしゃるとは……これは、大変な失礼をいたしました」
 影、ジョン・スミスは柔和な笑みで礼を容れると、狙撃銃を肩に掛ける。
「君が誰だかしらないケドさ、随分お急ぎみたいだ」
 現れたハンター達の影にちゃっかりと隠れながら軽妙に言うジョンは2本指を立てて軽く振り、
「魔法が解ける時間だったりしたのかな、シンデレラ?」
 と、言った。洒脱だが、この戦場においては明らかに異質に過ぎる軽口。
「ただ、艦に近づいてくるとなったら組織の狗としてはお仕事をしないといけなくてサ。ゴメンね♪」
 洒落た仕草に、骸は暫し言葉を飲み込んでいた。戸惑いか、あるいは――沈思していたのか。しかし、すぐに頷きを返し、大仰な仕草でおどけては肩を震わせて笑って見せた。表情はなくとも、道化服のお陰かそう思わせるだけかもしれないが。
「…………そうですな。異邦の方である貴方がたはご存知なくとも無理はない」
 兎角、骸は改めて礼をする。優美さと滑稽さを滲ませて、片手を挙げ、片手で胸に手をやり。
「僭越ながら、名乗らせていただきます。私、《操骸道化》のクロフェド・C・クラウンと申しまして――」
 どこか空寒い言葉の中に、万感の思いを滲ませて、こう告げた。

「レチタティーヴォ様の《主筆》を担わせていただいておりました」


 朗々と、まるで謳うように告げるクロフェドの声はよく通った。
「かのお方の遺されたことですから、この私、かのお方の道化者として、即興劇に馳せ参じた次第で」
「嘘だね」
 クロフェドのそれを、ジョンは破顔一笑し断じた。
「即興劇♪ イイ響きだ。でも、ウン、それはそうかもしれないけど……それだけじゃぁ、無いよね」
「…………と、言いますと?」
「“アレ”は陽動だ」
 つと示す先、人形たちが大挙して戦艦を襲い、歪虚を襲い、ハンター達を襲う光景があった。
「十三魔のレチタティーヴォの事は一応調べたケド……ちょこっとだけ底意地が悪そうだよね、カレ。その人形が動いたのなら――なにか、意図がある」
 ジョンは例えば、と嘯き。
「この艦とか、さ。君らVOIDの中には、この艦に興味があるのもいるみたいだし? もちろん、それ以外の場合もあるけど……君は、そう思ったんじゃないかい? だから、此処に来た」
「―――――」
 今度こそ、クロフェドは沈黙した。
 不自然な程に、長く、重く。その口元が、僅かに動くが――ジョンには読みとれなかった。流石に、シャレコウベの読唇までは修めていない。

 クロフェド以外知り得ない事だが、彼は、こう呟いたのだ。
 ――私こそ、その意を知りとうございます、と。

 直後。ただ、ぞぞり、と気配が立った。地中から骸が湧きあがる。クロフェドとは異なり、衣装も何もない、素の骸骨だ。《操骸道化》が操る髑髏兵。
 だが。
「アハ♪ 解りやすくていいねっ」
 ジョンが素早く狙撃銃でその胸椎を射抜くと、髑髏はバラバラに砕け、地に落ちた。

「――此度の狂宴、貴方様がたが愉しく踊って下さるのならば、このクロフェド、本望で御座います」

 その骨を踏みにじって、クロフェドは構えた。ぱきり、ぱきり、と乾いた音が鳴り――転瞬、先ほどとは比べ物にならない音が響く。地鳴り、と言って相違ない。
 すぐに、先ほど『死した』髑髏兵の亡骸をひき潰し、破砕した骨の壁がいくつも、いくつも湧きあがりクロフェドの姿を隠した。無数の骨が絡まり合ったそれが大地から突き立つと、瞬く間にとき解れ、幾多もの髑髏兵へと転じて行く。

「《操骸道化》の名に恥じぬ、大演劇をご覧にいれます――しばし、付き合って頂きましょう」


 私の全てを以って操ってみせよう。演じてみせよう。
 この、愉快で、虚しくも哀しい、滑稽な劇を。

 ――あのお方が仕掛けた即興劇を、成し遂げてみせよう。

 それをもって、手向けとしよう。

リプレイ本文


 荒涼とした草原を、風が撫でた。ざわめきのように、音が波及する。
 ――クロフェド、そうか。
 風に髪をなびかせながら、愛馬シーザーに跨った岩井崎 旭(ka0234)は独り、呟く。回想されるのは北伐の際に相対した歪虚の姿だ。眼前、クロフェド・C・クラウンによく似た髑髏の歪虚。
「……ラトスの野郎が最期に口にしてた名前がそんなだったな」
 斧を握る手に、力が籠った。次いで、慨嘆が零れる。
「放っときゃ碌なことになんねぇだろうなぁ」
「同感だね」
 その傍ら。久我・御言(ka4137)が、言葉を継いだ。低い位置からなのは、彼が騎乗していないためだが見通す先は同じだ。
「レチタティーヴォは確かに死んだかもしれないが……意思を継ぐものがいる限り、存在しているという事だ」
 遠くに響くは戦場の大合奏。それらは草花を叩く風にのってよく響いた。
「この騒ぎを見れば一目瞭然……ならば、ここで完全に息の根を止めねばね」
「おう! 何を企んでんだか知らねぇが、並べた骨軍団ごとブチ砕いてやるッ!」
 不敵な笑みの御言に、旭は気合十分と拳を打ち鳴らすと同時、その姿は鳥人へと変じた。アニス・エリダヌス(ka2491)はその後方で愛馬に騎乗し、遠く――骨壁の向こうを見通すように、目を細める。そこに立つ、哀れなる故人達の姿。それらは、戦場を共にしたかもしれない兵士たちの亡骸だという。
「即興劇……踊って差し上げましょう。ですが、ブロッキングされても文句なしですよ」
 呟くその手は、蒼白に転じていた。固く握られた杖が軋み、震える。
 眼前で繰り広げられるのは、死者の冒涜だ。それをもって道化とのたまうクロフェドを――大事な人を亡くした過去を持つアニスが、赦せるはずもない。その目に、強い火が灯る。
「ボルディアさん、援護いたしますね」
「あぁ」
 バイクに跨ったボルディア・コンフラムス(ka0796)は鷹揚に頷いて斧槍を肩に掛ける。アニスとは別の理由で、その赤い血は滾っていた。
 クロフェドの、狂奔とも言うべき此度の来襲。
 ボルディアの目にはそれは、『主筆』を謳うクロフェドの忠義の証だと感じられていた。
「……泣かせるじゃねぇか」
 口の端を釣り上げて笑うボルディアのそれは、さながら闘争の権化とも言うべき表情であった。全力を持って押しつぶす、と。そう言わんばかりの。
 他方。不敵な様相の彼らと異なり、クィーロ・ヴェリル(ka4122)は不満を滲ませている。
「これがあいつの言っていたエピローグだってのか」
 首に手をやり、退屈を振り払うように、揉み解す。
「……まさかな。こんな駄作じゃ程度が知れるぜ?」
 睨めつける視線には紛れも無く倦怠が滲んでいた。チ。チ。チ……と、小気味良い舌打ちがゆるやかに響く。
 それは――この男にしても、そうだったのだろう。後方、ジョン・スミスの方を睨みつけたジャック・J・グリーヴ(ka1305)は舌打ちをこぼした。
「……どいつもこいつも気に入らねぇ」
 踊らされてる。その気配が、男にはどうにも認容しかねるのだろう。彼にとっては現状の打開よりもその苛立ちを如何にして解消するかのほうが肝要であった。その激情の向かう先は一つしか無く……ふと。男の目に、一人の少女の姿が映った。
「……」「!?」
 ほんの僅かな間だが目があっただけだが、二人ともに瞬く間に逸らした。平常運転のジャックはさておき、ソフィア・フォーサイス(ka5463)はどこからどうみても挙動不審である。
 ――レチ……レチなんちゃら……?
 なんだその名は、とぶつぶつと呟きながら首をかしげている。皆訳知り顔なだけに、今更口に出すのも憚られた。隣のジャックは凄く不機嫌そうだし。
「……それに……」
 彼女にとって何よりも疑念を抱いたのが、
「どこから声だしてるんだろう……」
 あの身体でどうやって、という事だった。紳士な骨なのは好感を持てるが、それだけは気になった。
「……ま、いっか!」
 考え抜いて、結局のところそこに落ち着いた。刀を抜き、銃を手に開き直る。
 敵は眼前。ならば、やることは明快だ。
「行こう!」
 ソフィアの陽気な声に、馬の嘶きと魔導バイクの咆哮が草原に響いた。


 轟々と、音、音、音。雷鳴のように魔導バイクの駆動音が響き、馬が嘶く。
 応じるように、骨兵達も走り出すが、真っ向切って旭、ボルディアが先行した。夫々の得物分の間合い――なんと6メートル――を空けての特攻である。
 百を超える敵に向かい馬を疾駆させながら、馬脚を落とした。ボルディアと並ぶ。
 その後方から、やや距離を開けてジャック、アニス、クィーロ、ソフィアが続いた。騎乗している彼らからは大きく引き離され、徒歩で進むルスティロ・イストワール(ka0252)と御言が最後尾である。
「がんばってネ〜♪」
「……クソったれが」
 軽薄なジョン・スミスの声にジャックは短く吐き捨てるが、悠然と構えるジョンにも仕事が割り振られていた。クィーロに戦況の確認、哨戒を請け負ったのだ。勿論、即答での応諾であった。
「♪〜」
 後方。鼻歌交じりのジョンの狙撃銃は沈黙したままだ。敵を引き付けることを厭うての事だとは解っているが、苛立ちは募る一方である。
 転瞬。
 動き出した骨兵とボルディア達が激突した。


「骨、骨、骨。派手に並べやがって……すぐにブチ抜いて見通しよくしてやらぁ!」
「オォォ…………ッ!」
 旭とボルディアは馬力と装甲にものを言わせて、黒波の如き骨の渦へと身を躍らせて――放つは、豪快極まる一閃。旭の巨斧と、ボルディアの斧槍が颶風のごとく、奔った。
 凄まじい殲撃に骨兵達の身が舞い砕け――しかし。
「――っ」
 二人の口から、同時に苦鳴が零れた。
 旭、ボルディアの一撃は、秘められた威力こそ凄まじいが、その狙いは甘い。甘すぎる、と言わざるを得なかった。その一閃は、何れも敵の5割も減らせなかった。それぞれ十数を超える敵に放たれた攻撃は、それを抜けた骸どもの攻撃の呼び水となる。
 骨兵どもは声なき声、気勢を上げて、バイクと馬を駆る二人に覆いかぶさった。
「ジョン!」
「解ってる!」
 すぐに、銃声が重なった。ジャックの拳銃と、ジョンの狙撃銃。声には、焦りがあった。
「って、やばい……!」
 ソフィアも慌てて銃を抜きながら、戦場を見回す。
 今、一体どうなっているかを、確認する必要があった。

 この時、この初手に、ハンター達には見誤りがあった。
 一つは二人の一閃の効果を過大に評価していたこと。
 もう一つは、間合い。旭とボルディアの長大な間合いを開けた分だけ、夫々の得物の間合いが足りない。御言とルスティロは後方に置かれ、銃撃が可能な者はソフィア、ジャック、ジョンのみ。殺到する敵に対して、あまりに数が足りない。
「……っ、ボルディアさん、少しだけ、耐えてください……っ!」
 アニスが骨兵達の間へと踏み込んでいく中、骨兵達は動いた。苦しげな馬の嘶きが戦場に響く。旭では”なく”愛馬シーザーに食らいついた骨兵がいたのだ。同時に、ボルディアには横合いから体当たりをし、バイクを横転させている。
「っ……! いけ!」
「……ち、ィ!」
 旭は飛び降りて骨兵を払うと、シーザーの尻を叩いた。あるいは、願いと共に。包囲されている中を逃げ出せるかどうかは賭けだった。けれど、そうしなければ愛馬は死ぬ。取り返しの付かないミスとして許容することは出来なかった。
 シーザーは主の意を汲んだか反転し、骨兵達に叩かれながらもなんとか包囲を抜ける。
「厄介、だな……だがっ!」
 それを感じて安堵を得た旭はもう一撃、殲撃を見舞う。周囲の骨が吹き飛ぶが、反撃として方々から殴りつけられた。血が溢れ、殴打に鈍痛が弾けるが――すぐにマテリアルが活性し、傷を癒やし始める。
 この一閃が最も有効ではあるが、それだけに他の手が打てずに旭は歯噛みする。
 わかっていた。この一撃のせいで、味方が援護に入れない。ジョン、ジャックとソフィアの銃撃が一体一体確実に足を止めるが、更なる援護が望めない。
 その時だ。
「下がれ……ッ!」
 クィーロの声が、強く響いた。

「――重てえ、んだよ!」
 他方。ボルディアもバイクを捨て、組み合っていた。包囲している骨兵の動きは、機敏で、戦術的だ。死角からの攻撃、回避する隙間の無い猛襲に、殴られっぱなしになるほかない。
「おら、ァ……っ!」
 押しつぶされそうになっていたところを筋力で持ち上げると、その斧槍を振る――おうとして、アニスが近づいてきている事に気づいた。
「離れろ!」
「いえ、大丈夫です……!」
 骨兵に阻まれてそれ以上進めなくなった位置で、アニスは法術を紡いだ。
「彼の者に、正しき安息を与えたまえ……!」
 歌の旋律に乗って、マテリアルが弾けた。歌の影響を受けた骨兵の動きが鈍くなる。
「……っ」
 この状況においては最良手ではなかったが、しかし、効いた。
「アア……っ!」
 傷まみれの身体が、傷が、泡立つようにして再生していくボルディアはなおも一歩を踏み込み――アニスを巻き込まぬようにすると、更に一閃。アニスの法術によって動きが鈍った敵を含め、計十六もの骨を弾き飛ばした。


 ハンター達の喫緊に見せた対応で、状況はようやくの安定を得た。だが、依然として攻勢には立ちがたい。
「ジャック!」
「おう!」
 側面に入り込んだ位置取りをしていたクィーロが、斜め方向から騎馬を駆り突撃。意を汲んだジャックもそれに続いた。前方から旭に殺到しようとする骨兵達に対して大きく踏み込み、両方向へとなぎ払い。こちらも精度の問題があり、全てを払えるわけではないが、それでも旭の負担は減る。
 断ち切るというよりも、弾き飛ばした、というべき手応えにクィーロは嗤った。
「いいねぇいいねぇ! 数の暴力とは単純でわかりやすいじゃねぇか!
「このまま押し切るぜ、アサヒ!」
 殺到する敵を前に笑い猛るクィーロに、ジャックが同じく表情で言った。溜まった鬱憤は存分に晴らせているのか、その表情は明朗そのものだ。
 そして――何より、道が出来た。
「サンキュー……ッ!」
 空いた隙間に身を踊らせた旭は巨斧を振るう。大ぶりな一撃は互いに間合いが詰まりすぎているため、こうなっては不適だった。一体一体、着実に討ち倒しながら、確実に進んでいく。

「すまない、遅れた……!」
「こっちを手伝って!」
 さらに、ルスティロと御言が追いつき、状況が固まってくる。細剣を手にしたルスティロの詫びの言葉に、ソフィアが応じた。
 ソフィアはアニスの直衛につき、骨兵と刃を交わしている。細身の身体で振るう刃に籠められた威力は凄まじく、一撃で骨兵を断ち切るが、いかんせん数が多い。範囲支援を旨とするアニスは、この場に於いてはボルディアに次いで目を引いていたのだ。ボルディアからあふれた敵が、アニスを囲もうとしている。
「ああ!」
 頷いたルスティロはそのまま細剣で手近な骨兵へと重撃を見舞い、弾き飛ばした。
「助かる!」
 後方の援護にボルディアは礼を言いつつ、一歩をさらに踏み込む。敵の動きは――いくらかは機敏なものがいるが、大凡鈍っていた。アニスの法術の影響は、派手ではないが相応に効いていた。クィーロ、ジャックが援護に回った旭側に、こちらには御言、ルスティロ、アニス、ソフィアがついている。ゆっくりとだが、着実に進むことが出来る。
「歌劇は、お好きですか?」
 再び、アニスが法術を紡いだ。
「少し、過激……でも、ありますが」
 言葉は訥々としているが、直径一八メートルに渡り――瞬後、歌に籠められた法術が奔った。骨兵の動きが鈍る中、御言は、
「……君の配役は葬儀役かね、クロフェドくん」
 そう、嘯いた。武器を振るいながら、その動勢を見極めようと。
 ――彼は何かを仕掛けている。
 直感が、そう囁いていた。この局面で、『クロフェド自身は』動いていない。
「自身を道化と謳う君だ。それに見合うものが在るのならば……」
 ――それを見つけ出し、露わにし、焼き尽くさねばなるまい。

 眼前。ハンター達の進軍は、骨の壁へと居たろうとしていた。
「っし、退いてろォ!」
 ボルディアの咆哮と同時、骨壁とハンター達――旭側、ボルディア側で同時に、骨壁への猛攻が始まった。


「てこづらせやがって……スグにぶちぬいて見通しよくしてやる!」
 ジャックとクィーロが開いた道を突っ切って、旭は巨斧を振るった。一斉に、壁へと向かって得物を振るうハンター達。
 ボルディアを前に置いたアニスは、更に法術を紡いだ。顕現するのは幾重もの花、花、花。
 聖なる力を秘めたマテリアルが爆散し、周囲の骨兵と共に骨壁が大きく軋んだ。
 同時。
「――虎穴に入らずんば、と言うからね」
 御言はその足からマテリアルの奔流を迸らせて、飛翔した。

 高く、そびえ立つ骨壁を、超えて。

 骨兵が減り、骨壁への攻勢が始まった事を確認してからの飛翔は、骨壁を超えて向こう――クロフェドが居たと思しき場所へと向かってのものだった。
 加速を受けて長髪を靡かせながら、御言は睥睨する。
「その“小道具”の向こう……暴かせてもらうよ」
 クロフェドの黄金色の衣装を纏った骨の身は目立つ。御言がクロフェドを認識したと、同時。
「おやおや、それは些か礼を失してはおりませんかな?」
 クロフェドの視界には入っていなかった筈だ。それでも、あたかも見通していたかのように骨の身で笑うクロフェドの手がくるりと回り、翻った。舞踊の如くに放たれたそれは、しかし、御言の予測の通り。
「その手は読めている……!」
 故に、御言は機導術を紡いだ。マテリアルで誘導された盾が加速し、投げられたナイフと噛み合う――が。
「……ッ!」
 複数放たれたナイフのうち二つ、盾を抜けて御言に突き立った。それだけならば何処からかマテリアルの加護もあり踏みとどまれただろう。しかし、御言の身体は意に反して盾の制御を喪い、マテリアルの加速をなくし、骨壁の直上へと墜落した。
 受け身を取ろうとして、失敗した。言葉も紡げない中、直ぐに骨の壁から湧き出た骨兵達に組み付かれ、骨を刺され、殴られ、噛みつかれる。
「ぐ、っが……っ」
 理解が追いついた。抗う身体を、毒が縛っていた。運か、はたまた備えか、その両方か。何れにせよ、虎穴の代償は高くついたか。
「御言さん!」
「……ッ、急げ……!」
 焦りと共に紡がれるハンター達の声は遠く。しかし、カチカチカチ、と打ち鳴らされる骨の音は、激痛を貫いてその耳朶に触れた。それが拍手だとわかると、御言は歯を食いしばった。痛みを堪える為ではない。戦場でのこの振る舞いに、クロフェドを悦ばせるつもりには、なれなかった。
「蛮勇、蛮勇、蛮勇でございますな、名も知らぬ御人!」
 その言葉と同時、肉を食い千切られ、急速に熱を失っていく感触と共に、御言の意識は暗転した。

 ただの一つも、苦鳴はこぼさぬまま。


「……なるほど、これは勇ましい。正しく戦士でいらっしゃいましたか」
 骨壁から湧いた骨兵に意識を失った身体を運ばせると、殴打と噛み跡に汚れる御言の顎を優しくつまみ上げ、
「ですが、貴方は見誤った。貴方の飛翔は、全てを見ていた私にとっては奇襲足り得なかった……ああ、私も道化ではありますが、貴方も中々のもの、と言わざるを得ません! ふふ、事が済めばゆっくりと血を抜き、丹念に乾かして一兵に加えて差し上げても良い……」
 そのまま、ぽうい、と。御言の身体を遠くへと放り投げた。歪虚の力で放たれた御言の身体は受け身もとれず、鈍い音と共に崩れる。
 それと、同時の事だった。骨壁が破れ、その向こう側から迫る骨兵達に追いやられるように――ハンター達が、骨壁を抜けてきたのは。
「ようこそ、生者の皆様。我ら死者の歓待は、お楽しみ頂けたでしょうか?」
 骨壁が破れた事に頓着せず、悠然と礼を示して見せる。
『幕が、開いた』。
 そう言わんばかりの言葉と、仕草であった。
 微かに息を荒げるソフィアはその様子にやはり、小首をかしげたようだ。
 ――近くで見てもどこから声をだしてるか分かんない……。
 しかし、ソフィアは空気の読める娘だった。今はシリアスな空気だ。味方も一人やられた。
 だから、黙って状況を見定める。遠目には、御言の息はあるように見える、が。足を伸ばして拾いに行くには、その後の戦闘のことを思えば難しい。見れば、傍らのジャックも難しい顔をしているようだ。
 視線は、絶対合わないのだが。
 前方にクロフェド。後方には骨の壁と骨の兵。そこまで考えて、
「…………あれ?」
 思わず、ソフィアは振り返った。骨の壁の抜けた穴は押し寄せる骨兵達で埋められてしまっている、が。
(………………ジョンさん、置いてきてない?)
(あー……)
 小声でそう言うと、ジャックがバツがわるそうに小声で応えた。援護として向かうには、後方の敵はあまりに分厚い。
(……まぁ、静かにしてれば大丈夫だろう。ロッソに近づきそうなら俺が行く)
 馬上のクィーロがそう言った。幸い、ロッソまでは距離がある。今のクィーロにとっては些事だ。大体、今回の依頼はジョンに関してはノーコメントだった筈だ。だから大丈夫だと静かに、しかし大きく頷いた。
 ジョンが聴いていたら卒倒しかねぬやり取りが成されている中、
「……やぁ、相変わらずだね、道化師さん」
 相対の中、ルスティロが薄く笑う。すると。
「皆様、数多の死者をなぎ払い、大変お疲れの事と存じます。そこでこの私、《操骸道化》クロフェドは一つ、考えたのです」
 礼を終えたクロフェドは悠然と身を起こして笑い。
「第二幕は、こう言った形の意趣返しは、いかがなものか、と」
 骨の指を鳴ら――そうとするが、骨の身だ。わずかに掠れた音が響いたのみであった。

 だが、変化は絶大だった。


 ゲタ。ゲタゲタ。
  ゲタゲタゲタ。
 後方から、乾いた骨の音が湧き上がった。
「……おい、おいおい……!」
 後方の動勢を見張っていた旭が叫ぶ。
「倒した奴らまで動いてるぞ!」
「……てめェ、何しやがった」
 ジャックの問う声に、クロフェドは恭しく一礼をすると。

「いやはや、先ほども申し上げた通り、第二幕、でございます」

 そう言い、疾走した。ハンター達の前方からはクロフェド、後方からは骨の大群が迫ってきている。
「いいねぇいいねぇ! もう二度と立ち上がれねえくらい轢き潰してやる……!」
「コッチは俺たちが食い止める! クロフェドは頼んだぜ!」
 馬首を返したクィーロに、こちらは巨斧を構えて立つ旭。ソフィアは押し寄せる大群にふああ、と声をあげていたが、
「……ちょっと飽きてきたかも!」
 と、うんざりした様子で切り込んでいった。アニスは中衛を維持。素早く双方の動きを見やる、その先で。
「おゥ、クソ骸骨」
 拳銃を肩に駆けて睥睨する偉丈夫――ジャック。傍らには、ルスティロとボルディアがいる。
 3人は夫々に得物を構え、呼吸を整える、と。
「いい加減終いにするぞ」
 ジャックの声を背に、往った。


「らァァアッ!」
 クィーロの豪快極まる気勢と共に、人馬一体にて騎突からのなぎ払い。さばける数は多くはない、が。得た手応えは先程よりも良い。骨はたやすく砕け、更に立ち上がる事もなかった。
「燃えちゃえ! 紅◯剣!」
 諸般の都合で伏せておくが、アニスの直衛についたソフィアも一体を断ち切るが、骨兵は次から次へとやってくる。ソフィアは構えをただしただけで、真っ向から相対した。傷を負う形にはなるが、十二分に敵を惹きつける。
「希望は、光は……奪わせません! 『開花』!」
 それは、包囲した骨兵を全て、アニスの法術の間合いにとらえた形だった。撃ち漏らしにはソフィアが更に斬りつける。
「さっきより動きが鈍いな……御言は無事か!」
「行っていません、大丈夫です!」
 さらなる殲撃を振るった旭が言うと、が声を張った。
 威力も、身のこなしも何れもが劣化している。先程は見せた効率的な包囲も、それを匂わせる挙動もない。
「……クロフェドの余力が無くなったから、か?」
 だとすれば、事の動勢はあちらに託す形になる。だとしたら、懸念が湧いて出てきた。
 ――CAMや魔導アーマーの残骸が暴れる中で、何故、コイツは。
 余力が無いのならば……何のために、此処で?
「……分っかんねぇ! 気に入らねぇ!」
「結局コイツらはロッソには向かっていない」
 苛立ちまじりで巨斧で敵を轢き潰す旭の懊悩を汲みとったか、クィーロが応じた。
「ロッソが狙いではない。なら、コイツは……」
 遠く、CAMや魔導アーマーの騒乱を見て、呟いた。
「レチタティーヴォの復活を、狙っているのか……?」


 前衛にボルディア。遊撃にルスティロを置き、銃撃が可能なジャックが後衛に入った。
「ちょこまかと……ッ!」
 素早く跳びはねるクロフェドを猛追しながら、ボルディアは斧槍を振るう。充溢したマテリアルでその身体を癒しながら、更に二連の閃刃。
「おほっ!」
 それはクロフェドの衣装を確かに、切り裂いた。骨を断ち切るには至らなかったが、その姿勢を打ち崩した。
 ――届く。
 この一打はクロフェドには有効で、有用だと確信する視界の端から、ルスティロが飛び込んできた。
「――ッ」
 短い気勢を、銃声が飲み込んだ。姿勢を崩した所に、ルスティロの霊呪を込めた一撃と、ジャックの銃撃が重なったのだ。身軽な身体は――おそらく、その体躯故なのだろう。クロフェドの身体が滑稽なほどに遠くまではじけ飛ぶ。
 くるりくるりと大仰に着地したクロフェドに、ルスティロは告げた。
「物語はね、やっぱり誰かの為にあるべきだと思う」
 その目は、かつてと違い……随分と、柔らかだ。
「君は命の輝きに影を落として、その瞬間の煌めきを描き出そうとしたのかもしれないけど……それで誰が喜ぶんだい」
 微笑みすらうかべて、青年は言う。物語るように、優しげに。
「ねぇ、君さ、今『僕らの事を描いちゃいない』よね。以前とは違う、何かを求めて燃える魂は……少しだけ輝いて見えるよ」
 ボルディアに追われ、物言うルスティロに突き撃たれ、銃撃に晒されるクロフェドは言葉を挟まない。
 ――腹立つぜ。
 ジャックは胸中で吐き捨てた。しゃべる余裕が無いわけではないとは、相対しているからこそ、分かる。苛立ちと共に唾を吐いた。あくまでも即興劇のつもりでいるのだろう。台詞は遮らない。どうぞ続きを。そう言っているのだ。
「『《操骸道化》クロフェド・C・クラウン。
 その死したる躰を持って、彼は最期に何を描き出すのか?』……ああ、全く趣味じゃない。けれどね、残念、興味を惹かれてしまったから」
 ルスティロは手を緩めない。さらにマテリアルを込めた一撃を放ちながら、
「君の終幕を、僕は描こう。それが美しくある内に」
 そう結び、撃ち抜いた。


「……っく、ククッ! ウクククッ!!!」
 吹き飛びながら、追撃しようとするボルディア達へと投げナイフを放つ。警戒し、何れにしても想定していた攻撃だ。籠められた毒さえ堪えられれば支障はない。
 とはいえ、攻勢に僅かに間が空く。その“隙”を――クロフェドは、突かなかった。
「誰が喜ぶッ? 魂ィッ? 貴方がたを描いていないッ?」
 これは即興劇だ。優れた言葉には――そう。“Yes, and.”そう答えるのが習わしである。故に。
「まさにまさにまさに! まさに仰るとおり、私は道化。演じ踊る道化でございます。ですから、私はこう応えたい」
 ルスティロに向かって、大仰に礼をしてみせたクロフェドは、
「物語るのはそれを見た何者かである、と。そう、例えば貴方さまのように! いかなる舞台でも見る者によっては喜劇であり、悲劇であり、英雄譚である」
 そうして顔を挙げるとクロフェドは後衛に立つジャックを見据えた。
「例えばそこの貴方」
 盾を構えて警戒するジャックに、クロフェドは悠然と、こう告げた。
「貴方さまは、大層お優しい」
「あァ?」
「斃れたお味方を護る位置に立っておられるのでしょう?」
「……………………」
 沈黙が、雄弁に物語っていた。ジャックの後方には、地に伏す御言が、居た。助けに行く余裕はない。しかし、『この歪虚』はそこを突きかねない。それ故の立ち位置だった。
「こちらの女性の勇猛は、それを識った者に力を与えるでしょう。勇壮なる英雄譚として! あるいは、私共を切り崩す為の導として!」
 クロフェドは悠然と、
「なればこそ、私共は悪逆の徒であるのです。

 ――他ならぬ、あなた方のために」

 そのように、腰折り告げ――、

「「ごちゃごちゃ五月蝿ェよ」」
「ぶはっ」
 異口同音と共に放たれたボルディアの連撃とジャックの銃撃にぶち抜かれ、吹き飛んだ。


 盛大な《ブロッキング》に弾き飛ばされたクロフェドはその後、徐々に追いつめられていった。
 極めつけは、骨兵対応に回っていたアニス達の合流である。逃げまわるクロフェドは兎も角、精彩を欠くようになった骨兵達は――物量による消耗はさておき――、ハンター達の敵ではなかった。尤も、それに足るだけの時間、クロフェドが逃げまわった事を意味するのだが。
「聞いてたほど強くはねェな、てめェ……!」
「それは! 申し開きもできようもございません!」
 ボルディアの声に応じるクロフェドの言葉には余裕はなく、散発的にナイフを投じ切り結ぶ程度しかできないようだった。既にその衣装は傷だらけで、砕けた骨は数知れず。動くたびに破片がばら撒かれる始末だ。
 無理もない。あれだけの亡骸を動かす大立ち回りだったのだから。
 けれど、クロフェドは逃走しない。終わる。この歪虚の抵抗は、もう、間もなく。
「……なぜ、サルヴァトーレ・ロッソを攻めたのですか」
 だから、アニスは問うた。
「なぜ、貴方がた歪虚は、あのユニットを集めるんですか……!」
「くふ、かかっ」
 その問いに、クロフェドは愉快でたまらぬ、といった調子で笑う。
 それが、かの歪虚の限界であったのか。はたまた、それが徒となったか。
 ボルディアの斧槍がその両足を砕いた。ルスティロの細剣が右の肩甲骨を。ジャックの縦断が左の上腕骨を。旭の大上段から振るわれた巨斧が半身を砕き、クィーロの刀が残った右半身の腰椎を断ち切り、
「チェスト……ッ!」
 ソフィアの斬撃がその首を断った。髑髏が宙に舞う。眼窩の赤光が明滅する中クロフェドは、
「道化に過ぎぬ私にそれを問う、貴方の白百合の如く清純で、儚く、それゆえに滑稽な貴方に、私はこう答えましょう!」

 最後の瞬間に、ケタケタと骨を鳴らしながら、こう言った。

「――乞う、ご期待、とね!」



「傷が痛い子は……そうですね、いますよね!」
「大丈夫ですかっ」
 戦闘が終わるや否や、ソフィアは御言の元へと駆け寄った。アニスもすぐに向かい、治療を開始するが、御言は堪えない。血を流しすぎたか、身体も冷えていた。
「……おぉー、これはよくないね。時間が経ちすぎたかな……とにかく、すぐに集中的な処置がいる。ロッソに連れて行こう」
「俺の馬を使え」
 のうのうとやってきたジョンがそう言うと、クィーロが応じた。移送が必要なほど状態が悪いと見え、ハンター達は急ぎ足でその為の準備にとりかかる。
「……そっちから見ていて、変な動きはなかったか?」
「ウーン」
 クィーロが物静かに問うと、ジョンは首を振った。
「無かったね。彼らはまっすぐに君達を狙ってたし、ボクからは何も……ね、君たちのほうがVOIDには詳しいだろう」
 処置と移送の準備が出来るまでの間に、と。ジョンは口早に尋ねる。
「彼は、何がしたかったのかな?」
「わっかんねー……」
 がしがしと髪をかきながら、旭。
「でも、ココまで来たってことは、レチタティーヴォのためなんじゃないの?」
 戦闘は終わったものの、心中は煮え切らぬままだ。
「だとしても、【嫉妬】じゃなく【暴食】なのもわかんねえ……」
「……即興劇、と彼は言っていたね」
 旭の推測に、ルスティロが続ける。
「レチタティーヴォが何のために『これ』を仕込んだかは、彼にも解らなかったのかな」
 そう言って、辺りを見渡したルスティロ。その中で、黄金色の衣装に包まれた骨は特に念入りに壊され、砕け散り、破片を残すばかりとなっていた。しっかりと見定めた後、手元の魔道書に書き込んでいく。此度の物語を、形にするために。
「……《操骸道化》」
 ぽつり、と。ジャックは言った。
「レチタティーヴォの遺体を操るつもりだったのかもしれねぇな。あいつはそれを探していたのかもしれねえ」
「遺体……は、残ってないよね?」
「……それも、そうだな」
 応じたジョンに、ジャックはバツが悪そうに応えた。原則、歪虚の遺体は消える。なりたての歪虚や、高位の歪虚ならば――例えばかつての《狂気》の歪虚がそうだったように――何かを残すこともあるらしいが。
「って言ってもよぉ……アイツが、ただロッソ襲撃で終わるような、そんな三文芝居で幕を引くヤツだったかよ?」
 ううむ、と。一同は唸った。
「……真相は闇の中、ってことだねえ」
 ジョンは苦笑を一つ零すと、クィーロの馬に跨がり、
「ま、今日はたすかったよ! アリガト♪ あ、この子はちゃんと返すから!」
 颯爽と、その場を後にした。御言の状態が悪いのは真なのだろう。それっきり、振り返ることはなかった。

 戦闘は、終わった。苦境はあったものの、大禍なくクロフェド・C・クラウンを退けたのである。
 ――気づけば、人形たちによる騒動も終着を得ていた。
 懸念と謎を遺したまま、此度の騒動は幕を下ろすこととなった。





●あるいは、幕間として

 ケタ、ケタ、ケタ。

 何処かで。髑髏は、笑った。

 愉快そうに。嬉しそうに――幸せそうに。

依頼結果

依頼成功度普通
面白かった! 12
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭ka0234
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムスka0796
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴka1305

重体一覧

  • ゴージャス・ゴスペル
    久我・御言ka4137

参加者一覧

  • 戦地を駆ける鳥人間
    岩井崎 旭(ka0234
    人間(蒼)|20才|男性|霊闘士
  • 英雄を語り継ぐもの
    ルスティロ・イストワール(ka0252
    エルフ|20才|男性|霊闘士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 勝利の女神
    アニス・エリダヌス(ka2491
    エルフ|14才|女性|聖導士
  • 差し出されし手を掴む風翼
    クィーロ・ヴェリル(ka4122
    人間(蒼)|25才|男性|闘狩人
  • ゴージャス・ゴスペル
    久我・御言(ka4137
    人間(蒼)|21才|男性|機導師
  • 無垢なる黒焔
    ソフィア・フォーサイス(ka5463
    人間(蒼)|15才|女性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/02/11 12:15:07
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/02/11 10:31:17
アイコン インプロブロッキング(相談卓)
アニス・エリダヌス(ka2491
エルフ|14才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/02/15 07:43:56