• 詩天

【詩天】あまがえるのなく頃に

マスター:葉槻

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/06/14 07:30
完成日
2016/06/26 23:03

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 雨が降る。
 この時期の雨は大地を潤し、稲を育み、厳しい夏に向けて川やため池の水量を増す大事な恵みである。

 ゲコゲコ。
 ケロケロ。
 ガーゴガーゴ。
 グワグワグワ。



 雨の間を縫って山菜採りにやってきた2人の姉弟。
 父親はいない。弟が生まれてすぐに歪虚に殺されたから。
 以来母は忙しく働き、家事は主に姉の仕事で、弟はそれを手伝う。
 遊びたい盛りのまだ弟は、よくよく姉を困らせた。
 今も、山に入った途端、勢いよく奥へと駆け行っていく。

「迷ってしまうから、あんまり奥へ行ってはダメよ」

「だいじょーぶだってー!」

 姉の忠告に笑いながら男の子らしい無謀さで、草木を掻き分け奥へ、奥へ。

 憤怒の歪虚王『九蛇頭尾大黒狐 獄炎』が倒された、というのは本当らしい。
 去年とは比べものにならないくらいに草木が青々と茂り、山には小鳥や獣たちが戻ってきていた。
 何より、大小様々な妖――歪虚と遭遇する事も格段に減った。
 それだけでも戦う術を持たない女子供にとっては大きな喜びだった。

「すげぇ! こんなにこごみがなってる!」

 普段分け入る場所より奥まで足を延ばすと、まだ誰にも見つかっていないのか、目当ての山菜が群生していた。
 弟はこれを持って帰ったら姉や母がどれほど喜ぶだろうと喜色を浮かべた。
 摘み始めて、もう既に姉や母に褒められた気になって得意げに鼻歌を歌いながら次々に山菜を摘んでいく。

 ふと、水音に気付いて顔を上げる。

 ちょろちょろ。
 ちょろちょろ。

 音に引かれて先に進めば、清らかな水の流れる小川があった。
 恐らく町のそばを流れている川の支流の一つなのだろう。細い川だが、覗けば川魚などもいるようだ。

「魚もいる……姉ちゃんに教えてやらなきゃ!」

 流石にまだ5つの子供には魚を独りで獲るのは難しい。釣り道具か、罠を仕掛けなくては。
 弟は山菜をいっぱいに詰めた篭の場所まで戻り、もう一つの音に気付いて動きを止めた。

 ゲコゲコ。
 ケロケロ。

 蛙の鳴き声だが、弟は蛙そのものを見た事が無かった。
 何しろ今まで外は歪虚がうろつくため、外出など殆ど出来なかったのだから。
 絵姿では見た事があったし、鳴き真似などを聞いたこともあった。
 だから、初めて聞いた鳴き声だったが、蛙だとわかった。
 わかると、見てみたくなる。
 本当に、あの絵のような姿をしているのか。
 手の平より小さい緑色の蛙や、いぼのある大きな茶色い蛙もいるのだと聞いた。
 この声の主はいったいどんな姿をしているのだろう。

「トシ、どこへ行ったの? 雨が来そうだから、もう帰るよ」

 河原まで出たところで姉の声が後ろから聞こえた。

「姉ちゃん、こっちだよ。川があって、蛙がいるよ」

「川? 危ないから、戻っておいで」

「蛙を見たらね」

 草木を掻き分ける姉のと思しき人影に声を投げる。と、背後で何かの気配がした。
 蛙だとしたら、聞いたより大きいかも知れない。
 そう思い、気配の方へ振り返り――

「トシ!!」

 ようやく弟の姿を捕らえた時、その後ろの岩が動いた。
 大きな赤い赤い口が、桃色の長い舌が、弟を捕らえひと呑みにした。
 それは、ほんの一瞬の出来事。

「トシっ!!」

 弟の名前を絶叫したものの、姉は恐怖に動けない。

 ゲコゲコ。
 ケロケロ。
 ガーゴガーゴ。
 グワグワグワ。

 4つの鳴き声が語らうように、輪唱するように周囲に響く。
 姉は恐怖に震える身体を叱咤して、山を駆け下りた。



「助けて……弟を助けて……!!」
 駆け込んだ先は梅鶯神社――「即疾隊」の屯所。
 荒くれ者の浪人達が多いと悪評は高かったが、逆に言えば腕っ節はあるはずだ……そう、思ったのだ。
「どうしたね、お嬢ちゃん」
 声を掛けてくれた男の鋭い目つきに、怯んで声が出無くなる。
 が、うつむき唾を飲み込み、ぎゅっと目を閉じてから、もう一度男を見て訴えた。
「弟と山菜採りに行ったら、弟が蛙の化け物に食われてしまって……お願いします、弟を助けて下さい!!」
 がばっ、と額を地面にこすりつけて土下座する姉を見て、男はふむ、と思案した後、そばにいた美丈夫と顔を見合わせる。
「奥に暇している者がいたはずです。そいつと……あと先ほどハンターの方々が奥に来ていたのでご助力願えないか聞いてみましょう」
「あ、ありがとうございます!!」
「まぁ、顔を上げなさい。……道案内をお願い出来るかね?」
 男に促され、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を上げると、姉は力強く何度も首を縦に振ったのだった。



「あー、めんどくさ」
 だらだらとやる気なさそうな足取りで付いて来るのは瀬能(せの)と呼ばれた痩身の浪人だった。
「なー、お前がぶんとそいつでやっちまってくれよー」
「……」
 もう1人は無口で大男、名を彰(あきら)と言うらしい。得物は薙刀。確かに体格と大きな薙刀は似合っている。
 一方、軽薄な笑みを浮かべる瀬能は鎖鎌使いだと聞いた。
「まー、俺達がどーにかしなくても、あんた達が勝手にやってくれればそれでもいいんだけどさー」
 前を行く少女にこの会話が聞こえているのでは無いかと冷や冷やするが、少女は一心不乱に山へ向かって歩いてく。

「この先です」
 少女が立ち止まり、先を指差した。
「どうか、弟をお願いいたします」
 少女は即疾隊の2人の方を見向きもせず、あなたたちへと頭を下げた。
 ……どうやら先ほどの会話、聞かれていたらしい。
 このままでは、また更に即疾隊は役立たずで信用にならないと噂になってしまうだろう。
 あなたたちは顔を見合わせ、どうしたものかと思案するのだった。

リプレイ本文

●前奏
「安心して、弟さんはざくろ達が絶対助けだしてくるから………それにあの人達も、照れ隠しにあんな事言ってるだけで、ちゃんと力になってくれるよ」
 頭を下げる尚に向かって時音 ざくろ(ka1250)は、後半はそっと耳打ちするように告げると優しく微笑みかけた。
(………いや、ほんとはあの言葉に、殴りたい位怒ってるんだけどさ)
 即疾隊の態度に心の中で怒りつつ、顔には出さないようにしている。流石はハンターの鑑である。
「僕はまだまだ駆け出しの未熟者ですが依頼には全力で当たらせて頂きますよ!」
 人当たりの良い好青年といったアスル・アンバル(ka6329)も、尚を励まそうと胸を叩く。
 二人に声を掛けて貰った事で、尚は少し安心したように目元を和らげた。

「目の前で家族が食われたなんてのはトラウマものよね……同じ姉の立場として、ここは何とかしてあげたいかな」
 すこし後方からアルスレーテ・フュラー(ka6148)が頬に指先を当てて小首を傾げながら呟く。
「よし、頑張ろう」
 修行兼お金稼ぎのために参加した玉兎 小夜(ka6009)は即疾隊の態度に辟易しながらも、尚の姿を見て絶対に救出してあげようという想いを強める。
 遅れて歩く4人を心配したのかアスルが後続の方へと歩み寄ってきた。
「速やかに弟さんを救出せねばなりませんね。日が落ちるまであまり時間がありません。それに時間を掛けすぎると消化されてしまう可能性も有ります」
「……あんた、思った事すぐ口にするタイプ? あの子の前で言わなかっただけ偉いけど」
 ショウコ=ヒナタ(ka4653)が白灰色の瞳でじろりと見る。
 ……だが、事実だ。徐々に陽は傾き、何よりここは山の中。
 日没まではまだ時間があるが、山の陰に陽が落ちるまで1時間も無いだろう。
 墨城 緋景(ka5753)はそんな周囲の風景を目を細めて見つめていた。
 懐かしい。東方独特の木造家屋も。じめりと湿度の高い空気も。山の香りも、何もかも。
 唯一違うのは鬼に対する扱いが、記憶よりも和らいでいることか。
 初めて尚と対面したときも、その瞳に嫌悪の色がなかったことに少し驚いていた。
 『東方』が変わり始めているのか。それともこの『詩天』だからなのか。わからない。それでも、少し、嬉しかった。

●Aメロ~不協和音~
「この先が川になっています。弟は、その河原で……」
 声を潜めた尚へ、アルスレーテが静かに頷く。
「ん、案内有り難うございます、尚さん」
「僕達に任せて待っていて下さいね。必ず助けますから」
 アスルが力強く頷く。
 一方その頃、ざくろと小夜が即疾隊の二人にお願い、という名の指示を出していた。
「やるきないおっさん。私たち頑張るから、逃げないように川側にまわってー? 案山子みたいに立ってればいいだけだからさー」
「……けっ。流石、獄炎を退治したハンター『様』は俺達一般人の微々たる力なんていらねぇってさ。馬鹿馬鹿しい、帰ろうぜー」
 小夜の言葉は酷く即疾隊の……特に瀬能の逆鱗に触れたらしい。慌ててざくろが間に入る。
「ざくろ達は動き回っての対処が得意で……だから、いざという時の為にここをドンと構えて、その風格で相手を威圧して通せんぼして欲しいんだ、お願いします」
「面倒くさいと思うけど、これも仕事だから手伝ってよ……カチコミはやる気十分な人たちが頑張ればいいんだから」
 ざくろの言葉に立ち止まり、ショウコの後押しにもう一度「けっ」と悪態を吐きながら瀬能は鎖鎌の鎖をチャラリと鳴らして「わかった」と告げた。
 小夜はそれを見た後、もう1人の即疾隊の彰へ告げる。
「やる気ないおっさんの補助してもらって良いかな? 警戒役的な感じの」
「……」
 無言のままギロリと睨まれるが、小夜はそれを無視して尚へと歩み寄る。
「よく頑張ったね。けど、尚にも出来ることあるから手伝ってもらっていい? ここで、弟君の名前を大声で呼んであげて? 答えてくれるかもしれないから」
「ボクがきっちり護るからねー」
「……わかりました。よろしくお願いします」
 笑いかける緋景に神妙な顔で頷く尚。小夜は満足そうに微笑み返すと、みんなで一斉に河原へと飛び出した。

●Bメロ~走ったり、もたったり~
 ハンター達から見れば、川上にあたる河原で4匹の蛙はのんびりと日光浴をしていた。
「跳ねるのは、お前達の専売特許じゃない……ざくろが相手だ!」
 1番奥にいる大きい蛙歪虚へとざくろが1人、文字通り『飛び掛かって』行く。
「っ!?」
 インストーラーで斬り掛かるも、予想以上の皮膚の弾力に跳ね返され、土煙を上げながら着地する。
 ほぼ同時にアルスレーテが地を蹴り――次の瞬間には1番手前にいた1m級の蛙歪虚へと北斗を叩き込み、完全に不意を突いた一撃は蛙を昏倒させていた。

「よし、じゃあこっからがお仕事」
 真っ白なロップイヤーを顕現させながら、小夜が河原を全力で走る。
 ショウコも山側から走り、蛙へと距離を詰める。
 銃であればその場からの攻撃も出来たが、今回はどの蛙の腹に尚の弟がいるのかまだ判っていないため、貫通する恐れのある銃撃は避けたのだ。
 アスルもまた走る。走り寄りながら、その瞳は冷静に敵の動きを見つめていた。
 その舌の長さ、ジャンプ力などを見極めながら、どう闘うかを考える。
 即疾隊の2人も川沿いを走っていく。

 走り去るみんなの背を見ながら、ふんふん♪ と鼻歌交じりに緋景は符を並べ始めた。
「何を……?」
「んー、トシ君、どこにいるかなーって。尚君も呼びかけて、ほら、トシー! トシー!」
「は、はい!」
 緋景に言われて、尚は弟の名を叫び始める。
 その声を聞きながら、緋景は占術を完成させる。
「……んーやっぱり大きいののお腹の中が怪しいかなー。もう少しだけ近付いてみよう」
 いざとなったら自分が肉壁になる覚悟で――そんな覚悟を微塵も感じさせない笑顔のままで――尚を促すと、符の効果が届く距離まで慎重に近付いていった。

●サビ~輪唱~
 ショウコは苦戦していた。
 レガースによる側面からの蹴りに努めていたが、蛙からの一撃が予想よりも重たい。
 長い舌で自分が巻き取られている間に『誰か』が攻撃を……と思っていたが、仲間とのタイミングが合わず、上手く立ち回れない。
 それでも自分が相手取っている蛙の腹に弟がいるの可能性がある限り、ショウコには銃が使えなかった。
「両生類相手に水辺で戦うとか、正気の沙汰じゃないけどね……ぐっ!」
 ショウコが蛙の顔面を蹴り抜いた直後、その巨大な身体からは想像しがたい脚力で高くジャンプすると、ショウコを踏みつぶした。
「女の子を下敷きにするなんて、中々ドスケベな蛙ね」
 既に一体の小型蛙歪虚を片付けて来たアルスレーテが呆れたように呟くと、その口調とは裏腹に骨が砕けるような音を響かせながら、北斗で蛙を殴り飛ばしていた。
「助かった、有り難う」
「どういたしまして」
 蒼い瞳を細めてアルスレーテが笑って答えると、「さて」と2人は昏倒している蛙を見た。
 昏倒した蛙を丁寧に鉄扇で、レガースで、腹部を避けつつ殴り蹴り続け、蛙が意識を取り戻す頃にはその四肢もほぼ潰され、最後の一撃はショウコの華麗なる踵落としで決まったのだった。

 一方アスルはアサルトライフルを構え、その後ろ脚を狙おうとスコープをのぞき込むが、蛙の動きが不確定過ぎて上手く脚部を狙えない。
 胴に当てるのだけは避けたいと思うと、どうしても引き金を引くタイミングがずれる。元々闘狩人は近接攻撃が得意なクラスでもあり、手持ちのスキルは射撃の威力や命中力を助けてはくれなかった。
 その時、驚異的なジャンプ力で一気にアスルまで距離を詰めた蛙が、その長い舌を鞭のように振るった。
「っ!!」
 避けられない一撃に受け身を取ろうと構えると、光り輝く1羽の鳥が蛙とアスルの間に割り込み、舌の攻撃を受けて砕け散った。次いで、蛙がゲゴォという悲鳴染みた声を上げる。
「間に合ったー」
 へらっとした笑みを浮かべて緋景がアスルに手を振る。
「っち。危なっかしくて見てられねぇぜ」
「……」
 緋景の瑞鳥符がアスルを護り、また、蛙は即疾隊の2人によって足を切りつけられていた。
 アスルは頭を下げると、ライフルを戻し、ブレンネンを構えると、強く踏み込みながら炎を纏わせたナイフを力強くその足に突き刺した。

「トシー!」
 幾度目かの尚の叫びに、大型蛙の腹が不自然に動いた。
「動いた! やっぱりコイツの中だ!!」
 ざくろと小夜が頷き合って互いに距離を取ると、それぞれが全力の一撃を同時に叩き込む。
「光剣ドライブインストール! ……幼き命を救う為、届け光の剣」
「ヴォーパルバニーが刻み刈り獲らん!」
 ざくろの機導剣と納刀からの居合い、さらにそこに電光石火の一撃を加えた小夜の一撃が蛙の両後ろ脚に炸裂する。
 最期の悪足掻きのように舌で2人を鞭打ったが、それも2人にとっては児戯のような物だった。
「大人しく塵へと還れ!」
 ざくろが再び飛び上がり、機導剣を頭頂部へ突き刺し、小夜が顎下から漆黒の祢々切丸を突き刺すと、ついに大型蛙は塵へと還っていった。

 リーダーがやられたことに気付いた最後の一体は、満身創痍の身体を引き摺って即疾隊の2人を弾き飛ばすと川へと飛び込む。
「っ!」
 アスルが再びライフルを構えるより早く、一発の銃声が周囲に轟いた。
 ショウコの水中銃が、的確に蛙の後頭部を貫いていた。
 ぷかり、と浮かんできた蛙は、川の流れに流されながら塵へと還っていく。
「わぁー蛙って死ぬとあーなるんだー」
 それを見た緋景は、蛙面の知人を思い出して無意識のうちに呟いていた。

●後奏
「トシっ!」
 塵となって消えた蛙の跡から現れた弟を見て、尚は名を呼びながら駆け寄った。
 トシの全身は蛙の消化液と思われる粘液に全身をじっとりと濡れており、小夜は触れない方がいいと尚を一度止めた。
「私が」
 アルスレーテが両手を組み、自身の中で練り上げた気でトシの全身を包んだ。
 その気の光りは暖かく優しい色をしており、徐々に火傷のようになっていた皮膚が癒やされていくのを見て、尚は涙を流して安堵していた。
「有り難うございます! ありがとうございますっ!!」
 傷の癒えた弟を抱きしめて、尚が何度も礼を告げていると、トシの固く閉じていた瞼がゆっくりと開いた。
「……ねぇちゃん?」
「トシ!」
「ねぇちゃん、いたい、くるしぃよぉ」
 力一杯抱きしめられて、目を白黒させながらトシが言うと、尚は泣き笑いながら「ごめんね」とその腕を緩めた。
「牛乳飲む?」
 緋景が胃酸を中和できたらと持ってきた牛乳だったが、トシは「飲む!」と目を輝かせて受け取ると、それを一気に飲み干した。
「おいしい……ありがとう、にぃちゃん」
「うんうん生きててよかったねぇ」
 天はまだ君に役目を与えて下さっているようだよ、と告げながら、その頭を撫でる。

 既に陽は山の向こうに落ちてしまった。まだ空はぼんやりと明るいが、間もなくここにも夜の帳が降りるだろう。
「いてて……」
「…………」
 少し離れた河原ではアスルと共に小型蛙を相手にしていた即疾隊の2人も切り傷やら打撲やらを全身に負っており、互いに衣の端を切り裂いて傷口を縛ったりしていた。。
 それを見たアルスレーテが2人にも『母なるミゼリア』を施す。
「ご苦労様でした」
「……かたじけない」
 アルスレーテの言葉に、彰が初めて口を開いた。
「……便利だな、ハンターの力ってのは」
 瀬能が鼻を鳴らし、顔を背けて言う。
「あんたねぇ……」
「わぁっ! すごい、何これ!!」
 小夜がうんざりしたように口を開くが、それより先に、トシの声と指差した方に一同の視線は向けられた。

 ぽつり。
 ぽつり。
 小さな光りが。
 ふわり。
 ふわり。
 草から草へと舞っていた。

「……蛍だぁ」
 ざくろが嬉しそうに光りへと近づき、そっと両手で光りを閉じ込めた。
「ホタル?」
 トシと尚が首を傾げるのを見て、ざくろは微笑みながらその手を二人の前でそっと開いた。
 お尻の所から淡い青緑色の光りを放つ虫を初めて見た2人は、すごーい、きれーと口を揃えて、ざくろの手から飛び立った蛍を目で追っていた。
「にいちゃんの髪の色と目の色足したみたいだ」
 アスルを見てトシが屈託無く笑う。
「……そう、ですか?」
 その笑みにつられて、アスルも微笑み返した。
 ショウコはその淡い光りにPCの電源ボタンを思い出してひっそりと苦笑を浮かべる。
「こっちにもいるんだ、蛍」
 ふわふわと頼りなく、それでも美しい余韻を引きながら徐々に増えていく光りの量に圧倒されながら、10人はその光景に暫し見とれていた。

●アンコールは届かない
「さぁ、帰ろう。暗くなって帰り道がわからなくなったとか、シャレにならないし」
 小夜の言葉に、一同は頷いて歩き出した。
 ショウコがLEDライトを持ってきていたため、帰路も問題無く帰ってこられたのは幸運だった。
 町の入口まで来た所で即疾隊の2人と分かれ、尚はハンター達に向かって深々と頭を下げて礼を告げた。
「皆さんが……ハンターの皆さんがずっとここにいてくれたら良いのに……」
 ぽつりと尚が零した言葉に、一同は一瞬言葉を失った。
 ハンターはあくまで『通りすがり』だ。
 この地を守るのはこの地に住む人々であり、治安組織や即疾隊でなければならない。
 歪虚は退治した。トシも無事に救出できた。だが、彼らと尚の間にある溝を自分達は埋めることが出来なかったらしい。
 もう少し、何らかの手を打ったり、声かけをすることで『一緒に闘っている』事を尚にアピールすることや、戦いや結果を通して即疾隊2名の心象に変化を呼び起こすことも出来たかもしれなかったが……もう遅い。
 何度も頭を下げながら去って行く尚と、その尚に片手を引かれ、元気よく空いた手を振りながら歩いて行くトシの姿を見送りながら、一同は自分達が埋められなかった溝の大きさを痛感したのだった。

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MVP一覧


  • ショウコ=ヒナタka4653

重体一覧

参加者一覧

  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師

  • ショウコ=ヒナタ(ka4653
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
  • 凶悪カエル討伐隊
    墨城 緋景(ka5753
    鬼|20才|男性|符術師
  • 兎は今日も首を狩る
    玉兎 小夜(ka6009
    人間(蒼)|17才|女性|舞刀士
  • お約束のツナサンド
    アルスレーテ・フュラー(ka6148
    エルフ|27才|女性|格闘士

  • アスル・アンバル(ka6329
    人間(蒼)|19才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/06/10 23:43:41
アイコン 作戦相談卓
玉兎 小夜(ka6009
人間(リアルブルー)|17才|女性|舞刀士(ソードダンサー)
最終発言
2016/06/12 21:09:31