• 蒼乱

【蒼乱】砂中の竜

マスター:真太郎

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
6~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/04 09:00
完成日
2016/09/10 16:51

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 南方大陸。
 強欲王であった赤龍が守護していたこの南の大陸に足を踏み入れた者はまだ少ない。
 強欲王の影響を長らく受け続けていたためか大地は疲弊し、草木はなく、荒涼とした大地が広がっている。
 ここを人類が住める場所とするにはいったいどれ程の時とマテリアルが必要だろう?
 ともかく人類がこの地に歩み出す第一歩として、まず転移門が設置された。
 これで輸送の問題に関しては解決され、多くの探索者が南方の地の各所の調査に出た。
 大多数の者は大した物を発見できずに帰ってきた。
 何名かは【強欲】の歪虚に襲われた。
 コボルトを見かけたという者も何名かいた。
 そして有益な情報を持って帰ってくる者も極少数であったがいた。


 その探索者は荒涼とした乾いた大地をひたすら進んでいた。
 進む度に土地はどんどんと枯れてゆき、やがては砂となっていった。
 灼熱の太陽。
 揺らめく陽炎。
 視界に入るのは砂のみ。
 生命を完全に排したとしか思われない死の大地。
 そこには砂漠が広がっていた。
 探索者もこんな所を調査しても何もないだろうと思い、引き返そうとした。
 だが偶然にも探索者は砂漠で動くものを見た。
 最初は暑さで目が眩んだか見間違いだと思った。
 しかし目を凝らしてみると、確かに何かが動いている。
 近づいてみると、それはコボルドだった。
 何故こんな砂漠にコボルドがいるのかと不思議に思った探索者は近づいてみた。
 すると身を隠す場所が何もない砂漠のど真ん中なため、コボルド達にもすぐに見つかってしまう。
 コボルド達は探索者に驚いたのか、一目散に逃げ出した。
「待ってくれ!」
 探索者が呼びかけたが、言葉が通じないのかコボルド達は足を止めない。
 探索者は追いかけようとした、その時。
 コボルド達が走っていた足元が爆発した。
 実際には爆発した訳ではない。
 だが爆発したかのような轟音が鳴り、大きな砂柱のような物が砂から生え、大量の砂が周囲に撒き散らされる。
 探索者は尻もちをつき、声もなく呆然と目の前の光景を見た。
 空に伸びた巨大な砂柱は重力に従って落下。砂に達すると再び轟音を響かせながら砂を津波のように押し出して潜っていった。

 砂の津波を浴びて埋もれた探索者は砂を掻き分け、なんとか地表まで這い出した。
 周囲を見渡すと、さっきまでいたコボルド達は何処にも見当たらない。
 おそらくさっきの砂柱に呑み込まれてしまったのだろう。
 だが、そもそもアレは一体何だったのか?
 すぐに思い浮かぶのはサンドワームだが、サンドワームより遥かに大きかった。
 いったいアレは何だ?
 気になる。
 非常に気になる。
 とてつもなく知りたい。
 恐怖はもちろんある。
 だが好奇心の方が勝った。

 それから探索者は砂色迷彩で身に包み、何度も砂漠に出かけ、文字通り命がけの調査を行った。
 そして何度目かの調査でようやくコボルドを再び見つけた。
 今度は見つからないように声も足音も潜めて後を追う。
 コボルド達はこの砂漠に住んでいるのだろうか?
 ならばあの砂柱の事を知らないとは思えない。
 知った上で来ているのだとすれば危険に見合うだけの何かがあるという事だ。
 探索者はそれが何なのかも知りたくなった。
 そして砂漠の熱で身を焦がされながらの追跡で、ようやくソレを発見した。
 水だ。
 砂漠の中でありながら、そこには水があった。
 オアシスだ。
 歪虚汚染の影響のためか植物は見えないが、そこには水が確かにある。
 コボルド達はこの水を求めていたのだ。
 この荒涼とした大地で水は貴重品だ。
 これは大発見である。


 探索者からの調査結果から当然オアシスを有効利用しようという案が出た。
 しかし問題がある。
 あの巨大な砂柱を起こした謎の巨大生物の存在だ。
 人がオアシスに水を取りに行ったとしてもアレに襲われてしまうだろう。
 それが例え屈強なハンターであったとしても一呑にされてしまうに違いない。
 それ程の巨体だった。
 そのため討伐案を出すのは難航した。
 並のハンターでは役に立たないと思われたからだ。
 しかし。
「大型魔導兵器を使えばよいのでは?」
 という一言で事態は一転する。
 ものは試しと魔導兵器の使用申請を行ったところ、無事に認可が降りたのだ。
 実はサルヴァトーレ・ロッソがリアルブルーへの転移から帰ってきた際、大量の燃料や資材も持ち帰っていた。
 そのためサルヴァトーレ・ロッソやハンターズソサイエティは魔導兵器の使用制限を以前よりも少し緩くしていたのだった。

 こうして砂中に潜む謎の巨大生物討伐のため、魔導兵器の貸与権証明書を持つハンターの募集が行われたのだった。

リプレイ本文

 龍崎・カズマ(ka0178)は討伐に向かう前の準備中、『アナライズデバイス』をCAMのメインカメラと繋いで映像分析を行うつもりでコクピットに持ち込んだ。
 しかし『アナライズデバイス』には外部機器との接続端子がなく、CAMとの接続はできなかった。
 そして愛用のヘルム「アドミニストレータ」には脳波感知装置が付いていないため、CAMの脳波コントロールできず操縦性能が下がる事も判明する。
 そのため仕方なく通常のヘッドマウントディスプレイを装着して出撃する事になった。
 更に魔導型のCAMには冷房装置が付いておらず、砂漠を行進するとコクピット内は灼熱地獄と化した。
「幾らこっちに適応させるためとはいえ、必要な機能をオミットされても困るんだがね……」
 だらだらと流れ落ちる汗で全身をぐっしょり濡らしたカズマは愚痴りながらもコントロールスティックを操作してデュミナスに魔導鈎「エクステンド」の錨を射出させる。
 錨を砂に刺してしばらく待ち、反応がなければ引き戻してそこまで進む。
 砂中からの奇襲対策だが今のところ反応はなく、延々とこの作業を続けていた。
「というか、気密の問題とか空調機構無くしたのはアウトだろ。操縦士を長持ちさせなきゃ鉄クズだぞこれ!」
「ホント、排熱と空調の機能を削ったやつ、縊り殺してやりたいわ……」
 烏丸 涼子 (ka5728)もカズマの憤慨に同調して苛立ち混じりの愚痴をこぼし、すっかり温くなったミネラルウォーターを口に含む。
 本当は氷を敷き詰めたクーラーボックスに入れて持ってきたかったが、コクピットにクーラーボックスが入るだけの余剰スペースがなかったのだ。
 膝の上なら乗せられない事もなかったが、それだと操縦に支障が出るため諦めるしかなかった。
 ロッソで使う空調機能のついた宇宙用の船外作業服の申請もしておいたのだが、間に合わなかったのか却下されたのか、今回の依頼までには届かなかった。
「あっつい……。奴はいったいどこにいるの? 出るなら早く出てきてよ……」
 生粋の旅人である仁川 リア(ka3483)にとって南方大陸の探索は夢だった。
 しかし憧れの地であってもこの暑さには参る。
 ミネラルウォーターで喉を潤しながら頭部のカメラを周囲に巡らせるが、見えるのは砂だけだ。
「きゃむに乗っとるもんは大変だなァ。カカカッ」
 今回唯一人CAMに乗らずに参加した万歳丸(ka5665)が高笑いを上げる。
 万歳丸も最初はCAMの肩に乗せてもらっていたのだが、太陽熱で装甲版が熱くなってすぐに乗っていられなくなり、今は自分の足で歩いている。

 カズマが錨を刺し、待って進む。
 その工程をどれだけ繰り返したか分からなくなった頃。
「あ!」
 カール・フォルシアン(ka3702)が遠方に砂煙を発見して声を上げる。
「どうした?」
「ヤツか?」
「いたの?」
「何処だ?」
 暑さと単純作業の繰り返しでバテかけていた皆が色めき立つ。
「分かりません。でも砂煙が上がりました」
 カールがデュミナスのマニュピュレーターを操作して指差した先では、今もうっすらと砂煙がたゆたっている。
「ここは標的の目撃地点と近い。おそらく当たりだろう」
 榊 兵庫(ka0010)がマップを参照しながら言う。
「ようやく見つかったか……」
 カズマは灼熱の中での単純作業から開放された事に安堵したが、これから始まる戦闘への集中力はもちろん切らしていない。
 これまで以上に警戒しながら砂煙の方に接近してゆく。
「あれ? コボルドがいますよ」
 そしてある程度進んだ所でカールが砂丘に伏せている3匹のコボルトを発見した。
 隠れているつもりなのかもしれないが、背の高いCAMからは丸見えである。
「どうやらそのコボルトがヤツに狙われたみたいね。目標の討伐以外は指示されてないけど、どうする?」
 涼子が皆に尋ねる。
「助けてあげませんか。彼ら何も悪い事してないですし、そもそもオアシスが見つかったのは彼らのお陰ですから」
「コボルドは敵対亜人だが、此処でもそうだとは限らねェ。鬼だって和解できたンだ。仲良くできるなら仲良くしてェ。なァ?」
 カールの意見に万歳丸も賛同する。
 東方で孤独に戦ってきた万歳丸にはこの不毛と思える地で必死に生きているだろうコボルト達を無碍にも見殺しにも出来なかったのだ。
 そして反対者もいなかったため、標的を引きつけた隙に涼子と万歳丸でコボルドを救出する策が練られた。

「敵が砂中に潜んでいる事が厄介だな。何としてでも引き摺りださないと、な」
 榊はデュミナスで担いできた廃材を周囲に投擲した。
 その廃材の動きで敵の位置を探るつもりである。
「では僕が銃声で引きつけてみます」
 カールは他の機体から少し離れると『運動強化』を発動。
 魔導機械を通じてデュミナスにマテリアルが流入し、各回路や可動部の動作を円滑にして機体性能を少し向上させる。
 更に『機導の徒』も発動。
 頭に装着したヘッドマウントディスプレイ(HMD)や握っているコントロールスティックを通じて機体の状態が隅々まで把握できそうな感覚が脳裏を巡る。
 が、『機導の徒』の効果は『一瞬』しか持たないため、その感覚も一瞬で終わった。
「始めます」
 カールはデュミナスにマシンガン「ラディーレン」を構えさせるとコボルト達がいる方向とは逆方向に照準を合わせてトリガーを引いた。
 3点バーストで放たれた銃弾が点々と砂面に穿たれてゆく。
 地中に住むものが地上の獲物を狙うのに使いそうなのは触覚(振動)、聴覚(音)、それにマテリアルだと考えたカールは銃声や着弾や薬莢の落ちる音で標的を釣り出すつもりだった。
「さあ来い。下から来るって分かってるなら、対策の仕様はある!」
 リアはカールが撃った着弾点に注目しながらヘイムダルに装備させたアーマードリル「轟旋」を起動させる。
 全長180cmほどの円錐形のドリルが『ギュイーン』と甲高い音を響かせながら激しく轟いた。
 その振動で機体も細かく揺れ動く。
 やがて榊が投げた廃材の1つが少し動いた。
 次にカールが撃って穿った砂の穴が動き、薬莢も少し転がった。
 奴は確実にこちらに近づいている。
 そして奴は現れた。
 リアのヘイムダルの真下から。
 そう。今この場で最も音を立て、最も動いているのはリアのヘイムダルだったのだ。
 足元の砂が噴き上がり、モニターが砂で覆われる。
 リアは自分が狙われたと瞬時に理解し、ドリルで攻撃を防ごうとした。
 だがHMDのモニターに映るのは砂ばかりで、攻撃がどこから来るのか分からない。
 とにかくドリルを前に掲げると、下から突き上げられるような衝撃が走った。
 モニターに映っている砂煙が少し晴れ、砂の合間から砂色の鱗のような物が見える。
 それはヘイムダルの右腕部にガッチリと喰らいついていた。
 ヘイムダルは喰らいつかれた右腕を支点に猛烈な勢いを引っぱられ、そのまま砂面に叩きつけられる。
「くはっ」
 その衝撃で肺の空気が吐き出さされる。
 そして少し砂煙の晴れたHMDの映像には全身が砂色の鱗に覆われたワニに似た巨大生物が映しだされていた。
「ワニ……いや、この鱗にこのフォルム。どちらかといえばドラゴンに近い。サンドドラゴンといったところか」
 間近で相手を観察して正体を看破したリアはすぐに反撃しようと右手のドリルを回す。
 しかし右腕は牙でガッチリと咥えらていてドリルが届かない。
 それどころか右腕はメキメキと音を立ててひしゃげていっている。
「放せ!!」
 リアは左手に装備していた魔導鈎「エクステンド」を砂竜に突き立てた。
 すると砂竜は身を捻って体を横に一回転させた。
 その勢いでヘイムダルの右腕が引きちぎられてしまう。
 握力を失った右手が開き、握っていたドリルが砂面に転がる。
 だが右腕が切れたお陰でヘイムダル自身は動けるようになり、リアはすぐに砂竜から距離をとった。
「今だ!」
 ヘイムダルに当たる恐れがあるため攻撃できなかった榊がアサルトライフルを斉射。
 音速で飛来した30mm弾が鱗を突き破って砂竜の体内に穿ち、傷口から体液が吹き出す。
 カズマとカールもマシンガンを放ち、3方から銃弾を浴びせられた砂竜は追い立てられるように砂に潜っていった。
「仕留めきれなかったか……」
 榊は砂竜が潜って砂に開けた大穴に銃口を向けながら警戒する。
「リアさん、大丈夫ですか?」
「あぁ、片腕を持っていかれたけど大丈夫だよ」
 リアはカールの伝話に応じると、落ちたドリルを左手に装着し直した。
「それにドリルの音で釣れる事は分かったし、攻撃のタイミングも掴んだ。今度は捕らえる!」
 リアはドリルを作動させ、甲高い音を周囲に響かせる。
 すると再びリアのすぐ側で砂柱が立ち上った。
「来たな! GO! スピニオン!!」
 リアは砂柱の中からチラリと口先が見えた瞬間、轟音を響かせて旋回するドリルをそこに突き入れた。
 確かな手応えを共にドリルが何かをえぐってゆく。
 砂煙が晴れてくると、口腔内にドリルを突き立てられた砂竜の姿が見えた。
「捕えた! このまま一気に突き破る!」
 リアはドリルを更に深く突き入れようとした。
 しかし砂竜は口腔から胃液を吐き出し、ドリルに付着した溶解液が刃が溶かしてゆく。
 するとドリル自体は動くものの、刃が丸くなってしまったため与えるダメージが激減してしまった。
「それなら!」
 リアはドリルを離して魔導鈎を抜き、砂竜に突き刺すと魔導鈎から伸びる紐で砂竜に口を縛ろうとする。
 しかし砂竜は首を振って頭をヘイムダルにぶつけて吹っ飛ばした。
「くぅ!」
 ヘイムダルを遠ざけた砂竜は再び砂に潜ろうとする。
「行かせない!」
 リアはまだ刺さったままの魔導鈎を引いたが、砂竜の力の方が強くてズルズルと引きづられた。
「2人がかりならどうだ!」
 しかしカズマも魔導鈎を撃ちこんで全力で引っ張ると力が拮抗し、砂竜が逃げるのを阻害できるようになった。
「今のうちだよ! 射撃お願い!」
 片腕のリアのヘイムダルは抑えるので精一杯なため、他の者に攻撃を頼む。
「よし!」
「任せろ!」
「仕留めます」
 榊、カズマ、カールが一斉に銃弾を撃ちこんだ。
 砂竜に次々と銃痕が穿たれ、吹き出した体液で全身が血塗れになってゆく。
 不意に砂竜の力が弱まり、リアのヘイムダルとカズマのデュミナスに引きづられた。
「やったか?」
 カズマが1歩近づいた直後、砂竜は大きく身を振り、尾をデュミナスの脚に叩きつけた。
「なにっ!?」
 脚は嫌な破砕音を響かせながら折れ曲がり、デュミナスは立っていられなって横倒しになる。
 そこに砂竜が全体重で押しつぶそうと跳躍してきた。
 折れた脚では避けられないと瞬時に判断したカズマは斬龍刀「天墜」を抜き、舞い降りてくる砂竜に突き出した。
「喰らえぇー!」
 刃は砂竜の腹に突き破り、自重で更に深く刺さり、そのまま背中まで突き抜けた。
 しかし砂竜の全体重が斬龍刀に掛かり、その負荷でデュミナスの肘と肩が軋む。
 やがて右肘の関節が砕け、右手から斬龍刀がこぼれ落ちた。
 そして砂竜はそのままデュミナスのボディに激突する。
「うおぉっ!」
 その衝撃でコクピットが激しく揺さぶられた。
 だが斬龍刀がつっかえてくれたため砂竜の下敷きにならずに済んだ。
 そのまま息絶えた砂竜は塵と化し、砂漠の風に吹かれて散ってゆく。
「なんとか退治できたか……」
 カズマが機体の状態をチェックすると、右腕と左脚が動かないという酷い有様だと分かった。
 ボディに体当たりの直撃を受けてもまだ動けるのは、おそらく翼型推進装甲「荒鷹」のお陰だろう。
「無理をさせたなヴァーチェ。お前のお陰で俺は傷一つないよ。ありがとう」

 一方、予定とは少々違ったが砂竜が釣れた隙に涼子のデュミナスと万歳丸がコボルドの身柄の確保に向かっていた。
 コボルト達は見たこともない巨大な何かが自分達に向かってくるのに驚き、大慌てて逃げようとする。
「そりゃ逃げるわよね。でも逃げると余計に危ないわよ」
 涼子は『アクティブスラスター』を軽く吹かして水平飛行で加速するとコボルドを1匹手で掴んで捕まえ、ドスンと着地した。
 残りの2匹はそのまま逃げていたが万歳丸が『縮地瞬動』を使って一瞬で追いつき、捕まえる。
 捕まった2匹は暴れ始めたが万歳丸は抑えつけた。
「暴れんなッて。べつに危害を加える気はねェ。お前ら水場にいきてェンだろ? 今からオレらが安全に行けるようにしたやッからそれまで待」
 万歳丸が説得している最中、背後で何かが爆発するような音が響いた。
 振り返ると砂柱が立っており、涼子のデュミナスの右足が砂柱に呑み込まれて持ち上げられていた。
「まさか2体いたなんて!」
 涼子は右足に食らいついている何かにアサルトライフルの向けようとしたが距離が近すぎた。
 しかし左手にはコボルドを握っている。
 まさかこのタイミングで放り出すわけにはいかない。
「……仕方ない」
 涼子はアサルトライフルを捨てるとコンバットナイフを抜き、右足に食らいついている砂竜に突き立てた。
 しかしナイフが刺さっても砂竜の噛む力は衰えず、牙が右足にどんどん突き刺さってゆく。
 万歳丸が捕えた2匹のコボルトは砂竜が現れると怯えてその場に蹲った。
「おい! 危なねェからここを動くなよ。3匹目がいないとも限らねェからな。退治し終わったら水場にはオレらが連れてッてやる。だから逃げんな、分かったな!」
 万歳丸はコボルト達に強い口調で言い含めた。
 恐らくコボルト達に言葉は通じていないだろうが、万歳丸が危害を加える気がない事は分かったのか、大人しくしてくれている。
 その様子に満足した万歳丸は砂竜に向かって駈け出した。
 更に『縮地瞬動』で加速すると、砂竜の口に向かって跳躍。
「その大口開けろやァ!!」
 『飛翔撃』を砂竜の上顎に叩きこみ、その猛烈な衝撃力で強引に口を開けさせた。
 口が空いた隙に涼子は右足を引き抜くとナイフは砂竜に突き立てて捨て、ライフルを掴むと『アクティブスラスター』を吹かして全速で後退した。
 そしてライフルの射程まで離れると左手のコボルドを解放した。
「行きなさい」
 2匹のコボルドがいる所を指差しながら右脚の状態をチェック。
 膝から下が動かない。
「繋がっているだけまだマシか……」
 そう思う事にしてアサルトライフルを構える。
 大口を開けさせられた砂竜はそのまま首をもたげると、勢いよく振って口先を万歳丸に叩きつけた。
 跳躍してまだ浮いている万歳丸は避ける事ができない。
「ぐぅ!!」
 咄嗟に腕を体の前で交差させて辛くも篭手で受けたが、衝撃で吹っ飛ばされる。
 そして勢い良く砂面に激突し、ズボッっと砂に埋まった。
「ぐっ……む……モガ! ペペッ! 口に砂が入ッちまッた!」
 なんとか身体を砂から引き抜き、砂を吐き出すと腕に痛みが走った。
 防御した腕は痺れていて芯に重い痛みがある。
「こりャあ骨にヒビでもいッたか……」
 もしここが砂でなく硬い地面だったら腕だけでなく身体にもダメージを負っていただろう。
 万歳丸はとりあえず痛みは無視して身構えた。
 砂竜は砂に潜ったのか姿が見えない。
 涼子と供に周囲を警戒するが砂に動きはない。
「どこだ……。どこから来やがる……」
 焦れるがヘタに動けば奇襲される。
 神経を研ぎ澄まして集中していると、ついに砂竜が現れた。榊のデュミナスの後ろに。
「そっちかよ!」
 思わずツッコんでしまう万歳丸。
「榊! 後ろ!」
 涼子はトランシーバーで榊に警告しながらアサルトライフルを撃ち放つ。
 銃弾は砂竜の背中に命中したが、砂竜はまったく怯まない。
 榊はデュミナスを旋回させつつCAMソード「ディフェンダー」を機体の眼前に掲げた。
 すると運良く砂竜がソードの刀身に噛み付いてくれる。
 しかし砂竜の力は強く、ソード越しに体重を掛けられると足が地面に沈み、膝関節にも負荷がかかってギシギシと悲鳴を上げ始める。
 榊も押し返したがびくともしないどころか、肘と手首の関節にも負荷がかかり始めた。
「このままでは力負けする……」
「節操なしが! 余所見すんじャねーよ!!」
 万歳丸が体内を巡る氣を爆発的に高め『黄金掌《巨竜殺》』を発動。
「そもそも乾きの辛さにつけ込ンでコボルド達を狩るヤリクチが気に食わねェ。でけェナリでヤル事が小せェンだよ、てめェら!!」
 腕が煌々と黄金に輝き、練り上げられた氣が蒼い燐光を伴う巨龍の姿となって放たれた。
「因果応報、てめェの結びだ。有難く頂戴しなァ!」
 一直線に砂漠を走った蒼き龍は砂竜に喰らいつき、ダメージを与えると同時に体内の負のマテリアルも削りとる。
 砂竜はよろめき、噛みついている力も緩む。
 その隙に榊はソードを引き抜き、更に袈裟斬りにした。 
 砂竜の首から胸に裂傷が走り、体液が吹き出す。
 この間も涼子はアサルトライフルを撃ち続けており、砂竜の背中は既にズタズタだ。
 砂竜は堪らなくなったのか身を翻し、砂に潜ろうとする。
「逃がさん!」
 榊は『アクティブスラスター』を吹かして追いすがると掬い上げるようにソードを振るい、砂に潜ろうしていた砂竜の鼻先を斬り上げた。
 砂竜は口が縦に切り裂かれると同時に衝撃で顔を上に向けさせられる。
「トドメだ!」
 榊が更にソードを振りかぶったが、砂竜は身を大きく旋回させ、尾を振ってデュミナスの脚を薙ぎ払った。
 バキリと破砕音が鳴り、打たれた脚を支点に機体が半回転する。
「くっ!」
 榊は咄嗟に脳波コントロールでデュミナスに柔道の横受身をさせてダメージを最小限に抑える。
 だがその間に砂竜は砂中に逃げてしまった。
「一々砂にもぐってうっとうしい!」
 涼子がアサルトライフルをリロードしながら周囲を警戒する。
 榊も周囲を警戒しながらダメージチェック。
 一応脚は動くが、もう一撃受ければ確実に折れるだろう。それに各関節の負荷ダメージも酷い。
「僕がもう一度釣ります。皆さんは出てきた瞬間を狙って下さい」
 カールは皆にそう伝えると自分の少し前の砂面にマシンガンを乱射し、マガジン1本分撃ち終えるとリロードしながら振動を立てないように少しずつ後ろに下がる。
 やがて無数の弾痕を穿った砂面が震えて爆発し、砂柱が立った。
「今です!」
 涼子と榊が一斉に砂柱の中心に向かって銃撃する。
 砂から飛び出した砂竜はカールのデュミナスの方に落下してくる。
 カールは落着地点を予想し、銃を撃ちながら後ろに下がる。
 すると砂竜は落着前に大口を開けて溶解液を吐き、カールのデュミナスの頭部に浴びせた。
 溶解液はメインカメラのレンズを溶かし、HMDの映像が歪む。
「しまった!」
 まったく見えないわけではないが、これでは精密射撃はできない。
 ぼやけた映像に大口を開けて迫ってくる砂竜が映る。
「この辺り……かな?」
 カールは勘を頼りに左腕を前に突き出すと、喰らいつかれたような衝撃がコクピットに走った。
「上手く食いついてくれた」
 カールはコントロールスティックを操作して『プラズマカッター』を起動。
 口腔内の左腕の手甲から高出力のプラズマが伸び、砂竜を体内から焼き斬ってゆく。
 砂竜は堪らず腕を吐き出した。
 その隙にカールは距離を取り、榊と涼子が銃撃を再開する。
 体中を銃弾で撃ち抜かれた砂竜は満身創痍の体で倒れ、やがて塵となり、歪虚としての最後を迎えた。


 戦闘後にコボルド達を探すと、言いつけ通り隠れて待っていてくれた。
「のどが渇いてるんだよね? えっと……コレ、ちょっと危ない戦いに巻き込んじゃったお詫びだよ」
 リアはコボルト達にミネラルウォーターを差し出してみた。
 するとコボルトの1匹が恐る恐る受け取ってくれた。
 水だと分かったようだが、そのまま齧りつこうとする。
「違う違う。こうやって飲むんだよ」
 リアがキャップを開けて実演して飲むと、コボルトも同じようにして開けて飲んだ。
 すると他の2匹も欲しがってペットボトルの取り合いが始まってしまう。
「待って待って! 水はまだあるから喧嘩しないで、ほら」
 リアが残り2匹にもペットボトルをあげると喧嘩は収まった。
 コボルト達はリアのすぐ側で水を飲んでおり、もう怖がっている様子はない。
「どうやら仲良くできそうだな。よかったぜェ」
 その様子を見ていた万歳丸が顔を綻ばせる。
「はい。これを機に他の水源を見つける時にも協力し合える関係になれたらいいですよね」
 カールも嬉しそうに語る。
「コボルドも無事で、任務も完了したけど、私達の機体はボロボロね。脚が動かないのもあれば腕がないのもある。なにより全身砂まみれ。整備士が見たら泣くわね。それとも卒倒するかしら?」
 涼子は機体を整備する整備士に同情した。
 だが空調関係は宇宙用装備に戻してほしいと念入りに注文を出すつもりではいた。
 最低でも局地戦が可能な仕様に変更してもらわなければ今後の戦いに不安が残る。
 整備士の負担は更に増えるだろうが、それはそれ、これはこれだ。

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重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • ユニットアイコン
    ライデン
    雷電(ka0010unit002
    ユニット|CAM
  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    ヴァーチェ
    VIRTUE(ka0178unit002
    ユニット|CAM
  • 大地の救済者
    仁川 リア(ka3483
    人間(紅)|16才|男性|疾影士
  • ユニットアイコン
    チョウジュウラセンスピニオン
    超重螺旋スピニオン(ka3483unit002
    ユニット|魔導アーマー
  • はじめての友達
    カール・フォルシアン(ka3702
    人間(蒼)|13才|男性|機導師
  • ユニットアイコン
    ミードナット・ソール
    白夜(ka3702unit001
    ユニット|CAM
  • パティの相棒
    万歳丸(ka5665
    鬼|17才|男性|格闘士

  • 烏丸 涼子 (ka5728
    人間(蒼)|26才|女性|格闘士
  • ユニットアイコン
    マドウガタデュミナス
    魔導型デュミナス(烏丸機)(ka5728unit003
    ユニット|CAM

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/08/30 11:30:58
アイコン 相談卓
仁川 リア(ka3483
人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2016/09/03 22:05:49