• 蒼乱
  • 詩天

【蒼乱】【詩天】到来せし黒い影

マスター:猫又ものと

シナリオ形態
イベント
難易度
難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/09/30 19:00
完成日
2016/10/16 12:27

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●急転
 仄暗い部屋。蝋燭の灯りが話している人物の影を落とす。
「……お前、首尾はこれだけか? 九代目詩天はどうした」
「―――」
 渡された手紙をヒラヒラとしてみせる金髪の男。
 男の赤い瞳がの目が切れるように鋭くなって、赤い鬼がビクッと身を竦める。
 そこに、紺色の衣を着た優男がまあまあ……と割って入る。
「秋寿さん。そんなに怒らないで。橋姫が怯えてるじゃないですか」
「うるせえ。黙ってろ蓬生。巫女と符術師の数は上手い具合に揃わねえ、橋姫は九代目詩天を連れてくるどころかハンター達に馬鹿にされて帰って来やがったんだぞ。苛立たずにいられるかっつーの」
「ハンター達が思いの外強かった……それだけでしょう。部下に八つ当たりは良くないですよ?」
「弟達ですらどーでもいいと思ってる奴が良く言うわ」
 吐き捨てるように言い、手紙を握り潰す秋寿。
 蓬生と呼ばれた男は、唇に薄く笑みを乗せる。
「で? 準備はどーなってんだよ。進んでるのか?」
「ええ。恙なく。……とはいえ、もう少し人手があると安全と言えるでしょうね」
「……ああ、足りねえのは分かってる。別途集めるとして……しょーがねえ。九代目詩天は向こうから来てもらうようにすっか。……おい。青木とか言ったな。九代目詩天をこっちに来させる。お前迎えに行け」
 部屋の片隅……闇に溶け込むようにして立っている青木 燕太郎(kz0166)を一瞥する秋寿。
 青木は眉を上げて金髪の男を見る。
「断る。……俺は蓬生とは契約をしたが、お前と契約をした覚えはない」
「あぁ? 何だと?」
「青木さん。私からもお願いします。儀式の達成に九代目詩天は必要ですので」
 一触即発の様相を見せる青木と秋寿。蓬生の穏やかな声に、青木が目線を移す。
「……契約の内容は忘れていないだろうな」
「勿論です。達成できれば、弟達でも私でも、お好きにして戴いて構いませんよ」
「……分かった。そういうことなら行ってやってもいいが……。若峰は誰かさんが色々やったお陰で警備が厳しくなっている。中まで入り込むのは無謀だぞ」
「九代目詩天は外までおびき出すさ。あとの手筈はお前に任せる。逃げ足は速いんだろ?」
「……承知した」
 秋寿の挑発するような目を受け流し、去って行く青木。
 その様子に、蓬生が小さくため息をつく。
「青木さんは協力者なんですから、丁重に扱ってくださいね?」
「分かってるよ。あいつの腕は確かだって言いたいんだろ」
「そうです。……敵に回すと厄介なお方ですよ。勿論、秋寿さんも大切な協力者ですが」
 そういいつつも、その響きに咎める様子はなく、どこか楽しげな蓬生。
 こいつも食えない男だな……。いや、狐か……と、秋寿は肩を竦め、握り潰した手紙に目線を落とす。
「隠れても無駄、必ず見つけ出す……か。面白れぇ。お望み通り顔を見せてやるよ。準備が全て終わったらな。……その時のハンターを見るのが楽しみだぜ」
 橋姫から受け取った伝言を思い出し、クククと笑う秋寿。
 密やかな笑い声が、闇へ溶けていく。


●九代目詩天の苦悩
 手紙に目を落とし、ため息をつく三条 真美(kz0198)。
 橋姫に襲われてから暫くの後。
 秋寿の捜索は続けられているものの、依然として姿を現さず――そして九代目詩天の宛名で手紙が届いた。


 九代目詩天 三条 真美殿
 
 九代目詩天の秘密を暴かれたくなければ我々に協力せよ。
 秘密の内容は書かなくても分かっている筈だ。

 一人で、指定の場所まで来い。
 ――誰かに話せば、お前の秘密は暴かれるものと思え。

           三条 秋寿


 ――見慣れた筆跡。簡素な地図。
 間違いない。秋寿のもの……。
 それを見て、真美は言いようのない喜びと、同時にやるせなさを感じていた。

「どうしてですか、兄様……」

 様々な思いがこもった真美の問い。
 手紙を抱きしめて、目を閉じる。

 ――自分の抱えたもの。
 父と、秋寿、自分しか知らぬ秘密。

 ――いずれは、本当のことを皆に話さなければならない。
 自分に、『詩天』たる資格などないということを……。
 こうなってはもう、武徳に隠してはおけない。全て話さなければ――。
 次の瞬間、真美の頭を過ぎったのはハンターの顔。
 自分は既に、彼らに名と立場を偽った。
 そんな自分を受け入れて、『友』だと言ってくれたけれど。
 もう一つ、秘密を抱えているなんて知ったら。
 今度こそ失望されるのでは……。
 ――怖い。嫌われるのが、怖い。
 今まで友を持たなかった真美が初めて感じた『恐怖』。
 やはりこれは、私一人で決着をつけるべきだ……。

 筆を執り、素早く何かを書き記す真美。
 頷くと立ち上がって歩き出す。


●到来せし黒い影
 城下町である若峰を出て、街道を真っ直ぐ進む真美。
 宵闇が迫る二叉路。そこに、黒衣の長身の男が立っていた。
「九代目詩天、三条 真美だな?」
「そうです。あなたは……?」
「俺は青木 燕太郎。秋寿に頼まれた、お前の護衛役だ。……大人しくついて来い」
「……本当に、秋寿兄様の使いの者ですか?」
「証拠が欲しいか? ……お前の秘密を知っている、と言えば十分だろう」
「……っ!」
「本当に一人で来たのか。余程知られたくないと見える。なあ、真美……」
「やめてください……!」
 青木の言葉を遮る真美。
 目をぎゅっと閉じて、再び開けると……そこには信じられない光景――ハンター達の姿があった。
「何をしている!」
「……尾行してきたか。あまり趣味が良いとは言えんな。ハンター」
「皆さん……!? どうしてここに!?」
「出かけてきます、探さないでください……なんて書き置き残して消えたらそりゃ探しもします!」
「一人で行くなんて危ないです! 何考えてますか!」
「説教は後だ。……武徳さんにお前を護衛するよう頼まれた。狙われていると分かっている以上、必ず秋寿が接触してくるはずだからな」
「シン殿を追って、まさか青木が出てくるとは思わなったがのう。おぬし、何故こんなところにおるのじゃ」
「ああ、西方で名が売れてしまったんでな。ここで力を蓄えようと思っていたが……もう見つかってしまったか。運が悪い」
 ハンターの問いかけに、肩を竦める青木。
 どこか余裕のある様子に、ハンター達は黒い歪虚を睨みつける。
「あなた、シンさんをどうするつもりなの!?」
「さあ? 俺は三条 真美を連れて来いと言われたまでだ」
「秋寿さんはどこにいるです!?」
「教えてやる理由もないな」
「貴様……!」
「秋寿のやつ、こうなることを見越して俺を派遣したな……。まあ、いい。報酬は蓬生から貰うとしよう」
 フン、と鼻を鳴らして呟く青木。ゆっくりと振り返ってハンター達を見据える。
「……俺は目的を果たして帰りたいんだがな。どうせタダで帰してくれる気はないのだろう? 相手をしてやろう。来い、ハンター」
 底冷えするような黒い瞳。
 闇黒の魔人を前に、ハンター達は武器を構えた。

リプレイ本文

 宵闇が迫る街道。黒い影とハンター達の間に、張り詰めた糸のような緊張感が漂う。
 ――バケモノだ。こいつはヤバいぞ……。
 ラジェンドラ(ka6353)の背に冷たい汗が流れるのを感じる。今まであった敵の中でも、こいつは屈指の強さだ。
 ……落ち着け。ビビってる場合じゃない。とにかくシンをこちらに――。
 黒い影と少年、自分との距離を目測する彼。ミリア・エインズワース(ka1287)が前に出て、剣呑な目線を向ける。
「……この間逃がした野郎か。今度は誘拐か?」
「誘拐? 人聞きが悪いな。礼儀正しくご同行願っているだろう」
「何を言う。脅しておるようなものではないか。おぬしに趣味が悪いとは言われたくないのう」
 見覚えのある鮮やかな赤い髪。フラメディア・イリジア(ka2604)を一瞥して、青木は口の端を上げる。
「……フラメディアか。こんなところまで追って来るとはお前もしつこい女だな」
「何とでも言うが良いわ。おぬしを放っておいたらロクなことにならぬからの」
「そーよ! あなたの思い通りにはさせないんだから!」
「まさかネームド付きとやり合うなんてね。加減なんかしないからそのつもりでね?」
 天竜寺 詩(ka0396)の怒りに燃える青い瞳。アイビス・グラス(ka2477)の緑の髪が風に揺れて……そこにアルマ・A・エインズワース(ka4901)がひょこっと顔を出す。
「青木さん! 大きなお仕事以来です? こんな所でお会いできるとは思わなかったですー」
「こらこら。歪虚に懐くな」
「え、挨拶は大事ですよ! わふ? 名乗ってない気がします。僕、アルマですっ。ところで……」
 ミリアのツッコミも笑顔で流し、青木の冷たい目線も気にせず、子犬のような笑顔を浮かべるアルマ。
 笑顔のまま――不意に湧き上がった蒼い炎が、青木の顔を掠めて――否、寸でのところで避けたのか。黒いコートの襟がじわりと焦げたように溶けて消える。
「あは。避けられちゃいましたか。残念です☆ ねえねえ、燕太郎さんって呼んでいいです? 素敵なお名前ですー」
 アルマの変わらぬ笑顔に舌打ちで応える青木。
 彼の先制攻撃を避けたことで、真美とも距離が空き……ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784)が符を構えながら囁く。
「若いツバメが離れましたよ! 今のうちに、シンさんを! 早く!」
「了解! シン君、良かった。無事で……! 心配したんだよ!」
「……迎えに来た。帰るぞ」
「そこから動くな、三条真美。……動けば、どうなるか分かっているな?」
 龍堂 神火(ka5693)と三條 時澄(ka4759)が手を伸ばすが、真美は動こうとせず……地を這うような青木の声に身を固くする。
「……すみません。私は戻る訳には……。この方に同行します」
「当の本人もこう言っている。大人しく引き下がるんだな」
「……うるさい。少し黙れ」
「燕太郎さん、今度は小さい子いじめてるの? アルトちゃんもいじめたのに酷い人ね!」
 苛立ちを隠さぬアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)の声。細身の身体に似つかわしい巨大な斧を構えるリューリ・ハルマ(ka0502)をちらりと見ると、青木は肩を竦める。
「誰かと思えば『茨の王』か。隣の小娘もどこかで見たか……? こんなところまで来るとはなかなか暇と見える」
「青木燕太郎。お前、穴の開いた船に乗り続けるタイプだったか?」
「何の話だ」
「お前が居ると厄介だ。少し情報渡してやるから帰れ」
「ほう? 事と次第によるな」
「この戦いに『負けたがっている奴』がいる。……意味は分かるな?」
 憮然としたまま続けるアルト。それに青木は心底可笑しそうに笑う。
「その程度の情報で俺が動くと思ったか? 俺は力が手に入れば、秋寿がどうなろうと構わん。蓬生も消えてもらう予定だしな」
「……お前、本当に下衆だな」
「『茨の王』。お前の力を俺に寄越すなら、引き下がってやってもいいぞ」
「歪虚ごときが調子に乗るな……!」
「散開! 衝撃波来るぞ!」
「アルトちゃん、避けて!!」
 青木の見覚えのある構えに叫ぶフラメディア。リューリの声と、アルトが飛びずさったのはほぼ同時――。
 次の瞬間、ビリビリと震える空気。すさまじい衝撃波が、土を巻き上げ……。
 巻き起こった突風から真美を守るように、シガレット=ウナギパイ(ka2884)が立ち塞がる。
「危ねェなぁ……! おい、お前大丈夫か?」
「……あ、ありがとうございます。でも、そこまでして私を守って戴く必要はありません」
「九代目詩天さんよ。それ本気で言ってんのか?」
 シガレットの射貫くような瞳に戸惑いを見せる真美。ライラ = リューンベリ(ka5507)がため息をつきながら続ける。
「真美様は敵の下に行くのがどういう事かわかっているのですか? 殺されるかもしれないのですのよ」
「……あいつは人間の形こそしてるが歪虚だ。しかもただの歪虚ではなく、人類を裏切って堕ちた挙句、歪虚側でも下克上をかましている絶賛ド外道だ。協力したところでタダで帰してくれるとも思えねえ」
「秋寿が心配なんだよね? それは分かるよ。それとも……それ以外に、何かあるの?」
「……ごめんなさい。詳しくは言えません」
 シガレットの諭すような声とシェルミア・クリスティア(ka5955)の問いかけに、目を伏せる真美。
 そこに歩み出た七葵(ka4740)。片膝をつく彼を見て、驚いたように目を見開く。
「九代目詩天、真美様。僭越ながら三条家に代々仕え、詩天守護を担う家の者として申し上げます」
「……貴方は、確か……。父が、貴方のお父上にお世話になったと伺っていました。ご子息様はどうされているかと思っていました」
「……父のことを覚えていて下さり、光栄です。草葉の影で喜んでいることでしょう」
 深く頭を垂れる七葵。
 三条家に使える武家は沢山あるはずだ。それでも……こうして覚えていて、声をかけてくれる。
 年若くはあるが、一国の主たる資質はあるように思えて――七葵は真摯な瞳を王に向ける。
「自分は、決して貴方を奴らに利用させたくはありません。貴方の力は、得体の知れぬ術を成す為のものではございません。国の為に使われるべきものです」
 断じる七葵。目の前の幼い王は震えていて、とても小さく見えて……。
 それでも。道を誤る主を体を張って正すのが臣と信じて、彼は続ける。
「貴方の心の内は貴方にしか分かりませぬが、その目に宿るのは恐れと見受けます。どうか心を強くお持ち下さい。どんなことがあっても我らは貴方の傍に……」
「ごめんなさい……。私には、貴方に忠誠を誓って貰うような……詩天を名乗る資格なんてないんです……」
 弱々しく首を振る真美。その様子に、バジル・フィルビー(ka4977)は己の勘が当たっていたことを覚る。
 この子は我儘を言うような子ではない。
 歪虚と分かっている相手に同行するなんて、何か理由があるはずだと思っていた。
 人質が居るとか、弱みを握られてるとか――。
 前者なら、最初から自分達を頼ってくれた筈。
 後者なら――きっと、誰にも言えない事なのだろう……と。
「ねえ、シン。誰が聞いてるか分からないから、はっきりとは言わないけど……君が気にしているのは、生まれのことだね?」
「……っ!」
 弾かれたように顔を上げる真美。
 本当に、分かりやすい、嘘をつくのが苦手な子だ。
 こんな子が、隠し事をするなんて……その心労はいかばかりか……。
「どうして、それを……? 一体いつから……?」
「いつからかなあ。はっきりと確信があった訳じゃないんだけどね」
「うん。何かあるんだろうなと思ってたよ。流石にこんなことになるなんて思ってなかったけど」
「……王の資格がないのは、生まれのことだけじゃないんです。私は……それを知られることで、皆さんに嫌われるのが怖いと思ってしまった。こんな弱い人間が上に立……」
 バジルと神火と目を合わせようとしない真美。言いかけた言葉を遮るように響く乾いた音。頬が熱くなって……エステル・ソル(ka3983)に叩かれたことを知り、目を丸くして少女を見つめる。
「エステル。確かに思い切り自分の本心をぶつけてやればいいとは言ったけど、暴力はどうなのかな……」
「……伯母上に似て来たような気がするな」
「お兄様もこひめちゃんも黙っててくださいです! シンさん。わたくしは、とってもとっても怒ってます! なぜ怒っているのかわかりますか?!」
 困り顔のアルバ・ソル(ka4189)の横で苦笑する紅媛=アルザード(ka6122)。
 2人にピシャリと言い返したエステル。真美は力なく首を振った真美を見て、大きな瞳にみるみる涙が溢れさせる。
「お友達が信じてくれなくて、悲しいからです……! わたくしは『シンさん』のお友達です! 『九代目詩天』のお友達ではありません!」
「……そうだよ。いい匂いしたもん。君の秘密だって分かってたし知ってたよ! でもそんなの知らない!」
 絞り出すように叫ぶノノトト(ka0553)。
 ――萩野村の人も、他の村の人も温かかった。異国から来た自分にとても優しくしてくれた。
 詩天の持つ優しさは、この国の主たるこの子が優しいからではないのか……?
「全部を見た訳じゃないけど……詩天、良い国だよ。それは他の誰でもない君が治める国だからでしょ!? 秘密があったからってなんだっていうの! 『詩天』は君じゃなきゃダメなんだ!」
「シンさんはわたくしの大事なお友達です。……わたくし、お友達を助けたいです」
「君は『友達』というものを少し甘く見ているんじゃないのか? 彼らは、君の秘密を知ったくらいで離れたりはしない。そんな生半可な気持ちだと判断するのは、失礼なことだよ」
「お前が何であれ、お前を必要とする者がいる。実際に、お前は今まで詩天としてやって来た。『資格』なんて言葉でその事実を否定するな」
「ごめ……ごめんなさい……」
 必死なノノトトとエステル。そして紅媛と時澄の厳しさの中に優しさが表れた言葉に、真美は涙を零す。
 ――自分の抱えた恐怖が、大切な人達を傷つけることになるなんて思いもしなかった。
 ラジェンドラは小さくため息をつくと、『少女』に躊躇いがちに手を伸ばして、その涙を拭う。
「あのなぁ、シン。俺、お前に謝らなきゃならねえわ。以前、一緒に水浴びしようって誘ったろ。あれ、分かっててからかったんだ。……悪かった」
「うわ。ラジェンドラさんったら趣味悪い……」
「だから悪かったって」
 シェルミアにジト目を向けられて、頬をぼりぼりと掻くラジェンドラ。彼女はくすりと笑うと、真美を覗き込む。
「わたしはね、九代目詩天とか三条家とか、身分や立場なんて関係なく、君の……『真美』の助けになりたいからここに居るんだよ。皆そうでしょ?」
「うん。この先、君はきっともっと悩む筈。僕らは、ずっと、力になりたいって願ってるよ」
 バジルの眼鏡の奥の優しい瞳。時澄と七葵も頷く。
「それでも、自信が無かったり不安だったりするなら……俺を信じろ。お前を信じる俺達を信じろ」
「臣下を、友を、自分を信じて前に踏み出す勇気もまた強さです。貴方はおひとりではありません。……この身は、貴方の剣であり、楯にもなりましょう」
「君には泣いてくれる友達も、力を貸そうと集まってくれる人もいる。それを忘れたらダメだぞ」
「そうですよ! これだけの人が心配して探して回ってたんですよ? 水臭い事の方がプンプンなんだからっ!」
「皆のいう通りだ。人間誰しも秘密くらいあるから気にすんな。俺だって秘密あるしな」
「……そうなんですか?」
「おう。その話はまた今度な。で、シン。お前はどうしたい? 本心を聞かせろ。誰も笑ったりしねえ」
 続いた紅媛とルンルンの言葉。ラジェンドラの問いに、少し考えて……真美は口を開く。
「……秋寿兄様に会いたいです」
「……秋寿さんは十中八九歪虚化してる。君の知ってる秋寿さんじゃないと思う。そうなっていたらもう……」
 心配そうなバジル。最後まで続かぬ言葉。それに、彼の優しさを感じて、真美はこくりと頷く。
「はい。それでも……会って、兄様に謝って……止めたいんです」
「……謝るって、どうして?」
「私が天ノ都にある陰陽寮からここに戻ってきたのは、『詩天』の座を辞退する為だったんです。亡き父は私を当主に据えたがっていましたが、私にはその資格がありません。民や臣下を謀り続けるなんて言語道断です。それなのに……争いが起きてしまった。本当に沢山の血が流れました。秋寿兄様も、この国の歪みの被害者なんです。兄様は本当に優しい人でした。歪虚になっているのならきっと苦しんでいるはずですから……」
「シン君……」
「……秋寿兄様が『詩天』になってさえいれば、誰も悲しまずに済んだはずなのに……」
 ぼろぼろと涙を流す真美。漏れ伝わる深い悲しみ。
 どう声をかけていいか分からなくて、言葉に詰まる神火。真美は己を抱きしめるようにしてぶる、と身を震わせる。
「……でも。覚悟を決めて来たはずなのに、すごく怖いんです。怖くて震えが止まらない……」
「シンさん。わたくしがいます。大丈夫です」
「ぼくは龍奏でザッハークの攻撃だって防いだんだ! 君だって守ってみせるよ!」
 ――何があっても友達だと。あなたが大好きだと……どうしたら伝わるだろうか。
 震える真美をそっと抱き止めるエステル。必死のノノトトに、シェルミアもうんうんと頷く。
「君の気持ちは分かったよ。だけど、あいつについて行くのはナシね。秋寿には、わたしたちが必ず会わせてあげる。約束するよ。だからここは一旦引こう?」
「怖いってマトモな感性があって安心したぜ。その気持ちがありゃ生き残れる。……お前は詩天九代頭首だ。その首は断じて軽く無えぞ。民や臣下のことを考えるなら、易々と歪虚の誘いになんざ乗らねえこった」
「……歪虚に知られているのでしたら、いつまでも隠し通せるとも思えません。信頼できる人になら打ち明けてもいいのかもしれませんよ。征夷大将軍の立花院様なら口も堅く、信頼できると思います。周囲に知れて騒ぎになる前に、相談されたらいかがでしょう」
 そう言いながら、真美とエステルにお揃いのコートを被せるシガレットとライラ。
 更にエステルが色違いの布を被せて……それを着せるのを手伝いながら、メトロノーム・ソングライト(ka1267)が微笑む。
「友情とはいいものですわね。私の影働きがなくとも、こうして声が届くんですから」
「……メトロノームさんの声も届いていましたよ。自分の気持ちを見つめ直す切欠になりました」
「まあ。お役に立てて何よりですわ。……さあ、ここは危険です。行ってください」
「でも……」
「あなたの無事が、何よりのご褒美ですから。皆を信じて……何があっても振り返ってはいけません。逃げ延びることだけを考えてください」
「……こんなことに巻き込んでしまってごめんなさい」
「謝るのはちょっと違いますよ? そのお話は、また後で……時澄さん、お願いしますね」
「ああ。シン、こちらへ」
「エステルの嬢ちゃんはこっちだ!」
「三手に分かれて一気に移動を開始す……」
 戦馬に跨る時澄とラジェンドラ。それに続いた七葵の声を遮る怯えた馬の嘶き。
 ――シガレットの目に、飛来する黒い槍が映る。
 仲間の猛攻をすり抜けた……? いや、物理的に距離を取ったのだろうか。
 凄まじい青木の機動力。考えている時間はない――!
「危ねえっ! 避けろ!!」
「大地の精霊よ! 来たれ! 我を守護する壁となれっ!」
 咄嗟に土の壁を作り出すアルバ。
 ――土壁じゃ足りない。間に合うか……!?
 今更軌道を逸らすのは無理だ。ならば……!
 咄嗟に符を投げる神火。生まれる桜吹雪。
 どこまで誤魔化せるか分からないけど、でも――!
 跳躍するシガレット。彼の着地と、槍の到達はほぼ同時。
 鈍い音を立てて穴が開く土の壁。そしてその勢いのままシガレットを貫き、遅れてきた衝撃でアルバと神火を壁ごと吹き飛ばす。
「そこから動くな……と言った筈だぞ、三条 真美。いや、真美姫(まみひめ)と呼ぶべきか」
「わーーーーっ! それを言っちゃダメええええ!!」
「もう一度言う。……そこから動くな。動けば、ここにいるハンターを一人残らず殺すぞ」
 ブロウビートに乗せたノノトトの叫び。青木はそれに動じる様子もなく。真美は青ざめて、馬から降りようともがく。
「……っ! 時澄兄様、放してください!」
「落ち着け。あいつの挑発に乗るな。大丈夫だ。俺達は死んだりしない」
「だってこのままじゃ皆さんが……!」
「敵う相手ではありませんが、皆ハンターです。信じてあげてくださいませ……!」
 真美を押さえて囁く時澄とライラ。地に伏して深い傷を負った兄を見て、エステルが目を見開く。
「お兄……!」
「俺達に構うな! 行けェッ!」
「……エステル! ダメだ! 友達を守るんだろ……!?」
「シン君をお願い……!」
 血を吐きながら叫ぶシガレット。アルバと神火の言葉にハッとして、エステルは出かけた言葉を飲み込む。
 ――そうだ。年恰好が近い自分が真美の影武者になるつもりだった。
 七葵も布を丸めて着物を被せたものを抱えている。
 ここで喋ったら敵の思うツボだ……!
「……皆、後は頼んだ!」
「しっかり捕まってろ!」
「脱出のお手伝いをさせて戴きます。こちらへ……!」
「奏音さん、行きますよ!」
「お願いします!」
 手綱を引く七葵とラジェンドラ。先導するライラを見送り、夜桜 奏音(ka5754)から受け取った口伝符から聞こえる声に合わせて符を発動させるルンルン。
 結界から溢れる眩い光。これはダメージを与える為ではなく、青木の目を眩ますもの――。
 本当は奏音がやる予定だったものだが、ちょっとした手違いでそれが叶わず……手元にあるスキルで何とかするしかない。
 その光に背を押されるように、別方向に走り出した三頭の馬を見て、ルンルンと奏音が安堵のため息を漏らす。 
「……やれやれ、困った姫君だ。まあ、いい。お前らを全員殺してから町を焼き払って探し出すとしよう」
「西方であれだけ暴れたのに今度はこちらですか。……もっと怠惰らしくさぼってくれればいいのに」
「これでもまだサボっている方なんだがな」
 奏音の一言に肩を竦める青木。その姿を、動きを、尾形 剛道(ka4612)は食い入るように見つめていた。
 追いすがる仲間達を振り切り、投擲した槍。速度も威力も以前より上がっている。
 ――面白い。こうでなくては。己の望む命のやり取りができそうで、背筋が興奮でゾクゾクする……!
 ピンヒールをコツコツと鳴らして、剛道は熱に浮かされたような目線を送る。
「随分と待たせやがったじゃねえか、この野郎。……用意出来てンだろうな」
「……尾形か。どこかで野垂れ死んでいるかと思ったぞ」
「ハ。お前を殺すまで死ぬ気はねェ。さァ、始めようぜ……!」
 身長と同じくらいの長さのある大太刀を抜き放つ剛道。同じく、じっと青木を見つめていたエヴァンス・カルヴィ(ka0639)は厚く大きくな青みを帯びた大剣を肩で支えたまま首を傾げる。
「……あのさ。一つ聞きたいんだが。お前、俺とどっかで会ったことあるか?」
「……さて、記憶にないな」
「そうか。下らんこと聞いて悪かった、な!!」
 揺れる空気。振り下ろされる2本の刃。剛道とエヴァンスの攻撃を、青木の槍が弾き返す。
「アハッ。さすがですねー。お強いです……! 僕の攻撃避けて、槍投げられるんですね。前より時間短くなってるんですかね。あっ。例の弓の射撃はどうなんでしょうっ」
「アルマ、遊びは終わりだ。下がれ」
「はーい! ミリア、無茶しちゃイヤですよ?」
「だったらなおのこと大人しくし後ろで射撃しといてくれ」
 どこまでも楽しそうなアルマに苦笑するミリア。
 夫はいつもこうだ。まあ、大人しく指示に従ってくれるだけまだいいが……。
 アルマの攻撃を避けた、とは言うが青木のコートは彼の攻撃に焼かれ、ところどころ焦げている。
 上手く連携が取れれば当たるだろう……そう判断したフラメディアは仲間達を見る。
「後衛の者達は良く聞くのじゃ。射撃攻撃は衝撃波で無効化されるゆえ、バラバラに撃っても効果が薄い」
「……ということは、一斉射撃がいいということですか?」
「そうじゃ。出来れば二段構えが良いの。衝撃波は連打が出来ぬようじゃからの」
 小首を傾げるメトロノームに頷くフラメディア。続く説明に、奏音が考え込む。
「1回目を衝撃波で無効化されても、2回目は届くということですね」
「うむ。投擲槍は発射に予兆がある。弓による射撃も分かりやすい」
「なーるほど。そこを狙ってみるのも手ですね! 了解です!」
「あの大きな弓、見てみたかったですけど今回はさすがにまずそうですからねー。サクッと阻止しちゃいましょうか☆」
 ビシッと敬礼するルンルンにさらりと不穏なことを言うアルマ。
 詩は苦笑しつつ仲間達にプロテクションをかけて回る。
「水月さんもかけるよ」
「あっ。それ光りますよね。ちょっと目立つの困るんですよ」
 申し訳なさそうな葛音 水月(ka1895)に、首を傾げる詩。
 その格好に彼の狙いを知って……ぽんと手を打つ。
「……あ、そうか。ちょっと心配だけど……じゃあ、怪我したら真っ先に手当してあげるね」
「うん。ありがとう」
「気を付けて!」
 詩の応援に笑顔を返す水月。彼の姿が、宵闇が広がる街道に溶けていく。
「聖なる光よ。楯となり、彼の者を守れ」
 続いた詩の短い詠唱。フラメディアが光に祝福されているように見える。
「真美殿は避難した! 遠慮は要らぬ! 総攻撃じゃ!」
「任せとけ!」
「言われなくても分かってらァ……!」
 彼女の声に応えるように跳躍するエヴァンスと剛道。
 空を切る刃。後方に大きく跳躍した青木。
 踏み込むアルト。一気に間合いを詰め、特殊強化鋼で出来た鞭を黒い魔人の腕に絡みつける。
「逃げられると思うなよ……!」
 ギリギリと締め上げられる鞭。引き裂かれる黒いコート。
 それを掴んで、青木がニヤリと笑う。
「お前を人質に取るには厄介だな。『茨の王』」
「アルトちゃんいじめちゃダメ!!!」
 そこに割り込んだリューリ。振り下ろす斧。感じる手ごたえ。
 それでも、青木は涼しい顔をしている。
「ねえ。燕太郎さん。どうして歪虚になっちゃったの? 何か嫌な事あったの?」
「この期に及んで聞くことがそれか。お前に関係ない……!」
「気になるんだもん! 関係あるよ!! こんなことされてメーワクだし!!」
 何かを言いかけた青木。背後から感じた衝撃。不敵な笑みを浮かべたアイビスの拳がめり込む。
「目の前ばっかり気にしてると後ろ取られるわよ、歪虚さん」
 斜め上の死角から飛来したアイビスに舌打ちする青木。
 更に跳躍しようとして……闇から出でた鋼の鞭に絡めとられる。
「どうも、はじめまして。……暗闇にはご用心、ってね」
「貴様……!」
「よっしゃ! 水月良くやった!」
「良くやった、じゃないですよ! あんま攻撃効いてないですよ!」
 駆けこんできたエヴァンスに言い返す水月。
 青木の額に浮かぶ青筋。怒ったということは妨害は出来ているのだろうが。
 それにしても、硬い……!
 まるで鋼を叩いているような感覚だ。
「しっかしエヴァンスさんも無茶言いますね。こんなの止めろだなんて……」
 ボヤく水月。だがそれはどこか楽し気で……。
 目線の先。縦に横に。エヴァンスと剛道の大剣が閃く。
 ぶつかり合う武器。飛び散る火花。
 アイビスと水月の一撃を確かに食らっているはずなのに、変わらぬ動き。
 そしてこの一撃の重さは何だ……?
 青木から感じる死の匂いに、剛道の腹の底から笑いがこみ上げる。
「ハハ。ハハハハ! こうでなくちゃな! 青木ィ!!」
「歪虚にしとくにゃ実に惜しい。良い傭兵になれたもんをな!」
 エヴァンスの叫びに無言を返す青木。フラメディアが腕を振り上げる。
「皆の者ゆくぞ! 一斉掃射!」
「行きます……!」
「氷の矢よ……! 敵を貫け!」
 フラメディアの声に応える奏音とメトロノーム。
 放たれる雷撃と氷の矢。振るった槍から放たれる衝撃波。
 2人の攻撃が打ち消されたのを見て、アルマがにっこりと笑う。
「ここからが本番ですよ!」
 ミリアの肩越し。飛来する蒼い流星。
 それは確かに黒い歪虚の肩を焼き……青木が舌打ちする。
 動いた目線。一瞬で剛道とエヴァンスを振り払い、迫る青木。
 それは確かにアルマをとらえている。
 次の瞬間、感じる寒気。
 翻す槍、振りかぶる男が見えて――ミリアは考えるより先に、身体が動いた。
「……槍! 来るぞ!!」
 響くフラメディアの叫び。アルマ目掛けて投げられた槍は黒い気を纏い、ミリアの身体を貫いた。
「ミリア! 何で避けないんですかっ……! 燕太郎さんの狙いは僕でしたのに……!」
「……命にかえても守るって言ったろ」
「ミリアさんしっかりして!」
 腹に血の花を咲かせて笑うミリア。駆け寄ってきた詩が必死で癒しの魔法をかける。
 そして、青木は険しい顔をしたままで。右手をまっすぐに。そして左手を折り曲げて……まるで、矢を番えるような姿勢になる。
 その手に、半透明の、黒い大きな弓が姿を現す――。
「……! 例の大技! 来るぞ!」
「させるかよ!!」
「お前の相手はこの俺だァ!! 余所見すんなァ!!」
 走り出すフラメディア。剛道も軌道を逸らすべく斬りかかるが、膨大な負のマテリアルに弾き返され、全身を切り裂かれて吹き飛ぶ。
 同様に負のマテリアルの嵐に耐えるエヴァンス。両手を広げた彼を見て、フラメディアは目を見開く。
「エヴァンス、何をしておる……!?」
「槍を止めるんだよ! こんなもん軌道反らせるとも思えねえ! 手伝え!」
「仕方あるまいな……!」
 次の瞬間放たれる黒い槍。3本ではない。1本だ。
 ……3本全てを出すのにはそれなりに集中が必要なのかもしれない――。
 そんなことを考えていたフラメディアとエヴァンスを文字通り壁にして……槍はさらさらと崩れて消えた。
 槍をまともに食らって地に伏す彼女。エヴァンスも崩れ落ちながら、青木を見る。
「……なあ、青木。斬り合えば斬り合うほどわかるぜ。お前が俺によく似た『人間だった』ってなぁ!」
「……貴様に何が分かる」
 倒れ込んだエヴァンスの肩を踏みつける青木。
 そこに再び迫る緑色の疾風。
 アイビスの拳が青木の背に打ち込まれる。
「手加減しないって言ったわよね! 逃がさないわよ!」
「……貴様は厄介だ」
 飛来した彼女だけに聞こえた声。青木の黒い瞳が微かに金色に光ったのが見えて――。
「危ない!!」
 アルトの叫び。アイビスは避ける暇もなく槍で薙ぎ払われた。
「……『茨の王』、お前もここで潰しておいた方が良さそうだ」
 感じる圧力。金色に光る青木の瞳。
 ――これがこの男の本気なのか。
 ならばこちらも全力で行くまで……!
 踏み込もうとした刹那。迫る青木。こちらに真っ直ぐ向かう槍。
 ――しまった。このままでは……!
 身を翻そうとしたアルト。次の瞬間。淡い紫が視界を覆った。
「アルトちゃんいじめたら許さないって言ったでしょ……!」
 リューリの細い身体から溢れる赤。膝をつく親友――。
 すっとアルトの目が細くなって……凍り付くような視線が黒い歪虚を捉える。
「貴様。死ぬ覚悟は出来たか?」
「ほう。『茨の王』の泣き所がこんなところにあったとはな」
 薄く笑う青木。閃く刀。猛攻をしかける親友が見える。
 肩を貫かれて、意識が途切れそうになるリューリ。
 それでも手を伸ばして……深淵の声を呼び起こす。
 ――感じたのは光のない絶望。吐き気がする程の怒り……。
「燕太郎さん、どうして……?」
 何に、そんなに絶望したの……?
「避けてろ、リューリ」
 アルトと青木の息もつけぬほどの攻防。一瞬でも気を許したら、どちらかが両断される……そんな中、聞こえた声。
 そこには刀を支えにして立つ剛道の姿があった。
「……尾形。まだ立つか」
「言っただろ、俺はしつけェ男なんだ。目ェ逸らすんじゃねェよ! 俺だけを見ろ……!」
 全身から噴き出す血。刀を捨てて、槍を掴む剛道。
 ただただ、青木の攻撃を妨害する為だけの行動。
 不意に闇から浮かび上がる水月。
 鎖に絡めとられる足。
 その隙をついた、アルトの一閃。青木の腕から、赤い血が噴き出す。
「青木さん、あなたの負けですよ。ここで引くなら見逃してあげます」
 鎖から手を離さずにちらりと視線を後ろに送る水月。
 若峰の町の方から、やってくる兵が見える。
「……援軍か。仕方ない。引こう」
 武徳達の姿に諦めたのか、ため息をついて踵を返す青木。その背に、シェルミアが声をかける。
「青木、待って。秋寿に伝えて。臆病者って見られたくないなら、次は使いなんて寄越さないでお前が来いって」
「……断る。報酬もないのに、ましてや敵の頼み事を引き受ける謂われはない」
「本当、歪虚にしておくのが惜しい奴だな……」
「もう。エヴァンスさんったら何言ってんですか」
 エヴァンスを助け起こす水月。
「リューリちゃん! ……許さない。絶対に許さない! 青木 燕太郎! 必ず殺してやる……!」
 刀を収めて、ぐったりとしたリューリに駆け寄るアルト。怒りに燃える目で、闇に消えていく歪虚を睨みつけた。


 ――苦難を乗り越え、青木を退けたハンター達。
 真美の出生の秘密については、別途問題にはなるだろうけれど……。
 そして、暗躍する憤怒王の分体、蓬生と『死転の儀』を成そうとする秋寿。
 青木は蓬生の弟である災狐を食らい――。
 詩天はそのうねりに巻き込まれ、大きく動き出そうとしていた。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 16
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧


  • ノノトトka0553
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月ka1895
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラスka2477
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイka2884
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニka3109
  • 部族なき部族
    エステル・ソルka3983
  • 正義なる楯
    アルバ・ソルka4189
  • DESIRE
    尾形 剛道ka4612
  • 千寿の領主
    本多 七葵ka4740

重体一覧

  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマka0502
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィka0639
  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソードka1287
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラスka2477
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジアka2604
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイka2884
  • 正義なる楯
    アルバ・ソルka4189
  • DESIRE
    尾形 剛道ka4612
  • 九代目詩天の想い人
    龍堂 神火ka5693

参加者一覧

  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 元気な墓守猫
    リューリ・ハルマ(ka0502
    エルフ|20才|女性|霊闘士

  • ノノトト(ka0553
    ドワーフ|10才|男性|霊闘士
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • 英雄譚を終えし者
    ミリア・ラスティソード(ka1287
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人
  • 黒猫とパイルバンカー
    葛音 水月(ka1895
    人間(蒼)|19才|男性|疾影士
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 洞察せし燃える瞳
    フラメディア・イリジア(ka2604
    ドワーフ|14才|女性|闘狩人
  • 紫煙の守護翼
    シガレット=ウナギパイ(ka2884
    人間(紅)|32才|男性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 部族なき部族
    エステル・ソル(ka3983
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 正義なる楯
    アルバ・ソル(ka4189
    人間(紅)|18才|男性|魔術師
  • DESIRE
    尾形 剛道(ka4612
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 千寿の領主
    本多 七葵(ka4740
    人間(紅)|20才|男性|舞刀士
  • 九代目詩天の信拠
    三條 時澄(ka4759
    人間(紅)|28才|男性|舞刀士
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 未来を思う陽だまり
    バジル・フィルビー(ka4977
    人間(蒼)|26才|男性|聖導士
  • 【魔装】猫香の侍女
    ライラ = リューンベリ(ka5507
    人間(紅)|15才|女性|疾影士
  • 九代目詩天の想い人
    龍堂 神火(ka5693
    人間(蒼)|16才|男性|符術師
  • 想いと記憶を護りし旅巫女
    夜桜 奏音(ka5754
    エルフ|19才|女性|符術師
  • 忍軍創設者
    ルンルン・リリカル・秋桜(ka5784
    人間(蒼)|17才|女性|符術師
  • 符術剣士
    シェルミア・クリスティア(ka5955
    人間(蒼)|18才|女性|符術師
  • パティシエ
    紅媛=アルザード(ka6122
    人間(紅)|14才|女性|舞刀士
  • “我らに勝利を”
    ラジェンドラ(ka6353
    人間(蒼)|26才|男性|機導師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/09/29 08:37:00
アイコン 質問卓
シガレット=ウナギパイ(ka2884
人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/09/29 18:00:08
アイコン 相談卓
シガレット=ウナギパイ(ka2884
人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/09/30 16:35:50