紅の水音 ホリーの受難

マスター:真柄葉

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~5人
マテリアルリンク
報酬
少なめ
相談期間
5日
締切
2016/10/26 09:00
完成日
2016/10/29 22:21

みんなの思い出

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オープニング

●ハンターオフィス辺境支部
 今日も今日とてハンターオフィスには沢山の人が訪れている。
 仕事を求め掲示板に列をなすハンター達。そのハンター達に仕事を斡旋するオフィス職員。そして、悩み事や仕事を持ち込む依頼者達。
「んあぁーー! ようやく休憩だぁ!」
 一時的に窓口を閉める昼休み。オフィスの受付嬢の一人ケイトは誰の眼もはばかることなく大きく伸びをした。
「ねえ、ホリー、今日は何食べる? 侍亭は昨日行ったし、ちょっと足を延ばして市場まで行ってみる?」
 と、ケイトは伸びをした体勢そのままに、同じく受付の業務につく同僚ホリー=アイスマン(kz0204)を見やる。
「……」
 しかし、ケイトの期待したような返事は返ってこなかった。
「ちょっと、ホリー。聞いてるの?」
「……」
「…………無視とは上等ね。揉むわよ?」
「んー、あー、うん。……うん?」
「……どうしたのよ。ちょっと変よ、大丈夫?」
「…………」
「って、寝るな、オイ!」
 座ったままこくこくと舟をこぎ始めた同僚を、ケイトはゆさゆさと揺する。
「……あ、おはよう、ケイト? ……なに?」
「はぁ、一体どうしたのよ。随分と疲れてるみたいだけど?」
 腰に手を当て横に立ったケイトは、いつもにも増してキレの無い同僚の顔を覗き込んだ。
「それがねぇ、昨夜、息子君が突然熱出してさぁ、お医者さん探して町中走り回ったんだけどさぁ、夜で開いてるところないしさぁ」
 今にも閉じてしまいそうな瞼を気合で持ち上げながら、ホリーは昨夜の大事件をぶつぶつと語ってゆく。
「結局さぁ、息子君はさぁ、おんぶして走り回ってる間にぃ、寝ちゃってぇ、仕方ないから帰ったのぉ」
 ふぁっと大きな欠伸を噛み殺し、ホリーの語りはまだ続く。
「それでも心配じゃないぃ、だからずっと様子見てたんだけどぉ、朝になって起きてみればぁ、きれいさっぱり忘れたように元気なのよぉ……もぉ、私の心配返してぇぇ! って、叫びそうになったわぁ」
 話すだけ話したホリーは、そのままカウンターへ突っ伏した。
「子持ちは大変ねぇ。で、どうする? お昼休みの間、寝ておく?」
「うん~、そうするぅ」
「そ。じゃ私はお昼行ってくるわ」
「は~い、お土産よろしくね~」
 ひらひらと手を振るホリーの見送りを背に、ケイトは街へと繰り出した。


 昼休みも終わり、午後の受付業務が始まった。
 午前中ほどの賑わいは見せないものの、それでも数多くの人々が訪れていた。
「今日もたくさんあるわねぇ」
 受付業務を引き継ぎ、三階の事務所で依頼書の整理をしていたケイトは書類の山を前にうんざりとため息をつく。
「さて、さっと片付けますか」
 捲る袖はないが仕草だけ真似たケイトは、山の一番上にある書類をつかみ取った。

「……うん? んん?? なに、この依頼」
 山も半ば制覇した頃、ケイトは一枚の書類に目を止めた。
「ヴルツァライヒ辺境支部<極北の番人>が聴衆を前に行う高遠な理想を語る集会に参加されたし……って、これハンター達にデモに参加しろって事じゃない!?」
 その突拍子もない依頼内容に、ケイトはわなわなと手を震わせながら文字を追っていく。
「……こんなのいったい誰が……って、ホリィ……」
 依頼書の最下、勇ましく殴り書かれた依頼人のサインの下に、受領者として見知った同僚のサインを見つけ、ケイトはがくりと肩を落とした。
「とにかく支部長に報告しないと」
 気を取り直し、依頼書を握りしめたケイトは奥に座る壮年の男の元へと駆け寄った。


「話は聞いたよ」
 他のものより少しだけ造りのいい椅子に深く腰掛けた男は、ふぅと息を吐いた。
「ホリー君」
「は、はい……」
「やってしまったことは仕方がない。だけど、この件をこのままにはできない」
「……はい」
 ケイトと共に支部長の前に立つホリーは恐縮のあまり肩を縮めている。
「これはハンターズソサエティの信用にかかわる事になる。依頼を受けた君が直接赴いて、取り消しの交渉をしてきなさい」
「うっ……はい……」
 その後、何点かの小言を挟んだ支部長は話は終わりだと二度手を振る。二人は一礼して事務所を後にした。
「まぁ、誰にでも失敗はあるって」
「うぅ……」
「上には報告しないって言ってくれたんだからさ。まぁ、取り消せたらだけど」
「うっ……」
 ケイトの一刺しに、再びしゅんと肩を落とすホリー。
「それで、どうするの?」
「どうするって……そりゃ行ってくるよ?」
「一人で?」
「私だって一応覚醒者なんですぅ」
「まぁ、人より丈夫だってのは認めるけど、あんた、今日寝てないんでしょ?」
「さ、さっきちょっと寝たよ?」
「ふーん……」
 と、明らかに寝不足だとわかるホリーの虚勢に、ケイトはジトっと視線を向ける。
「はぁ、しゃーない」
 ケイトは、目の下に濃いクマを作るホリーの手を取ると、階下へ駆け降りた。
「お休みの所ごめん! ちょっと手伝ってくれる人いないかな?」
 降りた先は二階の休憩室。英気を養っていたハンター達に向け、ケイトは手刀を切る。
「お金はそんなに払えないけど、足りない分はこの子が精神的に払うからさ」
 そう言って、理解の追いついていないホリーをハンター達の前に差し出した。

●???
 一昨日の雨で増水したのか、壁越しに聞こえる水音が今日は幾分賑やかな気がする。
「おお、同志! 首尾はどうであるか!」
「うむ、同志! ハンターズソサエティは我々の要求を受け入れ、賛同者招集への力を貸すと宣言した!」
 独特の符丁から始められる会話。
「流石は音に聞こえしハンターズソサエティ! 我らが崇高な目的の真意を悟り、その門戸を開いたというわけか!」
「うむ! 辺境を我が物顔で跋扈する歪虚どもを駆逐したる力を持ったハンター達が我が陣営に加われば、様に鬼に金棒、駆け馬に鞭よ!
「ああ! これで我々の理想にも一歩近づこうというものだ!」
 ただでさえ湿度の高い室内が熱気を伴って吐き出される人の息に霞む。
「辺境を我らが手に取り戻さんがために!」
『取り戻さんがために!』
 唱和と共に集団のシンボルカラーである赤のバンダナを撒いた右腕が高々と挙げられた。

「客人! どうだ、我等の決意と硬さと団結の力は!」
「素晴らしい! 辺境の事などまるで解らぬ新参の者である私でも、大義を掲げるに足る力と情熱をひしひしと感じ、胸が熱くなっております」
「おぉ! わかってくれるか客人! いや、同志よ!」
「……ええ、理想の成就の為に。我々も惜しみない助力をお約束いたします」
「聞いたか、同志達よ!」
『おおっ!』
「無用の長物と成り果てた長城撤去という壮大な悲願の成就の為に! 辺境の民の真なる解放を謳う我等<極北の番人>の理想を掲げる為に! 新たなる同志、遠き隣人の理解ある行動と助成に――乾杯!!」
 響き渡るガラスを打つ音が、ゆっくりと石に染み入る。
「はい、乾杯」
 ジョッキの影に隠された口元には、薄らと笑みが浮かんでいた。

リプレイ本文

●噴水
 店仕舞いを始めた露店をぼーっと眺めながら、ホリー=アイスマン(kz2040)はエステル・クレティエ(ka3783)に手渡されたウナギンに口を付けた。
「はは、口には合わないかね」
 うぐぐと渋い顔のホリーにエアルドフリス(ka1856)は水を差し出す。
「少し独特の味がしますよね。慣れれば悪くないんですけど……」
「い、いえ、美味しいですよ! ありがとうございます。なんだか元気が出てきた気がします!」
 不安気に顔色を伺うエステルに、ホリーはぐっと拳を握った。
「そうですか? それでしたらいいのですが……あ、その恰好で待つのは寒いですよね。よかったらこれも使ってください」
 と、エステルは更に冷えてはいけないだろうと、自分の掛けていたストールを手渡した。
「そうだな、女性が体を冷やすのは良くない」
「あら、エアルド先生、随分とお詳しいですね?」
「うん? これはあくまで一般常識のはんちゅ――っ!?」
 首を傾げるエステルに、当然だと目を細めたエアルドフリスが、突然――。
「? どうかしましたか?」
「い、いや、ナンデモないぞ? 何かおかしなことでも言ったかな? ……さて、あまりノンビリシテいると日が暮れる。急がなければ!」
 ホリーの問いかけにも適当に返し、エアルドフリスはまるで狐に追われる野兎の様に広場を後にした。
「え……あれ?」
「あ、気にしないでください。彼は一人で勝手に地獄の釜に飛び込むのが好きですので」
 突然の事態にぽかんと口を開けるホリーに、金目(ka6190)は呆れ顔。
「は、はぁ……。随分と変わったご趣味ですね?」
「はい、変わってますね。なのであまり近付かない方がいいです」
「そうなんですか?」
「そうなんです」
「はぁ……」
 普段の気だるげな態度からは想像できないほど妙に迫力のある金目に、ホリーは生返事を返した。

「随分と面白い事になってるんですね」
 そんなやり取りを横目に見ながら噴水の脇をゆっくりと歩むエステルは。
「あんな様子じゃ、貴方も気が気ではないですね、ジュードさん」
 反対側まで回ると、そこに腰かける可憐な少女に近づきそっと話しかけた。


「しかし、堂々とハンターに依頼を持ってくるとはのぉ」
「勇気があるのか無知なのか、判断に困るところですよね……」
「はっきり言うのぉ」
 ザイデルの事をそう評するエステルを、火々弥(ka3260)はかかかと快活に笑う。
 二人はダウンタウンと主街区の境を重点的に探るが、いまだ目ぼしい情報に恵まれなかった。
「なかなか見つかりませんね。もう少し、中の方へ行くべきでしょうか」
「そうじゃな。その方が――」
 と、エステルに相槌を打った火々弥がちらりと視線を揺らした。
「? 何かありました?」
「うむ、ちと、遊び相手を見つけた」
「遊び相手?」
「エステル、お主はここで待っておれ」
「え……?」
 エステルの返事を聞く間もなく、火々弥は薄暗い路地へと身を躍らせる。
「か、火々弥さん!?」
 一瞬遅れたエステルも急いで後を追うも、火々弥の姿は曲がり角に消えた。

「はぁはぁ……火々弥さん、一人で行かないでくださいよ」
「なんじゃエステル、待っておれと言ったものを」
 ようやく追いついた火々弥の反応は、実にあっさりしたもの。
「そ、そう言われて待っていられませ……えっと、お取込み中でしたか?」
「いや、取り込むほどの時間もかからんよ」
 その言葉を合図に、火々弥の影に隠れて見えなかったごろつきが数名、一斉に飛びかかってきた。

「――はぁ、お見事です」
 感心するエステルを他所に、言葉通り一瞬で決着をつけた火々弥は、唯一意識のある若者を見下ろした。
「なんで視線をそらせたんじゃ? 聞かせてもらえるかの?」
 そう言って、両手で胸を寄せる火々弥に男はごくりと喉を鳴らした。


「サキ姉、大丈夫ですか?」
「ええ、ありがと、伊織。私は大丈夫よ」
 見上げてくる叢雲 伊織(ka5091)に、叢雲・咲姫(ka5090)は、少し疲れたような笑みを返す。
「それにしてもいないですね。時間が悪いんでしょうか?」
「うーん、結構な人が見てるみたいだし、いてもおかしくないんだけど……」
 酒場の看板娘に酔っぱらい、果てはベヨネッテ・シュナイダーの隊員にまで聞いたのだが、得られた情報といえば『そこらにいるんじゃないか?』なんともあっさりしたもの。
「それなのに見つけられないって事は、どこかに隠れているのかなぁ。顔や体格はともかく、髪と腕のバンダナは見ればすぐにわかると思うんだけど……」
 なかなか思い通りいかない成果に、咲姫はがくりと肩を落とした。
「確かに、そうそう真似してる人はいなさそうですよね……ね?」
「うん? ね? どうしたの、伊織?」
「えーっと、もう一度、特徴教えてもらってもいいですか?」
「え? それは構わないけど……」
 人混みを見つめながら問いかけてくる伊織に、咲姫は不思議に思いながらもホリーの話を復唱する。
「緑髪、赤のバンダナ……えっと、あの人ですよね?」
「……え?」
 ゆっくりと指された伊織の指を追って、咲姫が見た者は――。
「…………い、いたぁ!!」
 体格のいい緑髪の男が、腕に巻いた紅いバンダナの位置をしきりに気にしている所だった。

●路地
「なんだかこの間からこんな事ばっかりしてる気がします!?」
「走ってるときは喋らない! 舌を噛むわよ!」
 街の構造を知り尽くしているのか、緑髪は躊躇なく狭い路地を何度も直角に折れていく。
「それにしてもいきなり逃げるとか、何かありそうね!」
 ようやく対象を見つけ近づいたはいいが、緑髪は二人を見るなりいきなり逃げだしたのだ。
「サキ姉こそ喋ってると舌を噛みま――わわ、ストップ!!」
「うわっ!?」
 先を行く伊織が急停止。咲姫は勢い余って弟に突っ込んだ。
「いたたた……もぉ、急に止まらないでよっ!」
「そ、そんなこと言われても……」
 盛大に転んだ二人が、ようやく起き上がり辺りを見渡す。
「ここはどこなんだろう……」
 そこは水汲み場なのだろうか、ぽつんと井戸がある高い壁に囲まれた小さな空間だった。
 空間には二人が来た道の他にもいくつか道は伸びているものの、そちらに人の気配はない。
「井戸に落ちてしまった……とか?」
「そんな、まさか」
 二人は恐る恐る井戸を覗き込むが、そこに飲用なのだろう清らかな水が流れていた。


 情報交換の為、再び噴水へと集った一行。
「ふむ、路地の奥で消えた、と」
 姉弟の話に、エアルドフリスは顎髭を指で遊ばせる。
「巻かれたとかではないんですね?」
「僕達はこれでもハンターの端くれです! 一般人相手に巻かれたりしません! ほんとに、忽然と消えたんです!」
 金目の問いに伊織は必死で反論した。
「忽然と消えた……井戸に逃れたとかですか?」
「私達もそう思って井戸を覗き込んでみたんだけど、人影らしいものは見つけられなかったの」
「ふむ……やはり別の道へ逃れたのか……?」
 そう言ってエアルドフリスは再び顎鬚に手を当てた。
「いや、忽然と消えたのかもしれんぞ?」
 と、ここで会話に入ってきたのは火々弥だった。
「どういう事です?」
「わしら二人は、街で出会った若者と少しばかり仲良くなっての」
「仲良くと言いますか、火々弥さんが落としたと言いますか……ははは」
 事の顛末を見ていたエステルが渇いた笑みで答えた。
「その若者達はのぉ、<極北の番人>と……まぁ、名乗る前の集団とじゃな。対立しておったそうじゃ」
「対立ですか?」
「えっと、どちらも20人ほどの集団だそうなんですけど、ダウンタウンの東西をそれぞれ勝手に縄張りだと主張して対立していたそうです」
 火々弥の説明で足らぬ部分をエステルが補う。
「でも、最近はあちらの集団がなにか変なものに目覚めたおかげで、すっかり相手にされなくなって、やさぐれていた。そんな感じだそうです」
「どこの子供ですか……」
 エステルの説明に、どこかで最近見たぞとばかりに金目は目頭を押さえた。
「それで、居場所はわかるのですか?」
「いや、以前のアジトは引き払っておるそうじゃ」
「ふむ、結局振出しですか」
 と、金目は無念そうに口を閉ざす。
 振り向けばジュードに背を護られながらも、こちらを不安気に見つめるホリーの姿。
「誰もわからぬとは言うておらぬじゃろ」
 しかし、そんな金目に火々弥はにっと唇を釣り上げると。
「どうやら奴らはこの下におるらしい」
 とんっと踵で石畳を打った。

「ふむ、なるほど。面白いことになってきたじゃないか。なぁ、金目君」
「はい? ……ぁー、ここは先生って呼んだ方がいいんですかね?」
 フフフと口元に不敵な笑みを浮かべ何かスイッチが入ったようなエアルドフリスに、金目は呆れるように返す。
「好きに呼べばいいさ。それより姉弟の話、そして、火々弥とエステルの話。どこか繋がったように思わんかね?」
「敵は地下にあり。とでも言うんですか?」
「流石、話が早いな」
「あ、本当に言うんですね」
 機智の友を得たとばかりに微笑むエアルドフリスに、金目はガクッと肩を落とす。
「我々が求めるものがこの足元にある。そして、そこへと通じる道もまた示された。ならば行くしかあるまいて」
 と、エアルドフリスはアジトへ続くであろう井戸の方角をびしっと指さした。
「サキ姉、なんか楽しいことになってきましたよ!?」
「ええ、燃える展開ね! いいわ、私達が案内する!」
「かっかっ、おもしろぉなってきよったわ」
 案内役として先行する姉弟に、三人も続く。
「えっと……なんか目的変わってません?」
 意気揚々と噴水を後にする5人に、エステルはかくりと首を傾げた。

●路地奥
「随分と奥まった場所にあるんですね……」
「不安なら手を繋いでやろうか?」
「そういうことばかり言ってるから、いつもジュードさんが悲しい思いをするんですよ?」
「うっ……」
「なんじゃ、尻にでも敷かれておるのか?」
「敷かれるどころの話じゃないですよ。色々握られてます。精神的にも物理的にも」
「金目君、君とは一度じっくりと話し合う必要があるようだが?」
「あ、そういうの間に合ってますんで」
「いい、伊織。ああいう大人になっちゃダメよ?」
「え! エアルドフリスさんカッコイイと思ってたんですけど……」
 大人二人も並べば壁に肩をこする程に狭い路地を、6人は姉弟の先導で進んでいく。
 そして、何度目かの角を曲がり、ついに目的地の広場が見えてきた。その時――。

『あ』

 7人の声が見事にハモった。
「い、いたーー!!」
 今まさに井戸から這出てきた緑髪の男に向け、あの時と同じ咲姫の叫び声を上げた。


ハンター達に囲まれ、最早逃げ場なしと悟ったのか、男は驚くほどあっさりと会話に応じる。
「それで、なんで突然逃げたんですか?」
「そうよ、お蔭で大変だったんだから」
 姉弟が井戸を背にする男にずいっと一歩迫った。
「え!? なんでって、お前。俺の居場所を探し回ってる奴らがいるって聞いて、いたー! とか叫ばれた日には、そりゃ逃げるだろ!?」
「逃げないわよ、普通!」
「サ、サキ姉。もしかして僕達が失礼だったんじゃないんですか?」
「伊織、騙されちゃダメ!? あいつが変なのよ!」
「お、お前等は一体何者なんだ!! ま、まさか……!」
 そんな姉弟を横目に、男は他の4人に問いかける。
「驚かせてしまって済まなかった。我々はハンターだ」
「え? ハンター? それじゃ、お前等、あの女を連れ戻しに来た仲間じゃないのか……?」
「うん? 連れ戻しにじゃと? あの女とは誰の事じゃ?」
「え!? い、いや! さっきのは聞かなかったことにしてくれ! ちょ、ちょっと……そうだ! 知り合いの知り合いかと思っただけなんだ!」
 火々弥の問いかけに男は、あからさまに動揺を見せ首をぶんぶんと横に振った。

(サキ姉、怪しすぎるんですけど、ここツッコむべきですかね?)
(そうね、とても気になるところね。何よりあいつは私の伊織を馬鹿にした)
(してないと思いますけど……?)
(したわ! それだけで重罪よ!)
 と、姉弟がこそこそと話せば。
(ふっ、ついに馬脚を現したか)
(無害な連中かと思っていましたけど、何か後ろ暗い事をやってそうですね)
(ここは一気に……いや、もう少し泳がせるか。どう思うかね、金目君)
(その勝手に助手にしてやった感、何とかなりませんか? 金取りますよ?)
 迷探偵コンビもまたこそこそと悪だくみ?

「色々と気になるところだらけですが、いったん戻りませんか? 皆さん、本題忘れているでしょう?」
 と、ここで我らが最後の良心エステルがかけた声に、一同ははっと我に返った。

●酒場
 一行は人目を避けるために金目が事前に用意していた酒場に移動していた。

「申し訳ありませんでした!」

 90度に腰を折り頭を下げるホリーに、緑髪の男『ザイデルX』は何の事だとハンター達を見回す。
「今朝がたあなたが出した依頼は、ハンターサイドとして受ける事ができません」
 表情をぐっと引き締めた金目が男を睨み付ける。
「それを伝えたくてあなたを探していたんです」
「え……なんで?」
「ハンターズソサエティは中立だ。政治を目的とする依頼を受けることはできん。どうあってもだ」
 追及する様にエアルドフリスも加わった。
「へ? せ、政治?」
「そうだ、あんたが出した依頼は政治的な意味合いを多分に含む。あんたが出した依頼はハンターへ政治干渉を促しているとみられるぞ?」
「せ、政治干渉!?」
 エアルドフリスの迫力かそれとも言葉の重みか、男は驚きのあまり椅子の上でバランスを崩す。
「ですので、どうか依頼を取り下げてはもらえませんか?」
 驚きに息を荒げる男に、エステルが飲み物をすっと差し出した。
「あなたを政治のいざこざに巻き込みたくはないのです」
 若干、目を潤めながらエステルが男に顔を近づける。
「うっ! そ、そうだな! そこまで言うなら、取り消してやろう! な、なにせ政治の世界は厳しいからな! はっはっは!」
 そんなエステルにどきりと頬を染めながら、男はさっさと取り消し書類にサインを書き殴った。
「あ、ありがとうございます……!」
 無事に取り消しのサインを貰えたことに安堵したホリーは、力が抜けたのかぺたんと椅子に腰を落とす。
「ホリーお姉さん、大丈夫ですか!?」
 力ない笑みを浮かべるホリーに、伊織はおろおろと宙に手を彷徨わせる。
「一気に疲れが出たんだろう。ホリー、オフィスまで送ろう。いや、なんなら家まで…………とイイタイところだが、金目君、後は……後は任せた……!」
 今にも血を流さんばかりに歯を食いしばるエアルドフリスは、この秋の空の様に爽やかな笑みを浮かべるジュードに引きずられていった。

依頼結果

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MVP一覧

  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリスka1856

  • 火々弥ka3260

重体一覧

参加者一覧

  • 赤き大地の放浪者
    エアルドフリス(ka1856
    人間(紅)|30才|男性|魔術師

  • 火々弥(ka3260
    人間(紅)|24才|女性|闘狩人
  • 星の音を奏でる者
    エステル・クレティエ(ka3783
    人間(紅)|17才|女性|魔術師
  • 双星の決刀
    叢雲・咲姫(ka5090
    人間(紅)|18才|女性|舞刀士
  • 双星の兆矢
    叢雲 伊織(ka5091
    人間(紅)|14才|男性|猟撃士
  • 細工師
    金目(ka6190
    人間(紅)|26才|男性|機導師

サポート一覧

  • ジュード・エアハート(ka0410)

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼人を探そう【相談卓】
エアルドフリス(ka1856
人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル)
最終発言
2016/10/26 07:45:03
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/10/25 07:36:00
アイコン 質問卓兼雑談卓inカフェテラス
ホリー=アイスマン(kz0204
人間(リアルブルー)|28才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2016/10/26 07:54:05