【HW】裏生徒会の文化祭!

マスター:御影堂

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
  • duplication
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2016/11/01 07:30
完成日
2016/11/09 06:40

みんなの思い出? もっと見る

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オープニング


 ここは関東近郊にあるクライズ学園。
 街をまるごと飲み込む形で存在し、様々な生徒が通っている。異文化交流もとい異世界交流を推奨し、クリムゾンウェストからも多くの学生が通う。
 これは、そんなもしかしたらの世界のお話。
 クリムゾンウェストとリアルブルーが真に交差し、文化交流を果たした世界。



 サチコ・W・ルサスールは、クライズ学園の「裏」生徒会長である。
 裏生徒会の目的は、特に無い。なぜなら、サチコが何か格好いいという理由だけで、創りだした組織だからだ。
 紆余曲折を経て、旧校舎の一室を充てがわれた。サチコはそこを根城にしているのだが、今日は部屋に集う顔ぶれが違った。
 旧校舎にはびこる有象無象の部活の猛者たち。彼らを前にサチコは、ホワイトボードにこう書きなぐった。
「クラ祭、ですわ!」
 クライズ学園文化祭、通称クラ祭が間もなく始まるのだ。異世界文化の流入しているクライズ学園の文化祭では、出し物も個性的なものが多い。
 サチコはにっと口角を上げると、続けて述べていく。
「私たち、旧校舎組のアピールのためにも一丸となって頑張りますわよ!」
 サチコの言葉に歓声をあがる。新校舎や部活棟をあてがわれる部に比べ、旧校舎の部はその全てが弱小もしくは非公認なのだ。
 これを機会に公認を得たり、部員を増やそうと考えるものも多い。
「それで、裏生徒会長は何をなされるので?」
「へ?」
「え?」
 飛んできた質問に、サチコは固まる。
「う、運営と盛り立て役を……」
「いやー、裏生徒会長とあろうものが裏方で終わるわけないですよね?」
 口々に「そうだ」だの「あの裏生徒会長様だぞ?」だのと聞こえてくる。目をぐるぐるさせて、聞き偲んでいたサチコに再び問いかけられた。
「それで、裏生徒会長は何を?」
「い、今はお答えできませんけど物凄いものをお見せしますわ!」


 ブタもおだてりゃ木に登る。
 裏生徒会長は追い詰めれば、とりあえず宣言してしまう生き物なのだった。


 そして、後悔先に立たず。
「どどど、どうしましょう……」
 白紙の出し物提出書類を前に、サチコは固まった。とにもかくにも、使える場所を探すしかない。
 旧校舎の中で空いているのは、裏生徒会室とその隣の中会議室である。会議室には給湯所が併設されているから、カフェ系も可能だ。
 もしくは、ハロウィンの時期に因んでお化け屋敷とか?
「でも、みんなやってそうですわね」
 ブツブツと出し物を書き出しながら、サチコは考える。
 もしくは、旧校舎の体育館を利用したパフォーマンスの部というのもありだろう。裏生徒会長らしいパフォーマンスとは何か……いっそ屋上も駆使して何かしようかな。
 あれやこれやと一人で考えても、結論は出ない。
「う、裏生徒会集合ですわ!」
 誰もいない裏生徒会室で、サチコは拳をつきあげる。知恵や手を借りるべく、部屋を出て学園内を駆け回るのだった……。

リプレイ本文


 四方八方から奏でられる楽しげな音楽。
 校内を響き渡る呼び込みの声。
 そう今日は――。


「クライズ学園学園祭ですわ!」
 旧校舎の昇降口、その手前に設けられたみかん箱の上でサチコは開催宣言を取り仕切った。無駄に盛り上がる旧校舎組は、宣言を受けて行動を開始する。
「ふぇ」とサチコが瞬く間に、集まっていた生徒は全員旧校舎の中へと吸い込まれていった。


 サチコがみかん箱を抱えて去り、お客側の生徒がちらほらと現れだした。その中に、執事服を着込んだ教師が立っている。
「活気づくのはいいが、熱くなりすぎないようにしないとな」
 ヴァイス(ka0364)は襟元を正すと、意気揚々と旧校舎の入り口をくぐる。旧校舎の中には、客になりそうな人を見かけた瞬間にハイエナのような目になる者が少なくない。
 強引な客引きは生徒会・風紀委員会によって禁止されている。ヴァイスは生徒会顧問の数学教師。自然と違反しそうな生徒の挙動は目につく。
 そういった生徒には、目を合わせてニッと笑みを浮かべるのがコツだ。相手が同じように笑みを浮かべれば、釘は確かに刺さったことになる。
「せんせー、寄ってってよ」
「また後でなー」
 メイド服を着用した生徒を煙に巻き、ヴァイスは上階を目指す。まずは、裏生徒会の出し物を確認しに行く。律儀に生徒会へ出し物申請をしていたので、内容は知っているのだが……。
「展示と冥土喫茶ねぇ……誤字じゃないよな?」
 期待と不安を胸に、階段をのぼるのだった。



 裏生徒会室のある三階の廊下は、途中からパネル展示がされていた。どこで手に入れたのか不明な裏生徒会の活躍を写したパネルである。
 装飾がされていたり、解説が書かれていたりと見飽きない工夫がされていた。そのパネルの一枚をしげしげと眺める。旧校舎の中に勇んで入っていくサチコたち一同。
 曰く、
「旧校舎の七不思議退治、それがすべての始まりだ」
 鈴胆 奈月(ka2802)はヴァイスの隣に現れると説明を入れた。大鶏退治から番長との戦い……魔法少女退治というよくわからないものまで、ここには裏生徒会の歴史が詰まっていた。
「……」
 じっくりと眺めれば眺めるほど、裏生徒会の活動の幅の広さがわかるようになっている。あるいは、雑多にすぎるというべきか。
「表の生徒会では請け負わない仕事ばかりだよ」
「そうだろうな。生徒会長がこんな格好をしている姿は、生徒に見せられないし」
 指差したのは、サチコが魔法少女となってポーズを決めている写真だった。
「生徒会長がそんな格好してたら、驚くだろうね」
 奈月もかすかに頷いて答える。表向きは真面目で清楚で凛としたイメージを持つのが、クライズ学園の生徒会長である。
「実際は、そうでもないんだが……っと、危ない危ない」
「僕は何も聞いていないからね」
 ヴァイスの失言を奈月はさらりと受け流す。それでも、と奈月が呟き、廊下の先にある裏生徒会室を指差した。
「今日の裏生徒会長の格好よりは、まともだと思うよ?」



「い、いらっしゃいませ、ですわ!」
 裏生徒会室の隣、会議室の扉をくぐるとサチコが辿々しい接客用語で迎え入れてくれた。ヴァイスは目を瞬いて、サチコの格好をしげしげと眺める。
 黒を貴重とした、華奢な身体を強調するようなレオタード風の衣装だ。背中にはコウモリのような小さな翼が付いている。
 その格好が恥ずかしいのか、接客に不慣れだからなのか、サチコの顔は赤らんでいた。
「そこはおかえりなさいませ、だよ」
 後ろからサチコにそう指摘したのは、夢路 まよい(ka1328)だった。まよいもサチコと同じく、レオタード風の衣装を纏っている。
「や、やっぱり恥ずかしいですわ。何で、夢魔の格好……」
「おかしくないよ。せっかくの夢なんだから、できない格好をするべきなの」
 夢、と疑問符を浮かべるサチコを置いて、まよいはヴァイスに向き直す。
「冥土におかえりなさいませ、ご主人様。席にご案内しますね」
「あ、あぁ……え、冥土?」
 思わず聞き返したヴァイスにまよいが頷く。
「冥土だよ。お化け屋敷とカフェは多いから、いっそ合体して仮装喫茶にしてみたの」
 いわれてみれば、店内はどことなく西洋お化け屋敷風の作りとなっている。店員も何らかの化物の仮装をしているらしい。
「名付けて、冥土喫茶よ」
 ぴしゃっと告げられては、納得するしかない。席に付けば、それらしいメニューが揃っていた。『眼球ゼリーに愛をこめて』『三途の河コーヒー~冥土が覚まします』『吸血鬼絶賛! 血液パフェ』等など。
「眼球ゼリーに愛を込められても、困るな」
「今なら、サチコが愛を込めるよ?」
「え゛」
 サチコが聞いてないと声を上げるが、ヴァイスはそれを頼んでみることにした。その奥でもう一人、ゼリーを頼むものがいた。
 ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)である。
「こっちにもねー」
 彼もまた巡回途中で、ゼリーをツマミに来たのだった。それぞれの席を駆け回り、サチコは「あ、愛情注入……ですわ」とまよいから伝授されたポーズで愛を込めるのだった。
 愛のこもった眼球ゼリーを二人が食べている間、まよいはサチコに声をかける。
「お疲れ様~、そろそろ交代できるって」
 まよいに告げられ、サチコはほっと一息をつく。そこへ奈月が顔を出す。
「そろそろ、魔法少女も出撃時らしいよ」
 奈月の伝令に、サチコはあぁと天を仰ぐのだった。



 旧校舎前の広場、屋台が連なる場所にリーゼントにモヒカンといった髪型に、改造を施された制服を着こなす者たちがたむろしていた。あからさまに不良なのだ。
 そんな不良たちは営業妨害にならない程度に広場を徘徊していた。ときおり、時間を確認しているのか広場の中央にある時計を見上げる。
「時間だな」
 誰かがポツリと呟く。それを合図として不良たちは、一斉に「ヒャッハー!」と大声を上げた。
「ここからは、俺達のターンだ!」
 等とわけのわからない台詞を吐いていると、
「お待ちなさい!」
「誰だ!」
 というお約束展開へと流れていく。現れたのは魔法少女衣装を着込んだサチコであった。なんだなんだと周囲の生徒たちの視線が集まっていく。
「ま、魔法少女、は、ハッピースール……た、ただいま見参ですわ!」
 超赤面のサチコは、ままよとハッピーステッキを振り回して不良たちへ突撃していく。無茶苦茶にぶん回されるステッキに合わせて、不良たちは打倒されていく。
 当然、演技だから復活も早い。立ち上がった不良たちは、
「ち、ちくしょー……なんてやつだ!」
「こんな美少女魔法少女が出てくる劇が旧校舎屋上で行われるなんて!」
「魔法少女VS新番長連合なんて劇、俺達が食い止めてやるぜ!」
 口々に宣伝文句を吐きつけて、去っていく。
「せ、正義は絶対勝つのですわ! 新番長連合との戦いは、旧校舎屋上にてえーと、15時から開演……ですわ!」
 ポーズを決めながらサチコも辿々しい宣伝を述べる。その隣では、まよいが小さく拍手をしていた。
 どうしてこんなことになったのか、以下、回想。



「とういワケで、サチコ。お前は魔法少女やれ!」
 扉を盛大に入ってきたボルディア・コンフラムス(ka0796)は、開口一番にそんなことをいった。仮装喫茶の準備をしていたサチコは、ボルディアの気迫に押されて、
「は、はい」と思わず答えてしまった。
「よーし、確かハッピースールだっけか?」
「え、えぇ」
 まだ事態を把握しきっていないサチコを他所に、ボルディアは淡々と計画を進める。
「祭と喧嘩は派手じゃなきゃな。そうだろ?」
「ま、まぁ」
「あんときの衣装、まだあるかねぇ」
 裏生徒会室内を物色し始めたボルディアを置いて、サチコは自分の作業を続ける。見つからなければいいな、と心のなかで思っていた。
 しかし、
「あるよ」
 現実は非情である。
 展示準備をしていた奈月が、展示用に探し出していた魔法少女衣装を持ってきたのである。
「よし、じゃあ、よろしくな」
 ボルディアのサムズアップにサチコは、静かに曖昧な笑みを浮かべて頷くのだった。



 そして、校内を回るついでに宣伝を兼ねて不良と戯れる仕事が発生したのだった。依頼には答える、それが裏生徒会である。
 魔法少女劇を繰り広げるサチコの姿をじっと見つめる魔法少女がいた。
「魔法少女と魔法少女で被ってしまいましたか。そういうこともあるでしょう」
 ぽつりと呟くのは、エルバッハ・リオン(ka2434)。彼女もまた魔法少女の衣装を身にまとい、サチコたちのドタバタを眺めていたのである。
 彼女の衣装はサチコのものとは、また違い、今流行りのアニメをイメージした作りである。いずれにしても、魔法少女が多すぎると間引かれるので注意が必要だ。
「話を聞いている限りでは、こちらの劇と被ることはなさそうですね。さしずめ向こうはヒーローショー、こちらはシリアスな劇でしょうか」
 一人考察をすすめる彼女が、何故魔法少女の姿をしているのか。それを語るには、またもや回想が……。
「サチコさん、お久しぶりです。そちらも魔法少女なのですね」
「え、あ、エルバッハさんも魔法少女?」
「こちらの演劇同好会に協力を頼まれて……」
 回想するまでもなく、エルはサチコに事情を話す。廊下で行う予定の魔法少女ショーであるが、同好会内に魔法少女役が可能なメンバーがいなかったらしい。
「そこで私はいったんですよ。劇の内容を変えればいいのではないですか、と」
 どうやら同好会は、某魔法少女アニメに多大なるインスピレーションを受けていたらしい。その熱意に、どうしてもやりたいと突っぱねられたのだ。
「そちらは……新番長連合ですか」
 大変そうですね、という言葉はあえて飲み込む。
「よろしければ、こちらの劇も見に来てくれますか?」
「もちろんですわ!」
 魔法少女同士の絆を感じたところで、旧校舎前の広場をサチコは後にする。ちらりと広場の時計を確認して、サチコは足を速める。
「次はどこに行くの?」
「第三体育館ですわ!」



 今朝、新校舎側から旧校舎側への並木通り。サチコは冥土喫茶用の食材を運んでいた。開催宣言まで時間がなく、その足取りははやい。
 そんなサチコの横に並ぶようにして、天竜寺 舞(ka0377)は声をかけてきた。
「やっほー」
「おはようございます……ですわ」
「今日、時間出来たらさ。これ見に来てくれない?」
 サチコに素早く手渡したのは、古典芸能研究会のチラシだった。少し考えて、サチコは舞に問いかける。
「あれ……舞さんは剣道部でしたよね?」
「そうだよ。まぁ、そっちは他の部員がやってるからね」
 曰く、ヘルプを要請されたらしい。
「剣詩舞に出演するから、見に来てね」
「わ、わかりましたわ」
 用件だけ伝えると、舞はさっそうと逆方向へ向かっていった。チラシをしっかりと眺めて、サチコは時間を記憶する。


「あ、サチコさん。おはようございます」
 入れ替わるように前からやってきたのは、天竜寺 詩(ka0396)だ。出し物で使う荷物を手に、挨拶を交わす。サチコも「おはようございますわ」と返すと、一枚のチラシを手渡された。
「よかったら、古典芸能研究会の出し物見に来てください。私とお姉ちゃんで剣詩舞を演じますから」
 何やらデジャビュを感じつつ、サチコはしっかりとうなずき返す。
「わかりましたわ」
「私もサチコさんの出し物、見に行きますね」
 にっこりと告げて去っていく詩の背中を見送り、サチコはチラシに目を落とす。絶対に忘れないよう網膜に時間と場所を焼き付けるのであった。


 サチコと舞が約束を交わす、少し前――。
 詩は、舞に頭を下げていた。 
「ごめんね。剣道部の方の出し物もあるのに」
「別にいいよ。踊るのは好きだしね」
 顔を上げて、と言われて詩は従った。笑顔で舞は、剣道部は大丈夫だからともう一度告げる。詩の隣では、真面目そうな女の子が胸をなでおろしていた。
 女の子の足首にはギブスがつけられている。もともと、出演予定だった詩の相方である。
「急場で剣詩舞なんてできるの、家でやってるあたしぐらいだもんね」
 それに、と心のなかで舞はいう。
 ――何より、可愛い妹の頼みは断れない!
「よかった……」
「だから、あなたも気にしないでね。その代わり」
 舞は相方の女の子へ視線を向けると、その肩に手を置いた。
「しっかり治して、次の大会頑張ってね」
「はい!」
 それから演目の話をしたり、剣道部へと連絡したり……慌ただしい時間が過ぎていった。
「さて、行きますか」
「うん、お姉ちゃん」



 舞台の幕が上がると同時に、舞と詩はサチコの姿を体育館の後ろの方に確認した。魔法少女姿のサチコは目立つし、隣にはサキュバス姿のまよいもいる。
 剣道着姿の舞が所定の位置につくと、着物姿の詩が三味線を鳴らした。
「始まりましたわ」
 観客席から望み見るサチコは、舞台上の二人よりも緊張した様子でつばを飲み込んだ。
 三味線の音に合わせて、詩の声が響き渡る。漢詩を吟じながら剣舞を行うもの――と前説では教えられていた。残念なことにサチコに漢詩の教養がないため、どういう内容かは理解できない。
 だが、高らかに抑揚を付けて吟じる詩の声は美しい。詩の声に合わせて、舞が剣や扇を巧みに操り舞い踊る。模造刀の閃きと緩急のある足さばきに、サチコは引き込まれていた。
 舞と詩、二人もまた互いの技に引き込まれていた。舞は詩の声に聞き入り、詩は舞の踊りに見惚れる。無論、姉の舞、妹の詩吟に負けぬよう、自分の仕事はきっちりとこなす。
 舞台の中で互いを高め合う。剣詩舞が最高潮を迎えて、終わると同時に会場では静かに拍手が起きた。舞台の幕が降りると、サチコは会場を後にする。
 詩はサチコの舞台も見に来るといっていた。二人に遠く及ばないとしても、今できる限りを尽くそう。サチコはそう思うのだった。



 新校舎のパフォーマンスを堪能したあとは、旧校舎のパフォーマンスを見ておくべき。裏生徒会長としての責務を果たすべく、サチコは屋上に来ていた。
 ボルディアとその舎弟が設置したという舞台は、裏生徒会取り仕切りで他のパフォーマンスにも使っていた。今は、旧校舎に籍をおく奇術同好会の演目を見ていた。
「……」
「……なんか、すごいね」
 引きつった笑みのサチコの隣で、まよいは朗らかな笑みを浮かべていた。舞台上では、奇術同好会所属札抜 シロ(ka6328)が取っ散らかされた手品グッズの中央で白い鳩を押さえていた。
「逃げないの!」
 だが、鳩は激しく抵抗して自由な大空へと帰っていった。観客とシロの視線が空に溶けていく鳩を追う。
「うーん」
 シロは唸ると頭を垂れる。観客はもはやコントを見ている気分だった。
「おんなじ風にやっているはずなのに、なんで同じ結果にならないんだろ?」
 ステッキを持ったまま腕を組み、真剣な表情で今一度考える。
「タネも仕掛けもなくても出来るって……言ってたのに」
 シロは小さく呟くと、舞台を振り返った。失敗続きで観客のテンションは明らかに下がっている。ここは大掛かりな手品でわっと湧かせるよりほかにない。
「まいっか!」
 やれることをしよう。
 シロはどこまでも前向きなのである。
「えっと、じゃあ、次の手品なの」
 人が寝転がれそうな台と大きめの箱を取り出し、観客席をシロは眺める。ここにおいても、サチコの魔法少女姿は実に映えるものがあった。
「あ、そこの魔法少女なあなた! えーと、裏生徒会長のサチコさんだっけ?」
「え、私ですの?」
「うん! アシスタントしてほしいから、上がってきて欲しいの」
 指名されると同時に、サチコへと観客の視線が集まる。同情と憐憫、それから好奇がふんだんに練り込まれた視線だった。
「頑張ってね」
 まよいは他人事のように、そう告げてサチコを送り出す。こうなっては逃げ場はない。サチコは、恐る恐る壇上へと上がった。
「じゃあ、サチコさんはここに寝転がって欲しいの」
 言われるがままサチコは台の上に寝転がる。すかさずシロは箱を胴体部分にかぶせた。頭と脚だけが箱の外に出ている。嫌な予感がして、サチコは額に汗を浮かべた。
「それじゃあ」
 そして、嫌な予感というのは的中するためにある。
「人体切断マジックなの!」
 まばらな拍手を受けながら、シロは青龍刀を高々と掲げる。高くなってきた日光が刃に反射し、キラリと光った。
「最後はきっちり成功させるの!」
「え、タネはあるんですよね?」
 不安になったサチコが思わず問うと、シロは瞬きをして小首をかしげた。
「ないよ?」
「はぁ!?」
「だって、プロの人がタネも仕掛けもないって言って、やってみせたの!」
 胸を張って言い切るシロだが、サチコの顔は不安に染まる。始めるよ、といいながら青龍刀を正眼に構えたところでサチコは箱をぶち壊した。
「え」
 シロが呆然としている間に、
「やってられませんわ!」
「あ!」
 大慌てでサチコは台から起き上がり、舞台を飛び降りる。シロは我に返ると同時に、青龍刀を持ったままサチコを追う。
「逃げちゃダメなの! それじゃ舞台が成り立たないの!」
「逃げるに決まってますわ!」
 サチコはそのまま旧校舎内を疾走する。



 旧校舎2階の廊下では、エルが魔法少女ショーのクライマックスを迎えていた。
「魔法少女の未来を護る。私は何度だって、立ち上がります」
 きっちりと役をこなし、旧校舎演劇同好会メンバーにも負けじ劣らず名演技を見せていた。結果として、廊下でゲリラ的に行われた劇の観客は雪だるま式に増えていった。
「使い魔アルビス! あなたの最後です!」
 そういいながらステッキを構えた、その時――。


「いやぁあああ!」
「待つなのー!」


 サチコと青龍刀を持ったシロが通り過ぎていった。


 観客がざわつく中、エルはタイミングを見計らって告げる。
「白銀のジャッジメント!」
 慌てて同好会が効果音出して光を敵役へと当てる。敵役が断末魔の叫びを上げて倒れる中、エルは静かに勝利を告げるのだった。
 そして、盛大な拍手――アクシデントに動じずやりきったエルをこちらの同好会と袂を分けたメンバーも讃えていたとか。


 サチコとシロはそのまま一階に至る。サチコが外へ転がり出たのをシロは追いかけようとしたのだが――。
「はい、刃物を持って暴れない」
 通りすがりの執事が彼女の腕を掴んだ。執事ことヴァイスは、シロから青龍刀を取り上げる。
「違うの、これは奇術なの!」
「はいはい、言い訳は向こうで聞きましょう」
 手品や奇術であると主張し続けるシロを、ヴァイスは連れて行く。声がしなくなったところで、サチコは一息ついた。そのまま、旧校舎内へ戻っていく。


 こうした騒動も学園祭の花といえる。だが、全ての生徒がこのノリについていけるわけではない。中には、騒動を避けるようにしながら所在なさげに行き交う者もいる。
「どうした?」
 そうした生徒へのケアを忘れない男がいた。ヴォーイである。彼は、燃え尽き症候群な生徒へ声をかけては宿直室へと誘っていた。
「無理して楽しむ必要はないさ。ま、ちっと休んでくといーじゃん?」
 生徒を連れていきながら、彼はふと昔語りをする。
「俺もさ、学生のときに当日に居場所なくしてさ。出し物にも興味がわかなくて、一日中フラフラ過ごしたんだ」
 悩める顔の生徒一人ひとりに、同じ話を繰り返しているのだろう。つらつらと、ヴォーイは語る。
「前日までの準備が学祭の全てっていうのは、おまえさんだけじゃないぜ?」
 徹夜続きの生徒も多いときく。当日になって無理して楽しむくらいなら、ゆっくり休むべきなのだ。
「さて、俺は飯を調達してくるから楽にしてな?」



 旧校舎の一角、『さんどうぃっち』の看板が掲げられた教室の賑わいにサチコは釣られていた。その教室で指示を飛ばし、切り盛りしているのはレイオス・アクアウォーカー(ka1990)だ。
「よぉ、デカ盛り料理研究会主催のサンドウィッチ屋へいらっしゃいませ」
 席についたサチコたちは、周囲のテーブルに用意されていく物量凄まじきサンドウィッチの数々に戦いていた。
「あれ……は?」
 まるでブックタワーの如く積み上げられたサンドウィッチを指差して、サチコはレイオスへ問う。
「あれは全種盛りサンドウィッチタワーさ。見ての通りだから、裏生徒会長はやめておいたほうがいいかな」
「ですわね」
「一応、3つの味が楽しめるミックスサンドがオススメだ」
 それで、と頷いてレイオスは厨房へと消えていく。しばらくして運ばれてきたのは、一種類に一斤もの食パンを使った実質三斤のデカ盛り仕様だった。
「祭といったら美味いもの。さあ、腹いっぱい食ってけよ」
「ふむ……」
 もそもそと食べ始めたサチコは、「おいしい」と声を漏らす。たまごサンドはふわりとした具に、マヨネーズとマスタードの風味が素晴らしい。続いて食べたのは、サラダとツナのサンドだ。これもまた、調和された味である。
「あ、これスゴく美味しいですわ!」
 最後に食べたのは、太めに切られたハムが入ったサンドウィッチだ。パンの美味しさ、レタスの爽やかさ……そして何よりも肉が美味しい。
「これ、何のお肉ですの?」
「……」
「あの……これ……」
 サチコの問いかけに、無言を押し通しつつレイオスはサムズアップで答える。諦めたサチコがもう一口食べたのを見計らって、もう一度尋ねる。
「……美味しいだろ?」
「えぇ……で、これは何の」
「美味しいだろ?」
 それ以上、何も聞かないことにした。別の店員の説明のよれば、材料費削減のためレイオスが単独で山狩りをしたとのことである……何の肉かは不明だ。
「あ、そうそう」
 もうひとつと手を伸ばしかけたサチコに、レイオスが告げる。
「今ならサンドウィッチの早食いで俺に勝ったら、タダだ。チャレンジするか?」
 サチコはしばし考えて、首を横に振る。
「遠慮しておきますわ……正直、これを食べきるのも辛くて……」
「残した分は包んで持ち帰れるようにしているから、言ってくれよ?」
 サチコは頷いて次のサンドウィッチに手を伸ばす。時計を見れば、午後に差し掛かっていた。
「あ、そろそろ食べて行かないと……」
「魔法少女ショーだね!」
 一緒に食べていたまよいが答える。何人かが、魔法少女という単語に視線を向け、サチコはサンドウィッチの影に姿を隠すのだった。


「さて、と」
 行ってしまったサチコたちの皿を下げていると、ドサッと一人の男が席についた。視線を感じて振り返ったレイオスにその男ヴォーイは告げる。
「俺は勝負しにきたぜ」
 手持ち無沙汰な連中への手土産に、サンドウィッチ狩りに来たのだった。
「いいだろう。始めようか?」



 レイオスVSヴォーイが繰り広げられている頃――。
「みんなの幸福護るため、魔法少女ハッピースールただいま見参ですわ!」
 サチコは屋上で新番長連合との死闘を繰り広げていた。サチコがステッキをふりかざせば、舎弟たちが派手に吹き飛び拍手が巻き起こる。
「いいよーサチコー!」
「頑張ってー」
 観劇にきていた舞と詩の姉妹も、サチコに声援を送る。
 サチコと対峙していたのは、番長王を名乗るボルディアだ。大得物を振り回し、サチコを一撃の重みで追い詰めていく。
「くっ! ちょ、本気じゃありません?」
「それぐらいがちょうどいいだろう……ってな!」
 峰打ちに合わせてサチコが舞台上に転がる。呻くような声を出しながら、サチコは何とか立ち上がる。
「み、みんなの力を私に貸してくださいですわ!」
 要は声援をもっと送れ、ということらしい。ヒーローショーによくある展開だ。それを察知し、
「同じ魔法少女として頑張ってください」
「サキュバスも応援してるよ―」
 エルやまよいも合わせて声を上げる。屋上では、「ハッピースール!」「裏生徒会長ー!」「サチコー!」「ボルディアの姉御―!」と声援が飛び交う。
「誰ですの、名前を呼び捨てにしたの!?」
「てか、俺の応援は別にいいってのになぁ」
 ボルディアに対する声も少なからずある辺り、クライズ学園らしいといえば、らしい。それでも、サチコ……ハッピースールは声援を受けてしっかりと立ち上がった。
「みんなの声が力になる。幸福の力受けてみてください!」
「やれるもんなら、やってみな!」
 挑発するボルディアにステッキが向けられる。静かに息を吸い上げると、サチコは力いっぱいに技名を叫んだ。
「あなたのことも、ハッピースール!!」
 何らかの光線が発せられ、ボルディアを包み込む。仕掛けてあった花火が上がり、派手な音と光が屋上に降り注いだ。
「くっ……覚えていやがれ!」
 ボルディアはボロっとした衣装になって、舞台を降りる。サチコが勝利宣言をして、盛大な拍手が送られた。



 そして、夕方――。
「おつかれ、魔法少女会長」
「うぅ、その呼び方やめていただけません?」
 舞台の解体作業が始まった屋上で、サチコは学園の様子を眺めていた。ボルディアはそんなサチコに、缶ジュースを手渡す。
「なかなかいい演技だったぜ?」
「それなら、よかったですわ」
 自分も舞や詩のように、心に何か残せる舞台ができただろうか。サチコはふと、そんなことを考えていた。
「おう、こんなところにいたか」
 続いて近づいてきたのは、ヴァイスだった。まだ執事服のままなのは、気に入ったからなのか。面倒なのかは定かではない。
「楽しかったか?」
「もちろんですわ」
 ヴァイスの問いかけに、ノンタイムでサチコは答える。ならよし、とヴァイスは満足げに頷く。続けざまにエルやまよいもやってくる。
「魔法少女よかったよー。夢の中の夢だね!」
「私も同じ魔法少女役として感銘を受けました」
 口々に言葉をかけられ、サチコは笑みで応じる。二人の後ろからは、奈月がパネルを持って近づいてくる。どうやら、今作り終えたものらしい。
「はい、今日の活動記録」
 しれっと言ってのけ、どこから入手したのか謎な写真を使ったパネルを示す。朝一番の開会宣言、魔法少女ショー宣伝からエルとのツーショット。舞たちの会場で感動する姿に、シロと追いかけっこする姿――。
「ストーカーみたいですわね……」
「記録係が逐一追いかけてたみたいだよ」
 淡々といって、奈月はパネルをしまい込む。そこで、思い出したように「あぁ」と声を上げた。
「そうそう、そろそろ逃げたほうがいいよ」
「え?」
 奈月のアドバイスに、サチコは目を瞬く。だが、屋上の扉が開いて現れた人物に言葉の意味を知る。
「サチコと人体切断マジックを終えないと、私の学園祭は終わらないの!」
 青龍刀を取り戻したシロだった。今度こそ成功させるの、と息巻いて近づいてくる。
「い、いぃ」
「い?」
「いやぁあああ!」
 片付けに忙しい旧校舎内を駆けて行くサチコとシロ。途中ですれ違ったレイオスが「成功したんだ。部費をよろしく頼むぜ!」と声をかける。
 ヴォーイが復活した生徒たちを脇に寄せさせ、通り道を作る。呆然とする生徒たちの中心で、ヴォーイはふつふつと笑いを浮かべた。
「全く、これでこそ学園祭……なんだよな」
 昇降口ですれ違ったのは、舞と詩だ。二人は夕焼けの中に去っていくサチコとシロを見送ると、互いに顔を見合わせた。
「ふふ、あれでこそサチコだよね」
「そうだね、サチコさんだね」


 サチコは走りながら、思い出したように夕日に向かって最後の宣言をする。
「こ、これにてクライズ学園学園祭を終わりにしますわー」
 だが、シロには聞こえていないらしい。
「終わらせませーん!」
「逃げますわ―!」
 二人の追いかけっこが終わった時、サチコはベッドから転がり落ちて目を覚ましたというが……それはまた別のお話。

依頼結果

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参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • ボルディアせんせー
    ボルディア・コンフラムス(ka0796
    人間(紅)|23才|女性|霊闘士
  • 夢路に誘う青き魔女
    夢路 まよい(ka1328
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師

  • ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613
    人間(紅)|27才|男性|霊闘士
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人
  • ルル大学魔術師学部教授
    エルバッハ・リオン(ka2434
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • 生身が強いです
    鈴胆 奈月(ka2802
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • イッツァショータイム!
    札抜 シロ(ka6328
    人間(蒼)|16才|女性|符術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 裏生徒会出し物一覧名簿
ボルディア・コンフラムス(ka0796
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2016/10/31 20:27:42
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/01 03:30:44