フールディン籠城戦 <防衛戦>

マスター:真太郎

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
6~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/01/12 22:00
完成日
2017/01/19 06:28

みんなの思い出

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オープニング

 アルナス湖から流れるアルナス川の河口付近の山間にあるドワーフの鉱山町『フールディン』は現在、歪虚の大群の侵攻を受けていた。
 ゴブリン群900体の攻撃はひとまず退けたものの、敵は後退しただけで軍の再編を行っており、再侵攻してくるのは時間の問題だと思われた。
 フールディンの町を治めるフルディン族の族長代理であるヴィオルは敵が退いている間に防衛の強化を行っていた。
 先の戦闘ではこちらのドワーフ兵にも被害が出ており、その治療も行っている。
 治療で助かった物もいるが、死者は6人。重傷者は24名。戦力は初戦よりも低下している。
 そのため熱湯や熱した油、矢の防備用の大きな盾などを用意して戦力の拡充を図ったが、どれ程の効果があるかは分からない。
 それらの準備を負えた時、物見の兵から連絡が入った。
「壁が……壁が迫ってきとる!!」
「壁? どういう意味だ?」
 ヴィオルは最初何を言われているのか分からず聞き返した。
「意味も何も、壁が迫ってきとるとしか言い様がないんじゃ! 敵さんおそらく巨大な盾を巨人に持たせて侵攻してきておる」
「なんだと!」 
 ヴィオルは自身で確認するため物見櫓まで走った。
 そして見た。
 高さが6mはありそうな板が3枚、町に向かって進行してきているのを。
「本当に壁のようだ……」
 ヴィオルは絶句した。
 おそらく大木を寄せ集めて作った盾なのだろう。
 盾の下方に視線を向けると、地面から僅かに浮いていて、時折大きな足先がちらちらと見える。
 サイズ的に見て、おそらくサイクロプスだろう。
「なんてこった……。あんな奴に攻め入られたら外壁など何の意味もないではないか……」
 なぜなら町の外壁は高さ4m幅2mあるが、相手の巨盾の方が外壁よりも大きいのだ。
「あの盾を外壁に乗せられたら橋代わりにされて、敵が一気に雪崩込んでくるぞ」
「ならば接近される前に倒すしかないのぉ。幸い敵さんの足は遅いしの」
 物見の兵の意見は最もだった。
「だがどうやって倒す? 敵の姿は巨盾で見えん。こちらから何を撃ったところで盾に当たるだけで敵は傷一つ負わんだろう」
「むぅ……。ならば打って出るしかあるまい」
「そうなのだが……見ろ」
 ヴィオルは巨盾の後方を指差した。
 巨盾の陰になっていて見えづらいが、全長3m程のオーガもサイクロプスの後に続いていた。
 おそらく50体はいるだろう。
「まだあれだけの戦力が……」
「敵はまだゴブリンしか出していなかったからな。当然といえば当然だが、打って出ればまずあのオーガ群を相手にしなければならなくなるだろう」
 数は前哨戦より格段に少ないとはいえ、オーガ50体はゴブリン300体と同等か、それ以上の脅威だった。
「オーガを相手にしている間にサイクロプスに接近されてしまっては本末転倒だ」
「ならどうするんじゃ? このまま手をこまねいておっても結果は同じじゃぞ」
「そうなんだが……」
 ヴィオルは頭を悩ませた。
 だが基本的に脳筋な彼は策を考えるのは得意ではないのである。
(こんな時に兄上が居てくれれば最良の策を考えてくれただろうに……)
 兄のフェグルは智謀に長けていた人物だったが今はもういない。
 いない者に頼ることはできないのだ。
「兄さん、町の人達の中に戦いの手助けをしたいって人がたくさんいるんだけど、どうしたらいいかしら?」
 そこに町の住人の避難を指揮をとっていた妹のスズリがやってきた。
「今は猫の手も借りたいところだからな。好意は受け取ろう。戦闘に出す訳にはいかないが、治療の手伝いや炊き出し、武器弾薬の補充など、できそうな事はやって貰ってくれ」
「分かったわ。それで、敵の様子はどうなの?」
「それなんだが……」
 ヴィオルはスズリに戦況を話した。
 もちろんスズリに戦闘の手伝いができると思ったわけではない。
 ただ、スズリも今は自分と同じく族長代理の立場なので知っておく必要があるだろう思って話したのだ。
「正面から戦っても勝てそうにないのね。なら、側面から奇襲すればいいんじゃない?」
「簡単に言ってくれるがどうやって側面を突く?」
 やはり素人だと思ったヴィオルは妹を笑った。
「秘密の抜け道を使うの」
「秘密の抜け道だと」
 確かにフールディンの町には旧坑道を再利用して作った壁外まで出られる秘密の抜け道がある。
「だがあの道は狭すぎて大軍を送り込むのは無理だぞ」
「大勢で行ったら見つかりやすくなって奇襲ならないでしょ。少数精鋭で行くの。そしてこっちの軍を門から出してオーガを誘き寄せて、その隙に奇襲班がサイクロプスを倒す。その後は軍を町まで退かせてオーガを門の外に締め出して倒しちゃう。どう、この作戦?」
 スズリが自信あり気な態度と表情で尋ねてくる。
「スズリ……お前凄いな」
 ヴィオルはスズリの策に素直に感心した。
 そして妹にこんな才能があった事に驚いた。
「ふふぅ~ん。これでも私はフェグル兄様とは色んなゲームで遊んでたもの。頭の出来がヴィオル兄さんとは違うわ」
 スズリが胸を張って威張る。
「よし、その策でいくぞ。スズリ、ありがとな」
「え! ホントにその作戦やっちゃうの? え、えっ、本当に大丈夫?」
 まさか本当に採用されるとは思っていなかったスズリは狼狽えだす。
 なぜなら作戦が失敗すれば兵に多大な被害が出るだけでなく、町の命運まで掛かっているのだ。
 その責任の重さで不安と恐怖が胸を締め付けてくる。
「大丈夫だ。あのフェグル兄の妹の考えた作戦なのだからな。きっとうまくいく」
 ヴィオルはスズリを安心させるために笑顔で答えて頭を撫でた。
「それよりも……」
 抜け道は一度使えば敵に場所がバレて二度と使えなくなる。
 そうなるとイザという時に逃げられなくなるがいいのか?
 とヴィオルは聞きかけたが、スズリが町の住人を見捨てて逃げる事など考える訳がなく、尋ねれば怒るだろうと分かったので止めた。
「住人の事は任せた。行ってくる」
「うん。いってらっしゃい」
 ヴィオルはスズリの見送りを受けて戦場に向かった。

リプレイ本文

「たった2人で行くんですか?」
 秘密の抜け道から奇襲を仕掛けるアルマ・A・エインズワース(ka4901)と保・はじめ(ka5800)を見送りに来たスズリが尋ねる。
「軍師の卵さんを信頼してますからねっ」
 心配そうなスズリにアルマが笑いかける。
「軍師だなんてそんな……あの、気をつけてくださいね」
「はい、行ってきます」
「でっかいの撃ちますから、見ててくださいですー」
 保とアルマはスズリに手を振り、抜け道から壁外へ向かった。

 壁内の門前ではドワーフ兵に3人一組の班を作らせ、前衛4、中衛4 後衛4、伝令1班の3部隊を形成。
 そして
『自分の割り振りを絶対に崩さない』
『下がる敵は追わない』
『可能な限り1班で1体ずつ確実に相手をする』
『グループ内で1人でも負傷したらそのグループを後衛にまで下げ、減ったグループだけ中衛が前衛に、後衛が中衛に前進する』
『防御が最優先で、中衛と後衛は可能な限り戦闘をせず、治療と補給に専念する』
 を厳命した。
 中央の部隊はレオナルド・テイナー(ka4157)が、右翼はラン・ヴィンダールヴ(ka0109)が、左翼はカイン・マッコール(ka5336)が指揮する。
(今度はオーガとサイクロプスか……相変わらず数が多い。出来る限りドワーフさん達に犠牲は出したくないな)
 カインは自分と共に出撃を待つドワーフ兵達の事を想った。
「ごめんねー? 万全な状態だったら皆にもう少し楽をさせて上げられたんだけど……きついと思うけど、力を貸してねー?」
 先の戦闘で大半のスキル消費しているランは申し訳なさそうにドワーフ兵達に頼んだ。
「ガハハッ。力貸してもらってるのはこっちじゃわい。お前さんはゴブリン共を何百匹も吹っ飛ばしてくれたんじゃから、今度は俺らが頑張る番じゃ!」
 するとドワーフ兵達は快活に笑って答えてくれた。
「さて、やはり予想通りに大型種を持ち出してきたか、空気まで歪虚臭くなってきたな……此処が正念場か」
 外壁上の指揮及び火力支援役のキャリコ・ビューイ(ka5044)は双眼鏡で戦況を眺めた後、試作型重機関銃「恵方撒」の銃架を伸ばして設置。
「ならば、奴らに教育してやろう」
 弾倉に『プロエッティ・フラーメ』を嵌み込むと、壁上から眼下のドワーフ兵を見下ろし声を張り上げる。
「お客さんだ! パーティーが始まるぞ! 敵は強靭なオーガだが恐れるな! 俺達と共に戦い、共に部族・都市と兄弟肉親の為に死ね! 決して犬死はさせん!」
『オォーー!!』
 ドワーフ兵達が斧を振り翳して雄叫びを上げる。
「生きて生きて生きて、憎き歪虚を殺しましょ?」
『オォーー!!』
 レオナルドも鼓舞すると再び雄叫びが上がる。士気は上々だ。
「開門!」
 門が開かれ、ドワーフ兵団が走りだす。
 そして両軍の距離が狭まると、サイクロプスの後ろにいたオーガ群が前に出てきた。

 サイクロプスの周囲からオーガがいなくなったのを機に、抜け道に潜んでいたアルマと保は全力で走り出す。
 すると遮蔽のほとんどない場所なため、ある程度近づいた所で甲冑歪虚に気づかれた。
『どうやら町から出たネズミがいるらしいな』
 甲冑歪虚は狙撃銃を構えて発砲。
 飛来した弾丸をアルマは聖盾「コギト」で受けた。
 衝撃で腕は痺れたがダメージはない。
 続く第二射も聖盾で受ける。
『狙撃では埒が明かんか』
 甲冑歪虚はサイクロプスの背中の籠から降りると剣を抜き、2人に迫ってきた。
 ここで甲冑歪虚に足止めされては作戦に支障が出る。
「奴は僕が抑えます! アルマさんは先へ」
 保は符を抜くと、本来は対複数の足止め用にと考えていた『地縛符』を発動。甲冑歪虚の足元を泥状の変えて移動を阻害する。
『む……』
 動けなくなった甲冑歪虚は狙撃銃を構え直し、保を撃った。
 辛くも盾で受けたが貫通し、弾丸が体に喰い込む。
 だが保は傷も甲冑歪虚も無視して走った。
「今は貴方に構ってる暇はないんです」
 その頃、サイクロプスはオーガ群の真後ろ近くまで進んでいた。
 そしてアルマは最左翼のサイクロプスから真東に54m地点に辿り着いていた。
『今です』
 ふと背後で夕凪 沙良(ka5139)の声がした気がした。
「……はて?」
 アルマは不思議に思いながらも『アイシクルコフィン』を発動。
 すると氷の柱が猛烈な勢いで乱立した。
 対象がサイクロプスなためか普段よりも高く伸びた上に数が多く、視界が氷柱で埋まる程だ。
 猛烈な数の氷の刃に襲われたサイクロプスは巨盾で受けた。
 だが大木製の盾はアッサリ折れた。
 更に脚も引き裂かれ、腿を貫き、腹や胸に刺さる。
 サイクロプスは下半身をズタズタになり、吹き出した鮮血が氷柱と地面を赤く塗らしてゆく。
「……ぷぇっ」
 予想外の威力が出てちょっとびっくりしたアルマは変な声が出た。
 氷の刃が消失すると、立っていられなくなったサイクロプスが倒れ、大きな地響きを立てる。
 倒した。
 そう思ったが、サイクロプスは腕で体を支えて身を起こしてきた。
『あれだけの火力に耐えられる存在がいるなんて……』
 ふと耳元で狭霧 雷(ka5296)の声が聞こえた気がしたが、今は構っていられない。
「デカイだけあってタフですねぇ~。でもこれでトドメですー」
 アルマは『紺碧の流星』を発動。青い光がサイクロプスの胸を貫いた。
 サイクロプスの体がグラリと傾く。
 だが踏ん張った。
「まさか!」
 予想外の生命力にアルマが目を見張る。
 サイクロプスは瀕死の体とボロボロの脚でも迫ってきた。
 しかしそこに符が飛び、保の発動した『風雷陣』で3体全てのサイクロプスの頭上に雷撃が降り注ぐ。
 上半身が黒焦げになったサイクロプスの足が止まる。
「効いたか……?」
 保が新たな符を抜いて油断なく構える前でサイクロプスは再び倒れ、今度は起き上がる事なく塵に返っていった。
「さて……お久しぶりですね。貴方が指揮官さん? 頭はどこです?」
 アルマは『地縛符』で足止めされている甲冑歪虚に向き直って笑顔を浮かべたが、その目は全く笑っておらず、愛するドワーフを殺した相手への殺気が漲っていた。
 甲冑歪虚は問答無用で狙撃銃を発砲。
 アルマは聖盾で受けると『暁の呼び声』で反撃。保も『五色光符陣』を発動。
 甲冑歪虚は泥濘の中、炎と光のマテリアルで焼かれ、その身を塵と化したのだった。
「呆気なかったですねー。まぁ例によってまだ死んでないんでしょうけどー」
 アルマは武器を魔導拳銃「エア・スティーラー」に持ち替えと町に向かっているオーガ群に狙いを定めた。
(奇襲を終えたらさっさと退くつもりでしたが、アルマさんはやる気満々ですね。いつも安全策に走りがちなので、僕も偶には前のめりに行ってみましょうか)
 保もアルマに倣って武器をカービン「ベンタロンVE3」に持ち替え、オーガに向けて発泡した。
 すると最後列のオーガ7体が向きを変え、2人に殺到してくる。
「あ……何体か釣れちゃいましたねー」
「囲まれるとヤバイですよ……」
 保の銃は近接射撃ができないため、囲まれて身動きできなくなると反撃できなくなるのだ。
 そのため2人は常に動きながら銃を撃ち放った。
 しかしオーガの方が数が多いため、2人も何度となく攻撃を喰らう。
 しかも両手持ち武器を使っている2人は盾で防ぐ事はできず、防御の薄い所に喰らうと手痛いダメージを受ける。
 それでも保は手持ちのポーションで回復しつつ奮戦を続けた。
 そして何とか7体のオーガを倒し終えたが、その時には2人共ボロボロになっていた。
「アルマさん、これ以上は無理です。撤退しましょう」
「あはは、スキルが使えなくなると途端に非力になりますねぇ……」
 2人は抜け道まで戻ると町へ撤退したのだった。


 一方、ドワーフ軍とオーガ群の戦闘はレオナルドの『ファイヤーボール』から始まった。 
「あららまた突っ込んできたの? ……はッ、懲りないですねぇ」
 嘲るレオナルドの放った火球が衝角の上で弾け、周囲のオーガを巻き込んで燃え上がる。 
 だがオーガは焼かれながらも歩みは止めず、衝角ごと突っ込んでくる。
「突破なんてさせるか!」
 キャリコが重機関銃を衝角に向けて放ち、壁上のドワーフ兵も銃を撃つ。
 束ねられた7銃身が勢いよく回転し、炎の精霊の力を付与された魔法の弾丸が次々と吐き出され、オーガを撃ち貫いてゆく。
 その猛烈な火線に体をズタズタにされたオーガはその場で塵となって消滅し、持ち手のいなくなった衝角が地面にゴロリと転がる。
 そこに2本目の衝角が突入してきたが、やはりレオナルドの『ファイヤーボール』と壁上からの火線に阻まれた。
「ドワーフちゃんたち、後はお願いね。スキル使えないと魔術師ってほんと足手まとい?」
 『ファイヤーボール』の切れたレオナルドはドワーフ兵団の最後尾につき、魔導拳銃で援護射撃を始める。
「お前たちを殺して此処を護る、お前たちを殺せば何も変わらない」
 カインは騎馬でドワーフ兵より前に出ると『ソウルトーチ』を発動し、敵の意識を自分に向けさせると敵陣に突っ込んだ。
 まずは『チャージング』で先頭のオーガを吹っ飛ばして更に進む。
 左右からオーガが剣を振り下ろしてきたが、左は体を傾けて避け、右は剣で受ける。
 そうして強引に敵陣のド真ん中に突入すると妖剣「アンサラー」を大きく振りかぶり『薙ぎ払い』を発動。
「オォーー!」
 渾身の力で振るわれた剣の刃が右端のオーガの側頭を斬り裂き、隣のオーガの首も飛ばし、盾で防いだオーガも盾ごと腕を斬り飛ばす。
 薙ぎ払われた刃の先々で血飛沫と苦鳴が上がる。
 だが倒せたのは急所の首に当たった1体のみ。残りは瀕死だがまだ生きている。
「弓兵隊カインを援護しろ。ファイヤ!」
 しかしキャリコが壁上のドワーフ弓兵に瀕死のオーガを狙い撃たせ、その隙にカインはまだ無傷の敵群に『チャージ』で突入して再び『薙ぎ払い』を放つ。
 オーガ群に再び鮮血が舞った。
 それでカインの攻撃系スキルは尽きたが敵右翼には大ダメージを負わせ、その分ドワーフ兵が持ちこたえやすくなる。
 カインはドワーフ兵が耐えている間にオーガを潰し、確実に数を減らしていったのだった。
 右翼のランは馬上の高さと龍槍「ヴィロー・ユ」の射程の長さを活かし、ドワーフ兵の隊列の3列目からオーガを攻撃しながら戦況を見ていた。
 ドワーフ兵は作戦通り戦列を維持しつつ3対1で戦ってくれている。
 そのため確実にダメージを与えてはいるが、オーガはゴブリンより遥かに膂力が強くて戦い方も上手く、ドワーフ兵にもすぐ負傷兵が出る上、その傷も深い。
 ランは負傷兵が出るとすぐにその場に駆けつけ、オーガに槍の一撃を見舞って足止めする。
「今のうちに退がってー。中衛の人は前へー」
 その隙に負傷兵のいる前衛の兵と中衛の兵を交代させて戦闘を継続させた。
「その人生きてる?」
 ランが敵群後衛から飛んでくる矢を旋回させた槍で防ぎながら負傷兵の手当てしている兵に聞いた。
「はい。傷は深いですが何とか」
「じゃあこれ使ってよ。絶対に死なせないでねー」
 ランはリペアキット「キズナオール君」を投げ渡すと、新たに負傷したドワーフ兵の支援に向かった。
 だが戦闘が長引くに連れて負傷兵が出る頻度は増え、ランの支援も間に合わなくなってくる。
「スキルをバンバン使えればもっと楽に戦えるのに、万全な状態って、大事だねー……?」
 愚痴りつつもランは槍を振るい、ポーションやリペアキットを配り、ドワーフ戦列の後ろを走り回った。
 やがてポーションもリペアキットも尽き、ドワーフ兵の戦列も後衛が最前列に来る状況になる。
「4列目作りましょう!」
「ワシはまだ戦えるぞ!」
「俺もだ!」
 傷を負ってない前衛と中衛の兵が申し出てくる。
「うん、頼むよ。あと少しで門だよ。がんばろー!」
 そうして急造の戦列で戦線を支え続けたドワーフ兵団は門前まで後退を果たした。
「負傷者を先に中に入れろ! 弓兵、銃兵、ありったけ撃ち込め! 1匹も中に入れるな!」
 キャリコは兵に撤退支援を指示しながら自身も敵最前列に重機関銃で銃弾をバラ撒いてゆく。
「急げー!」
「走れー!」
 後衛のドワーフ兵が門の中に駆け込んでゆく。
 もちろんオーガがドワーフ兵の撤退を黙って見ているわけがなく、壁上からの矢や銃弾を無視して強引に攻め入ってこようとした。
「甘いわよ」
 レオナルドが『【夢】』を発動。青白い雲に包まれたオーガの前衛が眠りに落ちて倒れ、その後ろにいた中衛のオーガも倒れたオーガに足を取られて立ち止まる。
「人様の家に押し入ろうとするんじゃねーよ!」
 レオナルドは止まったオーガの顔面に向けて魔導拳銃を放った。
 敵陣は中央が足を止めたため左翼と右翼が前に出て、コの字型になる。
 その瞬間、ランは一気に前に出て敵陣中央部に深く踏み入った。
 ドワーフ兵は撤退中で遥か後ろにおり、周囲には敵しかいない。
 ランがここまでスキルを使わずにいたのは、こういう状況を待っていたからだ。
  腕を背中一杯まで引いて龍槍を振りかぶり、『ラウンドスウィング』で全周囲を薙ぎ払う。
「いっけぇーー!」
 横一閃に刃が駆け抜け、剣閃上のオーガの首、頭、腕など、全ての物が切断され、ランの周囲で一斉に血飛沫が上がった。
 地面には累々とオーガの死体が横たわってゆき、やがて塵となって霧散してゆく。
「いやー……。イマイチだねー」
 しかし霊闘士の奥義『現界せしもの』と併用した『ラウンドスウィング』より攻撃範囲が劣るためか、ランの表情は不満気だ。
 それでも、その威力を目の当たりにしたオーガ達は及び腰になっている。
 この機を逃さずカインは敵陣に突入し、オーガ達が立ち直る前に更なる打撃を与えた。
 その間にドワーフ兵は全員町へ撤退し、門を固く閉ざした。
 それを見たオーガ達は勝機が失われたと悟り、一目散に逃走を始める。
「勝ったぞー!」
 壁上のドワーフ兵の1人が叫ぶ。
『ウオォーー!!』
 その声に続いて歓声が巻き起こる。
 こうしてフールディンの町は歪虚軍の2度目の襲撃にも耐え切った。
 参戦したドワーフ兵の多くは傷ついていたが、3人一組の3列交代制が功を奏して命を落とした者はおらず、大勝と言えた。


 戦闘後、ランはヴィオルに抜け道の破壊に行ってよいか尋ねた。
「敵にバレて、使われた場合が厄介だと思うんだよねー……? 常に抜け道の監視に人数を割くのも厳しいだろうしねー?」
「うむ、最もだ。鉱夫を何人か連れて行ってくれ」
 許諾を得たランは鉱夫と兵士を何人か連れて抜け道に行き、早速作業を始めたのだが。
「おーい、待ってくれー! ワシらを中に入れてくれー!」
 作業の途中で外から抜け道に飛び込んで来る者がいた。
 それは行方不明だった前族長のヴィブ・フルディンと、デルの町の自警団長の葛葉次郎だった。

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MVP一覧

  • 皇帝を口説いた男
    ラン・ヴィンダールヴka0109

重体一覧

参加者一覧

  • 皇帝を口説いた男
    ラン・ヴィンダールヴ(ka0109
    人間(紅)|20才|男性|霊闘士
  • 狭間へ誘う灯火
    レオナルド・テイナー(ka4157
    人間(紅)|35才|男性|魔術師
  • フリーデリーケの旦那様
    アルマ・A・エインズワース(ka4901
    エルフ|26才|男性|機導師
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士
  • イコニアの夫
    カイン・A・A・カーナボン(ka5336
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • ユグディラの準王者の従者
    保・はじめ(ka5800
    鬼|23才|男性|符術師

サポート一覧

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/01/08 00:02:54
アイコン 質問卓
保・はじめ(ka5800
鬼|23才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2017/01/11 10:35:49
アイコン 相談卓
保・はじめ(ka5800
鬼|23才|男性|符術師(カードマスター)
最終発言
2017/01/12 16:37:24