肉じゃがについて考える会

マスター:桃谷かな

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/02/10 12:00
完成日
2017/02/22 06:26

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 ある冬の日、辺境のとある村にハンターたちがやって来た。
 村の裏山に雑魔が棲みついてしまったため、村人たちが討伐依頼を出したのだ。

 雑魔はそれほど困難な敵ではなかったようで、無事に村へと戻ったハンターたちは、村人たちの計らいで祝宴に招かれることに。村で好まれる鹿肉のステーキや蒸しイモだけでなく、流行に敏感な若者たちが出稼ぎ先で購入して来た珍しい食材・調味料を使った料理など、この村では近年稀にみる豪勢な宴会であった。

 ハンターたちは大喜びで料理にかぶりつき、酒や果汁ジュースを楽しみ、大いにその場を楽しんでいる――ように見えた。

 宴もたけなわという頃、盛り上がっていたハンターたちの輪に異変が起きた。
 まだ10代前半だろうか、リアルブルーでいうところの“学生服”を着たひとりの少女が、テーブルの上の料理を見ながら泣き出してしまったのだ。
 一体どうしたのか、何か不手際でもあったのかと駆け寄る村人たちに、彼女はただ首を振るばかり。
 
「お母さんに会いたい」

 肩を抱いて慰める仲間たちに、彼女は泣きながら胸の内を明かした。
 いくらリアルブルーからの転移者が多いといっても、彼女が何の前触れもなく家族と生き別れてしまったことに変わりはない。掛けるべき言葉も見つからず、村人たちの中には涙を浮かべている者もいた。

 ひとしきり泣き、周囲に「ごめんなさい」と頭を下げた彼女。そして悲しそうに一言、こう呟いた。

「……肉じゃが、食べたいなぁ」



 翌日、小さな村は大騒ぎになっていた。

「肉じゃがってなんだ!? 料理か!? 料理名なのか!?」
「そうなんじゃない? 食べたいって言うくらいだし」
「えええ聞いたことない」
 村の木造集会所。中央に置かれたテーブルを挟んで、一組の男女が騒いでいた。
「リアルブルーじゃ、ポピュラーな料理なのかしら?」
 長老の孫娘・アンユは、鮮やかな赤毛を揺らしながら男――クルトへと問う。
 クルトは、しばらく考えた後、
「さあ……聞いた話じゃ、あっちも地域によって全然文化が違うらしいからな。一地域の郷土料理とかかもしれないし」
 肩をすくめてお手上げのポーズをとった。

 そう、彼らは重大な任務を与えられている。
 作戦名はズバリ『泣いたあの娘に肉じゃがを食べさせ隊!』だ。

 あの宴会の後、転移者の少女は特に泣くこともなく、笑顔で村を後にした。
 しかし、気が済まない村人たちは「彼女に“肉じゃが”とやらを食べさせてあげよう!」と、彼女を招待してのサプライズパーティーを企画したのである。

 だが、わからない。
 肉じゃがの正体が、全然わからない。

 そこで村のおっさんたちは「街に出たこともある若者なら何とかできるだろう」と安易な結論を出し、現在村に残っている数少ない若者であるクルトとアンユに、肉じゃが作成ミッションの全てを丸投げしたのだ。

 むろん、若いからって肉じゃがが作れるわけではない。
 クルトとアンユは、早くも行き詰まりを感じていた。

「肉じゃがってことは、肉とジャガイモでしょ?」
「本当にそれだけか?」
「わかんないけど」
「肉じゃが=肉とジャガイモ、とするのは早計ではなかろうか。じいさん語の「肉じゃが……」かもしれない」
「え、なにその解釈。マジで言ってんの」
 真剣な顔で料理名に意外性を含ませてくるクルトに、ちょっと引いた視線を送るアンユ。しかし、可能性はゼロじゃないから怖いのだ。
「仮に肉とジャガイモでもさ、それだけってことはないと思う。あんなに食べたがるぐらいだし、何かしら特別なものが入ってるんだよ多分」
「特別なものねぇ……」
 とりあえず、リアルブルーからの転移者が好むらしいと言われている食材や調味料は、村人たちが街へ出向いて買い集めてくれている。中々高価なものが多いため、少量ずつではあるが。
「ま、しょうがないわね。こうしてても、わかんないものはわかんないし」
 パン、とひとつ手を叩き、席を立つアンユ。意外にも明るい表情で、クルトを見遣る。
「さっさと助けを呼びましょ。経費で」


 そのしばらく後、ハンターズソサエティに珍妙な依頼が持ち込まれた。

『肉じゃがについて死ぬほど考えたい人、作ってみたい人募集!』

リプレイ本文

●考察
 案内された炊事場の台の上には、肉や野菜、卵、乳製品、調味料など、うず高く積まれた食料品の山。そこへ、時雨 凪枯(ka3786)とステラ・レッドキャップ(ka5434)が買い足した食材が少し加わり、実にグローバルな感じになっていた。
 なお、彼女らが持ち込んだ食材は比較的少量のため、村の経費で無理やり精算されてしまったようだ。
「つくづく、気のいい村人だねぇ」
「自腹でよかったんだがなー。ま、変に気を遣わせちまうよりはいいか」
 火のない煙管をくるくると回しながら見遣る時雨に、ステラは赤頭巾の下で苦笑を返した。そして、しばし熟考。
「にくじゃが……前にどこかで聞いたんだよな。和食なのは間違いない」
 だが、ステラが確信を持てるのはそこまでだ。ジャガイモを手に取り、「んー」と唸りながら肉コーナーへ移動する。
「名前からして、大きめのカットだな。家庭料理かもしれないってことは『焼き』じゃ時間がかかる。煮る料理のはずだ。肉は……牛じゃ味が濃そうだし、豚は脂こってりだしな。ってことは、鶏か?」
 疑問をクリアにしていった結果、ステラが行きついたのはジャガイモと鶏肉だった。もう一つ「汁物じゃないだろうし、味噌より醤油か?」と思いついたが、醤油は他のメンバーの余りを使うことにして、とりあえず自分の調理台へと食材を運び始める。
「じゃ、あたしも始めるかね。……嬢ちゃんがどこ出身か分かりゃ、肉も味付けも寄せられるんだけど」
 手際よく牛肉とジャガイモ、人参、玉葱、糸コンニャクなのかコンニャクを糸っぽく切ったのか不明なモノなどを運んでいく時雨。少女にとっての『正解』は不明なのだが、聞いて計画を壊すのも野暮だと考え、ごく一般的な肉じゃがを作ることにしたのである。
「ま、西日本風にゃ馴染みがあるだろうさ。あたしゃ自分が知ってるのを再現しようかね」
 食材を運び終わり、ステラが炊く予定の白米以外にも主食を用意するよう村の女たちに依頼すると、時雨はさっそく調理に取り掛かった――が、すぐに手を止めて後ろを振り返る。
 そこには、何やら自信にあふれた顔で食材の山に背を向けている加茂 忠国(ka4451)がいた。
「この依頼! あまりにも楽! あまりにも簡単! 何せ僕はバリバリのリアルブルー出身! おまけに日本男子です!」
 まじめに食材を選んでいる他メンバーたちや村人たちを前に、余裕の態度で腕組みしてみせる加茂。日本の10代男子で料理の心得があるとは中々偉い、などと思いながら聞いていた時雨だが、リステル=胤・エウゼン(ka3785)の質問によりガクッと肩を落とすことになる。
「心強いですね、加茂さん。私の場合は母から教えられたものですので、リアルブルーの正統な肉じゃがのことは……」
「……ハハッ! 詳しい肉じゃがの事なんて、健全なる男子高校生だった僕に分かるワケないじゃないですかァ!」
「「「えっ?」」」
 何言ってんだこいつ。みたいな目で二度見した一同を意に介するでもなく、パタパタと片手を振りながら手近な椅子に飛び乗る加茂。両手をメガホンのように口元に当てたかと思うと、いきなり謎の口上を始めたではないか。
「さぁさぁ皆さん寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 見るのは美少年の僕ですよお得ですよ? これよりお伝えするは、肉じゃがについてです! 女性の皆々様においては、特にじっくりねっとり聞いてってください!」
 なお、この時点で時雨はもう自分の作業に没頭し始めている。村の子供とおばさんは興味深そうに集まってきたが、少しだけ彼の話を聞いていたケイ・R・シュトルツェ(ka0242)はというと、早々にその輪から離脱することにした。
「全く……これじゃ聞いても無駄ね……」
 彼女には日本人の血も流れているようなのだが、いかんせん出身はドイツである。ゆえに、肉じゃががわからない。
 色々と考えを巡らせながら食材の方を見ると、そこには見知った顔があった。
「あら。ユキヤじゃない! また会えたわね……ふふっ、やっぱり運命なのかしら?」
「あれ? ケイさんもこの依頼に?」
 いかにも『知ってそう』な少年、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)である。
 肉じゃがを知らないケイは、微笑みとともに探るような視線をユキヤに向けた。
「えぇと……肉じゃがって聞いたことあるような……無いような……。ユキヤは知ってる?」
(知らない……。意外、ですね……)
 ケイは料理が得意だという印象を持っていただけに、ユキヤは少し驚く。同時に、笑みが浮かんだ。
「肉じゃが、勿論知ってますよ」
「そ、そう。……この季節に食べたくなるようなモノ、なのかしら。それだと暖かいモノよね……」
 ユキヤの表情を探り見ながら、疑問を口に出していくケイ。対するユキヤは、無言の構えである。
「それに『おかあさんの』ってコトは、家庭で異なる味なのかしら……」
「……」
「多分、肉とジャガイモは必須……。ねぇ、ユキヤ……にこにこしてないで、教えてくれても良いのよ?」
「そうですね……温かいモノですし確かに寒い時期に良いですけれど、年中美味しく食べられますよ」
「……っう、分かったわ。それじゃ。何とかしてみる……!」
「『ケイさんの肉じゃが』楽しみにしてます。色んな意味で」
 珍しく意地悪そうな笑みを浮かべているユキヤに、ちょっと焦りつつも新鮮な感覚を覚えるケイ。ともあれ、調理してみるしかないようだ。

「教えて差し上げなくて、良いのですか?」
 ケイを見送り、自分は自分で肉じゃがの材料を選び始めたユキヤに声をかけたのは、エルフの容姿をもつリステルだった。どうやら、一部始終を見ていたようだ。
「きっと大丈夫です。それに、色々な味が楽しめるのも良いでしょうから」
 咎める風でもない彼の言葉に、ユキヤはそう答えた。
「そうですね。……私が今作ろうとしているものも、日本国出身の母から教わったクリムゾンでウェスト風の『肉じゃがもどき』なのですが」
 わずかに笑みを浮かべて言うリステル。エルフと転移者の混血である彼は、母がこの世界の食材で作る和食が好きだった。もちろん肉じゃがもその一つで、彼にとっても所謂『おふくろの味』なのである。
「リアルブルーのものと同じではありませんが、家庭ごとに具材や味付けが異なるのも、『おふくろの味』の良いところではないかと思うのです」
「……そうかもしれませんね」
 材料をバスケットに入れ、調理台へと歩み出すユキヤ。にっこりと微笑んで、リステルを振り返る。
「『リステルさんの肉じゃがもどき』も、楽しみにしてますね」

●調理
 肉じゃがの概念はそれぞれ違えど、作り始めてしまえば後は個人の戦い。そして今、一番目立っているのは、料理などしていない加茂だった。
「肉じゃがとは、古来より女性が愛する人に向けて作る食べ物と言っても過言ではなく……そう、実際ほくほくとしたじゃがいも、そして味の染みた肉をずぞぞっと食べる事で愛を感じるワケですよ!」
「家庭料理ってことだし、あながち間違いじゃないんだろうけどな……」
 ジャガイモと鶏肉に少し余っていた醤油を入れ、若干味が足りないのかな……と思いつつ、加茂の話に耳を傾けているステラ。とりあえず煮込むことにして、ついでに野菜の残りと鶏肉の煮汁でスープを作り始めた。
「さぁ、この話一番の肝をお伝えしますよ? それはずばり、肉じゃがを介する事で『愛を確かめ合える』事です!」
 おお……! と村人たちから声が上がる。実に、純粋な反応だ。
「奥さんが作れば冷え込んだ夫婦仲が春の雪解けのように暖まり、奥手なお嬢さんが作ればお相手さんの心をたちまちノックアウト! これはもう作るしかない! 作るしかありませんよ女性の皆さん!」
 そう、あながち間違いではないのがポイントである。ちょっと話が盛り盛りになっているだけで。
「きちんと作れば手間も時間もかかる料理だからねぇ。愛情が伝わるのは嘘じゃないさ」
「そ、そうなのか?」
 そんなに手間がかからなかった感のあるステラ。時雨の言葉に「やはり何かが……」と自分の鍋の中身を見るも、ここからアレンジしすぎるのも危険である。
 一方の時雨は実に順調。薄切りの牛肉や一口大の人参とジャガイモなどの具材を炒め、昆布と干魚の出汁を加えて酒、醤油、蜂蜜で程よく調味すれば、あとはじっくり煮込むのみだ。
「途中で何度か火から下ろすと、しっかり味が染みるんだよねぇ」
 鍋に落し蓋をして、一息つく時雨。周りの調理台を見回せば、皆それぞれ個性的な肉じゃがを作成しているようだ。
「さて、まずはコンソメの完成ですね……と」
 鶏ガラと野菜くず、ローリエを使って本格的なコンソメを作り終えたのは、アレンジ和食を愛するリステルであった。彼がみじん切りのニンニクをオリーブ油で炒めた瞬間、食欲をそそる香りが漂い始める。
 そこへ豚肉や切った野菜を加えて炒め、水とトマトの水煮、コンソメを入れれば、まずひと段落だ。
「あら……あたしのアイントプフに、似ているかしら?」
 それを見ていた隣のケイが、どこか安心したような表情でそう呟いた。
 細かく言えば同じではないのだが、使っている食材を見る限り、二人の『肉じゃが』は少し似ているようだ。
「ケイさんもトマト風味ですか。偶然ですね」
「ええ……ドイツでよく食べていた料理なのだけど」
 クリムゾンウェストの食文化は、リアルブルーで言うヨーロッパ圏のそれに近いという。リステルの母が作ったアレンジ和食がドイツ料理に似ていても不思議ではないのだが、実際に並んで作ると面白いものがある。
「やっぱり肉はソーセージ……えぇと、こっちで言えば腸詰? あとはジャガイモ、人参、玉葱……これをトマトスープで煮込んで……」
 ちなみにケイが作っている『アイントプフ』は、ドイツの一般家庭でよく作られる『肉じゃが的な』料理である。フランスのポトフにも似ているが、牛や豚ではなくソーセージを使い、ベースの味付けもコンソメであったりトマトであったりと、家庭によって違いがある『おふくろの味』だ。
「味付けは少し控えめに。そうね、これくらいで……!」
 一息ついたケイが顔を上げると、向かいの調理台にはニコニコと意地悪な微笑みが。
「ユキヤ……順調そうね?」
「ええ。……とは言っても、正解は想像がつきません」
 ジャガイモに牛肉、玉葱、人参をやや薄味で煮込みながら、ユキヤは軽く首を横に振った。
「僕も、僕が食べていたモノを作っているだけですよ」
 ふふ、と楽しげな吐息混じりに言うユキヤ。物珍しげに見つめるケイの前で、彩りの絹さやを準備し始めた。

「肉じゃがを作ってもらえる男性諸君! 羨ましいですよこの野郎!」
 ちなみに皆が一段落ついた頃、加茂の口上もそろそろ佳境を迎えようとしていた。もっとも、既に大半の村人はパーティーの準備のために散ってしまっているのだが。
「おい、加茂ー。米炊くぞ。喋ってねぇで手伝ってくれ」
「そうだよ、米を研ぐくらいはできるんだろう?」
 持参した東方の米と少し細めの米、それぞれをザルにあけたステラと時雨が、椅子の上で手足をバタバタさせながら喋っている加茂に声をかけた。
 ……が、彼はチッチッチッ、と人差し指を振り、
「ハハッ! 食べるお誘いならいつでもお受けしますよ!」
 華麗に拒否の構えである。
「困った子だねぇ……」
「まあ楽しんでらっしゃるようですし……私がお手伝い致しますね」
 土鍋を片手に、リステルが手伝いを買って出る。
 加茂は、そんな彼の肩越しにニュルリと顔を出し、時雨の目を真っ直ぐに見つめてこう叫んだ。
「さあ、愛ある肉じゃがを食べた事のない僕にも肉じゃがをください! そして付き合ってください!」

「「………」」

 ――3分後、炊事場の片隅には、死ぬほど冷たい水に苦しみながら大量の米を研ぐ加茂の姿があった。

●パーティー
「で、……多分それは肉じゃがではないですね」
「……ぅう。外れてても美味しいと良いのだけれど……ねぇ、ユキヤも食べてみてくれない?」
 ついにジャッジを下され、若干しょぼくれた様子のケイに、ユキヤはクスクス笑いながら頷いた。
「……彩りから見て、人参を入れた方が良かったのか?」
 同じく、やや不安げに器を見つめるステラ。とはいえ、香りはしっかり和食のそれであった。皆の料理もあわせて、広場のテーブルの上にバランスよく並べていく。

 そして、ついに。
 件の少女が、パーティー会場へと案内されてきた。

「えっ、何!? ウソ……肉じゃが? どうして……?」
 様々な『肉じゃが』や土鍋ごはん、ステラの野菜スープ、ユキヤが肉じゃがをアレンジしたシチュー、村の女たちが焼いたパンなど、広場のテーブルいっぱいに並べられた料理を見た学生服の少女は、思わず絶句した。
「この料理は、あちらのハンターの皆さんが貴女のために作りました」
 クルトとアンユ、そして村人たちと本日のシェフたちを見回して、彼女の目にはもう、涙が浮かんでいる。
「村を救った貴女への、せめてもの恩返しなんです。どうぞ、食べてみてください」
「そんな……ホントに……?」
 声にならない声を絞り出し、泣き出す少女。村人たちにエスコートされて席につくと、服の袖で目元を拭いながら、ようやく嬉しそうに笑った。

「スゴイ……美味しい……!」
 大勢の村人たちとハンターたちとともにテーブルを囲み、ゆっくりと噛みしめるように料理を食べ進める少女。
 時雨の肉じゃがはお母さんの味に少し似てる。絹さやが載るユキヤの肉じゃがは祖母のそれを思い出す。ステラの鶏じゃがは給食で食べた献立みたい。リステルの料理は日本の洋食屋さんで食べたい味。ケイのドイツ料理はお母さんのポトフに似てて懐かしい。土鍋ごはんなんて初めて食べた、美味しい。
 料理を一口食べるたび、少女はリアルブルーの思い出をまじえて楽しげに語った。

「皆、上手く出来てるねぇ。嬢ちゃんが喜んでくれて何よりさ」
 皿に取った色々な肉じゃがを食べ比べながら、時雨はホッと息を吐いた。肉じゃがを初めて見た村人たちも、とても気に入ってくれたようだ。
「折角ですから、日本の歌でも奏でますか。母からいくつか教わっておりますので」
「ああ、いいな。明るい歌にしようぜ」

「ね、ユキヤ……心の籠った料理って、魔法みたい、ね」
 件の少女を見つめながら、ケイは傍らのユキヤに声をかける。
「魔法……そうですね。僕達も魔法使いになれたら嬉しいですね」
「きっと……なれるわ。だって、村の人や皆の気持ちが入っているんだもの」
 楽しそうなパーティー会場を前に、二人の表情は自然と綻んでいた。

 リステルが奏でるリュートの音色が、パーティー会場を優しく包み込んでいく。


 まだ寒い冬の日。
 異世界から来た少女は、温かくて懐かしい味と優しい人々に囲まれて、嬉しそうに笑っていた。

依頼結果

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MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 夢を魅せる歌姫
    ケイ・R・シュトルツェ(ka0242
    人間(蒼)|21才|女性|猟撃士
  • 遙けき蒼空に心乗せて
    ユキヤ・S・ディールス(ka0382
    人間(蒼)|16才|男性|聖導士
  • Fantastic
    リステル=胤・エウゼン(ka3785
    エルフ|21才|男性|聖導士
  • 白狐の癒し手
    時雨 凪枯(ka3786
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士
  • それでも尚、世界を愛す
    加茂 忠国(ka4451
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師
  • Rot Jaeger
    ステラ・レッドキャップ(ka5434
    人間(紅)|14才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/02/06 16:36:10
アイコン 打合せとか雑談とか
時雨 凪枯(ka3786
人間(リアルブルー)|24才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/02/10 03:37:51