名画に似た微笑み

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
7日
締切
2017/06/19 15:00
完成日
2017/06/25 21:08

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●これは現実
 突然の雨に降られ、青年は目の前にあった建物へと駆けこんだ。ドアに「OPEN」という札がかかっていたから、無断の侵入にはならない。ただ、そこがレストランや喫茶店ではなく画廊であった、ということは誤算だったが。
 油絵や水彩、版画もあり、画廊は小さいながら豊かな作品を揃えているようだった。まさか雨宿りのためだけに来た、というわけにもいかぬだろうし、青年は画廊をひと回り見物していくことにした。
 湖を描いた油絵や、風船が飛んでいく様子を描いた水彩など、どれも感心できる作品だった。青年は自分も絵を描くため、実に勉強になる、と感じていた。そうしつつも、絵ではなく、自分もまた見られている、ということも感じていた。画廊の中の客は多くはなかったが、その誰もが、ちらちらと青年を見ていた。
 青年自身にあまり自覚はないのだが、彼は実に美しい、整った顔立ちをしているのである。
 そうした視線には一切注意を払わず、ただただ絵を眺めていた青年は、ある一枚の油絵に目を奪われ、立ち尽くした。
 それは、ひとりの女性の肖像画だった。胸のあたりで緑色の宝石がはめ込まれた十字架を持っている。優しげに微笑むその人は、少女と呼ぶには成長しすぎていたが、母の雰囲気もない。だが、ただの娘と位置付けるのは躊躇われる、ただならぬ迫力が備わっていた。不思議な絵だった。絵のタイトルは「聖なる微笑み」。
 だが、青年がその絵をじっと見つめる理由は、その不思議さのせいだけではなかった。
(この人……、どこかで……)
 描かれている女性に、見覚えがある気がしたのだ。
(俺の記憶に引っかかっているということは、それは)
 青年が自分の記憶を引きずりだそうと考え込んだそのとき。
「だからぁ、昨日も言ったけどぉ、無理ですって。わかんない人だなー!」
「お願いです! 兄さんの無念を晴らしたいんです!」
 画廊が、にわかに騒がしくなった。画廊の主人らしき男性と、少年が向かい合っていた。
「無念、ってあなたねえ、お兄さんは事故だったんでしょ?」
「いいえ、あれは事故なんかじゃありません。兄が、自分のアトリエであんなふうに倒れるわけがないんです。絶対に、殺されたんです!」
「だから、何の証拠があって……」
「その証拠を探すために、あの絵が必要なんです! 犯人はきっと、あの絵に描かれた人なんですから!」
 少年が、あの絵、と言いながら指をさしたのは、青年が見つめていた絵「聖なる微笑み」だった。
 そしてその瞬間、青年は思い出した。
(そうだ、あれは、確か、三か月ほど前の夢だ)



●これは夢
 広々としたアトリエ。
 カンバスには、女性が微笑んでいる絵がかかっている。絵具は片づけられているから、きっと絵は完成しているのだろう。
 その絵を、満足そうに眺めている男がいた。優しそうな目元、若草色のチョッキ。チョッキには絵具の汚れがある。おそらく、彼がこの絵の作者だ。
 彼の後ろに、誰かが立った。胸に緑色の宝石のはまった十字架のペンダントをつけた女性だった。絵のモデルだろう、絵の中と同じ微笑みでそこにいた。
「~っと、完成し~~~」
「素晴らし~~~~~」
 ふたりは、話しはじめたようだが、途切れ途切れにしか聞こえてこない。夢の中ではままあることだった。
「しかし~~絵は完璧では~~~~~」
「~~~~~と?」
「それはこういうことだ!」
 突然、絵描きの男が女性の首を絞めた。
「!!!」
 女性は必死に抵抗し、なんとか男を突き飛ばした。……が、しかし。
「ぐはっ!」
 突き飛ばされた男は大きくよろめいて倒れ、丈夫なテーブルの端に頭と首をしたたかに打った。そしてそのまま、動かなくなった。
 蒼白になった女性は、しかしその後実に冷静な行動を取った。椅子を傍に倒しておき、まるでそこへ乗ったことで足を踏み外してしまったのだ、と言える状況を作り出したのだ。近くには画材を仕舞ってある大きな棚もあり、高い所のものを取ろうとしたのだ、と考えるのに何も不自然ではなかった。
 そうして、女性は足早にその場を去った。そのとき、緑色の宝石が床に落ちた。それはコロコロと転がって、棚の下へと入り込んだ。



●再び現実
 夢の詳細を思い出し、それを書きつけてあったノートを開いて、青年は画廊の主人と言い争っている少年に突然、言い放った。
「まさしく、お兄さんは殺されたのです。そして確かに、あの絵に描かれている人が犯人です」
 少年は、驚いて口をぽっかりと開いた。見知らぬ青年が突然そんなことを言いだしたのだ、当然の反応であった。
「信じられないとは思いますけど、俺は夢に見たんです。そして俺は、現実のことしか夢に見ない。あなたのお兄さんが殺されたところを、夢に見ました。俺の言うことを少しでも信じるのなら、わけを話してください。犯人探しに協力します」
 少年は少しの間迷っていたが、しばらくして、強く頷いた。藁をもつかみたい心境であったのだろう。
「信じます」
 少年が語ることによると、兄である絵描きは、三日前アトリエで倒れて死んでいるところを母親に発見されたそうだ。椅子から落ちて頭を打った事故死として片付けられたが、少年は信じられなかった。絵描きは極度の高所恐怖症で、少しの段差も上がることができなかったのだ。高い所のものを取るときには、必ず、弟である少年に頼んでいたという。
 最後に一緒にいたというモデルが一番怪しい、と、行方を探そうと思ったのだが、名前がわからない。絵に描かれた顔を頼りに探し出そうと思ったが、出来上がっている絵は、画廊との契約により引き取られていってしまったため、せめて借り受けられないかと頼んでいたところだったという。画廊の主人ともめていたのは、これだったのだ。
「名前が、わからない?」
「はい。名前さえわかれば、役所などで調べて貰えるのですが……、兄のアトリエには不思議なメモが残されていただけで」
「メモ? 見せて貰えますか?」
「ええ」
 少年が差し出したメモを見て、ふむ、と唸ると、青年は小さく頷いた。
「犯人はわりと早く見つかるかもしれません。しかし、もう少し人出が必要ですね」
「それなら、ハンターに依頼をかけましょう。もともと、絵を頼りに探す場合にも依頼をしようと思っていたんです」
 少年は力強く言った。顔に、希望が出てきたようだった。青年は、その顔を少し気の毒そうに見返して、重々しく口を開いた。これだけは、言っておかなければならない。
「ひとつ、言っておかねばなりません。確かに、あなたのお兄さんは殺されました。しかし、それよりも先に、あなたのお兄さんはモデルの女性を殺そうとしたのです」
 少年の両目が、大きく見開かれた。

リプレイ本文

●名前
 雨は、いつの間にかやんでいた。
 そういえば雨宿りの目的であの画廊に入ったのだった、と青年は思い、きっとそんなことも数時間後には忘れているのだろう、とも思った。青年は夢以外のことについての記憶力が著しく低い。
 今、一同は少年の、つまりはあの絵描きの家にいる。画廊には調査のためにまた訪れることがあると思う、と丁重にお願いをしてきた。
「……というのが今のところの状況です」
 世にも美しい顔立ちの青年は、事のあらましをハンターたちに説明した。本来は依頼主である少年からなされるべきだが、すっかりショックを受けて呆然としているため、青年が代わりを務めたのだ。
話を聞き終わって、ケイ(ka4032)がゆったりと微笑んだ。
「見た夢が現実になる、か。なんともまあ嫌な能力じゃない? 楽しい夢だけならいいのにね」
 口調が少しけだるげなのは、二日酔いの所為であるらしい。
「彼の夢の話は本当ですよ。僕は二度目ですから。……またお会いしましたね」
 浪風悠吏(ka1035)が青年の話を保証しつつ彼に挨拶をする。
「すまない、覚えていないんだ。でも、あなたが覚えていてくれたことに感謝します、ありがとう」
 青年は申し訳なさそうに眉を下げた。
「……夢で見たことが現実に起きるか。何か眉唾な話だな。まあ、取っ掛かりはそれしかないし、一応信用するけどな」
 悠吏の言葉を聞いてもなお、Anbar(ka4037)は半信半疑といったふうだ。だが個人の感情と任務を別物と捉え、すぐ調査の体勢に入った。
「その夢を信じるなら、そのモデルは身を守ったに過ぎないことになるな。なら、罪が軽くなるようにしてやりたいものだな」
「そうですね」
 レオナ(ka6158)も頷く。クオン・サガラ(ka0018)が早速調査プランを組み立てた。
「最初に現場の調査ですね。あとは……、絵師が残したメモにキナ臭い物を感じるのは……気のせいでしょうか」
「ふむふむ、十字架を携えた乙女とありますねー」
 小宮・千秋(ka6272)もメモを覗き込む。メモが怪しいと思っていたのは皆同じだったらしく、早々にメッセージを解読しようと考え始めた。悠吏も同様だったが、ふと、暗い顔で黙り込む少年のことが気になった。
「例え夢が本当でも自分で何が真実か見極めるべきじゃないかな?」
 そう話しかけると、少年はゆるゆると顔を上げ、悠吏を見た。そして、調査に取り掛かっているハンターたちを眺めた。皆、真剣だ。
「そう、ですよね。きちんと確かめないといけないですよね」
「おっ、やる気になったっすね」
 少年の様子を見て近寄ってきたのは、神楽(ka2032)だ。
「じゃあちょっと確認させて欲しいっす。お兄さんのご遺体は今どうなってるっすか?」
「遺体は、昨日埋葬しましたが……」
「そうすか……深淵の声を使おうと思ったんすけど、無理っすね。じゃあ、部屋を見せてほしいんすけど」
 神楽は悔しそうにしたが、すぐ次の調査方針を固めた。墓を暴くまではしたくない。
「はい、どうぞ。自室はアトリエに隣接しています」
「ではアトリエと同時に見せてもらうっす」
 そこへ、クオンが口を挟んだ。
「ところで、犯人の名前がわかりそうです」
「えっ、もうですか!?」
 少年は驚いて、ハンターたちが解読を進めていたメモを覗き込んだ。Anbarが代表して解読方法の説明をする。
「メモの十字架、という記述がヒントだ。メモの中で十字架を作っている、三段目と三列目を読むと……、モデルの名はアマレット・マクレガー」
「アマレット……、確かリアルブルーにそういう名前のお酒があります。気になりますね」
 悠吏がそう呟いて考えこんだ。レオナは、アマレットの文字列をなぞってから、一段上の列もなぞる。
「十字架の縦ラインは上よりも下の方が長いことが多いですから、この列ということもありうるのでは。そうすると、コークリア・マクレガーですね」
「なるほど……!」
 少年が感心してため息をつく。黙って様子を見ていた青年が、少年に尋ねた。
「この名前に、心当たりは?」
「少なくとも僕は、知らない名前です。役所で調べてもらう他ありませんね」
「では、ここからは調査を分担してはどうだろう」
 青年の提案に、皆同意した。犯人の名前に目星がついたとてこれで終わりではない。まだまだ調査すべき点が残されているのだ。
「現場へは、俺が行った方がいいと思っています。夢と比べておかないと」
 青年が言うのに皆が頷いて、クオンとAnbar、悠吏、レオナが現場へ同行することとなった。神楽、ケイ、千秋は一旦画廊へ向かい、絵の写真を撮らせて貰ったり聞き込みをする分担だ。こちらには、少年が同行する。
「じゃ、情報収集して役所に集合ってことでどう?」
 ケイがゆったりした口調でそう言って、一同はそれぞれの調査に乗り出したのだった。



●アトリエ調査
 アトリエは、絵描きと少年の自宅のすぐ裏手に別棟として建てられていた。少年から鍵を預かったクオンが扉を開き、油絵具の匂いで満ちているアトリエへと入る。
「どうですか? 夢と同じですか?」
 悠吏が青年に尋ねた。青年は、丁寧にアトリエを見まわしてから頷いた。
「間違いなく、ここです」
「モデルがつけていた十字架の宝石が転がって行ったというのは、あの棚か?」
 Anbarの問いかけに青年が頷き、Anbarとレオナが棚に近付いた。Anbarが棚の下を覗き込み、レオナは棚の中を探る。
「メモや日記、書物等に何か、今回の犯行をにおわすようなことが書いてあるかもしれません」
 クオンはその間に、アトリエに隣接している絵描きの自室を調べに行った。神楽が気にしていたことでもあるため、代わりに調査しておこうと思ったのである。
「……あのメモの縦一行目に、ハコアサルとあったのが気になっているのですが……、箱と呼べるようなものはありませんね」
 アトリエにも自室にも、それらしきものは見当たらなかった。自室はベッドとクローゼットがあるだけの簡素なものだ。クオンはアトリエに戻ると、次に、床や椅子を調べはじめた。犯行の痕跡を見つけるためだ。
「リアルブルーについて調べているノートがありますね。やはり、アマレットという名前は……」
 レオナが棚から出してきた書物やノートなどを広げて、悠吏が考え込んでいた。レオナはその脇で、青年に夢の内容をさらに詳しく尋ねている。
「計画的で思考の偏りも感じる犯行ですよね……」
「音声がよく聞こえなかったけど、計画的ではあったと思いますね。それは、モデルの方にも感じるけど」
 青年はモデルが非常に冷静に現場を整えて行ったことなどを思い出しながら話した。
「抵抗して突き飛ばしたから正当防衛……とは単純に言えないかもしれないのですね」
 モデルの女性についてはクオンにも個人的な考えがあった。考えすぎかとも思い、まだ口には出さないでいるが。
「あったぞ!」
 Anbarの声が響く。寝そべるようにして覗き込み、棚の下を探っていた手が、緑色に輝く宝石をつかんでいた。



●画廊および周辺での調査
 画廊班は、まず店主に許可を取り、神楽が問題の絵画を撮影した。撮影している間に、ケイが店主に質問をする。
「この絵を描いた画家を、最後に見たのはいつ? どんな様子だった?」
「最後に見たのは、この絵をウチに入れる、と契約を交わしたときです。二十日ほど前です。まだ制作途中でしたが、間違いなく名画になると踏んで契約しました。随分ごきげんでしたよ。念願の理想のモデルに出会えた、と」
「理想のモデルすか。この人のこと、何か知らないすか。アマレット・マクレガー、もしくはコークリア・マクレガーというらしいんすけど」
 撮影を終えた神楽が口を挟んだ。店主は、それについては首を横に振る。
「モデルの方については何も。そもそも、この画家が人物画を描くことはこれまでなかったので。売れてしまったものが多いですが、何枚かはまだありますよ」
 店主はそう言うと、店の奥から三枚のカンバスを持ってきた。
「ほむほむー。果物のカゴ、白い花束、小川と橋の風景……。どれも人は描かれていませんねー」
 千秋が三枚の絵を見分して呟いた。人はおろか、動物すらも描かれていない。
「余罪については心配なさそうね」
 ケイが店主に聞こえないように囁き、神楽が頷いた。一応、といった程度で、店主に尋ねる。
「これらの絵のモチーフは、その後どうなっているっすか?」
「どう、って。果物は食べただろうし、花束は飾っておいたのでは? ああ、でも、そういえばあの橋はこの前崩れて落ちてしまったって聞いたなあ。幸い怪我人は出なかったらしいけど」
 店主の言葉に、三人は思わず顔を見合わせた。



●十字架を携えた乙女
 それぞれの調査を終え、役所の前へと集合したハンターたちは、情報交換よりもまず先に、モデルの名前を調べてもらうことにした。住民名簿をめくり、役所の事務員が告げたのは。
「アマレット・マクレガーさん、いらっしゃいますね。ここから歩いて二十分ほどのお家にお住まいです」
 自分たちの推理が間違っていなかったことに安堵しながら、一行はマクレガー家を目指して歩き出した。その間に、調査内容を報告しあう。
「証拠品となる宝石があったなら、それを見せて自首を勧められるっすね」
 神楽が呟くと、それに同意したレオナや千秋が頷いた。
「崩れ落ちた、というその橋、はたして偶然か?」
 Anbarが怪しむと、クオンも首を横に振った。
「偶然とは思えませんね。もう証明する手立てはありませんが」
「……俺達霊闘士だと先祖霊や動物霊の力を借りて自らを強化する。それに肖って、モデルを殺すことで霊的に自らの絵画に魂を吹き込もうとしたのかもしれない。だが、一般人がそんな発想に辿り着くんだろうか?」
 Anbarのその呟きに言葉を返したのは、数多の夢をノートにスケッチし続けてきた青年だった。
「絵を描く者にとって、モチーフすらもすべて絵の中へ取り込んでしまいたいと思うことはそんなに珍しくない思考だと思います。俺は画家ではないけど、その気持ちはわからなくない。ただ、それを実行するかしないかは大きな違いです。ことに殺人となると」
「……絵描きを唆した奴がいるのかもな?」
 ありうることだ、と青年は頷いた。
 マクレガー家は、ごく小さな屋敷だった。小屋と言う方が近いような、本当に小さな。
「どちらさまでしょう……」
 突然家を訪ねてきた大勢の見知らぬ人物に怯えるような表情で出てきたのは。
「アマレット・マクレガーさんですね」
 写真に撮った絵と見比べるまでもなく、あの絵のモデルだった。
「そうですが……、あなた方は?」
「僕たちはハンターです」
 悠吏が代表して名乗り、アトリエで見つけた緑色の宝石を出して見せた。
「これに、見覚えはありませんか」
 モデル……、アマレットはハッと息を飲み、目を見開いた。しばらく凍りついたように体を固くしていたが、ほどなく、大きなため息をついて観念したように頷いた。
「私のものです」
 そしてハンターらを家の中へ招き入れると、手のひらに十字架を乗せて見せた。真ん中に、ちょうど石が嵌るような窪みのある、十字架を。悠吏が無言で頷いて、緑色の宝石をそこへ入れると。ぴたりと嵌った。
「あなたが、兄さんを殺したんですね!」
 そう叫び、アマレットにとびかかろうとした少年を、慌てて神楽が取り押さえた。
「事情が事情っすから情状酌量の余地はあるハズっす!」
 レオナが前へ進み出て、アマレットに優しく問いかける。
「話を聞かせてもらえますか」
 うなだれたアマレットが話してくれたことの大半は、青年の夢の通り、そしてハンターたちの推理通りだった。絵描きは、モデルの存在すらも絵に取り込もうとしており、そのために彼女を殺そうとした。そして、抵抗した彼女が反対に絵描きを殺してしまった。
「そこまでなら、正当防衛です。ですが、現場を偽装したのはなぜです? これは想像でしかないのですが……、あなたも誰かに依頼されて絵描きを殺しに行ったのでは?」
「いいえ! 殺そうとは思っていませんでした! ただ……、きっとあの絵描きはお前を殺すぞ、と教えられてはいました」
 クオンの質問に、アマレットがそう答えた。当たらずとも遠からずだったということか、とクオンはいささか驚く。
「絵のモデルになることが決まった直後、その人は突然私の家に現れて、この十字架をくれました。お守りです、と。絵が完成したら、絵描きはきっとお前を殺すだろう、けれど、この十字架を持っていれば守ってもらえる、と。反対に殺すことになってしまったら、こういう偽装もできる、と事細かに。あまりにも詳しすぎて不審に思いましたけど、実際にそのとおりになったのです」
「その十字架をくれた人は、どんな人でしたか」
 青年が、顔を険しくしてアマレットに尋ねた。
「男の人でした。玉虫色、といえばいいのか、青のような緑のような、不思議な色の目をした人です」
 青年は、それを聞いて息を飲んだ。アマレットはその様子には気が付かなかったようで、すべてを話し終えて力が抜けたのか、床にぐったりと座り込んで泣き出した。
「ごめんなさい……、私、とんでもないことを」
「まだ間に合うわ、自首しましょう」
「そうそう、やり直せるわよ」
 レオナとケイが、両側から彼女を支えて慰めた。
「絵描きさんも、私なんかをモデルに選ばなければこんなことにはならなかったかもしれません。どうして私を……」
「それはきっと名前が理由です」
 アマレットの嘆きに、悠吏が静かにそう言った。
「聖母マリアの絵を教会から依頼された画家が、モデルの女性に贈られた酒。リアルブルーに伝わる、アマレットの起源です。あなたを描いた画家は、この話にあなたを重ねていたのではないでしょうか」
 アマレット、という名前が俎上に上がってからずっと、悠吏が考えていたことだった。真偽のほどは、もうわからないけれど。
「……知りませんでした……。では、これからはその名前に恥じない生き方をします」
 アマレットは、そう言って涙をぬぐった。その湿った手を、絵描きの弟である少年が、そっと握った。そこにはもう、怒りはなかった。



 アマレットの自首が上手くまとまりそうな、そんな雰囲気の中。青年は難しい顔をして黙り込んでいた。
「アマレットを唆した人物が、絵描きも唆したと思うか」
 Anbarが、隣に立って静かに問うと、青年は曖昧に頷いた。
「可能性は、高いと思います。そして俺は……、この先その男と関わらなければならないかもしれない」
 青年は、夢の内容を書きつけているノートを開いた。そこには以前、夢を頼りに助けた少女の証言が記されていた。不思議な色の目を持つ、男について。
 青年はそっと、瞼を閉じた。今夜はどんな夢が待っているだろうか。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 4
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラka0018
  • 願いに応える一閃
    Anbarka4037

重体一覧

参加者一覧

  • 課せられた罰の先に
    クオン・サガラ(ka0018
    人間(蒼)|25才|男性|機導師
  • タケノコの心得
    浪風悠吏(ka1035
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人
  • 大悪党
    神楽(ka2032
    人間(蒼)|15才|男性|霊闘士
  • 憤怒王FRIENDS
    ケイ(ka4032
    エルフ|22才|女性|猟撃士
  • 願いに応える一閃
    Anbar(ka4037
    人間(紅)|19才|男性|霊闘士
  • 冒険者
    セシル・ディフィール(ka4073
    人間(紅)|21才|女性|魔術師
  • 遊演の銀指
    レオナ(ka6158
    エルフ|20才|女性|符術師
  • 一肌脱ぐわんこ
    小宮・千秋(ka6272
    ドワーフ|6才|男性|格闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 俺達は探偵?だ。
Anbar(ka4037
人間(クリムゾンウェスト)|19才|男性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2017/06/18 21:54:21
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/06/18 15:35:58