闇鍋奉行、ワルサー総帥

マスター:御影堂

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~10人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/11/01 15:00
完成日
2014/11/08 19:41

みんなの思い出

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オープニング


 王国内、ルサスール領は北方に位置するためか涼しさが一足早く迫ってくる。
 ルサスール領主の娘、サチコ・ワ・ルサスールの家出先にも寒さが訪れていた。
 風邪を引かぬよう、焚き木をくべながら従者タロはサチコに目をやった。
 ロッキングチェアに腰掛け、毛布に包まりながらサチコは読書に勤しんでいた。
「サチコ様、一体何を読んでおられるのです?」
「……つん」
 タロの呼びかけに反応を示したものの、サチコは答えない。
 もう一人の従者ジロが、タロにハンドサインを送る。
 意味を汲みとったタロは、ため息を付いてもう一度問いかけた。
「ワルサー総帥。一体何を読んでいるんだ?」
「フッフッフ、聞いて驚け! リアルブルーの風習の本ですわ」
 ドヤ顔で本を掲げたサチコは、だぜ、と語尾を慌てて修正する。
 ワルサー総帥と呼ぶことと、敬語をやめてほしいということ。
 これが、今、サチコが従者に命じている約束だった。
「ほう、勉強熱心だな」
 ジロが感心したように、表題を盗み見る。
 そこには、こう書かれていた。

 寒い季節の料理

「……ワルサー総帥」
「……なん、だぜ?」
「リクエストあるなら、作るが」
 そう告げた瞬間、サチコの表情が明るくなる。
 非常にわかりやすいし、単純だよなとタロ&ジロは改めて思った。
 二人の思いをよそに、サチコは懸命にページをめくる。
 やがて、手が止まるとロッキングチェアから飛び降りてジロに見せに来た。
「これ! これが食べたいだぜ!」
 16歳には思えないほど、ワクワクした表情で料理を指し示す。
 そこに書かれた料理名は、こうだ。

 「闇鍋」

「闇……鍋?」
 リアルブルーの料理は聞き慣れないものが多いが、これまた難解なものだった。
 本を預かり内容をじっくりと読む。
 まずは、鍋について基本的なことを確認する。
「多くの人間で一つの鍋に煮込まれた具材を食べる料理、ですか」
 貴族には絶対にできない真似だなぁと思いを馳せる。
 ルサスール家の人間であれば、まだできるかとも思った。
 サチコに関しては、性があってると思ってしまう。
「ふむふむ、色々なスープがあるようですね。オーソドックスにブイヨンを使いましょう」
 買い物、もとい、ルサスールの屋敷から貰ってくるものリストに書き込む。
 具材についても色々と書いてあるが、闇鍋は特殊だと書かれていた。
「えーと、なになに……大勢で持ち寄った具材で作る。暗闇で、食べる?」
 リアルブルーの風習とは、時にわけがわからない。
 毒が入っていたら、大変じゃないかと顔をしかめる。
「面白そうですわよね! 魔術みたいですわ!」
 興奮して、素の喋りになっているサチコに「できません」とはとても言えない。
「あー……わ、かりました」
 ついつい、ジロはそんな返事をしてしまうのだった。


「やるといってしまったならば、果たさねばなるまい」
 カフェは、ジロをぎろりと睨むとそう告げた。
 平伏するジロは、申し訳ないと改めて口にする。
「皆が同じ鍋をつつくわけだから、毒味はそこまで心配いらないだろう」
 玉砕覚悟ならあるいは……。
 だが、幸いなことに、今のルサスール家周辺にそこまでする相手はいなかった。
 用心するに越したことはないが、過度な心配は不要だろう。
「それに、丁度、都合がいい」
 以外なカフェの言葉に、ジロは顔を上げる。
 カフェの手元には、別の書類が用意されていた。
「某大公から、私兵を出してくれとの伝令だ。我がルサスールからも出兵させる」
「あー……サチコ様が聞いたら付いて行きそうですね」
「さすがに戰場に愛娘を送り出すような真似はしたくない。目眩ましに闇鍋はよいだろう」
 そこで、言葉をきる。
 私兵を出すという状況がどういうことか、ルサスールにはわかっていた。
「ハンターに依頼を出し、闇鍋の相手をさせよう。彼らなら、上手くやってくれるだろう」
「信頼を考えると、安全性を考えてくれるでしょうしね」
 頷くカフェに礼を述べ、ジロは部屋を後にするのだった。
 カフェの視線は再び書類に落とされていた。

リプレイ本文


 ルサスール領内、某所。
 人里からやや離れた場所に、コテージのような建物があった。
 表看板には、「ワルワル団アジト」と頭の悪い文字が掲げられている。
 今宵、アジトの一室は真っ暗闇に沈んでいた。
 リアルブルーに伝わるという伝統の料理、闇鍋を行うためだ。
 視界が真っ暗の中、中央にだけ仄かな灯りが2つ見える。
 鍋を煮炊きするための、火だ。しかし、僅かな明るさしかなく中身をうつすことはない。
 大釜の如き2つの鍋は、漆黒をグツグツと鳴らす。
 
 遡ること、少し前。
 集まったハンターたちにワルサー総帥サチコは、
「わるわるさー! わた俺様が、ワルサー総帥なのです、だぜ」
 明らかに慣れていない口調で、しかし、尊大に挨拶を交わしていた。
「よくきたのです、だぜ」と無理して悪ぶった笑顔を見せる。
「サチコさん……やない。ワルサー総帥、よろ……しくお願いします」
 留内陽平(ka0291)は戸惑いつつも、サチコへ挨拶を返す。
 強気というより、尊大に悪らしく振る舞おうとしているような感じを受けた。
「あ、これは最後の方にいれてください」と陽平は持参した食材をジロに手渡す。
 鍋はシメまで楽しむのがマナーや、とサチコに伝えるのだった。

 天竜寺 舞(ka0377)は、ワルサー総帥の迫力のなさに、唸っていた。
 この鍋が終わったら、演技指導でもしようかなとしげしげと眺める。
「それにしても、闇鍋かー。日本でいろんな鍋を食べたけど、私もやったことないんだよね」
「ボクも名前は知ってるけど、やった人を見たことない料理なんだよ」
 怖くもわくわくする弓月 幸子(ka1749)である。
 サチコに近づくと、すっと手を出す。
「サチコちゃん。ボクも幸子っていうんだよ、よろしくだよ」
「ここでは、ワルサー総帥なのだぜ。でも、よろしくですわ、だぜ」
 闇鍋という戦いの前に友情は育まれる。

「闇鍋ってどんなお料理なのかな? ファリス、ちょっと楽しみなの」
 ファリス(ka2853)たち、鍋を知らない面子はあれやこれやと想像を巡らす。
「この前、別の依頼でリアルブルー由来の料理を作って食べたんだよね」
 というのは、アルフィ(ka3254)だ。
 材料の関係でクリムゾンウェスト流のアレンジが大きくなってしまったけれど、すごく美味しかった。
 だからこそ、今回のヤミナベも楽しみだと嬉しそうに告げる。
「どんな料理かわからないけれど……。食材は持ってきたわ」
 鍋で煮込むという情報しか、セリス・アルマーズ(ka1079)は知らない。
 とりあえず、部屋にあったものとタイミングよく貰ったもので見繕ってみた。
 我ながら、碌なものが残っていなかったけれど、食べれられるから大丈夫よね。
 セリスは胸の中でそう思いながら、食材を手渡すのだった。

「暗い中、鍋をつついて出るのは美味か珍味かのぅ。びっくり箱みたいで楽しい料理じゃな!」
「そう、ですね。わたしも道中、良い食材に巡り合えました」
「それは本当に楽しみじゃな」
 ひたすら楽しげなのは、ヴィルマ・ネーベル(ka2549)だ。
 ヴィルマとは対照的に、メトロノーム・ソングライト(ka1267)は静かに手渡される食材を眺めていた。
 闇鍋について調べるうちに、純粋に楽しんでもいられないのではと思い始めていたのである。

 はてさて、そんなメトロノームの不安を煽るようにジロの表情が変わった。
「野草よりは、十分美味ですよ?」
 そう言って、最上 風(ka0891)が袋を渡したときだ。
 ジロは、大丈夫と聞いてますと苦笑いしながら、受け取っていた。
「見掛け倒し、味は大丈夫」
 ちらりと袋の中に嫌にカラフルなものが見えた、気がした。
 気のせいだと振り払おうとして、ジロが「あぁ、これが……」と明らかに当惑した声を上げた。
 袋の中を不安げにしげしげと見られると、こちらが心配になってくる。
 袋を手渡したメンター・ハート(ka1966)自身が、
「それ、食べれる?」と確認をとっていた。
「食べれると、シェフが言ってました」
「珍味だぞ」
 先ほどまで確認しておきながら、メンターは自信ありげである。
 
 メトロノームはそっと持ってきたエルフ秘伝の胃薬を握りしめ、
(これを使わざるをえない事態だけは、なりませんように)
 と心のなかで祈りを捧げるのだった。


 そして、目の前には2つの鍋が火にかけられていた。
「料理酒はどれくらい入れれば良いのでしょうね? 面倒なので全部入れてしまいますか」
 と風が旅人から譲ってもらったという料理酒を手に告げる。
 からくも、幸子やメトロノームによって全投入は阻止されたという事件があった。
 それ以外は、のんびりと鍋の出来上がりを待つ。
 完成の合図と同時、暗闇の中で箸やフォークを用いて、具を取っていく。
 恐る恐る慎重に探るもの、大胆にパッととってしまうもの、様々だ。

 先陣を切ったのは、闇鍋を楽しみにしていたヴィルマだった。
 口の中に入れたのは、少しスパイスが効いた肉だ。
「干し肉かのぅ」
「……それファリスのなの」
 闇の中から、ファリスが答える。
「硬い干し肉もスープで煮込んだら美味しく柔らかくなると思ったの」
 どう、と問いかけられヴィルマは改めて干し肉を口の中で転がす。
「うむ、ほどよいのじゃ」
「よかったの」と安心しつつ、今度はファリスが食べる。
 スープがよく染みた、何となく食べた覚えがある野菜だ。
 記憶をたどりながら、
「冬瓜なの?」と声に出す。
「それはボクのだね。味が染みて、鍋に合うかなって」
 アルフィの声がした。
「……美味しいの」
 素直な感想を述べて、ファリスは微笑む。
 アルフィには見えなかったが、言葉には安心した。
 アルフィが取ったのはどこかトロンとした具材だった。
 口にすれば慣れた味。
「あ、これチーズだ」
 自分が持ってきた具材だと思った時、
「ファリスのかな?」
「あれ? 俺のもう入れたのかな」
 ファリスと陽平の声がした。
 考えることは一緒だったらしい。
「チーズがたくさん入ったスープは美味しかったの」
「わかるよ。温めたら美味しいよね」
 どうやら先鋒は、上手くいったらしい。

「俺のは……何だ。この」
 陽平は戸惑っていた。
 やけに塩味の効いた芋っぽい何か。だが、この薄さには覚えがあった。
 ふやけているが、間違いなく。
「……ポテチ」
 美味しいかといわれれば微妙だし、不味くもなく中途半端なこの感じ。
「……何でやろ、この、リアクション取りにくい残念感……」
「ごめんね。部屋にあったから」とあっけからんとセリスが言ってのける。
 自身はやけにシャキシャキしたものを食べていた。
 草っぽいという言葉に、メトロノームが水菜だと告げる。
 静かに水菜についてのアレコレを語りながら、自分のものを口に運ぶ。
 貝のような魚介系の食感と味。そして、
「吸盤……ですか」と声に出す。
「タコです」「タコよ」「タコじゃ」
 風、セリス、ヴィルマの三名が表明。
 だが、ヴィルマ以外は釣ったり貰ったりしたものを持ってきたという。
「意外と美味しいですね」
 素直な感想だった。
 煮込めばいいのかというセリスの発言は聞こえないことにした。

 メンターはモグモグと何かわからぬが味のしみた物を食べていた。
「普通に食べられるものだな」
 冬瓜とはやや違う繊維質と味わいだ。
「わしの大根じゃろう」とヴィルマが表明。あっさり解決。
「贅沢は敵です、とりあえずお腹が膨れれば満足ですよ」
 と述べていたのは風だ。
 しかし、「役得ですね」と風は闇の中でつぶやいた。
 もっちりとした食感と肉の風味。少し薬味が効いた感じもある。
 エビの風味までするのだから、美味しいに決まっていた。
「あたしの水餃子だね。いいな~」
 舞が羨ましそうにいう。
 その近くではズルズルと麺を啜る音。
「うん、セーフだね。味が染みてて美味しいんだよ……けど、始まってそうそうシメみたいなんだよ」
 啜っていたのは幸子だった。アルフィが持ってきたという太麺だ。
「これでボクはターンエンド。次の人どうぞだよ」
 美味しいものばかり、みんな当たっていた。
 
 だからこそ、油断というのは生じるものだ。
「あっつー!?」と具材を取ろうとして舞が叫ぶ。
 どうやら闇で見えないから、指が汁に浸かったらしい。
「大丈夫、具材もとれたし」と心配する気配に笑ってみせる。
 パクっと口にした次の瞬間、「スッパ!」と声を上げた。
「ちょっと、誰よ、こんな……」と言いかけて止まる。
 急な酸味に驚いたけれど、よくよく考えをめぐらしてスッと座り直す。
「あたしだった」と笑い声を上げて、ごまかす。
「何を……入れたんだ?」と伺う陽平に笑い混じりに答える。
「梅干し」
「……別の食べ方をしたほうが、もっと美味しくなると思うの」
 そっとファリスが意見を述べるのだった。

 だが、これは序曲にすぎない。
「……#$&!?!?」
 声にならない悲鳴が、ワルサー総帥の席から聞こえてきたのだ。
 カタンっと小鉢を置く音と、水を口にするおとが続く。
「どうしたんだよ、サチコちゃん!?」
 慌てて幸子が駆け寄り、小鉢の中を探る。
 何か、カサっとした触感のものが入っていた。
 恐る恐る、幸子も口にしてみる。
「……微妙な味わいなのだよ。でも、それ以前にこの食感、無理なんだよ~」
 我慢しながら水で流し込む。
 一気に場の緊張感が高まった。
 何を食べたのかという議論が巻き起こる中、
「蜂の子よね?」と告げたのはセリスだ。
 だが、それは幸子の証言で覆される。
「蜂の子は知っているけど、もっと大きいのだよ」
 というか、蜂の子入れているのかと場がやはり騒然となる。
 ただ一人、メンターだけが泰然としていた。
「セミだぞ」
「せせせ、セミなのですか!?」
 素の口調で驚きの声を上げたのは、サチコだった。
「珍味だぞ。入れる許しが出たということは、食べられるのだな」
 そう、メンターはしれっと言ってのける。
 一応、リアルブルーでも食べるところはあるという。
 クリムゾンウェストでもあるのだろう。ルサスール家の料理人は、ゴーサインを出したという。
 戦々恐々とした空気が張り詰める中、風がふとサチコに告げる。
「総帥さん、知っていますか? 一度手を付けた具は、確実に食さないと呪われるらしいですよ?」
「え」と涙声で返事があった。
「噂では、闇鍋は全て食さないと、鍋の中から悪魔が現れ、逆に皆食べられてしまうすそうですよ?」
「そうなのですか」と自身の知識を思い返しつつ、メトロノームも声を上げる。
「闇鍋の闇とは、闇に住まう、邪悪な存在を呼び出す為の儀式だそうですよ?」

 セミ、蝉、みーんみーん……。
 かの鳴き声が鍋のグツグツという音に紛れて、聞こえてくるような気がした。

「故に、入れたのだぞ」
 メンターも乗っかり、サチコの声がいよいよ一線を越えようとしたところで、ネタばらし。
 もとい、幸子らによるツッコミが入るのであった。


 続いて第二陣、リベンジと舞が我先に具材を手に入れる。
 勢いのまま、がぶりといけば独特の風味。
「これ美味しい~」と記憶にない味ながら、楽しみ咀嚼する。
 そのことを話すと、
「トカゲだな」
 再びメンターが告げるのだった。トカゲ、蜥蜴……。
 知らなければよかったと思いつつ、トカゲ食べれるんだと思う舞であった。
 
 キワモノばかり入れたメンターはチーズにまみれた麺を啜っていた。
 アルフィは水菜を、メトロノームがえのきと無難な具材が消えていく。
 そんな中、最初に疑問の声を上げたのはファリスだった。
「……味がしないの。食感も不思議、食べないといけないのかな」
 これについては、ヴィルマが回答する。
「こんにゃくじゃな。お腹の掃除をしてくれるのじゃぞ?」
 効能について説き、よく味わえば風味もあると言われファリスは感心した。
 フォークでしっかりと突き刺して、もう一度食べる。
「……言われてみれば美味しいの」
 のほほんとする一幕の中、
「うわぁ」と大仰そうに陽平の声が闇に響く。
「小さいから大丈夫やと思ったのに、セミっぽいの食べてもーた」
 セミにざわつく闇の中で、一人、セリスが「あ」と言った。
「あ?」
「それ、きっと、私の持ってきた蜂の子よ」
 さっき言っていたような、と思い出す。
 蜂の子、リアルブルー出身者には聞き覚えがあろう食材である。
 クリムゾンウェストでも、存在しているようだ。シェフは(以下略)
「確かに味はええねん。味は」
 見た目も見えないじゃないとセリスは、さらっと言ってのける。
 自分はといえば、舞自製のつみれを頬張っていた。
「まぁ、これぞ闇鍋って感じだし、ほらもっと食べよーや」
「何でわた、俺様の小鉢にいれるのだぜ!?」
 冬瓜を美味しく頂いていたサチコの小鉢に蜂の子が入る。
 しれっとメンターがトカゲ肉を混ぜていたりもする。
「え、え」と混乱するまま、チーズ塗れの蜂の子を食すのであった。

「馴染みある味とはいえ、鍋には微妙だよ~」
 幸子が梅干しに当たり、唸る。
 時を同じくして、自分の小鉢の中身をヴィルマは注視していた。
 原因は取るときに、火の光で色が見えてしまったからだ。
 幸子が気付き、尋ねる。
「どうしたの?」
「いや、あまりに極彩色でな。食べ物を残すなど、もったいないことはしとうないのじゃが」
 食べていいものかどうか迷っているらしかった。
「それなら、風の持ってきたキノコですね。味は保証します」
 ふやけた黒パンを美味しく頬張る、風。
 ままよと食べれば意外に、美味。
(検分しておるはずじゃし、大丈夫じゃろ)
 と思うよりなかったのである。

 ※闇鍋の食材は安全に配慮しています。


「闇鍋よ~お前の底は どこにある~ 食えば食うほど 遠ざかる底~」
 ギターを掻き鳴らし、陽平は闇の中で歌う。
 具材もほどよく無くなり、虫系具材にも慣れが出ていた。
 盛り上げるべく、陽平が歌う。
 合わせてメトロノームもハミングしていた。

 そろそろ締めのご飯を入れてもらおうとした、その時、
「っ!」
 短く声を上げ、風が手にした何かをサチコの口へ。
「ひぎぃ」
 サチコは口にした何かに、短く悲鳴を上げる。
 隠れていた食材もそろそろ姿を表わすのだろう、その反応は新鮮であった。
 が、さすがに何事かと灯りが付けられる。
「それ私の唐辛子だよ~」
 豆腐が何であるかをヴィルマに説明していた幸子が告げる。
 赤い唐辛子が、サチコの小鉢に落ちていた。
「食材の毒で、カラダが勝手に」
 言い訳チックに風がいう。
 いわれたところでサチコは、口の中を洗うのに必死だった。
 メンターが悪乗りして、
「ワルサー総帥なら、食べられるはずだぞ」
 煽るものだからサチコは再び唐辛子を手に取り一気に食べ、やはり悶絶していた。
「大丈夫なの?」とファリスは水を渡し、
「とんだ災難だね」
 アルフィはサチコの背中をそっと撫でるのだった。

 セリスや舞は遠巻きに、残っていたウサギ肉やら猪肉をさらう。
 大きな具材は消え、ご飯と卵が投入される。
 シメを食べ終えた頃には、みんな満腹感を得ているのだった。


「こ、こうか?」
「そうそう、その角度が大事だよ」
 食べ終わった後、舞はサチコに「歌舞伎の見得」をヒントに迫力の出し方を享受していた。
 サチコは素直に舞の言うとおり、ポーズを決める。
 挨拶も変えようかなというサチコに、メトロノームがそっと告げる。
「わるわるさーという挨拶は、こころ弾む響きでいいと思いますよ」
「似合っているな」
 メンターも合わせて、サチコをヨイショする。
 気を良くしたサチコは、ご唱和くださいとか言い始めるのだった。

「意外と食べれたよね」
「満足です」
 セリスと風は十分に満足を得た様子で、ほっこりしていた。
 タコは被ってしまった、とか、蜂の子もチーズと相性が良かったとか。
 適当な感想戦を展開していた。

 チーズといえば、こびりつくと落ちない食材第一位である。
「……落ちないよ」
「もう一度水を入れて、わかしてみたらいいんじゃないのかな?」
 後片付けをするファリスとアルフィはほんわかと鍋と向き合っていた。
 そういえば、灰汁取れなかったなと思い返したり。
「次はちゃんと明るいところで持ち寄った材料が喧嘩しないように気をつけた方が美味しく食べられると思うの」
 ファリスがふと漏らした意見に、大いに頷くアルフィなのだった。

 気がつけば、サチコの周囲には陽平やヴィルマも集まっていた。
「暗闇で同じ鍋を食べたもの同士親睦が深まる気がするのじゃ。もちろんワルサー総帥とものぅ!」
 和気あいあいとした雰囲気の中、ヴィルマはふと思い立つ。
「こういうのをなんていったらいいのかのぅ、鍋友達じゃろうか」
「そうそう、同じ鍋をつついた者同士、もうお友達だからね」
「友達……」
 ヴィルマと舞の言葉にサチコは、確かめるように呟く。
 力強く肯定したのは、幸子だった。
「友達だよ! 間違いないのだよ」
「じゃあ、一曲歌でも歌うか」
 陽平が再びギターを取り出し、曲を奏で出す。

 闇鍋よ~お前の底は どこにある~ 食えば食うほど 遠ざかる底~
 わるわるさー 悪の美学を 追求す ワルワル団に 栄光あれ~

 歌声に包まれながら、夜は更けていく。
 アジトを出れば、星空が鍋の具材のように溶け込んでいるのだった。

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参加者一覧

  • 陽光
    留内陽平(ka0291
    人間(蒼)|20才|男性|聖導士
  • 行政営業官
    天竜寺 舞(ka0377
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士

  • 最上 風(ka0891
    人間(蒼)|10才|女性|聖導士
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • デュエリスト
    弓月 幸子(ka1749
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師
  • 食に限界なし
    メンター・ハート(ka1966
    ドワーフ|28才|女性|聖導士
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師
  • 新航路開発寄与者
    ファリス(ka2853
    人間(紅)|13才|女性|魔術師
  • 星々をつなぐ光
    アルフィ(ka3254
    エルフ|12才|女性|聖導士

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アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/10/27 22:39:03
アイコン 相談卓
最上 風(ka0891
人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/10/31 22:50:28