大きな少女と先遣隊

マスター:春野紅葉

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
6~12人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2017/09/24 12:00
完成日
2017/10/10 00:16

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●古びた炭鉱に逃れた者達
「……アイツラ、ケッキョクコナイナ……」
「ニゲオクレチマッタンダロ……」
 騎士風の甲冑を身にまとい、二匹のゴブリンが語り合っている。
 彼らの後ろは柵のようなものと門らしきものが木材でくみ上げられていて、彼らは人の文明で言うところの衛兵のような趣があった。
「ニンゲンカラスレバ、オレタチナンテ、テキダロウ。シカタナイ」
 ため息を吐く一匹の視線の先には森が広がり、それより奥に岩肌を露出させた鉱山がそびえている。
 人々が炭鉱町として切り拓いたその跡地、そこで彼らはひっそりと暮らしていた。
「オレタチハミンナ、オクビョウモノニスギナイ。イキテレイタクテ、ニゲクラシテルンダ。タショウノフベンハコラエロ」
「ワカッテルヨ……ウン? オイ、アレハナンダ?」
 一匹が森の向こう、炭鉱の方へそのごつごつとした指を向け、もう一方が続くようにそちらを見る。
「アレハ……ナンダ?」
 復唱するようにもう一方が首を傾げ――その顔をひきつらせた。
「オイ、マサカ……ココヲニンゲンガステタノハ……」
 人であれば、恐怖や絶望に染められたというべき、不安定な声色でそいつは声を出す。
「グングンチカヅイテクルゾ!!」
 ――バサバサバサッ。
 羽ばたきを置き去りにして、そいつはゴブリンたちの上空を駆けていく。柵を無視して堂々と超え、町の中へと入っていく。爬虫類を思わせる肉体に、前足の代わりにある巨大な翼。
 しばし呆然としたゴブリンたちは大慌てで柵の中へと走っていく。
「テ、テキダァァ!! ニゲロォォ!!」
 悲鳴にも似た叫びが炭鉱跡地に響き、なんだなんだと廃墟の中から彼らと同じようなゴブリンが姿を現わす。
 そして、ソイツは彼らが戸惑う中、悠々と廃墟の一角に降り立った。
 がっしりとした巨体に触れられ、足場にされた廃墟がボロボロと崩れ落ちる。
「ガァァアアァァァ!!!!」
 天を衝くような、ワイバーン――天空の王者、その亜種の雄叫びが、廃墟に轟いた。

●何もない日、戦争前日
 ユリアはその日もリンゴ園のある廃墟に訪れていた。ここ二ヶ月ほどで、めぼしい技術や種なんかは町へ持ち帰ることができている。
 町長から数百人の護衛兼荷物持ちの人達を預けられての仕事は、とてつもなく大変ではあるが、同時にやりがいを感じている。
「ふぅ……これでよし、っと」
 パンパンと手を払い、手袋に着いた土を払って、手拭いで額の汗を拭う。
「ユリアさん、ここにおられたのですね」
「はいっ、この田んぼは私がちょっと育てているところなんです」
 軍人が声をかけてきて、それに笑って答えた。
「どうせ打ち捨てられるかもしれない町の廃墟ですし、亜人が育てていたモノですけど、放置して枯らすのもと思うんです」
 一度は収穫され終え、新たな芽が芽吹くのを待つばかりの田んぼをじっと見つめていると、もう遥か昔の故郷のことを思い出す。
 あの頃は、畑仕事なんて嫌だとすぐ遊びに出かけて、食事をしに戻っては畑に無理やり連れていかれていた。もっと教えを乞えばよかったと思う。
「明日で今回の派遣も終わりですし……せっかくだから最後にもう一度見ておこうと思って」
 世間話をしながら、就寝場所にしている建物に向かうと、衛兵が焦った様子でこちらに走ってきていた。
「どうしたんだ」
「た、大変なんだ。ゴブリンが出た! 嬢ちゃんが言ってた鎧のやつらだ! しかもそいつら、ワイバーンが出たって言ってるんだ」
「……本当か?」
「ああ、詳しくはまだ生きてるやつに聞いてくれ。俺は町長に連絡してくる」
 そういうと、衛兵はそそくさと建物の中に消えていく。
「軍人さん、わいばーんって何なんですか?」
「前足が翼になった竜みたいなやつらで、手練れのハンターさんでなければ束になって戦っても苦戦する相手だって聞いたことがある」
「そう、なんですか……」
 そんなやつが、近くにいるのか。そう思うと身がすくみそうになる。
「大丈夫かい? とりあえず、我々も中に入ろう」
「は、はい……大丈夫です」
 軍人の言葉に従って、建物の中に入る。中では慌ただしく兵士たちが四方八方に動き回っており、数人がユリアたちとすれ違うように外へ去っていく。

「嬢ちゃん、町長から話があるらしい。詳しくは町長から聞いて欲しい」
 そう言って、衛兵はユリアを魔導電話の前まで連れ出す。受話器では電話番と思しき兵士が何やらメモを取っている。
「連れてまいりました」
 衛兵が後ろから敬礼をして告げると、電話番はユリアを見て頷き、受話器をこちらへと手渡す。
「も、もしもし、町長さんでしょうか」
『ユリアちゃん。すまないね。君にこんなことをお願いするのは申し訳ないんだけど、君はその派遣団の代表になってる。だから、君にお願いすることになるんだけど』
「はぁ……」
『君にワイバーンについて調査をお願いしたいんだ。もちろん、前線に出て戦えとは言わない。情報を集めるだけでいい』
「は、はい……頑張ってみます」
 ユリアは震えながら声を出した。電話の向こうの町長の声が、優しいものに変わる。
『無理だけはしないでおくれ』
「はい!」
『それじゃあ、元の者に変わってくれるかい?』
 返事をして、兵士に手渡すと、再び町長と話を始めた。

●先遣隊の情報集め
 その後、ユリアはゴブリンたちと顔を合わせていた。どのゴブリンも騎士風の甲冑を付けてはいるが、彼らはみな傷だらけで、ワイバーンの強大さを伝えている。
 ユリアはゴブリン達を従えるように座り、こちらを見る男が気になっていた。鍛え上げられた筋骨隆々とした肉体ではあるが、その男は明らかに人間だった。
「……あなたは?」
 交渉役の軍人が言う。
「この度、後ろの客人たちの代わりにそちらと交渉をさせていただく。なに、ただの鍛冶師だ」
「……彼らの甲冑や武具は」
「うむ。儂が打った逸品よ」
「――そうですか。あなたには聞きたい事がありますが、今は交渉を始めましょう」
「うむ。ではこちらから言わせてもらう。まず、我々が静かに暮らせる場所の提供だ。それが用意されれば敵対もせんと誓うそうだ」
「それは本当にワイバーンが居て、あなた方が無害であれば、ですね。そちらを信じる根拠は」
「それなら……これじゃ」
 鍛冶師は一つの風呂敷を広げる。そこには粉みじんになった刃の欠片と、微かに傷のついた黒く輝く宝石のような物があった。
「これは?」
「ワイバーンの鱗じゃ。そしてこっちはそれを斬った時に粉々に砕かれた剣じゃ」
「なるほど、一応は信じましょう。では次に――」
 その後、ユリアにはまだ難しい話を軍人が進めていく。

 ユリアはゴブリン達の前を後にして、軍人と一緒に歩いていた。
「なんとかして、ゴブリンさん達を助けられないでしょうか」
「恐らく、彼らは時期に亡くなります。それほど傷が深そうに見受けられました」

リプレイ本文


 緊急の招集に答える形で到着した6人のハンター達は、既に集まっている情報がまとめられたものを確認し終えていた。
「……謎のワイバーンか。最近は相棒としているハンターも増えたし、いろいろと複雑かもな」
 顎に手を当てながら、榊 兵庫(ka0010)は思案する。
「成程、相手はワイバーンか」
 相棒と同じ種族を敵として斬ると知って、やや複雑な気分になりながら、鞍馬 真(ka5819)鞍馬 真(ka5819)は呟く。しかし、仕事は仕事。私情で刃を鈍らせるようなことはしない。
「……人に仇なすものを討つのはエクラ教徒の務めなの」
 にこやかに、誠実に。そう考えてはいても、やはり同種が仲間になるワイバーンを討つのは切ない。ディーナ・フェルミ(ka5843)はどこか自分に言い聞かせるように声に出して唱えた。
「まず重要なのはそのワイバーンが龍として精霊に属する個体なのかどうかだ」
 アルト・ヴァレンティーニ(ka3109)は答えた。言いつつも、個人的にはまずソレはないだろうという目算はある。
「ああ、事情は分からないが……とにかくワイバーンに当たるしかあるまい」
「ユリアちゃん……これを預ってくれますか? 安全圏であろう場所で観察をしてください」
「は、はい……その、皆さん、頑張ってきてください! 無理だけはなさらず!」
 ロニ・カルディス(ka0551)と火艶 静 (ka5731)が続くように言うと、6人はすぐに準備を整え、急いで出発した。


 アルトは現場につくと同時、覚醒して下馬すると、炎のようなオーラを纏いながら残像さえ吹き飛ばし走り出す。
「――あれか」
 巨大な翼のような前足以外、ずんぐりとした塊のようなモノが、ボロボロのゴブリン数体を相手に明らかな優位を以って行動しているのが見えた。
 ゴブリン達は崩れ落ちそうな建造物を背に、半分以上怯えながら各々の獲物を手にしている。
 ふと、ゴブリンの一体が吶喊し、弾かれるようにして後退する。それに対して、飛竜が猛り、回転するようにして尾を薙いだ。ゴブリン達が痛みに叫ぶ。
 再度の一撃。翼状の腕がゴブリンの一体を捉えんとするその瞬間、アルトは飛竜とゴブリンの間に身体を割り込ませた。
「ぐっ――……硬いな!」
 思わず声が漏れる。尋常じゃない重みと、身体の痺れに少しよろけるも、飛竜の腕をはあり退ける。
 追いついてきた真がワイバーンの頭部めがけ、上段から血色の刃を持つバスタードソードで渾身の一撃を振り下ろす。キンという、まるで金属同士がぶつかったような音が鳴り、真の目が僅かに驚きに開かれた。
『ギャァァァオォォォォ』
 邪魔をするなといわんばかりに飛竜が雄叫びを上げる。その瞬間、兵庫は己が身体に炎のようなオーラを纏って飛竜の気を引く。
「鱗というか外皮がとんでもなく硬いみたいだ」
「攻撃自体はそれほどの威力じゃないな……それでもあの硬い鱗で突撃されるだけでも厄介だが」
 剣を握りなおした真の言葉にアルトはそう返しながら、後ろの様子を確かめ、すぐに飛竜の方を向いた。
「龍よ、どうしてそんなに暴れまわる?」
 人語を理解するのか確かめるため、そう問いかけた。その返答は、尻尾での薙ぎ払いだった。結界が発動するも、その攻撃は兵庫だけでなく、周囲を囲むようにしていた真、アルトを巻き込んだ。兵庫は片膝をつきながらも静に肩を貸される形で持ち直し、真はバックステップで避け、アルトも尾をはじき返す。
 そのまま、アルトは紅蓮の長髪を靡かせ、爆ぜるように突貫すると、紅の剛糸を飛竜へと絡ませる。痛みからか、低くうなる竜を横目に跳躍。今度は愛刀を抜き、まっすぐに飛竜に突撃する。
 駆け抜けるさなか、閃く刃が、竜の皮膚をゴリゴリと裂いていく。
『グゥゥォオオオ』
「今度はこちらの番だ」
 兵庫は目にもとまらぬ速さで疾走し、飛竜の翼に飛び乗り、それを足場に更に跳躍し、その死角へと踊り込み、愛槍、人間武骨を渾身の力をもって突き降ろす。
 しかし、結果は真のときと同じだった。キンッというまるで微動だにしない軽い音と共に、槍ははじき返される。
 威力偵察とはいえ、少なくとも近接攻撃では傷が余りつけられず、相手の攻撃は痛くはあってもそれほど脅威という程でもない。このままでは、戦闘は膠着する。それは、誰の脳裏にでも浮かぶ未来だった。


 ロニは鍛冶師から事前に受け取っていた小さな石が嵌めこまれた石板をゴブリンに掲げる。
その石板を見たゴブリン達は、それまでの動かぬ体ででも殺さんとするような構えを僅かに解いた。
「グゥ……ナニヲ……スルキダ……」
 石板を見て、臨戦態勢を取り敢えず解いたゴブリンにディーナが近づくと、警戒心を露わにする。それを無視して、ディーナは癒しの力をゴブリンへと注いでいく。
「……ワレラヲカイフクサセルノカ?」
「現状、俺達は味方だ。回復したらここを脱出して西に行け」
 複雑な気持ちゆえか、普段の口数とは程遠く、淡々と回復活動に専念するディーナに変わり、ロニはそう告げる。
「オレタチガイママデイタムラノホウカ?」
「ああそうだ」
「ワカッタ……トリアエズハカンシャスル」
 背後から聞こえる金属同士がぶつかり合うような激しい音を脳裏から振り払い、ロニは一体ずつ、順調に回復させていった。

 それから少しして振り返ると、思わず目を見開いた。ワイバーンはほぼ無傷だったのだ。
「回復能力があるのか?」
「いや、純粋に硬すぎて攻撃が通らないのだ」
 やや傷が深めに見える兵庫に近づいて問いかける。兵庫はそれに対して槍を構えながら答えた。
「有効打を与えられる方法があるはずなのですが……」
 静が体勢を立て直しながら剣を構える。彼女も、かなりの傷を負っている。不思議と、他のメンバーも大きく傷を負っていても、その体力は見た目ほど疲弊していないように見えた。
「ここからは俺達も加勢しよう」
 そう答えながら、ロニは仲間達へ光の防御壁をまとまわせていく。

「物理が駄目なら――」
 色々と情報を確かめるように立ち回っていた真が己の生体マテリアルを武器へと伝播させる。燐光を爆ぜながら、愛剣のカオスウィースが生命的な輝きに満ちていく。真は愛剣を無造作に構えながら、その引き金を引いた。
 光と闇、相反する二つの魔力が、剣身を包み、鮮やかな輝きを放っていく。
 そのまま駆けだすと、大きく一歩を踏みこみ、刺突を一閃する。
『グルルォ!!』
 瞬間、ほぼ初めて、アルト以外の攻撃でワイバーンが吠えた。
「どうやら、魔法攻撃の方が聞くみたいだな」
 それまでの鎧のような硬さはなく、薄皮を裂くような軽さに、思わず驚きつつ、突き立てた愛剣を引き抜いていく。
 引き抜き動作と共に、硬い鱗がぼろぼろと大地にこぼれ落ちていく。
『グギャアア』
 ぶるぶると震え、飛竜が翼をはためかせる。真はそれに対して、じっと視線を向けた。両者の視線が交わった瞬間、飛竜は動きを止め、やや不格好に着地する。
 飛竜はまっすぐに視線を合わせたまま、今度は真へと突撃していく。その突撃を軽やかに後ろに飛んで真はよけた。
『ギャオォウ……グルル……』
 土ぼこりを打ち上げ、真と視線を交わしたまま、飛竜が方向転換を試み、そのまま盛大にこける。その様は、それまでの強敵然とした様子とはあまりにかけ離れていた。
「どうやら弱点は魔法攻撃のようですね……」
 飛ばせまいと各々が用意した道具を用いて再びの飛行を阻まんと飛竜を抑えていく。
『ギャアアアァァオォォゥゥ』
 唸り声を上げると、飛竜は乗っかる道具を払いのけんと首を振りながら立ち上がり、巨体に見合わぬ俊敏さで後ろへと飛び去り、廃墟の一角へ張り付いた。
「まさか……避けろ!!」
 そう叫んだのは誰だっただろうか。飛竜は張り付いた体勢のまま、身体を震わせ、真っ直ぐこちらへと突進する。風を切る轟音と、ぱっくりと開かれた大きな口を見ながら、全員が各々の方法でそれを避けようとして、数人が衝撃波に薙ぎ払われた。
 服がやや避け、身体中に傷を負いながら、壁へと叩きつけられ、小さく息を吐く。
 真は身体を起こすと、周囲を見渡した。
「どこに行ったんだ?」
「上です……」
 静が空を見上げて言う。その視線を追うようにして空を見上げる。悠々と、ワイバーンが待っていた。
「壁に張り付いて突撃するだけであんな衝撃波だったのに、それが助走してくるなんて……とんでもないの」
 ディーナが傷を癒しながら言う。しかし、飛竜はこちらへと突っ込んでくることはなかった。そのまま幾度か旋回すると、鉱山の方へと消えていく。
「引いてくれたか……ボク達も一旦退却して情報を整理しよう」
 鋭く、飛竜が消えて行った方角を見据えながらも、アルトが静かに言う。
「えぇ、元々偵察でしたし、ユリアちゃんのことも心配です……」
 静が言って、立ち上がる。情報を整理しながら、ハンター達は退却を始めた。


 村へと帰還したハンター達は、情報の整理よりも先に、鍛冶師を呼びだしていた。
 帝国軍人に連れられてやってきた鍛冶師に対してディーナはまっすぐに視線を交わす。
「何故ゴブリンとの共存を望むかだと?」
「ゴブリンは私達よりも成長サイクルが早いの。あっという間に大集団なの」
「なるほど……そうだな……死する運命の者への憐憫、だろうか」
「どういうことなの?」
 やや厳しい目で、ディーナが言うのに対して、鍛冶師はその双眸に憐憫を覗かせいう。
「あの彼らにはもう、生殖機能が無いのだ」
「生殖機能が無い?」
「高位の歪虚だか何だか分からないが、彼らの生殖器官は男女ともに腐り落ちて存在しない。どうせ絶える命。ただ死ぬのも哀れだろう?」
「だから、武装をさせるっていうの?」
「どうせ死ぬ、絶える一族。そんなこと、人類側には関係ない。常々殺される運命だ。だったら、少しぐらい戦う術を与えてもいいだろう」
「……分かったが分かりたくはないな。それで、何でワイバーンと交戦したんだ?」
 変わって問いかけたロニに対しても、鍛冶師はまっすぐに答える。
「知らん。縄張りかなにかだったのだろうな」
 嘘は言っていない。何となく、全員がそう思った。その後もいくつか質問を投げかけて、お開きにした。

「そういえば。一つ、気になる話があります」
 鍛冶師を連れてきた軍人がハンター達の元へと帰って来てそう告げる。
「気になる話?」
「はい。あの町は元々、飛竜を神として崇めていたらしいのです。鉱脈の採掘と安全を願い、持ち上げられた神ならざる神。そんな村が数年前に突如として村人全員が引っ越してきたと」
「逃げるように、ですね……?」
 静が問うと、軍人が静かに頷く。
「となると考えられるのは、あのワイバーンがその崇め奉られていたモノの成れの果てか、あるいは……それを討ち果たして新たに腰を据えたモノか」
  後者ならともかく、前者ならこれほど悲しい話はないだろう。
「どちらにせよ、あのワイバーンはもはや精霊ではないことだけたしかだろうな」
 兵庫が言うのに他のメンバーも頷いた。相棒と同族を討つのではない。味方になるはずのものを討つのではない。そうとわかると、ほんの少し、気持ちが楽になる気がする。
「それでは、最後に情報を整理し直すべきだな……」
 ロニが言う。
「まず、純粋な物理での攻撃に対して。尋常じゃない硬さの鱗のせいで生半可な威力では傷を与えられない」
 アルトが言う。実際、彼女の攻撃以外では、飛竜に傷をつけることなど不可能に近かった。
「攻撃の威力自体は、それほどではありませんでしたね……最後の突進は巨体と鎧の頑丈が合わさって驚異的ではありましたが……」
「そうだな……尾での薙ぎ払い、腕を使っての叩きつけ、あとは突撃か」
 今回の戦いで常に盾役としていた静が言うと、それに同じように盾役を担った兵庫が相手の攻撃を分析する。
「反面、魔法攻撃は効くみたいだ」
「となると、魔法攻撃主体で攻めるか、あの鎧の上から無理やり殴りつける攻撃力が必要……ということなの?」
「あるいは、魔法威力を付与する系統の魔法やスキルを用いるのが一番だな」
 ディーナとロニが締めくくる。
 対応はできる。それはハンター達の気持ちを軽くした。ただ、準備を整える必要がある。それだけは確かだ。
「皆さん、お疲れ様です。とりあえず、いったんはお休みになった方が……」
 ひょっこりと顔を出したユリアが、言う。
「今日はこの村でとれたお野菜をふんだんに使った料理を提供したいと思いますので、よければ……」
「料理なの!」
 それまでやや険しいともいえる凛とした顔をしていたディーナが目を輝かせる。それを見て、一同は頷きあい、夕食へと動き出した。

「ユリア」
「んんっ! は、はい。お疲れ様です、アルトさん」
 各々が食事をとる中、アルトはユリアに声を掛けた。隣を開けたユリアに頷き、そこに腰を掛ける。
「これから、ゴブリンたちはどうするか決まってるのか?」
「さぁ……どうなんでしょう……軍人さん、分かります?」
 ユリアがアルトの反対側の隣にいる軍人へ問いかける。
「上がどうするのかは分かりませんね」
「そうか……これは個人的意見だけど、あいつらが約束を守れるのなら、あのまま鉱山の麓の町に住ませてもいいのでは? ワイバーンが出るから捨てられたというのなら、鉱脈は尽きてなさそうだし、それで取引をするのもいいかもしれない」
「それはいいかもしれません! どうなんでしょ、軍人さん!」
「うーん……一存ではなんとも……」
「あそこなら、もし悪さをしてもいつでも討伐できるし、監視もできるんじゃないか?」
「たしかに……そういわれると、そうかもしれませんね」
「上に聞いてみてください! 町長さんとかにも!」
 目を輝かせるユリアに軍人はどこかたじたじな様子を見せる。
「分かりました。聞いてみましょう……」
 押し切られる形で軍人がため息を吐く。これからさき、この軍人は苦労をしていくのだろうと、なんとなくアルトは思った。

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重体一覧

参加者一覧

  • 亜竜殺し
    榊 兵庫(ka0010
    人間(蒼)|26才|男性|闘狩人
  • 支援巧者
    ロニ・カルディス(ka0551
    ドワーフ|20才|男性|聖導士
  • 茨の王
    アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
    人間(紅)|21才|女性|疾影士
  • 森の主を討ち果たせし者
    火艶 静 (ka5731
    人間(紅)|35才|女性|舞刀士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 灯光に託す鎮魂歌
    ディーナ・フェルミ(ka5843
    人間(紅)|18才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/09/23 15:04:32
アイコン ワイバーンの調査:相談卓
アルト・ヴァレンティーニ(ka3109
人間(クリムゾンウェスト)|21才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2017/09/23 22:06:29