ゲスト
(ka0000)
大きな少女と遺跡探検
マスター:春野紅葉
- シナリオ形態
- シリーズ(続編)
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,300
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2017/07/17 19:00
- 完成日
- 2017/07/30 17:34
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●止められない疼き
「申し訳ございませんでした!」
ユリアは勢いよく頭を下げていた。今日もまた、羊を一頭、放牧の際に逃がしてしまった。ここ最近、ずっとそうだった。
「ユリアちゃん……どうかしたのかえ? ここ二月ほど、ずっとそうではないかね」
「はい……ごめんなさい」
どこか心配そうに老人がユリアを覗き見る。ユリアはただただ小さくなるばかりだった。
「なにか、心配なことでもあるのかい? 儂でよければ、話を聞くんじゃが」
「いえ……あの……実は」
その理由は、実は分かっていた。けれど、それはきっと駄目だなことだから。ユリアはずっと我慢していた――いや、我慢しているつもりでいた。
「私、行ってみたい所があるんです」
「行ってみたい所じゃって? それはどこなんじゃろう」
「はい、二ヵ月前に、行商団の皆さんに同行して、川向こうの村に行った時に、今は使ってない村の後があるって、言ってらしたんです。私、そこにどうしても行って見たくて」
この好奇心が、ずっと前に故郷を潰す結果に通じていたことを思い出して、ユリアは決してそれはならないことだと、抑え込んでいた。
「そこには何かあるんじゃろうか?」
「分かりません。でも向こうの村の人達が言うには、そこは林檎の木々がたくさんなっていて、それで生計を立てていたと」
「なるほどのう……それでその町が気にかかると。それで、仕事に身が入らんなんだと」
「本当にごめんなさい」
「……ユリアちゃんや、君は今年でいくつになったんじゃったかな?」
「……15歳です」
にこにこと笑って聞いてくる老人にユリアはしゅんとなりながら年齢を告げた。
「ほっほっほっ、ならおかしくはないじゃろ。ユリアちゃんの歳なら、そういうのもおかしくはないはずじゃし。行ってきてはいかがかな?」
「良いんでしょうか……」
「ユリアちゃんはまだ子供じゃよ。それに儂としてもこのまま何頭も逃げられてはかなわんしの」
カッカッと快活に笑いながら、しかしその言葉は真実で。ユリアは項垂れてしまう。
「……そうじゃの、きっと他のハンターさん達に声をかければ問題ないんじゃないかのう。町長も前回の行商団さん関連のことならユリアちゃんの要請を無下にはせんじゃろ」
楽しげに笑い、お茶目にウインクをする老人に、ユリアはぽかんとしていた。
「まぁ、取り敢えず明日にでも町長さんの所に行ってきなさい」
「は、はい! 失礼します!」
白髭を撫でながら笑う老人を背に、ユリアはその場を後にした。
その翌日、ユリアは町長屋敷にいた。
「なるほどねぇ、旧村落……そこに拠点を設けることが出来れば、ゆくゆくはこの町の発展にも通じるってことかしら?」
町長はリラックスした様子で、しかしどことなくこちらを圧するような気配を纏いながら、ユリアに対面していた。
「はっ、はい……」
「でも、それはユリアちゃんがいかないといけないのかしら? 最初の行商団以降ではないとはいえ、あの森にはゴブリンの群れがいたのでしょう? ということはもしかすると、その村の跡とやらにもいる可能性は高い。ハンターさん達に一任すればいいんじゃないかしら」
「そ、それは……」
全くの正論を告げられて、その上、どこか声を出せない雰囲気を感じて、ユリアは項垂れてしまう。
「どうしても、ユリアちゃんが行く理由はあるのかしら?」
「わ、私が行きたいからです」
絞り出すように声を出す。身体はいつの間にか、僅かに震えはじめていた。
「へえ……どうしてユリアちゃんは行きたいのかしら?」
「分かりません……でも、どうしても行きたいんです」
「どうしてもねぇ……何もなければともかく、何かあれば、あなたは死ぬかもしれないのよ?」
思い返せば、死にそうな目になら、何度もあっている。それでも、明確にそれを告げられたのは初めてな気がした。
「それでも行きたいのなら……行けばいいのではないかしら?」
ふっと空気が軽くなって、思わず顔を上げる。そこにいたのは何か思惑ありげな町長の顔だった。
「ありがとうございます!」
「ただし――何かしら持って帰ってくるのよ?」
「はい!」
優しげな町長の顔を見て、ユリアはそう答えていた。
●その頃
風化が進んだのか、或いは何者かに壊されたのか、ぼろぼろになった建物がそこかしこに点在する小さな村だったであろう何か。そこは亜人たちにとっては格好の棲家である。
天然林檎の群生地
「ヤハリ、キャツラハ……ヒトノテニ」
「ソウミタイダ。シカシ、ココマデハマダキテナイ」
「ヤツラガステタノダ、イツカハ、クルダロウ」
杯らしき物に並々と酒のような物を注いで語り合うは2体の亜人。2体とも三メートルを超す巨躯に何処からか奪ったのか騎士風の衣装をまとい、その仕草はどこか戦場の慣れさえ感じさせた。
「ココ、ケッコウキニイッテタ」
「ウム……」
別れを惜しむような語り草で、2体は哀愁さえ漂わせて話していた。
「マァ……シカタアルマイ。サイゴノジュンビヲシテ、ワレラモタトウ」
1体の言葉に、もう1体が頷く。夜は更けていく。
「申し訳ございませんでした!」
ユリアは勢いよく頭を下げていた。今日もまた、羊を一頭、放牧の際に逃がしてしまった。ここ最近、ずっとそうだった。
「ユリアちゃん……どうかしたのかえ? ここ二月ほど、ずっとそうではないかね」
「はい……ごめんなさい」
どこか心配そうに老人がユリアを覗き見る。ユリアはただただ小さくなるばかりだった。
「なにか、心配なことでもあるのかい? 儂でよければ、話を聞くんじゃが」
「いえ……あの……実は」
その理由は、実は分かっていた。けれど、それはきっと駄目だなことだから。ユリアはずっと我慢していた――いや、我慢しているつもりでいた。
「私、行ってみたい所があるんです」
「行ってみたい所じゃって? それはどこなんじゃろう」
「はい、二ヵ月前に、行商団の皆さんに同行して、川向こうの村に行った時に、今は使ってない村の後があるって、言ってらしたんです。私、そこにどうしても行って見たくて」
この好奇心が、ずっと前に故郷を潰す結果に通じていたことを思い出して、ユリアは決してそれはならないことだと、抑え込んでいた。
「そこには何かあるんじゃろうか?」
「分かりません。でも向こうの村の人達が言うには、そこは林檎の木々がたくさんなっていて、それで生計を立てていたと」
「なるほどのう……それでその町が気にかかると。それで、仕事に身が入らんなんだと」
「本当にごめんなさい」
「……ユリアちゃんや、君は今年でいくつになったんじゃったかな?」
「……15歳です」
にこにこと笑って聞いてくる老人にユリアはしゅんとなりながら年齢を告げた。
「ほっほっほっ、ならおかしくはないじゃろ。ユリアちゃんの歳なら、そういうのもおかしくはないはずじゃし。行ってきてはいかがかな?」
「良いんでしょうか……」
「ユリアちゃんはまだ子供じゃよ。それに儂としてもこのまま何頭も逃げられてはかなわんしの」
カッカッと快活に笑いながら、しかしその言葉は真実で。ユリアは項垂れてしまう。
「……そうじゃの、きっと他のハンターさん達に声をかければ問題ないんじゃないかのう。町長も前回の行商団さん関連のことならユリアちゃんの要請を無下にはせんじゃろ」
楽しげに笑い、お茶目にウインクをする老人に、ユリアはぽかんとしていた。
「まぁ、取り敢えず明日にでも町長さんの所に行ってきなさい」
「は、はい! 失礼します!」
白髭を撫でながら笑う老人を背に、ユリアはその場を後にした。
その翌日、ユリアは町長屋敷にいた。
「なるほどねぇ、旧村落……そこに拠点を設けることが出来れば、ゆくゆくはこの町の発展にも通じるってことかしら?」
町長はリラックスした様子で、しかしどことなくこちらを圧するような気配を纏いながら、ユリアに対面していた。
「はっ、はい……」
「でも、それはユリアちゃんがいかないといけないのかしら? 最初の行商団以降ではないとはいえ、あの森にはゴブリンの群れがいたのでしょう? ということはもしかすると、その村の跡とやらにもいる可能性は高い。ハンターさん達に一任すればいいんじゃないかしら」
「そ、それは……」
全くの正論を告げられて、その上、どこか声を出せない雰囲気を感じて、ユリアは項垂れてしまう。
「どうしても、ユリアちゃんが行く理由はあるのかしら?」
「わ、私が行きたいからです」
絞り出すように声を出す。身体はいつの間にか、僅かに震えはじめていた。
「へえ……どうしてユリアちゃんは行きたいのかしら?」
「分かりません……でも、どうしても行きたいんです」
「どうしてもねぇ……何もなければともかく、何かあれば、あなたは死ぬかもしれないのよ?」
思い返せば、死にそうな目になら、何度もあっている。それでも、明確にそれを告げられたのは初めてな気がした。
「それでも行きたいのなら……行けばいいのではないかしら?」
ふっと空気が軽くなって、思わず顔を上げる。そこにいたのは何か思惑ありげな町長の顔だった。
「ありがとうございます!」
「ただし――何かしら持って帰ってくるのよ?」
「はい!」
優しげな町長の顔を見て、ユリアはそう答えていた。
●その頃
風化が進んだのか、或いは何者かに壊されたのか、ぼろぼろになった建物がそこかしこに点在する小さな村だったであろう何か。そこは亜人たちにとっては格好の棲家である。
天然林檎の群生地
「ヤハリ、キャツラハ……ヒトノテニ」
「ソウミタイダ。シカシ、ココマデハマダキテナイ」
「ヤツラガステタノダ、イツカハ、クルダロウ」
杯らしき物に並々と酒のような物を注いで語り合うは2体の亜人。2体とも三メートルを超す巨躯に何処からか奪ったのか騎士風の衣装をまとい、その仕草はどこか戦場の慣れさえ感じさせた。
「ココ、ケッコウキニイッテタ」
「ウム……」
別れを惜しむような語り草で、2体は哀愁さえ漂わせて話していた。
「マァ……シカタアルマイ。サイゴノジュンビヲシテ、ワレラモタトウ」
1体の言葉に、もう1体が頷く。夜は更けていく。
リプレイ本文
●
早朝、ハンター達はお互いに挨拶を交わしていた。
「はじめまして、ユリアさん。マーオ・ラルカイムと申します」
優し気な緑色の瞳に、金色の髪をした痩身の青年、マーオ・ラルカイム(ka5475)はユリアに柔らかく微笑みかける。
「初めまして、よろしくお願いします」
ユリアは緊張気味にぺこりと頭を下げて青年に笑みを返す。
「やぁ、ユーリヤちゃんだよー。そろそろ覚えてくれた?」
少し会話をして、青年と離れたユリアを見つけて、ユーリヤ・ポルニツァ(ka5815)はいつものように笑顔を向けながらユリアの元へ現れる。
「お久し振りです。今日もよろしくお願いします」
華やぐような笑顔を向けられて、ユリアも同じように笑みを返す。
「ユリアちゃーん、今日は何を探しに行くの?」
楽しそうにディーナ・フェルミ(ka5843)が問う。
「行ってみないとわからないので、少しドキドキです。でも、何かあるとは思っていて」
好奇に揺れる瞳で告げるユリアに、ディーナは柔らかく笑みを返した。
火艶 静 (ka5731)はユリアを遠巻きに見ながらふと考えていた。
「この町に拠点を移して生活は落ち着いてきたとはいえ、心の奥底には、自分たちの村を再び……という気持ちがあるのでしょうか」
少し楽しみそうに周囲と言葉を交わすユリアを見つつ、ぽつりと独り言のように漏らして、なんにせよ、と思い返しユリアに近づいた。
「ユリアちゃん……」
「はい!」
不思議そうに、それでいてどこかハキハキとユリアが輝く目をこちらに向けた。その瞳に彼女と初めて会った頃の瞳が思い出された。
自分が上げた仕込み杖や装備品、そのほかにもユリア自身が後から買いだしたのか、町に来る前よりもちゃんとした装備を付けている様子に、自衛は少なくともできるであろうことを見て取った。
「危険な生物がいないとしても、廃墟が崩れるなどの危険も考えられますから、必ず二人以上で行きましょうね」
「そう、ですね……はい! そうします」
何やらメモを取るユリアを見て、静は優しく笑いかけた。
ロニ・カルディス(ka0551)は町で聞いた目的地についての情報を纏めていた。
「林に近かったことによる害虫被害や獣の襲撃、街道が林を突っ切る形で開通したことによって、林の外にある村へは遠回りになってしまうために行商が来なくなったことなどが原因ということか?」
「そうみたいです」
町人たちの話をまとめたユリアを要約して、ロニが問うと、ユリアは小さくうなずいた。
トリプルJ(ka6653)はユリアとロニの話が一息ついたころを見計らい、ユリアへと声をかけた。
「無理しない範囲で頑張れよ? 俺ら先達がいるんだからよ。頼れるところは頼って、技術もどんどん盗んでくれや」
「ありがとうございます! たくさん盗ませていただきますね」
豪快に笑うトリプルJに、少し呆けた様子を見せたユリアも、やがて小さな笑みを浮かべて見せた。
「そろそろ出発しよう」
ロニがそう、一同に聞こえるように発したのを皮切りに、面々は準備を本格化させた。
●
ハンターたちは自ら買って出たトリプルJを先頭にした7人は、街道を通って目的の場所にたどり着いていた。
静かな空気に包まれた、長らく手入れされた様子のない柵は既にぼろぼろで、ところどころではへし折れてさえいる。
「雰囲気あるねー」
そうぽつりと呟いたユーリヤは、入り口から入って、周囲を見渡した。ぼろぼろの石畳の通路に、屋根や窓の崩壊した住居らしき廃墟が並んでいる。なにか亡霊でも出るかのような、おどろおどろしい空気。亡霊が居なくとも、獣ぐらいはすみついていそうな気はした。
「リンゴの木……まだ実は早い気がするの……むむむ、もしかして苗木とか加工道具とかあったらいいの……」
そんな空気の中で、ディーナはしかし、ユリアの隣で話をしながら、周囲を見る。村の中では栽培していないのか、或いは奥にあるのか、周囲には建築物の残骸しか存在していない。
そんな中で、ふとユリアの視線がリンゴの苗木などがあるとは思えない、家の廃墟などに行っていることに気付き、ユリアに呼びかけた。
「もしかして、なんでここが廃棄されたか探りに来たの?」
「……それも、少しあります。ある程度は町で聞いて分かりましたけど、やっぱり自分の目で見たいと思って……でも、一番大きいのは……」
ユリアが突然言いよどむ。不思議そうにディーナが首を傾げユリアを見たときだった。先の方を歩いていたトリプルJとロニが物陰に隠れて足を止めているのが見えた。
「この匂いは……スープか何かでしょうか……」
ディーナからユリアを挟んだ向こう側にいる静が声を出す。言われてから、何やら良い匂いがしていることに気が付いた。
「なんでこんなところでそんな匂いがするんだろうねー?」
不思議そうに言うのは後ろを歩いていたユーリヤだ。無人であるはずの廃墟の村で、損な香りがするはずがない。
「おい、あれを見ろ」
先頭の二人に追いついて、物陰からこそっと見る。視線の先、広場だろうか。開けた場所に二匹のゴブリンがいた。やや大きめの肉体に、纏っているのは騎士を思わせる甲冑だ。
「行商を襲ったゴブリンもあの鎧を着てなかったか?」
ロニがいうと、事情を知らないマーオを除く面々はふと思い出し、頷きあう。そういえば、あの時の大型の亜人によく似た鎧だと。
「ナゴリオシイナァ」
どこからともなく聞こえたのは、かなり片言とした言葉だった。お互いを見あって、互いに違うと気づき、もしや、とゴブリンの方を見る。
「マァ、デモ。サスガニ、モウイカナイト、マズイゾ」
「ワカッテルヨ……ハァ……」
語り合う二匹の近くには、それぞれの獲物であろう槍らしきものが置かれている。まず飛び出したのはトリプルJだった。
「おい」
「ナッ! ニンゲン!? クルナラアイテニナッテヤル!!」
ぎょっと一匹が目を見開いた。慌てふためいてそいつは武器を手に取り立ち上がる。
「クソ……モウココニキテタカ」
諦めたような台詞を吐きながら、もう一匹も武器を取った。片方は怯え、もう片方は諦めて、二匹は武器を構えている。その様子を認めながら、トリプルJに追いついたハンター達の中で、最初に動いたのはロニだった。
「待て、俺達も戦いたくはない」
「ナニイッテル? オマエタチハサンザン、オレタチヲコロシテキタジャナイカ」
諦観をにじませる方のゴブリンがそう声に出す。
「それはそちらもでしょう。以前には行商が襲われたと聞きましたよ」
「ナンノコトダ?」
マーオの言葉に、怪訝そうにゴブリンが言う。それを受けて、ハンター達は2ヶ月ほど前に行商が襲われたことを語った。
「ソレハチガウ。ソノドウホウハ、ニゲダシタハンザイシャヲ、ツカマエヨウトシテイタ」
かぶりを振って、沈んだ様子を見せた亜人は、そのすぐ後に悔しそうにいかつい顔をゆがませた。
「……そうだったのか? ならば、これからは近隣住民とお互いに手出しをしないと約束出来るなら見逃してやろう」
「ボクとしても、見逃しても構わないと思っているよ。けど、万が一人々に危害を加えるようなことがあれば……」
ユーリヤはロニの言葉に続けるようにして言うと、指先に火をともしてゴブリン達に見せる。これ見よがしに揺らめかせるユーリヤに対して、ゴブリンの表情がこわばった。
「……アア、ソレハムリダナ」
先程まで怯えていた方のゴブリンがそう、どこまでも悲しげに声を震わせて、恐らく泣いているのであろう。くしゃくしゃに顔をゆがめると、雄叫びを上げた。
「マァ、キサマラノノコシタバショデ、カッテニセイカツシテイタワレラガワルイ」
諦めていたかのようなゴブリンも雄叫びを上げた。
●
戦闘は起きなかった。いや、戦闘にもならなかった、と言った方が正しいか。襲い掛かってきたゴブリン達は、ハンター達の攻撃に一切防御をしなかった。ロニとユーリヤ、トリプルJの三人の反撃を、そのまま受けて倒れ伏した。
その後、一同は男女で別れて村の探索を始めていた。村全体を東西に割り、入ってきた入口方面である東部を女性組が、西部を男性組が回る形だ。そんな中、マーオはふと気になっていたことを口に漏らす。
「あの騎士風の衣装はどこからやってきたのでしょうか……うーん」
「冒険者から盗んだのだろう」
「そうかもしれませんが……これと同じ物を着た亜人は、皆さんはこれで計三人見ているのでしょう?」
ロニの返答に、マーオが問い直すと、それをトリプルJが肯定する。
「都合よく三メートルもあるゴブリンに合った体格の騎士がいるでしょうか……最低でも三人も」
探せばいるのだろう。だが、そんな体格の騎士風の衣装をまとうような者が身ぐるみはがされて転がっていたら噂になるはずだ。
「なるほどなぁ。あの鎧を作った者か、あるいは鎧を横流しする者がいるかもしれねぇってことか」
「そうだとすると、彼らにこそ敵意はなかったが、ゴブリンが鎧を着た騎士として組織されているかもしれないということか」
「さすがに突拍子もないですよね……うーん」
三人は住居跡らしき場所に足を踏み入れながら、思考をめぐらしていく。
一方、女性組は女性組で探索を進めていた。立てつけが悪かったり、そもそも折れ曲がってしまっていたりする扉を豪快にディーナがメイスで打ちぬき、ユーリヤがリトルファイアで灯を点け、ユリアと静が廃墟の中や施設を見て、簡易の地図とメモを作っていく。
西部の半円の端辺りまで来た時、女性組の視界にリンゴの木が幾つも生えた場所が見えてきた。
「でもこれ、放置されてたようには見えないの」
近寄り、青々とした新緑の気を見上げながらディーナが口を漏らす。眼を輝かせながら、その一方で不思議そうに首をかしげる。
「どうやら、あのゴブリン達はここで生態系のような物を作っていたのかもしれませんね……」
木の一本に触れながら、静が呟いた。
「すごいです……本当に……」
華やぐように笑いながら、ユリアは果樹園を歩き回っていく。三人はそれを眺めながら、見失わないようについて行った。
●
日が沈みかけてきたころ、7人は村の入り口に集まっていた。全員が集めた情報を、1つ1つ大きな地図へとまとめていく。
「全体としては南に巨大な果樹園を擁し、それ以外にも村の住居それぞれに畑のような物の跡が見受けられる。住居の類は殆ど倒壊していて、新しく立て直した方が速いだろう。……そもそも、結構広い村だったようだな」
ロニがまとめ終えると、一同がほうっと一息ついた。
「どうだ、ユリア? 知りたい事は見つけられたか?」
トリプルJが問いかけると、疲れた様子を見せていたユリアが目を目を輝かせて笑う。それを見てトリプルJはほっと胸をなでおろす。心配していることは晴れないが、それでも良かったのだと思えた。
「ユリアさん、怪我とかは大丈夫でしたか?」
マーオはそう問いかけた。
「はい。ちょっとやっちゃったのはもうヒールをして頂けましたし。全然大丈夫です。ありがとうございました。今日は……本当に」
「いえ……私もお土産にリンゴを頂けましたから」
笑って言うと、ユリアもつられるように笑っていて、少し胸をなでおろす。ゴブリンの時以来、少しだけ表情が暗かったような気がしたのだ。
「色々と見つけれて良かったねー」
村の中で見つけてきた椅子に腰を掛けて、ユーリヤが言う。
「はい。ありがとうございます。ユーリヤさんのおかげで建物の中の調査ははかどりました」
笑顔でそう語るユリアに頷いて、ユーリヤは胸の奥が暖かくなるのを感じていた。
「ユリアちゃん……ごめんね?」
ディーナはユリアへと歩みよった。
「いえ。ありがとうございました。謝られるようなことなんて……そんな」
そう言って遮ろうとするユリアを抱き寄せる。ディーナよりも高い身長のはずの少女が、急に小さく思えた。出来る限り優しく、慰めるように背中をポンポンと叩いた。そのうち、ユリヤの咽るような声が、聞こえ始めた。
静はディーナに抱き寄せられたユリアが泣き始めたのを見て、そちらに歩み寄ると、後ろから肩にそっと手を置いた。
「大丈夫ですよ。ユリアちゃん」
「はい……はい……ごめんなさい。でも、私もなんで泣いちゃったのか分からなくて……」
そう言って声を上げるユリアの頭を、静はそっと優しく撫でた。
西日の影になって、ユリアの影が伸びていく。それがどこか物寂しさを見せているような気がして、静はふと、空を見上げた。
早朝、ハンター達はお互いに挨拶を交わしていた。
「はじめまして、ユリアさん。マーオ・ラルカイムと申します」
優し気な緑色の瞳に、金色の髪をした痩身の青年、マーオ・ラルカイム(ka5475)はユリアに柔らかく微笑みかける。
「初めまして、よろしくお願いします」
ユリアは緊張気味にぺこりと頭を下げて青年に笑みを返す。
「やぁ、ユーリヤちゃんだよー。そろそろ覚えてくれた?」
少し会話をして、青年と離れたユリアを見つけて、ユーリヤ・ポルニツァ(ka5815)はいつものように笑顔を向けながらユリアの元へ現れる。
「お久し振りです。今日もよろしくお願いします」
華やぐような笑顔を向けられて、ユリアも同じように笑みを返す。
「ユリアちゃーん、今日は何を探しに行くの?」
楽しそうにディーナ・フェルミ(ka5843)が問う。
「行ってみないとわからないので、少しドキドキです。でも、何かあるとは思っていて」
好奇に揺れる瞳で告げるユリアに、ディーナは柔らかく笑みを返した。
火艶 静 (ka5731)はユリアを遠巻きに見ながらふと考えていた。
「この町に拠点を移して生活は落ち着いてきたとはいえ、心の奥底には、自分たちの村を再び……という気持ちがあるのでしょうか」
少し楽しみそうに周囲と言葉を交わすユリアを見つつ、ぽつりと独り言のように漏らして、なんにせよ、と思い返しユリアに近づいた。
「ユリアちゃん……」
「はい!」
不思議そうに、それでいてどこかハキハキとユリアが輝く目をこちらに向けた。その瞳に彼女と初めて会った頃の瞳が思い出された。
自分が上げた仕込み杖や装備品、そのほかにもユリア自身が後から買いだしたのか、町に来る前よりもちゃんとした装備を付けている様子に、自衛は少なくともできるであろうことを見て取った。
「危険な生物がいないとしても、廃墟が崩れるなどの危険も考えられますから、必ず二人以上で行きましょうね」
「そう、ですね……はい! そうします」
何やらメモを取るユリアを見て、静は優しく笑いかけた。
ロニ・カルディス(ka0551)は町で聞いた目的地についての情報を纏めていた。
「林に近かったことによる害虫被害や獣の襲撃、街道が林を突っ切る形で開通したことによって、林の外にある村へは遠回りになってしまうために行商が来なくなったことなどが原因ということか?」
「そうみたいです」
町人たちの話をまとめたユリアを要約して、ロニが問うと、ユリアは小さくうなずいた。
トリプルJ(ka6653)はユリアとロニの話が一息ついたころを見計らい、ユリアへと声をかけた。
「無理しない範囲で頑張れよ? 俺ら先達がいるんだからよ。頼れるところは頼って、技術もどんどん盗んでくれや」
「ありがとうございます! たくさん盗ませていただきますね」
豪快に笑うトリプルJに、少し呆けた様子を見せたユリアも、やがて小さな笑みを浮かべて見せた。
「そろそろ出発しよう」
ロニがそう、一同に聞こえるように発したのを皮切りに、面々は準備を本格化させた。
●
ハンターたちは自ら買って出たトリプルJを先頭にした7人は、街道を通って目的の場所にたどり着いていた。
静かな空気に包まれた、長らく手入れされた様子のない柵は既にぼろぼろで、ところどころではへし折れてさえいる。
「雰囲気あるねー」
そうぽつりと呟いたユーリヤは、入り口から入って、周囲を見渡した。ぼろぼろの石畳の通路に、屋根や窓の崩壊した住居らしき廃墟が並んでいる。なにか亡霊でも出るかのような、おどろおどろしい空気。亡霊が居なくとも、獣ぐらいはすみついていそうな気はした。
「リンゴの木……まだ実は早い気がするの……むむむ、もしかして苗木とか加工道具とかあったらいいの……」
そんな空気の中で、ディーナはしかし、ユリアの隣で話をしながら、周囲を見る。村の中では栽培していないのか、或いは奥にあるのか、周囲には建築物の残骸しか存在していない。
そんな中で、ふとユリアの視線がリンゴの苗木などがあるとは思えない、家の廃墟などに行っていることに気付き、ユリアに呼びかけた。
「もしかして、なんでここが廃棄されたか探りに来たの?」
「……それも、少しあります。ある程度は町で聞いて分かりましたけど、やっぱり自分の目で見たいと思って……でも、一番大きいのは……」
ユリアが突然言いよどむ。不思議そうにディーナが首を傾げユリアを見たときだった。先の方を歩いていたトリプルJとロニが物陰に隠れて足を止めているのが見えた。
「この匂いは……スープか何かでしょうか……」
ディーナからユリアを挟んだ向こう側にいる静が声を出す。言われてから、何やら良い匂いがしていることに気が付いた。
「なんでこんなところでそんな匂いがするんだろうねー?」
不思議そうに言うのは後ろを歩いていたユーリヤだ。無人であるはずの廃墟の村で、損な香りがするはずがない。
「おい、あれを見ろ」
先頭の二人に追いついて、物陰からこそっと見る。視線の先、広場だろうか。開けた場所に二匹のゴブリンがいた。やや大きめの肉体に、纏っているのは騎士を思わせる甲冑だ。
「行商を襲ったゴブリンもあの鎧を着てなかったか?」
ロニがいうと、事情を知らないマーオを除く面々はふと思い出し、頷きあう。そういえば、あの時の大型の亜人によく似た鎧だと。
「ナゴリオシイナァ」
どこからともなく聞こえたのは、かなり片言とした言葉だった。お互いを見あって、互いに違うと気づき、もしや、とゴブリンの方を見る。
「マァ、デモ。サスガニ、モウイカナイト、マズイゾ」
「ワカッテルヨ……ハァ……」
語り合う二匹の近くには、それぞれの獲物であろう槍らしきものが置かれている。まず飛び出したのはトリプルJだった。
「おい」
「ナッ! ニンゲン!? クルナラアイテニナッテヤル!!」
ぎょっと一匹が目を見開いた。慌てふためいてそいつは武器を手に取り立ち上がる。
「クソ……モウココニキテタカ」
諦めたような台詞を吐きながら、もう一匹も武器を取った。片方は怯え、もう片方は諦めて、二匹は武器を構えている。その様子を認めながら、トリプルJに追いついたハンター達の中で、最初に動いたのはロニだった。
「待て、俺達も戦いたくはない」
「ナニイッテル? オマエタチハサンザン、オレタチヲコロシテキタジャナイカ」
諦観をにじませる方のゴブリンがそう声に出す。
「それはそちらもでしょう。以前には行商が襲われたと聞きましたよ」
「ナンノコトダ?」
マーオの言葉に、怪訝そうにゴブリンが言う。それを受けて、ハンター達は2ヶ月ほど前に行商が襲われたことを語った。
「ソレハチガウ。ソノドウホウハ、ニゲダシタハンザイシャヲ、ツカマエヨウトシテイタ」
かぶりを振って、沈んだ様子を見せた亜人は、そのすぐ後に悔しそうにいかつい顔をゆがませた。
「……そうだったのか? ならば、これからは近隣住民とお互いに手出しをしないと約束出来るなら見逃してやろう」
「ボクとしても、見逃しても構わないと思っているよ。けど、万が一人々に危害を加えるようなことがあれば……」
ユーリヤはロニの言葉に続けるようにして言うと、指先に火をともしてゴブリン達に見せる。これ見よがしに揺らめかせるユーリヤに対して、ゴブリンの表情がこわばった。
「……アア、ソレハムリダナ」
先程まで怯えていた方のゴブリンがそう、どこまでも悲しげに声を震わせて、恐らく泣いているのであろう。くしゃくしゃに顔をゆがめると、雄叫びを上げた。
「マァ、キサマラノノコシタバショデ、カッテニセイカツシテイタワレラガワルイ」
諦めていたかのようなゴブリンも雄叫びを上げた。
●
戦闘は起きなかった。いや、戦闘にもならなかった、と言った方が正しいか。襲い掛かってきたゴブリン達は、ハンター達の攻撃に一切防御をしなかった。ロニとユーリヤ、トリプルJの三人の反撃を、そのまま受けて倒れ伏した。
その後、一同は男女で別れて村の探索を始めていた。村全体を東西に割り、入ってきた入口方面である東部を女性組が、西部を男性組が回る形だ。そんな中、マーオはふと気になっていたことを口に漏らす。
「あの騎士風の衣装はどこからやってきたのでしょうか……うーん」
「冒険者から盗んだのだろう」
「そうかもしれませんが……これと同じ物を着た亜人は、皆さんはこれで計三人見ているのでしょう?」
ロニの返答に、マーオが問い直すと、それをトリプルJが肯定する。
「都合よく三メートルもあるゴブリンに合った体格の騎士がいるでしょうか……最低でも三人も」
探せばいるのだろう。だが、そんな体格の騎士風の衣装をまとうような者が身ぐるみはがされて転がっていたら噂になるはずだ。
「なるほどなぁ。あの鎧を作った者か、あるいは鎧を横流しする者がいるかもしれねぇってことか」
「そうだとすると、彼らにこそ敵意はなかったが、ゴブリンが鎧を着た騎士として組織されているかもしれないということか」
「さすがに突拍子もないですよね……うーん」
三人は住居跡らしき場所に足を踏み入れながら、思考をめぐらしていく。
一方、女性組は女性組で探索を進めていた。立てつけが悪かったり、そもそも折れ曲がってしまっていたりする扉を豪快にディーナがメイスで打ちぬき、ユーリヤがリトルファイアで灯を点け、ユリアと静が廃墟の中や施設を見て、簡易の地図とメモを作っていく。
西部の半円の端辺りまで来た時、女性組の視界にリンゴの木が幾つも生えた場所が見えてきた。
「でもこれ、放置されてたようには見えないの」
近寄り、青々とした新緑の気を見上げながらディーナが口を漏らす。眼を輝かせながら、その一方で不思議そうに首をかしげる。
「どうやら、あのゴブリン達はここで生態系のような物を作っていたのかもしれませんね……」
木の一本に触れながら、静が呟いた。
「すごいです……本当に……」
華やぐように笑いながら、ユリアは果樹園を歩き回っていく。三人はそれを眺めながら、見失わないようについて行った。
●
日が沈みかけてきたころ、7人は村の入り口に集まっていた。全員が集めた情報を、1つ1つ大きな地図へとまとめていく。
「全体としては南に巨大な果樹園を擁し、それ以外にも村の住居それぞれに畑のような物の跡が見受けられる。住居の類は殆ど倒壊していて、新しく立て直した方が速いだろう。……そもそも、結構広い村だったようだな」
ロニがまとめ終えると、一同がほうっと一息ついた。
「どうだ、ユリア? 知りたい事は見つけられたか?」
トリプルJが問いかけると、疲れた様子を見せていたユリアが目を目を輝かせて笑う。それを見てトリプルJはほっと胸をなでおろす。心配していることは晴れないが、それでも良かったのだと思えた。
「ユリアさん、怪我とかは大丈夫でしたか?」
マーオはそう問いかけた。
「はい。ちょっとやっちゃったのはもうヒールをして頂けましたし。全然大丈夫です。ありがとうございました。今日は……本当に」
「いえ……私もお土産にリンゴを頂けましたから」
笑って言うと、ユリアもつられるように笑っていて、少し胸をなでおろす。ゴブリンの時以来、少しだけ表情が暗かったような気がしたのだ。
「色々と見つけれて良かったねー」
村の中で見つけてきた椅子に腰を掛けて、ユーリヤが言う。
「はい。ありがとうございます。ユーリヤさんのおかげで建物の中の調査ははかどりました」
笑顔でそう語るユリアに頷いて、ユーリヤは胸の奥が暖かくなるのを感じていた。
「ユリアちゃん……ごめんね?」
ディーナはユリアへと歩みよった。
「いえ。ありがとうございました。謝られるようなことなんて……そんな」
そう言って遮ろうとするユリアを抱き寄せる。ディーナよりも高い身長のはずの少女が、急に小さく思えた。出来る限り優しく、慰めるように背中をポンポンと叩いた。そのうち、ユリヤの咽るような声が、聞こえ始めた。
静はディーナに抱き寄せられたユリアが泣き始めたのを見て、そちらに歩み寄ると、後ろから肩にそっと手を置いた。
「大丈夫ですよ。ユリアちゃん」
「はい……はい……ごめんなさい。でも、私もなんで泣いちゃったのか分からなくて……」
そう言って声を上げるユリアの頭を、静はそっと優しく撫でた。
西日の影になって、ユリアの影が伸びていく。それがどこか物寂しさを見せているような気がして、静はふと、空を見上げた。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2017/07/15 23:20:40 |
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遺跡の呼び声よーろれいひー? ディーナ・フェルミ(ka5843) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2017/07/17 15:13:14 |