クリスとマリー 不穏

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
シリーズ(続編)
難易度
普通
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
4~7人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/10/18 19:00
完成日
2017/10/25 19:49

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 知っての通り、世の中には『よりにもよって』という言葉がある。他に幾らでもあるだろうに、最悪のタイミングで、最悪の箇所に、最悪の事態を引き当てた時に、人が往々にして言う言葉だ。この言葉を使う回数が多い者ほど、大抵の場合、運がない。その言葉を呟く度に、自分は幸運に見放されているのだと思い知らされる。
 自分もまたその様な星の下に生まれたのかもしれない、と、クリスティーヌ・オードランは最近になってその様な自覚を持ち始めていた。
 ハンターたちにもそう言われた。って言うか、波乱万丈の代名詞みたいな彼らにそう言わしめる自分の旅路とはいったいなんなのか。思い返せばマリーと共に巡礼の旅に出て以降、大小合わせて幾度のトラブルに巻き込まれてきたことだろう。王国の人間なら人生で一度は廻るという比較的平穏な巡礼の旅──そんな旅の最中に自分たちほど劇的な旅程を辿った者が他にいるだろうか。って言うか何だ劇的って。普通巡礼の旅に付ける枕詞じゃないし。
 ……そして、また今回も。それも最悪な部類の内容で。
 よりにもよって3体の遺体を調べ回しているところに、侯爵家の兄弟三人が揃ってやって来るなんて──


 キャンプという名の家出の最中、殺人事件に巻き込まれたマリーとルーサーを無事助け出したハンターたちが館に帰って来たのは、まだ夜も明け切らぬ早朝のことだった。
 彼らは遺体の検分と埋葬の為、3人の被害者を大八車で運んで来ていた。
 ポーター兼庭師の男にそっと門の鍵を開けてもらい、家人や使用人たちに知られぬよう、そっと物置の陰へと移動する。
 事件を隠し立てする気は無かったが、早朝ということもあり、まずは仲間内で調べられることを調べてしまおうと考えてのことだった。出発前、山のキャンプで一通り調べた時には、遺体は身元や正体を知る手掛かりを一切持ち合わせていなかった。その時点で、彼らがただの旅行者でないことは分かった。旅先で行き倒れた時の事を考え、普通、旅人は身元を表す名札なりを用意しておくものだから。
「はっきりとは覚えていないが、ニューオーサンの町で見たことがあるような──」
 最初の被害者の顔を見たハンターの幾人かがそんなおぼろげな記憶を持っていて、彼らはまずそっとクリスとリーアを呼び出した。そして、事情を説明すると被害者たちを示して尋ねた。
「何か気付いたことはありませんか? 例えば、見知った顔だとか……」
 訊かれて、クリスは抱き締めたマリーらを傍らのハンターたちに預けると、まるで動じた風もないリーアに続いて恐る恐る死体の顔を覗き込んだ。
「知らぬ顔だ」
 リーアは答えた。あっ、とクリスは口元を抑えた。
 ──つい先日のことだから覚えていた。ニューオーサンの町で見た、街頭の新聞売り。リーアが新聞を買い、二言三言会話を交わした、その男──
「……これはどーいう事でしょーかねぇ……!」
 クリスからその時の話を聞いていたハンターがリーアに詰め寄る。それは気づかなかったな、とさらりと告げる彼の襟首をハンターが更に締め上げる。
「いい加減、何もわからねーのは性に合わねぇんですよ……ッ?」
「それは言えない。特にここでは」
 侯爵家の三兄弟──カール、シモン、ソードの三人がその場にやって来たのはそんな折のことだった。
「初めての家出を済ませたルーサーがまた一つ大人になって凱旋してくるのです。ここは兄たち三人で揃って出迎えてやりましょう」
 ニコニコと笑いながら、憮然と不機嫌の兄と弟を連れて先頭を来たシモンが、その眼前の光景に気付いてピタリとその足を止めた。
「そこでいったい何を…… そこにあるのは、死体ですか……?」
 声を震わせるシモンを制して、三男ソードが進み出た。広域騎馬警官隊(侯爵領におけるFBIの様なもの)の長である彼は死体にも慣れている。
「一体目には切り傷と打撲痕、二体目と三体目は獣に噛み千切られたような傷…… この死体はなんだ? いったい何があったんだ?」
 ハンターたちは顔を見合わせ、事情を説明した。キャンプ中に事件に巻き込まれたこと。官憲と名乗った2人のこと。彼らが使っていた『犬』たちがいきなり主人や自分たちに襲い掛かってきたこと。ルーサーたちは怪我一つ無く無事に守り切ったこと──
「……これはいったいどういうことだ?」
「……どうやら犬がうろついていたようですね」
 遠くで聞き耳を立てながら、野次馬状態で放置されたカールとシモンが小さい声で言葉を交わす。
「……官憲だって? いくら『重犯罪者』と言ったって、逮捕する前に切り殺すような警官はいねーよ。しかもあんな山の中で? ありえない。連中のテリトリーは基本的に都市部だ。オーサンバラにも駐在の爺さん家族しかいない」
 あんたは虎刈りの男を斬ってたけどね── ハンターたちの内心のツッコミをよそに、死体の検分を終えたソードは立ち上がって宣言した。
「殺人事件だ。この件は広域警官隊が担当する。構わないな? 兄貴」
 返事も聞かぬまま早足でその傍らを通り抜け、館に戻って副官にすぐに部下たちを集めるよう命じるソード。
 やれやれ、と溜息を吐くシモンの傍らで、カールがクリスに向き直り、告げた。
「……申し訳ありませんが、どうやら貴方たちにはもう少し館に逗留していただくことになりそうですな」
 クリスは内心で苦笑した。本当に自分の運ってやつは…… 見えざる神に恨み節を繰り言ちつつ、その思考はこの短い間にもフルで回転し続けている。
「……とは言え、我々も旅の予定を既にだいぶ超過しています。実家の父も心配しておりますでしょうし、この者に事情を説明する便りを届けさせたく思うのですが」
 クリスのその言葉を聞いて、マリーがハッと顔を上げた。
「嫌だよ、クリス! 貴女を残して私だけ先に帰るなんて……!」
「マリー、わかっているでしょう? 貴女にしか頼めないことなのです」
「でも……でも、私のせいで……ッ!」
「落ち着きなさい、マリー。一番大切なことが何なのか……あなたは貴女のすべき仕事を為しなさい」
 クリスはマリーをそっと抱き寄せた。そして、後ろ頭を撫でながら、今までありがとう、と呟いた。
 マリーは暫し頭を振って主の言いつけを拒否し続けたが、最終的にはクリスの頼みを受け入れ、涙を拭いながら頷いた。
 クリスはスッと姿勢を正すとカールに向き直り、「構いませんか?」と毅然と訊ねた。
「……しかし、彼女一人では」
「ご心配なく。マリーにはここにいるハンターの方々を護衛につけますので……」
 クリスのその言葉にカールは思案し……そういうことなら、と了承した。
「出発は今日の内に…… マリーの護衛の方、よろしくお願い致します」
 クリスはハンターたちに頭を下げると、シモンに案内されて自室へと帰っていった。

リプレイ本文

 その日の内に出発するようクリスに言われて、マリーの旅立ちは慌ただしいものとなった。
 護衛に当たるは、ルーエル・ゼクシディア(ka2473)、ヴァルナ=エリゴス(ka2651)、レイン・レーネリル(ka2887)、ユナイテル・キングスコート(ka3458)の4人。アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)、シレークス(ka0752)、サクラ・エルフリード(ka2598)の3人は見送りだ。彼女らはクリスを一人にせぬよう、館に残ることにした。
「ルーサー、キミも気を付けて。大丈夫、何かあったらこの人を遠慮なく頼ってね」
「マリー。此処のことは自分達に任せやがるです。無事に戻ってくることだけを考えて行動するように」
 行く者と残る者── ルーサーに別れの握手を差し出すルーエルの傍らで、シレークスがマリーの頭に手を乗せる。

「……長い間、旅を共にしてきた皆とも、これで暫しのお別れですね。……マリー。辛いところでしょうが、これもクリスに託された大切な役目です」
 名残を残した様子で館を振り返るマリーに気付いて、荷を乗せた愛馬を曳きつつユナイテルが振り返る。
「……大丈夫ですか、マリー?」
「え?」
「いえ、なんだか思い詰めているように見えましたので……」
 そ、そんなことないよ! と慌ててギュッと両拳を握って見せるマリー。……空元気で空回るその様も、見てていたたまれない。
「……何かあれば遠慮なく話してくださいね。もしかしたら私たちが力添えできるかもしれませんし」
 何かを託されたであろうマリーを労わる様に、ヴァルナがそっとそう告げた。……彼女が何を背負わされたのかは分からない。が、ヴァルナには先のクリスとマリーのやり取りがどことなく大仰に思えた。或いは、彼女らにも何か事情があるのかもしれない。
「あはは…… ありがとう。でも、私にできることなんて、家に帰ることくらいしか……」
 笑いながら肩を落とし、両目に涙を溜めるマリー。その姿にルーエルは動揺し、レインも慌てて励ましに掛かった。
「さ、さてと! 道中、立ち寄れる町や村はあるのかなー! 食料などを補充しながら安全なルートで進みたいよねー!」
「ほらほら、マリーちゃん、あまり気を落とさないで! パパっとお役目を果たして戻って来ようよ! 私も頑張っちゃうからさ! なんなら負ぶって『ジェットブーツ』でかっ飛ぶよ?」


 その日以降、館に残った者たちに対する扱いが変わった。客人扱いこそ変わらぬものの、食事はクリスやルーサーらと別になり、館外に出た時には常に尾行がつくようになった。
「マリーたちも大丈夫ですかね…… 皆もついてますし、何とかなるとは思いますが……」
「そう言えば、暴動騒ぎのあったあの村、あの後どうなったんですかね……?」
 呟くサクラとアデリシア。田舎の長閑な生活も続けば流石に飽きて来る。おまけに新聞が届くこともなくなり、外部の情報も途絶えていては……
「……ったく、どこもかしこもきな臭いったらありゃしねー…… あぁもう、イライラしやがりますですねぇ……!」
 脚をイライラ揺らしていたシレークスが、ついに堪え切れなくなって立ち上がり。図書室の片隅で読書を決め込んでいたリーアにヅカヅカ詰め寄った。
「……鬱憤溜まっておかしくなりそーです。ちょっと街まで付き合いやがれ」
 半ば強引にリーアを連れ出すシレークスに、なんか面白いことになりそーだ、とサクラとアデリシアが後に続く。
「……にしても、尾行、しっかりついてますね。さて、どうしたものか……」
 ならば、と、曲がり角を曲がった所で、アデリシアが一人、足を止めた。そして、待ち伏せに気付いてギョッとする尾行2人にわざとらしく挨拶しつつ、道行きを共にしながら途切れることなく話し掛ける。
 男らはアデリシアの世間話にだんまりを決め込んでいたが、やがて辟易したように途中で尾行を中断した。それでも付いて行くと、サクラらへの尾行は別の2人組が引き継いだ。
(随分と組織的な『行動観察』ですね…… その割に隠す気はないみたいだし、牽制の意味が強いのでしょうか……)
 ニューオーサンの町でも尾行は撒けず……シレークスはリーアとサクラを近場の酒場に連れ込んだ。全ては館では話が出来ないというリーアに今度こそ正体を聞く為だった。
「いや、ここも駄目だ。どこに連中の耳があるか分からん」
「……。なら、また河岸を変えないと」
 何か尾行を巻く手段でも? リーアに問われ、シレークスはニヤリと笑った。そして、気もそぞろにメニューを見ているサクラにちょいちょいと声を掛けた。
「え? お酒……飲んでもいいんですか? いつもは止めるのに? ……そうですか。何を企んでいるか知りませんが、そういうことなら遠慮なく」
 嬉しさを隠し切れず、いそいそと店主に地酒を注文するサクラ。
 十分後……
「だぁれがチビッコれすか、誰がぁ~…… 酒ら、酒ら、酒持ってこぉ~い! ……ヒック!」
 二杯とおかわりしない内に小虎と化したサクラが店内で暴れ出し。その後、ピタリと動きを止めて「……暑い」と言って服を脱ぎだす。
 その騒ぎの間にリーアとシレークスは裏口から酒場を出た。そして、リーアについて行った先は……場末の逢引宿だった。
「……おめー、どさくさ紛れにこんな所に連れ込んでいったい何を……」
「定型文な冗談はいらん。ここなら誰にも聞かれない」
 わざとらしく胸元を隠すシレークスに、溜息を吐きながらリーアが告げる。
「お察しの通り、俺は王都の諜報員だ。表向きの所属はヘルメス通信社。旧スフィルト子爵領で発生した難民問題を調査すべく、逃散民取締官の許可証を奪って活動を始めたところをお前たちに捕まった。お陰で事前の想定以上に侯爵家の中枢に近づけたが……今はその意図と目的を探るべく、侯爵領の内情を見て回っている」

 必要なやり取りを終えた後、2人は逢引宿を後にした。途中、尾行者たちを巻き込んで暴れるサクラを回収して館に帰り、夕食の席(サクラは体育座りで落ち込んでいる)でメモを回して、得た情報を共有する。

 翌日。オーサンバラの村人たちが、里山に出没し始めた怪しい影をなんとかして欲しいとハンターたちを訊ねた。正直、随分と良いタイミングの依頼を怪しむ気持ちはあったのだが、村人たちは心底困っている様子であったし、里山と言えば先の『犬』のことも頭に浮かぶ……
 それらの事情から、山に入って探索を開始したハンターたちは、しかし、すぐに小首を傾げることとなった。先の『犬』との戦闘が行われた山林の中の開けた場所で、鎖に繋がれた1体の熊を見つけたのだ。
「熊……? あれが『怪しい影』の正体でしょうか? ですが、既に拘束されているというのは……」
 頭を捻るサクラ。熊はハンターたちを睨んで唸り声を上げていたが、彼女らが一定距離まで近づいた途端、突然、悶え、苦しみ出し…… 次の瞬間、全身から陽炎の如きオーラを噴き出して、狂ったように暴れ出した。
「あの闘気は……!」
 その姿に『犬』と同様の力を感じて慌てて槍を構えるサクラ。その眼前で熊の筋肉が盛り上がり、難なく鎖を引き千切る。
 アデリシアは瞬間、『ヴァルキリー・ジャベリン』で相手の動きを止めようとしたが、その寸前に発せられた『咆哮』に全員、身を竦まされた。直後、突進して来た熊の巨体に弾き飛ばされるハンターたち。そのまま踏みつけに来た熊の前肢の鉤爪をアデリシアは何とか転がり躱し……どうにか手中に維持した『光の槍』を熊目がけて投擲した。命中するや否や光の鎖と化して熊の巨体に巻き付く光の槍── そこへサクラが更に『光の杭』を撃ち込んで、どうにか2人掛かりで敵をその場に足止めする。
「囲みます! シレークスは右へ……!」
「おおっ! 破戒シスターを舐めんじゃねぇですよ、おらあ!」
 アデリシアを中心に左へ走るサクラ。シレークスも右へと回り込み、棘付き鉄球で殴り掛かる。
「正面を引き受けます。二人は距離を取って攻撃を……!」
 アデリシアは仲間2人の武器に白く輝く戦乙女の幻影を立て続けに飛ばしつつ、自らは敵の攻撃を誘引すべく敵正面へ前進した。応じて一歩跳び退いたサクラが魔槍を熊へと投擲し。直後、振るわれた反撃を飛び避けつつ左手を伸ばして敵に突き立った槍を呼び戻しつつ、直後、右手に持ち替えていた火槍を全力で熊へと投擲する。
 呼応し、紫電纏いし八角棍で敵を一撃するアデリシア。慎重に間合いを計って敵との距離を取りながら……だが、熊はその予測を上回る動きで身体ごとぶつかって来た。後方に跳び避けながらどうにか棍で受けるアデリシア。『ホーリーヴェール』──展開した聖なる防御壁が、瞬間、燐光を発して砕けて消える。
(バカな。獣にも……いや、獣だからこそ、自己保存の本能があるはずです。なのに、この身を捨てた戦い方は、まるでバーサーカー(狂戦士)ではないですか……!)


 その頃、マリーとハンターたちは、何事もないまま順調に旅路を重ね……旅立ち以来、最初の野宿の夜を迎えていた。
「あ、これフラグだわ。ルー君これフラグ。ね?」
「あはは……(苦笑)」

 深夜── 焚火の番をしながら見張りをしていたルーエルとユナイテルは、周囲の林の中から聞こえていた虫の音が止んだことに気付いた。
 カサカサと微かに草の擦れ合う音── 数は複数。全周から。相手は接近を隠す気はないようだった。ただし、姿は現さない。獣の様な唸り声だけが小さく聞こえて来る。
(やっぱり『犬』……?)
 ルーエルはテントの中の皆を起こし、戦いの準備を整えるよう告げる。
「そこに潜むは何者か?!」
 誰何の声にも返事は無い。代わりにけたたましい犬の吠え声が轟いた。鎖を解き放たれた『犬』たちが木々を駆け抜け、前方の獲物たちへ──即ち、自分たちへと迫る。
「マリー! 背後を取られぬよう、その大きな木に背を預けてください!」
「私から離れないでね。おねーさん、バリア張れるからね、バリア!」
 ユナイテルの指示に従い、テントから出たマリーをレインが大きな木の根本へ連れて走り。ユナイテルがそんなレインと共に、マリーを守る様に立つ。
 ルーエルは全周より迫る敵に対して『レクイエム』を発動した。正ならざる生命に対してその行動を阻害する鎮魂歌──その力を受けて、『犬』たちの動きが明らかに鈍くなる。
(効いた……! なら、あの『犬』は歪虚なのか? でも、だったらなぜ人に使役を……!?)
「……殲滅します。1匹たりとも残さぬように!」
 『ソウルトーチ』──歪虚らが無視し得ぬマテリアルの光を放ちながら、ヴァルナがマリーたちから離れて前に出た。……何もわからぬまま何かが大きく動いていくような。そんな何とも言えない不気味さを払拭するには、まず何より情報だ。……とりあえず、敵を一人、捕らえる。その為にはまず邪魔になる犬たちを片付けねば!
 そのマテリアルのオーラに惹かれて、東側5匹の『犬』たちがヴァルナ目がけて飛び掛かる。彼女は守りの構えでギリギリまでそれを待ち受けると、大剣による受けからのカウンターでまず1体の『犬』を頭を斬り潰す。
 その隙に北と南、左右から肉薄した2匹の犬がそれぞれヴァルナの左前腕と右足首とに噛り付いた。瞬間、その涎塗れの牙の細菌毒素をレインが「ビビビ!(本人談)」と機導浄化デバイスで吸収し。直後、ヴァルナの傍らへ突進したルーエルが『セイクリッドフラッシュ』で犬らを纏めて吹き飛ばす。
 助かりました、と礼を言うヴァルナに頷きながら、ルーエルは周囲に潜んだ男たちに向かって叫んだ。
「なぜ僕たちを襲う?! マリーさんを狙っているのか?!」
「君たち、前回の二人組の仲間でしょ?! 言わなくても分かるんだからね!」
 続くレインの問いにも答えはない。ルーエルは犬を迎撃しつつ奥歯を噛み締めた。……前回、犬を使役していた二人は共に命を落とした筈。なぜ僕らのことを知っている? あの時、他にも森に仲間が潜んでいたのか? それとも、館に彼らの関係者がいたとでも……?
 その間にも、西側から迫った3匹がマリーたちの木へと迫り。待ち構えていたレインがそれを『攻勢防壁』──「バリアーッ!」という声と共に前面に突き出した光の壁で弾き飛ばした。ユナイテルもまた反対側から飛び掛ってきた2匹の『犬』の一撃を、盾で受け止め、剣の腹で受け流し。直後、瞬間的に手首を返してその腹に剣先を突き込んだ。地面にクルリと着地した、或いは落ちた所をすかさず『薙ぎ払い』。碌に体勢の整っていなかった1体ごと纏めて斬り飛ばす。
 瞬間、東側でもルーエルの光とヴァルナの薙ぎ払いが複数の犬たちを吹き飛ばし──状況に利有らざるを悟った『飼い主』たちがスッとその場を離れ始めた。気づいたユナイテルが愛馬に飛び乗り、拍車を掛けてそれを追う。
「レインお姉さん、射撃は届く?! できれば一人捕らえて話が聞きたい!」
「え!? えーっと、視界は暗いし、射線も通り難いし、脚だけ狙って、って……えーい、面倒くさい!」
 レインは叫んで銃を下ろすと『ジェットブーツ』を使って直接、自分で木々の間をすっ飛んでいった。先回りを果たしたユナイテルが剣を振るって逃げ遅れた1人を牽制し。そこへ靴底からマテリアルを噴射させて吹っ飛んできたレインが「ビビビッ!」と『エレクトリックショック』で麻痺させる。
「エクラ教の教えは寛大です。……貴方が素直に答えてくれればね」
「訊きたいことは主に二点です。歪虚らしき『犬』をどうやって手に入れたのか。そして、なぜマリーさんを狙ったのか」
 ルーエルとヴァルナの問いに、捕らえられた男はニヤリと笑った。
「……最早、狙われているのが小娘だけとは思わぬことだ」
 そう言って男は奥歯を噛み締め……仕込んでいた毒を嚥下し、ガクリ、と項垂れ、事切れた。


 熊との戦いも激戦だった……が、詳細は(字数的に)省く。ともかく、回復全てを使い切る程の奮闘を経て、ハンターたちは村を危険に晒す前にどうにか『熊』討伐に成功した。
「この熊は罠? 私たちを殺す為に置かれていた……?」
「この前の『犬』と言い、どうも裏で面倒なことが動いているとしか思えないのですが……」
 周辺を警戒するサクラとシレークスの下、アデリシアが熊の死骸の中から何かを見つける。
「……これは、木の実? 大きな『種』か何かの欠片でしょうか……?」

 嫌な予感は往々にして当たる。
 旅を続けたマリーたちには、難民による大規模な暴動の発生と国境(くにざかい)の封鎖の報せと……
 山を下りたハンターたちには、リーアが館より逃走したという報せが広域騎馬警官の一隊から直接届けられた。
「ついては、犯人隠避の罪であなたたちに事情を訊きたいそうです。おとなしく取り調べに応じていただけますか?」

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 6
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

重体一覧

参加者一覧

  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • それでも私はマイペース
    レイン・ゼクシディア(ka2887
    エルフ|16才|女性|機導師
  • いつも心に盾を
    ユナイテル・キングスコート(ka3458
    人間(紅)|20才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2017/10/14 21:57:02
アイコン 相談です…
サクラ・エルフリード(ka2598
人間(クリムゾンウェスト)|15才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2017/10/18 17:40:38