ゴブリンの採石場襲撃作戦!

マスター:T谷

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/11/20 12:00
完成日
2014/11/29 09:25

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 とある崖の上から、その真下でせっせと働く人々を見下ろす小さな影があった。少なくとも四つの影が、下から見つからないようにと木の枝を両手に持って迷彩としながら、ぼそぼそと話し合っている。
「ゼッタイ、ナンカイイ物アルンダゾ」
 甲高いその声が話すのは、人間の言葉ではない。どこか乱暴で思慮や礼節に欠けた、下品な響きが行き交う。
「イッツモ、ニンゲンガ居ルモンナ」
「石ヲ掘ッテル。ナニカ埋マッテルノカ?」
「ホウセキ? ホウセキ?」
 露出した岩盤で構成された小山は、この数ヶ月で既に半分が、人間の手によって抉り取られている。なだらかだった小山が、今では半月状の崖になってしまったのも人間達の仕業だ。カンカンとうるさく響くハンマーの音が、段々に削られた崖に反射して酷くやかましい。
 とはいえ、彼らにとってそんなことはどうでもいい。何となく嫌いな人間達が、自分達を差し置いて良い物を手に入れようとしているのが気に入らないだけだ。
 影達はガサガサと茂みを鳴らして来た道を戻っていく。その様子はニヤニヤと楽しげで、そこからしばらく離れれば抑えていた笑い声が爆発した。甲高く卑しさを孕んだ耳障りな声は、崖下でハンマーを振るう人間達の耳に届くことはない。



 帝国第二師団師団都市「カールスラーエ要塞」には、未だに過去の傷跡が色濃く残っている。師団員や大工達の金槌を振るう音が常時響いているものの、未だに完全な復興の目処は立っていない。都市南側の中心を貫く大通り周辺は整った町並みを見せているが、その裏には、未だに廃屋や瓦礫の山が多く残っている。
 そんな都市の裏側は、地価の安さから近頃様々な人々の関心を引く場所でもあった。しかし、その安さは都市自体が最前線であり、いつこの平穏が破られるか分からないリスクから来るものでもある。
 復興を進めるために大量の資材を必要としているこの都市に、建築関係の商売を行う命知らずな商人が集まるのも必然だった。リスクよりも金に重きを置く者、この世界をより良くするためにあえてリスクを負う者。そんな打算と勇気によって、この都市は盛り上げられているのだ。
 建材の製造と販売を主に行うロジーナ商会も、その流れに乗るために都市へとやってきた会社の一つだった。
「……亜人が?」
 商会を取り仕切る女社長、ロジーナ・リュッカ―は、普段の鉄面皮を珍しく歪めて部下からの報告に目を丸くする。
「はい、第二採石場が、大量の亜人の襲撃を受けたとのことで……作業員数名が負傷、幸い大事には至らなかったものの、作業の続行は難しい状況だという報告が上がっています」
 第二採石場は、商会がこの都市に拠点を置いてから常に一定量の良質な石材を採掘することができ、また将来的にも継続して採石することのできる商会の生命線とも言える場所だ。
「なんてこと……」
 ロジーナは部下を前に柄にもなく頭を抱える。彼女が若くして起業しそれなりに成功を収めているのも、その土地を独占できていたがためだ。
「第二師団に助けを求められては……」
「駄目よ、軍に借りを作る訳にはいかないわ」
 即座に、その提案を却下する。最も上客である相手に借りを作ってしまえば、今後の様々な交渉がこちらに不利になる。彼女はそう考えていた。
「ハンターに依頼しましょう。彼らのフットワークの軽さなら、これ以上の大事になる前に事態を収拾してくれるはず。少なくとも、機材を破壊されることだけは防がないと」
 正直に言って、この商会の資金も潤沢とは言い難い。軍に亜人の出現を報告すれば、金を掛けずに解決できるだろう。しかし、前述の理由と、急がなければ残された機材類が危ないことを鑑みれば、早急に事を進められるハンターを雇うのが一番だ。
 ロジーナはハンターへの依頼を部下に任せ、手元の書類を忌々しく睨みつける。どうやら、次の納期には間に合いそうもない。



「……おいおい、結構なことになってんじゃねえの」
 採石場から少し離れた岩場の影から望遠鏡を覗かせて、第二師団員に所属する一等兵であるヴァルターは呟いた。
「本隊は動いてくれるかな」
 その隣で同じく採石場に視線向けるのは、ヴァルターと同じ分隊に所属するオウレル一等兵だ。どこか虚ろで端正な顔立ちには、僅かに不安や恐れが浮かんでいる。
 彼らは都市周辺の警邏中、採石場から逃げ出してきた工員と遭遇し、何が起こったのかを聞いていた。そして残りの分隊員に報告を任せると、彼らは正確な現状を知るために現場に赴いていたのだった。
「これは、動くまで待ってたら手遅れになっちまいそうだなぁ」
 遠くには、わらわらと群がるゴブリンやコボルド。調教された野犬に乗った個体なども見える。情報は過去のものとなっていたらしく、工員に聞いた以上の惨事が広がっている。
「だからって、僕らだけじゃ何にもできないし……」
「だあもう、お前はエリートの癖になんでそんな弱気なんだよ。もっとやる気出せやる気!」
「いや、冷静に考えてあの数は無理だって……」
 確かに、目の前に集まる亜人共の数は尋常ではない。だが、
「これはチャンスだぜ」
 ヴァルターの目は、むしろ素晴らしいイタズラを思いついた子供のように無邪気に輝いている。
「この採石場は、どこのもんだ?」
「ロジーナ商会だよね、最近随分お世話になってる」
「そうだ、あの、敏腕で有名な美人社長の所有地だ。そして、あの社長の性格からして、軍に借りを作るはずがない。ついでに言えば、まだあの現場には高そうな機材が放置されてる。あれが亜人達に破壊や悪用をされないとも限らん」
「……つまり?」
「ハンターだよ。あの社長は絶対に、ハンターに依頼するはずだ。軍よりも迅速に物事を解決したいなら、当然だ。多少の金なんて、後から何とでもなるだろうからな」
「で、僕らはここでハンターが来るのを待って、その支援をするってことかな」
 オウレルの答えに、ヴァルターは勢い良く親指を立てた。
「最近はコロシアムも完成して、その隣にカジノもできるって話じゃねえか。ここで一発、手柄を立てて臨時収入ゲットと行こうぜ相棒!」
「……僕はそんなに興味ないんだけどなあ」
 オウレルは小さくため息をつく。ヴァルターに振り回されるのはいつものことだと、その仕草には諦念が滲んでいる。
 結局、二人は岩陰に隠れたまま、いずれ来るであろうハンターを待つことにした。そのおこぼれに、間違いなく与るために。 

リプレイ本文

 その採石場は、森の中に位置していた。半月状に抉られた岩山が、自然の作る木々の中で異様に際立って見える。
 冬に向けて森が静けさを増していく中、亜人達の発するギーギーギャーギャーと耳障りな騒ぎ声は、かなり遠くからでも聞こえるほどに喧しい。ハンター達は、置き去りにされた大きな石材の影で、その様子を注意深く観察していた。
「ああ、何という多勢、何という不利! これでこその闘争です!!」
 そんな状況でエステル・L・V・W(ka0548)は、何故かキラキラと瞳を輝かせ、今にも飛び出して行ってしまいそうだ。
「ちょっと落ち着きましょうねぇ。あんまり騒ぐと、バレちゃうわよ?」
 そんなエステルを、オネエ口調の沢城 葵(ka3114)がやんわりとなだめている。
「ち、亜人共が、調子に乗りやがって」
 その横で、ロクス・カーディナー(ka0162)は楽しそうに騒ぐ亜人を鋭く睨みつけ、吐き捨てた。
「トラックは……あそこか。爆薬は、ここからだと見えない位置にあるようだな」
「となると、爆薬は岩の陰ということか。見たところ、機材類は無事なようだな」
 ザレム・アズール(ka0878)とレイス(ka1541)は冷静に、鋭敏な視覚で以って戦場となる岩場を観察していた。その隅に、荷台から石材を散乱させたトラックが放置されている。問題の爆薬も、平坦な岩場では直ぐに見つかりそうだ。

「よお、あんたらハンターさん?」
 そんな時、彼らの背後から声が掛かった。見ればいつの間にか、鎧を纏った二人の青年がそこに立っている。
「……っ、帝国軍か」
 ヴァイス(ka0364)は、ひと目見てその格好が間違いなく帝国軍正規兵のものだと悟る。軍が駆け付けたかと思ったが、彼ら以外の兵士は見当たらない。大方、たまたま事態を知って功名心に駆られた者達だろうと推測できた。
 依頼主は、軍に借りを作りたくなくてハンターに依頼をしたと聞いている。となれば、
「お、あんた達もハンターか?」
 彼らをハンターとして扱うしかない。
 そのために、第一声に大きく、先手を取るべくそう声を返した。手前に立つ見るからにお調子者といった感じの青年は、その言葉に僅かに鼻白む。
「こんなとこにハンター? ちょうど良かった、ちょっと敵多そうなんだよー手伝って!」
 リィフィ(ka2702)もそれに乗り、あくまでもハンターとして手伝って欲しいと暗に訴えかけた。
「確かにあの数は面倒っすねー。あの裏っ側の崖まで登れる道とか知らないっすか?」
 次いで無限 馨(ka0544)も追い打ちをかけるように、二人が口を開く間も与えないよう話しかける。
「おう、軍人のコスプレってかァ? 最近多いよなァ、妙な格好してるハンター連中。とりあえず付き合えや、後で酒でも奢ってやるからよ。帝都にイイ店知ってるぜ?」
 さらにロクスも畳み掛け、脅すように剣呑な笑みを向ければ、
「……これは、乗ってあげたほうがいいんじゃない?」
 もう一人の、大人しそうな青年が虚ろな表情で呟いた。
「んー……こっちとしてもいがみ合いたいわけじゃねえしな、そう来るならしゃーねーか」
 軽そうな青年は、臨時収のチャンスなのになぁ、などと呟いて息を吐く。そして再び、ハンター達と向き合った。
「いやー、兵士のフリして驚かしてやろうと思ったんだけどなー。バレんの早えわ」
 そう言って、大きく快活に笑った。交渉成立、といったところだろうか。
 互いに自己紹介を交わし、色々と訪ねてみれば、彼ら二人はこのあたりの地理に詳しく、スムーズに崖の上に至る道を知っているようだった。
「崖の上に行けるんすね? だったら、爆弾なんてそこから見つければいいっすね!」
「そだね! リィフィ、伝話持ってきたし。ロクスも持ってるんだよね?」
「あァ、感度もイイみてぇだな。持ってきて正解だったぜ」
 敵は見える限り、コボルドとゴブリンだ。異様な数のコボルドも厄介ではあるが、ゴブリン共を仕留めることが肝要であることは間違いない。野犬に跨っている個体に、弓を装備している個体までいる。
 ハンター達は、正面から敵の気を引く班と、崖の上から奇襲を仕掛ける班に分かれることにした。やり取りは魔導短伝話で行うことにし、早速と、奇襲班はその場を離れる。
 残った班は、奇襲班が背後を取るまでの囮役だ。
「さて、早速始めようか」
 言うが早いか、奇襲班の姿が森に消えるのを見届けて、ザレムは岩の陰から身を離し、長大な弓を構えた。マテリアルに補佐された動きはより洗練され、キリキリと張り詰めた弦が矢を押し出す。
 トン、と喧騒の中に小さく音が響いた。為す術もなく、一匹のコボルドがたたらを踏んで倒れこむ。
 その瞬間――ギョロリと、何十何百もの目が、一斉にこちらを向いた。



「くっ、コボルドの分際でわたくしに手を焼かせないで下さいな!」
 エステルは敵陣の正面へと躍り出て、次々に飛び込んでくるコボルトの攻撃を受け、躱し、時に叩き落としながらゆっくりと後退していく。その、長柄の利点を全く活かすことのないこじんまりとした動きは、それを嘲る敵の気勢を増していくのに充分だ。
「おらよ、っと!」
 その横で、ヴァイスは大剣を真っ直ぐに振り下ろす。風を斬る大剣はコボルドの腹を掠め、地面に突き刺さる。それを引き抜くのに、一瞬の努力を必要とした。
 そして苦労して引き抜いた大剣は、また同じ剣筋をなぞるように振り下ろされる。コボルドは笑いながら、ひょいと攻撃を避けては棍棒を振りかぶっていった。
「……ち、めんどくせェな」
 呟いて、ロクスは盾で棍棒を受け止めている。攻撃を捨て、足元を固め、ガッチリと盾を構えて防御に専念する。
 コボルドは、ロクスとは逆に防御を捨てて次々に殴りかかってくる。徐々にロクスが後退すれば、それは一層激しくなっていった。
「もう少しだ、頑張ろう」
 ザレムは弓や銃を使い、前衛の三人を援護していた。後退しながら、トラックに近づく敵を優先して狙い、こちらに注意を向ける。
「は~い、そっち側は通行止めよぉ。あ、ザレム、反対側の対処、お願いできる?」
 葵のアースバレットが着弾し、岩場に穴を穿つ。飛散した礫に敵の足が止まれば、葵の思う壺だ。敵は葵の思う通りに進路を変え、回り込もうという意思を簡単に刈り取られていく。
「ああ、任せろ」
 一番後ろで戦場を見渡す葵の指示に、ザレムが頷いた。
 そうして囮役のハンター達は、ゆっくりと敵を採石場の主要部から引き離していく。



 崖の上への移動は、それほど難しいものではなかった。切り崩すつもりの岩山だからか、拓かれた山道が上まで続いている。
 ハンター達は軍の二人に連れられ、その道に沿って崖の上に辿り着いていた。軍の二人がこちらに来たのは、奇襲は大勢で行う方が効果が高いという二人の意見があったからだ。
「おー、ここからなら行けそうっすね!」
 戦場を迂回し、小走りに登った山頂で馨は目を見張った。眼窩には、地面を埋め尽くさんばかりの茶色の毛玉がうようよ蠢いている。
「ふむ、爆薬は……あれか」
 レイスは、切り取られ少しへこんだ岩場の穴の中に、爆薬の入った木箱が置き去れているのを発見する。ゴブリン達はそれを理解しているのか、近くに座り、コボルド達の様子を肴に何かの肉で宴会でも開いているようだ。
「よーし、そろそろかな! みんな、準備はいい?」
 同じく崖下を覗き込みながら、リィフィが四人に問いかける。
 全員が武器を構え、頷く。リィフィはそれを見届けると、ゴソゴソと魔導短伝話を取り出し、ポンと元気よく通話のボタンを押した。



 伝話のベルが、戦場に鳴り響いた。その瞬間、ロクスは叫ぶ。
「よっしゃァ、お遊戯の時間は終わりだ!」
 同時に、殴りかかってきていたコボルド達を、盾を振り回して弾き飛ばした。
 そして流れるように、マテリアルの込もったロクスの大包丁が薙ぎ払われる。一瞬にして、コボルドが血溜まりの中に沈んだ。
 何が起こったのか、コボルド達は理解できない。動きを止め、声を出すことも忘れ、一瞬、時が止まったように固まってしまう。
「何処を見ている、さっきまでの威勢はどうした!」
 そこに向け、ヴァイスは注意を引く声と共に地面に刺さった大剣を苦もなく引き抜き、
「ふんっ!」
 気合一閃。軽々と幾つもの剣撃を繰り出し、その一撃一撃は、軽々と敵を斬り飛ばしていく。
 そしてコボルドは、ようやく事態を悟ったらしい。いきり立ち、汚い声を上げて棍棒を振りかざし始めた。
「遅いです!」
 ルフルフゴルルルと威嚇の咆哮を上げ、エステルが後退から一転、大きく前に踏み出した。
 槍の扱いなどお手の物。薙ぎ払う穂先は獅子の爪、体重を乗せた突きは牙の如く、
「さあ、真に帝国の遺児たるわたくしの餌になりなさい!!」
 全ての攻撃に獅子の力を込めて、一気呵成に食らい付く。
「あら、あたしもそろそろ、本気、出しちゃっていいのかしら」
 エステルの気迫に、コボルド達の戦意は失われていく。
 しかし追い打ちを掛けるように、葵の杖が煌めいた。灯った炎は蠢いて、貫く矢となり放たれる。
「あなた達、さっきから臭うのよ。あたしに近寄らないでくれる?」
 過たず胴を貫かれたコボルドは、思わず灼熱の悲鳴を上げた。



 囮班が攻勢に転ずると同時に、奇襲班も崖を駆け下りる。特に、足にマテリアルを込めた馨の動きは飛び降りているかのような速さだ。
「奇襲成功っすよ!」
 ほんの一秒もあっただろうか、ゴブリンがその声に振り返る暇すら与えない。振るった鞭はより洗練された軌道を描いて、音速を超える先端が精緻に敵の頭部を弾く。
「さて――戦場舞踏を始めよう」
 次いで同じく足に力を込めたレイスは、最も爆薬の近くに居座っていたゴブリンの脳天に、崖を駆け下りる勢いも乗せて攻撃を浴びせた。振りかかるのは、確実な一撃だ。
 マテリアルによって緻密に制御された槍の穂先は狂いなく、敵の頭を徹底的に破壊した。
「もー、レイスも無限も速すぎるよー」
 遅れてリィフィは、着地と同時に刀を振るっていた。マテリアルを筋力に偏重させた一撃は、小柄な体格からは想像も付かない威力で以って野犬に乗ったゴブリンに襲いかかる。
 その小さな目では、最後の瞬間でも彼女の姿すら捉えられなかったかもしれない。大きく体を斬り裂かれ、ゴブリンは力なく野犬から転がり落ちる。驚いた野犬がぎゃんと鳴くと、残った三匹の野犬の体がビクリと震えた。
 軍の二人は、支援に徹することに決めたようだ。崖から降りると弓を持つゴブリンや、そこらのコボルトに斬りかかる。二人共がかなりの腕前で、随分と頼りになりそうだ。

 ハンター三人は連携し、次々に襲い来る敵を撃破していく。
 鞭で弾き、斬り裂き、貫いて、時折飛んでくる矢や機動力のある野犬に苦労するものの、それ程の損傷もなく。奇襲により戦場を駆け抜けた混乱も、大きな効果を発揮しているようだ。
「可哀想っすけど!」
 馨は最後の、野犬に乗ったゴブリンに鞭を振るう。鼻面を強く叩かれた野犬は身を捩り、背に跨る主人を取り落とす。
 その隙に思い切り踏み込んでたレイスが、殊更に大きく槍でゴブリンを貫いた。
「貴様らに逃げ場は無いと知れ! ――さあ、死にたい奴からかかって来い!!」
 そして声を張り、威嚇する。ゴブリン達が戦意を失い、逃げ出そうとした矢先の事だ。
「うーん、強襲班も大丈夫そうだけど……」
 リィフィが辺りを見渡す。
 敵の数が多すぎて、戦場は泥沼状態だった。ゴブリン達はもうコボルドを盾にし始め、近づくのにも苦労する。
「やっぱりトラックを……あれ?」
 そしてリィフィが、最後の手段を考え始めた時だ。トラックに、誰かが乗り込む姿を見た。



 ザレムは一人、奇襲と同時に戦場から離れていた。
 敵の意識に入らないよう大きく迂回したため多少の時間は掛かったが、問題なくトラックに辿り着く。
「……よし、充分動きそうだ」
 乗り込み、トラックの状態を確認する。損傷も特に見当たらない。
 ザレムは、薄汚れたフロントガラス越しに戦場に目をやる。既にコボルド達の戦意はほぼ失われ、固まって逃げようとする一団が現れ始めたようだ。
 ……丁度いい。
 刺さったままのキーを捻り、エンジンに火を入れる。
 同時に、ザレムは思い切りアクセルを踏み込んでいた。ぐんと僅かなGと共に、トラックは急発進する。その先にいるのは、コボルドの集団だ。
 数秒のドライブを楽しんだ次の瞬間――ドバドバと、フロントガラスが真っ赤に染まった。



「いやー、無茶すんねお前ら!」
 ヴァルターが、大きく笑ってザレムの肩を叩く。
 後の殲滅戦は、成功を収めたと言っていいだろう。トラックの突撃により恐慌を起こした亜人達は、最早ただのカカシに過ぎなかった。とはいえ、コボルドの一部は全力で逃げに走ってしまったため、取り逃すことになってしまったが。
 それでも、ヴァルターは異様に上機嫌だ。というのも、依頼主であるロジーナが、リィフィの説得により軍人二人の報酬も支払うと約束してくれたからだ。
「モラルの低い兵が居ることを突けば、譲歩を引き出せるんじゃないか?」
 伝話越しのレイスの忠告に、ロジーナは分かっていないなと苦い声を返した。
『第二師団っていうのはね、モラルの高い兵が珍しいくらいなのよ。独断専行程度、むしろ褒められることもあるくらいだわ』
 大きな溜息は、彼女の苦悩を表していた。
『ともかく、二人分の報酬も支払います。例え押し付けられたものでも、恩を返さないのは商人の名折れだものね。……資金に余裕は無いから、一人分を二人で分けてもらうことになるけど』
「あァ、無いよりマシだろ。しけた報酬が更に半分てのも、割に合うのか知らねェが」
 くっくと、ロクスが喉を鳴らす。
「だがまあ、俺達も助けてもらったんだ。報酬といってはあれだが……気持ちとしてこれをもらってくれ」
「……いや、俺達は勝手に首を突っ込んだだけだ。報酬を貰えるだけでもありがたいよ」
 そう言って酒と弁当を渡すザレムにオウレルが首を横に振ると、
「貰えるものは貰っとけばいいんすよ!」
 馨が軽い調子で背中を押した。
「でも、採石場も血まみれになっちゃって……資金繰りも大変でしょうに」
 分かるわぁと、葵も自らの経験から同情を禁じ得ない。
「それにしてもあのゴブリンさん達、ちょっと野性味が足りなかったわね」
 エステルはその横で、戦闘の余韻に浸っている。
「まあ、エステルに比べたらねー」
「ええ、負ける気がしないですね!」
 リィフィの言葉に、エステルは大きく胸を張った。

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MVP一覧

  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズールka0878

重体一覧

参加者一覧

  • 人の上下に人を造らず
    ロクス・カーディナー(ka0162
    人間(紅)|28才|男性|闘狩人

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • スピードスター
    無限 馨(ka0544
    人間(蒼)|22才|男性|疾影士
  • その名は
    エステル・L・V・W(ka0548
    人間(紅)|15才|女性|霊闘士
  • 幻獣王親衛隊
    ザレム・アズール(ka0878
    人間(紅)|19才|男性|機導師
  • 愛しい女性と共に
    レイス(ka1541
    人間(紅)|21才|男性|疾影士
  • 黒狼の戦神楽
    リィフィ(ka2702
    人間(蒼)|14才|女性|霊闘士
  • 面倒見のいいお兄さん
    沢城 葵(ka3114
    人間(蒼)|28才|男性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼相談スレッド
ロクス・カーディナー(ka0162
人間(クリムゾンウェスト)|28才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/11/20 10:30:23
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/11/16 21:41:05