ゲスト
(ka0000)
草原の暗殺者
マスター:一要・香織
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 5~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2018/02/11 19:00
- 完成日
- 2018/02/17 02:15
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
空は何処までも高く、草原はどこまでも続く……。
のどかな風景に溶け込んだこの村は酪農が盛んで、人々は牛や羊、豚に鶏などを育て生計を立てていた。
「さてさて、今日も始めるかね」
その村に住む若者バルトは、牛小屋の扉を開けた。
部屋の様に区切られた柵を外していくと、牛たちは待ってましたと外へ駆けていく。
その後を、バルトの足元をウロチョロしていた犬のセスが追いかけた。
日中、小屋の掃除をする間、牛たちは広大な草原へと放される。
牛たちは思い思いに歩き回り、牧草を食べ、眠り、ストレスのない生活を送っていた。
しかし、あまり遠くまで行かないよう、セスが牛を誘導しているのだった。
今日は日差しが温かく、風は穏やかで程よい湿度を纏っている。
バルトはフォークを手に取ると、床の上に敷き詰められていた藁をかき集め始めた。
フォークで掬い外に投げると、新しい藁を敷き始める。
バサリと降ろした干し草からは香ばしい匂いがふわりと漂い、鼻腔をくすぐった。
「よし。これで牛たちも気持ちよく眠れるな」
整えられた牛たちの寝床を眺め、バルトが息を吐いた――その時、
「ワンワンワンワン!!」
セスの激しい吠え声が聞こえ、バルトは振り向いた。
息を切らせ全力で駆け寄るセスの様子は、怯えているようにも見える。
「セス、どうしたんだ? 牛が遠くまで行っちまったか?」
しゃがみ込んだバルトは首を傾げ、セスに問いかけるが、
「ワンワンワン!」
セスは変わらず激しく吠えるだけだ。
バルトは困った様にガシガシと頭を掻くと、ゆっくりと腰を上げた。
そして、
「っ!」
セスの尻尾が赤く染まっている事に気付いた。
「セス、怪我したのか?」
バルトは急いでセスの尻尾を見てやるが、触っても痛がる様子はない。
よくよく見ても傷は見当たらなかった。
「この血はどこで付けてきたんだ?」
もう一度セスに問うと、
「クゥ―ン」
セスは悲しげに一つ鳴き、バルトのズボンの裾を引っ張り始めた。
まるで、ついて来い、そう言わんばかりにグイグイと引く。
「わかった。分かったから」
バルトは仕方なさそうに、駆け出したセスの後を追った。
セスは村を出て草原を走り、小高い丘の上で止まった。
「ここに何があるんだ?」
追いついたバルトがセスの隣に並び、セスの視線を辿るように丘の下を見た。
「なっ……」
そして、目にした光景に息を飲んだ。
今朝放した牛たちが……血まみれで倒れている……。
その側には緑色の不気味な生物……。
大きさは大人ほどだろうか……、身体の所々に赤い模様が付いている。
「なんだ……あれは……」
隠れる様に身を低くしたバルトはその不気味な生物を凝視した。
背を向けていた緑色の生物が、次の獲物を探すように……振り向く。
そのことで、その生き物が何なのかはっきりと確認できた。
「カマ、キリ……?」
三日月の様な弧を描く腹は、何が入っているのかと疑問に思うほどに膨らみ、その重そうな腹、そして大きな体を支える足は太く、長い。
不釣り合いなほどに小さな頭には鋭く光る眼があり、牙の様な口は血に染まって見る者の恐怖を煽った。
そして何よりも目を引くのは……カマキリの最大の特徴とも言える、鎌、だろうか。
このカマキリが掲げる鎌は、昆虫のそれとはまるで違った。
眼前のカマキリの鎌は、刀剣の様だった。
「ブ―――ン」
低い羽音が辺りに響き、新たなカマキリが姿を見せた。
随分と離れた所にいた牛の側に降り立ったカマキリは、その刀剣の腕を素早く動かした。
刹那、牛からは血飛沫が上がり、カマキリの足元にゴロリと――牛の頭が転がった。
一撃で、牛の首を切り落としてしまった……。
カマキリはドサリと倒れて動かなくなった牛に、何度も何度も腕を振り下ろした。
バルトは唇を噛み締めて立ち上がると、近くにいる牛たちを追い立てなんとか小屋に戻したのだった。
のどかな風景に溶け込んだこの村は酪農が盛んで、人々は牛や羊、豚に鶏などを育て生計を立てていた。
「さてさて、今日も始めるかね」
その村に住む若者バルトは、牛小屋の扉を開けた。
部屋の様に区切られた柵を外していくと、牛たちは待ってましたと外へ駆けていく。
その後を、バルトの足元をウロチョロしていた犬のセスが追いかけた。
日中、小屋の掃除をする間、牛たちは広大な草原へと放される。
牛たちは思い思いに歩き回り、牧草を食べ、眠り、ストレスのない生活を送っていた。
しかし、あまり遠くまで行かないよう、セスが牛を誘導しているのだった。
今日は日差しが温かく、風は穏やかで程よい湿度を纏っている。
バルトはフォークを手に取ると、床の上に敷き詰められていた藁をかき集め始めた。
フォークで掬い外に投げると、新しい藁を敷き始める。
バサリと降ろした干し草からは香ばしい匂いがふわりと漂い、鼻腔をくすぐった。
「よし。これで牛たちも気持ちよく眠れるな」
整えられた牛たちの寝床を眺め、バルトが息を吐いた――その時、
「ワンワンワンワン!!」
セスの激しい吠え声が聞こえ、バルトは振り向いた。
息を切らせ全力で駆け寄るセスの様子は、怯えているようにも見える。
「セス、どうしたんだ? 牛が遠くまで行っちまったか?」
しゃがみ込んだバルトは首を傾げ、セスに問いかけるが、
「ワンワンワン!」
セスは変わらず激しく吠えるだけだ。
バルトは困った様にガシガシと頭を掻くと、ゆっくりと腰を上げた。
そして、
「っ!」
セスの尻尾が赤く染まっている事に気付いた。
「セス、怪我したのか?」
バルトは急いでセスの尻尾を見てやるが、触っても痛がる様子はない。
よくよく見ても傷は見当たらなかった。
「この血はどこで付けてきたんだ?」
もう一度セスに問うと、
「クゥ―ン」
セスは悲しげに一つ鳴き、バルトのズボンの裾を引っ張り始めた。
まるで、ついて来い、そう言わんばかりにグイグイと引く。
「わかった。分かったから」
バルトは仕方なさそうに、駆け出したセスの後を追った。
セスは村を出て草原を走り、小高い丘の上で止まった。
「ここに何があるんだ?」
追いついたバルトがセスの隣に並び、セスの視線を辿るように丘の下を見た。
「なっ……」
そして、目にした光景に息を飲んだ。
今朝放した牛たちが……血まみれで倒れている……。
その側には緑色の不気味な生物……。
大きさは大人ほどだろうか……、身体の所々に赤い模様が付いている。
「なんだ……あれは……」
隠れる様に身を低くしたバルトはその不気味な生物を凝視した。
背を向けていた緑色の生物が、次の獲物を探すように……振り向く。
そのことで、その生き物が何なのかはっきりと確認できた。
「カマ、キリ……?」
三日月の様な弧を描く腹は、何が入っているのかと疑問に思うほどに膨らみ、その重そうな腹、そして大きな体を支える足は太く、長い。
不釣り合いなほどに小さな頭には鋭く光る眼があり、牙の様な口は血に染まって見る者の恐怖を煽った。
そして何よりも目を引くのは……カマキリの最大の特徴とも言える、鎌、だろうか。
このカマキリが掲げる鎌は、昆虫のそれとはまるで違った。
眼前のカマキリの鎌は、刀剣の様だった。
「ブ―――ン」
低い羽音が辺りに響き、新たなカマキリが姿を見せた。
随分と離れた所にいた牛の側に降り立ったカマキリは、その刀剣の腕を素早く動かした。
刹那、牛からは血飛沫が上がり、カマキリの足元にゴロリと――牛の頭が転がった。
一撃で、牛の首を切り落としてしまった……。
カマキリはドサリと倒れて動かなくなった牛に、何度も何度も腕を振り下ろした。
バルトは唇を噛み締めて立ち上がると、近くにいる牛たちを追い立てなんとか小屋に戻したのだった。
リプレイ本文
緩やかな風に遊ばれ涼やかな音を立てていた草たちが、丘を駆け降りた強い風に波立った。
「食べる為でもなく、ただ殺すだけですか……なるほど」
青々と茂る草原を見つめ鳳城 錬介(ka6053)は顔を顰めて呟いた。
「ああ、酷い真似しやがって……こんな雑魔を野放しにしてはおけねえ」
ジャック・エルギン(ka1522)も同調するように頷いた。
ハンター達に向かって吹いた一陣の風は錆の様な生臭さを纏い、ハンター達を酷く不快な心地にさせた。
「牛の首を一撃で落とすカマキリか……。油断すれば私達も……だな」
言葉にしてレイア・アローネ(ka4082) は僅かに身体を強張らせた。
皆が凄惨な光景を思い描いたのだろうか、――少しの沈黙が流れた。
「……村まで被害が及んでいないのは不幸中の幸いだな……。それでも……」
村人たちの心情を察し、鞍馬 真(ka5819)が悲痛な表情を浮かべ言葉を切ると、
「許せんな……」
多田野一数(ka7110)が全員の気持ちを代弁するようにポツリと零した。その言葉に全員が頷く。
「人々の生活がかかっているんですもの、負けられません」
リン・フュラー(ka5869)は土蜘蛛を強く握り締め、その心強い存在を確かめる。
「行きましょう」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)の凛とした声が、自らを鼓舞する様に響き渡った。
ハンター達は二手に分かれると、村を背に捜索を開始した。
ドッドッドッドッ……低い唸りを上げる重魔導バイクに跨りながらマリィア・バルデス(ka5848)は口を開いた。
「飛ぶのが苦手らしいって話があったじゃない? だとしたら遭遇時と逃亡時以外は飛ばなそうだから、接近担当者で充分倒せるんじゃないかしら」
言葉ではそう言うものの、マリィアの瞳は鋭く光る。
「はっ、むしろ飛ぶなんて選択をする前に倒してやるよ」
ジャックも不敵な笑みを浮かべ、騎乗した愛馬の手綱を強く引いた。
馬は後ろ足で棹立つと、ヒヒィ―ンと嘶き大きく跳躍する。
レイア、錬介もそれを合図に走り出し後尾を守る様にマリィアが続く。
「居たかい?」
錬介の問いに耳を傾けながら、ジャックは双眼鏡を覗き込む。
前方の少し背の高い茂みに、目標のカマキリを発見した。
「ああ、2匹……か?」
「少ないわね……」
その数にマリィアはぼやく。
カマキリの緑色の身体は草に溶け込み、その姿をうまく隠していた。
「こちらにはまだ気付いていないようだな」
レイアは瞳を細め、陽の光に煌めく草原の中を睨みつける。
「援護する」
錬介はそう言うと祈るように両手を組んだ。
途端、レイアの周りの空気がキラリと瞬き、柔らかな光の障壁に包まれる。
その瞬きを理解した瞬間、レイアは駆け出した。
一拍早く、騎乗したジャックが飛び出し、チャージングからの強烈な打撃をカマキリに叩き込んだ。
その勢いに、カマキリたちは警戒し姿勢を僅かに低くする。
カマキリの意識がジャックに向いている隙を狙い、間合いに踏み込んだレイアが渾身撃を打ち込んだ。
腹の部分に直撃し倒れ込んだカマキリは、起き上がると直ぐ様レイアに向かい鎌の両手を振り上げる。
刹那、その振り下ろされた鎌が、跳ね返されるように爆発した。
後方でバビエーカを銃架代わりにし、オイリアンテMk3を構えたマリィアが妨害射撃を放ったのだ。
「レイア、鎌ばっかに気を取られんなよ。噛みついてくんぞ!」
今まさにカマキリの鎌を抑え込んでいるジャックにカマキリの鋭い顎が迫りつつあった。
「ああ、心得ている」
レイアはそう言い放つとカマキリの攻撃をいなし、睨み合う。
カマキリの予想外の力に、ジャックが奥歯を噛み締めると、フワリと柔らかな光が包み込んだ。
錬介が、レイアに続きジャックにもアンチボディを唱えたのだ。
「サンキュー」
そう呟きながら、ジャックはカマキリを力尽くで押し返した。
ジャックとカマキリの間に僅かな距離が生じた――その瞬間、空気を震わすような轟音と共にマリィアのMk3から飛び出した弾丸が、ジャックの前のカマキリの頭部に直撃した。
頭半分を失ったカマキリはフラフラと踏鞴を踏む。
その好機を逃さず、ジャックはアニマ・リベラを大きく振りかぶり勢いよく振り抜いた。
ギラリと陽の光を反射させた剣がピタリと動きを止めると同時に、カマキリの身体はボロボロと崩れ出した。
ジャックがフッと息を吐いた瞬間、視界に新たなカマキリの姿が映る。
レイアの背後から忍び寄り、飛び掛かる隙を窺っている様だ。
しかし、ジャックが手綱を引くより早く、
「暗黒で鍛えられし無数の刃よ、――我が敵を貫け!」
錬介が唱えたプルガトリオが跳躍しようと腰を落としたカマキリに突き刺さる。
身体を貫いたいくつもの刃は一瞬にして消え失せたが、カマキリは縫い付けられた様にその場から動けなくなった。
刹那、マリィアがハウンドバレットを放ち変則的に風を切った弾丸は、でっぷりと膨らんだカマキリの腹を貫通した。
「本物のカマキリと同じでお腹が柔らかかったりするのかしらね」
マリィアが呟くと、それを確かめる間もなく、カマキリは塵となって風に攫われてしまった。
「更なるカマキリは居ないようだね」
確認するように辺りを見回した錬介の言葉を受け、誘き寄せるためにカマキリと対峙していたレイアは一度飛び退いた。
「お前に、もう用はない」
レイアの冷やかな言葉に怒ったのか、カマキリは身体を左右に揺らし、じりじりと間合いを詰めだした。
そして、まるでその時を待っていたかのように、ザァッと強い風が吹き抜けた瞬間、葦の様に細長い葉が翻るが如く、素早く腕を伸ばしてきた。
その腕の鎌はレイアを掠めると直ぐに戻され、再び身体を左右に揺らす。
レイアは自身の左腕を走る赤い血筋を一瞥すると、頭の高さで剣を横たえて構え、低く腰を落した。
―――――瞬く速さで踏み込むと、刺突一閃、カマキリの身体を貫いた。
鈍い感覚が魔剣を通して掌に伝わると、レイアは更に魔剣を振り下ろす。
腹と比較すると随分と細い胴体が、両断された。
ドサリッ……草の上に倒れたカマキリは、あっという間に塵となり、―――四散した。
二手に分かれ、村を囲うように捜索するため、真、エラ、リン、一数はジャック達の班から少し距離を空けた場所から、時計回りで捜索を始めた。
「このまま進めば村の反対側で合流できるわね」
風に遊ばれて顔に掛かる髪を抑えながら、エラが呟いた。
「ええ、取りこぼさない様に注意しましょう」
リンが力強く頷くと、ハンター達は四方を警戒しながら歩き始めた。
暫らく歩くと擦れあう葉の音に混ざり、小さく、ブ―――ンという低い羽音が聞こえてきた。
「結構近いみたい……」
エラの言葉に眉を顰めた一数が、素早く双眼鏡を覗き込む。
グルリと辺りを見回した一数は少し先の林に視線を向けて、動きを止めた。
「そこの林に居るぞ」
双眼鏡を外した一数は、真、エラ、リンと目配せし合うと、皆は気配を殺して駆け出した。
林と草原の狭間に2匹。
どちらも獲物を探すように、キョロキョロと辺りを窺っていた。
真は静かに息を吐き剣心一如で呼吸を整えると、大きく踏み込んで自分の間合いに飛び込んだ。
攻撃の隙など与えず、腰を落すと身体を捻り魔導剣で斬り上げる。
斬り上げの瞬間、魔導剣は地面を擦り、その勢いで飛んだ火花は魔導剣を包み込んだ。
紅蓮の炎を纏い走った剣は、カマキリを両断し赤い軌跡を残す。
カマキリは一瞬炎に包まれ、炎がパッと消えると、陽炎の様に揺らめく黒煙を残してその存在は消え去った。
真に後れを取らず駆け出したリンも、もう1匹を鋭く睨み土蜘蛛を抜き放った。
舞踏の様に円を描く動きでカマキリの鋭い鎌を受け流すと、その瞬間、林の暗がりから新たに2匹、カマキリが姿を現した。
1匹は威嚇するように羽を広げて小刻みに震わせ、周囲の空気まで振動させる低い音が、ハンター達の耳に不快感を与える。
受け流したカマキリの再びの攻撃を大太刀で受け止めていたリンに、新たに現れたカマキリの意識が向いた。
リンの側の木に素早く移動すると、その鋭い鎌を大きく振り抜く。
細いとは言え、鎌は木の幹を切断してしまった。
倒れ様、枝はリンの肌を強く打ちつける。
「わっ!」
驚きに飛び退ったリンが目を見開いた刹那、エラの制圧射撃の弾幕がカマキリの動きを制した。
「多田野、援護するぞ」
不敵な笑みを浮かべエラが呟くと、
「こっちは任せろ」
エラと連携した一数が、駆け抜け様リンに声を掛けた。
足止めされたカマキリは警戒するように身体を揺らし始める。
その揺らぎのリズムを絶つ様に、疾風の如く強烈な突きでカマキリを貫く。
一数はその攻撃の流動を保つ不留一歩で、次の状況に備えると、その様子を横目で確認したリンは、再び大太刀を構えた。
先刻対峙したカマキリは、手招きする様に鎌の腕を振っている。
挑発でもしているのだろうか……。
エメラルドの様な緑の瞳を僅かに細め、リンは手招くカマキリに踏み込んだ。
振りあげた大太刀を振り下ろす瞬間、リンは柄頭を強く引きその勢いを増長する。
鋭い一撃を繰り出すと、その斬撃を繋ぐように再び大太刀は翻り、射し込んだ陽の光に刃はギラリと輝きその存在を主張した。
ズシリとした感触にリンがゆっくりと顔を向けると、目の前のカマキリは土塊の様に崩れ始めた。
羽を震わせ不快な音をさせるカマキリに向かい、エラは三散を唱えた。
「聖なるトライアングルにその身を貫かれろ!」
影を落とす林の中でさえ鮮明に照らすほどの眩い三角形が空中に描かれると、それぞれの頂点から伸びた光の矢が、カマキリを貫く。
エラの三散とほぼ同時にカマキリの背後から気配を消して近付いた真は、地面に縫いとめる様にカマキリの腹に魔導剣を突き立てた。
「この大きな腹は産卵でも控えているのか? 産み出されるカマキリも雑魔だと言うのに……」
惨劇を繰り返す訳にはいかない……その強い意志を瞳に宿し真は静かに呟いた。
エラと真の攻撃にビクリと身体を強張らせたカマキリは、攻めの構えを崩さずにいた一数の一撃にその身体を塵へと変えた。
二手に分かれたハンター達は、間もなく出発地点の反対側に辿りつこうとしていた。
「ここまで合わせて7匹か……」
別班からの情報をまとめていたマリィアが口を開くと、
「前方に敵影だ!」
レイアの険しい声が響いた。
草に紛れる様に佇む1匹のカマキリは、自らの鎌を手入れするようにその腕を舐めている。
「あら、ご馳走でも食べたのかしら?」
眉間に皺を寄せ嫌忌を露わにしながら、マリィアは連続して射撃を行った。
マリィアの射撃と同時に左右から回り込んだジャックとレイアは動きを封じられたカマキリを睨みつける。
挟み込まれた状態のカマキリは自棄になったのか、メチャクチャに鎌を振り回し始めた。
その捨て身の攻撃をレイアの魔剣が受け止めると、隙が出来た背中に向かいジャックが剣を振り下ろす―――刹那、カマキリは振り向き一方の鎌を一閃させた。
鎌は騎乗したジャックの脚を掠めその肌に赤い雫を描いた。
ジャックは予想外の反撃に目を見張るも、ニヤリと笑い馬上から斬撃を放った。
カマキリの頭は地面を転がり、直後塵に変わる。
少し先の方から、喧騒が聞こえ始めた――。
「あっちでも戦闘が始まったみたいだよ」
錬介の言葉に、皆は直ぐに走り出した。
血痕を追う様に草原を走っていたハンター達の目に、カマキリの姿は飛びこんできた。
姿は3つ。
「見つけましたよ」
リンの怒気を纏う声が、ハンター達の士気を上げた。
「逃がさないから」
エラが制圧射撃を行うと、カマキリ達はそれぞれに警戒や威嚇を始めた。
駆け寄る流れを生かした足取りで円舞を舞うと、リンは縦横無尽に刃を翻す。
同時に踏み込んだ真も横一閃に剣を振るった。
エラは制圧射撃から続け様跳弾を放ち、予測不能の弾道はカマキリの意識を錯乱させ、身体を支える長い足の付け根を打ち抜いた。
そのタイミングに合わせる様に踏み込んだ一数の斬撃は体勢を立て直したカマキリの鎌とかち合った。
均衡する力に刃が飛び跳ね、奥歯を噛んだ一数は飛び退く。
しかしその瞬間、鋭く伸ばされた腕の鎌が一数の手首を切りつけた。
顔を顰めた一数だが、身体を捻ると遠心力に任せ剣を薙いだ。
それはカマキリの胴を横切り――両断した。
リンは一度距離をとると大太刀を構え直した。
どちらも隙を与えず睨み合っていると、眼前のカマキリの周りに無数の闇のナイフが現れ一斉にカマキリを貫き始めた。
その刃が消える間もなく、リンは大太刀を振り下ろす。
両目の間を駆け抜けた刃は、カマキリを真っ二つにした。
「錬介さん、ありがとうございます」
駆け付けた錬介の援護に、リンは笑みを浮かべた。
真は一際大きなカマキリと対峙していた。
白刃を煌めかせて振り下ろした真の一撃は鎌で受け止められ、もう片方の鎌がかち合う剣を抱え込んだ。その拍子に鎌は真の胸元に当たり、胸に赤い血が流れる。
「くっ……」
眉を顰めた真に向かいカマキリは鎌を横に薙いだ。
その動きに合わせて屈んだ真の髪がフワリと宙を揺蕩い、鋭く光った鎌に、髪は一房切り落されてしまった。
「っ!」
地面に散らばる絹の様な黒髪を目にした真の片眉が、ピクリと動いた。
未だに魔導剣を抱え込むカマキリに勢いよく蹴りを叩き込んで引き剥がすと、素早く納刀しマテリアルを練る。
その時間を稼ぐ様に、エラの撃った跳弾と、マリィアの撃ったハウンドバレットがカマキリの腹を交差して貫通した。
激昂した様にカマキリは両の鎌を振り上げた。
「そろそろ終わりにしようか」
真の温度をもたない声色の言葉。それと共に繰り出された斬撃によって、カマキリは消滅した。
ハンター達は付近を更に捜索し、新たなカマキリが居ない事を確認すると村へと戻った。
「埋葬を手伝ってくれてありがとな。助かったよ」
意外にもバルトは穏やかだった。
「バルトさん……大丈夫ですか?」
一数が尋ねると、バルトは、あぁ、と答えた。
「動物達の死は無駄にはしねぇよ」
バルトは埋葬した赤土の覗く草原を見渡した。
「彼奴らは大地に還り、やがて草となって動物達の糧になる。そうやって命は巡ってくんだよな」
少し憂いの帯びた表情で草原を見据えると、バルトはハンター達に向き直った。
「もう行くんだろ? あんたらも気を付けてな」
そう言ったバルトの瞳には力強い光が宿っている。
「ああ、またな」
ハンター達はそういうと背を向け歩き始めた。
大地に生きる者の逞しさを感じ、頬を緩めながら――――。
「食べる為でもなく、ただ殺すだけですか……なるほど」
青々と茂る草原を見つめ鳳城 錬介(ka6053)は顔を顰めて呟いた。
「ああ、酷い真似しやがって……こんな雑魔を野放しにしてはおけねえ」
ジャック・エルギン(ka1522)も同調するように頷いた。
ハンター達に向かって吹いた一陣の風は錆の様な生臭さを纏い、ハンター達を酷く不快な心地にさせた。
「牛の首を一撃で落とすカマキリか……。油断すれば私達も……だな」
言葉にしてレイア・アローネ(ka4082) は僅かに身体を強張らせた。
皆が凄惨な光景を思い描いたのだろうか、――少しの沈黙が流れた。
「……村まで被害が及んでいないのは不幸中の幸いだな……。それでも……」
村人たちの心情を察し、鞍馬 真(ka5819)が悲痛な表情を浮かべ言葉を切ると、
「許せんな……」
多田野一数(ka7110)が全員の気持ちを代弁するようにポツリと零した。その言葉に全員が頷く。
「人々の生活がかかっているんですもの、負けられません」
リン・フュラー(ka5869)は土蜘蛛を強く握り締め、その心強い存在を確かめる。
「行きましょう」
エラ・“dJehuty”・ベル(ka3142)の凛とした声が、自らを鼓舞する様に響き渡った。
ハンター達は二手に分かれると、村を背に捜索を開始した。
ドッドッドッドッ……低い唸りを上げる重魔導バイクに跨りながらマリィア・バルデス(ka5848)は口を開いた。
「飛ぶのが苦手らしいって話があったじゃない? だとしたら遭遇時と逃亡時以外は飛ばなそうだから、接近担当者で充分倒せるんじゃないかしら」
言葉ではそう言うものの、マリィアの瞳は鋭く光る。
「はっ、むしろ飛ぶなんて選択をする前に倒してやるよ」
ジャックも不敵な笑みを浮かべ、騎乗した愛馬の手綱を強く引いた。
馬は後ろ足で棹立つと、ヒヒィ―ンと嘶き大きく跳躍する。
レイア、錬介もそれを合図に走り出し後尾を守る様にマリィアが続く。
「居たかい?」
錬介の問いに耳を傾けながら、ジャックは双眼鏡を覗き込む。
前方の少し背の高い茂みに、目標のカマキリを発見した。
「ああ、2匹……か?」
「少ないわね……」
その数にマリィアはぼやく。
カマキリの緑色の身体は草に溶け込み、その姿をうまく隠していた。
「こちらにはまだ気付いていないようだな」
レイアは瞳を細め、陽の光に煌めく草原の中を睨みつける。
「援護する」
錬介はそう言うと祈るように両手を組んだ。
途端、レイアの周りの空気がキラリと瞬き、柔らかな光の障壁に包まれる。
その瞬きを理解した瞬間、レイアは駆け出した。
一拍早く、騎乗したジャックが飛び出し、チャージングからの強烈な打撃をカマキリに叩き込んだ。
その勢いに、カマキリたちは警戒し姿勢を僅かに低くする。
カマキリの意識がジャックに向いている隙を狙い、間合いに踏み込んだレイアが渾身撃を打ち込んだ。
腹の部分に直撃し倒れ込んだカマキリは、起き上がると直ぐ様レイアに向かい鎌の両手を振り上げる。
刹那、その振り下ろされた鎌が、跳ね返されるように爆発した。
後方でバビエーカを銃架代わりにし、オイリアンテMk3を構えたマリィアが妨害射撃を放ったのだ。
「レイア、鎌ばっかに気を取られんなよ。噛みついてくんぞ!」
今まさにカマキリの鎌を抑え込んでいるジャックにカマキリの鋭い顎が迫りつつあった。
「ああ、心得ている」
レイアはそう言い放つとカマキリの攻撃をいなし、睨み合う。
カマキリの予想外の力に、ジャックが奥歯を噛み締めると、フワリと柔らかな光が包み込んだ。
錬介が、レイアに続きジャックにもアンチボディを唱えたのだ。
「サンキュー」
そう呟きながら、ジャックはカマキリを力尽くで押し返した。
ジャックとカマキリの間に僅かな距離が生じた――その瞬間、空気を震わすような轟音と共にマリィアのMk3から飛び出した弾丸が、ジャックの前のカマキリの頭部に直撃した。
頭半分を失ったカマキリはフラフラと踏鞴を踏む。
その好機を逃さず、ジャックはアニマ・リベラを大きく振りかぶり勢いよく振り抜いた。
ギラリと陽の光を反射させた剣がピタリと動きを止めると同時に、カマキリの身体はボロボロと崩れ出した。
ジャックがフッと息を吐いた瞬間、視界に新たなカマキリの姿が映る。
レイアの背後から忍び寄り、飛び掛かる隙を窺っている様だ。
しかし、ジャックが手綱を引くより早く、
「暗黒で鍛えられし無数の刃よ、――我が敵を貫け!」
錬介が唱えたプルガトリオが跳躍しようと腰を落としたカマキリに突き刺さる。
身体を貫いたいくつもの刃は一瞬にして消え失せたが、カマキリは縫い付けられた様にその場から動けなくなった。
刹那、マリィアがハウンドバレットを放ち変則的に風を切った弾丸は、でっぷりと膨らんだカマキリの腹を貫通した。
「本物のカマキリと同じでお腹が柔らかかったりするのかしらね」
マリィアが呟くと、それを確かめる間もなく、カマキリは塵となって風に攫われてしまった。
「更なるカマキリは居ないようだね」
確認するように辺りを見回した錬介の言葉を受け、誘き寄せるためにカマキリと対峙していたレイアは一度飛び退いた。
「お前に、もう用はない」
レイアの冷やかな言葉に怒ったのか、カマキリは身体を左右に揺らし、じりじりと間合いを詰めだした。
そして、まるでその時を待っていたかのように、ザァッと強い風が吹き抜けた瞬間、葦の様に細長い葉が翻るが如く、素早く腕を伸ばしてきた。
その腕の鎌はレイアを掠めると直ぐに戻され、再び身体を左右に揺らす。
レイアは自身の左腕を走る赤い血筋を一瞥すると、頭の高さで剣を横たえて構え、低く腰を落した。
―――――瞬く速さで踏み込むと、刺突一閃、カマキリの身体を貫いた。
鈍い感覚が魔剣を通して掌に伝わると、レイアは更に魔剣を振り下ろす。
腹と比較すると随分と細い胴体が、両断された。
ドサリッ……草の上に倒れたカマキリは、あっという間に塵となり、―――四散した。
二手に分かれ、村を囲うように捜索するため、真、エラ、リン、一数はジャック達の班から少し距離を空けた場所から、時計回りで捜索を始めた。
「このまま進めば村の反対側で合流できるわね」
風に遊ばれて顔に掛かる髪を抑えながら、エラが呟いた。
「ええ、取りこぼさない様に注意しましょう」
リンが力強く頷くと、ハンター達は四方を警戒しながら歩き始めた。
暫らく歩くと擦れあう葉の音に混ざり、小さく、ブ―――ンという低い羽音が聞こえてきた。
「結構近いみたい……」
エラの言葉に眉を顰めた一数が、素早く双眼鏡を覗き込む。
グルリと辺りを見回した一数は少し先の林に視線を向けて、動きを止めた。
「そこの林に居るぞ」
双眼鏡を外した一数は、真、エラ、リンと目配せし合うと、皆は気配を殺して駆け出した。
林と草原の狭間に2匹。
どちらも獲物を探すように、キョロキョロと辺りを窺っていた。
真は静かに息を吐き剣心一如で呼吸を整えると、大きく踏み込んで自分の間合いに飛び込んだ。
攻撃の隙など与えず、腰を落すと身体を捻り魔導剣で斬り上げる。
斬り上げの瞬間、魔導剣は地面を擦り、その勢いで飛んだ火花は魔導剣を包み込んだ。
紅蓮の炎を纏い走った剣は、カマキリを両断し赤い軌跡を残す。
カマキリは一瞬炎に包まれ、炎がパッと消えると、陽炎の様に揺らめく黒煙を残してその存在は消え去った。
真に後れを取らず駆け出したリンも、もう1匹を鋭く睨み土蜘蛛を抜き放った。
舞踏の様に円を描く動きでカマキリの鋭い鎌を受け流すと、その瞬間、林の暗がりから新たに2匹、カマキリが姿を現した。
1匹は威嚇するように羽を広げて小刻みに震わせ、周囲の空気まで振動させる低い音が、ハンター達の耳に不快感を与える。
受け流したカマキリの再びの攻撃を大太刀で受け止めていたリンに、新たに現れたカマキリの意識が向いた。
リンの側の木に素早く移動すると、その鋭い鎌を大きく振り抜く。
細いとは言え、鎌は木の幹を切断してしまった。
倒れ様、枝はリンの肌を強く打ちつける。
「わっ!」
驚きに飛び退ったリンが目を見開いた刹那、エラの制圧射撃の弾幕がカマキリの動きを制した。
「多田野、援護するぞ」
不敵な笑みを浮かべエラが呟くと、
「こっちは任せろ」
エラと連携した一数が、駆け抜け様リンに声を掛けた。
足止めされたカマキリは警戒するように身体を揺らし始める。
その揺らぎのリズムを絶つ様に、疾風の如く強烈な突きでカマキリを貫く。
一数はその攻撃の流動を保つ不留一歩で、次の状況に備えると、その様子を横目で確認したリンは、再び大太刀を構えた。
先刻対峙したカマキリは、手招きする様に鎌の腕を振っている。
挑発でもしているのだろうか……。
エメラルドの様な緑の瞳を僅かに細め、リンは手招くカマキリに踏み込んだ。
振りあげた大太刀を振り下ろす瞬間、リンは柄頭を強く引きその勢いを増長する。
鋭い一撃を繰り出すと、その斬撃を繋ぐように再び大太刀は翻り、射し込んだ陽の光に刃はギラリと輝きその存在を主張した。
ズシリとした感触にリンがゆっくりと顔を向けると、目の前のカマキリは土塊の様に崩れ始めた。
羽を震わせ不快な音をさせるカマキリに向かい、エラは三散を唱えた。
「聖なるトライアングルにその身を貫かれろ!」
影を落とす林の中でさえ鮮明に照らすほどの眩い三角形が空中に描かれると、それぞれの頂点から伸びた光の矢が、カマキリを貫く。
エラの三散とほぼ同時にカマキリの背後から気配を消して近付いた真は、地面に縫いとめる様にカマキリの腹に魔導剣を突き立てた。
「この大きな腹は産卵でも控えているのか? 産み出されるカマキリも雑魔だと言うのに……」
惨劇を繰り返す訳にはいかない……その強い意志を瞳に宿し真は静かに呟いた。
エラと真の攻撃にビクリと身体を強張らせたカマキリは、攻めの構えを崩さずにいた一数の一撃にその身体を塵へと変えた。
二手に分かれたハンター達は、間もなく出発地点の反対側に辿りつこうとしていた。
「ここまで合わせて7匹か……」
別班からの情報をまとめていたマリィアが口を開くと、
「前方に敵影だ!」
レイアの険しい声が響いた。
草に紛れる様に佇む1匹のカマキリは、自らの鎌を手入れするようにその腕を舐めている。
「あら、ご馳走でも食べたのかしら?」
眉間に皺を寄せ嫌忌を露わにしながら、マリィアは連続して射撃を行った。
マリィアの射撃と同時に左右から回り込んだジャックとレイアは動きを封じられたカマキリを睨みつける。
挟み込まれた状態のカマキリは自棄になったのか、メチャクチャに鎌を振り回し始めた。
その捨て身の攻撃をレイアの魔剣が受け止めると、隙が出来た背中に向かいジャックが剣を振り下ろす―――刹那、カマキリは振り向き一方の鎌を一閃させた。
鎌は騎乗したジャックの脚を掠めその肌に赤い雫を描いた。
ジャックは予想外の反撃に目を見張るも、ニヤリと笑い馬上から斬撃を放った。
カマキリの頭は地面を転がり、直後塵に変わる。
少し先の方から、喧騒が聞こえ始めた――。
「あっちでも戦闘が始まったみたいだよ」
錬介の言葉に、皆は直ぐに走り出した。
血痕を追う様に草原を走っていたハンター達の目に、カマキリの姿は飛びこんできた。
姿は3つ。
「見つけましたよ」
リンの怒気を纏う声が、ハンター達の士気を上げた。
「逃がさないから」
エラが制圧射撃を行うと、カマキリ達はそれぞれに警戒や威嚇を始めた。
駆け寄る流れを生かした足取りで円舞を舞うと、リンは縦横無尽に刃を翻す。
同時に踏み込んだ真も横一閃に剣を振るった。
エラは制圧射撃から続け様跳弾を放ち、予測不能の弾道はカマキリの意識を錯乱させ、身体を支える長い足の付け根を打ち抜いた。
そのタイミングに合わせる様に踏み込んだ一数の斬撃は体勢を立て直したカマキリの鎌とかち合った。
均衡する力に刃が飛び跳ね、奥歯を噛んだ一数は飛び退く。
しかしその瞬間、鋭く伸ばされた腕の鎌が一数の手首を切りつけた。
顔を顰めた一数だが、身体を捻ると遠心力に任せ剣を薙いだ。
それはカマキリの胴を横切り――両断した。
リンは一度距離をとると大太刀を構え直した。
どちらも隙を与えず睨み合っていると、眼前のカマキリの周りに無数の闇のナイフが現れ一斉にカマキリを貫き始めた。
その刃が消える間もなく、リンは大太刀を振り下ろす。
両目の間を駆け抜けた刃は、カマキリを真っ二つにした。
「錬介さん、ありがとうございます」
駆け付けた錬介の援護に、リンは笑みを浮かべた。
真は一際大きなカマキリと対峙していた。
白刃を煌めかせて振り下ろした真の一撃は鎌で受け止められ、もう片方の鎌がかち合う剣を抱え込んだ。その拍子に鎌は真の胸元に当たり、胸に赤い血が流れる。
「くっ……」
眉を顰めた真に向かいカマキリは鎌を横に薙いだ。
その動きに合わせて屈んだ真の髪がフワリと宙を揺蕩い、鋭く光った鎌に、髪は一房切り落されてしまった。
「っ!」
地面に散らばる絹の様な黒髪を目にした真の片眉が、ピクリと動いた。
未だに魔導剣を抱え込むカマキリに勢いよく蹴りを叩き込んで引き剥がすと、素早く納刀しマテリアルを練る。
その時間を稼ぐ様に、エラの撃った跳弾と、マリィアの撃ったハウンドバレットがカマキリの腹を交差して貫通した。
激昂した様にカマキリは両の鎌を振り上げた。
「そろそろ終わりにしようか」
真の温度をもたない声色の言葉。それと共に繰り出された斬撃によって、カマキリは消滅した。
ハンター達は付近を更に捜索し、新たなカマキリが居ない事を確認すると村へと戻った。
「埋葬を手伝ってくれてありがとな。助かったよ」
意外にもバルトは穏やかだった。
「バルトさん……大丈夫ですか?」
一数が尋ねると、バルトは、あぁ、と答えた。
「動物達の死は無駄にはしねぇよ」
バルトは埋葬した赤土の覗く草原を見渡した。
「彼奴らは大地に還り、やがて草となって動物達の糧になる。そうやって命は巡ってくんだよな」
少し憂いの帯びた表情で草原を見据えると、バルトはハンター達に向き直った。
「もう行くんだろ? あんたらも気を付けてな」
そう言ったバルトの瞳には力強い光が宿っている。
「ああ、またな」
ハンター達はそういうと背を向け歩き始めた。
大地に生きる者の逞しさを感じ、頬を緩めながら――――。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ジャック・エルギン(ka1522) 人間(クリムゾンウェスト)|20才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2018/02/10 21:47:37 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2018/02/07 08:54:57 |