• 羽冠

【羽冠】【空の研究】我が北斗星

マスター:紺堂 カヤ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2018/04/10 19:00
完成日
2018/04/22 16:12

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 王都イルダーナは、騒然としていた。
 騒然としているその原因は、システィーナ王女殿下の婚儀の噂である。噂はもちろん、王都の片隅に施設をかまえる「空の研究所」にもとどいていた。
「アメリアは、何もしないのか」
 空の研究所の個性的な研究員・キランが、資料の紙束をまとめながら、所長のアメリア・マティーナ(kz0179)に尋ねた。市民の中には早くも抗議活動を開始している者がたくさんいることも、ふたりは知っていた。
「そうですねーえ。動いてもいいとは思っていますがねーえ」
 のんびりとした口調とは裏腹に、アメリアは穏やかでない発言をした。
「具体的には、どう動くんだ?」
「おや、反対しないんですか」
 アメリアは意外そうに顔を上げた。もっとも、目深にかぶったフードに隠され、その顔はまったく見えはしないのだが。
「だってもう、お前覚悟を決めたんだろ、王国の未来にかかわっていくことを、さ。所長が心を決めたってのに、研究員がいつまでも後ろ向きなこと言ってるわけにはいかないだろう」
「……珍しく格好いい発言をしますねーえ、キラン」
「珍しい、は余計だ!」
 笑うアメリアに膨れて見せつつも、キランも笑っていた。
「しかし、まあ、動くにしてももう少し様子を見てからでないと……」
 アメリアが、そう話し出したとき。研究所職員のスバルが、来客を知らせに来た。客の名前は、トリイ・シールズ。
「……もう少し様子を見る必要は、早々になくなったかもしれませんねーえ」
 アメリアは来客を出迎えるため、立ち上がった。



 トリイ・シールズは、いつもの穏やかな笑みでやってきた。彼は、空の研究所の後ろ盾となっている貴族、カリム・ルッツバードの秘書だ。滅多に外へ出ないカリムの代わりに、対外的な仕事を任されている。
「突然お邪魔してすみません、アメリア所長。……その様子ですと、私の用件がもうおわかりになっているようですね」
「こんにちは、シールズさん。まさか、わかりようもありませんよ。私は魔術師であって超能力者ではありませんからねーえ。ただ……、予想はつきますけれどねーえ」
 アメリアが苦笑まじりに言うと、トリイは一通の手紙を差し出した。
「ルッツバード氏からです」
 手紙には、今王国を騒がせている噂についてのカリムの考えがつづられていた。
「なんて書いてあるんだ?」
 隣からキランが覗き込む。手紙には、カリム・ルッツバードは王家を支える貴族としてこの政略結婚をなんとか阻止する立場をとること、そのための行動を秘密裏に開始すること、などが行動の詳細などを省いて述べられていた。さらに。アメリアにも協力を求める、とも。こちらは、具体的な行動を指示してあった。
「……民間の抗議運動を先導、およびコントロールしてほしい、ですか……」
 目標地点が同じであるならば、貴族も民衆も手を取り合うべきだ、というのはカリムの考えだが、現実はそう簡単にはいかない。カリム自ら民衆を率いて運動を起こすことはいろいろと別の問題が起こる可能性が高いのだ。
「そこでこの私、というわけですねーえ」
「はい。民間運動はルッツバード氏としても推奨したいところであるのですが、かといっていたずらに扇動すれば、暴動にもなりかねない。それは避けたいのです」
「そうですねーえ。運動が過熱しすぎれば、それだけ反発も増え、壁も厚くなり、本来の目標を見失うことにもなりかねません」
「ええ、そのとおりです」
「つまり、上手くコントロールして利用せよ、と」
「……端的に言えばそういうことになりますね」
 アメリアの率直な物言いに、トリイは苦笑した。
「わかりました、お受けいたしましょう。……ただし、この運動の先頭という立場、私の方でもひとつ、利用させていただきたいことがありましてねーえ」
「利用?」
「はい。……空の研究所を、いえ、私を狙い続けている者……、シェーラ・チェーロをあぶりだすのです」
 シェーラ・チェーロ。
 それは、アメリアが空の研究所を設立する以前から彼女の邪魔を目論んできた相手であり……、アメリアの血縁者であった。



「シェーラは、私の従妹でしてねーえ。チェーロ家は母の実家。シェーラは、母の兄の子なのですよーお。歳の頃は、私のひとつかふたつ、年下でしたかねーえ」
 トリイから「立場の利用」の許可を取り付けたアメリアは、ハンターたちを集めた。
「彼女は昔から、なぜか私に対抗心を燃やしていました。これまでの一連の妨害行為もおそらくそこから来ているのでしょうねーえ。なぜそこまで対抗心を燃やしているのかは、正直わからないのですが、まあ、捕まえてからじっくり尋ねることにしようかと思いますよーお」
 ハンターたちの仕事は、その「捕まえる」ことに他ならなかった。
「彼女の妨害の原動力に対抗心があるのならば、私が表立って大きな行動を起こすとなれば必ず、姿を現すはずです。これまでは実に慎重に身を隠してきていましたが、そろそろそれも限界。黒幕が自分だとバレていることも察しているでしょうしねーえ」
 アメリアは、ハンターたちの顔を見まわすと、チラシを一枚、見せた。そこには、三日後の日付とともに「我が北斗星のために」という大きな文字が。
「作戦の決行は、三日後です。民間の抗議団体を立ち上げる、決起集会を行います。シェーラは、この集会に来るはずです。ここで、彼女を捕まえてほしいのですよーお。他の民衆に、怪我を負わせないように。捕まえる手段、警備プランは、皆さんにお任せいたします」
 アメリアは、力強く言った。
「あのう、この『我が北斗星』というのは……?」
 脇に控えていたスバルが、おずおずと挙手をした。アメリアは顔を見せぬままに、微笑んだ。
「システィーナ王女殿下のことですよーお。彼女は、私の北斗星です。常に見上げ、常にその輝きを見守る、尊き存在」
 アメリアはそう答えながら、フードの下で少しだけ、寂しげな目をした。しかし、それを見ることのできた者は、いない。

リプレイ本文

 空の研究所・所長のアメリア・マティーナ ( kz0179 )は、晴れ渡った空を見上げて満足そうにしていた。
「いいお天気になりましたねーえ。演説日和です」
 それを聞いて、研究員のキランが呆れたような声を出す。
「なんだよ、演説日和って。お前、命が狙われるかもしれないんだぞ? そんな暢気そうにしてていいのかよ」
 いつもはキランの方が暢気だというのに、今度は逆だ。
「肝が据わってるわね、所長さん」
 面白そうな口調で挨拶代わりに言うのは、カーミン・S・フィールズ(ka1559)である。もっとも、皮肉だったかもしれないが。
「ああ、皆さん。本日はよろしくお願い致しますねーえ」
 アメリアは、やってきたハンターたちに頭を下げた。
「俺はリュー。リュー・グランフェストだ。宜しくな」
 リュー・グランフェスト(ka2419)が丁寧に挨拶を返す。アメリアはにこにこと頷いた。彼女は、ハンターたちのことを心底、信頼していた。
「こそこそシェーラさんにやっと会えるね。どんな人かな?」
 マチルダ・スカルラッティ(ka4172)が小首を傾げた。これまで徹底的に正体と姿を隠してきた相手である。長く空の研究所にかかわってきた者ほど「ついに」という思いは深いだろう。
「どんな人、なんですかねーえ。申し訳ありませんが、母の姉の子で、私の従妹、という情報しか与えられませんでねーえ」
「ん? 母の兄の子、って言ってなかったか?」
 キランが口を挟むと、アメリアはおや、と首を傾げた。
「ああ、そうでしたかねーえ。まあ、どちらでもいいでしょう。正直なところ、私は血縁関係に興味がないのですよねーえ。……ですから、そういった意味での情けは無用です」
 アメリアは厳しい声を出した。ジャック・J・グリーヴ(ka1305)が口の端だけで笑う。
「覚悟があるってことか。それとも本当にどうでもいいのか。まあ、どっちにせよ、平民……、一般の参加者の安全が最優先だな」
 その言葉に全員が頷く。そして、どのように警戒していくか、具体的な作戦の話に入りかけたところで、エメラルド・シルフィユ(ka4678)が少し遠慮がちに挙手をした。
「シェーラという人物が反応するという、その、北斗星とは……?」
 誰も問おうとしなかったその問題をストレートに問うたエメラルドに、アメリアは少し微笑んだ。
「北斗星、は、シェーラが妙に執着していた言葉ですよーお。自分にとっての北斗星は何か、という話をしたのです、昔。私がシェーラのことで覚えている、数少ないエピソードですねーえ。シェーラに特に思い入れのない私が覚えているということは、きっと相当に繰り返されていたのでしょうから、彼女にとっては、きっと私が思っている以上に特別な言葉であると思いますよーお」



「こういう、見た目も目的もわからない手合いが一番苦手だな……」
 鞍馬 真(ka5819)が会場である公園を見回して呟く。ステージの設営は、キランとスバルによって順調に進んでいるようだった。
「……難しいものですね。政治も、人も」
 その隣で巳蔓(ka7122)も、同じく公園を見回しながら言った。抗議団体を表立って設立できない貴族にしろ、こそこそと動くシェーラにしろ、物事は単純には動かせないことばかりだ。やるせない思いはあるが、今はできることをやるしかない。巳蔓は、人が身を隠せそうな場所や、狙撃が可能そうなポイントを注意深く確認した。事前に会場を確認しておこうという考えのハンターは巳蔓だけではなかった。リューとエメラルドも、ふたりで協力して公園に危険なポイントがないかチェックし、自分たちはどこで警備をするかを入念に決めた。
 空の研究所内でも準備が進められていた。マチルダの提案で、参加者にはフリルリボンで作った星を身に付けてもらうこととしたため、その作成を急いでいるのだ。演説開始時は研究所内で留守番をする、と決めていたフィーナ・マギ・フィルム(ka6617)もそれを手伝っていた。
 カーミンは、所持品チェックをする際、「貴人」に見える装いで会場に立とうとしていた。のだが。アメリアが、それを制した。
「申し訳ありませんが、それはやめていただきたいですねーえ。この抗議団体に、貴族……、ルッツバード家が絡んでいると匂わせることは、まだできませんからねーえ。察しの良い者にはわかってしまうことではありますが、それでも、表立っては空の研究所が主導だとしておかなければなりません」
「貴族、しかも恐らく王党派が平民を扇動してると貴族派に知られちまったら今のご時世ちとマズい。ソレを避ける為にも隠れ蓑が必要だったて所か」
 己の立場もあって、そのあたりをよく理解しているジャックが渋い顔をして頷く。カーミンは面白くなさそうに、ふうん、と言って肩をすくめたが、変装は諦めてくれた。
「世の中そんなモンだと分かっちゃいるが……、スッキリしねぇモンだなオイ」
「ええ、まったくですねーえ」
 アメリアも同じ思いだ。だからといって、その「世の中」に背を向けるわけにはいかない。
 会場の設営がほぼ終わった、とキランから連絡が入った。参加希望の人々が、すでに公園へ集まりかけているという。ハンターたちは頷き合って、空の研究所を出た。受付を設置し、マチルダとフィーナが作ったフリルリボンの星を並べる。
「参加希望の方は、こちらにお名前をお願いします。そのあと、所持品のチェックをさせていただきます」
 マチルダが参加希望者にそう声をかけた。所持品チェックにあたるのはマチルダ、カーミン、真だ。カバンを開いてもらい、上着の内側を見せてもらう。さすがに体に触れてのチェックはできないため、ポケットに不自然なふくらみがないかには特に気を付けた。カーミンが気にしたのは「火薬のにおい」である。シェパードを控えさせ、異常に備える。
「……特に異常ないみたいね。私みたいにルージュナイフなんて持ってたらわからないけど」
 カーミンが囁くと、マチルダと真も同意して頷いた。マチルダは星飾りをつけてゆきながらのチェックもしていたが、特に注意が必要そうな人物はいなかった。もちろん、書いてもらった名前の中に「シェーラ」はない。
「でも、替え玉の可能性は、とても高いような気がするな。若い女性の参加率が高いように思うよ」
 真がそう言うように、シェーラの年齢と特徴に合致する女性は、ざっと見ただけでも五、六人はいた。
「あとは、演説が始まってからの行動に注意するしかないね。今のところの状況を、アメリアさんに伝えておくね」
 マチルダがエレメンタルコールを使用して空の研究所にて待機しているアメリアに伝達する。その間に、カーミンは髪型を変えるなどして変装し、参加者に紛れた。リューとエメラルドが参加者をステージ前に誘導し、列整理をしながら不審人物がいないかと目を光らせている。マチルダもフィオレッティとアナトールを配置させ万全の態勢で警戒していた。
 ほどなくして、ジャックを伴ったアメリアが、会場に姿を現した。ある者は拍手で迎え、ある者は厳しい視線を送っている。決起集会とはいえ、やはり、心から賛同する者だけが集まってきたわけではないようだ。ハンターたちの顔にも緊張が走る。
 アメリアは黒いローブで包んだ全身をゆったりと動かして、登壇した。
「お集まりの皆さま。私が、空の研究所・所長のアメリア・マティーナでございます。本日はご足労いただき、誠にありがとうございます」
 丁寧な挨拶とともに、アメリアは頭を下げた。フードを目深にかぶったスタイルは、いつも通りだ。
「システィーナ王女殿下の政略結婚に反対する。それが、今日ここにお集まりいただいた理由です」
 冒頭からはっきりと述べたアメリアの声に、会場がざわつく。ざわつきに乗じておかしな行動を取る者がないか、巳蔓が目を光らせる。
「王女殿下はこれまで、我々、民のために心を尽くし、行動してくださった方です。そして、我々の自由を守ってくださった。そんな方の自由が奪われるなどということを、許してはなりません。今度は、我々が殿下の自由をお守りすべきなのです」
 いつもの特徴的な口調を引っ込めて語るアメリアは、堂々としていた。会場から、いいぞいいぞー、という声が上がる。と、同時に、何を偉そうに、と揶揄する声も上がり、会場が早くも騒然としはじめる。まずいわね、とカーミンが顔をしかめ、白熱する前にと、アメリアに向かってよく通る声で問いかけた。
「この熱を貴女が受け止めるのね?」
 カーミンの凛とした声と言葉に、ざわめきがおさまり、一斉に彼女に視線が集まった。その視線の中には、嫌悪感によく似た鋭いものがあることを周囲で警戒している巳蔓やリュー、エメラルドが見逃さなかった。彼らがどんな行動を取ってもいいように、身構えておく。
「そうです……、いえ、受けとめる、と言えるかどうかはわかりませんが。なぜなら私も、皆さんと同じく『熱を持つ側の者』ですから」
「なるほどね。民衆の立場でこの活動を先導するというわけね? ならば私も民衆として、この度の声掛けは感謝するわ。正直、王国派・貴族派の王女を無視した派閥争いには辟易してる」
 カーミンのセリフに、同意を示す拍手が沸き起こった。いいぞ、お嬢さん、その通りだ! という声もいくつも飛び、場が盛り上がりを見せる。
 いい雰囲気になってきた、と思いつつも、警戒の度合いを上げているのは、公園前の道で監視をしていた真だった。双眼鏡を使って辺りを見ていたのだが、その視界が人ごみによってどんどん悪くなってきていたのだ。つまり、参加者以外の人々も公園の盛り上がりに引き寄せられるようにして集まってきている、ということだった。
「ちょっとこれは、目が届かなくなりそうだ……」
 真の報告に、空の研究所で待機していたフィーナが応答した。
「私が出て行きましょう。空から俯瞰すれば、見える範囲も広がりますから」
 講演もそろそろ終盤のはずだ。「あの言葉」もそろそろ飛び出すのに違いない。フィーナは公園へ向かうと、マジックフライトにて上空から会場全体を眺めた。会場の人々の顔はアメリアとカーミンに向けられているものがほとんどだ。中にはあまり興味がなさそうにしている野次馬もいるが。
「貴女が王女も私たちも利用しない、証は一体何?」
 カーミンが、ひときわ鋭くそう問いかけた。アメリアはそれを受けて、居住まいを正す。わずかに見える口元を笑みの形にし、両腕を大きく広げた。もったいぶったその仕草に、ハンターたちは全員が察した。「あの言葉」が来るのだと。
「証は、私が今ここにいることです。王女殿下は、私を信じ、この研究所の設立をお許しくださった。だから私は空の魔法を研究し、実用化につとめることができている。そして、今、ここに立っている。私が空を見上げるとき、常に見えているのは、王女殿下という『北斗星』なのです。私はその輝きに生かされている。だからこそ、その『北斗星』の輝きを守ります」
 北斗星。
 その言葉を聞いて、フィーナが上空でシャインを用い、光を放った。アメリアの力強い言葉と、光の演出に、盛大な拍手が沸き起こる。
 と。会場の、参加者の中から。
「北斗星はあなたよ!!」
 そう叫ぶ女がいた。黒髪で、歳の頃は二十をすこし過ぎたところに見える。
「!」
 エメラルドと、巳蔓が動いた。その女の方へ駆け出し、両側から捕らえようとする。女は真っ直ぐ、壇上のアメリアへと向かって行った。
「ねえ、どうして王女なんかを崇めようとするのよ、あなたこそが崇められるべき存在なのに」
 女が、壇上へ上がろうとする前に、ジャックが立ちふさがった。そして、巳蔓とエメラルドが捕らえる。
「おとなしくしてくれ」
「危害は加えたくありません」
 周囲が何事か、と騒ぎ始めるのを、マチルダとカーミンがなだめる。
「皆さん、落ち着いてください」
「大丈夫、大事ないわ」
 民衆をなだめるのに注力すると、自然と、周囲の変化には鈍くなる。いけない、全員がそっちに気を取られては、とリューが顔を上げるよりも一瞬早く。離れたところに立ち位置を取っていた真が拡声器で叫んだ。
「ダメだ、替え玉だ! 後ろを!!」
 アメリアの後ろから、人影が現れ、彼女の手首をつかもうとした。
「触れさせるかよ!」
 すぐ傍にいたジャックが素早く身を翻し、アメリアを背の後ろに引き込んで庇う。その直後にリューが駆けつけ、その怪しい人影を羽交い絞めにして捕らえた。捕らえられたのも、会場で叫んでいた女と同じくらいの年ごろの、黒髪の女だった。
「ありがとうございます。あなたに庇っていただくのは、これで二度目となってしまいましたねーえ」
 アメリアが、どこか面白そうにジャックに礼を言い、参加者の中で女を捕らえている巳蔓とエメラルド、壇上で女を捕らえているリューに目配せをして、ひとまず連行し、退場してもらった。そして、どういうことかと混乱している参加者に向けて微笑む。
「どうやら、私にも熱烈なファンがついているようでして」
 冗談めかしてそう言うと、参加者は、全員が納得したというわけではなさそうなものの、ある者は面白がり、ある者は感心した様子でアメリアに拍手を贈ったのだった。



「それで……、どちらがシェーラですかねーえ」
 捕らえられたふたりの女を前に、アメリアが首をかしげた。マチルダが驚いて目を大きく見開く。
「えっ、わからないの、アメリアさん」
「ええ。なんせ長く会っていませんからねーえ。どんな顔をしていたのだったか……」
 困ったような声を出すアメリアを、キッと睨み上げたのは、参加者の中で叫んでいた方の女だった。
「替え玉ではなく、こちらが本人だったのか」
 真が呟いた。女……シェーラは、ハンターたちもぐるりと睨み上げる。吊り上った苛烈な視線は、いっそ美しかった。しかし、彼女は睨み上げる以上のことをせず、目的はおろか不満不平も自分の名前も、ただの一言も声に出すことはなく、かたく口を閉ざしていた。
「……まだまだ、ここからが大変だぞ」
 ジャックが言う。言うがしかし、アメリアからは目を逸らしている。アメリアは気にしたふうもなく、ええ、と頷いた。
「抗議運動は、これからです。今日は、具体的な行動について話はできませんでしたしねーえ。今日集まってくれた方々が、今後どの程度参加してくださるか、私の腕にかかっているでしょうねーえ。……ですから」
 アメリアは、厳しい声音を出し、初めて、シェーラを真っ直ぐに見た。その鋭さに、巳蔓の背が強張った。アメリアに見られているのは自分ではないというのに。
「邪魔は、させませんよ。我が北斗星を守る邪魔は、決して」
 アメリアのその決意もまた、北を動かぬ北斗星のように揺るがぬものであった。

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MVP一覧

  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズka1559
  • 悲劇のビキニアーマー
    エメラルド・シルフィユka4678

  • 鞍馬 真ka5819

重体一覧

参加者一覧

  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • 花言葉の使い手
    カーミン・S・フィールズ(ka1559
    人間(紅)|18才|女性|疾影士
  • 巡るスズラン
    リュー・グランフェスト(ka2419
    人間(紅)|18才|男性|闘狩人
  • 黎明の星明かり
    マチルダ・スカルラッティ(ka4172
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • 悲劇のビキニアーマー
    エメラルド・シルフィユ(ka4678
    人間(紅)|22才|女性|聖導士

  • 鞍馬 真(ka5819
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • 丘精霊の絆
    フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
    エルフ|20才|女性|魔術師
  • 淡緑の瞳
    巳蔓(ka7122
    人間(蒼)|15才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談しようぜ!
ジャック・J・グリーヴ(ka1305
人間(クリムゾンウェスト)|24才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2018/04/10 17:20:41
アイコン 質問卓
フィーナ・マギ・フィルム(ka6617
エルフ|20才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2018/04/09 19:39:37
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2018/04/08 21:17:10