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王国暦1017年【郷祭】


【郷祭】ストーリーノベル「いつものように、いつもと変わって」(7月4日更新)

セスト・ジェオルジ
『例年より少し遅めに始まったジェオルジの春郷祭だが、賑わいはいつもと変わりなかった。ところによっては、今までよりも賑やかだったかもしれない。
村長会議でのいさかいに端を発した、ハンターによる代理決闘はたいそう見物の人を集めて、賑やかかつ楽し気な勝負となった。この仲裁を決めたセスト・ジェオルジの、村長会議での評価も高まったことだろう。
もとより村長会議は村と村の間でいさかいがあれば仲裁し、何もなくとも各村の状況の報告が行われていた。それが昨年あたりから、各村が特産として開発、品種改良した品物、農作物を持ち込んでくるようにもなっている。
ただ、昔からの農業、畜産業を滞りなく進めていると報告するだけでは、流れに乗り遅れていると言われかねない。そんな様相を呈してきた感がある。
そうかと思えば、商売も発展している。
セストが春と秋の郷祭の規模を広げてほんの数年だというのに、祭りへの人出は増える一方だ。
今年はその人出を当て込んで、以前から多かった吟遊詩人達の活動以外に、リアルブルー渡来のプロレスという興行も行われた。特に祭り前、ハンター達も参加した興行は、祭り中には多忙を極めて見物どころではないジェオルジの人々に好評だったという。
同様に、祭りの最後に現れた吟遊詩人達の演奏や歌は、祭りの疲れを癒したと、再来を願う声がすでに出ている。
祭りの最中には、品種改良した品物の現物販売のみならず、加工品や調理品の店が軒を連ねるようになっている。特に新品種のトマトのクレープ販売が盛況で、特産品売込みの方策として、村長達にも注目されているようだ。 加えて、他の都市から押し寄せた店を始め、刑務所の更生作業製作品の販売店まで現われ、『楽市』と呼ばれる個人や小規模店舗の特設市場も盛況だった。
中には、これから継続してジェオルジに支店を出す店も出て、通年での賑わいを増す手助けとなるだろう。
これらの商売は、残念ながらまだジェオルジ全体を潤すにはいささか足りないが、同盟内の他の都市との人の行き来の活性化と、繋がりを作る役に立っている。
特に今回、フマーレの大火災害からの復興活動として、春郷祭にフマーレ特産品の見本市が特設された。これは双方の地域の商業のみならず、政治的な成功でもあると、村長会議で評価されている。一般では『珍しいものが見られた、買えた』と、催しとして人気であった。
しかし、問題がない訳ではない。
例年のことでもあるが、祭りに合わせた往来の増加に沿うように、街道沿いでの事件、事故も増えている。
今年は街道に歪虚が現われる事例が散見され、ジェオルジも昨今の同盟で起こる歪虚の襲撃と無関係ではないようだ。以前から問題であって、獣やコボルトなどの旅人の襲撃と合わせて、何らかの対応が必要とされるだろう。
特に、祭りの会場が狙われることも考慮して、安全対策を練っていると周知する必要性がある。実際の対策は、今回も各市場でハンターの手も借りて行われたが、更に充実させていかねばならないだろう。
加えて、祭りの会場全体の拡張も計画していかねばならない。個人主催の小規模な催しもあり、そうした場所の安全、治安にも目を配る必要性が高まっているのだ。
同様に、郷祭の場で地元の名産品などを売り込みたい人々のための場も整備する必要がある。
更にもう一つ、気を配るべきものがある。
ジェオルジの限ったことではないが、精霊の活動が活性化している現在、彼らとの付き合い方も検討課題であろう。
すでに一部の村では精霊とかかわりを持っていて、それは常に友好的とは限らない。助けてくれる時もあれば、怒りを買うこともあるかもしれない。
秋の郷祭までに、歪虚や精霊への対処方法も考えておく必要があるだろう。
ルーベン・ジェオルジ記す』
「内容に文句は言いませんが……」
祭りの最中にちょっと顔を出して、今は何処をほっつき歩いているのか行方不明の父親ルーベンから届いた手紙に、セストは深い溜息を吐いていた。
そう。内容はいい。問題も文句もない。
次の郷祭に向けて、準備すべきことが多々あるのは、セストも分かっている。ざっくりとでもまとめてくれて、それは有り難いと思う。
「昔からあの人は、口だけが達者なのよ」
まったくもって、母バルバラの言う通り。
秋の郷祭の準備には、『一族揃って』取り組むことを、セストは決心していた。
農繁期はすでに始まっていて、秋の収穫期は、あっという間に来てしまうのだから。
(執筆:龍河流)
(文責:フロンティアワークス)
(文責:フロンティアワークス)