• 無し

彼女の約束

マスター:みみずく

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2016/11/07 07:30
リプレイ完成予定
2016/11/16 07:30

オープニング

 父が手を強く引いた。村の門扉は近い。田畑を荒らす害獣除けの柵だが、数年前、野犬の群れが襲ったこともあり、その高さは大人の男の背丈をも超える。ここを乗り切って森の中に逃げ込めば、柵を越える跳躍力でもない限り、追いかけては来られないだろう。振り向いた父が、不意に彼女の手をつかみ上げ、放り投げるようにして、柵の外へと押し出した。
「逃げろ! 決して振り向くな! 走れ!」
 背中が見えた。
「早くいけ!」
 後ろ手に、重い扉が閉まる。
「おと……」
 言葉は途中で消え、ドン、という衝撃が扉に加わった瞬間、足を震わせながらも走っていた。息が切れる。背中に断末魔の叫びが聞こえた。
 あれは父の声だ、声を出している、まだ生きている、今振り返れば、でももう間に合わない、せめて一緒に死んでしまいたい、それでも、生きながらに食い散らかされるのは怖い、怖い、怖い、怖い。
 走った。手も足も、重さで切り落としてしまいたいほど、喉からは鉄の味がした。
 そうしてやっと森を抜けたころに、ようやく気付いたのだ。
 自分は父親を見捨てて逃げて生き残ったのだ。父親だけではない。村の人間、あの時点ではどこまで生きていたかは分からないが、扉を閉ざさなければ逃げ切れた人もいただろう。犠牲にした。こんなちっぽけな、自分のために。
 手の中にわずかばかりの財産があった。逃げるときに、父が自分に持たせた全財産だ。
 胸に抱きこんで、少し泣いた。最初から、父はこうするつもりだった。自分を助けて、犠牲になるつもりだったのだ。
『ターニャ』
 父の呼ぶ声を、必死に耳に呼び戻そうと目をつぶる。もう、誰もいない。自分を知る人間は、これでも誰もいなくなった。
「敵、討つからね」
 呟いた。それは免罪符のようであり、死者と交わした約束だった。
 歩く。ハンター、あの、歪虚と呼ばれる異形の者たちを暗に狩るものたち。町にたどり着けば、彼らにつながる何かがあるだろう。そして晴れて復讐が果たされたとき、
「その時はもう一度、笑って会えるよね」
 頬を生暖かく伝った。涙など、自分には許されない。

 その日、ハンターオフィスに常駐するクリス・バレイは、ぼろきれのような少女がふらふらと歩いて来るのを目にして、思わず拭き掃除の手を止めた。
 長い距離を歩いてきたのか、獣の皮を縫っただけの簡素な靴は破け、足の血豆が潰れでもしたのか、どす黒い血で染まっていた。
 民族衣装を着ていることから、どこか地方からの逗留者と見受けられたが、十代前半とみられる少女が町中を浮浪児のような出で立ちで歩くなど正気の沙汰ではない。
 少女はハンターオフィスのサインを認めると、ふらふらとへたり込んだ。慌てて駆け寄り、痩せた体を抱き起す。汗にまみれた顔を、何度も腕で拭ったのだろう。泥を刷いたような頬を叩くと、薄く瞼を開け、目玉だけを動かしてクリスを見た。
「ハンターオフィスって、ここ?」
「そうよ」
「あなた、ハンター?」
 弱々しいが、期待に満ちた声色だった。
「違うわ。ここの職員。ハンターに用事?」
 クリスが尋ねると、
「お願い、私の村、みんな、死んだ。もう、誰もいない。お願い、敵を討って、お願い」
 そう言うと、ふっと意識を失って、崩れ落ちた。

「彼女の名はターニャ。彼女の村は、北の山間に位置していて、この数百年間、他の地域の住民とはほとんど交流がなかった、特殊な村ね。かれらは、野犬の襲撃に備え、村中を男の背丈よりも高い丸太の柵で囲っていたんだけれど、先日、門を開けて行商人を通したところ、青い炎をまとった狼のような化け物が侵入。大型の狼のような姿だけれど、毛皮の代わりに青い炎をまとっている。討伐対象はこの一体。でも、ひとたび噛みつかれると、生命力を吸い取る力がある。接近戦は難しいわね。生命力を一定数吸い取ると、炎は赤く変化し、触れたものすべてを焼き尽くす。彼女の父親が門を内側から塞いだというけど、この木製の柵がまだ燃えずに残っているかどうかは、現地に行ってみないと分からないわ。彼女はとにかく、村のみんなの敵を討ちたいと願ってる。どうかしら。この依頼、受けてもらえる?」

解説

ターニャの村は山間に位置する寒村です。寒冷地にあるため、村の中は薪や暖炉など防寒を目的とした家具、生活用品があふれています。井戸は村の中央に一つだけ、歪虚の体は炎に包まれた形式をとっていますが、水の攻撃が有効かどうかは不明です。体長は野生狼の二倍ほどありますが、跳躍力はなく、柵を乗り越えるには至りません。村は太い丸太の柵で厳重に囲ってあり、門はターニャの父親によって内部から閉ざされています。敵は単体ですが、生命を吸い取る性質を持っており、牙で嚙みつき、吸い取った生命力のゲージが一定数に達すると、炎が赤く変化し、接触するものを焼き尽くします。 

マスターより

他村との交流のないまま何百年も暮らしてきた村のたった一人の生き残りになってしまったターニャ。彼女が復讐の果てに望むことは何だと思いますか。そして、彼女の望みを前に、あなたはどう答えますか。
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2016/11/16 03:31

参加者一覧

  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 純粋若葉
    ミュオ(ka1308
    ドワーフ|13才|男性|闘狩人

  • nil(ka2654
    エルフ|16才|女性|猟撃士
  • 金色のもふもふ
    パトリシア=K=ポラリス(ka5996
    人間(蒼)|19才|女性|符術師
  • 流浪の聖人
    鳳城 錬介(ka6053
    鬼|19才|男性|聖導士
  • ブラックフード・リンクス
    ディーナ ウォロノフ(ka6530
    人間(蒼)|18才|女性|猟撃士
依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2016/11/03 15:43:06
アイコン ターニャの村へ(相談卓)
パトリシア=K=ポラリス(ka5996
人間(リアルブルー)|19才|女性|符術師(カードマスター)
最終発言
2016/11/06 21:21:49